医療経済研究
Online ISSN : 2759-4017
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19 巻, 1 号
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巻頭言
特別寄稿
  • 田中 滋
    2007 年 19 巻 1 号 p. 5-20
    発行日: 2007年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    2000年以降のわが国高齢者ケアについては、介護サービス市場の発達と、その“推進エンジン”の機能を担う介護保険制度が、要介護者・要支援者および家族の生活(の少なくとも一定部分)を支えてきた。本稿では、政策研究を志向する次世代の研究者に材料を提供する目的で、介護保険と介護市場をめぐる政策展開のうち、筆者がかかわったいくつかの論点をめぐる議論を整理した。
    はじめに主な分析概念を説明した後、介護市場創造の過程を説明する。次いで、医療との「財の性質」の違いから見た介護保険給付と介護報酬を論ずる。そこでは成功報酬と現金給付論にも触れている。続いて、家事援助と施設食住費を例に、介護サービスと保険給付対象の区分に関する進展が示される。さらに、介護情報公表制度の意味を説く。
    最後に、この主題に関する今後の展望として、(1)高齢者ケアの長期化と認知症の増大、(2)介護労働市場の変化、(3)施設対在宅の対比:高齢者住宅の整備、(4)地域包括ケアの4点について意見を述べる。

論文
  • ―家族介護者の介護負担感の分析―
    岸田 研作, 谷垣 靜子
    2007 年 19 巻 1 号 p. 21-35
    発行日: 2007年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:現在の在宅サービスが対応できていない介護負担感を測定し、今後整備すべき在宅サービスや施設への公平な入所基準について検討する。
    対象と方法:対象は、中国地方の2つの市に在住する要介護者がいる725の同居世帯である。介護負担の要因には様々なものが考えられるが、特定の介護負担要因に対応したサービスが適切に消費できていれば、その介護負担要因は介護負担として顕在化しないはずである。例えば、夜間介護の必要性があっても、夜間介護に対応したサービスがあれば、夜間介護が必要な要介護者を介護している介護者と夜間介護が必要でない要介護者を介護している介護者の介護負担に差はないはずである。そこで、主介護者の介護負担感尺度を、様々な介護負担の要因に回帰した。介護負担感の指標としては、日本語版Zarit介護負担感尺度を用いた。
    結果:以下の数値は、介護負担感尺度の点数である。在宅サービスが対応できていない介護負担要因は、要介護者の不適応行動が激しい場合に事業者側の都合でショートステイの利用を手控えている(14.9)、夜間介護(7.1)、要介護者と主介護者の関係が良くないこと(5.4~15.8)、介護者の自覚症状数(1つに付き2.3)、家事負担(4.6)があった。要介護者の容態の急変可能性が大きいこと(9.4)は負担感を増加させるが、医療体制の整備は負担感を抑制した(-7.6)。身体障害が軽く痴呆が重い場合と身体障害が重く痴呆が軽い場合に、介護負担感が高かった。副介護者が1人増えると負担感は1.7下がった。
    考察:現在の在宅サービスが対応できていない介護負担感の要因は多様であり、それらに対応した新しいサービスやサービス提供のあり方の工夫が望まれる。本稿の推定結果より状態像別の家族介護者の介護負担感が計算できる。それは、超過需要状態にある特別養護老人ホームへの公平な入所基準として利用できる。

  • 熊谷 成将
    2007 年 19 巻 1 号 p. 37-51
    発行日: 2007年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    この論文の目的は、水平的公平性の観点から、医療サービスに対するニーズ、医療サービスの利用と公立病院に対する繰入れの関係を明らかにすることである。公立病院に対する繰入れが社会階層に対して不公平である場合、その資源配分は是正されるべきである。
    住民の健康状態を表す変数と公立病院のデータをマッチングし、公立病院に対する繰入れを分析した。実証分析の主な結果は次の三点である。第一に、外来医療サービスは低所得者に対して有利であったが、負担金は高所得者に対して有利に繰り入れられていた。第二に、脳血管疾患の入院患者に対して公立病院に対する負担金はほぼ完全に水平的公平であった。住所地以外の病院への入院が可能な患者に対して有利な形で負担金が繰入れられていた。第三に、規制当局(市町村)が公立病院に対して病床数比の入院患者数を若干引き上げるよう指導し、公立病院が医業収益を改善できれば、負担金の繰入率(医業収益比)を引き下げることができるかもしれない。
    他方、理論的見地から公立病院の医師の分布が患者の受診件数に対応していなければ、医師の分布に従った負担金の繰入れは効率的でないとの結論を得た。

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