社会的入院とは、医療の必要性が低いにも関わらず、介護施設や家族の介護力の不足、医療機関側の都合などにより、退院せず入院を継続することである。これまで社会的入院をしている者の数や費用を推計する研究が行われてきた。しかし、先行研究の大半は、全国レベルの社会的入院の時系列推移を把握することができていない。無駄な医療費を削減し、医療費の伸びを抑制することは、社会保障の持続可能性を確保する上で非常に重要な政策課題である。そのため、全国レベルの社会的入院の時系列推移を把握することの意義は大きい。本稿の目的は、全国レベルの社会的入院の時系列推移を推計することである。
対象は一般病床と療養病床に入院する65歳以上の者である。推計期間は1996~2008年である。年間の社会的入院の費用は、社会的入院患者数に1日当り費用と365を乗じることで求めた。一般病床における社会的入院の基準は、地域医療構想策定ガイドラインを参考に設定した1日当り医療費を用いた。『社会医療診療行為別調査』において1日当り医療費が基準額以下の者の割合を求め、社会的入院患者数は『患者調査』の患者数にその割合を乗じることで求めた。一般病床における社会的入院患者の1日当り費用は、『社会医療診療行為別調査』において、1日当り医療費が基準額以下の患者の1日当り平均医療費とした。療養病床の社会的入院患者は、『患者調査』において「受け入れ条件が整えば退院可能」な者とした。医療療養病床における社会的入院患者の1日当り医療費は、社会的入院患者の割合をαとし、『社会医療診療行為別調査』において1日当り医療費が下位α%の者の1日当り平均医療費とした。介護療養病床の1日当り費用については、『介護給付費実態調査』を用いて類似の方法で求めた。
社会的入院の費用は、1996年の4,228億円から2002年の6,684億円まで上昇した後減少に転じ、2005年から2008年にかけては5,999億円から3,911億円へと大きく減少した。2005年から2008年にかけての社会的入院の費用減少の大半は療養病床で生じ、それは厚生労働省による療養病床の再編によるものである。