長崎大学水産学部練習船鶴洋丸は, 1976年の南西太平洋における遠洋航海の途次, 寄港予定地への入港時間調整のために, 10月17日, サンゴ海北部海域 (9゜23’S, 157゜30’E) で午後4時から6時までの間漂泊した.この間に, 1尾のヨゴレ
Carcharhinus longimanus (雌, 全長1, 530mm) が海面近くまで浮上してきて, 鶴洋丸の近くで泳ぎ廻った.そこで, 乗組員が生サバを餌につけて手づりでこのサメを釣り上げた、釣り上げられたヨゴレから, その体への吸着部位は明らかにできなかったが, 大, 小2尾のコバンザメ科の魚が得られた、当時, 鶴洋丸に乗船していた筆者らのひとり道津が採集直後にそれらの魚体について調べたところ, そのうちの大型個体 (雌, 全長219mm, 標準体長170mm) の吸板はその後部を横切る1個の表皮性の隔壁によって細歯薄板の列が前後2つの部分に分かれており, 吸板は複葉形をしていた (Fig.1A).それまでの知見では, コバンザメ科の魚の特徴的な器官であり, また, 第1背びれの相同器官であるとされ, 重要な分類形質の一つとなっている吸板は, いずれの種類においても隔壁のない単葉形のものであるとされていたので (松原, 1955), 上記の個体は, あるいは未記載の属, 種の魚ではないかと考えられた.しかし, その後, 筆者らが当個体のフォルマリン固定, 保存標本について検討した結果, その体各部の諸形質からみて, それは, 新しい種類ではなく, 異状に発達した吸板を持つナガコバン
Remom rmora (Linnaeus) であることがわかった.なお, 同時に採集した他の1尾 (標準体長106mm;Fig.1B) も同じ種類であった.
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