前立腺がん検診はその多くが簡便な血中PSA測定によって行われ、医学的に効果があることはほぼ実証されている。しかし、がん検診の多くが公共サービスとして行われている日本では、検診の有効性のみならず費用効果をも考慮して効率的な検診を行うことが求められている。
近年ではすべての受診者に対し、必ずしも毎年PSAを測定する必要はなく、がんのリスクを反映するとされる初回検査の数値(ベースラインPSA)の値によって隔年受診者と毎年受診者を区別することが提唱されている。臨床研究ではどの検診間隔が良いのかについての研究もあるが未だに確定的な結果は得られておらず、また検診間隔のことなる検診方法についての費用効果分析は行われていない。
本稿では、ベースラインPSAに応じた最適な検診間隔についてのマルコフモデルを用いた費用効果分析を行った。その結果、比較した五つの検診方法のうちもっとも費用効果の優れたものは、ベースラインPSA≤2.0なら隔年それ以上なら毎年という方法であった。これ以上隔年検診の対象を広げると費用も高く、効果も低い方法であり支配される(dominated)選択肢となり、隔年受診者の範囲を狭めると費用は高いものの効果も高くベースケースではベースラインPSA≤1.0なら隔年という方法ならICERは366,955円/QALY、全員毎年検診という方法のICERは2,186,845円/QALYであった。一方、ICERはコホートの開始年齢によっても異なり、60歳で最小となるが、それ以降はふたたび上昇する。
感度分析の結果、ベースラインPSA≤2.0なら隔年それ以上なら毎年という方法がもっとも費用効果的であるという結果はおおむね変わらなかった。例外は、PSA測定費用が1,100円以下の時でベースラインPSA≤1.0なら隔年それ以上なら毎年という方法がもっとも費用効果的であった。変数の中で結果の変動に与える影響が大きいものは、がんの発見率、PSA4.0ng/ml以上の人の生検受診率、割引率、PSA測定の費用であり、特にPSA測定費用がもっとも大きく影響した。
前立腺がん検診は多くの自治体で導入が考慮されている最中であり、また検診方法の決定に対する自治体の関与できる範囲も広がっている。より効率的な検診を行うために本稿のような費用効果分析の結果が使用されることは医療資源の効率的な配分のために大きく役立つと言えよう。
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