医療経済研究
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17 巻
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巻頭言
論文
  • 舟橋 仁, 大久保 孝義, 菊谷 昌浩, 福永 英史, 小林 慎, 今井 潤
    2005 年17 巻 p. 5-20
    発行日: 2005/06/30
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    [目的]近年の医療費の高騰、財政難を背景に、限られた医療資源の有効活用が求められている。特に費やされる医療費中で大きな割合を占める高血圧性疾患について、費用対効果を考慮した治療の効率化は重要な課題である。家庭における自己測定血圧(家庭血庄:HBP)は医療環境下で測定される随時外来血圧(CBP)に比べ、予後予測に優れているとされており、HBPの導入により高血圧診療の適正化が図られ、医療費の削減につながることが期待される。本研究では、CBPに基づいた高血圧診断・治療がHBPに基づいた診断・治療に移行した場合の主治医の診療行動および患者の受診行動の変化を推定し、それに伴う医療費の変化を推計することを目的とした。

    [方法]HBPを導入した高血圧・循環器疾患に関するコホー卜研究である大迫研究のデータおよび厚生労働省発表の統計資料等を移行確立の根拠として用いたディシジョンツリーを作成し、高血圧診断へのHBP導入による医療機関における主治医の診療行動および患者の受診の行動変化が生む医療経済的効果を試算した。

    [成績]HBP導入に伴う診療行動・受診行動の変化が与える高血圧性疾患に関する医療費への影響を推計すると、年間1兆0136億円の費用削減が推定された。その大部分は、降圧治療を受けておらずCBP高血圧かつHBP正常血圧である者が、HBPの導入により新規受診が不必要であると判断されることで、本来費やされるはずであった医療費が回避されることに起因するものであった。また、HBP導入による的確な血圧コントロールはその後の合併症の発症にも影響を及ぼすことが推測される。HBP導入により新規治療開始または治療増強される患者の50%において、収縮期血圧が10mmHg降圧したと仮定すると、合併症予防効果に伴い年間30億円の医療費が削減できると推計された。さらに、的確な血圧コントロールによる脳卒中の予防は合併症の医療費だけでなく介護費の削減にもつながることが推察され、HBP導入により新規治療開始または治療増強される患者の50%において収縮期血圧が10mmHg降圧したと仮定すると、合併症予防効果に伴い年間42億円の介護費が削減できると推計された。これら高血圧関連医療費、合併症関連医療費および介護費の削減額を合計し、高血圧診断へのHBP導入により年間1兆0209億円の費用が削減されると推定された。

    [結論]高血圧診断・治療へのHBP導入は非常に高い医療費削減効果があることが示唆され、今後HBPの更なる普及が望まれる。

  • -最適な検診方法の設計-
    後藤 励, 小林 恭, 光森 健二
    2005 年17 巻 p. 21-41
    発行日: 2005/06/30
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    前立腺がん検診はその多くが簡便な血中PSA測定によって行われ、医学的に効果があることはほぼ実証されている。しかし、がん検診の多くが公共サービスとして行われている日本では、検診の有効性のみならず費用効果をも考慮して効率的な検診を行うことが求められている。

    近年ではすべての受診者に対し、必ずしも毎年PSAを測定する必要はなく、がんのリスクを反映するとされる初回検査の数値(ベースラインPSA)の値によって隔年受診者と毎年受診者を区別することが提唱されている。臨床研究ではどの検診間隔が良いのかについての研究もあるが未だに確定的な結果は得られておらず、また検診間隔のことなる検診方法についての費用効果分析は行われていない。

    本稿では、ベースラインPSAに応じた最適な検診間隔についてのマルコフモデルを用いた費用効果分析を行った。その結果、比較した五つの検診方法のうちもっとも費用効果の優れたものは、ベースラインPSA≤2.0なら隔年それ以上なら毎年という方法であった。これ以上隔年検診の対象を広げると費用も高く、効果も低い方法であり支配される(dominated)選択肢となり、隔年受診者の範囲を狭めると費用は高いものの効果も高くベースケースではベースラインPSA≤1.0なら隔年という方法ならICERは366,955円/QALY、全員毎年検診という方法のICERは2,186,845円/QALYであった。一方、ICERはコホートの開始年齢によっても異なり、60歳で最小となるが、それ以降はふたたび上昇する。

    感度分析の結果、ベースラインPSA≤2.0なら隔年それ以上なら毎年という方法がもっとも費用効果的であるという結果はおおむね変わらなかった。例外は、PSA測定費用が1,100円以下の時でベースラインPSA≤1.0なら隔年それ以上なら毎年という方法がもっとも費用効果的であった。変数の中で結果の変動に与える影響が大きいものは、がんの発見率、PSA4.0ng/ml以上の人の生検受診率、割引率、PSA測定の費用であり、特にPSA測定費用がもっとも大きく影響した。

    前立腺がん検診は多くの自治体で導入が考慮されている最中であり、また検診方法の決定に対する自治体の関与できる範囲も広がっている。より効率的な検診を行うために本稿のような費用効果分析の結果が使用されることは医療資源の効率的な配分のために大きく役立つと言えよう。

  • 岡本 悦司
    2005 年17 巻 p. 43-58
    発行日: 2005/06/30
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    複数傷病が記載されることの多いレセプトでは、複数傷病の中から主傷病を一つ選択して分類する主傷病分類法がこれまで行なわれてきた。しかしながら、傷病分類は患者の診療にタッチしていない保険者の分類者(多くは医学知識の乏しい事務職)によっており、医師による分類とは結果が異なるのではないか、という指摘があった。

    2002年4月の診療報酬改定により、レセプトに複数傷病が記載された場合の主傷病の選択が医療機関に義務づけられた。そこで、保険者が分類していた1995~2001年と医療機関が分類した2002年の全国レセプト調査(社会医療診療行為別調査)を比較し、レセプト傷病分類の標準である119分類において、分類者の変更が主傷病選択にどう影響したか傷病ごとに検証した。なお同時に薬剤の長期投与も認められ、全体として日数の減少がみられたが、傷病別にみると一件当たり処方回数と一件当日数の間に相関はほとんどみられなかったので考慮しなかった。

    医療費全体に占めるある傷病の割合は、その傷病の件数割合、一件当日数そして一日当点数の3要素の積であり、一件当日数と一日当点数は対数正規分布することから通常の加法モデルではなく乗法モデルをとった。そして1)保険者による1995~2001年7年間の分類結果の間の幾何標準偏差(分類者内GSD)と2)2002-3年の医療機関による分類と保険者による7年間分との間の幾何標準偏差(分類者間GSD)を比較した。分類者間GSDが分類者内GSDより相当大きければ、分類者の変更によって分類結果が変わったと考えられる。

    分類者内GSDは、95~2001年7年間分の幾何平均をとり、各年の傷病別3要素と幾何平均との間の幾何標準偏差。分類者間GSDは2002-3年の幾何平均と95~2001年間の幾何平均の間の幾何標準偏差である。

    その結果、全体として分類者間GSDは分類者内GSDの2.01乗の大きさで、分類者変更によって119傷病分類に分類されるレセプトが2002年以降は前の年より大きく変わった可能性が示唆された。医療機関による分類と保険者による分類で最も不一致が大きかったのは膵疾患や気分障害等で、逆にいずれの分類者でもほとんど違いがなかったのは腎不全や歯肉・歯周病であった。

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