医療経済研究
Online ISSN : 2759-4017
Print ISSN : 1340-895X
20 巻, 1 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
巻頭言
特別寄稿
  • 井伊 雅子
    2008 年 20 巻 1 号 p. 5-13
    発行日: 2008年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    日本の公的統計制度は60年ぶりの大改正の途上である。昨年5月に全面的に統計法が改正され、10月には公的統計整備の司令塔としての統計委員会が発足した。本稿では、まず、新統計法改正の背景やその目的、そして昨年10月に発足した統計委員会の役割に関して概観し、医療・介護に関する統計を新統計法の下でどのように整備、体系化していくべきか、いくつか問題提起を行った。
    現行の日本の医療統計の問題の一つは、SNAのような明確な体系性が欠如している点である。今後、国民医療費に代わり、SHA(A System of Health Accounts)を基幹となる医療費統計と位置づけ、関係する統計を整備し直す必要がある。指定統計を始め、承認統計や届出統計として行われている調査統計を政策評価に十分に活用することも期待されている。そのためにも、政策部局と調査実施部局との連携も重要となろう。莫大な公費を投じて作成された統計は国民全体の貴重な財産であり、この財産を、公正で有効に活用できる体制を整備することは、国民生活の質の向上に大いに寄与することである。

論文
  • 高塚 直能, 西村 周三
    2008 年 20 巻 1 号 p. 15-33
    発行日: 2008年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    医療情報システム(特にオーダリングシステム)の導入が入院医療の生産性及び効率性に与える影響を明らかにするため、自治体病院のパネルデータを解析した。ー床当たり年間退院患者数(年間病床通過患者数)をアウトプット指標とした生産関数に対して、三種の確率フロンティア分析(固定効果モデル、真固定効果モデル、効率性効果モデル)を適用し、病院生産性及び技術的効率性に対するオーダリングシステム導入の影響を比較評価した。
    結果、固定効果モデルでは療養病床を持たない病院においてマージナルな生産関数の上方シフトが示された。また、真固定効果モデルにおいて、前年度オーダリングシステム導入が生産関数の上方シフトに有意に関連することが示された。さらに、効率性効果モデルにおいても、前年度オーダリングシステム導入は技術的効率性と有意な正の関連を持つことが示された。これらの傾向は病院の移転・新改築等の施設更新の影響を除いてもみられた。なお、推定された技術的効率性値は各モデルにおいて大きく異なり、他モデルに比較して、真固定効果モデルでは平均値が高く、標準偏差が低い結果となった。なお、各モデル間における技術的効率性値の順序相関係数は固定効果モデルと効率性効果モデル間で0.7-0.8程度を示したが、真固定効果モデルと他モデル間との相間は0.4未満であった。
    この結果より、オーダリングシステムは一定期間における退院患者数を指標とした生産関数の上方シフトもしくは技術的効率性の改善に寄与する可能性が示唆された。

研究ノート
  • ―医学教育制度・病院管理制度を中心として―
    堀籠 崇
    2008 年 20 巻 1 号 p. 35-48
    発行日: 2008年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は、GHQの医療制度改革の裏側に横たわる改革意図あるいは理念というものがいかなるものであったのかを明らかにし、戦後日本医療システム形成史研究の進展に資する基礎的な知見を得るところにある。本稿ではとりわけ医療供給側面に関するGHQの政策意図・理念について検討を試みた。具体的には実地修練(インターン)制度、国家試験制度の実施、モデル病院計画、医学視学委員制度といった、医師・歯科医師の資質向上に直接的に関わる政策である。本研究において、主として用いた資料は国立国会図書館憲政資料室所蔵のGHQ/SCAP Records中のPHW(Public Health and Welfare Section)文書である。特に医学教育審議会における日本の厚生官僚とGHQ代表者との議事を中心に、上述の政策の根本に横たわるGHQの政策意図およびそれに対する日本側の反応を明らかにした。
    本研究が明らかにしたのは以下の三点である。第一にGHQの医療制度改革は科学技術(医学という学問的裏付け、とりわけ臨床医学の強化)浸透の観点からなされたということである。第二に、GHQは、厚生行政の独立性を目指したということである。国家目的の遂行のための手段として厚生行政があるのではなく、厚生行政は厚生行政としてその役割を果たすことをGHQは考えていたのである。第三に科学技術に基づき、従来日本が有していた医療制度における問題の確認と新たな制度の適用可能性を探るという作業を行ない、その結果、新たな制度の適用を阻む従来の制度の弊害は除去し、そうでないものは活用されたということである。すなわち、一見すれば戦前・戦時からの連続性を見いだせ得るような従来の制度の適用も、戦後GHQによって、科学技術という新たな観点からの見直しの末になされたのである。

feedback
Top