医療介護を含む社会保障制度の基礎は、生活リスクに対するセイフティーネットとしての機能にあるが、この本来の福祉的側面のほかに、1)財政的側面、2)産業的側面との関わりが強まる。争点は、これら三面間の交錯の調整を、どう捉えるかである。
1)財政的側面で求められているのは、社会保障制度の発想の転換である。政府による従来の画一的な社会保障サービス提供方式は、予想を越える高齢化の進行、低成長への移行、政府財政赤字の累積化によって、矛盾を全面化させ、多くの争点を生んできた。
この争点の根底に必要なのは、保障が“多いことは良いことだ”式の、政府へのお任せ=画一平等主義からの脱却で、社会保障制度は、公ヘ寄り掛かる「依存」の制度から、自己実現のための「自立支援」システムへと大きく転換されねばならない。加えて、主体的な“自己管理”への動機づけが、重要さを増す。その形は、医療・介護・社会福祉の各領域ごとに、特有な姿を示す。それぞれの実態にそくした点検を要する。
2)民間活動も、医療介護を含め、公共性・政策性ある分野に積極的に進んで参画し、政府による市場欠陥補正のもと、市場的な効率運営を担うことが求められる。中核は、規制と連立された「準市場」での有効作動の実現である。焦点は、民間競争活力の積極的な援用にあり、また、社会保障が求める“公正”に対しては同時に“最適性”を見失わない規制適正化への配慮を要する。官民の適格な競争環境の導入である。
公的サービスのほか、民間活動によるサービス提供も加わり、公的活動を補完して、多様に広がるサービスの“選択”の中で対応することが問われている。潜在的ニーズの多いシルバー市場・健康市場の創出、バイオ・テーラーメード医療ほか先端医療分野の技術革新、民間保険の新しい第三分野の展開など。雇用機会の創出もまた関わる。
さらに社会保障は、負担面だけでなく、支出面で、経済的誘発の波及効果に寄与している点にも注目したい。その波及効果は、「公共事業」の誘発効果と比べて、ひけを取らない。また医療・介護・社会福祉の各分野の構造調整のいかんでは、産業連関の投入構造を変え、経済的波及効果の様相に変化を与えるフィードバックを生むことも予想される。
以上の諸局面の持つ意味と働きの解明が、本分析の主題となる。
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