Na
+, K
+-ATPaseは, すべての動物細胞に存在し各組識において重要な役割を果たしている.Na
+, K
+-ATPaseが全身麻酔薬および関連薬によって阻害されることは, 麻酔作用および副作用に関わっているとも考えられ, 著者らは種々の全身麻酔薬およびその関連薬がNa
+, K
+-ATPaseに及ぼす影響と作用機構について調べた.Na
+, K
+-ATPaseをウサギ腎から分離精製し, 全身麻酔薬がNa
+, K
+-ATPase活性に及ぼす影響と, リン酸化中間体 (EP) の生成量, EPのK
+およびADPの感受性に与える影響について調べた.その結果, フェンタニルを除くすべての麻酔薬および関連薬は, 濃度依存性にNa
+, K
+-ATPase活性を阻害した.揮発性麻酔薬においては50%阻害濃度 (IC
50値) と臨床的麻酔の強さ (MAC値) の間に強い相関関係がみられた.つぎに阻害メカニズムを調べるために, 各麻酔薬に対するNa
+, K
+-ATPase活性とその部分反応であるNa
+-ATPase活性およびK
+-
pNPPase活性の感受性を比較した.その結果, バルビタール類, ベンゾジアゼピン類, ドロペリドールおよび塩酸ケタミンにおいてK
+-
pNPPase活性の感受性が最も低かったのに対して, 揮発性麻酔薬では最も感受性が高かった.さらに, EP形成に与える影響が各薬剤によって異なっていた.すなわち, イソフルランおよび塩酸ケタミンはEP形成を抑制しなかったのに対して, ベンゾジアゼピン類であるミダゾラムはEP形成を抑制した.さらに, EPのK
+に対する反応性が塩酸ケタミンでは増加したのに対して, イソフルランでは低下していた.以上の結果から, 全身麻酔薬および関連薬のNa
+, K
+-ATPaseに対する阻害メカニズムはそれぞれの薬物で異なることが示唆された.
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