女性心身医学
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23 巻, 2 号
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巻頭言
特集 第26回日本女性心身医学会研修会報告
原著
  • 北澤 純, 髙橋 健太郎
    2018 年 23 巻 2 号 p. 96-101
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/07
    ジャーナル フリー

    精神疾患合併妊娠における新生児予後を後方視的に検討した.対象は平成22年1月から27年5月の期間における滋賀医科大学産婦人科のてんかんを除く精神疾患合併母体より出生した新生児90例である.NICU入院,新生児離脱症候群(NWS)発症の有無,乳児院への入所の有無と関連する因子を調べるため,母体年齢,薬剤の種類,併用薬剤数,罹病期間,薬剤の自己中断の有無に関してMann-WhitneyのU検定およびFisherの正確確率検定を行った.多重ロジスティック解析では,独立変数を年齢,併用薬剤数,罹病期間,薬剤の自己中断の有無とした.精神疾患の内訳はうつ病27例,パニック障害20例,統合失調症19例,双極性障害9例,不安神経症5例,摂食障害5例,強迫性障害3例,適応障害1例,身体表現性障害1例だった.児が新生児期にNICUへ入院した症例は21例(23.3%)だった.NICU入院と関連する因子は三環系・四環系抗うつ薬の使用(P=0.0094),抗不安薬の使用(P=0.0157),併用薬剤数(P<0.0001)だった.NWSを発症した症例は7例(7.8%)だったが,NWS発症と関連する因子は年齢(P=0.0423),SSRIの使用(P=0.0023),三環系・四環系抗うつ薬の使用(P=0.0372),併用薬剤数(P=0.0003)だった.乳児院入所症例は4例(4.4%)だったが,乳児院入所と関連する因子は内服薬の自己中断の有無(P=0.0204)だった.多重ロジスティック解析では,NICU入院と最も関連する因子は併用薬剤数だった(オッズ比5.862,95%CI;1.784~19.259).乳児院入所と最も関連する因子は薬剤の自己中断だった(オッズ比13.12,95%CI;1.078~159.609).これらのリスクのある症例では,妊娠前から精神疾患のコントロールを十分に行うこと,妊娠中も内服の自己中断はしないよう指導し注意して妊娠経過を観察すること,出産後に向けてNICUスタッフやソーシャルワーカーなどの関係スタッフと連携を取ることが重要と考えられた.

  • 吉岡 郁郎, 窪田 文香, 今西 俊明
    2018 年 23 巻 2 号 p. 102-113
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/07
    ジャーナル フリー

    【目的】最近の医療費高騰の原因の一つにドクター・ショッピングが挙げられている.今回この一因として患者のコミュニケーション能力に焦点をあて,これに影響する可能性のある発達障害の特徴との関係を調べた.【方法・対象】当科から提案する発達障害傾向を基にした『不定愁訴スコア(Score of Indefinite Complaints,以下SIC)』は,本田が示した「面接時を含む発達障害を持つ患者の特徴」から,①視覚的構造化が必要(図画やプリントの利用,以下「視覚」),②同内容の発言の繰返し(以下「繰返し」),③会話内容のズレ(以下「ズレ」),④思考,行動等の限局やパターン化(以降「限局」)の4項目を点数化し比較した.対象は,当科不定愁訴外来の2013年9月1日~2017年6月30日までに初診となった女性患者92人である.【結果・考察】当外来初診以降の管理期間について,SIC以外では,加齢とともに管理が長期化する傾向は認められるが,当科初診前の医療機関受診数や初診時愁訴数に有意差はなかった.SICについては以下の内容で,医療者側・患者双方の理解の一助の可能性が示唆された.①「視覚」では,ゴシック体中心のプリントの使用②「繰返し」や「ズレ」には,質問を挟む形での話の進行,③「限局」では,服装や話し方等の変化が患者の変化と比例,④SIC合計点が高いほど,年齢・病悩期間・訴えの数に関係なく,コミュニケーションが苦手である可能性があり,患者の訴えを注意深く聞き,医療者の説明の理解度にも注意を要する傾向,などである.医療者側が患者に沿った医療を考え工夫することで,互いによりよい関係の構築ができる可能性があり,それがドクター・ショッピングの減少,さらには医療費高騰の抑制につながることを切に願う.

  • 稲吉 玲美
    2018 年 23 巻 2 号 p. 114-122
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/07
    ジャーナル フリー

    月経随伴症状に対しては,医学的アプローチと並行して心理社会的な視点からの支援が重要である.心理学的視点からは,症状がありながらもそれらとうまく付き合いながら,女性が自分の価値に沿った生活を送るための支援をしていくことが求められる.しかし,現存の尺度は症状の種類や程度を測定するためのものであり,女性が症状によって日常的に抱く心理的な苦痛を定量化する手段が存在しない.そこで,本研究では,先行研究をもとに月経随伴症状負担感尺度を作成し,月経随伴症状に対する有効な心理学的アプローチのあり方を検討する際の有用な知見を得ることを目的とした.20~39歳の女性318名を対象としたインターネットによるアンケート調査を実施した.因子分析の結果,「コントロール不能感」および「不遇感」の2因子からなる尺度が作成された.各因子のCronbach's α係数から,それぞれ高い内的整合性が得られた.また,月経随伴症状の程度を測定する月経随伴症状日本語版および国外にて作成された症状による心理社会的影響を測定する尺度との間に,それぞれ有意な正の相関がみられた.よって,この尺度は妥当性と信頼性があることが示された.また,日本語版Ten Item Personality Inventoryとの間には,「コントロール不能感」と「協調性」および「不遇感」と「外向性」に弱いながらも有意な負の相関関係が示された.即時的・回顧的回答および属性による得点差についてダミー変数を用いた重回帰分析によって検討したところ,月経中に比して月経前の方が負担感およびコントロール不能感をより抱くことが示された.本尺度は,月経随伴症状とうまく付き合っていくための心理的アプローチの介入効果を検討する指標となることが期待される.また,本尺度によって女性が月経随伴症状による二次的な負担感を明示することにより,女性の苦痛について,社会の理解を促すことに貢献すると考えられる.

研究報告
  • 狩野 真理
    2018 年 23 巻 2 号 p. 123-130
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/07
    ジャーナル フリー
  • 稲吉 玲美
    2018 年 23 巻 2 号 p. 131-137
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/07
    ジャーナル フリー

    本研究は,医学的視点から評価された月経前症状の程度と,症状が与える心理社会的影響との関連を検討することを目的とした.なお,医学的視点では,①症状の有無,②日常活動への支障,の2点により月経前症状が評価される.

    月経を有し,月経前に特に心身の変化を感じる女性254名にアンケート調査を実施した.月経前症状の程度は,PMDD評価尺度を用いてPMDD群,PMS群,支障なし群(症状はあるものの日常生活に支障は来していない者),対照群に分類した.症状が与える心理社会的影響の測定は,「心理的影響」「社会的影響」の2因子からなるPMS-Impact尺度を日本語訳し,妥当性,信頼性を検討した後に使用した.群間に有意な人数比があったため,分析にはダミー変数を用いた重回帰分析を行った.分析の結果,「心理的影響」「社会的影響」の各因子において,対照群に比して支障なし群の得点が有意に高かった.

    以上の結果から,医学的視点では,日常生活への支障がないためにPMDDやPMSと評価されなくとも,症状によって心理的苦痛を抱いている女性の存在が明らかとなり,こうした女性を特定し,心理社会的支援につなげる重要性が考察された.また,PMS-I尺度日本語版は,因子分析によって原版の重要であると思われる項目が多く除外された.このことから,今後は日本人女性の抱く月経前症状による心理的苦痛の構造の解明と,その定量化を目指す必要性が示唆された.

  • 香取 洋子, 立岡 弓子
    2018 年 23 巻 2 号 p. 138-145
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/07
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は母親が乳児に対して行うベビーマッサージの効果を,生理学的・心理学的指標を用いて測定し,母子双方への効果について検討することである.【方法】対象は地域で開催されるマッサージクラスに参加した母子18組.生理学的ストレスの評価には唾液中コルチゾール濃度を用い,マッサージの開始前・終了後30分・終了後60分後に母子の唾液採取を行い時期別に比較した.母親の心理的評価には気分プロフィール短縮版(POMS)を用い前後比較した.【結果/考察】乳児の唾液中コルチゾール濃度についてはマッサージ前より終了後60分に有意に低下した(p=.005).一方,母親の唾液中コルチゾール濃度は,マッサージ前よりも終了後30分が有意に高まり(p=.008),マッサージ開始前と終了後60分の間には有意差は認められなかった.母親のPOMS得点は「緊張—不安」,「疲労」,「混乱」の下位尺度において,マッサージ開始前に比べ終了後30分に有意に得点が低下した(p<.05).母親が乳児にマッサージを行うことにより,乳児のストレスの緩和および母親の気分を改善させる可能性が示唆された.

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