昭和学士会雑誌
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78 巻, 2 号
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講演
原著
  • 岡本 奈央子, 本間 まゆみ, 南雲 佑, 川口 有紀子, 蒲澤 宣幸, 田澤 咲子, 塩沢 英輔, 矢持 淑子, 楯 玄秀, 瀧本 雅文, ...
    2018 年 78 巻 2 号 p. 111-116
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/11
    ジャーナル フリー
    免疫性血小板減少性紫斑病(Immune thrombocytopenic purpura:ITP)は網内系においてマクロファージによる巨核球や血小板の貪食・破壊が亢進することが主因とされている.近年,骨髄中の血小板産生段階にも異常があることが明らかになってきており,骨髄巨核球の障害や破壊がヘルパーT細胞の不均衡やインターロイキン17(Interleukin-17:IL-17)を産生するT細胞によって起こることが報告されている.しかし,骨髄を対象とした報告は少なく,一定した見解は得られていない.今回,慢性 ITP の骨髄病理組織(クロット)検体を用いて免疫組織化学(免疫染色)を施行し,治療開始前の骨髄巨核球の形態的変化とIL-17関連の免疫学的変化の有無を検討した.昭和大学病院において臨床的に慢性 ITP と診断された患者の治療前の骨髄病理組織33例を用いた.形態的変化はHematoxylin-Eosin染色を用いて観察した.抗CD3抗体,抗CD4抗体,抗CD8抗体,抗CD20抗体,抗CD25抗体,抗CD68抗体,抗CD163抗体,抗IL-17抗体を用いて免疫染色を行った.強拡大で免疫染色陽性細胞をカウントし,対照の骨髄浸潤のない悪性リンパ腫患者の治療前の骨髄病理組織11例と比較した.各例とも巨核球の形態異常や貪食像はみられず,血小板付着像にも明らかな差異はなかった.慢性 ITP の骨髄では,IL-17,CD68,CD163 免疫染色陽性細胞の割合が有意に増加し(P<0.05),IL-17陽性細胞の多くは,CD68やCD163陽性細胞の分布と一致していた.また,三者は各々正の相関を示した.慢性ITPの骨髄で単球やマクロファージは増加し,T細胞以外にIL-17を産生し分泌する可能性が示唆された.現在 ITP の診断に骨髄検査は必須ではないが,免疫染色を含む骨髄病理組織診断は慢性ITP症例の骨髄におけるリンパ球やマクロファージ・単球の動態やサイトカインの影響などの病態生理の解明において有用であると考えられた.
  • 西見 慎一郎, 磯﨑 健男, 笠間 毅, 稲垣 克記
    2018 年 78 巻 2 号 p. 117-125
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/11
    ジャーナル フリー
    A disintegrin and metalloprotease (ADAM) familyはメタロプロテアーゼの一つとしてRAの滑膜組織での発現が報告されている.RA滑膜病変におけるADAM-15の血管新生における役割について検討を行った.①RA患者血清と関節液中のADAM-15濃度をELISA法にて測定した.また,免疫染色法にて,RA滑膜組織中のADAM-15の発現を検討した.②ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(human umbilical vein endothelial cells: HUVECs)をsiRNA法にてADAM-15の発現を抑制し,上清中のサイトカイン(epithelial cell-derived neutrophil-activating peptide (ENA)-78/CXCL5,intercellular adhesion molecule (ICAM)-1)の産生,細胞形態変化および単球の接着能を検討した.RA関節液をHUVECの培養液に添加し,Matrigel assay法にて管腔形成能を,adhesion assay法にてTHP-1細胞のHUVECに対する接着能の検討を行った.①RAにおける血清中ADAM-15の濃度は健常人(NL)に比較して有意に高値であり(RA 500±21pg/ml, NL 390±29pg/ml, p<0.05),抗リウマチ薬(トシリズマブ)の加療にて24週後,54週後の血清中のADAM-15の濃度は有意に低下していた.関節液中では高発現しており,免疫染色にて滑膜組織の血管でADAM-15の発現を認めた.②ADAM-15をsiRNA法で抑制することによりHUVECのENA-78/CXCL5,ICAM-1の産生は低下し,Matrigel assay法では管腔形成数の低下,Adhesion assayでは,THP-1の接着の低下が認められた.ADAM-15はRA患者の血清中および関節液中に存在し,疾患活動性に関連している可能性がある.RA滑膜組織では血管壁に発現していることが確認され,内皮細胞のサイトカインの産生や血管新生現象を促進し病変形成に関与している可能性が示唆された.
  • 西見 愛里, 磯﨑 健男, 笠間 毅
    2018 年 78 巻 2 号 p. 126-134
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/11
    ジャーナル フリー
    A disintegrin and metalloprotease (ADAM) familyは組織障害や炎症反応において重要な役割を担っていると考えられている.ADAM-17はtumor necrosis factor (TNF)-αをsheddingする蛋白分解酵素として最初に発見された.今回,われわれは,自己免疫性炎症性筋疾患におけるADAM-17の発現と間質性肺炎での炎症における役割を検討した.自己免疫性炎症性筋疾患(多発性筋炎26名,皮膚筋炎34名,clinically amyopathic dermatomyositis (CADM) 10名)患者の血清中のADAM-17をenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)法にて測定した.そして,臨床所見や臨床データとの関連を検討した.さらに,免疫染色法を用いて,自己免疫性炎症性筋疾患患者の筋生検の組織上でのADAM-17の発現を確認した.自己免疫性炎症性筋疾患の血清中のADAM-17は,健常者(19名)の血清中のそれと比較し有意に高値であった(mean±SEM;1,048±312pg/ml and 36±18pg/ml,p<0.05).副腎皮質ステロイドand/or免疫抑制剤での加療後の患者血清中のADAM-17は,治療前の血清中のそれと比較し有意に減少していた(1,465±562pg/ml and 1,059±503pg/ml,p<0.01).ADAM-17はfractalkine/CX3CL1,CXCL16それぞれと有意に正の相関を認めた.また,間質性肺炎合併自己免疫性炎症性筋疾患患者(46名)の血清中のADAM-17は,間質性肺炎非合併自己免疫性炎症性筋疾患患者(24名)のそれと比較し有意に上昇していた(1,379±454pg/ml and 413±226pg/ml,p<0.05).さらに,自己免疫性炎症性筋疾患患者の筋生検組織にてADAM-17の発現を確認した.ADAM-17は自己免疫性炎症性筋疾患患者,特に間質性肺炎合併患者に発現しており,肺の線維化において何らかの役割を担っている可能性が示唆された.ADAM-17は間質性肺炎合併自己免疫性炎症性筋疾患において治療標的となり得る可能性がある.
  • —三次元動作解析—
    岡田 智彰, 渡邊 幹彦, 西本 雄飛, 木村 岳, 稲垣 克記
    2018 年 78 巻 2 号 p. 135-141
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/11
    ジャーナル フリー
    スポーツ障害の中でも投球障害肩は患者数も多く,これまで多くの研究がなされてきた.投球動作は全身の複合動作であり,特に加速期において障害が多く生じることが示され,関節への負荷などは先行研究で報告されている.しかし多くの動作が複合しているため一つのパラメーターを評価することが困難であり,SLAP損傷などの原因も未だに解明されていないのが現状と言える.その中でも肩関節回旋は肘や前腕の肢位に影響を受け,投球動作における肩関節回旋角度の評価は今まで困難であった.本研究では,独自に開発した装置と三次元動作解析で上腕骨を指標に肩関節の回旋角度を算出した.実験は上肢に既往歴のない右投げの野球経験者6名を対象とし,一人当たり5投で検証した.独自に開発したマーカーベースとアンカーを装着し,モーションキャプチャーシステムで記録,三次元動作解析ソフトで得られた空間座標からベクトルと行列と三角関数を用いて上腕骨長軸回旋角度の変化量を算出し,経時的に評価することで加速期における肩関節回旋角度を求めた.6名30投の肩関節回旋角度の平均値は 113.13±52.47°であった.選手のうち最大は190.29±1.36°(p<0.05),最小は34.82±2.09°(p<0.05)を示した.また5名はボールリリース直前で肩関節回旋角度が20°前後に減少していたが,1名は129.37±5.53°(p<0.05)を示し有意差を認めた(p=0.00033).本研究において加速期の特にボールリリース直前の肩関節回旋角度を評価できたこと,また上腕骨を直接指標として投球動作を撮影し数学的な解析ができたことは,先行研究と比し選手個人の投球フォームを反映している点でより臨床的な評価方法だと考える.更に精度を高め障害群における追加実験を行うことで,投球障害肩の予防や治療,今後の研究に寄与できると考えられる.
  • 松井 祐輝, 直江 道夫, 太田 実香, 下山 英明, 鵜木 勉, 中里 武彦, 押野見 和彦, 森田 順, 前田 佳子, 冨士 幸蔵, 小 ...
    2018 年 78 巻 2 号 p. 142-148
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/11
    ジャーナル フリー
    現在,がんの治療は目覚ましい進展を遂げている.疾患経過の様々な時点で迅速かつ低侵襲的にバイオマーカーを同定することは,治療効果と予後を評価または予測する一助となる.近年は組織生検に代わる方法として「Liquid biopsy」に対する注目が大きく高まっている.この「Liquid biopsy」の一つに,血中循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cells:CTCs)がある.転移性癌患者の血液中にはCTCsと呼ばれるがん組織由来の細胞が微量に循環していることが知られている.血中に存在するCTCsの数を測定することは,転移性癌に対する治療効果の判定や病勢把握に有用である.CellSearchシステムは,米国FDA(Food and Drug Administration)の承認を受けた唯一のCTCs検出装置である.CTCs検査は,転移性大腸癌,乳癌,前立腺癌の治療効果の判定や予後予測因子としての有用性が認められている.しかし,CellSearchシステムはEpCAM (Epithelial cell adhesion molecule;上皮細胞接着分子)の抗体を用いた免疫磁気的手法に基づくため,EpCAM非発現細胞の捕捉が困難な点が近年指摘されている.今回,EpCAM非依存的にCTCsを同定する方法として,腎癌特異的なG250抗原をターゲットとしたOn-chip SortとClearCell FXシステムを用い,CTCsの捕捉回収率を比較検討した.On-chip Sortによる腎癌CTCsの回収率は75%程度であったのに対し,ClearCell FXシステムの場合は33%〜69%であった.腎癌CTCsの同定において,G250抗原をターゲットとしたEpCAM抗原に非依存的なOn-chip Sortシステムが,ClearCell FXシステムに勝っていた.
  • 長濱 隆明, 今井 孝成 , 前田 麻由, 中村 俊紀, 石川 良子, 神谷 太郎, 板橋 家頭夫
    2018 年 78 巻 2 号 p. 149-155
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/11
    ジャーナル フリー
    小児気管支喘息の管理は,ステロイド吸入薬などが普及した結果,劇的に改善した.このため喘息治療において,薬物療法におけるアドヒアランスの向上は,新たな重要な臨床課題となっている.今回われわれは喘息指導を通してアドヒアランスの向上を目指し,その評価に新規アドヒアランス評価質問票Pediatric Asthma Adherence Questionnaire(以後PAAQ)を用いて検証を行った.対象は2016年に品川区または江戸川区主催の喘息健康教室に参加した児と保護者とし,喘息指導介入を行った.健康教室および介入対象および方法,回数は,品川区水泳教室(保護者介入,講義形式,1回),品川区夏季健康教室(患児介入,講義形式,5回)および江戸川区水泳教室(介入なし)とした.解析は主要評価項目として,指導の前後のPAAQの変化とし,ほか合計12項目のアドヒアランス調査項目を用いた.解析対象は品川区水泳教室9名,品川区夏季健康教室14名,江戸川区水泳教室15名であり,各群の患者背景に有意差は認めなかった.PAAQは3群において介入前後の有意な変化は認めなかった.また他の質問項目においては喘息の悪化傾向を示すものがあった.喘息指導介入によってPAAQに変化は認めなかった.今後効率的にアドヒアランスを向上に導く指導方法の開発が期待される.
  • —安楽死・尊厳死に関する医学生・文系学生の意識差をもとに—
    岩田 浩子, 佐藤 啓造, 米山 裕子, 根本 紀子, 藤城 雅也, 足立 博, 李 暁鵬, 松山 高明, 栗原 竜也, 安田 礼美, 浅見 ...
    2018 年 78 巻 2 号 p. 156-167
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/11
    ジャーナル フリー
    終末期医療における治療の自己決定は重要である.終末期医療における自己決定尊重とそれをはぐくむ医療倫理教育に関する課題を,安楽死・尊厳死の意識から検討する.われわれが先行研究した報告に基づき医学生と一般人と同質と考えられる文系学生を対象として先行研究(医学生と理系学生)と同じ内容のアンケート調査を行った.アンケートでは1)家族・自分に対する安楽死・尊厳死,2)安楽死・尊厳死の賛成もしくは反対理由,3)安楽死と尊厳死の法制化,4)自分が医師ならば,安楽死・尊厳死にどう対応するかなどである.医学生は安楽死・尊厳死について医療倫理教育を受けている230名から無記名のアンケートを回収した(回収率91.6%).文系学生は教養としての倫理教育をうけている学生で,147名から無記名でアンケートを回収した(回収率90.1%).前記5項目について学部問の意識差について統計ソフトIBM SPSS Statistics 19を用いてクロス集計,カイ二乗検定を行いp<0.05を有意差ありとした.その結果,家族の安楽死については学部間で有意差があり,医学生は文系学生と比較し医師に安楽死を依頼する学生は低率で,依頼しない学生が高率で,分からないとした学生が高率であった.自分自身の安楽死について医学生は医師に依頼する学生は低率で,依頼しない学生は差がなく,分からないとした学生は高率であった.家族の延命処置の中止(尊厳死)では,医学生と文系学生間で有意差を認めなかった.自分自身の尊厳死は,医学生は文系学生と比較し,医師に依頼する学生は低率で,かつ依頼しない学生も低率で,分からないとした学生が高率であった.もし医師だったら安楽死・尊厳死の問題にどう対処するかは,医学生は条件を満たせば尊厳死を実施すると,分からないが高率で,文系学生では安楽死を実施が高率で医学生と文系学生との間に明らかな差を認めた.法制化について,医学生は尊厳死の法制化を望むが多く,文系学生では安楽死と尊厳死の法制化を「望む」と「望まない」の二派に分かれた.以上より終末期医療における安楽死・尊厳死の課題は医学生と一般人と同等と考えられる文系学生に考え方の相違があり,医学生は終末期医療における尊厳死や安楽死に対して「家族」「自分」に関して医療処置を依頼しない傾向がある一方,判断に揺れている現状が明らかとなった.文系学生は一定条件のもとで尊厳死を肯定する意識傾向があった.医学生の終末期医療に関する意識に影響する倫理的感受性の形成は,医学知識と臨床課題の有機的かつ往還的教育方略の工夫が求められる.「自己」「他者」に関してその時に何を尊重して判断するかを医学生自身が認識することを通して,倫理的感受性を豊かにする新たな教育の質を高める努力が必要である.文系学生においても終末期医療の現実を知ることや安楽死・尊厳死を考える教育が必要であると思われた.
  • —医学生,一般学生の意識調査をもとに—
    西田 幸典, 佐藤 啓造, 藤城 雅也, 根本 紀子, 足立 博, 岩田 浩子, 米山 裕子, 李 暁鵬, 松山 高明, 栗原 竜也, 藤宮 ...
    2018 年 78 巻 2 号 p. 168-182
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/11
    ジャーナル フリー
    今日の在宅看取りは,地域の診療所医師が大部分を担っているが,2040年をピークとする多死社会の看取り体制として,それが適切に機能するかの問題がある.そこで,本研究は,診療所医師の在宅看取りにおける負担軽減策として,看護師による死亡診断および死亡診断書の作成について,多死社会を担う若年層の認識を踏まえて,その是非を法医学的観点から考察するものである.研究方法は,質問紙調査(対象:医学生242名,一般学生402名)と看取り制度に関する文献調査である.質問紙調査の結果は,看護師による死亡診断について,看護師のみが死亡に立ち会う状況で是認する割合が高く,死亡診断について研修を受けて試験に合格した看護師が良いとする割合が高かった.また看護師による死亡診断書の作成について,看護師のみが死亡に立ち会う状況で是認する割合が高く,死亡診断書の作成について研修を受けて試験に合格した看護師が良いとする割合が高かった.しかし,死亡診断を是認する割合は,死亡診断書の作成を是認する割合よりも高かった.一方,医療制度改革の潮流には,①医師の働き方の見直しとしてタスク・シフティングの提案,②看護師の特定行為の創設,③地域包括ケアシステムの推進,④欧米における看護師による死亡確認の現状がある.本研究では,上記の調査結果と医療制度改革の潮流を踏まえ,診療所医師の負担軽減策の一つとして,看護師による死亡診断を,①特定行為の一つとする方法と ②保健師助産師看護師法の「診療の補助」とは別の新たな枠組みとする方法を提案する.一方,看護師による死亡診断書の作成については,原則として時期尚早と考える.しかし,診療所医師の負担軽減および死後のエンゼルケアやグリーフケアの実施の観点から,末期がん患者のような特定の患者に限定し,かつ,死亡診断書の作成プロセスの一つである異状死でないとの判断までであれば検討の余地があると考える.ただし,これを実現するためには,異状死の判断を適切に行い得る程度の知識と技術を担保できる教育システムが必要不可欠であると考える.
第343回昭和大学学士会例会(保健医療学部会主催)
第344回昭和大学学士会例会(医学部会主催)
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