昭和学士会雑誌
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76 巻, 3 号
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最終講義
原著
  • 大宮 信哉, 熊澤 武志, 李 暁鵬, 庄司 幸子, 佐藤 淳一, 澤口 聡子, 吉村 吾志夫, 佐藤 啓造
    2016 年 76 巻 3 号 p. 285-298
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/21
    ジャーナル フリー
    アミノグリコシド系抗菌薬は腎毒性および神経毒性を有しており,その血中濃度を把握することは治療上重要である.本研究では,ヒト血漿中のアミノグリコシド系抗菌薬6種類について,親水性相互作用液体クロマトグラフィー (HILIC) -タンデム質量分析 (MS-MS) を用いた簡便かつ迅速な分析法を開発し,その有用性の検証を行った.血漿は50µlを分取し,超純水:0.1%ギ酸-アセトニトリル (1:3) の溶液430µlを加え,遠心分離後,上清10µlをInertsil AmideメタルフリーPEEKカラム (長さ50mm,内径2.1mm,粒子径3µm) を装着したHILIC-MS-MS装置に直接注入した.移動相は0.1%ギ酸水溶液と0.1%ギ酸-アセトニトリル溶液を用い,流量0.6ml/分でリニアグラジエント法による溶出を行った.アミノグリコシド系抗菌薬のシングルMS分析では,6種類すべての薬物において[M+H]のプロトン化分子がベースピークとなったが,MS-MS分析ではグリコシド結合の開裂による複数のプロダクトイオンが生成された.選択反応モニタリング (SRM) 測定では,プリカーサーイオンとベースピークを示したプロダクトイオンとの組み合わせによって,ストレプトマイシンm/z 582>263,リボスタマイシンm/z 455>163,カナマイシンm/z 485>163,アミカシンm/z 586>264,ジベカシンm/z 452>324,アルベカシンm/z 553>264をそれぞれ設定した.SRMクロマトグラムでは6種類の薬物が1.4分以内に検出され,薬物非添加血漿では対象薬物が検出される溶出時間に重複するピークは見られなかった.マトリックス効果は9.8~72%でイオン化の抑制がみられたほか,回収率は23~77%,抽出効率は72~105%であった.また,定量限界は3.9~16µg/ml,検出限界は0.12~0.98µg/ml,日内変動および日間変動の精度は1.0~19%,真度は80~114%であった.さらに,今回開発したHILIC-MS-MS法をストレプトマイシンまたはカナマイシンの筋肉注射による投与を受けた男性患者1名から注射後,4時間に採血した血漿に応用したところ,前者は16µg/ml,後者は14µg/mlと定量できた.本法は,アミノグリコシド系抗菌薬の簡便かつ迅速な分析法として,臨床領域でのドラッグモニタリングや法医学領域における中毒原因物質の同定・定量に有用であることが示唆された.
  • 小渕 律子, 李 暁鵬, 石田 博雄, 熊澤 武志, 池田 賢一郎, 藤城 雅也, 藤田 健一, 佐藤 淳一, 澤口 聡子, 高橋 春男, ...
    2016 年 76 巻 3 号 p. 299-307
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/21
    ジャーナル フリー
    経口抗癌薬TS-1®は,テガフール (5-fluoro-1-[(2RS)-tetrahydrofuran-2-yl] uracil, FT),ギメラシル (5-chloro-2,4-dihydroxypyridine, CDHP) およびオテラシルカリウム (monopotassium1,2,3,4-tetrahydro-2,4-dioxo-1,3,5-triazine-6-carboxylate,Oxo) の合剤である.TS-1®は,主成分であるFTが5-fluorouracil (5-FU) のプロドラッグで,肝臓で活性代謝体である5-FUに代謝されて抗腫瘍効果を示し,がん治療における化学療法の一つとして,幅広く使用されている.TS-1®の主な副作用には,骨髄抑制,口内炎,消化管障害,肝機能障害,色素沈着,発疹がある.近年,TS-1®療法における角膜炎,涙道閉塞などの眼合併症が報告されている.TS-1®療法により,涙液中のFTや5-FUが高濃度となり,眼合併症の発症に関与していると指摘されている.涙液中のFTおよび5-FUの定量は眼毒性の成因を知るためや適切な治療法の選択のために不可欠である.今まで,TS-1®投与後FTおよび5-FUについて,血漿中からの分析報告はあるものの,涙液の分析は坂本らの濾紙法での報告があるだけである.本研究では,ヒト涙液中FTおよび5-FUについて,簡便な液–液抽出法および高感度親水性相互作用液体クロマトグラフィー (Hydrophilic interaction liquid chromatography, HILIC) 法とタンデム質量分析 (MS/MS) 法を組み合わせて新しいHILIC-MS/MS分析システムの開発を試みた.本法は,10µlという微量涙液を簡単な前処理を行った後,抽出液を直接HILIC-MS/MS装置に注入する簡便かつ高感度ハイスループットな分析法であった.本法は,定量性・再現性に優れ,また,TS-1®投与患者の涙液中FTおよび5-FUの分析にも応用が可能であった.
  • 秋保 光利, 泉﨑 雅彦
    2016 年 76 巻 3 号 p. 308-315
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/21
    ジャーナル フリー
    開胸術後には,しばしば呼吸困難感,胸部疼痛,不安が生じ,Quality of lifeを低下させる要因となる.不安は呼吸困難感を始めとして,胸内苦悶感,心悸亢進,冷汗,振戦,めまいなどの自覚症状,他覚症状を伴う.一方で,呼吸困難感や痛みは不安の原因ともなる.本研究では2010年10月より2012年4月までに開胸法による肺切除ならびに縦隔腫瘍の手術を施行された43例を対象に,開胸術後退院時の不安の強さは,その時の呼吸困難感の強さ,胸部疼痛の強さ,運動耐容能との間に関連性があるかを検討した.不安は質問用紙であるState-Trait Anxiety Inventoryで測定し,状態不安と特性不安に分けてスコア化した.安静時における呼吸困難感と胸部疼痛の強さは100mmのVisual analogue scale,運動耐容能は6分間歩行距離でそれぞれ評価した.不安の強さと各データとの関連性をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した.状態不安と呼吸困難感 (相関係数0.32,p<0.05),特性不安と呼吸困難感 (相関係数0.37,p<0.05),状態不安と胸部疼痛 (相関係数0.32,p<0.05) のそれぞれに有意な正の相関を認めた.しかし,不安と運動耐容能には有意な相関を認めなかった.状態不安の影響を除外した呼吸困難感と胸部疼痛の偏順位相関分析では,呼吸困難感の強さと胸部疼痛の強さに有意な偏相関を認めた (偏順位相関係数0.56,p<0.01).これらの結果から,開胸術後の患者において,退院直前の不安の強さは,呼吸困難感および胸部疼痛の強さと関連性があることが示唆された.また呼吸困難感の強さと胸部疼痛の強さの間にも関連性があることが示唆された.
  • 加藤 チイ, 中館 俊夫, 相良 博典
    2016 年 76 巻 3 号 p. 316-325
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/21
    ジャーナル フリー
    気管支喘息 (以下,喘息) は比較的有病率の高い慢性呼吸器疾患であり,その作業関連性を定量的に推定するために,医療機関の外来患者を対象として症例対照研究を行った.質問票を用いた職業歴調査から,喘息罹病を高めると考えられる作業関連要因として,粉じんやヒューム曝露,有害なガスや蒸気曝露,および車輌排気ガス曝露を示す作業歴の有無を判定し,作業関連要因保有に関するオッズ比と症例群における当該要因保有率を算出した.性および喫煙歴の交絡を調整した後のオッズ比の値は4前後の有意な高値を示し,人口寄与危険割合は10%を上回る値と推定された.これらの推定値の大きさは,喘息の特徴や年齢,居住地等の背景因子により種々細分しても一貫しており,また,欧米の先行研究の結果ともおおむね合致するものであった.喘息は慢性の呼吸器疾患の中では有病率が高く,今後さらに増えると予想される疾患であり,その罹病頻度の約1割強が作業関連要因に関連していると推定されることは,その予防と管理の対策を図る上で,職業上の曝露管理が重要であることを示すものと考えられる.
  • ―感染症突然死剖検例と心臓突然死剖検例との比較をもとに―
    米山 裕子, 佐藤 啓造, 九島 巳樹, 栗原 竜也, 藤城 雅也, 水野 駿, 金 成彌, 佐藤 淳一, 根本 紀子, 李 暁鵬, 福地 ...
    2016 年 76 巻 3 号 p. 326-339
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/21
    ジャーナル フリー
    突然死の原因疾患は心疾患や脳血管疾患の頻度が高く,感染症による急死は比較的少ないこともあり,内因性急死としての感染症について剖検例をもとに詳細に検討した報告は少ない.特に,心疾患による突然死と比較・検討した報告は見当たらない.本研究では当教室で経験した感染症突然死15例と心臓突然死45例について事歴や解剖所見を比較・検討した.感染症の死因は肺炎9例,肺結核4例,胆嚢炎1例,膀胱炎1例であり,性別は男8例,女7例であった.心臓突然死では虚血性心疾患23例,アルコール性心筋症11例,その他の心疾患11例であった.感染症突然死と心臓突然死について単変量解析を行うと,有意な因子として,性別 (男性:女性,感染症8:7,心臓38:7),るい痩 (感染症9/15,心臓13/45),眼結膜蒼白 (感染症12/15,心臓9/45),心肥大 (感染症3/15,心臓34/45),心拡張 (感染症1/15,心臓23/45),豚脂様凝血 (感染症14/15,心臓10/45),暗赤色流動性心臓血 (感染症11/15,心臓44/45),心筋内線維化巣 (感染症4/15,心臓37/45),肺門リンパ節腫脹 (感染症13/15,心臓10/45),諸臓器うっ血 (感染症6/15,心臓36/45),胆嚢膨隆 (感染症11/15,心臓15/45),胃内空虚 (感染症11/15,心臓16/45),感染脾 (感染症8/15,心臓1/45)が抽出された.有意差がなかった項目は,肥満,死斑の程度,諸臓器溢血点,卵円孔開存,肺水腫,脂肪肝,副腎菲薄,動脈硬化,胃粘膜出血,腎硬化であった.多変量解析では,眼結膜蒼白,豚脂様凝血,心筋内線維化巣,心肥大の4因子が感染症突然死と心臓突然死とを区別する有意因子として抽出された.眼結膜蒼白,豚脂様凝血の2項目が感染症突然死に,心筋内線維化巣,心肥大の2項目が心臓突然死に特徴的な所見であると考えられた.死に至る際,血液循環が悪くなると眼結膜にうっ血が生じるが,心臓突然死の場合はうっ血状態がそのまま観察できるのに対し,感染症による突然死では慢性感染症の持続による消耗性貧血を伴う場合があり,うっ血しても貧血様に見える可能性がある.豚脂様凝血は消耗性疾患や死戦期の長い死亡の際に見られることが多い血液の凝固である.死後には血管内で徐々に血液凝固が進行し,暗赤色の軟凝血様となり,血球成分と血漿成分に分離し,その上層部には豚脂様凝血が見られる.剖検時に眼結膜蒼白,豚脂様凝血の所見があれば感染症による突然死を疑い,感染症の病巣の検索とその病巣の所見を詳細に報告すべきと考えられた.感染症突然死では,るい痩が高頻度に見られたので,感染症突然死防止のためには日頃からの十分な栄養摂取が必要と考えられた.また,感染症突然死と心臓突然死両方で副腎菲薄が見られたので,突然死防止のためには3次元コンピュータ連動断層撮影(computed tomography:CT)による副腎の容積測定を健診で行い,副腎が菲薄な人では感染症の早期治療が肝要であることが示唆された.
  • ―繰り返し荷重負荷による力学的強度評価―
    筒井 完明
    2016 年 76 巻 3 号 p. 340-345
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/21
    ジャーナル フリー
    橈骨遠位端骨折に対して,掌側ロッキングプレート(以下,プレート)の遠位1列目と2列目の穴へロッキングスクリューを交差させて挿入する固定様式はdouble-tiered subchondral support(以下,DSS)法と呼ばれ,広く用いられている.今回,fresh cadaverの橈骨遠位端骨折モデルに1,000回の繰り返し荷重負荷試験を行い,DSS法の有用性を検討した.12手のfresh cadaverから橈骨遠位端骨折モデルを作成し,実験を行った.橈骨は,関節面から20mm近位で10mm 切除し,プレートの遠位1列目の4穴のうち,2穴目と3穴目の間にも関節面中央から縦軸方向へ骨切りを行い,関節内骨折モデル(AO分類Type 23-C2)を作成した.プレートはpoly axial locking plateのAPTUS2.5を用いた.標本の近位部はレジンで固定し,手関節面はシリコン材を設置して,関節面全体に荷重負荷ができるように採型した.荷重負荷は,油圧サーボ式荷重試験機で約250Nの力を最大1,000回繰り返し行った.12手とも,プレートの遠位1列目の穴から4本のロッキングスクリューを軟骨下骨に向けて挿入した.そして,これらを,遠位1列目の穴からのみで固定したnon-DSS群(以下,ND群)と,遠位2列目の穴からも背側の軟骨下骨に向けて2本のロッキングスクリューを追加したDSS群(以下,D群)の2群に分けた.これら2群を試験機に取り付け,繰り返し荷重試験を行った.両群とも,繰り返し荷重試験で,プレート,ロッキングスクリューの折損,緩みなどは認めなかった.また,力学的評価では,ND群と比較してD群の剛性がより大きく,変位はより少ないという結果を得た.fresh cadaverの橈骨遠位端骨折モデルを用いたAPTUS2.5によるロッキングプレート固定法において,DSS法は有用であると考えられた.
  • 柳澤 志満子, 川手 信行, 水間 正澄
    2016 年 76 巻 3 号 p. 346-350
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/21
    ジャーナル フリー
    ボツリヌス療法(BoNT-A)は痙縮治療として用いられるが,施注後の歩行改善に関する足圧接地足跡解析などを用いた客観的評価報告はない.今回,われわれはBoNT-A前後の痙性歩行の変化を,機器を用いて客観的に評価した.対象:脳卒中患者16名(脳出血10名,脳梗塞6名)で,裸足歩行可能な患者を対象とした.麻痺側下肢痙縮筋(腓腹筋・ヒラメ筋・後脛骨筋)に合計200〜300単位のBoNT-A製剤を施注し,施注前と後(1か月後)に,シート式足圧接地足跡計測装置(ANIMA社製)を用いて,対象者の歩行を計測し,歩行速度および歩行周期における立脚(St)・遊脚(Sw)・両脚支持(Ds)期の割合を測定した.施注後,歩行速度が低下した群7名(速度低下群),歩行速度が上昇した群9名(速度上昇群)について,歩行周期における各要素St・Sw・Ds期の割合を比較した.解析はt検定にて行い,危険率5%未満を有意とした.速度低下群では患側のSt期が増加,Sw期が減少,Ds期が増加したが,速度上昇群では患側のSt期が減少,Sw期が増加,Ds期が減少した.速度低下群は,痙縮依存の歩行のため,BoNT-Aによる急激な痙縮減弱により,患肢支持が不十分になりDs期が増加し速度が低下したと考えた.一方,速度上昇群では痙縮減弱により,St期の患肢足関節の動きが円滑となり,Ds期が減少し速度が上昇したと考えた.歩行周期に上位中枢の介入がある可能性も考えられた.BoNT-A施後に機器を用いた客観的評価を行なうことで,問題点が明確化し,適切なリハ訓練を行うための指標となることが示唆された.
  • 中村 裕介, 川崎 恵吉, 稲垣 克記, 山越 憲一
    2016 年 76 巻 3 号 p. 351-360
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/21
    ジャーナル フリー
    超高齢社会化が急速に進行している現在,骨粗鬆症による橈骨遠位端骨折も増加している.近年,同骨折に対して掌側ロッキングプレート(以下,VLP)による固定が行われるようになった.骨折部を強固に固定するには,橈骨軟骨下骨をスクリューで支持する必要があるが,遠位1列の穴のみの固定では,骨粗鬆症により骨質が脆弱化していたり,骨の粉砕が強い場合に,十分な固定力が得られない.Orbayらは,VLPの遠位2列の穴から固定したスクリューで,関節面の2か所を支える遠位2列軟骨下骨支持固定(double-tiered subchondral support:DSS法) を提案し,一定角度で固定するプレート (dorsal volar radius(DVR)anatomic palte:Biomet社製) を開発した.その後,固定角度可変機構を有したプレート (固定角可変プレートpolyaxial locking plate:PLP) が開発され,骨折型,骨形状の違いに関わらず適応しやすくなった.われわれはこれまで,PLPであるAPTUS2.5 (Medartis社製) を用いたDSS法の臨床における良好な治療成績を報告してきた.しかし,現在,PLPを用いたDSS法の力学的強度評価に関する詳細な報告はない.そこで本研究では,人工骨と新鮮凍結屍体を用いて橈骨遠位端骨折モデルを作成し,力学的強度試験を行い,DSS法の有用性を検討した.Osadaらの報告に準じ,人工骨SYNBONEで,AO分類A型の擬似骨折を作り,APTUS2.5を用いて1.遠位1列目の穴を4本のスクリューで固定したモデル (0群:遠位2列目無固定),2.遠位2列目の穴を1列目と平行にスクリューで1本,2本,3本固定したモデル (P群),および,3.遠位2列目の穴に背側関節面から15度の角度で打ち上げて,スクリューを1本,2本,3本固定したモデル (D群) の3群の骨折モデルを作成した.これらのモデルに対し,橈骨遠位掌側から荷重負荷し1)橈骨軸方向静特性試験,2)橈骨軸方向繰返し荷重特性試験(1,000回,2,000回,3,000回),3)曲げ方向静特性負荷試験,4)曲げ方向繰り返し荷重試験 (3,000回) を行った.さらに,新鮮凍結屍体を用いて5)AO分類C-2型の骨折モデルを作成し,遠位1列目の穴のみをスクリュー固定したnonDSS群 (NDS群) と,遠位1列目の穴の固定に加え,2列目の穴に背側関節面に15度の角度で打ち上げて,スクリューを2本固定したDSS群(DS群)との間で,静荷重負荷試験による力学的強度の比較検討を行った.1)と2)の軸方向の試験において,剛性とモーメントは,全ての固定群間に有意差はなかった.3)と4)の曲げ方向の試験において,曲げ剛性と曲げモーメントは,遠位2列目の穴を固定したスクリュー本数の増加とともに若干の増加傾向をみたが,有意差はなかった.全ての骨折モデルにおいて,対照のMonoaxial locking plate (以下MLP) 固定とほぼ同様の力学的強度を認め,ロッキング機構のゆるみ,破損を認めなかった.5)破断強度試験におけるDS群の降伏点の平均値は490Nで,NDS群の降伏点の平均値の360Nに比べて有意に高値であった.人工骨では,APTUS2.5の力学的強度はMLPと同等であり,2列目の穴を固定したスクリューの本数や角度の違いでは,固定力に有意差は認めなかった.新鮮凍結屍体では,DS群の力学的強度がNDS群よりも高く.DSS法の有用性が認められた.
  • 樋口 明子, 林 俊行, 長池 弘江, 山本 咲, 友安 雅子, 原 賀子, 小原 信, 山本 剛史, 福井 智康, 平野 勉
    2016 年 76 巻 3 号 p. 361-368
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/21
    ジャーナル フリー
    糖尿病性神経障害において患者の自覚症状である痛みとしびれの強さが,他覚的検査である自律神経障害の程度と関連するかについてはこれまでに検討されていない.そこで2型糖尿病患者42例を対象に,神経障害に伴う痛みとしびれの数値評価スケール(numerical rating scale:NRS) と自律神経障害の指標である心電図R-R間隔変動係数(coefficient of variation of R-R interval:CVR-R),Schellong試験での血圧変化量との関連性を検討した. Schellong試験は臥床時に血圧,脈拍を測定し,起立直後から2分ごとに10分後まで血圧と脈拍を測定した.起床時の血圧から臥床時の平均血圧を減じた血圧を⊿血圧とし,最大変化量を⊿最大血圧とした.末梢神経障害を有さない患者をNo DPN(diabetic polyneuropathy:DPN),末梢神経障害を有するが,痛みやしびれを自覚していない患者をPainless DPN,末梢神経障害を有し,痛みやしびれを伴う患者をPainful DPNに分類した(各々19, 12, 11名).各群のHbA1cに有意差はなかったが, 糖尿病の罹病期間はPainless DPN,Painful DPNでNo DPNより有意に長かった. No DPNのCVR-Rは他2群より有意に低値であり,Schellong試験の反応性⊿最大血圧はNo DPN -13.4±11.1,Painless DPN -11.8±7.8mmHgに対して,Painful DPNで -26.9±20.2mmHgと有意に低値であった.痛みとしびれのNRSと⊿最大血圧との間は,それぞれ有意な負の相関を認めた(r= -0.47,p<0.01)(r= -0.48,p<0.01).本研究によりPainful DPNの自覚症状である疼痛の強さが他覚所見である自律神経障害の程度を反映することが初めて示された.
  • 加藤 礼, 李 暁鵬, 熊澤 武志, 藤城 雅也, 佐藤 淳一, 澤口 聡子, 丸茂 昭美, 上島 実佳子, 青木 武士, 村上 雅彦, 佐 ...
    2016 年 76 巻 3 号 p. 369-381
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/21
    ジャーナル フリー
    カルバペネム系抗菌薬は殺菌性に優れ,かつ幅広い抗菌スペクトルを有し,敗血症等の重症難治性感染症の治療薬として広く使用されている.さらに,カルバペネム系抗菌薬は時間依存的な抗菌効果を示す.薬物動態(pharmacokinetics: PK)と薬力学(pharmacodynamics: PD)理論の分類においては,薬物濃度が最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration: MIC)以上になるべく長い維持時間(Time above MIC: %T>MIC)を要するタイプに属する.カルバペネム系抗菌薬について人体試料から迅速かつ確実に同定・定量ならびに薬物血中濃度のモニタリング(therapeutic drug monitoring: TDM)することは,救急救命ならびに効果的な抗菌薬の投与設定において極めて重要である.本研究では,5種類のカルバペネム系抗菌薬について,順相カラムを用いた親水性相互作用液体クロマトグラフィー(Hydrophilic interaction liquid chromatography: HILIC)–タンデム質量分析(MS/MS)による簡便かつ高感度な分析法を確立した.ヒト血漿20µlに薬物を添加したのち,10mM酢酸アンモニウム溶液80µl,アセトニトリル400µlを加えて液–液抽出を行い,遠心分離した上清10µlをダイレクトに分析システムに注入した.分離カラムにはImtakt社製の順相カラムUK-Amino(長さ50mm,内径3mm,粒径3µm)を使用した.ポジティブエレクトロスプレーイオン化(ESI)法を用いた多重反応モニタリング(MRM)により5種類のカルバペネム系抗菌薬は,血漿から3.5分以内に感度良く検出され,回収率は24〜85%であった.内部標準法を用いて作成した検量線は,2.5〜100µg/mlの濃度範囲で相関係数が0.9998以上の良好な直線性が得られ,検出限界は1.25µg/mlであった.再現性(CV値)は日内変動および日間変動がそれぞれ1.6〜5.3%と2.7〜6.2%で良好であった.さらに,昭和大学医学部医の倫理委員会の承認(No.1250)を得て,メロペネムおよびドリペネム2種類の抗菌薬1gを2群2名計4名の健常成人男性ボランティアにそれぞれ投与した.得られた実際例のサンプルについて,確立した本法を用い,メロペネムおよびドリペネムのTDMを行った.メロペネムは2名とも投与後0.5時間で最高血中濃度に到達し,最高血漿中濃度は52.9および67.8µg/mlであった.一方,ドリペネムの最高血中濃度到達時間は0.25および0.5時間で,最高血漿中濃度がそれぞれ62.1および98.6µg/mlであった.本法は,20µlという微量の血漿試料を少量の溶媒を用いて希釈・遠心を行ったのち,上清をそのままHILIC-MS/MSに注入するだけの簡便な分析法であり,従来の報告に比べても迅速かつ高感度なカルバペネム系抗菌薬の分析が可能であった.しかも,定量性および再現性も良好で,実際例のサンプルを用いた高感度分析ができることが明らかとなった.本研究はヒト体液中カルバペネム系抗菌薬のハイスループット分析だけでなく,他の薬毒物への応用も期待され,臨床および法医中毒学領域において有用であると考えられる.
  • 加藤 正子, 岡部 尚行, 村上 幸三, 小澤 由季子, 新城 秀典, 吉村 亮一, 加賀美 芳和, 泉﨑 雅彦
    2016 年 76 巻 3 号 p. 382-387
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/21
    ジャーナル フリー
    食道癌根治術後再発の生存期間中央値は5〜10か月とされているが,長期生存や完治が得られる場合があり積極的な治療が望まれる.近年,再発部位に対する放射線治療は日常的に行われるようになっている.当院で放射線治療を施行した症例について,安全性の検討と,長期生存に関わる因子を解析した.胸腔鏡下食道亜全摘術(Video-Assisted Thoracic Surgery for Esophagus;VATS-E)後が施行された例のうち,2011年12月から2015年12月の期間に放射線治療が施行され,3月以上経過観察した24例を検討対象とした.再発診断時に遠隔転移を伴っていた例は除外した.放射線治療は,原則60Gy以上を処方した.可能であれば化学療法を併用した.観察期間中央値12.5か月(2.5か月から47.3か月),放射線治療単独13例,同時化学放射線治療11例中,照射野内外とも制御7例,照射野内非制御4例,照射野外非制御11例,照射野内外とも非制御2例であった.手術標本での転移リンパ節が3個までの群は,4個以上に比べて有意に生存率が高かった.また,吻合部再発や,領域内に単発のリンパ節が再発していた群では,領域内に複数のリンパ節再発があった群に比べて生存率が高かった.照射野内が制御された群,化学療法同時併用群,非制御の診断時に遠隔転移を伴わない群では,有意差はないものの,生存期間が延長する傾向にあった.食道癌の初回治療においては,同時化学放射線治療は,放射線単独に比べ有意に生存率を向上させる.そのため,再発例でも,同時化学放射線治療は有効である可能性が考えられる.有害事象は許容範囲内であり,比較的安全に治療遂行できた.食道癌根治手術後局所・領域リンパ節再発に対して,同時化学放射線療法が勧められる治療であることが示唆された.
症例報告
  • 幕内 幹男, 上道 治, 難波 義知, 田中 淳一
    2016 年 76 巻 3 号 p. 388-394
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/21
    ジャーナル フリー
    症例は53歳男性,青年期より痩身であったが,4年前より上腹部膨満感と食物の逆流症状が出現し体重減少が顕著となった.上,下部内視鏡では異常なく,病歴および体型などより上腸間膜動脈症候群を疑い十二指腸造影を行った.その結果,十二指腸水平部の急激で直線的な閉塞と近位十二指腸の拡張を認めた.造影CTにて腹部大動脈と上腸間膜動脈のなす角度が13度,間隔が7mmと高度に狭小化しており同疾患と診断した.保存的治療にて効果が得られず,腹腔鏡下十二指腸空腸吻合術を施行し,良好な術後経過が得られた.SMA症候群は,基本的には保存的治療で軽快し,外科治療に至ることは極めて稀である.しかし治療に難渋する症例では,近年の腹腔鏡下手術の進歩による腹腔鏡下十二指腸空腸吻合術は有効な外科治療と考えられた.
臨床報告
  • 蒔田 勝見, 緑川 武正, 八木 秀文, 相田 邦俊, 坂本 道男, 加藤 貴史, 田中 淳一
    2016 年 76 巻 3 号 p. 395-399
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/21
    ジャーナル フリー
    消化器外科手術,特に大腸外科領域においてストーマ造設は必須となる重要な手術手技で,大腸癌イレウスに対しては救命的な処置である.標準的なストーマ造設手技は,挙上腸管の腹壁固定,ストーマ開口とそれに続く粘膜皮膚縫合からなるが,われわれは過去7年間,粘膜皮膚縫合の形成を行わぬストーマの開口と,それに続く自然成熟を待つ単純開放式ストーマを行っている.この手技により手術時間は短縮されるため,全身状態が不良の緊急例や,あるいは浮腫により腸管粘膜の外反が困難な場合に適していると考えられる.仕上がりも1か月後には粘膜皮膚形成したものとほぼ同様となる.われわれは機能的な問題や重篤な合併症を経験していない.この手技は簡便かつ安全な方法のため,緊急例のみならず待期手術症例に対しても有用と考えており,文献的考察を加えて報告する.
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