熊本,鹿児島,大分,宮崎,沖縄の5県で1994〜2004年に報告された家庭科の授業実践事例で,「地域」の資源にかかわって授業が展開されたと読み取れた事例,368事例の中から,「地域」や社会を見つめ,そこでの生活課題に気づく視点(基準4),及び「地域」を変えようとする視点や「地域」再生の視点(基準5)に該当する事例を取り出し,基準4と5の学習内容を分析した。その結果,以下のことが明らかとなった。1.基準4と5の該当事例は,事例数も地域関連事例に占める割合も,年代としては2000年代より1990年代が,領域としては「環境」が多かった。2.基準4の学習内容を検討したところ,「環境」や「福祉」のように調査や見学を行ったり,あるいは統計資料を用いたり,「住居」のように「地域」や学校を点検することで,「地域」の実状を課題視させている事例と,「家族」や「保育」のように社会全体に見出される生活課題を自身の生活場面に引き寄せてとらえさせている事例に大別できた。「食物」はその両者が混在していた。しかし,いずれの領域でも,真に豊かな暮らしが保障されない現実を,「地域」や自身の生活場面に引き寄せて学習者たちに認識させようと教員は意図しているように思われた。3.基準5の学習内容を検討したところ,ほとんどの領域で,「地域」における生活課題の解決をめざすさまざまな取り組みが,ときにはその取り組みに参加した教員自身の体験も交えて紹介されていた。少数ではあったが,取り上げた生活課題の解決をめざして学習者自身が取り組んだ段階にまで到達していた事例も見出された。該当事例から,真に豊かな暮らしが妨げられている状況を切り開いていく主体者の育成をめざそうとしている教員の思いが,筆者らに読み取れた。4.以上のことから,基準4,5を導入した授業が展開されるには,「地域」にねざした教育実践や生活実践を追求したり,「地域」の人々の思いや動きをキャッチする感性やネットワークを保有することが教員に求められるといえよう。さらに,そのような教員の養成は筆者らの課題であろうと考えている。
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