医療経済研究
Online ISSN : 2759-4017
Print ISSN : 1340-895X
8 巻
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巻頭言
論文
  • 尾崎 哲則, 野村 眞弓, 市川 裕美子, 吉田 茂
    2000 年8 巻 p. 5-23
    発行日: 2000/09/30
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    1978年以降の家計調査、国民医療費、患者調査をもとに、家計の医療支出と歯科診療所の患者数から歯科診療費の動向を経年的に分析し、その特性について検討を加えた。

    家計の歯科診療支出はGDE(国内総支出)の上昇とともに増加していたが、増加率は1988年以降GDEの成長率を下回り、消費支出に占める割合も1987年までの期間、上昇した後は一定の水準で推移していた。また、世帯主の年齢と所得との関係では、壮年期の支出額が多く、所得階層による支出の差が大きかった。

    歯科診療所の患者数は老人保健法の給付対象の患者数と70歳以上の患者数の増加率がほぼ等しく、自費診療患者数及び保険外診療収入は1990年代を通じて減少を続けていた。

    以上のことから、歯科診療費は消費支出の一定割合を占めるが、家計の所得による支出の格差が大きく、消費支出の動向や医療保険制度の変更の影響を一般医療費に比べて受けやすいことが示唆された。また、歯科医療に占める自費診療の割合は患者数・支払額とも、老人保健法制定を契機に、高齢患者の増加に比して逓減していることが示された。

  • -適正なグルーピングを前提にして-
    中村 洋
    2000 年8 巻 p. 25-49
    発行日: 2000/09/30
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    現在、日本においては同等の医薬品グループに対して同一保険償還価格を設定する制度の導入が議論されている。この研究は、適正なグルーピングが行われるという前提を置いた上で、その「同等医薬品・同一保険償還価格」制度の研究開発への影響を、研究開発インセンティブへの影響と研究開発原資である企業収益への影響という2つの観点から分析する。同等とみなされる複数の新薬の加重平均価格に同一保険償還価格が設定される場合、研究開発型企業の収益に悪影響を与えるとは限らないが、革新性の低い新薬の研究開発インセンティブを革新性の高い新薬のそれより相対的に高める可能性が指摘される。一方、同等の複数の新薬に対し、より低い同一保険償還価格を設定することは、革新性の高い新薬の研究開発インセンティブを相対的に高めるが、企業収益にはマイナスの影響を与える。また、同一成分に同一保険償還価格を設定することは、研究開発型の企業収益にマイナスの影響を与える可能性があるが、革新性の高い新薬と低い新薬の相対的な研究開発インセンティブへの影響は特定できない。最後に、「同等医薬品・同一保険償還価格」制度のあり方について議論する。

研究報告
  • -その社会経済効果の評価と位置づけ-
    宮澤 健一
    2000 年8 巻 p. 51-65
    発行日: 2000/09/30
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    公共経済化のなかの医療と福祉の機能連関を、産業連関モデルを2つの側面で拡充して追跡する。拡充とは、物財=サービスの相互誘発の連関モデル、および生産誘発と所得・消費の追加誘発の波及モデルの利用である。展望の焦点は、問題の政策関連的な局面、ならびに社会の今後の方向性に関連する局面に合わせる。

    分析の視角としては、福祉と医療サービス活動の効果を、公共事業の経済波及効果と比較・評価する視点を用意し、同時に、問題のもつ中長期的な側面にも視野を広げる。それは、投資配分としての側面、構造改革への寄与との関連である。併せて、社会保障のセーフティネットとしての基底面での働きとの関わりをも踏まえる。以上を基礎として、公私ミックス化のもとでの、医療と福祉の活動のもつ産業連関特性の主要な側面を検出する。点検する領域は、医療の3部門(国公立、公益法人等、医療法人等)と、社会保険、社会福祉、および‘医薬品、医療機器と、それらの関連部門である。

研究ノート
  • 野口 正人
    2000 年8 巻 p. 67-90
    発行日: 2000/09/30
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    近年、多くの国々における新しい経営管理のあり方として、ニュー・パブリック・マネジメントの考え方に基づいた行政改革が進められつつある。今後、我が国の中央省庁の政策評価においても、結果志向・分権化・効率化・市場の活用等の考え方を活かしたニュー・パブリック・マネジメントの考え方に基づいて、公共活動の客観的な成果を測定する方法を確立し、評価結果を政策に反映していくための方法論を検討していくことが重要となっていく。

    政策評価を行っていくためには、評価の実施組識、業務量、緊急性等を勘案しつつ、評価指標の体系化や定量的・定性的な評価方法を取り入れていくことが必要とされている。

    アメリカ合衆国の連邦政府における政策評価の仕組みとしては、政府業績結果法が発効している。連邦各省庁はプログラムの目標設定、設定された目標に対する業績測定、そしてプログラムの進捗について報告することによって、業績改革に着手している。

    政策を客観的に評価し、業績測定を行うために必要な行政管理能力、データ収集、測定手法の開発には多大な労力と試行錯誤が必要であり、常にPlan-Do-Seeというビジネスサイクルの中において優れた計画を策定し、業績測定の精度を向上していくための改善が必要である。

資料
  • V.R. フュックス, 二木 立
    2000 年8 巻 p. 91-105
    発行日: 2000/09/30
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では、医療経済学を、2つの観点から検討する。1つは行動科学として、もう1つは医療政策と医療サービス研究に資する学問領域としてである。医療経済学のこの二重の役割を示すために、指導的な医療経済学雑誌2誌と指導的なアメリカの医療経済学者3人の論文とそれの引用についてのデータを検討する。行動科学としての経済学を専攻している医療経済学者には、経済学における重要かつ比較的新しい5つの研究領域を推薦する。次に、医療政策と医療サービス研究に従事している医療経済学者に示唆を与える。その際、経済学の強みと弱み、価値判断の役割、学際的研究と多くの学問領域にわたる共同研究の潜在的可能性について検討する。第4節では、医療経済学への強い需要が今後も継続すると私が考える理由を述べる。最後に、主として医療経済学に最近参入した研究者への助言を述べて、本稿を終わる。

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