実験社会心理学研究
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38 巻, 1 号
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  • 西本 裕輝
    1998 年 38 巻 1 号 p. 1-16
    発行日: 1998/06/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究の主な目的は, 学級における資源を媒介としたインフォーマル地位と家庭環境の関連性を明らかにすることである。
    イギリスの社会心理学者, 教育社会学者であるHargreavesによれば, 資源とは, ソシオメトリック地位 (人気) と社会的勢力地位 (勢力) の基盤のことである。学級成員が資源を持つと, それによって彼は二つのインフォーマル地位 (ソシオメトリック地位, 社会的勢力地位) を得ることができる。つまり, 学級におけるインフォーマル地位は, 資源によって規定されているのである。若干立場は異なるが, 学級内のインフォーマル地位の規定要因を解明した研究には, 田崎 (1976) のものなどがあげられる。
    しかし, インフォーマル地位の規定要因には, もう一つ重要なものがある。それが家庭環境 (いわば学級外要因) であるが, そのことに関しては, 特に社会心理学の分野では, ほとんど注目されてこなかったと言ってよい。
    そこで本稿では, 中学校における調査を通して, 学級外要因 (家庭環境), 学級内要因 (資源) の双方を変数として同時に投入して分析し, 両者とインフォーマル地位との関連を実証的に明らかにした。分析の結果を要約すると以下のようになる。
    (1) 学級における子どもの資源は, 確かにインフォーマル地位を規定している。その中でも特に「思いやり」が最も強い影響を与えていた。ゆえに資源は, 学級集団のインフォーマル構造を把握するうえで, 重要な変数であると言える。
    (2) その資源も学級集団外の要因である家庭環境からの影響を受けている。
    (3) 家庭環境はインフォーマル地位に対して直接効果だけではなく, 資源を介した間接効果も与えている。
  • 事前の探索経験の効果
    伊藤 君男, 天野 寛, 岡本 真一郎
    1998 年 38 巻 1 号 p. 17-27
    発行日: 1998/06/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 緊急事態における避難行動に見られる事前の探索経験と集合行動の効果の検討である。実験室内に被災状況を模した迷路を作製し, 被験者の実際の脱出行動を観察した。実験では, 被験者は電気ショック装置を持った実験者から逃れるように教示された。実験1 (被験者64名) は, 2 (探索経験の有・無) ×2 (単独脱出・集団脱出) のデザインで行われた。探索経験は単独で行われ, その後, 単独または4人集団で実験が行われた。その結果, 探索経験は脱出所要時間の短縮を促進するという結果が得られた。また, 単独-未経験条件の被験者は他の条件の被験者と比較して, 脱出に要した時間を長く認知しているという結果が得られた。実験2 (被験者44名) では2種類の出口を設定し, 探索経験の際, 半数の被験者には一方の出口を, 別の半数の被験者にはもう一方の出口を学習させ, 本実験では4人集団で実験を行った。その結果, 集団脱出における同調行動が観察され, 集団による避難行動において, 不適切な行動であると考えられる同調行動の生起が示唆された。本研究の結果は, 探索経験の効果を証明し, ふだんの避難訓練の有益性を改めて示唆するものであった。
  • 原田 耕太郎
    1998 年 38 巻 1 号 p. 28-38
    発行日: 1998/06/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究は, 主に分配者自身による報酬分配の公正認知に及ぼす決定方式 (集団決定と個人決定) と投入との影響について検討した。また, 分配者と被分配者という関係を継続するという予期の効果もあわせて検討した。仮説1は, 集団決定の方が個人決定よりも, 分配者の公正認知が高いであろう, という仮説である。仮説2は, 被分配者の業績の違いが被分配者間にある努力の違いに依存する条件の方が, 能力の違いに依存する条件よりも, 分配の公正認知は高いだろう, という仮説である。仮説3は, 被分配者の業績の違いが被分配者間にある能力の違いに依存する条件での公正認知の低下は, 集団決定の方が個人決定よりも, 少ないであろう, という仮説である。仮説4は, 関係が継続すると予期する条件の方がそうでない条件よりも, 分配者自身の報酬分配の公正認知が高くなる, という仮説である。仮説5は, 決定方式と関係継続との交互作用に関する仮説である。本研究の結果は, 仮説1と仮説2を支持した。本研究は, 分配者自身による報酬分配の公正認知には決定方式が影響を及ぼすこと, さらに, 被分配者の業績および努力の違いに基づいた報酬分配の方が能力の違いに基づいた報酬分配よりも, より公正と認知されることを示した。
  • 「エコロジーダイヤル」を用いた検討
    杉浦 淳吉
    1998 年 38 巻 1 号 p. 39-47
    発行日: 1998/06/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    環境配慮行動を促進させる説得的コミュニケーションにおいて, 社会的便益と個人的便益のどちらを強調するのが効果的であろうか。また, どのような要請主体からの説得が効果的であろうか。本研究では, 公共利益にも私的利益にもつながる「エコロジーダイヤル」への加入という行動をとりあげ, その行動を要請する主体として環境NPO, 電話会社, そして対人ネットワークとしての友人, の3つを設定した。実験は, 3つの要請主体が, 環境保全あるいは個人の経済性を重視した説得的メッセージを用いて加入要請を行う場面を想定した。結果は, 環境保全を重視したメッセージを用いた条件の方が, 経済性を重視したメッセージを用いた条件よりも, 要請主体への応諾傾向が高くなった。加入意図, および加入への態度については, 要請主体の効果がみられた。すなわち, 環境NPOから要請された条件は, 友人から要請された条件と比較して加入意図および加入への態度は高くなった。要請主体への親近性評価では要請主体が友人である条件がもっとも高かったが, 行動意図およびそれを予測する変数との間の関連は低かった。
  • 森 久美子
    1998 年 38 巻 1 号 p. 48-62
    発行日: 1998/06/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    相互依存的状況における我々の反応は, 所与の状況そのものに対してではなく, 当該の利得構造に関する情報を処理し, 個別のものとして変換された後の状況に対して決定されていると考えられる。本研究は, 相互依存的状況における利得構造の認知過程を, 社会的価値志向性 (協同・平等・個人主義・競争) との関連から検討したものである。具体的には, 短期大学生女子159名を対象として1回限りの囚人のジレンマゲームを実施し, その後利得行列の要素を再生させた。利得情報の再生率が, 各価値志向性から予測される利得構造の変換プロセスとの関連から検討された。結果から, 利得情報に関する全体的な処理レベルや, 認知された利得構造の対称性に社会的価値志向性の効果が認められた。さらに各社会的価値志向性に固有の情報選好パターンが明らかにされた。これらの結果をもとに, 各社会的価値志向性ごとの選択決定過程について考察し, 情報処理能力と協力傾向の関連可能性について論じた。
  • 金井 篤子, 若林 満
    1998 年 38 巻 1 号 p. 63-79
    発行日: 1998/06/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究では, 企業のメンタルヘルス風土に関する測定尺度が構成され, その規定因と影響について検討が行われた。無記名による質問紙調査が, 民間企業に働く男女595人 (有効回答率73.0%) を対象に実施された。因子分析の結果, 企業のメンタルヘルス風土測度からは3つの因子が抽出され, 「メンタルヘルス風土評価」「メンタルヘルス不調不安」「メンタルヘルス理解」と名付けられた。重回帰分析の結果, メンタルヘルス風土評価は企業の取り組み施策によって規定される一方, 職務満足度やディストレスに影響を与えていることが明らかとなった。また, メンタルヘルス不調不安, メンタルヘルス理解は創造的組織人行動の下位尺度であるリスク受容に影響を持つことが明らかとなった。これらのことから, 良好なメンタルヘルス風土の醸成の重要性が確認され, そのための方策として, メンタルヘルス施策の実施が提案された。
  • 有倉 巳幸
    1998 年 38 巻 1 号 p. 80-92
    発行日: 1998/06/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究は, 部下が組織内で上司に対して用いる取り入り行動と目標やリーダーシップスタイルなどの諸変数との関係を検討した。その際, 取り入り行動を他者高揚や意見同調などの下位方略ごとに検討することを本研究の主目的とした。
    結果は以下のとおりである。1) 予測どおり, 個人・私的な目標だけでなく, 組織・公的な目標も取り入りと関係していた。取り入りの下位方略ごとにみると, 組織・公的な目標は, 他者高揚や親切な行為といった方略とポジティヴに関連していた。2) リーダーシップの機能ごとにみた結果, 上司が集団維持的なリーダーであるという認知と他者高揚や親切な行為との間にポジティヴな関連性がみられた。また, 三隅 (1978) のリーダーシップの四類型について検討した結果, PM型やpM型の上司には, 積極的な取り入り方略である他者高揚を多用し, 一方, Pm型の上司には, 消極的な取り入り方略である意見同調を用いていた。3) 組織の雰囲気との関連性を検討したところ, 組織がまとまっていると認知しているほど他者高揚が用いられ, 意見同調が用いられないという結果が得られた。
  • 松原 敏浩, 吉田 俊和, 藤田 達雄, 栗林 克匡, 石田 靖彦
    1998 年 38 巻 1 号 p. 93-104
    発行日: 1998/06/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究は学校組織行動の因果関係のプロセスを検討しようとするものである。先行研究に基づいて一つの因果モデルが構成された。すなわち, リーダーシップ→組織風土, 教師のモラール→教師の学習指導スタイル→子どもの行動特徴である。リーダーシップ, 組織風土, 学習指導スタイル, 子どもの行動特徴, 子どもの親の学校への態度などの尺度の構成がおこなわれた。小学校の教師を対象にして組織行動の因果モデルを検討するために郵送調査が行われた。367名から有効なデータが得られた。
    主な結果は次のようなものであった。
    1. 因子分析の結果は各尺度がほぼ前回通りの因子構造をもつことを示した。
    2. 管理職のリーダーシップは組織風土や教師のモラールと密接な関係を示した。また組織風土や教師のモラールは教師の学習指導スタイルと密接な関係を示した。
    3. パス解析の結果はモデルが全体としてはほぼ支持されることを示した。
    結果についての討論がなされた。
  • 中丸 茂
    1998 年 38 巻 1 号 p. 105-117
    発行日: 1998/06/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本論文は, 態度研究を随伴性の観点より分析することを目的とする。
    社会心理学において, 態度は, 内的な, 説明変数であり, 質問紙法や尺度法によって, 言語行動として測定されている。行動分析学では, 態度は随伴性の観点から研究され, タクト, マンド, インタラバーバル, エコーイック, オートクリティックとして取り扱われる。そして, 言語行動としての態度は, 随伴性形成行動の目的行動として, ルール支配行動のルールとして, ルール支配迷信行動の偽ルールとして取り扱われる。また, 態度は, 感情的側面をもち, 条件性刺激として, 感情を制御する。
    同じ表現型をとる言語データでも, 違う成立過程で形成されていることが考えられる。随伴性の観点から態度研究を 条件づけの手続きに還元することによって, 態度についての知見をより単純に捉え直すことが可能となるだろう。
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