近年、わが国では医療保険制度の抜本的な改革が取り沙汰され、それに伴い、医療保険制度における世代間の公平性の議論がなされているが、この議論を行うためには、加入者の生涯にわたる医療費支出を把握することが政策的に重要である。本稿では、2組合健保のレセプトデータを使用し、生涯医療費の推計を試みた。推計に際しては、既になされている『厚生白書』での推計方法の再評価を行うべく、使用データにおいて1人あたり医療費に対して簡易生命表による定常人口を用いて推計する白書推計方法と、今野(2003)で行われた生存率と受診率を用いて推計する方法、そして、データ期間上の生存者と死亡者それぞれについて1人あたり医療費を求め、平均余命の概念から各年齢時点でのその後の医療費支出を推計する方法の3つを試みた。
その結果、白書同様の推計で約1,400~1,580万円、今野(2003)のそれで約1,691~1,873万円に対して、第3の推計では、約1,390万円と総額では減額される結果となった。ただし、最高齢層では直前の年齢層に比べて医療費が増加し、死亡前医療費が推計に影響を及ぼしていることが明らかとなり、本稿で提示した3つの方法の中で最も現実的な推計方法であると考えられる。
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