日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第48回日本植物生理学会年会講演要旨集
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  • 加川 貴俊
    p. S023
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    光合成の工場である葉緑体は、外界の光環境に依存してその場を移動する。弱い光環境下では細胞表面に集まり(葉緑体集合運動)、強い光環境下では光から逃げる位置に移動する(葉緑体逃避運動)。これらを称して、葉緑体光定位運動と呼ぶ。シロイヌナズナにおいては、逃避運動ではフォトトロピン2(phot2)が、集合運動ではフォトトロピン1(phot1)とphot2とが光受容体として機能し、シダ・コケ植物でもフォトトロピンファミリーが光受容体として機能している。阻害剤等を用いた研究から、この運動はアクトミオシン系を使っていると考えられている。GFP-mTnGFP-AtFim1ABDを導入した植物体において、運動に伴ったアクチン繊維の動的変化が確認された。また、シグナル伝達に関わる可能性のある因子も同定されている。
    本講演では、葉緑体光定位運動に関しての最近の知見を紹介する。
  • 朽名 夏麿, 小田 祥久, 桧垣 匠, 大窪 恵美子, 佐野 俊夫, 馳澤 盛一郎
    p. S024
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    液胞は多くの植物細胞で生長にともなって体積を増し,やがて細胞体積の大半を占める巨大液胞へと発達する.このことから液胞は細胞の形の変化を伴う現象に深く関与すると考えられる.我々は液胞の可視化法として,GFPと液胞膜タンパク質AtVam3pの融合遺伝子の導入を主に用いて,タバコBY-2細胞やヒメツリガネゴケ原糸体の液胞構造を観察した.また,共焦点レーザー顕微鏡により得られる連続光学切片からの立体再構築法として,二次元画像での輪郭線抽出と,輪郭線相互の位置関係を用いた切片間の補間を行なうアルゴリズムを新たに考案し,立体再構築・解析ソフトウェアREANTとして実装した.その結果,タバコBY-2細胞では,細胞分裂時におけるTVM(tubular structure of vacuolar membrane)や,ミニプロトプラストからの巨大液胞の再生過程における網状液胞など,チューブ状・ネットワーク状の液胞構造が見出された.共局在解析や阻害剤処理の結果,これらの液胞構造の形態制御にアクチン繊維が関わることが示された.一方,ヒメツリガネゴケ原糸体でもチューブ状の液胞構造が確認されたが,その構造や動きの制御機構は高等植物とは異なることがわかった.本発表では,このように複雑かつ動的なオルガネラの形態と動態を明らかにする上で重要な,立体再構築と動画像処理による解析を中心に報告する.
  • 松永 幸大, 栗原 大輔, 藤本 聡, 内山 進, 福井 希一
    p. S025
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    細胞核から染色体が形成され、細胞の両極に染色体が分離する過程は、細胞分裂中に起こるダイナミックなイベントである。最近、植物の核や染色体の動態や構造に関与するタンパク質をライブイメージングにより解析できるようになってきた。我々はGFP融合タンパク質を用いたスクリーニングにより細胞核・染色体局在タンパク質を単離した。核局在タンパク質AHL1は動物には存在せず、植物・原核生物にのみ見出される。シロイヌナズナのゲノム中に約30個のパラログが存在し、核局在に必須なPPCドメイン(DUF296)を持つ。細胞核ではユークロマチンとヘテロクロマチンの境界領域に、染色体では表層部分に局在する。別の核局在タンパク質はオーロラキナーゼをコードしていた。GFPを用いた動態解析から二つのパラログは分裂期紡錘体、もう一つは動原体に局在することが明らかになった。植物オーロラキナーゼは分裂期特異的に検出される翻訳後修飾であるヒストンH3Ser10やSer28のリン酸化も制御する。オーロラキナーゼの特異的阻害剤であるヘスペラジンをタバコBY-2細胞に添加すると、ラギング染色体が生じ微小核が形成される。このことから、植物オーロラキナーゼは姉妹染色体分離に関与すると推察している。この他、光変換タンパク質による細胞内マーキング法やFRAP解析法についても紹介したい。
  • 岩野 恵, 柴 博史, 円谷 徹之, 磯貝 彰, 高山 誠司
    p. S026
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    アブラナ科植物では、柱頭の乳頭細胞に和合花粉が受粉すると花粉は吸水し、花粉管を発芽・伸長させ、乳頭細胞に侵入する。花粉管はさらに伸張して子房に達し受精に至る。このような一連の受粉過程において、雌蕊と花粉管の間では情報交換が行われ、花粉(管)の発芽・伸長が制御されていると考えられている。本研究では、花粉(管)の吸水・発芽・伸長とCa2+動態との関係を明らかにするために、Ca2+センサータンパク質イエローカメレオン(YC3.6)を発現するシロイヌナズナを作出し、受粉時の乳頭細胞と花粉のCa2+濃度変動をモニターする系を構築した。その結果、花粉では、吸水後乳頭細胞との接触部位でCa2+濃度の上昇がみられ、乳頭細胞では、花粉(管)の発芽・伸長に伴って、Ca2+のダイナミックな変動が見られた。乳頭細胞でのCa2+濃度変動は、花粉表層物質単独で誘起されたことから、花粉表層にはCa2+変動を誘起する物質が含まれることが示唆された。さらに、乳頭細胞伸長時の花粉管の先端部のCa2+濃度変動をモニターした結果、花粉発芽培地上で見られるCa2+オシレーションは見られず、寧ろ非常に早く不規則なCa2+濃度変動が観察され、in vitroin vivoでは、花粉管のCa2+動態が異なっていることが示唆された。さらに、受粉時に観察される活性酸素の発生、細胞骨格の変化、液胞の動態変化などについても紹介したい。
  • 渡邊 雄一郎, 栗原 志夫, 田上 優子, 藤岡 容一朗, 稲葉 直子, 内海 真希
    p. S027
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    われわれは植物ウイルス感染後におけるshort interfering RNA (siRNA)、さらに蓄積が増大するmicro RNA (miRNA)の生成機構に目をむけている。
    miRNAとして存在量の豊富なmiR163に着目し、その前駆体RNAの検出、切断部位の決定をおこなった。そしてDicer様酵素遺伝子のうちDCL1が、複数回の切断を伴うmiRNAプロセッシングに関与すること、dsRNA結合ドメインをもったHYL1がそのパートナー分子であることを示した。最近、関与が示唆されたSERRATE (SE)も含めて、DCL1, HYL1によって核内でmiRNAが生成される過程を、イメージング技術、免疫沈降法などを用いて解析している。
    タバコモザイクウイルス感染シロイヌナズナからsmall RNAをランダムにクローニング・配列決定を行い、発現量及び種類を調べた。約1/8がsiRNA、1/4がmiRNAであること、ウイルス感染植物特異的に見られる新規small RNAを発見できた。ストレス環境下で新奇small RNAを見出せる可能性が示された。siRNAについて、dcl1, 2,3,4いずれの変異体でもその生成量は減らなかった。複数のDCLがredundantにsiRNAの生成を受け持つものと想像される。
  • 福原 敏行, 平栗 章弘, 中澤 悠宏, 森山 裕充
    p. S028
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    近年、RNA干渉をはじめとしてRNAが関与する生命現象が次々と発見されている。その中には、2本鎖RNAや2本鎖構造を含むRNAが関与する現象が少なくない。これらの2本鎖RNAが関与する現象には、2本鎖RNA結合タンパク質もしくは2本鎖RNA結合モチーフ(dsRBM)を含むタンパク質が、中心的な役割を担っている場合が多い。例えば、シロイヌナズナのRNA干渉やmiRNAの生成において、ダイサー様タンパク質(DCL)、2本鎖RNAタンパク質(HYL1/DRB)、およびメチル化酵素(HEN1)が、siRNAやmiRNAなどの機能性低分子RNAの生成や安定化に中心的な役割を担うことが報告されている。これらの3種のタンパク質は、全てN末端もしくはC末端にdsRBMを持つ。
    本講演では、植物(シロイヌナズナ)における2本鎖RNA結合タンパク質(dsRBMを含むタンパク質)の機能を概説し、本研究室で行ってきたシロイヌナズナの4種のダイサー様タンパク質(DCL1~4)、5種の2本鎖RNAタンパク質(HYL1/DRB1~5)およびRNaseIII様タンパク質(RTL2)の生化学的な活性について報告する。
  • 角谷 徹仁
    p. S029
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    植物のゲノムにおいては、メチル化されたシトシンの大部分はトランスポゾンなどの反復配列に分布する。シロイヌナズナのマイクロアレイを用いた最近の報告でも、この傾向が確認されている(Lippman et al, Nature 430, 471-; Zhang et al, Cell 126, 1189-)。私達は、DNAメチル化の働きを知るため、シロイヌナズナのDNA低メチル化突然変異で誘発される発生異常を連鎖解析するというアプローチをとってきた。このようなアプローチで同定された遺伝子座の一つはトランスポゾンの挿入突然変異だった。こうして同定されたトランスポゾンは野生型では転移が観察されないが、DNAメチル化酵素遺伝子の突然変異下で転移抑制が解除される。DNA メチル化がトランスポゾンを抑制することによりゲノム構造の安定に貢献していることがわかる。他の二つの発生異常の原因遺伝子は、インプリント遺伝子と細胞周期制御遺伝子であり、これらの遺伝子の発現の乱れが世代を越えて継承されるため、突然変異のようにふるまっていた。これらの奇妙な現象をゲノム動態との関連で考察する。
  • 関 原明, 松井 章浩, 金 鍾明, 石田 順子, 中嶋 舞子, 諸澤 妙子, 川嶋 真紀子, 佐藤 将一, 藤 泰子, 栗原 志夫, 神沼 ...
    p. S030
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    植物は移動の自由がないため、乾燥、低温、塩などのストレスに対する独自の制御機構を備えている。これまでにDNAマイクロアレイ法などを用いて、乾燥、低温、塩などのストレスに対して応答する植物遺伝子が多数単離され、それらの機能が同定されつつある。しかしながら、アンチセンスRNA、non-coding RNA、small RNAやクロマチンリモデリングなどのストレス応答機構における役割に関してはまだ多くの点が不明なままである。
    全ゲノムタイリングアレイ解析や454 Life Sciences社の高速シーケンシングシステムを用いたRNAの大量解析は、全ゲノムトランスクリプトームの解析方法の1つとして最近注目されてきている。これまでにシロイヌナズナ全ゲノムタイリングアレイを用いて、乾燥、低温、塩などのストレスやABA処理(2時間および10時間)したサンプルを用いて解析したところ、ストレス応答性の新規な転写産物やアンチセンスRNAが多数存在することが明らかになった。また、454社の高速シーケンシングシステムを用いたsmall RNAの大量解析から、ストレス応答性のsmall RNAを幾つか同定した。同定されたストレス応答性の機能性RNAに関して、現在機能解析を進めている。
  • 芦苅 基行
    p. S031
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    イネエピジェネティック変異体epi-d1は1個体内に矮性部位と正常部位の2つの表現型を併せ持つ変異体である。これまでにポジショナルクローニング法を用いてこの2つの表現型を規定している領域を約30kbに特定し、候補領域内に3量体G タンパク質αサブユニットをコードするD1遺伝子を見いだした。この変異体ではプロモーターを含めたD1遺伝子領域に塩基変異が無いにもかかわらず、矮性部位では発現が抑制され、正常部位では強く発現しており、このD1遺伝子の発現の制御によって表現型が規定されていることが示唆された。またメチル化の解析とChip解析により矮性部位特異的にD1遺伝子の転写開始点がメチル化されていること、D1遺伝子がヘテロクロマチン化していることが明らかとなった。現在、これらの制御にはSiRNAの関与が示唆されており、イネエピジェネティック変異体epi-d1におけるSiRNAとD1遺伝子発現について紹介したい。
  • 飯田 慶, 須曾 康裕, 郷 通子
    p. S032
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    選択的スプライシング(AS)は1種類の未成熟mRNAから2種類以上の成熟mRNAを作り出す機構である。我々はバイオインフォマティクスの手法を用いてシロイヌナズナにおけるASの解析を行い、5,000個以上の遺伝子においてASを確認した。我々は以前の研究でシロイヌナズナのASプロファイルが発現組織やストレスによって変化することを報告している。今回の研究では、スプライシング因子の一種であるSR proteinファミリーにおいて、多くのメンバーがASを受けること、および、いくつかのASがシロイヌナズナ・イネの間で保存されていることを見出した。またヒメツリガネゴケにおいても同様のASが存在することを示唆する結果を得た。これら「保存されたAS」は不完全なRNA結合ドメインを持つタンパク質をコードするmRNAを作り出す。このASにより機能可能な蛋白質の量を変化させることが、全体のAS制御に重要であると考えられる。さらに我々は、転写因子におけるASの解析を進めている。アミノ酸1個の有無を変化させるNAGNAGアクセプターサイトを用いるASが転写因子に頻出することがわかった。同様のASは蛋白質の電荷を変化させる傾向が報告されており、転写因子の機能調節に重要であることが予想される。本発表ではスプライシング因子・転写因子におけるASを介してトランスクリプトームが制御されるモデルを提唱する。
  • 柳澤 修一
    p. S033
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    植物は、置かれた栄養環境下で最適化された代謝バランスを維持して生長を行わなければならない。そのために、植物栄養として取り込まれた無機物による直接的な制御を行うためのシステムや、それら無機物の同化産物や栄養情報を伝達する植物ホルモンなどを介した制御を担うシステムなどを活用して遺伝子発現や代謝を巧妙に調整していると考えられる。窒素は植物における物質生産能力に本質的影響を及ぼす重要な植物栄養である。窒素によってどのような遺伝子発現や代謝経路が制御されているのか、また、その仕組みがいかなるものを包括的に理解するためには、さまざまな角度から植物の窒素応答を検討する必要がある。我々は、窒素応答の総合的理解のために、三つのアプローチ、窒素供給に応答した遺伝子発現と代謝物の経時的変化の解析、窒素同化能力強化植物における他の代謝経路の変動の解析、窒素応答性タンパク質のプロテオームによる解析を実施している。植物のさまざまな窒素応答を制御する分子メカニズムの解明のためのこのようなアプローチの実効性と有用性について議論したい。
  • 田茂井 政宏, 平松 由衣, 鈴木 明子, 作山 治美, 多淵 知樹, 大鳥 久美, 薮田 行哲, 重岡 成
    p. S034
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    植物細胞におけるC/N比は厳密に制御を受けていること、光合成増大により生育や細胞数が増加するという事実から、光合成炭素代謝は窒素代謝、形態形成など様々な代謝系に大きく影響を及ぼすと思われる。我々はこれまでに、1)葉緑体カルビン回路で機能するフルクトース-1,6-/セドヘプツロース-1,7-ビスホスファターゼ(FBP/SBPase)を葉緑体に導入することにより、光合成CO2固定能の増大、生育促進が見られること、2)細胞質にFBP/SBPaseを導入した植物は、高CO2環境下では側枝数、葉数が増加し、野生株とは異なる形態になることを示してきた。そして、これら形質転換植物では、ソース/シンク器官での光合成代謝中間体および光合成産物の炭素分配比が異なっていることも明らかにしている。そこで本研究では、光合成炭素代謝の制御が、細胞数制御、形態形成、窒素代謝および他の代謝系に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、これら形質転換植物を用いて、種々の代謝系酵素遺伝子発現量の比較、および代謝制御因子となる炭素代謝中間体の探索を試みている。これらの結果から、炭素代謝を中心とした植物における代謝制御機構について、今後の展望も交えて考察したい。
  • 川合 真紀, 高橋 秀行, 橋田 慎之介, 内宮 博文
    p. S035
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    ニコチンアミドヌクレオチド(NAD(P)(H))は酸化還元反応における電子伝達機能に加え、シグナル伝達への関与が知られる物質である。NAD(P)(H)はNMNAT、NAD合成酵素(NADS)、NADキナーゼ(NADK)によって合成されるが、遺伝子の単離や酵素の生化学的解析がおこなわれるようになったのはごく最近であり、NAD代謝の植物の生長制御における役割については未知の部分が多い。そこで我々はシロイヌナズナのNMNAT, NADS, NADKを欠失、または過剰発現した植物体を調べることにより、NAD代謝の変化によって引き起こされる植物の代謝変動について解析をおこなった。その結果、NMNATを欠失するシロイヌナズナは花粉管伸長に異常が検出された。また、葉緑体局在型のNADK2を欠損した植物(nadk2)は葉の薄色化や、ロゼット葉数の減少を示した。一方、NADK2を35Sプロモーター下で過剰発現すると、クロロフィル含量の増加やアミノ酸含量の増加が検出された。その際、光合成の明反応には変化が見られなかったが、カルビン回路が活性化していることが示唆された。さらに窒素代謝についてもNADK2過剰発現植物とnadk2で野生型植物に比べ顕著な変化が検出された。これらの結果は、NAD代謝が変化することにより細胞内の炭素/窒素代謝が変動することを示している。
  • 山口 淳二, 池田 亮
    p. S036
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    糖などの炭素源(C)は,エネルギー産生や細胞壁などの基質として利用される以外に,窒素(N)とともに炭素骨格としてアミノ酸のような生体高分子の合成にも利用される.植物は,CとNを効率よく利用・分配するために,細胞内の炭素および窒素代謝産物の相対量比(C/N)を感知し,それに適した応答を示す能力,すなわちC/Nバランス機構を備えている.このようなC/Nバランス機構の分子実体を解明するため,C/Nをアンバランスさせた極限栄養条件下で耐性を示す変異体の単離を進めている.
    シロイヌナズナを用いて,高糖/低窒素培地で生育する変異体ssv1を単離した.野生株が通常成長不能となり枯死するのに対し,この変異体では,子葉が緑色化し,本葉の展開も観察された.この変異体の原因遺伝子SSV1は,RING finger motifをもつユビキチンリガーゼE3遺伝子であり,この遺伝子の過剰発現によりC/N異常に対して耐性を示すことが明かとなった.研究の背景とともに,この遺伝子産物の諸性質等を報告し,あわせてC/Nバランス機構について議論したい.
  • 射場 厚
    p. S037
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    近年、自然が引き起こす環境変動に加え、人類の活動によって植物の栄養環境は大きく変動しつつある。とりわけ、温室効果ガスである二酸化炭素 (CO2) の大気中濃度は、かつてないペースで上昇しており、農業生産や森林植生などに与える影響が懸念されている。植物はCO2濃度の上昇に応じて、CO2のゲートである気孔を閉鎖するとともに、気孔の形態形成を抑制し、その密度を低減させる。したがって、植物がCO2濃度を感知し、生理的応答に反映させるメカニズムを理解することは、CO2濃度の増加にともなう環境変動の予測モデルの精度の向上や、樹木などの高CO2適応能力の向上を目的とした技術開発に寄与すると思われる。現在、CO2 応答のメカニズムを明らかにするために、ハイスループットサーマルイメージングの手法を用いて、CO2シグナリングに関連した突然変異株の網羅的スクリーニングをシロイヌナズナで行っている。本講演では、同手法を用いて単離された突然変異株の表現型とその原因遺伝子の機能について今までに得られた知見および今後の展望について述べる。
  • 塚越 啓央, 前尾 健一郎, 森上 敦, 中村 研三
    p. S038
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    種々の生物が、炭素骨格やエネルギー源となる利用可能な糖のレベルを検知し、その変動に応じて酵素活性のみならず、遺伝子発現パターンを変動させて細胞活動を至適化する複数の機構を備えている。種子植物は、種子を作らない下等植物の発生プログラムの途中に、独自の種子成熟プログラムを挿入させて、栄養貯蔵能と胚の休眠能を獲得して生存率を向上させたと推定されている。シンクとしての種子形成は、大きく、同化産物を細胞増殖に利用する前貯蔵期から、同化産物を栄養貯蔵物質に変換して集積する貯蔵期へと進行する。マメ科植物では、この過程は高いヘキソース/ショ糖比から高いショ糖/ヘキソース比への転換と並行して進行する。休眠を経た種子は、発芽と共にソースへと転換し、初期栄養生長を支える。種子の形成から発芽に至る過程では、植物ホルモンの働きに加えて、糖に応答した遺伝子発現制御が様々な形で重要な役割を担うと推定される。我々は、糖誘導性発光レポーター遺伝子の発現などを指標にシロイヌナズナの糖応答性突然変異株を単離し、糖応答性遺伝子の発現に関わる因子を同定してきた。ここでは、種子成熟過程でショ糖炭素源の油脂への分配の制御に関わると推定されるAP2型転写活性化因子ASML1/WRI1、それに発芽後の種子成熟プログラムの抑制に関わると推定されるB3-EAR転写抑制因子HSI2・HSL1の機能を中心に、解析の現状を概観する。
  • 平山 隆志, 鳴坂 義弘, 安田 美智子, 鳴坂 真理, 北畑 信隆, 黒森 崇, 浅見 忠男, 篠崎 一雄, 仲下 英雄, 西村 宜之
    p. S039
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    我々はABA応答の分子機構を明らかにするため、ABA高感受性を示すahg変異体(ABA hypersensitive germination)を単離、解析を行っている。ahg2-1は種子発芽と植物体においてABA高感受性を示す。原因遺伝子を同定したところ、mRNAの分解に関わるpoly(A)-specific ribonuclease (AtPARN)をコードしている事が判明した。AtPARNの破壊株は致死性を示し、この遺伝子が植物に於いて重要な役割を演じていることが示唆されている。一方ahg2-1変異は弱い変異で、これまでの解析から、種子およびストレス条件下でABAを高蓄積すること、恒常的サリチル酸(SA)応答を示す事、植物体が矮小化することが明らかとなった。このことからPARNによるmRNAの分解が、ABA、SA応答さらには生育、伸長と深く関わっていることが示唆された。そのメカニズムを明らかにする目的で、マイクロアレー実験やahg2-1の抑制変異株の単離および解析を行っている。本シンポジウムでは、これらの研究結果を紹介すると共に、植物におけるPARNの役割とその重要性について議論したい。
  • Brian Gregory, Julia Chekanova, Sergei Reverdatto, Huaming Chen, Junsh ...
    p. S040
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    The control of RNA degradation is central to the regulation of gene expression since rate of turnover also contributes to the steady-state levels of RNA molecules. There are two known pathways of eukaryotic RNA turnover. In one pathway, the RNA molecules are degraded by a 5'-3' exonuclease, while the other involves degradation by a complex of 3'-5' exonucleases (exosome). We found that ETHYLENE-INSENSITIVE5 is in fact the exoribonuclease XRN4 that participates in RNA degradation in a 5'-3' direction (1). To determine the substrates of EIN5/XRN4, we turned to tiling microarray analysis of the entire Arabidopsis genome. In addition, we have established a genetic depletion system for two of the Arabidopsis exosome subunits via an estradiol-inducible RNA interference (iRNAi), which is being used for transcriptome-wide definition of the plant exosome substrates, using tiling microarrays.

    1. Gabriela Olmedo, et al., (2006) Proc. Natl. Acad. Sci USA. 103: 13286-93.
  • 吉川 学, Hunter Christine, Willmann Matthew R., Peragine Angela, Poethig ...
    p. S041
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    我々は、栄養成長期の相転換に異常を示す4つの変異体zippy(zip)/ago7, sgs3, rdr6, dcl4を使った解析から新しいクラスの内在性siRNAであるtrans-acting siRNA(ta-siRNA)を見出し、その生成過程を明らかにした。TAS1a, b, c及びTAS2から転写された前駆体RNAはmiR173による切断を受けRNAサイレンシング経路に入り、SGS3による切断断片の安定化、RDR6による2本鎖RNAへの変換、DCL4によりプロセスされta-siRNAができる。これまでに5箇所報告されているtrans-acting siRNA locus(TAS)のうち、TAS3から生じるta-siRNA(ta-siARF)が、オーキシンに応答する転写因子ETTIN(ETT)/ARF3及びARF4の転写後調節に機能している報告があり、また我々の以前の実験結果においてzip, sgs3, rdr6変異体でETT及びARF4の転写量の増加が見られていることから、ta-siARFが栄養成長期の転換制御に関わっていると予想した。そこでta-siARFの発現を調べたところ、zipを含むいずれの変異体でも発現は見られなかった。さらに、これとは独立して行っていた遺伝学解析から、ETT及びARF4の変異体をzipのサプレッサーとして単離した。以上のことから、TAS3から生じるta-siRNAが幼若相から成熟相へ転換制御に機能していることが明らかになった。
  • 用稲 真人, 赤堀 真耶, 堀 孝一, 渡辺 雄一郎, 中村 研三
    p. S042
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    Nonsense-mediated mRNA decay (NMD)はナンセンス変異(Premature Termination Codon; PTC)を有する異常なmRNAを選択的に排除する、真核生物に広く存在するmRNA監視機構であり、主要因子であるUPF1、UPF2、UPF3は高度に保存されている。しかし、PTC認識機構は生物種によって異なり、また哺乳動物のNMD 因子は翻訳開始やPTC非依存的mRNA分解にも関与するなど、NMD因子の機能は進化的に多様化しており、UPF1欠損は高等真核生物になるほど致死性が強い。シロイヌナズナUPF1のミスセンス変異株lba1/atupf1-1は成長、花成、糖シグナリング、種子サイズなどに多面的な異常を示し(1, 2)、その欠損は実生致死となる(2)。昆虫、動物では、スプライシングに関連して生じるPTC+ mRNAのみならず、5’-UTRにuORFを含むmRNA、3’-UTRでスプライシングを受けたmRNAなど様々な構造のmRNAがNMD機構の標的となっており、NMD標的mRNAの同定が植物NMD機構のメカニズムや役割を知る上で重要である。我々は、lba1/atupf1-1 (1)に加え、atupf3-1 変異株(3)を用いたトランスクリプトーム解析によりNMDの推定標的遺伝子を網羅的に同定し、それらのmRNA構造を解析した。
    (1) Plant J. 47; 49 (2006), (2) Plant Cell Physiol. 47; 572 (2006), (3) Plant J. 43; 530 (2005)
  • 堀 孝一, 渡辺 雄一郎
    p. S043
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    mRNA監視機構の一つであるNMD (nonsense-mediated mRNA decay)はナンセンス変異による異常な終止コドン(PTC ; premature termination codon) をもつmRNAを監視し、分解する機能を持つ。NMDに関与する重要な因子は植物を含む真核生物で高度に保存されているが、PTCとして認識される終止コドンは生物種によって異なることが示唆されている。
    本研究では植物内でPTCとして認識される終止コドンの位置関係を解析した。その結果、終止コドンがPTCとして認識されるか否かは、mRNAの3’末端からの距離に依存することが明らかとなった。今回、各種データベースから複数の生物種の終止コドンの位置を解析した結果、植物では終止コドンの多くがlast exon-exon junctionの位置には依存せず3’末端側に存在する傾向を示した。一方、哺乳類においてはlast exon-exon junction近傍に終止コドンが集中し、ショウジョウバエにおいては3’末端、last exon-exon junction近傍共に同程度の分布を示した。この分布は終止コドンがPTCとして認識されることなく正常に機能する状況、それぞれの種におけるNMDの特性を反映することが期待された。このようにNMD機構の存在はゲノム進化の過程でmRNAの一次配列に影響を及ぼしてきたことが予測される。
  • 尾之内 均, 原口 雄飛, 中嶋 一恵, 室田 勝功, 門倉 嘉知, 川崎 大輔, 平田 健, 永見 陽子, 内藤 哲
    p. S044
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナにおいて、メチオニン生合成の鍵酵素であるシスタチオニンγ-シンターゼをコードするCGS1遺伝子の発現は、メチオニンの代謝産物であるS-アデノシルメチオニン (SAM)に応答して mRNA安定性の段階でフィードバック制御される。この制御にはCGS1遺伝子のコード領域のN末端側に存在する14アミノ酸の領域(MTO1領域)が関与する。小麦胚芽由来のin vitro翻訳系を用いた解析から、CGS1 mRNAの特異的分解が誘導される前に、SAMに応答して翻訳伸長の一時停止が起こることが明らかになった。また、この翻訳アレストはMTO1領域のすぐ下流で起こることが、トープリント解析などによって示された。MTO1領域は自身をコードするmRNAの制御にのみ関与するが、翻訳アレストにはMTO1領域の塩基配列ではなくアミノ酸配列が重要であることが示された。これらのことから、SAM存在下でCGS1 mRNAが翻訳されると、新生CGS1ポリペプチド鎖上のMTO1領域が自身を翻訳したリボソームの中で機能して翻訳アレストを引き起こすと考えられる。翻訳アレストに引き続いてmRNA分解が誘導され、その際に5’側領域を欠いたmRNA分解中間体の蓄積がみられる。このmRNA分解中間体の解析から、翻訳アレストを起こしたリボソームの5’側近傍でmRNAが切断されることが示唆された。
  • 鎌田 博
    p. S045
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    近年、児童生徒の理科離れが大きな社会問題として取り上げられ、文部科学省を中心に、科学技術の知識・理解の促進を目指すさまざまな取り組みがなされるようになってきた。一方、国民一般を対象に、科学技術の理解促進や国民の意見を反映する新しい社会を築くための多様な取り組みも進められている。文部科学省における理科離れ対策としての大きな取り組みの一つが科学技術・理科大好きプランであり、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)、目指せスペシャリスト、サイエンス・パートナーシップ・プログラム(SSP)等が良く知られており、それ以外にも、「その道の達人」派遣事業、国際生物学オリンピックを含む「学びんピック」、「理科大好きボランティア・理科大好きコーディネーター」事業、「理科大好きスクール」(理科大好きモデル地域事業)等も盛り込まれている。一方、広い意味での社会教育としては、国立科学博物館や日本科学未来館等に関連するプログラムや日本科学技術振興財団によるサイエンスキャンプ、科学(生物)リテラシー教育に関する多様なプログラム等も組まれている。また、最近では、さまざまな組織により多様なサイエンスカフェが開催されるようになってきた。そこで、本発表では、このような多様なプログラムについて簡単に紹介するとともに、演者自身が関わってきたいくつかのプログラムの実践の中での工夫について紹介する。
  • 中川 和倫
    p. S046
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    文部科学省は2002年からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業を開始した。これは将来の科学技術系人材の育成を目的としたものである。松山南高等学校はSSHに指定されており、理数科と科学系部活動に所属する生徒を対象に、次のような取り組みを実施している。
    ●理数科の学校設定科目による授業:科学への興味・関心を導く実験中心の授業、愛媛大学と連携した高大連携授業、プレゼンテーション能力の育成も含めた班別課題研究などを行っている。
    ●高大連携から高大接続への取り組み:愛媛大学の先生方による授業に加え、大学院生から指導を受ける研究室体験も実施する。また、愛媛大学は研究者育成のための新AO入試を開始した。
    ●特別行事:連休や長期休業中を利用して野外調査や科学館研修を実施する。今年度は特別予算で中国の高校生との国際科学交流にも取り組んでいる。大学や研究機関の訪問を行うこともある。
    ●科学系部活動の活性化:SSH指定当時は休部状態の理科部が多かった。そこで、理数科に科学系課外活動を設定した。現在は多数の科学系コンテストに参加するようになっている。
    以上のような取り組みを通して、本校のSSHは生徒のモチベーションの向上につながった。また、SSHを通して新規に開発した生徒実験を普通科の授業に導入することも多い。
  • 林 秀則, 遠藤 弥重太
    p. S047
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    初等、中等教育において科学技術への関心を高め、これを高等教育において継続させることは、大学における人材育成のみならず、次世代の研究者、技術者の養成の観点からも、分野を問わず重要な課題である。すでにスーパーサイエンスハイスクール事業をはじめとする、多くの科学技術関連施策が実施され、大学および研究機関の協力がその成果をより確実なものとしている。しかし現状において、高校における受験を目的とした記憶重視の教育体制、大学入学当初の一般的なカリキュラムなどは、科学に対する興味関心を持続させるのに適切とは言い難い。このような理科教育におけるギャップを少しでも解消する目的で、愛媛大学では科学者や研究者を目指す学生を対象とした教育課程を設置している。入学前の事前学習および入学後の専用の科目によって、基礎科学の素養を広め、海外語学研修などによって語学力を高め、また研究センターに所属する教員による専用の科目等により、モーティベーションを持続しつつ、科学者、研究者になれるようなカリキュラムを組んでいる。また生命科学の教育に関して、中、高校生から大学生まで物理学や化学を基軸とした生命の理解ができるような教育法や教材の開発を進め、継続的な生命科学教育に取り組んでいる。このような試みが、初等、中等教育に対する科学技術関連施策の成果をさらに効果的に発展できるものと期待している。
  • 小谷 利恵
    p. S048
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    国民の科学技術理解増進のために、大学や学協会等による組織的なアウトリーチ活動を進めていく必要がある。
  • 小林 興
    p. S049
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    国際生物学オリンピック(International Biology Olympiad; IBO)は高校生を対象として、生物学の理論問題と実験問題(それぞれ5時間)への取り組みをテストする国際大会である。参加者は生物学への興味、発明の才能、創造性、忍耐力が必要とされる。IBOは様々な国における生物学のシラバスと教育的動向を比較する機会を提供し、生物学教育を国家レベルで改善する上で、有益な情報を提供する。
    1990年にチェコスロバキアのオルモウツで第1回大会が開かれ、参加国数はわずか6カ国であったが、今年(2006)7月にアルゼンチン、リオクアルト市で第17回大会が開かれ、参加国数は47カ国と増えている。日本は昨年、第16回IBO大会から初参加し、今年は2回目であったが、参加学生4名中銅メダル3個を獲得した。しかし、国際レベルに到達するにはクリアーしなければならいことがいろいろある。
    国際的には学年制の問題(日本は3月卒業なので高校3年生が参加できない)。国内的には試験問題の作成、組織の充実、参加学生の増加などである。これらのことを考えると、今後、IBOへの参加を継続していくには、国際生物学オリンピック日本委員会(JBO)に日本植物生理学会を含めた生物科学学会連合の支援が重要であり、皆さんのご協力をお願いしたい。詳細は、JBOホームページ http://www.jbo-info.or.jp参照。
  • 小野 道之
    p. S050
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    リテラシー(literacy)は読み書き能力という意味であり、遺伝子リテラシーでは遺伝子に関する正しい知識と判断力を指す。遺伝子リテラシーの国民的な修得に向けた試みについて例を挙げて紹介し、科学者の説明責任の一環としても、多くの研究者の参画を促したい。2001年に制定された「教育目的遺伝子組換え実験」等、実習を通じた遺伝子リテラシー教育は普及期にあり、高等学校や大学の教養課程、出前授業、あるいは一般を対象とした公開講座のような形で広く実施されるようになった。日本の高等学校の高い就学率を考えると、将来理系に進学しない圧倒的多数の高校生に対してリテラシー教育を実施することが重要であると考えられるが、全校生徒に対する実施は少ないのが現状である。この原因は単純ではないが、様々な連携によるサポートが可能にするものと考えている。大学等や他の機関との連携、農業高校等や高等学校間の連携、校内における他教科との連携について、例を挙げて紹介したい。一方、一般社会人に対しては、前掲の公開講座の他に、サイエンスカフェ運動が浸透してきた。カフェなどの気軽に参加できる場で科学技術に対して話題提供し、直接的なサイエンスコミュニケーションが展開される。講演者としても参加者の理解や意見を間近に聴くことができる双方向性が最大のメリットであり、今後ますますの普及と発展が期待される。
  • 河内 孝之
    p. S051
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    植物科学の裾野を広げるためには、科学的な植物の理解と研究活動の重要性・面白さを伝えることが必要である。このため、日本植物生理学会では広報委員会活動を通じて、社会に向けたさまざまな方策を取っている。インターネットが普及した現在では、ホームページ公開によって、効率的な情報発信が可能である。学会ホームページ「みんなのひろば」では、さまざまなコーナーを設置して、最新のトピックの発信から植物の素朴な疑問への回答までを扱っている。ここでは、情報の追加更新とその継続的な発信が可能となっている。また、まとまりのある深い理解のためには、書籍は重要な手段である。現在、植物科学の面白さと重要性を伝える植物科学双書や、植物に関する素朴な疑問に回答するみんなのひろば質問コーナーをまとめた本の出版を2007年には刊行予定である。一方、植物科学者の生の声を社会へ届けることも大切である。このため、一般の方を対象に講演会を開催している。しかしながら、学会主催の講演会だけでは、その効果に限りがある。そこで学会員が関わる活動をサポートするためにコンテンツ提供を開始し、組換え植物に関する資料集を公開した。これらの活動は委員会が企画に関与するものの、その実現は個々の学会員の強力なサポートのうえに成り立っている。本シンポジウムでは、これらの活動の現状を簡単に紹介するとともに、現在の活動の問題点を整理して、将来の方向性を考える。
  • 清末 知宏
    p. S052
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物は、フィトクロム、クリプトクロム、フォトトロピンの少なくとも3つの光環境センサーを持つが、分子遺伝学的研究や全ゲノム塩基配列の解析から、シロイヌナズナでは、青色光受容体PHOT以外のLOVタンパク質ADO1/LKP1/ZTL、ADO2/LKP2、ADO3/FKF1、PLP/TLPの存在が示されている。このうち、前者3つはアミノ酸配列の類似性が高く、それぞれN末端から、青色光受容能を有しタンパク質間相互作用に関与していると考えられるLOVドメイン、ユビキチンープロテアソーム系を介したタンパク質分解でubiquitin-protein ligaseとして機能するSCF複合体の形成に関わるF-boxモチーフ、タンパク質間相互作用に関わるkelchリピートの3つの機能領域で構成されている。近年の研究から、ZTL1が概日時計中心振動体構成因子の1つであるTOC1の分解を司ることで概日リズムを制御していることや、FKF1が光周性花成経路の鍵因子の1つであるCOの転写抑制を行なうCDF1の青色光に依存したユビキチンープロテアソーム系による分解に機能することで花成時期を制御するモデルが示されている。我々は、ADO/FKF/LKP/ZTLファミリーの1つであるLKP2と機能未知の青色光受容体候補タンパク質であるPLP/TLPに興味を持ち研究を行っている。本シンポジウムでは、これらPHOT以外のLOVタンパク質について概説し、LKP2に関して我々が得ている実験結果を紹介したい。
  • 片岡 博尚, 高橋 文雄
    p. S053
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    1個の転写因子bZIPと1個のLOVドメインを持ち,FMNを結合する青色光受容体をフシナシミドロ(Vaucheria frigida)で発見した(2005植物生理学会 新潟).多く発現している2種のホモログの構造と機能を解析したところ,少なくともそのうち1種はFMNを結合し,特定のDNA 配列TGACGTに結合する転写因子であることがわかった(深松ら,本学会).RNAiを用いて両タンパクの発現をノックアウトすると,光細胞形態形成反応の1種である青色光依存分枝誘導(Kataoka 1975)が阻害された.これらは生殖器官の発達にも関与している.BLAST検索により, 2004年に公開された海産中心目ケイ藻Thalassiosira pseudonana のゲノム中にこのbZIP-LOVタンパクの配列が数個みつかった.そこで,近縁の褐藻ヒバマタ(Fucus)受精卵のmRNAにホモログを探索したところ数個のホモログがみつかった(石川ら,本学会).フシナシミドロ,褐藻,ケイ藻,卵菌類は黄色植物(Stramenopile, Heterokont)に含まれるので,私たちはこの新奇青色光受容体をAUREOCHROME (AURE0)と名づけた.AUREOは緑色植物や菌類にはみつからず,逆に黄色植物にはフォトトロピンはみつからない. AUREOは黄色植物の形態形成を担う共通の青色光受容体かも知れない.
  • Satoru Tokutomi, Kazunori Zikihara, Koji Okajima, Shizue Yoshihara
    p. S054
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    LOV (Light-Oxygen-Voltage sensing) domains form a subfamily of PAS domain. A major LOV protein, phototropin (phot), has two LOV domains named LOV1 and LOV2. Although the reported crystal structures of LOV1 and LOV2 are almost identical, they play divergent functions. LOV1 has a minor contribution to the phenotype expression or the regulation of kinase activity, while, acts as a dimerization site. In contrast, LOV2 functions as a main light-regulated molecular switch. Structural changes that were not detected by crystallography and the different photochemical properties may explain the difference in the functions between the two LOV domains. The other major LOV proteins are the FKF1 families that have only one LOV domain. Their LOV domains have 9 extra amino acids and their photochemistries are much different from those of phot LOV, that may be correlated with their functions.
  • 今元 泰
    p. S055
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    紅色光合成細菌の光センサー蛋白質であるPhotoactive yellow protein(PYP)は、代表的なPASドメイン蛋白質である。PYPは125アミノ酸残基からなる小さな水溶性蛋白質であるため、PASドメインが単独で存在し、機能していると考えられている。また、高分解能で高次構造が解明されているため、特に反応メカニズムを詳細に解明するためのモデル蛋白質として注目されている。PYPの発色団は、システイン残基にチオエステル結合したp-クマル酸(4-ヒドロキシケイ皮酸)で、吸収極大波長は446nmにある。暗状態での発色団は脱プロトン化したトランス型であるが、光を吸収するとシス型に異性化する。その後、吸収スペクトルの異なる反応中間体(L、M、M')を経てもとの暗状態に戻るという光反応サイクルを持っている。この過程で、発色団が静電的に中性となり、蛋白質部分に大きな構造変化を起こして紫外部に吸収極大が移動した中間体であるM'が、活性中間体であると考えられている。最近の研究から、これらの構造変化は、発色団を中心とした水素結合ネットワークの変化や、CH/π、CH/Oのような「弱い」相互作用の変化によって起こることがわかってきた。シンポジウムでは、PYPの光反応にサイクルに関する最近の知見を紹介し、LOVドメイン光受容蛋白質との類似点について議論したい。
  • 鐘ヶ江 健
    p. S056
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    ホウライシダで発見されたフィトクロム3(PHY3)は、N末端側が赤色光受容体フィトクロムの光受容部位、C末端側が青色光受容体フォトトロピン全長で構成されるキメラ光受容体である。その構造から、PHY3はフォトトロピンの制御する反応を、青色光だけでなく赤色光でも制御できる光受容体であると考えられる。PHY3の機能解析を行うためにシロイヌナズナのフォトトロピン変異体(phot1-5 phot2-1)にPHY3を導入し、胚軸の光屈性を指標として光生理反応を調べた。その結果、PHY3を導入したシロイヌナズナでは青色光・赤色光のどちらでも光屈性を誘導することができ、PHY3はフィトクロムとフォトトロピンの両方の機能を1分子で有する光受容体であることが明らかになった。さらに、単独では光屈性を誘導できない弱い赤色光と青色光を同時に照射すると、光屈性が誘導されることが判明した。この相乗的効果は、形質転換植物体の膜画分におけるPHY3の自己リン酸化シグナルの強度と相関があることも示された。これらの知見から、赤色光情報と青色光情報がPHY3分子内で相乗効果を生み、弱い光にも応答できるようになることが明らかとなった。PHY3はシダ植物固有の光受容体であり、PHY3がシダ植物の弱光環境適応戦略の一端を担う鍵分子であることが想像される。
  • 鈴木 友美, 孔 三根, 田村 謙太郎, 木下 俊則, 島崎 研一郎, 西村 いくこ, 長谷 あきら
    p. S057
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    フォトトロピン(phot)は青色光を感知し、光屈性・葉緑体定位運動・気孔開口を誘引する光受容体である。photは、N末端側の発色団結合に関わるLOV領域とC末端側のSer/Thrキナーゼ領域からなる色素タンパク質である。これまでに単細胞緑藻類から高等植物においてphotの存在が報告され、phot情報伝達系に関与する因子が幾つか取得されているものの、詳細な分子機構に関しては未だ不明である。
    そこで、フォトトロピン情報伝達系を解明するため、シロイヌナズナphot2に着目し、その細胞内局在及び相互作用因子の詳細な解析を行った。その結果、phot2は青色光依存的にゴルジ体に移行すること、その移行にはphot2のキナーゼ領域のみで十分であることが明らかとなった。phot2キナーゼ領域の過剰発現植物体では、光非依存的な青色反応を示したことから、キナーゼ領域のdominant positiveな機能が推測される。続いて、photと相互作用する因子を酵母Two-hybrid法にて検索したところ、小胞輸送に関与する低分子量G蛋白質ARF1の取得に成功した。詳細な解析によって、photはキナーゼ領域を介してGTP結合型ARF1と特異的に相互作用することを明らかにした。ARF1がゴルジ体に局在することから、phot2の光依存的局在変化との関与が考えられる。
    今回はこれらの詳細な結果を報告するとともに、フォトトロピンの初期応答とARF1の役割に関して考察する。
  • 近藤 孝男
    p. A001
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    シアノバクテリアは最も単純な概日時計を備えた生物である。生物発光を利用した実験系を利用し、時計遺伝子群 kaiABCがクローニングされた。当初、この遺伝子の発現制御がリズムを発生させると考えられたが、最近の研究から転写活性がほとんど失われる連続暗でもKaiCのリン酸化リズムが持続することが明らかとなり、さらにKaiA, KaiB、KaiCとATPのみで、温度補償された概日振動が試験管内で持続することも示された。その周期は変異KaiC蛋白質ではin vivoの周期と一致しており、この生化学的反応がシアノバクテリアの概日時計のペースメーカーであることを示唆している。
    この生化学振動のメカニズムを探るため、1)3つの蛋白質の相互作用、2)KaiCの2つのリン酸化サイトの働き、3)振動を維持するエネルギーなどについて詳細に調べた結果、KaiCは極めて弱いが温度補償された正確なATPase活性をもつことが明らかになった。さらに周期突然変異KaiCの活性はin vivoの概日振動の周波数と正比例関係になるので、KaiCのATPase活性が概日周期を生じる原因であることが示された。さらに、このATPase活性はKaiCのリン酸化と相互に関係し、安定したKaiCリン酸化の概日振動を発生していると考えられる。
  • 川合 真紀
    p. A002
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    植物は種々の環境ストレスに適応して生存しており、ストレス条件下で発生する活性酸素種(ROS)は植物の環境適応やプログラム細胞死のシグナル物質として働くことが知られている。Bax Inhibitor-1(BI-1)は生物界に保存された細胞死制御因子であり、小胞体に局在して酸化ストレス誘導性細胞死に対して抑制活性を示す。BI-1の発現は種々のストレス(老化、傷害、病原菌感染)によって誘導されるが、イネにおける過敏感細胞死においては減少する。一方で、BI-1を過剰発現したシロイヌナズナ、及びKO植物は通常の生育を示すことから、本因子は発育過程に見られる細胞死現象には関与せず、ストレス応答時におきる酸化ストレス誘導性細胞死の制御に関与すると考えられた。BI-1の細胞死抑制機構を解明するため、BI-1と相互作用する因子の単離をおこなった結果、カルモジュリン(CaM)とチトクロムb5(Cb5)が単離された。CaMはBI-1のC末端領域に結合し、細胞死抑制活性に対して非常に密接な関与を示した。一方、Ctb5はさらに脂肪酸代謝酵素FAHと相互作用することが明らかとなった。すなわち BI-1はCb5を介してFAHと相互作用し、その活性を制御する可能性が示された。これらの結果は、植物の酸化ストレス誘導性細胞死制御へのスフィンゴ脂質の関与を示唆する。
  • 木下 哲
    p. A003
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    哺乳動物と被子植物では、二つの対立遺伝子が父親・母親のどちらから遺伝したかに従って、遺伝子発現のオン・オフを決定するゲノムインプリンティングと呼ばれる機構が見つかっている。このような仕組みが原因で、父由来・母由来のゲノムには機能的な違いがあると考えられている。植物ではインプリント遺伝子が、胚乳の発生を正または負に制御することにより種子形成を制御していることがわかりつつある。また、ゲノムインプリンティングはアポミクシスの抑制、種間の生殖隔離などの生命現象に関与することが仮説として提唱されており、その全容の解明が待たれている。
    シロイヌナズナでは、MEDEA, FWA, FIS2, PHERESSがインプリント遺伝子として現在までに同定され、その制御機構が明らかとなってきている。動・植物を通じて、DNAメチル化などのエピジェネティックな修飾がゲノムインプリンティングの決定に重要な役割を果たしており、エピジェネティック研究のモデル系でもある。植物では、その制御の仕組みは重複受精の仕組みとあいまって、動物のそれとは異なることが我々の研究から明らかになっている。近年のインプリント遺伝子の同定の経緯とその制御機構について紹介し、現在解析しているインプリンティングに関する突然変異体についても紹介したい。
  • 山口 礼子, 小林 恭士, 後藤 弘爾, 阿部 光知, 荒木 崇
    p. A004
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナには、花成を制御する4つの経路 (光周期経路、自律経路、春化経路、ジベレリン経路) が存在する。複数の制御経路からの情報は、3つの花成経路統合遺伝子遺伝子FLOWERING LOCUS T (FT)、LEAFY、SUPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CO 1の転写制御を介して統合されると考えられてきた。
    TSFは、FTとアミノ酸配列レベルで82% という極めて高い相同性を有することから、花成制御に関与し、かつ経路統合遺伝子としての役割を果たす可能性が高い。しかし過剰発現体の報告を除いて、TSFの花成制御における役割は検討されていなかった。発現解析により、TSFはFT同様に光周期経路ならびにFLCの機能を介して春化経路および自律経路の転写制御下にあることが判明した。また変異体の表現型は、実際に野生型においてTSFが花成時期の決定に寄与することを示唆した。以上より我々は、TSFが花成を制御する複数の情報を転写レベルで統合する花成経路統合遺伝子であると提唱した。さらにレポーターを用いた発現解析により、維管束篩部で観察されるFTの発現パターンとあわせて、FTとTSFによる花成制御経路統合の場として維管束篩部の重要性を提示した。本研究は、花成制御モデルにおける新たな経路統合遺伝子の存在を示し、また、花成制御モデルの空間的な側面を明らかにした。TSFはFTとともに永らく探索され続けたフロリゲンの分子実体の少なくとも一部であると考えられる。
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