【目的】岩手地鶏(天然記念物)は,飼養羽数の減少によって近親交配が進み,近交退化による絶滅の危機にある。 近年,ニワトリの精子や卵子の前駆細胞である始原生殖細胞(PGC)を他品種の鳥類初期胚に移植し,生殖系キメラを作出して遺伝資源を保存する試みが行われている。一方,我々はマウスPGCをマウスあるいはラット血清で培養すると,PGCが生殖隆起(GR)から飛び出して増殖することを報告している。 そこで本研究では,岩手地鶏のGR由来PGC(gPGC)をニワトリ血清で培養し,gPGCの形態変化を観察することを目的とした。 【方法】 孵卵5.5~6日目の種卵から胚を取り出し,GRを分離した。4wellプレートに1羽づつのGRを入れ,無血清DMEM,FCS,CSおよびニワトリヒナ血清を10%添加したDMEMで1,3,5,7,14日間それぞれ培養した。各々の時間で培養組織をSEMで観察するとともに,PASおよび抗SSEA-1モノクロナール抗体による染色を行った。また,凍結・融解によるgPGCへの影響も検討した。 【結果】 ニワトリヒナ血清で培養したgPGCは,無血清DMEM,FCSおよびCSに比較し顕著にGRからの飛び出しが多く,マウスPGCをげっ歯類血清で培養した時と同じ現象が観察された。培養1日目のgPGCは微絨毛を持っていなかったが,培養が進むにつれて細胞表面の微絨毛は増え,糸状仮足のようなものも見られるようになり,接着力は強くなっていることが SEMにより観察された。また,培養7日目以降では 膜の様な構造物で覆われた コロニー様細胞集団も観察された。14日までの培養gPGCは,PASおよび抗SSEA-1モノクロナール抗体に反応した。したがって,培養によりgPGCの性質は変化しないことが示唆された。さらに,凍結したgPGCは,融解してもその形態に変化が見られなかった。融解後3日間培養したgPGCは生存しており,PASと抗SSEA-1モノクロナール抗体に反応し,凍結保存が可能であることが示唆された。
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