医療経済研究
Online ISSN : 2759-4017
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22 巻, 2 号
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巻頭言
論文
  • 井上 裕智
    2011 年22 巻2 号 p. 141-157
    発行日: 2011年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    近年、幼年期に麻疹ワクチン接種(以下「幼年期接種」)を済ませたにも関わらず麻疹に罹患する者が報告されている。 主な原因は、接種直後から抗体を認めない一次性ワクチン不全 (primary vaccine failure:以下「PVF」)と接種直後は抗体を認めるものの経時的に低下する二次性ワクチン不全 (secondary vaccine failure:以下「SVF」)である。対策として、2008年度から2012年度までの5年間に限り、中学1年生および高校3年生に相当する年齢(以下、順に「中学1年生」、「高校3年生」)の未罹患者を対象として追加接種が実施されている。追加接種実施に期待する効果は、未罹患の未接種者またはPVFないしSVFの者へ免疫を保持させ、罹患者数を減少させることである。一方、費用は、現在のワクチン接種費用と副反応関連費用が発生するが、将来における麻疹関連費用の発生を防ぎ、結果的に減少させると考えられている。しかし、乳幼児期が好発年齢である麻疹の場合、追加接種実施の費用対効果は追加接種年齢に強く影響されると考えられ、投じた費用に見合った効果を得られない可能性がある。本研究の目的は、追加接種実施による費用増分が効果増分に見合っているか否か、費用効用分析を用いて評価することとした。
    社会全体の立場から、追加接種を実施する制度(以下「新制度」)の実施しない制度(以下「旧制度」)に対する増分費用効果比(incremental cost effectiveness ratio:以下「ICER」)を求め、社会が支払いを許容する上限額(willingness to pay:以下「WTP」)を基準に経済性を評価した。ICERの計算には決定樹とマルコフモデルを用いた。決定樹は接種直後の免疫状態を分類するモデルであり、新制度では幼年期接種直後と追加接種直後の2回、旧制度では幼年期接種直後の1回使用した。他方、マルコフモデルは罹患を推測するモデルである。マルコフモデルは、幼年期接種直後から追加接種年齢直前までのモデルと追加接種年齢直後から50年間のモデルの2種類を作成した。まず、前者からは追加接種年齢直前の未罹患者数を、後者からは追加接種年齢直後から50年間の罹患者数、重度障害者数と死亡者数を求めた。つぎに、前者からは新制度におけるワクチン接種費用と副反応関連費用を、後者からは割引した麻疹関連費用と質調整生存年(quality adjusted life years:以下「QALYs」)を求めた。WTPは500万円/QALYに設定した。
    基本分析の結果、中学1年生のICERは5,651万円/QALY、高校3年生は28,323万円/QALYであった。ICERは500万円/QALYを上回り、感度分析により基本分析結果の頑健性が示された。
    中学1年生および高校3年生の麻疹未罹患者に対する麻疹ワクチン追加接種実施の増分費用効果比は、社会が支払いを 許容する上限額を上回ったため、経済性に優れた介入とはいえないと示唆された。

  • 福田 敬
    2011 年22 巻2 号 p. 159-160
    発行日: 2011年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス
  • 佐野 洋史
    2011 年22 巻2 号 p. 161-178
    発行日: 2011年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    新医師臨床研修制度の導入以降、研修医が研修先及び研修修了後の就業場所を自ら選択できる状況となり、医師不足の地域や医療機関にとって、研修医の就業場所の選択要因を把握することが重要となっている。そこで、本稿では、研修医が臨床研修後の就業場所の選択の際にどのような要因を重視するのかを定量的に把握し、医師不足の地域や医療機関が研修を終えた研修医を確保するための有効策について検討した。
    分析手法にはコンジョイント分析を用いた。まず、調査協力の応諾を得た31病院の研修医1,227人に対してアンケートを実施し、2つの仮想医療機関のうちどちらを勤務先に選ぶかという質問を5問ないし6問行った。仮想医療機関の属性(勤務条件)には、1週当たり勤務時間、診療について指導してくれる医師の存在、1ヶ月当たり夜間宿直回数、学会や研修会への出席、医療機関の規模、立地場所、年間給与額の7つを採用した。次に、回答結果をランダムパラメータロジットモデルにより分析し、各属性に対する研修医の選好を推定した。
    アンケートの回答率は29.1%(=357/1,227)であった。357人の研修医の選好を推定した結果、学会や研修会への出席が休暇扱いから出張扱いで可能になること、立地場所が中小都市から大都市へ変わること、年間給与額が増えることの限界効果の符号は正であり、研修医が就業場所を選択する際に魅力的な要因となった。一方、1週当たり勤務時間が増えること、診療について指導してくれる医師がいないこと、1ヶ月当たり夜間宿直回数が増えること、中小病院から診療所へ変わること、立地場所が中小都市からへき地へ変わることは限界効果の符号が負であり、研修医にとって敬遠される要因となった。診療について指導してくれる医師がいることに対する支払意思額が研修医平均で2,411万円と最も高く、次いで医療機関の立地場所がへき地から大都市へ変わることが1,647万円と高かった。
    本研究により、研修医は就業場所の選択の際、診療について指導してくれる医師がいること、医療機関の立地場所がへき地でないことを特に重視することが明らかとなった。へき地等医師不足の地域や医療機関が研修医を研修修了後に確保するためには、地域の医療機関の再編や拠点病院からの指導医派遣等により診療について指導できる医師を確保し、充実した後期研修の体制を整備することが重要である。

研究資料
  • 加藤 晃
    2011 年22 巻2 号 p. 179-195
    発行日: 2011年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    研究開発型製薬企業の新薬研究開発の生産性は、巨額の研究開発費投資にも関わらず、1990年代半ばの黄金期を境に低下してきている。ブロックバスターが特許切れを迎え、ジェネリック薬品にシェアを奪われる「2010年問題」は、焦眉の経営課題となっている。そこで、持てる知的財産を有効活用して商品ライフサイクルを延ばすライフサイクルマネジメント(LCM)が注目を集めている。LCMには、新剤型、効能追加、新配合剤などいくつかの手法があるが、本稿では「新配合剤」を研究対象とする。米国市場においては、配合剤はジェネリック製薬企業から大手製薬企業まで広く開発が行われている。一方、日本市場では、2005年まで厳しい規制があり、規制緩和後に開発に着手した製品の承認が2009年から出始めた段階にある。
    日本においては、新配合剤は知的財産権の延命策と捉えられがちであるが、米国市場では商品ライフサイクルの成熟期のみならず、成長期における早期の売り上げ拡大を目的とした商品開発も多く行われている。本稿では米国市場(where)における配合剤の承認件数を新規物質と比較して、上位社とそれ以外(who)に分け、過去40年間の件数の変遷を調べた。その結果、上位社の急伸による戦略の変化が確認された。また、日米比較が可能な2000年から2009年の10年間について、単剤の承認から新配合剤の承認までの期間を調べることによって、商品ライフサイクルのどの時点(when)で開発を行っているかを確認した。更に、薬効の種類(what)を比較することによって普及度合いを検証した。その上で、配合剤の普及については日米でどのように異なるのか(how)、何故そうなのか(why)の考察を行った。
    LCMとしての配合剤は、知的財産権を活用することによって顧客に価値を提供する手法であり、製薬企業にとっては少ない研究開発費(コスト)と低い事業リスクでキャッシュフローを維持できる代替戦略と位置付けられる。

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