1.サクラダイは駿河湾内浦沿岸では潮下帯の岩礁性の海底付近に群生し, 群の生息範囲の上限は水深約15mであるが少数個体は水深7m以深で発見される.
2.毎月1回1年間採集された標本364尾の内訳は多数の小型の雌 (64.4~124.0mmFL) 73.9%, 少数の大型の雄 (117.5~146.0mmFL) 21.7%, およびごく少数の性転換中の中間型 (111.1~127.0 mmFL) 4.4%であって, 性転換による中間型の発現を除き群中の性比に季節的変動は認められない.
3.群中の雌の行動範囲は広く海底を離れて拡散し, 雄の行動範囲は狭く海底付近に停滞する傾向が著しい.
4.産卵期は8~11月, 9月が最盛期である.産卵期には群は浅所に向って拡がり群の上限水深に達するが, 産卵期の終了とともに再びやや深みに戻る.
5.本種の性転換期は主として産卵後の12~4月で生殖巣の休止期に当ることがわかった.性転換中の個体は常に極めて少数である.
6.9~10月に採集された群中の最小型個体 (74.1~78.4mmFL) は雌としての生物学的最小形に達していた.周年を通じて群中には65mmFLを大きく下まわる幼魚は存在せず, 群は成魚群と判断された.
7.鱗と成長量とから0~1才と判定された幼魚 (19.5~54.8mmFL) は成魚群の周辺またはやや深みの海底にむらがる, 幼魚は翌年の夏成魚群に加入し, 雌としての生物学的最小形に達するのは1~2才と判定された.
8.本種は周年にわたって動物性プランクトンを摂餌する.摂餌量には個体差が著しく, 一方季節的変動, 雌雄差, 体重との相関, 産卵期の影響等はいずれも認めがたい.
9.卵は直径0.78~0.80mm, 特殊な構造のない分離浮性卵である.ふ化直後の仔魚は全長1.46~1.52mm, 既知のハタ亜科, スズキ亜科のふ化仔魚とは頭部前方へ突出する大きな卵黄とその先端に1個の油球を有すること, および容器内では頭部を上にして懸垂浮游する点で相違する.ハナダイ類の前期仔魚は本種によってはじめて知られた.
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