本研究の目的は,産褥女性の精神的年代間較差を比較,検討することである.対象は,当院に通院,分娩した169例の日本人女性である.産前・産後に質問用紙を配付し,自己記人後に回収した.母性形成の判定には花沢による母性理念判定尺度を,対児感情の判定には花沢による対児感情判定尺度を,マタニーティーブルーズ(以下MBと略)の判定にはマタニーティーブルーズ自己質問表(日本語版)を,産後うつ病の判定には日本語版エジンバラ産後うつ病自己調査票を使用した.質問用紙は回収後,20歳未満(A群),20歳以上30歳未満(B群),30歳以上40歳未満(C群)に分け,B,C群はそれぞれ初産婦(B1群,C1群),経産婦(B2群,C2群)に分けた.母性理念判定尺度を使用した結果,母性形成において肯定項目は,分娩前,若年群ほど高得点になる傾向があり,分娩後は各群とも同様に点数が減り,年代差がほとんど消失した.母性形成において,10〜20歳代の低年齢群で伝統的な母親的役割に興味を抱いているのが分かったが,分娩後理想の母親像が維持できなくなっていると考えられた.対児感情判定尺度を使用した結果,対児感情は接近項目に関して,初産婦群が経産婦群より高得点の傾向にあった.また各群とも分娩前に比し分娩後に上昇する傾向があった.回避項目に関して,分娩前は年齢が増すほど点数が減少する傾向があり,初産婦群が経産婦群より高得点の傾向があった.分娩後はほぼ各群とも点数が上昇する傾向があった.全年齢層で分娩後児に対する愛着的感情が高くなったが,一方で育児に漠然とした不安があったものが,分娩後わが子を目の前にして更に増長していると思われた.MB,産後うつ病は低年齢群ほどなりやすい傾向にあった.低年齢はMB,産後うつ病の危険因子と考えられ,産前・産後に一貫した関与をすべきであると考える.
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