高等学校家庭科の履修単位数にかかわる実態を全国規模で把握するため,全国16都道府県立高等学校1062校における平成21年度普通科入学生の1331教育課程を分析した結果,以下のことが明らかになった。○教育課程に占める家庭科必修科目の履修率は,「家庭基礎」58.2%,「家庭総合」40.9%,「生活技術」0.5%で,文部科学省が公表している教科書需要数割合に比べて「家庭総合」の履修率が高かった。○「家庭基礎」3単位,4単位履修,「家庭総合」2単位,3単位履修もあり,家庭科の必修科目は,標準単位を履修しているとは限らない。さらに必修科目を選択として追加履修させている教育課程や未履修の教育課程もみられた。○同じ普通科の教育課程でありながら,「家庭基礎」2単位履修率100%の石川から,「家庭総合」4単位履修率54.2%の埼玉まで,都道府県によって家庭科必修科目の履修状況の差は著しい。○学校数が多い都道府県は,家庭科必修科目の4単位以上履修率が高い。反対に学校数が少ない都道府県は必修科目の2単位以下履修率が高く履修単位の減少が進行しているが,職業教育を主とする専門学科の併設率が高いと履修単位は削減されにくい。○家庭科の履修単位の減少は,家庭科必修科目の2単位以下履修率と専門科目非設置率で表わされ,履修単位の減少が進行すると家庭科の専任教員0人率が高くなる。石川,佐賀,岩手,島根では普通科高校の4〜7校に1校の割合で専任教員がいない。○「家庭基礎」2単位の履修学年において,東京,千葉,埼玉の大都市圏を中心に,3年次履修がみられ,3年次は授業時数が少ないため,生徒の家庭科必修科目2単位の学習内容を確保しにくい問題がある。○約6割の教育課程に家庭科必修科目以外に専門科目が選択等で設置され,「フードデザイン」「発達と保育」「被服製作」の履修率が高く,学校設定科目も1割の教育課程に設置されていた。○埼玉,神奈川,千葉,東京,大阪は,家庭科必修科目の4単位以上履修率が高い上,専門科目設置率も高く,様々な選択科目が設置され,家庭科に多くの履修単位数が配当されていた。以上の結果から,家庭科の履修環境は都道府県によって著しく違いがあることが明らかになった。文部科学省が公表している教科書需要数からは「家庭基礎」の教科書需要割合が高いものの,実状は,「家庭基礎」3単位,4単位履修,「家庭総合」2単位履修もあり,履修科目からは家庭科の履修単位の減少は一概に計れないことが明らかとなった。平成15(2003)年以降,「家庭基礎」への移行が進み,家庭科の履修単位の減少が全国的に進行したかにみえたが,実際には一部完全に移行した県もあるとはいえ,ほとんどの都道県は,家庭科教員による家庭科必修科目の履修単位数確保や選択科目の設置などの努力により,家庭科の履修単位維持や専任教員配置につながっていることがわかった。しかしながら,選択科目は次年度以降の教育課程での設置が保証されていないこと,専任教員0人の学校の約8割が「家庭基礎」履修の点からも,必修科目「家庭総合」での履修単位数確保が専任教員配置を維持する上で意義があることを改めて指摘できる。また,問題となるのは,学校数の多い大都市圏で家庭科の履修単位が維持されているが,学校数の少ない県は家庭科の履修単位の減少が進行しており,専任教員のいない学校が多くなっている点である。必修教科として,履修単位数の減少,専任教員が配置されない家庭科の履修環境は生徒にとってマイナスである。また,ほとんどの学校で家庭科教員が一人となり,教科としての意見が教育課程編成等に反映されにくくなっていることが予想される。今後は,家庭科教員へのアンケート調査から,家庭科の履修単位の減少にかかわる問題を検討していきたいと考える。
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