日本看護技術学会誌
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12 巻, 3 号
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原著
  • ―日本における褥瘡ケアの普及過程から―
    佐々木 杏子
    2014 年 12 巻 3 号 p. 4-13
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2016/07/08
    ジャーナル フリー
     本研究は,看護技術のイノベーションといえる褥瘡ケアの日本における普及過程を,文献レビュー,普及を裏付ける資料,インタビュー調査により明らかにし,その結果をロジャーズのイノベーション普及理論に基づき分析を行い,普及に影響した要因を明らかにする事例研究である.褥瘡ケアの普及の第一の促進要因として,課題とする現象に深く関心を寄せ活動を行う複数のチェンジ ・ エージェントの存在があげられた.チェンジ ・ エージェントを核として,現場で技術を示すことのできるローカルオピニオンリーダーが多数存在し実践活動を行っていること,マスメディアや学会等をはじめとするさまざまなコミュニケーション ・ チャンネルを有効活用したことも普及に関連した.また,イノベーションの科学的根拠を蓄積する研究が,基礎研究も臨床研究も積み重なっていなければならないことも示された.褥瘡ケアに特有な要因として,長年の褥瘡ケアへの不全感,成果が目に見えることがあげられた.
  • 佐々木 新介, 市村 美香, 村上 尚己, 松村 裕子, 森 將晏, 荻野 哲也
    2014 年 12 巻 3 号 p. 14-23
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2016/07/08
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,末梢静脈穿刺に効果的な上肢温罨法に関する検証である.
     健常人を対象に左肘窩部の肘正中皮静脈を評価血管として,温罨法の有無による血管怒張効果をクロスオーバー試験で比較した.上肢への温罨法は,肘窩部より末梢側に対して,加温部の皮膚表面温度が40±2℃になるように15分間実施した.静脈怒張の評価は,駆血圧の強さにも影響を受けるために,マンシェットを用いて60mmHgに統一した.その結果,皮膚表面温度,血流量,血管断面積とも有意に増加することが示され,温罨法による血管断面積の増加率は16.8%であった.また,指尖部皮膚表面温度が低下している場合,血管断面積の増加率が大きく,上肢温罨法を実施する際には,その適応を見極めることが重要であることも示唆された.以上より,40℃前後で15分間の上肢温罨法は,静脈怒張に有効であることが明らかとなった.
  • ―洗髪車と比較して―
    横山 友子, 杉本 吉恵, 中岡 亜希子, 田中 結華, 高辻 功一
    2014 年 12 巻 3 号 p. 24-33
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2016/07/08
    ジャーナル フリー
     洗浄剤を使用せずナノミストシャワーを用いた洗髪 (NMS) の有用性について,洗浄剤を用いた洗髪 (TS) と比較するため,健康な成人35名 (31±9歳) を対象に,NMSとTSの両方を実施した.有意水準は5%とした.
     ATP値では,NMSは洗髪前7381±7171RLUから洗髪後4317±3236RLUに,TSは7763±9977RLUから5921±1782RLUに有意に低下した.皮脂量では,NMSは洗髪前66±30から洗髪後11±9に,TSは93±2から4±2に有意に低下した.ATP値と皮脂量ともに両洗髪間に有意な差はなかった.洗浄感は,両洗髪間に有意な差はなかったが,NMSは「音」「爽快感」「におい」においてTSより有意に劣っていた.所要時間は,TSが8分45秒±1分22秒に対し,NMSは3分52秒±34秒で有意に短かった.使用湯量は,TSが18.5±2.2Lに対し,NMSは4.4±0.8Lで有意に少なかった.
     以上より,NMSはTSと同程度の洗浄効果があり,少量の湯と短時間で洗髪できるため臨床での有用性が示唆された.
研究報告
  • 江上 千代美, 長坂 猛, 近藤 美幸, 井垣 通人, 田中 美智子
    2014 年 12 巻 3 号 p. 34-39
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2016/07/08
    ジャーナル フリー
     本研究は冷え症への援助の基礎研究として,健常女性を対象に温罨法を行った場合の末梢と心臓の自律神経指標の関係について検討した.温罨法は腰部に120分間実施し,表面皮膚温とRR間隔を測定した.末梢の自律神経指標は皮膚表面温度較差,心臓の自律神経指標はRR間隔を測定し,ローレンツプロット解析によって算出した交感神経と副交感神経指標を用いた.その結果,120分時点の心臓交感神経指標は罨法条件が罨法無条件より低かった.皮膚表面温度較差は120分時点で,罨法条件が罨法無条件より縮まったが有意差はなかった.副交感神経指標は120分時点で両条件ともに開始時点より有意に上昇したが,条件間に有意差は認められなかった.末梢と心臓の交感神経指標の関係は両条件ともに相関が認められなかった.これらより,温罨法を行った場合の末梢と心臓の自律神経指標の関係は交感神経地域性応答が起きているものと推測された.
  • 髙植 幸子, 林 智世
    2014 年 12 巻 3 号 p. 40-49
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2016/07/08
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,切迫性尿失禁をもつ外来患者用のコーチングを用いた自己管理指導のプログラムの効果を評価することである.切迫性尿失禁をもつ21名の外来患者を対象者とした.自己管理指導をGROWモデルで分析しコーチングの基本要素の有無を分析した.1ヵ月後,自己管理指導前後の,排尿症状,自己管理の実施頻度,IQOLを比較した.1名をのぞくすべての対象者がGROWモデルによるコーチングの基本要素のいくつかを言語化していた.自己管理指導後,有意に自己管理の実施頻度が高まり (p <0.001),1回排尿量は増加 (p <0.001) し,昼夜の排尿回数は減少し (p <0.05,p <0.01),IQOLは上昇 (p <0.05) した.患者のIQOLと関連していたコーチングの要素は,「資源の発見」 (p <0.001) と「選択肢の想像」 (p <0.05) であった.
     切迫性尿失禁をもつ外来患者用のコーチングを用いた自己管理指導のプログラムは,患者の自己管理の促進効果,症状低減効果,QOLの向上効果が認められた.
  • 青木 紀子
    2014 年 12 巻 3 号 p. 50-57
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2016/07/08
    ジャーナル フリー
     ベッド上で便器や尿器を用いたときの排泄時の姿勢は,腹圧がかけやすくなるなどの理由から上半身を挙上するとされている.適切な挙上角度は身体的な安楽なども考慮され60°くらいとされている.しかし,看護技術書にはさまざまな挙上角度の記載があり,明確にはされていない.そこで,ベッド上で便器を挿入し上半身の挙上角度を変化させたときの腹圧のかかり方について,自覚的な腹圧のかけやすさと腹部表面筋電図から検討していくことを目的とした.18~22歳の健康な若年成人女性14名 (平均BMI,21±3.08) を対象に,ベッドの上半身の角度を0°,15°,30°,45°,60°,75°に変化させたときの安静呼吸時と最大腹圧を3秒かけたときの腹部表面筋電図を連続的に測定した.その結果,腹部表面筋電図は自覚的に腹圧がかけやすい拳上角度の順位別でも挙上角度別でも有意差はみられなかった.つまり,自覚的な腹圧のかけやすさと腹部表面筋電図との関連はみられず,腹圧のかかりやすい挙上角度は特定されず個別的である可能性が示された.
  • 松村 千鶴, 深井 喜代子
    2014 年 12 巻 3 号 p. 58-63
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2016/07/08
    ジャーナル フリー
     わが国の看護実践の場では,医療の高度化や在院期間の短縮から清潔ケアは軽視される傾向にある.その結果として,清拭は蒸した綿タオル数本で済まされることが多く,介助シャワー浴や介助入浴は実施されないまま退院することが増えている.果たしてこれで患者のニードが満たされているかは疑問である.そこで本研究では,看護師から清潔ケアを受けている患者に面接を行い,患者がそれをどのように認識しているかを検討した.
     言語的コミュニケーションが可能で,全面介助で看護師による清潔ケアを受けている入院患者6名に半構造化面接を行い,患者の言葉を質的記述的手法で分析した結果,以下のことが明らかになった.
     患者は清潔ケアに対して【きめ細やかなケアに対する満足感】【適切な時間と方法に対する満足感】を得ていた.しかし,患者は看護師の【粗雑なケアに対する不満】を感じており,【安全 ・ 安楽なケアに対する期待と要望】を抱いていた.以上のことから,患者は自身の存在が看護師から尊重され,安全で安楽な専門技術の提供を望んでいることが明らかになった.
  • 足羽 孝子, 深井 喜代子
    2014 年 12 巻 3 号 p. 64-73
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2016/07/08
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,気管切開患者の摂食・嚥下機能評価尺度開発のための暫定的評価尺度を作成することである.暫定的評価尺度は既存の文献とクリティカルケア領域の専門 ・ 認定看護師の経験から表面妥当性をみたした75項目を抽出した.そして,項目の特徴から,看護師を評価者とする「看護師の観察項目 (43項目) 」と患者が評価者となる「患者への質問票 (32項目) 」に分類し,2つの尺度とした.これらの尺度を用いて,ICU入室中の気管切開患者14名の摂食 ・ 嚥下機能を計18回評価した.「看護師の観察項目」のCronbach α係数は0.94で,「患者への質問票」のCronbach α係数は0.72であった.また,「看護師の観察項目」と「患者への質問票」のスコアの間には有意な相関を認めた (r =0.78,p <0.001,n=18).気管切開患者への標準的な摂食 ・ 嚥下機能評価尺度開発のため,今後,評価対象者を増やすとともに対象の均一化を図り,ツールの有用性を検証していく必要がある.
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