我が国は今後2040 年に向けて要介護認定率が6 割弱である85 歳以上人口が急増し、1000 万人に達すると見込
まれている。従来からの延長線上での政策だけでは対応が困難であり、介護予防の早期の対応であるフレイル予防の
ポピュレーションアプローチを展開することが不可欠である。
本稿は、フレイル予防のポピュレーションアプローチに関する最新の動きであるフレイル予防推進会議の活動に重
点を置きつつ、現時点でのフレイル予防のポピュレーションアプローチの展開の状況について、その背景や経過を含
め体系的に述べようとするものである。
フレイルという概念は、2014 年5 月の日本老年医学会のステートメントで定義された。フレイルとは、健常な状
態と要介護状態の中間の状態であり、身体的、精神・心理的、社会的など多面的な要因によって進行するという「多
面性」とフレイルまでの段階であれば要介護状態よりもはるかに戻れる可能性が高いという「可逆性」にあるとされ
ている。
このステートメントを踏まえ、2022 年12 月にフレイル予防啓発に関する有識者委員会(委員長:葛谷雅文名古
屋大学名誉教授)が「フレイル予防のポピュレーションアプローチに関する提言」を取りまとめ、フレイル予防のポ
ピュレーションアプローチに関し、最新の学術的な知見に基づき、地域住民の行動指針として「フレイル予防の三本
柱」を改めて明確化するとともに、フレイルの特性の配慮したフレイル予防のポピュレーションアプローチのあり方
を体系的に明らかにし、その推進のためのフレイル予防推進会議の設置が提言された。
2024 年7 月には神奈川県をはじめとする4県及び35 市区町村並びにイオン(株)をはじめとする10 の企業から
なるフレイル予防推進会議(会長:黒岩祐治神奈川県知事。事務局:医療経済研究・社会保険福祉協会)が正式に発
足し、同年11 月にフレイル予防宣言を決定し、全国に発信するとともに、同推進会議の組織体制を整備し、同推進
会議の構成員が自らフレイル予防のポピュレーションアプローチの最新の動きを開始し、この動きが全国に横展開し
ていくことを目指している。
以上の動きの要点は、①フレイルは一義的には病気ではなく、誰にもやってくる老化の過程であり、その特性や幅
広い学術的な知見に留意し、②当面は、地域住民が主体となってそれぞれのフレイルの状態につき測定し、フレイル
予防を自分事化し、それぞれの日常生活の工夫によりそれを遅らせることに目覚め、地域の助け合いの下でフレイル
予防のまちづくりに展開していくという住民の自助・互助の精神を尊重する理念に立脚した取り組みを国の政策と整
合性を保ちつつ推進し、③フレイルの測定で得られる全国各地のデータを体系的に整備し分析しつつ、一次予防の手
法とゼロ次予防の手法を組み合わせた総合的かつ効果的なフレイル予防のポピュレーションアプローチを展開しようとしている
ことである。
2040 年という大きな正念場に向けて、産官学民が一体となって果敢に実践することが今問われている。
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