医療経済研究
Online ISSN : 2759-4017
Print ISSN : 1340-895X
25 巻, 2 号
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巻頭言
特別寄稿
研究論文
  • -医療費支出のマイクロデータ分析
    角谷 快彦, 小寺 俊樹
    2014 年 25 巻 2 号 p. 114-125
    発行日: 2014/07/31
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    近年の人口高齢化の進展によって、急増する医療支出の持続可能性に対する関心が集まっている。事実、政府は限られた財源の中での医療費の増加に対応するため、診療報酬の引き下げや病床規制といった医療費抑制政策を実施してきた。しかしながら、医療市場では一般的な患者と医療サービス供給者の間に医療の知識に対する情報の非対称性が存在することから、医療施設間の市場競争の中で供給者が医療サービス需要を誘発する、いわゆる「供給者誘発需要」が発生しやすく、期待された医療費抑制の効果が得られない可能性がある。先行研究によると供給者誘発需要は、人口当たりの医療施設等で測られる医療供給密度の高さに地域の1人あたりの医療費が相関することで確認される。本稿はそれに倣い、人口比の医療施設数が供給者誘発需要に影響を与えるかを日本の医療市場で検証した。日本における供給者誘発需要の研究はマクロデータやレセプトデータを用いたものが多く、患者の属性をコントロールした分析が少ないことから、本稿は患者の属性データを用いた研究の不在を埋めるものである。具体的には、大阪大学が行った全国の家計調査である「くらしの好みと満足度に関するアンケート調査 2011」から患者の年齢・性別・健康に対する意識・世帯年収等のデータを抽出し、医療供給密度と一人当たり医療支出の関係を検証する際のコントロール変数として用いた。検証においてはTwo-part modelを用いて、患者の自発的な需要を表す受診回数と、供給者によって誘発された需要を示す受診1回あたりの医療支出に分けて分析した。その結果、医療施設の供給密度は受診回数には正の影響を与えた一方、受診1回あたりの医療支出と全体的な医療支出には影響しないことが分かった。すなわち、日本の医療市場において、供給者誘発需要の存在が疑われるような医療供給密度によるサービス供給量の増加は、患者の属性をコントロールした上でも、発生していないことが観察された。

  • 泉 良太, 能登 真一
    2014 年 25 巻 2 号 p. 126-138
    発行日: 2014/07/31
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    中央社会保険医療協議会では医療技術の保険収載の可否などの判断基準として導入を検討している費用対効果評価について、質調整生存年(Quality Adjusted Life Years:以下、OALY)を効果指標の1つとして用いることを検討している。医療技術にはリハビリテーション(以下、リハ)が含まれるが、現段階ではリハにおける費用対効果の報告は数少ない。また、海外では効用値尺度について測定特性の検証が盛んに行われているが、本邦においては効用値尺度の測定特性については明らかにされておらず、効用値尺度を用いてOALYを算出する際にはその尺度の特性を踏まえた上での尺度の使用が重要であると考えられる。本研究ではリハをうけている患者に対して効用値尺度の中でも、先行研究で識別力の最も高かったHealth Utilities Index Mark 3(以下、HUI3)について項目反応理論(Item Response Theory:以下、IRT)分析を行い、日本語版HUI3の測定特性を検証した。

    対象者は全国6つの病院に入院している脳血管障害患者412名である。HUI3はGlobal score 0.05、視覚0.83、聴覚0.84、会話0.67、移動0.29、手指の使用0.55、感情0.65、認知0.49、疼痛0.76であり、移動、手指の使用、認知で低値を示した。IRT分析による識別力は、視覚0.99、聴覚1.36、会話2.37、移動2.89、手指の使用2.17、感情1.70、認知2.68、疼痛1.75であり、特に移動と認知で高値、視覚と聴覚で低値を示した。困難度については、視覚(-2.91~0.68)、聴覚(-1.94~-1.13)が低値を示し、移動(-0.40~1.45)については高値を示した。会話(-1.13~0.51)、疼痛(-2.03~0.98)に関してはやや低値、手指の使用(-1.06~1.28)、感情(-2.61~3.42)、認知(-0.89~1.21)についてはやや高値を示した。HUI3尺度全体の特性については、健康状態の広い範囲で識別カ・情報量が高く、特に健康状態がやや高い対象者で最も情報量が多かった。

    脳血管障害患者におけるHUI3による評価は、健康状態の広い範囲で有用であり、特に健康状態が高い対象者で最も有用であることが分かった。その中でも脳血管障害患者で障害の出やすい、移動、手指の使用、認知の項目では特に識別力が高く、情報量が多く、HUI3での測定が有用であることが示唆された。

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