医療経済研究
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巻頭言
特別寄稿
  • 辻 哲夫
    2025 年37 巻1 号 論文ID: 2025.03
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/17
    [早期公開] 公開日: 2025/09/29
    ジャーナル フリー
     我が国は今後2040 年に向けて要介護認定率が6 割弱である85 歳以上人口が急増し、1000 万人に達すると見込 まれている。従来からの延長線上での政策だけでは対応が困難であり、介護予防の早期の対応であるフレイル予防の ポピュレーションアプローチを展開することが不可欠である。
     本稿は、フレイル予防のポピュレーションアプローチに関する最新の動きであるフレイル予防推進会議の活動に重 点を置きつつ、現時点でのフレイル予防のポピュレーションアプローチの展開の状況について、その背景や経過を含 め体系的に述べようとするものである。
     フレイルという概念は、2014 年5 月の日本老年医学会のステートメントで定義された。フレイルとは、健常な状 態と要介護状態の中間の状態であり、身体的、精神・心理的、社会的など多面的な要因によって進行するという「多 面性」とフレイルまでの段階であれば要介護状態よりもはるかに戻れる可能性が高いという「可逆性」にあるとされ ている。
     このステートメントを踏まえ、2022 年12 月にフレイル予防啓発に関する有識者委員会(委員長:葛谷雅文名古 屋大学名誉教授)が「フレイル予防のポピュレーションアプローチに関する提言」を取りまとめ、フレイル予防のポ ピュレーションアプローチに関し、最新の学術的な知見に基づき、地域住民の行動指針として「フレイル予防の三本 柱」を改めて明確化するとともに、フレイルの特性の配慮したフレイル予防のポピュレーションアプローチのあり方 を体系的に明らかにし、その推進のためのフレイル予防推進会議の設置が提言された。
     2024 年7 月には神奈川県をはじめとする4県及び35 市区町村並びにイオン(株)をはじめとする10 の企業から なるフレイル予防推進会議(会長:黒岩祐治神奈川県知事。事務局:医療経済研究・社会保険福祉協会)が正式に発 足し、同年11 月にフレイル予防宣言を決定し、全国に発信するとともに、同推進会議の組織体制を整備し、同推進 会議の構成員が自らフレイル予防のポピュレーションアプローチの最新の動きを開始し、この動きが全国に横展開し ていくことを目指している。
     以上の動きの要点は、①フレイルは一義的には病気ではなく、誰にもやってくる老化の過程であり、その特性や幅 広い学術的な知見に留意し、②当面は、地域住民が主体となってそれぞれのフレイルの状態につき測定し、フレイル 予防を自分事化し、それぞれの日常生活の工夫によりそれを遅らせることに目覚め、地域の助け合いの下でフレイル 予防のまちづくりに展開していくという住民の自助・互助の精神を尊重する理念に立脚した取り組みを国の政策と整 合性を保ちつつ推進し、③フレイルの測定で得られる全国各地のデータを体系的に整備し分析しつつ、一次予防の手 法とゼロ次予防の手法を組み合わせた総合的かつ効果的なフレイル予防のポピュレーションアプローチを展開しようとしている ことである。
     2040 年という大きな正念場に向けて、産官学民が一体となって果敢に実践することが今問われている。
  • 佐々木 周作
    2025 年37 巻1 号 論文ID: 2025.04
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/17
    ジャーナル フリー
  • 安藤 道人, 河田 純一
    2025 年37 巻1 号 論文ID: 2025.05
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/17
    ジャーナル フリー
    本稿では、2024 年12 月に提示された高額療養費制度の自己負担限度額の引き上げ案が、患者団体の反対運動や 野党からの批判を経て2025 年3 月に見送りとなった過程を分析する。具体的には、高額療養費の創設から2024 年 の引き上げ案の決定までの歴史的な経緯を整理した上で、2024 年末から2025 年3 月にかけての引き上げ案の政策 修正過程を検討する。とくに、患者団体が要望書・アンケート・署名活動・ロビー活動・専門家との連携などを通じ て引き上げ案の政策論点化と世論形成に成功し、最終的に見送りが実現した経緯を検証する。また、この引き上げ案 の見送りが、2000 年代以降の障害福祉や難病対策の自己負担増の政策修正過程と共通点があることを指摘する。
  • 2022-2024 年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) ヘルスケア社会実装基盤整備事業委託研究「SDGs を意識した 予 ...
    2025 年37 巻1 号 論文ID: 2025.06
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/17
    ジャーナル フリー
研究論文
  • 小牧 靖典, 斉藤 雅茂, 渡邉 良太, 辻 大士, 藤田 欽也, 平井 寛, 近藤 克則
    2025 年37 巻1 号 論文ID: 2025.01
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/17
    [早期公開] 公開日: 2025/05/20
    ジャーナル フリー
    背景
      これまでに、要介護度が高くなるにつれて医療費は減少するが、介護費は増大するとの報告がされている。医療費 と介護費は代替性があるとの報告もあり、両者を合計した費用(医療・介護費)として実態を捉えることが重要であ る。そこで、本研究では、要介護認定発生が予測可能で、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)事業等の介護費 削減額の試算に用いられている要支援・要介護リスク評価尺度を用いて、要介護リスク評価尺度の点数(リスク点 数)とその後3 年間の累積医療・介護費との関連を解析した。
    対象と方法
      2016 年10 月に日本老年学的評価研究(JAGES)が愛知県武豊町で実施した要介護認定を受けていない65 歳以 上の高齢者を対象とした悉皆調査を用いた。自治体が保有するKDB システムおよび介護保険給付実績情報に基づい て、2017 年4 月1 日から2020 年3 月31 日までの3年間の医療保険サービスおよび介護保険サービスの利用状況 を把握した。そのうち、リスク点数が算出不可であった人を除いた計5,213 人(男性2,450 人、女性2,763 人)を 分析対象とした。被説明変数は、3 年間の累積医療費、累積介護費、累積医療・介護費を用いた。説明変数は、10 項目の質問と性・年齢を基に0 ~ 48 点で評価され、点数が高いほどリスクが高いという特徴をもつ要支援・要介護 リスク評価尺度の点数を用いた。調整変数は、教育歴、所得の代理変数として介護保険料賦課段階、婚姻状況、世帯 構成、治療中の疾患の有無、認知症の有無を用いた。推定は最小二乗法(OLS)を用いて行った。
    結果
      線形モデルによる解析では、リスク点数が1 点高いほど、累積介護費は0.96 万円高いという先行研究の再現に加 え、新たにリスク点数が1 点高いほど、累積医療費は4.73 万円、累積医療・介護費は5.69 万円高いことが明らかとなった。非線形モデル(2 次式)による解析では、リスクスコアが44.0 点および8.6 点を境に、それぞれ累積医 療費は上に凸、累積介護費が下に凸の二次曲線的な関連が認められた。一方、リスク点数と累積医療・介護費の関連 は、非線形でなく線形がより適切であった。
    結論
     リスク点数が1点高いほど、その後の1 人あたりの3年間の累積医療・介護費は約5.7 万円高かった。今後、リス ク点数は、介護費に加え、SIB 事業等における医療・介護費の財政効果の評価指標の一つとして活用されることが期 待される。
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