昭和学士会雑誌
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81 巻, 1 号
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原著
  • —昭和大学病院における救急医療改革—
    前田 敦雄, 垂水 庸子, 西脇 宏樹, 土肥 謙二
    2021 年 81 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/25
    ジャーナル フリー
    2019年4月より昭和大学病院において2次救急応需件数増加を目的に,対応する診療科が総合診療科から救急診療科に変更された.救急診療科を中心とした救急医療センター改革が与えた影響を検討した.昭和大学病院救急医療センターへの2次救急要請件数・応需件数・応需率・不応需件数・不応需率を集計した.救急医療センター改革を行った2019年度とそれ以前の2016年度から2018年度を分割時系列解析で解析した.2019年度は7,516件の2次救急要請があり,7,228件応需し,応需率は96.2%,不応需件数は288件であった.2018年度は6,603件の2次救急要請があり,5,833件応需し,応需率は88.3%,不応需件数は716件であった.つまり,応需件数は1,395件増加し,不応需件数は428件減少し,応需率も大きく改善した.分割時系列解析で2016年度から2018年度と比較して,2019年度は6.8%(95%信頼区間2.4%〜11.2%)の応需率上昇の効果を認め,一月あたり145件(95%信頼区間94件〜196件)の応需件数増加の効果を認めた.救急医療センターに対応する専任医師数は減少したが,診療科変更に伴う意識改革,繁忙時間に合わせた人員配置,転科依頼システム等のER型救急医療の徹底,診療マニュアル作成などの診療体制の整備を2019年4月より一斉に実施したことによって,大幅な2次救急応需件数増加に繋がったと考えられた.昭和大学病院における救急医療センター改革によって,大幅な2次救急応需件数増加,応需率改善を達成し,地域医療に貢献することができた.また,この一連の改革は,昭和大学の他附属病院でも応用出来るのではないかと考えられた.
  • 弓川 大地, 佐藤 満, 加茂野 有徳, 仲保 徹, 宮川 哲夫
    2021 年 81 巻 1 号 p. 10-19
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/25
    ジャーナル フリー
    回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期)では日常生活動作の指標であるFunctional Independence Measure(以下,FIM)の改善が重視されている.退院後の生活ではFIMの項目以外のさまざまな応用的活動の獲得が求められるが,FIMの得点が高くても退院後の生活が困難であるとの報告も散見される.退院後には,自身の能力に自ら気付き,主体的に課題を解決する能力が重要とされる.このような能力の獲得支援はエンパワーメントと定義され,回復期では意識的,あるいは無意識的に獲得支援が行われている.エンパワーメントの状態測定は,退院後の生活を予測する上でFIMとともに役立つと考えられるが,回復期入院患者に適したエンパワーメント尺度は見当たらない.本研究は回復期入院患者のエンパワーメント尺度を試作し,妥当性と信頼性を検証すること,FIMとの相違性を検証することを目的とする.ヘルスケア関連のエンパワーメント測定に関する国内外の先行研究から,回復期に沿う質問項目を抜粋して日本語に翻訳し,5つの下位尺度から構成される17項目の尺度を作成した.退院直前の回復期入院患者98名を対象に作成した尺度への回答を求めた.測定した結果から,本尺度の項目分析,因子的妥当性,内的整合性,再検査信頼性を検討した.また,本尺度得点とFIM得点との相関分析を行った.項目により床効果を認めたが,上位-下位分析では全項目で良好な識別力を示した.項目-全体相関分析でも全項目で異質性は認められなかった.5つの下位尺度で構成される本尺度の想定モデルによる確証的因子分析では,いくつかの適合性指標で良好な値を得た.下位尺度得点-総得点間の相関も良好で,17項目・5つの下位尺度の構成に一定の因子的妥当性が確認された.内的整合性と再検査信頼性も概ね良好であった.本尺度の下位尺度得点・総得点とFIM得点間の相関は確認されなかった.改善を要する部分もあるが,試作した尺度に一定の妥当性,信頼性が確認された.試作した尺度はFIMとは異なる測定概念の指標であると考えられ,エンパワーメント測定を併用することで,より多角的な視点で退院後の生活に必要な能力を評価できる可能性が示された.
  • 秋山 真之, 加藤 京一
    2021 年 81 巻 1 号 p. 20-29
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/25
    ジャーナル フリー
    検像とは,医師の診断・読影を支援する目的で,診療放射線技師が画像の確定前に当該画像を確認し,必要に応じて画像の修正や不必要な画像の削除を行う行為をさす.確定前に確認するポイントとしては,オーダに応じた画像情報が取得できていること,付帯情報が正しく入っていることなどである.また,必要に応じて修正すべき内容として,画像の付帯情報・画像の濃度・画像の方向・画像の順序の変更があると定義されている.本研究では,この検像業務が撮影技術向上のための教育に効果をもたらしているか,また医療安全に貢献しているのかを検討した.方法は,2012年〜2016年の5年間における一般Ⅹ線撮影再撮影画像をもとに,部位別(胸部・腹部・頸椎・肩関節・膝関節・腰椎・股関節)に再撮影内容と再撮影率を調査し,分析した.経験年数と再撮影率を調査した.また,原因別頻度についても各部位ごとに調査を行った.得られた結果から新人技師による再撮影率の上昇やローテーション時期による変化によって変動し,再撮影検討会はそれらの上昇を防止する手立てとなった.また検像を強化することによって,医療安全の面からも貢献できることが明らかとなった.
  • 白戸 信行, 下司 映一, 安部 聡子, 榎田 めぐみ, 福地本 晴美, 椿 美智博, 藤後 秀輔, 長嶋 耕平, 田中 伸
    2021 年 81 巻 1 号 p. 30-39
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/25
    ジャーナル フリー
    近年の医療情勢において,看護師の人材確保は重要な課題であり,「いきいきと働き続けられる」ためには,さまざまなストレスに対応する力が必要と考えられている.SOCはストレス対処能力とも言われる認知的評価に関わる概念でありSOC得点が高いとバーンアウトしにくいことや,精神的健康度が保たれることがわかっている.本研究では部署異動とSOCおよび職業ストレスの関連性を明らかにするとともに,キャリア形成の一環としての部署異動後の支援プログラムのあり方を見出すことを目的とした.大学病院に勤務する看護師(新入職者を除く)2,763名に対し,基本属性(性別,年齢,部署異動の経験,現部署での勤務年数,部署異動の回数,今まで経験した部署の診療科,最近の部署異動の契機,部署異動をしての思い),および人生の志向性に関する質問票(SOC質問票),臨床看護職者の仕事ストレッサー測定尺度(NJSS)を使用し,ウェブアンケートにより調査した.看護師1,013名(有効回答率36.6%)を解析対象とした.部署異動経験群と非経験群の比較では,SOCに有意差は見られなかった.NJSSにおいては,総合ストレイン値(p<0.001)および,4つの下位尺度で部署異動経験群の方が有意に高かった.部署異動肯定群と非肯定群との比較では,SOCのすべての下位尺度とNJSS総合ストレイン値(p<0.001)において部署異動肯定群の方が有意に高かった.また,部署異動肯定群と非肯定群別の2項ロジスティック回帰分析において,肯定感では年齢とSOC【OR:1.034(95%Cl:1.022-1.046)】が独立した因子となった.部署異動の肯定感において,部署異動希望群は非希望群と比較して有意に高かった.部署異動経験群はさまざまなストレスを感じながらも,今までの経験を活かしながら状況に対応することでストレスが軽減できており,部署異動によるストレスはSOCへ明らかな影響を及ぼさなかったと考えられた.非肯定群,特に希望以外での部署異動となった場合などの,部署異動後のSOCが低い人は,環境の変化に適応できていない状況であるため,管理者による定期的な面談やメンターの存在を明確にするなどの人間関係の調整と仕事の緊張緩和について,より手厚い支援が必要である.部署異動後に感じやすいストレスなどについて個別的に対応するとともに,部署異動の動機付けとして異動理由や期待を明確に伝え,自己の役割を認識できるような部署異動後の支援プログラムが必要である.
短報
  • 櫻井 基一郎, 波木井 恵子, 中川原 さつき, 櫻井 裕子, 村川 哲郎, 及川 洸輔, 城所 励太
    2021 年 81 巻 1 号 p. 40-46
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/25
    ジャーナル フリー
    2019年末から世界的に流行したSARS-CoV-2感染症(COVID-19)は母子間の垂直感染を積極的に示唆する所見には乏しい.しかし,出生時に母親がCOVID-19の疑いがある場合やSARS-CoV-2 PCRを検査中の場合,新生児は感染している可能性があると見なされ,院内感染防止のためにも出生直後からの感染対策が必要となる.感染症蔓延期におけるNICU病棟運営の現状と変更点を明確にすることで,今後の感染対策に活かすことを目的とする.入院症例に対して全例PCR検査を導入して以降,緊急事態宣言が解除されるまでの約1か月間におけるNICU病棟管理の変更点および,NICU病棟に入室し陰圧個室に隔離した新生児7名への対応や転帰を後方視的に調査した.院内感染防止のため,新生児蘇生は,個人防護具を装着した上で,母体から2m以上離れた開放型保育器で行った.蘇生後,児は直ちに閉鎖型保育器に収容後NICU内の陰圧個室へ搬送した.陰圧個室担当の看護師は専属とし,陰圧個室に1床入室につきNICU病床数は2床削減とした.父母の面会は交代制とし時間を制限した.対象となった母児にはいずれもSARS-CoV-2感染はなかった.感染症蔓延期におけるNICU病棟での感染対策を経験した.今回の経験をもとに平時から対策を想定しておくことで,今後の感染対策に活かすべきと考える.
症例報告
  • 沖野 尚秀, 宮辺 健太, 佐藤 伸弘, 門松 香一, 大久保 文雄
    2021 年 81 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/25
    ジャーナル フリー
    指尖部に対するfish-mouth incisionは,切断指再接着術後の鬱血予防法の一つであるが,指動脈の開存状態の評価にも有用であるとの報告もある.本症例はプレス機で受傷した右示指,中指完全切断で,玉井分類zoneⅢであった.再接着し得たが,指神経は縫合困難であった.腓腹神経を用いた二次再建施行時,空気止血帯の使用や手術操作による指動脈攣縮による一時的な示指の血流不全を認めた.手術直後に,fish-mouth incisionを加え,ヘパリンNa加生理食塩水の直接持続滴を開始することで,術後の血流を評価し,救指し得た.切断指再接着術においては,術中の空気止血帯の使用は最小限とし,fish-mouth incisionとヘパリンNa加生理食塩水の直接持続投与による血流評価が重要であることが示唆された.
  • 伊澤 優一, 山口 真吾, 堅田 凌悟, 筑田 洵一郎, 高松 弘貴, 八十 篤聡, 鈴木 麻衣子, 鎌谷 宇明, 代田 達夫
    2021 年 81 巻 1 号 p. 53-57
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/25
    ジャーナル フリー
    多形腺腫は唾液腺腫瘍のなかで最も発生頻度が高く,耳下腺に好発し,口唇に発生することは比較的まれである.今回われわれは,上唇に発生した多形腺腫を経験したので報告する.患者は29歳の男性.X−1年Y月頃から上唇の腫瘤を自覚していたが,無痛性であったため放置していた.しかし,X年Y−6月頃から腫瘤が増大してきたため当科を受診した.左側上唇に母指頭大の境界明瞭な可動性のある無痛性で弾性硬の腫瘤を認め,表面粘膜は正常であった.CT画像,MR画像,超音波画像で約20×20×20mm大の境界明瞭な腫瘤を認めた.左上唇腫瘍の臨床診断で全身麻酔下に腫瘍摘出術を施行した.病理組織学的診断は多形腺腫であった.術後再発所見はなく経過良好である.
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