医療経済研究
Online ISSN : 2759-4017
Print ISSN : 1340-895X
20 巻, 2 号
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巻頭言
特別寄稿
  • 中村 安秀
    2009 年 20 巻 2 号 p. 63-72
    発行日: 2009年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    1990年代に開催された国際会議での重要な争点、すなわち、環境、人権、リプロダクティブ・ヘルス・ライツ、HIV/AIDS、開発と貧困、ジェンダーなどは、いずれも地球規模での健康問題と深く関連していた。多くの国際会議やサミットで提唱された開発目標を統合し、一つの共通の枠組みとしてまとめたものがミレニアム開発目標である。2008年7月、日本政府はG8サミットの主催国として、「人間の安全保障」の視点から一人ひとりの健康に着目するとともに、感染症対策と母子保健サービスを包括し、個人や地域社会の能力強化を目ざした保健システム強化という基本政策を打ち出した。
    多くの途上国において、第二次世界大戦後の短期間に急激な健康水準の改善を成し遂げた日本に対する期待は大きい。文化、宗教、経済状況、交通手段、教育レベルなど、途上国の保健医療を取り巻く環境は日本とは大きく異なる。しかし、母子健康手帳のように日本の先輩たちの工夫や努力は、途上国の保健医療関係者にとって大きなヒントとなるに違いない。

論文
  • 能登 真一, 上村 隆元
    2009 年 20 巻 2 号 p. 73-84
    発行日: 2009年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    近年、医療経済学の分析手法の中でも、費用効用分析を用いた研究報告が増えている。費用効用分析ではQuality-Adjusted Life Years(QALYs)を用いるが、この算出に必要なのが健康効用値である。健康効用値の評価には直接法と間接法があり、最近は標準化された質問票を用いた間接法による多属性健康効用値評価が増えている。しかしながら、本邦においてはそのデータ蓄積が十分でなく、評価用具の妥当性の検討も課題として残されている。
    本研究では回復期リハビリテーション実施患者を対象に健康効用値の変化を調べ、その有用性や妥当性を検討した。健康効用値の評価には日本語版Health Utilities Index Mark3(HUI3)を用い、その測定用具としての妥当性もあわせて検討した。対象患者は全国の5つ病院の回復期リハビリテーション病棟に入院する脳血管障害や大腿骨頸部骨折などの患者521例である。全体では健康効用値は入院時に0.10であったものが、退院時には0.33に改善し、その増分は0.22となった。診断の違いによる増分の差は認められなかった。また、HUI3のsingle scoreの比較では、移動領域、認知領域が低くなり、それぞれ入院時に0.31、0.61、退院時には0.57、0.69であった。診断を問わず入院期間に改善を示した領域は移動領域と感情領域のみであった。single score間の相関では、感情と痛み(r=0.510)、移動と認知(r=0.508)、会話と認知(r=0.470)などで相関を認めた一方で、視覚と器用さ(r=0.020)、聴覚と器用さ(r=0.041)、視覚と痛み(r=0.065)で相関を認めなかった。また、ADLの指標であるBarthel Indexとの相関は、r=0.724~0.768(p<0.001)となった。
    HUI3によって評価された健康効用値は転帰の群ごとによる比較でもBIと同様の特徴が認められ、健康効用値がリハビリテーションのアウトカム指標として一定の有用性があることが確認できた。また、日本語版HUI3については、構成概念妥当性などが確認され、今後の医療経済学的な分析に用いることが可能であると示唆された。

  • ―老人保健制度の効果に注目して―
    菅 万理
    2009 年 20 巻 2 号 p. 85-108
    発行日: 2009年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は、グロスマンの健康資本の概念を用いて、日本の高齢者について所得、教育年数、職業階層などの社会経済的属性が医療需要や健康需要に影響を及ぼしているか、という仮説の実証分析を行った。外来医療需要関数の推定結果から、男女ともに、所得による医療需要の制限は観察されなかった。また、最長職による医療需要の抑制は観察されず、これより推測する限り、若年時の保険の種別による医療需要の抑制は生じていなかったといえる。教育と医療需要の関係については、男性では教育年数が長いほどより外来医療を需要していたが、女性には教育の効果は見られなかった。一方、男女とも最長職が農林漁業であった者が老健移行後により医療需要を高めており、これは自己負担額が安くなったことによる効果、つまり価格効果が他のグループより大きかったことによるものであるといえる。社会経済的属性と健康の関係について、男性では先行研究と整合性の高い結果が得られた。前期の健康状態をコントロールしても、所得が高いほど主観的健康が悪いと答える確率が低く、所得が中央値以下の低所得層では健康状態が悪いと答える確率が高かった。職業階層による健康水準の相違では、マニュアル職、自営業で主観的健康状態が悪かった。職業階層が、健康の減耗率の要素であると同時に、医療保険の代理変数となっていることを考慮すると断定はできないが、この結果は、マニュアル職、自営業に従事する者で健康資本の減耗率が高く、健康投資の費用が高くなることに一因が求められよう。なお、教育年数による健康への直接的効果は、男女とも観察されなかった。

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