日本看護技術学会誌
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9 巻, 2 号
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原著
  • ―負荷からの回復過程における快不快と自律神経活動の変化から―
    加藤 京里
    2010 年9 巻2 号 p. 4-13
    発行日: 2010/08/20
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     腰背部温罨法は,日常的に行われる看護技術であるが,腰背部温罨法の「気持ちよさ」は,どのような身体の変化を伴うのかまだ明らかになっていない.よって本研究では,不快なストレスからの回復過程を促す腰背部温罨法の有用性を示すために,腰背部温罨法の快の性質を明らかにする.
     対象者は健康な女性であり,実験群 (n=9) は内田クレペリン精神検査の後に,腰背部 (第7頸椎から第4腰椎) に約60℃の蒸しタオルを 10分間受けた.対照群は同一人物が実施した.
     測定指標は,表面皮膚温 (足背部と手掌部) 心拍変動,皮膚電気伝導水準,快-不快と覚醒度である.
     時間経過との交互作用が認められたのは,足背部皮膚温 (p=.047) と快感情 (p=.017) であり,実験群のほうが高く経過した.また,眠気 (p=.020) と手掌部皮膚温 (p=.008) は,腰背部温罨法中に実験群が有意に高かった.心拍変動と皮膚電気伝導水準は群間に有意な差はみられなかった.
     腰背部温罨法により,気持ちのよい眠気が生じ,皮膚交感神経が抑制され,その結果として末梢皮膚温が上昇したと考えられる.腰背部温罨法はストレス負荷後の心身の休息を促す方向に働く可能性がある.
研究報告
  • 大西 由紀, 杉本 吉恵, 網島 ひづる, 大西 英雄
    2010 年9 巻2 号 p. 14-20
    発行日: 2010/08/20
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     安全で効果的な湯たんぽの貼用方法の基礎的資料を得るために,湯温 60℃と 80℃の湯たんぽを用いて寝床内の保温範囲,快適な温度への到達時間 ・ 持続時間,保温量などの寝床内温度の経時的な変化を測定し比較検討した.その結果,寝床内の温度は両湯温とも実験開始から 10分までに急激に上昇し,その後緩やかに下降した.また,湯たんぽ周囲から離れるほど寝床内温度は低下し保温量も少なくなることが明らかとなった.さらに,快適な寝床温度 (32~34℃) は湯温 60℃では 5 cm,80℃では 10 cmの位置に湯たんぽを貼用することで約 20分後に得られ,約 4.5時間程度持続することが判明した.一方,60℃でも湯たんぽの表面温度は最高で 44.5℃まで上昇し,43℃以上の表面温度が 110分間持続していることから低温熱傷の危険性があると考えられる.安全で効果的な貼用方法を検討するためには寝床内温度の変化を考慮することが重要である.
  • 勝又 梢, 長谷川 美津子, 大西 美知子
    2010 年9 巻2 号 p. 21-28
    発行日: 2010/08/20
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     【目的】重度介護の在宅療養者を介護する家族の QOLについて,Schedule for the Evaluation of Quality of Life-Direct weighting (SEIQoL-DW) の評価尺度を使用し,家族介護者の QOLを明らかにすることを目的とする.【方法】対象者は同意の得られた,経管栄養療法実施中の要介護5の在宅療養者の家族介護者 (A群) 12名と都 D区内の地域高齢者 (B群) 16名である.方法は半構造化面接法により対象者が生活の中で最も大切なもの,と考えている事柄を 5つ聴取し,内容を代表する生活領域の名称 (Cue) をつけた.各 Cueの満足度レベルは VAS法で行い,重視度の測定は重みづけ専用回転盤 (ディスク) の面積比率 (目盛) の数値を用いた.QOL総合指標の SEIQoL-indexの算出方法は,各 Cueの満足度と重視度の積の和を 100で除し,合計した.【結果】Cueの頻度が10%以上を示した中で,満足度が最高値の Cueは A群「介護」,B群「家族」であった.重視度が最高値の Cueは A群「介護」,B群「自分の健康」であった.Cueの満足度と重視度が平均値以上の領域 (高満足 ・ 高重視域) には A群「介護」「家族」「配偶者への愛情」,B群では「家族」が区分された.SEIQoL-indexはA群62.6±16.7,B群 71.5±19.0であり,両群の差は認められなかった.【考察】家族介護者群は「介護」「家族」「配偶者への愛情」を大切に思って重視しており,満足感も得られていると推察される.介護中心の生活の中で介護者自身のレジャー活動等の制約はあるが,総合的な QOL指標は介護をしていない地域高齢者と比較して,低くないことが明らかとなった.
  • 廣井 寿美, 金子 有紀子, 柳 奈津子, 小板橋 喜久代
    2010 年9 巻2 号 p. 29-38
    発行日: 2010/08/20
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     乳幼児の背中をトントンと刺激する入眠の援助は,古くから日常的に行われ,その経験的効果が知られている.これは,マッサージとは異なるリズミカルな刺激であり,一定の周波数をもつ振動である.この周期的なリズムによる刺激が及ぼす覚醒意識レベルの変化とリラクセーション効果を検証するため,健常な女子学生 43名を対象に因果仮説検証実験を行った.それぞれの被験者に対し,介入実験と対照実験の両方を行った (クロスオーバー法).介入実験は,右側臥位の被験者の背部に対して,約 0.33~0.67 Hzのリズム刺激 (約 30回 / 分) を 10分間行った.対照実験は刺激を行わず右側臥位で 10分間臥床した.自律神経活動は,介入実験に LF/HF,HRの低下が認められた.実験開始 1分後の BIS indexで,両実験間で有意差が認められた.リラックス尺度,JUMACL,内省報告より,リラックスを示す結果が得られた.交感神経活動の鎮静化が示唆されるとともに,主観的なリラックス効果が得られたと考える.
  • 細野 恵子, 市川 正人, 田上 恭子, 井垣 通人
    2010 年9 巻2 号 p. 39-47
    発行日: 2010/08/20
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     月経期間中に腰部あるいは下腹部に痛みを自覚する健康な若年女性各 8名を対象として,腰部あるいは下腹部への長時間の湿熱加温による月経随伴症状緩和の有効性を検討した.温罨法用具として蒸気温熱シート (めぐりズム蒸気温熱パワー ®腰腹用ワイドシート : 花王社製) を使用し,評価尺度には痛み評価として「Visual Analog Scale (VAS) 」「改変型日本語マギル痛み質問表 (MPQ) 」,月経随伴症状評価として「月経随伴症状日本語版 (MDQ) 」を使用した.蒸気温熱シートによる腰部加温あるいは下腹部加温は,痛み強度 (VAS) と MPQ,MDQにおいて有意な変化 (p< 0.05) が認められた.また,罨法部位による効果の比較では,VASおよびMPQ,MDQの数値に有意な差が示されず,腰部と下腹部適用に効果差はなく,どちらにおいても有効性の得られることが確認され,若年女性の月経随伴症状に対し有意な症状改善をもたらすことが示された.さらに,蒸気温熱シート適用により皮膚や循環機能への顕著な影響もなく,本温罨法の安全性も示唆された.
  • 八板 慈
    2010 年9 巻2 号 p. 48-54
    発行日: 2010/08/20
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     上部消化管内視鏡検査において効果的な咽頭麻酔を行うことは検査する患者の安全 ・ 安楽につながり,確実な診断を行ううえでとても重要となる.日ごろの看護のなかで,苦痛の訴えを聞くことやなかなか挿入できないなどを目にして来た.内視鏡技師研究会などにおいても,効果的な咽頭麻酔について数々の検討がなされている.アイス麻酔剤の形状やフレーバーでの味つけ,咽頭麻酔時の好ましい体位 ・ 時間などを考慮 ・ 工夫した.上部消化管内視鏡検査を受けた211名を対象にアンケートにより効果の検証を行った.その結果,アイス麻酔剤を使用した効果的な咽頭麻酔の方法が確認できた.
  • ―車いす走行動態と介助負担および主観的乗り心地について―
    能登 裕子, 村木 里志
    2010 年9 巻2 号 p. 55-66
    発行日: 2010/08/20
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     本研究は介助者および乗車者を考慮したスロープ昇降介助操作方法を提案することを目的とし,勾配の大きさをふまえた昇降操作方法と,介助負担および乗り心地との関係を検討した.被験者は,若年者群15組と高齢者群17組の2群を設けた.操作条件は①昇り,②降り前向き,③降り後ろ向きの3種類とし,勾配条件は1/25から1/6の7条件に設定した.測定項目は車いすの走行動態,乗車者の乗り心地および介助者の介助負担についての主観評価とした.介助者が高齢の場合,昇り ・降りとも1/8および1/6勾配は介助者の負担が大きく,操作不可や停止困難な場合があり危険であることが示された.また,両群とも勾配が大きくなると介助者の操作の容易性は低下し,乗車者の恐怖不安感は増大,総合的な乗り心地は低下した.車いすの速度変動は,いずれの操作においても若年者に比べ高齢者のほうが大きい傾向がみられた.一方,高齢介助者の降り操作では,前向きに比べ後ろ向きのほうが速度変動が小さかった.以上のことより,介助者がスロープ勾配を昇降する場合,勾配の大きさと介助者の年齢および操作方法により走行動態や介助負担および主観的乗り心地に違いが生じることが示唆された.
資料
  • 栗田 愛, 佐藤 好恵, 篠崎 惠美子, 中野 隆, 藤井 徹也
    2010 年9 巻2 号 p. 67-73
    発行日: 2010/08/20
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     本研究は,グリセリン浣腸時に有害事象のあった事例から,症状および出現時期に加えて,直腸の形態を中心にカテーテル挿入の長さと損傷部位について分析した.対象は,1979~ 2008年に発表され,損傷部位が記載されていた症例 32件とした.対象者の既往疾患は消化器系疾患が多く,浣腸実施後に多くみられた身体症状は血色素尿 ・ 溶血,下血 ・ 出血であった.また,その大半が浣腸当日から翌日までに出現していた.よって,消化器系疾患をもつ者への浣腸には特に注意が必要であり,浣腸実施から翌日まで血色素尿 ・ 溶血,下血 ・ 出血の有無について観察を行う必要があると考えられる.また,有害事象のあった事例のうち,カテーテル挿入の長さは5.1~5.5 cmが 10件で最も多く,5 cm以上の挿入は避けるべきである.損傷部位としては,前壁~左壁~後壁に損傷が多かった.よって,左側臥位,シムス位での実施時に損傷が起こりやすい可能性を考え,カテーテル挿入の長さは 4.1~4.5 cmとすることが望ましいと考えられる.
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