医療経済研究
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16 巻
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巻頭言
論文
  • -事後的死亡者の死亡前医療費調整による推計-
    今野 広紀
    2005 年16 巻 p. 5-21
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    近年、わが国では医療保険制度の抜本的な改革が取り沙汰され、それに伴い、医療保険制度における世代間の公平性の議論がなされているが、この議論を行うためには、加入者の生涯にわたる医療費支出を把握することが政策的に重要である。本稿では、2組合健保のレセプトデータを使用し、生涯医療費の推計を試みた。推計に際しては、既になされている『厚生白書』での推計方法の再評価を行うべく、使用データにおいて1人あたり医療費に対して簡易生命表による定常人口を用いて推計する白書推計方法と、今野(2003)で行われた生存率と受診率を用いて推計する方法、そして、データ期間上の生存者と死亡者それぞれについて1人あたり医療費を求め、平均余命の概念から各年齢時点でのその後の医療費支出を推計する方法の3つを試みた。

    その結果、白書同様の推計で約1,400~1,580万円、今野(2003)のそれで約1,691~1,873万円に対して、第3の推計では、約1,390万円と総額では減額される結果となった。ただし、最高齢層では直前の年齢層に比べて医療費が増加し、死亡前医療費が推計に影響を及ぼしていることが明らかとなり、本稿で提示した3つの方法の中で最も現実的な推計方法であると考えられる。

  • 浅川 和宏, 中村 洋
    2005 年16 巻 p. 23-36
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本論文では製薬企業のR&D成果をもたらす諸要因を多面的に検討している。特に、R&D拠点(ラボ)が行う大学や研究機関やその他企業などとの対外的交流および社内の他のラボとの交流が、ラボのR&D成果にいかなる影響を及ぼすかに分析の焦点を絞った。R&D成果を多面的にとらえることにより、基礎研究、特許、臨床開発いずれかの目的かにより、こうした要因の効果も変わることを明らかにした。たとえばラボの基礎研究成果のためには現地の大学との密度の高い交流が高い効果を与えることや、臨床という下流活動の成果には社内他ラボとの知識の交換が有効なことが判明した。これらの結果は、アンケート調査と同時に行ったフィールドワークから得られた定性データからの知見とも照らし合わせて検討した。

  • 河野 敏鑑
    2005 年16 巻 p. 37-48
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    日本では、ライフスタイルの変化や医療技術の進歩がもたらす疾病構造の変化によって、平均寿命は伸びてきている。しかし同時に、生活習慣病の増加や、それに伴う生活の質の悪化が引き起こされており、それ自体が大きな問題であると同時に、財政的な問題を引き起こしてもいる。本稿では、生活の質を向上させ、併せて財政的な問題を解決するための、1つの手段である健康保険組合の保健事業に注目し、その効果について考察を加えた。その結果、健康保険組合の行う保健事業は、総じて見れば金銭的な効果も、患者の効用の代理変数と考えられる入院・通院回数に与える効果も有意にあるとは言え、大きくない。しかし、一部の健康保険組合では、十分な効果をあげているとの報告があり、多くの保険者には、保健事業を改善し、その効果をあげることが求められているといえよう。

研究ノート
  • 目黒 光恵, 目黒 謙一, 赤沼 恭子, 関田 康慶
    2005 年16 巻 p. 49-58
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    痴呆老人の徘徊や睡眠覚醒障害など、いわゆる介護保険上の「問題行動」に対する薬物療法として、向精神薬が用いられているが、その臨床経済学的分析は殆ど行われていない。今回、介護老人保健施設入所中のアルツハイマー病患者66名を無作為に2群に分類し、34名に対し塩酸リスぺリドンを投与し、通常ケアのみの32名と比較検討を行い、臨床経済学的検討を行った。なお塩酸リスぺリドンは、徘徊や睡眠覚醒障害などの「問題行動」への臨床的有効性が報告されている非定型的向精神薬である。分析として、同薬物による「問題行動」の減少に伴う、介護スタッフによる直接介護労働の減少は、時給に換算した場合どのくらいの労働になるかを検討した。さらに、経済的に表現した場合の介護スタッフの主観的負担感も検討した。その結果、同薬剤投与により、アルツハイマー病患者の1日平均徘徊時間は約2時間減少した。徘徊時間の減少は介護スタッフの負担を軽減し、他の労働に振り分けることを可能にしたが、それは対象施設における介護スタッフの時給換算にして、介護者1人1日平均1800円程度の労働時間に相当した。1日約2時間の徘徊を示すアルツハイマー病のモデルケースを用いたアンケート調査の結果では、介護スタッフの殆どがそのようなケースに対する介護の報酬として3000円以上を要求し、客観的な労働時間の賃金以上の負担感を示す場合が殆どであった。薬剤によるアルツハイマー病の問題行動の治療は、臨床経済的効果を有することが示唆された。

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