昭和学士会雑誌
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最新号
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原著
  • 浜辺 峻弥, 伊藤 純治, 佐藤 満
    2024 年 84 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル フリー
    急性期脳卒中リハビリテーションは,廃用性筋萎縮の予防や早期の日常生活動作再獲得を図ることを目的とし,早期リハビリテーションの実施率は高まっている.しかし,急性期脳卒中患者の筋量や筋力の変化に関する知見は不十分で,運動麻痺の程度によって筋力や筋量の変化に差があるかどうかを同時に検討した報告はない.本研究は,リハビリテーション開始時の運動麻痺の程度の違いで,筋力や筋量の変化を認めるのかを明らかにすることを目的とした.発症後3日以内にリハビリテーションを開始した,病前の日常生活動作が自立されていた初発脳卒中患者20例を対象とし,リハビリテーション開始時から3週後までの急性期加療終了時をカルテ情報から抽出した.抽出項目は,患者基本情報,Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)麻痺側運動機能,大腿筋厚,膝伸展筋力,1日あたりの療法士の実施単位数,1週間あたりの療法士の実施頻度,療法士の運動強度,病棟看護師が実施している病棟活動度とした.リハビリテーション開始時のSIAS麻痺側運動機能の下肢項目合計点で軽症群(11点以上)と中等症群(10点以下)に分けた.大腿筋厚と膝伸展筋力の変化の分析には,二元配置分散分析を用いた.リハビリテーション開始から急性期加療終了時の膝伸展筋力は麻痺側・非麻痺側とも運動麻痺の程度に関わらず増加した.開始から急性期加療終了時の大腿筋厚は麻痺側・非麻痺側とも開始時点より減少し,特に中等症群で有意な減少を示した.麻痺側の膝伸展筋力は軽症群と比べて中等症群で有意に低値となったが,非麻痺側では軽症群と中等症群で差がなかった.急性期期間では,中等症群の方が療法士による実施単位数や頻度は多かった.脳卒中急性期での下肢筋量減少を予防するためには,運動強度を増加するのみでは不十分であることが示唆された.療法士による介入頻度だけでなく,病棟での活動度を高めることが筋量減少の予防に寄与できる可能性が考えられた.
  • 島田 翔太郎, 黒岩 魁, 成田 雛子, 岡村 玲子, 上杉 由香, 佐々木 陽平, 綿貫 めぐみ, 荒井 奈々, 川口 有紀子, 藤原 峻 ...
    2024 年 84 巻 1 号 p. 10-21
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル フリー
    多発性骨髄腫(MM)の微小残存病変(MRD)測定技術は進歩している.症例特異的プライマーを用いたPCR法は10−4~10−6と高感度ではあるが,免疫グロブリン(IG)特異的領域の解読や特異的プライマー設計の成功率が低いことが課題となっている.2003年に開発されたBIOMED-2PCRを用いて,MM患者の骨髄検体から抽出したRNAを鋳型としてPCRを行った.TA-cloningののちシークエンスしてIG領域解読の成功率を確認した.われわれはcDNAを鋳型として特定のIGHV-J primerを用いたBIOMED-2PCRで58.1%の成功率が得られた.IGH type別の検討では単変量解析および多変量解析ともに,IgG typeおよびIgA typeがBJP typeと比較して有意にPCR成功率が高かった.RNA発現の低下や異常なIGH遺伝子再構成のためBJP typeでは低い成功率に留まった可能性がある.RNAから作成したcDNAを鋳型として利用することで,検体採取時の形質細胞割合や抽出時の核酸濃度に関わらず,長期保管検体でBIOMED-2PCRが可能なことが示唆された.
  • 高見 智香恵, 西村 晶子, 西田 梨恵, 五島 衣子, 下野 史菜子, 増田 陸雄
    2024 年 84 巻 1 号 p. 22-26
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル フリー
    手術室使用の固定枠がない医科病院歯科口腔外科では,需要に応じた手術症例数の増加を図ることが難しい.昭和大学藤が丘病院歯科・口腔外科も手術室固定枠を持たないが,静脈内鎮静法もしくは全身麻酔法で管理された歯科口腔外科手術症例数が近年大きく増加した.そこで2016年4月から2022年3月までの6年間に実施された歯科麻酔科管理症例を集計し,その増加の要因ついて後向きに解析を行った.調査期間の前半である2016年から2018年の3年間と後半の2019年から2021年の3年間を比較すると,歯科麻酔科管理症例数は約2倍に増加した.歯科・口腔外科症例の95%は智歯抜歯であり,新規来院患者のうち歯科麻酔科管理症例は約20%を常に占めていたことから,歯科診療の中でも比較的侵襲の大きな口腔外科手術では静脈内鎮静や全身麻酔下での治療を希望する患者が一定の割合で存在していることが示された.この需要に対応するため,手術時間を含めた麻酔時間は静脈内鎮静では49±21分から35±9分(平均±標準偏差,前半vs後半)に短縮され(p<0.001),全身麻酔では1時間59分±38分から1時間33分±27分(p<0.001)に短縮していた.この時間短縮の要因には,経験豊富な口腔外科医の在籍と常勤の歯科麻酔専門医が配置されたことが挙げられる.予定時間内に手術・麻酔を終了する意識の共有と効率的な手術室予約により,麻酔管理を希望する患者を受け入れる協力体制が整ったことが症例数増大につながったと考えられる.
  • 田玉 紘史, 山田 浩樹, 幾瀨 大介, 富岡 大, 岩波 明, 稲本 淳子
    2024 年 84 巻 1 号 p. 27-37
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル フリー
    不眠症は罹患頻度が高い睡眠障害である.これまで,不眠症に対してはベンゾジアゼピン受容体作動性睡眠薬が主に使用されてきたが,副作用や,大量服薬,多剤併用・長期投与の問題も指摘されている.そのため,本研究では診療録を基に,2014年1月1日から2021年12月31日まで昭和大学横浜市北部病院精神科救急病棟に入院した全患者の睡眠薬使用の実態を報告し,睡眠薬使用者における多剤使用に関連する因子を特定することを試みた.調査期間に入院した全患者1,696例の診療録から,患者の年齢,性別,診断名,罹病期間,入院時形態,飲酒,喫煙,在棟期間,入院回数,保護室の使用,電気けいれん療法,ハロペリドール点滴使用,入院時の初回処方内容,最終処方内容を集計した.次いで睡眠薬を処方された群のうち単剤群と多剤群を比較し,睡眠薬の多剤処方を目的変数として多変量ロジスティック回帰分析を行った.最終処方で睡眠薬を処方されていたのは946例(55.8%)であった.睡眠薬単剤群654名(38.6%)と睡眠薬多剤群292名(17.2%)を比較すると,睡眠薬多剤群は罹病期間や治療期間が長く,入院回数や,飲酒/喫煙率,障害年金の利用が多かった.疾患別では双極性障害では多剤の睡眠薬が処方された.入院治療を比較すると,任意入院では多剤使用群が多かった.また,2剤以上の睡眠薬使用に関連する因子として,生活保護が負の関連を示したが,喫煙,入院回数,双極性障害,ADHD,自宅退院は正の関連を示した.本研究の結果から,精神科救急病棟の睡眠薬使用患者において多剤群と関連する因子は喫煙,入院回数,双極性障害,ADHD,自宅退院であった.今後は患者の生活習慣に関連する因子や多剤併用となりやすい疾患などに注意し,入院中から包括的な対策を講じる必要があると考えられる.
  • 〜100球の投球前後における肘関節MRI画像の調査〜
    髙橋 知之, 高橋 俊行, 西中 直也
    2024 年 84 巻 1 号 p. 38-47
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル フリー
    繰り返しの投球前後で肘関節内側裂隙間距離の拡大や上肢筋筋力の低下,投球動作中の運動学・運動力学データの変化を報告した文献はあるが,肘関節の磁気共鳴画像診断法(MRI)の変化を調査した文献は少ない.本研究の目的は100球の投球前後でMRIを用いて肘関節内側側副靭帯(MCL)の評価を行うと同時に肘関節内側裂隙間距離や上肢筋筋力,投球動作中の運動学および運動力学的データの変化を調査することである.対象は健常野球経験者11名とした.100球の全力投球前後で肘関節MRI画像の撮影,肘関節内側裂隙間距離・上肢筋筋力・投球動作中の運動学・運動力学データの計測をした.投球前後のMRI画像からMCLの輝度および形態変化の有無を調査し,対応のあるt検定またはWilcoxson検定を用いて内側裂隙間距離,上肢筋筋力,投球動作中の運動学・運動力学データの平均値を比較した.有意水準は全て5%とした.投球前後で明らかなMCLの輝度および形態変化は認めなかった.投球前後で内側裂隙間距離の有意な拡大,ゼロポジション近似肢位における肩外旋筋力の有意な低下を認めた.投球動作中の運動学・運動力学データは変化がなかった.100球程度の投球では,MCLにMRI画像の輝度や形態変化は認められないが,同じくリスクの一因である肘関節内側裂隙間距離の拡大やZero外旋筋力の低下は認められた.投球前後の内側裂隙間距離の有意な拡大はMCLのゆるみの発生を示唆する.しかし形態変化を示唆するMRI画像で輝度変化は認めず,さらに疼痛が発生した者もいなかった.
症例報告
  • 浜崎 泰佑, 平野 康次郎, 木勢 彩香, 溝上 雄大, 竹内 美緒, 洲崎 勲夫, 油井 健史, 新井 晋太郎, 松本 政輝, 石塚 久美 ...
    2024 年 84 巻 1 号 p. 48-55
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル フリー
    原発性頭蓋底腫瘍が鼓室内に進展した稀な2症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.症例1は55歳女性.約30年前より左難聴を自覚していたが放置していた.左癒着性中耳炎を近医で指摘されて受診した.左鼓室内に腫瘤が透見され,生検を目的に試験的鼓室開放術を施行した.切除腫瘍の病理診断は髄膜腫であった.左難聴以外の症状,所見がなく脳神経外科で経過観察としている.症例2は46歳女性.左難聴を自覚し,近医で滲出性中耳炎の診断のもとで加療したが改善せず,当科を受診した.左鼓膜換気チューブ留置術を施行したが,左伝音難聴は改善しなかった.画像検査で,左頭蓋底腫瘤を認めた.脳神経外科で腫瘍塞栓術及び,開頭による腫瘍摘出術を施行した.摘出腫瘍の病理診断は骨巨細胞腫であった.術後の左聴力は術前と著変なく,難聴は残存した.明らかな合併症はなく,経過観察中である.2例とも難聴を主訴とし,診断には画像検査が有用であり,脳神経外科医との連携が大切であった.
第32回昭和大学学士会シンポジウム
バイオメディカルサイエンスの最前線Ⅱ̶ プレミアム科研費採択者の研究戦略̶
講演
臨床報告
  • 竹内 抄與子, 吉田 玲子, 有泉 裕嗣, 桑山 隆志, 角田 卓也, 中村 清吾
    2024 年 84 巻 1 号 p. 82-93
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/07
    ジャーナル フリー
    我が国では,2019年6月にがん遺伝子パネル検査が保険収載され,昭和大学病院では,2020年7月よりがん遺伝子パネル検査が開始された.2022年12月までに160例を実施,エキスパートパネル(以下,EP)到達例は159件で,そのうち84例(52.8%)に遺伝子変異に基づく治療が推奨され,15例(18%)が薬剤投与に至った.しかし,EP到達例のうち15例(9.4%)が推奨治療を提示されたものの提示から3か月未満で死亡されていた.また,生殖細胞系列由来が疑われる病的バリアント(以下,PGPV)として遺伝外来受診を推奨されたのは28例(18%)で,そのうち19例(68%)が遺伝カウンセリングを受け,11例(39%)が遺伝学的検査を受検,6例(21%)が遺伝子変異陽性であった.この結果から,幅広く該当する治療を探索するがん遺伝子パネル検査は,適切な時期に行うことが治療到達性に重要であると考えられた.また,遺伝性疾患は,患者や家族にとって重要な情報でありケアを受けられることが望まれ,今後はPGPVを示唆された患者全員が遺伝カウンセリングをはじめ必要なサポートが受けられるように改善していく必要がある.そのためには,薬剤や治験,遺伝の専門家の確保や育成,診療システムの改善が重要である.
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