昭和学士会雑誌
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79 巻, 5 号
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特集:病院と地域をつなぐ患者支援のあり方
講演
原著
  • 船登 雅彦, 蜂須 貢, 落合 裕隆, 芳賀 秀郷, 大林 真幸, 上間 裕二, 三邉 武幸
    2019 年 79 巻 5 号 p. 609-615
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー
    口腔内装置(硬質素材)の使用によりパワーリフティング競技国際大会におけるパフォーマンスが向上したとされる報告がある.口腔内装置の効果についての詳細なメカニズムは解明されておらず,パワーリフティングにおける口腔内装置の装着によるバーベル挙上時のパフォーマンスへの影響を検討する必要がある.そのためにはバーベル挙上時の動作を解析する必要があり,信頼性および正確性において3次元モーションキャプチャーの使用が有効である.しかし,3次元モーションキャプチャーを備えた研究施設内においては,パワーリフティングにおけるバーベル挙上時の動作測定は重いバーベルを落下させるため困難であり,トレーニングルーム内で簡便に動作測定を行うことが重要となる.今回,研究用として市販されているウェアラブルセンサーの加速度/ジャイロセンサー付きメガネに市販の加速度センサーを組み合わせ,身体各部位およびバーベルの加速度データを同時に測定するシステムを構築した.本研究の目的は,パワーリフティングにおけるバーベル挙上時の身体各部位およびバーベルに発生する加速度を測定する際の加速度測定システムのデータを検討することである.日常的にウェイトトレーニングを実施している健常男性(10名)を対象とした.試技はパワーリフティング競技のうちデッドリフトとし,加速度/ジャイロセンサー付きメガネにより頭部の,三軸加速度センサーにより腰背部とバーベルの加速度を測定した.試技は3回行い,各加速度センサーの測定データについて検討を行った.デッドリフトにおけるバーベル挙上経路は矢状面において垂直方向だけでなく,S型カーブに近い.そこで,3軸加速度センサーから得られる加速度(x(ACC_X),y(ACC_Y)とz(ACC_Z)軸成分)のうち上下および前後方向を対象と し,バーベルでは(ACC_X, ACC_Y)を対象とした.静止時の安定した2秒間における加速度の平均値(ACC_Xm, ACC_Ym)を求め,基線を補正した加速度成分(ACC_X-Xm, ACC_Y-Ym) に変換後,合成加速度(√(ACC_X-Xm)2+(ACC_Y-Ym)2)の挙上方向の最大ピーク値をピーク加速度とした.統計解析は頭部については反復測定による分散分析を,腰背部およびバーベルについてはフリードマン検定を行った.身体各部位とバーベルのピーク加速度は,3回の試技において統計学的有意差を認めなかった(頭部:p=0.941,腰背部:p=0.074,バーベル:p=0.371).複数の加速度センサーを使用した加速度測定システムにより測定した複数回のデッドリフトの試技におけるピーク加速度は一定の傾向を示さなかった.新たな加速度測定システムを使用することにより,今後,パワーリフティング選手の試技におけるピーク加速度から口腔内装置(スポーツマウスガード)のパフォーマンスへの影響を検証することが可能であると考えられた.
  • ─多職種の協働推進を目的として─
    大﨑 千恵子, 三邉 武彦, 池田 尚人, 福地本 晴美, 大屋 晴子, 福村 基徳, 岩根 裕之, 下司 映一
    2019 年 79 巻 5 号 p. 616-626
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー
    各種医療専門職者の組織コミットメントの特徴を明らかにし,チーム医療における医療専門職間の協働推進に資することを目的とした.対象はA大学附属病院の7施設に所属する看護師,助産師,薬剤師,診療放射線技師,理学療法士,作業療法士,3,443名である.Allen & Meyer(1993)による「3次元組織コミットメント尺度:日本語版」を用いて,情動的コミットメント(Affective Commitment:AC)8項目,継続的コミットメント(Continuance Com-mitment:CC)8項目,規範的コミットメント(Normative Commitment :NC)8項目について調査した.看護職群と他職種群にわけて,職種間および職種ごとの組織コミットメントの特徴,および職位,勤続年数との関連を比較した.2,109名(61.4%)から回答が得られ,そのうちの有効回答は2,018名(95.7%)から得られた.2,018名の内訳は,看護職1,772名(87.8%),他職種246名(12.2%)であった.看護職群と他職種群の比較では,3要素すべてにおいて看護職群は他職種群よりも得点が有意に低かった (p <0.05).看護職群の組織コミットメント得点は,CC,AC,NCの順に高く,他職種群ではCC,ACが同程度でNCより優位に高かった(p <0.05).看護職者と他職種者ともに,ACおよびCCの得点は職位を有する場合が有意に高かった(p <0.05).また両群ともに勤続年数の長期化に伴い組織コミットメント得点が上昇する傾向を認め,なかでもACの上昇傾向が強かった.看護職者は他職者と比べて組織へのコミットメントが低く,特にACが顕著に低かった.職種ごとの検討では,看護職者は継続的要素による組織へのコミットが最も強く,一方で他職種者は情動的および継続的要素による組織へのコミットメントが同程度に強く,職種により組織へのコミットの仕方が異なることが明らかとなった.職位を有する場合の組織コミットメントは職種に関わらず同傾向であった.組織への在籍期間が長いほどACが高まるのは,職種に共通した傾向であった.多職種との協働に不可欠な各種医療専門職者の自律性を高め,チーム医療における共通の目標を達成するためには,組織コミットメントの要素のなかでもACがもっとも影響をもつと推察された.多職種協働を推進するためには,とくに看護職者に対して協働に間接的に関与するACが高まるような関わりが必要であり,入職早期から各々の実践能力に応じて任せる職務内容を選択した上で,自律的な活動を促進することが重要である.
  • 森川 友喜, 井芹 健, 稲葉 大朗, 林 純一, 柴田 孝則
    2019 年 79 巻 5 号 p. 627-635
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー
    維持血液透析(hemodialysis:HD)患者におけるエリスロポエチン治療に対する低反応性は生命予後不良との関連が報告されているが,HD導入期での検討は行われていない.今回,2011年4月から2016年3月の間に当院でHD導入となった322例を登録,除外基準に基づいて最終的に154例を対象とする後向きコホート研究を行った.1週間当たりの遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン量(rHuEPO)を体重(kg)とHb(g/dl)で割った値をエリスロポエチン抵抗性指数(erythropoietin resistance index:ERI)とし,ERIと各因子の相関,導入後の生命予後との関連について検討した.対象症例154例のうち,男性は112例,HD導入時年齢の中央値は68(61-76)歳,観察期間の中央値は1,204(846-1,839)日であった.ERIと各因子との相関を評価したところ,ERIはHD導入時年齢,性別(女性)と有意な正の相 関,血清鉄値,血清トランスフェリン飽和度(transferrin saturation:TSAT),body mass index(BMI),血清アルブミン値と有意な負の相関を認めた.ERIとの関連が報告されている因子についての重回帰分析では, 性別(女性)と有意な正の相関,TSAT,フェリチン,BMIが有意な負の相関を認めた.HD導入後の死亡は25例(感染症8例,心疾患2例,その他15例)であり,Cox比例ハザードモデルを用いて単変量解析を行ったところ,ERIは全死亡リスク(ハザード比1.07,95%CI 1.036-1.093,p <0.0001)と有意に関連した.多変量解析においても,ERI(ハザード比1.004,95%CI 1.006-1.072,p=0.019)は,HD導入時年齢,カテーテル導入,血清CRP値と共に全死亡リスクと有意に関連した.HD導入期のERI高値は生命予後不良と関連することが示唆された.
  • 濱田 裕子, 笠 ゆりな, 平野 由似, 宇野 裕和, 大歳 晋平, 中田 土起丈, 末木 博彦
    2019 年 79 巻 5 号 p. 636-641
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー
    フラジオマイシン,ゲンタマイシン等のアミノグリコシド系抗菌剤を含有する外用薬は熱傷を含む創傷や感染性皮膚疾患の治療,術後創傷処置などに汎用されている.このうち硫酸フラジオマイシンは感作能を有しているため,アレルギー性接触皮膚炎の代表的な原因物質を網羅しているジャパニーズスタンダードアレルゲンにも含まれている.この硫酸フラジオマイシンの感作率および感作原を検討する目的で10年間のパッチテスト結果を検討した.対象は2009年5月より2018年5月までに昭和大学病院附属東病院,横浜市北部病院,藤が丘病院の皮膚科外来を受診し,硫酸フラジオマイシンのパッチテストを施行された242名(男49名,女193名,16〜92歳,平均年齢52.4,SD±18.7歳)である.パッチテストは試薬を背部の健常皮膚に貼布し,2日後に除去した.判定は貼布2,3,7日後にICDRG(International Contact Dermatitis Research Group)基準に基づいて行い,7日後に+〜+++と判定された者を陽性とした.陽性反応が認められたのは14名(陽性率 5.8%)で,男性に比して女性で高値であった(4.1% versus 6.2%).陽性者の平均年齢は61.8歳で,年代別では60〜69歳の陽性率が最も高く(9.8%),以下,50〜59歳(8.6%),40〜49歳(7.0%),70〜79歳(6.5%)の順で,40歳未満には陽性反応は認められなかった.陽性者14例中10例(71.4%)が接触皮膚炎の患者で,全例で顔面に皮疹が認められた.そのうち眼囲に皮疹が認められた8例は,いずれもステロイドと硫酸フラジオマイシンを含有する眼軟膏による治療歴を有していた.硫酸フラジオマイシンの感作者が高齢者に多いのは医療行為,特に眼軟膏によって感作が成立した可能性が高い.本邦の陽性率は米国(11.4%)よりは低いものの,ヨーロッパ諸国(2.6%)と比較すると高値で,フラジオマイシンを含有する外用薬を減少させたカナダでは感作率も著明に低下している.また,硫酸フラジオマイシン感作者では,硫酸ゲンタマイシンなど他のアミノグリコシド系抗菌剤にも交叉感作を生じうることが知られている.フラジオマイシン系抗菌剤は抗菌作用が期待されて創傷等に多用されているが,第一選択薬になる必然性は認められない.長期間の使用による耐性菌の発生に加え,外用による感作の成立にも注意が必要であり,その使用法について再考を要すると考える.
  • 林 純一, 井芹 健, 稲葉 大朗, 森川 友喜, 柴田 孝則
    2019 年 79 巻 5 号 p. 642-653
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー
    慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者では腎機能正常者と比較して感染症罹患時における予後が不良である.感染症を呈したCKD患者における生命予後を予測するモデルについてはこれまで検討されていない.本研究では,感染症に罹患したCKD患者における28日後の生命予後を予測する新たなスコアリングモデルの作成とその検証を目的とした後ろ向きコホート研究を行った.対象は,2015年1月から2年間に当院へ入院した感染症合併CKD患者(n=314)のうち,除外基準に基づいて32例を除外した282例である.対象をスコアリングモデル作成群(derivation cohort:DC,n=186)と検証群(validation cohort:VC,n=96)へ無作為に分割した.DCを用い,ロジスティック回帰分析により予測モデルを作成し,VCにて既存のsystemic inflammatory response syndrome(SIRS)基準,quick sequential organ failure assessment(qSOFA)スコアとの比較検討を行った.DCでの患者背景は,男性80名(43%),中央値 年齢75歳,最も多い感染症は呼吸器感染53名(28.5%),次いで尿路感染症43例(13.7%)で,28日後死亡は28名(15%)であった.単変量解析において28日後死亡と有意に関連したのは収縮期血圧,脈拍(pulse rate:PR),呼吸数,Glasgow come scale(GCS),CKD ステージ,SIRS基準,qSOFAスコア,血小板数,APTT,血清アルブミン,総ビリルビン(T-bilirubin:T-bil),CRP値であった.年齢,性別,糖尿病の有無,および多変量解析で有意であった PR,GCS,T-bil,CKD ステージを用いて新スコアリングモデル(新モデル)を作成した.この新モデルについてVCを用いて検証した結果,新モデル,qSOFAスコアは28日後死亡と有意に関連し,SIRS基準に比し有用であった(新モデルvs SIRS,AUC: 0.82 vs 0.61,qSOFA vs SIRS,AUC: 0.82 vs 0.61,p <0.05).新モデルとqSOFAスコアの予後予測能の差は有意でなかった(AUC: 0.82 vs 0.82,p 0.96).新モデル,qSOFAスコアはともに感染症合併CKD患者の28日後の生命予後予測に有用であることが示されたが,新モデルはその感度においてSIRS基準,qSOFAスコアより優れており,早期診断に有用であると考えられる.
  • ―ラットを用いての作用機序の実験的解析―
    川嶋 昌美, 大滝 周, 浅野 和仁
    2019 年 79 巻 5 号 p. 654-660
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー
    近年,花粉症を代表とするアレルギー性鼻炎の患者は増加の一途をたどり,日本人の約40%が花粉症であると言われている.本症の発症には,肥満細胞に由来するヒスタミンが重要な役割をはたしていることから,抗ヒスタミン薬が治療に多用されているものの,副作用の発現する患者が多くみられることから新たな治療法の開発も望まれている.星状神経節ブロック(SGB)は,スギ花粉症の治療法として見いだされ有効性が報告されているが,治療機序に関しては不明な点が多い.アレルギー性鼻炎の発症にはサブスタンスP(SP)等の神経ペプチドが重要な役割をはたしていることが知られていることから,今回アレルギー性鼻炎ラットを用いてSGBの鼻粘膜における神経ぺプチド産生におよぼす効果を検討した.5週齢の雄SD系ラットに10%トルエン・イソチオシアネート(TDI)を1日1回,5日間点鼻することによって感作ラットを作製した.TDI感作1日目に,被験ラットの両側頸部星状神経節を切除した.切除4日目にTDIを点鼻,アレルギー症状の発現と鼻汁中のSP濃度をELISA法によって測定した.感作ラットのSGBの施行により,TDI攻撃点鼻によるクシャミ,鼻掻き回数ならびに鼻汁中SP濃度が対照ラットと比較し,統計学的に有意に減少した.上述した結果はSGBが鼻粘膜における神経原性炎症を抑制し,アレルギー鼻炎症状の発現を調節している可能性があることを示唆している.
  • 番場 純子, 荒木 和之, 石田 秀樹
    2019 年 79 巻 5 号 p. 661-666
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー
    歯科用コーンビームCT(以下CBCTと略す)は骨組織の描出に優れており,高コントラスト分解能が重要である.しかしながら,歯原性病変の内部性状等を見る場合は低コントラスト分解能の評価も重要になってくる.低コントラスト分解能は一般に画像のノイズの影響を大きく受ける.画像のノイズはX線量が多いほど少なくなる.一方,CBCTではメーカにより投影データに自動で感度補正がかけられているがその内容は公開されていない.X線量が多いから低コントラスト分解能が高いと言えるかどうかは分からない.本研究では,CBCTの低コントラスト分解能が撮影条件によってどのように変化するかを明らかにする目的で検討を行った.低コントラスト分解能用ファントムを2種類作製した.両者ともにアクリル板から出来ており円筒状を呈している.上部は直径4cm,厚さ1cmのアクリル板を使用し,同部には0.5mm〜1.0mmの孔が0.1mm刻みでそれぞれ3つずつ空いている.孔の間隔は孔の直径とした.孔内部にはポリウレタン樹脂(0HU相当)にハイドロキシアパタイトを加えアクリルに対して約+100HUとした物質(200HU相当)と,ポリウレタン樹脂すなわちアクリルに対して約-100HUの物質を充填した.機種は3DX multi-image micro CT FPD (Morita, Kyoto, Japan)を使用した.撮影は空気中で行われた.ファントムはXY軸ではField of view(以下FOVと略す)の中央に,Z軸では孔の空いているファントム上部アクリル板部をFOVほぼ中央に配置した.また平行性は水準器およびCBCTのビームにより測った.それぞれのファントムに対して,電圧と電流を変えた12条件を3回ずつ撮影した.得られたデータの再構築は,装置メーカによって提供されたソフトで行った.画像はDICOM形式で保存し,ImageJ(ImageJ 1.45s, Natioanl Institutes of Health, Bethesda, USA)で取り込み,表示した.軸位断面の複数枚に関してコントラスト分解能の視覚的評価を行った.評価は歯科放射線科医2名で,合意のもと決定した.高濃度の物質を充填したファントムでは,5mA以上の条件で0.5mmの孔まで観察できた.低濃度の物質を充填したファントムでは,80kV 8mAおよび80kV 10mAで0.7mmの孔まで観察できた.結果から,全体的に高濃度の物質を充填したファントムの方が分解能が高かった.また高濃度の物質を充填したファントムの結果では,線量が増すと小さな孔まで観察でき,低コントラスト分解能は線量と相関していた.しかしながら,低濃度の物質を充填したファントムでは,一定の傾向は認められなかった.従って,全ての領域で同様の補正が行われなかったこと,また低コントラスト分解能はノイズのみで決定されるものでなく,複数の要因が関与していることが示唆された.さらに,両濃度間でアクリル部分の画像には大きな違いは認められず,低濃度の物質に対して補正がうまく行われなかったことが推測された.高濃度物質と低濃度物質のX線吸収の差による補正の違いなどがその理由ではないかと考えられたが理由ははっきりしておらず,今後の検討課題である.
  • ―状態が安定している外来患者を対象とした分析―
    富田 真佐子, 福地本 晴美, 鈴木 浩子, 芳賀 ひろみ, 河口 良登, 竹内 義明, 川上 由香子
    2019 年 79 巻 5 号 p. 667-675
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー
    炎症性腸疾患患者の健康関連QOLを包括的視点と疾患特異的視点から明らかにし,炎症性腸疾患と共にある患者のQOL説明モデルを示すことを目的とする.対象者は,都内にあるA大学病院消化器内科に通院中の外来患者63名.質問紙法により,対象者の属性(疾患名,性別,年代,社会活動,治療年数,治療内容,手術歴),包括的尺度としてSF-8,疾患特異的尺度として著者が作成したIBD患者のQOL尺度19項目を用いた.分析は,各項目について記述統計量を算出し,SF-8の平均値について国民標準値および既存の文献と比較した.QOLモデルを作成するためにSF-8とIBD患者のQOL尺度各項目とのピアソンの相関係数を算出した.QOL尺度は5つの下位概念ごとに因子数を1とした主成分分析によって合成した成分得点を用いた.これらの相関係数を参考にモデル図を作成し,パス解析を行い,総合効果を算出した.倫理的配慮として調査は匿名にて行い,書面にて調査の目的と方法,自由意志での参加,拒否による不利益がないことについて説明した.本研究は昭和大学保健医療学部倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:403).対象者は,潰瘍性大腸炎51名(81%),クローン病12名(19%),男性28名(44%),女性35名(56%),年齢は40歳代が最も多く18名(29%),平均治療年数平均11.7±8.9年,治療内容は,5-ASA薬46名(73%)が多く,開腹手術経験ありは8名(13%)であった.SF-8の8つの概念のスコアの平均は50前後で,PCS(身体的サマリースコア)は50.1±6.4,MCS(精神的サマリースコア)は48.6±7.0であった.国民標準値と比較したところほとんど有意な差はなかった.SF-8とQOL尺度の5つの下位概念の成分得点との相関係数は±.218〜.698であった.SF-8のPCSとMCSを最終的な従属変数とした健康関連QOLモデルを描いたパス解析を行った.総合効果では,「心理社会的生活への負担」に最も影響するのは「食生活上の困難さ」であり,健康関連QOLのPCSとMCSに最も影響するのは「心理社会的生活への負担」であった.対象者のSF-8のスコアは国民標準値とほとんど差がなく,下痢や腹痛による苦痛が少なく食生活上の困難も少ない者は,健常者と大差ないQOLを維持できることが示された.パス解析の結果から,仕事や心理的な負担,食生活の困難さを感じている者は健康関連QOLが下がるが,周囲からのサポートは活力をもたらし,心理社会的負担を軽減させ,前向きに病いと付き合うことにつながることも示された.
症例報告
  • 芳賀 ひろみ, 大﨑 千恵子
    2019 年 79 巻 5 号 p. 676-682
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー
    急性期病院の一般病棟において,心電図モニター(以下,モニター)のテクニカルアラームの低減を目指した看護師への安全教育と新たなモニター管理体制の構築により,アラーム対応遅延による医療事故を回避することを目的とする.A病院のB病棟(40床)に配属する看護師33名に対して,モニターアラームに関する安全教育を行い,新たなモニター管理体制を構築した.安全教育の内容は,モニター装着の必要性とアラーム設定,モニターの基本設定,電極の適切な管理などである.また,新たなモニター管理体制の構築として,アラーム設定基準の明確化やアラームの上下限設定条件の定期的な確認のほかにモニターアラーム監視責任者を設定し,モニター管理体制の改善を図った.これらの効果の測定は,①モニター装置に蓄積されたテクニカルアラームの発生頻度,②モニター管理チェックリスト(以下,チェックリスト)の実施割合,③アラーム対応遅延に関連したインシデント・アクシデント発生件数,の3点であり,介入前後で比較した.チェックリストの実施割合は78.6%から98%に上昇し.テクニカルアラームは55%の軽減を認めた.アラーム対応の遅延によるインシデント発生はなく,アクシデントは前年度4件から0件へと顕著に減少した.テクニカルアラーム低減への安全教育および新たなモニター管理体制の構築により,早急に介入の必要がないアラーム音の減少および緊急性の高いアラームへの対応が促進された結果,アラーム遅延による医療事故の予防につながった.
  • ―大学院保健医療学研究科医療安全管理学特論の成果物―
    福地 邦彦, 藤後 秀輔, 永倉 良美, 神田 夏美, 白戸 信行, 百石 仁美
    2019 年 79 巻 5 号 p. 683-689
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー
    昭和大学大学院保健医療学研究科「医療安全管理学特論」では,受講者は現場勤務を経験しているため,総論を学習した後は事例解析に取り組み,問題点の抽出とそれに基づく今後の改善点について議論した.都内S大学病院において201X年1月から12月までのアクシデント61事例およびインシデント82事例を対象とし,PmSHELL解析(Patient, Management, Software, Hardware, Environment, Liveware(本人),Liveware(周りの人))を行い,ヒューマンエラー(無理な相談,錯誤,失念,能力不足,知識不足,違反)が関与する場合はエラーの種類について解析した.アクシデントにおいてインシデントに比べ,Pの関与が高い傾向(p=0.069)があり,一方,L本人(p=0.009),L周りの人(p<0.0001)およびH(p=0.001)の関与は有意に低率であった.アクシデントとインシデントの分岐は患者への影響で決定されるため,患者の状態(P)の関与が高かったと考えられた.また,アクシデントは患者の変化が急で,インシデントでは患者の変化が少なく見逃しやすいためLの要因がインシデントにおいて有意に高くなったと考えられる.ヒューマンエラーの関与については,アクシデントとインシデントにおいて「違反」がそれぞれ38%,48%,「錯誤」が23%,31%であった.違反と錯誤が多いことは,思い込みや,複雑すぎるマニュアル,慣れによるマニュアル手順からの逸脱があると考えられた.解決の一つとして,現場でのコミュニケーションの充実が挙げられた.
第354回昭和大学学士会例会(医学部会主催)
第355回昭和大学学士会例会(薬学部会主催)
第356回昭和大学学士会例会(歯学部会主催)
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