「令和 2 年版救急救助の現況」によると、自動体外式除細動器(AED)によって救命された病院外心停止(OHCA) 患者の生存率は除細動が実施されなかった場合に比べて 4.5 倍高かった。一方で AED 除細動の実施率の低さは課題 であり、OHCA に対する一般市民による実施率は 5.1%であった。そんな中、無人航空機(ドローン)は医療機器等 の配送手段としても注目されてきており AED の運搬にも適用への期待が高まっている。そこで本研究の目的は、日 本の地域をモデルとして AED ドローンネットワークを構築した場合の費用対効果評価を分析することである。 茨城県内の消防署を基地局と想定し 2008 年から 2012 年におけるウツタインデータを用いて決定樹モデルによる 分析を行なった。基礎的な人口動態については国勢調査を利用し jSTAT MAP を使用してデータ分析を実施した。費 用はネットワーク構築初期費及び維持整備費、ドローン購入費及び整備費、モバイルデータ通信料及びパイロット人 件費とし、割引率は年 2.0%とした。
モデル分析によるベースケースでは気象条件及び人口カバー率も考慮し、AED ドローンが利用できる環境では 254.05QALYs が追加便益として得られた。追加費用合計は 1,632,527,863 円となり、ICER は 1QLAY あたり 6,425,928 円であった。感度分析として除細動実施における 1 ヶ月後生存の確率を 0.350、0.411、及び 0.550 と 設定し、AED ドローン除細動実施の確率を 0.20 から 0.90 の幅で移動させた結果、ICER はそれぞれ 18,432,545 円から 4,096,121 円、15,004,541 円から 3,334,342 円、及び 10,538,521 円から 2,341,893 円であった。
本モデルのベースケースは中央社会保険医療協議会が示す「価格調整を必要としない ICER」である 500 万円を超 え、費用対効果に優れているとは言えない結果となった。しかし AED ドローン運用の工夫等による除細動実施率の 向上、技術革新等による費用抑制や雨天飛行の実現、据置型 AED 台数削減効果、パイロット兼業化の可能性等を考 慮すると、AED ドローン導入について検討する価値は高いと示唆された。今後は AED ドローンの有効性及び安全性 が担保されるに従って法整備等の議論を加速させ、ネットワーク構築に向けた準備の進展が望まれる
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