難治性の慢性痛患者では睡眠障害を合併している例も少なくない.睡眠障害にはビタミンD(VD)不足が関与していることが報告されているが,日本ではVD不足の注目度は低く,慢性痛患者の睡眠障害に対する補充療法の報告もほとんどない.本研究の目的は,VD補充療法による睡眠と慢性痛への影響を明らかにすることである.2018年8月〜2022年7月の間にペインクリニック外来を受診した,当科で神経ブロック治療や薬物治療を行っても痛みが継続している罹患3か月以上の難治性慢性痛患者を対象とした.主要評価である痛みはNumerical Rating Scale (NRS)で評価した.睡眠の質はピッツバーグ睡眠質問票日本語版を用いて評価し,副次評価項目とした.補充療法は血中25 (OH) Dが20ng/ml以下の場合,VDサプリメント1,000IU/日を3か月間服用した.3か月後に20ng/ml以下であれば2,000IU/日に増量し,さらに3か月後に測定を行い,その効果を確認した.慢性痛患者45例中39例にVD不足があり,補充療法満期まで追跡できた28例のデータを用いて解析を行った.VD補充療法後には,全例でVD不足は改善し,NRSは5.8±1.6から5.6±1.9と慢性痛が有意に改善するという結果は得られなかった(P=0.73)ものの,睡眠スコアが7.9±3.2から7.0±3.8へ有意に改善した(P=0.04).また補充療法後の痛みスケール(NRS, SF-MPQ-2)と睡眠スコアには正の相関があり(r=0.46, (p=0.01),r=0.61,(p<0.01)),睡眠の質が悪いと痛みが強かった.全例において有害事象の発生はなかった.VD補充療法は慢性痛を有意には改善しなかったが,慢性痛を伴う睡眠の質を安全に改善させた.
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