医療経済研究
Online ISSN : 2759-4017
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18 巻, 2 号
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巻頭言
特別寄稿
  • 宮澤 健一
    2006 年 18 巻 2 号 p. 79-93
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    医療介護を含む社会保障制度の基礎は、生活リスクに対するセイフティーネットとしての機能にあるが、この本来の福祉的側面のほかに、1)財政的側面、2)産業的側面との関わりが強まる。争点は、これら三面間の交錯の調整を、どう捉えるかである。

    1)財政的側面で求められているのは、社会保障制度の発想の転換である。政府による従来の画一的な社会保障サービス提供方式は、予想を越える高齢化の進行、低成長への移行、政府財政赤字の累積化によって、矛盾を全面化させ、多くの争点を生んできた。

    この争点の根底に必要なのは、保障が“多いことは良いことだ”式の、政府へのお任せ=画一平等主義からの脱却で、社会保障制度は、公ヘ寄り掛かる「依存」の制度から、自己実現のための「自立支援」システムへと大きく転換されねばならない。加えて、主体的な“自己管理”への動機づけが、重要さを増す。その形は、医療・介護・社会福祉の各領域ごとに、特有な姿を示す。それぞれの実態にそくした点検を要する。

    2)民間活動も、医療介護を含め、公共性・政策性ある分野に積極的に進んで参画し、政府による市場欠陥補正のもと、市場的な効率運営を担うことが求められる。中核は、規制と連立された「準市場」での有効作動の実現である。焦点は、民間競争活力の積極的な援用にあり、また、社会保障が求める“公正”に対しては同時に“最適性”を見失わない規制適正化への配慮を要する。官民の適格な競争環境の導入である。

    公的サービスのほか、民間活動によるサービス提供も加わり、公的活動を補完して、多様に広がるサービスの“選択”の中で対応することが問われている。潜在的ニーズの多いシルバー市場・健康市場の創出、バイオ・テーラーメード医療ほか先端医療分野の技術革新、民間保険の新しい第三分野の展開など。雇用機会の創出もまた関わる。

    さらに社会保障は、負担面だけでなく、支出面で、経済的誘発の波及効果に寄与している点にも注目したい。その波及効果は、「公共事業」の誘発効果と比べて、ひけを取らない。また医療・介護・社会福祉の各分野の構造調整のいかんでは、産業連関の投入構造を変え、経済的波及効果の様相に変化を与えるフィードバックを生むことも予想される。

    以上の諸局面の持つ意味と働きの解明が、本分析の主題となる。

研究ノート
  • 村永 文学, 熊本 一郎, 宇都 由美子
    2006 年 18 巻 2 号 p. 95-104
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    我々は、病院データウェアハウスシステムに蓄積された情報を元に、DPC別の診療コストを算出し、その医業収支に与える影響要因分析を可能とするDPC別診療コスト分析データウェアハウスシステムを構築した。本システムでは、2003年4月から2005年3月までに鹿児島大学医学部・歯学部附属病院を退院した患者を対象に、医療行為単位、日別費目単位、入院単位の複数の粒度をもっ収支情報を蓄積し、集計情報から詳細情報へと分析を進めるドリルダウン分析を可能とした。

    本研究で開発したシステムの評価実験として、2004年度にDPCの再評価対象となった悪性腫瘍に関するDPCと診断された患者についてDPC別収支分析を行った。その結果、当院では急性白血病、非ホジキンリンパ腫、肝・肝内胆管の悪性腫瘍の医療費率が高い傾向にあり、肝・肝内胆管の悪性腫瘍の症例数がもっとも多いことが判明した。これらのDPCに診断された症例の中から医療費率の高い患者を選択し、収支の累積変化についてドリルダウン分析を行った結果、在院日数が延長すると医療費率が上昇する傾向が見られた。これらの結果よりDPC等のケースミックス分類による包括評価制度では、自院におけるケース別のコスト分析は病院経営上重要であると思われた。

  • -医療アクセスの公平性からの再検討-
    齋藤 裕美, 鈴木 亘
    2006 年 18 巻 2 号 p. 105-120
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    混合診療問題をめぐっては、「市場の失敗」や「公平性」、「実態」に関する認識や前提の違いに端を発する議論の混乱があり、これを解消するためには、実証分析による共通認識の積み上げが重要であると考えられる。本稿はその一環として、鈴木・齋藤(2006)が行った混合診療に対する仮想市場法を使った分析を拡張し、特に公的医療保険を通じた所得再分配と患者の自己負担の軽減といった、医療アクセスの公平性の観点から、混合診療問題を実証的に再検討した。

    分析の結果、公的医療保険の範囲内の医療で、余命1年という重篤な疾患が想定されるケースでは、①混合診療の解禁によって、公的医療保険を通じた所得再分配効果は改善され、むしろ低所得者を利する、②カクワニ指数で見た自己負担の逆進度は、制度変更前後であまり変わらない、③これは制度変更前後における医療費の平均支出比率の変化が、各所得階層において同程度であることに起因していると考えられる、また④このとき平均支出比率は、各所得階層で若干上昇するが、大きくは変化せず、低所得者におよぼす医療費の負担感への影響はそれほど大きくないと考えられる。さらに⑤カーネル推定による各階層内での自己負担額の変化や、平均支出比率の変化をみるかぎり、同じ階層でも患者行動が異なり、支払い能力という点だけからは、自由診療をするかしないかを判断できない、といったことが明らかになった。これらの結果は、資産でみた場合でもほぼ同様である。

    以上より、あくまで余命1年という重篤な疾患が想定されるケースではあるが、従来、考えられていたこととは異なり、混合診療の解禁は医療アクセスの点で必ずしも支払い能力の低い者を不利にするものではなく、むしろ改善しうることが明らかになった。また自由診療をするかしないかは、支払い能力だけでは説明できず、その他の決定要因の存在も無視できないことが示唆された。

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