近年、医療経済学の分析手法の中でも、費用効用分析を用いた研究報告が増えている。費用効用分析ではQuality-Adjusted Life Years(QALYs)を用いるが、この算出に必要なのが健康効用値である。健康効用値の評価には直接法と間接法があり、最近は標準化された質問票を用いた間接法による多属性健康効用値評価が増えている。しかしながら、本邦においてはそのデータ蓄積が十分でなく、評価用具の妥当性の検討も課題として残されている。
本研究では回復期リハビリテーション実施患者を対象に健康効用値の変化を調べ、その有用性や妥当性を検討した。健康効用値の評価には日本語版Health Utilities Index Mark3(HUI3)を用い、その測定用具としての妥当性もあわせて検討した。対象患者は全国の5つ病院の回復期リハビリテーション病棟に入院する脳血管障害や大腿骨頸部骨折などの患者521例である。全体では健康効用値は入院時に0.10であったものが、退院時には0.33に改善し、その増分は0.22となった。診断の違いによる増分の差は認められなかった。また、HUI3のsingle scoreの比較では、移動領域、認知領域が低くなり、それぞれ入院時に0.31、0.61、退院時には0.57、0.69であった。診断を問わず入院期間に改善を示した領域は移動領域と感情領域のみであった。single score間の相関では、感情と痛み(r=0.510)、移動と認知(r=0.508)、会話と認知(r=0.470)などで相関を認めた一方で、視覚と器用さ(r=0.020)、聴覚と器用さ(r=0.041)、視覚と痛み(r=0.065)で相関を認めなかった。また、ADLの指標であるBarthel Indexとの相関は、r=0.724~0.768(p<0.001)となった。
HUI3によって評価された健康効用値は転帰の群ごとによる比較でもBIと同様の特徴が認められ、健康効用値がリハビリテーションのアウトカム指標として一定の有用性があることが確認できた。また、日本語版HUI3については、構成概念妥当性などが確認され、今後の医療経済学的な分析に用いることが可能であると示唆された。
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