本覺書中 “粘土類の加熱脱水状況”, (1)-(5) の記述の摘要を行ふ。以下記す通りである。
(a) 下記粘土類に就て凡て同樣なる條件のもとに加熱減量曲線を作圖し, 他の文獻中より關係曲線を引用比較し, 且つ化學分析その他の記述を行つた。而して曲線はその特性を吟味し, 特にベントナイト蝋石との曲線に就ては混合物系の減量曲線をも參照して相互の關係を論議した。
(イ) 朝鮮カオリン, 博山カオリン, 朝鮮加沙島陶石,
(ロ) 三石白蝋石, 三石半透明蝋石, 三石中石, 勝光山白蝋石,
(ハ) 白雲母, 村上粘土, 花岡粘士, 緑泥石, 蛇紋石, 滑石,
(ニ) 好地石, 大峠白土, 酸性白土,
(ホ) 朝鮮産酸性白土, 伊豆ベントナイト, ベントナイト (北海道岩内, 長野縣共和村, 米國ワイオミング産)
(ヘ) 方沸石, 斜方沸石, 人工沸石
(ト) 三石ダイアスポア, ジヨホール産ボーキサイト上表中酸性白土に關しては特に成因等に就ても稍詳しく論じた。
(b) 加熱減量曲線 (大氣中) の形式に就て簡單な論述を試みた。即ち曲線は次の諸項目によつて特性付けられる。(イ) 低温度水 (100-500℃) の脱出樣式, (ロ) 高温度水 (500-1000℃) の脱出樣式, (ハ) 主化合水の脱出樣式, (ニ) 主曲線中に現はれる二次階段の出現。
而して特に低温度水に就ては, (イ) 100℃以下の水は250℃附近まで殘留する傾向あり, (ロ) 殊に原分解状態を保つ膠質粘土, 特に膠質珪酸量多き者, 可溶性乃至可置換鹽基多き者等の低温度部曲線は最初特に上方へ凸となる傾向著しきも (ハ) 一旦分解後通水乃至鹽基の流失を受けたる膠質粘土の低温部曲線は相當の傾斜を有する直線に近づく傾向あり, (ニ) 膠質性ならざる又は膠質を含まざる者の低温部曲線は殆んど横軸に沿う。
また次の如き場合に曲線は小階段を持つ可能性あり。(イ) 他の粘土礦物の著量の混合乃至混晶, (ロ) 加熱によつて變態乃至化合物生成の場合。而して (ハ) 單なる混合の場合は合分物質の各曲線の機械的平均曲線を得るも, 合分間に何等かの相互影響ある場合は單なる機械的平均曲線を得ず。
混合系に就ては特に次の混合物の減量曲線を作圖した。(イ) 朝鮮磁土-ベントナイト系, (ロ) 珪酸ゲル-ベントナイト系, (ハ) 珪酸ゲル-村上粘土系。
(c) ベントナイトとパイロフヰライトとの間の加熱減量曲線の關係を吟味し, 既に得たる推論 (著者, 窯協誌, 昭13, 4月, 46, p. 173) を支持する如き次の推論結果を歸結した。
モンモリロナイトは成因的には恐らくパイロフヰライトに移化し得られ, 後者は前者の一層安定なる他の高温型状態と考へ得る。即ちパイロフヰライト結晶の表面 (乃至層格子間) に鹽基殘存し, silicalayerは充分安定にして單一なる規則正しき配列を取るに至らず, 即ち界面活性を殘存する如き場合がモンモリロナイトに他ならず。而して界面の不規則性乃至活性は珪酸, 礬土乃至苦土相互間の部分置換によつて強化乃至保持せられ, 加熱脱水によつて層格子間の接近するやこれ等置換物質の存在が抵抗皮膜を形成する結果パイロフヰライトの500-550℃の脱水を約50℃内外遲滯せしめる原因となる。またこの界面の不規則性は結晶面間の結合を妨げ, 加熱脱水に關する表面増大の効果, 即ち脱水反應速度の増大を來たす結果となり, 表面に水和能大なるイオン緩き結合状態にあれば膨潤性の發現となり, 又若し表面に脱珪による過剰の膠質珪酸存在すれば, 平均膨潤量小となり浸滲天水の通過を容易ならしめ, かくて鹽基の流亡の結果水素粘土化し, 水中に於て完全水解型の所謂酸性白土となる。但しベントナイトとパイロフヰライトとを區別するに特に苦土が熱に對する安定度に對し又物理化學的性質に對し重要なる區別の原因をなす傾向著しきも今はその行動に關しては明にし得ず。
本研究は日本學術振興會の援助によつて行はれたるものなる事を付記して感謝の意を表する。
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