日本健康医学会雑誌
Online ISSN : 2423-9828
Print ISSN : 1343-0025
26 巻, 4 号
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巻頭言
原著
  • —小児看護学実習前後における看護学生のことばの変化—
    石舘 美弥子, 山下 麻実, いとう たけひこ
    2018 年 26 巻 4 号 p. 204-211
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    わが国の小児病棟では看護師が幼児に対して頻繁に用いることばにオノマトペがある。先行研究では,オノマトペの臨場感ある描写力が幼児にわかりやすく伝えるための重要な要素となること,オノマトペを中心とした文レベルの構造的特徴について報告している。看護師がこれらのオノマトペをどのように習得しているのかを明らかにするため,本研究では,実習を経験する看護学生が医療処置を受ける幼児にどのようなことばかけをするのか,小児看護学実習前後で違いがみられるのかについて調査した。看護学生154名を対象に,質問紙調査を行い,医療処置を受ける幼児へのことばかけを小児看護学実習前後で比較検討した。テキストマイニングソフトウエアを用いて特徴語分析を行った結果,小児看護学実習前は「まっすぐ」「出してほしい」「絆創膏」など成人語がみられたのに対し,小児看護学実習後は「ピーン」「チックン」「マキマキ」「ペッタン」などオノマトペが特徴的にみられた。実習後の方にオノマトペとの強い関係性が示されており,実習前後では言語的対応に差が認められた。看護学生は実習を通して,オノマトペを用いたことばを多用し,子どもに必要なことばかけを修得していることが示唆された。

  • —高校における物理選択別教授法—
    門司 真由美, 青木 久恵, 三好 麻紀, 窪田 惠子, 青木 奈緒子
    2018 年 26 巻 4 号 p. 212-221
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,物理学の張力の概念を応用して牽引の看護を教授するさいの課題,および高校時に物理学選択の有無別による教授方法についても考察することを目的とした。

    単科の看護大学および看護専門学校に入学直後の学生225名を対象に調査を行った。高校で学習した物理学の張力に関連した基本問題(天井問題・斜面問題)と物理学の張力の概念を牽引の看護に応用した問題(応用問題)を提示し,得られた回答を分析した。

    基本問題の正誤別に応用問題の正答率を比較したところ,基本問題の正誤と応用問題の正答率には関連が認められず,現状では物理学の張力の概念を牽引の看護に生かすのは困難であると思われた。基本問題の正誤と応用問題の正答率の関連を物理選択有無別に比較したところ,「物理選択あり」では天井問題の基本問題の正誤が応用問題の正答率と関連していたが,それ以外は関連が認められなかった。張力の概念を牽引の看護に活用できる知識に変化させるさいには,張力との関係をイメージしやすい医療現場の事例に変化させて授業を行うことの必要性が示唆された。さらに,物理を選択していない学生に対しては,物理学の張力に関する基礎的な内容(原理)を教授しつつ,新しい看護の知識を教授する必要性が示唆された。

  • 若菜 真実, 山﨑 裕子, 岩佐 太一朗, 武藤 美紀子, 部谷 祐紀, 本間 和宏, 田中 越郎, 若菜 宣明
    2018 年 26 巻 4 号 p. 222-231
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    女性には,性周期が存在し,それにより,頭痛,眠気,排便困難など精神的・肉体的にもさまざまな影響を受ける。これらの不定愁訴は,月経前および月経期に強く出現している。本研究では,主観的な排便に対する意識と客観的便の形状について,性周期との関連性を解析した。対象者は,20-30歳の健康な女性17名とし,28日間にわたる排便記録・食事記録・月経記録,さらに初日に主観的な排便に対する意識アンケートと体組成計測を行った。排便記録は,排便時刻,1日の回数,およびブリストルスケールを用いて便の形状を記載させた。 主観的な排便に対する意識へのアンケートでは,15人(88%)に主観的変動があった。性周期による便の形状の変動では,黄体期後半に便秘気味になった者が10人(59%),月経期に下痢気味になった者が10人(59%)であった。ブリストルスケールによる客観的変動の平均は黄体期前半 4.2±0.6,黄体期後半3.8±1.0,月経期4.3±1.0,卵胞期 4.2±0.9であり,大きな変動は認められなかった。しかし9人(53%)において性周期を通して1.1ポイント以上の客観的変動があった。12人(71%)は主観的変動と客観的変動が一致していた。5人(29%)は主観のみの変動であった。排便回数では12人(70%)に変動が認められ,うち7人(41%)が黄体期後半に変動がみられた。このように多くの女性には,性周期によって主観的にも客観的にも排便に対する意識および便の形状の変動が認められた。

短報
  • 杉浦 圭子, 林 知里, 横島 啓子
    2018 年 26 巻 4 号 p. 232-240
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    目的:食行動,食育の推進の観点から口腔機能の低下に着目し,地域在住軽度要介護者の口腔機能の低下と閉じこもりの指標となる外出頻度の低下に対する影響を検討することを目的とした。

    方法:B県のA事業所のデイサービス利用者897人に無記名自記式質問紙をスタッフにより配布し,616人から回収した(回収率68.7%)。基本属性,閉じこもり指標,Basic ADL, 運動能力・転倒リスク指標,うつ症状等について各項目と口腔機能評価3項目(咀嚼機能低下,嚥下機能低下,口の渇きの有無)にてχ 2検定を行い,さらに閉じこもり指標の外出頻度の低下の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った。

    結果:対象者の平均年齢は78.6歳で,女性は約半数だった。Basic ADLは,入浴が自立しているものは72.3%,トイレでの失敗経験は52.8%にみられた。咀嚼機能の低下44.1%,嚥下機能の低下46.2%,口の渇きの出現39.5%であった。「昨年に比べて外出の頻度が減った」と回答したのは全体の52.3%と約半数にみられた。χ 2検定の結果,口腔機能が低下している群では外出の頻度が減ったと回答した割合が有意に高かった。ロジスティック回帰分析の結果では,口腔機能のうち咀嚼機能の低下がもっとも強く影響がみられた(OR=1.56,p<.05)。

    考察:口腔機能の低下と外出頻度の低下が関連していたことから,口腔機能の低下は栄養状態の悪化,体力低下という閉じこもりへの身体的要因であるほか,認知機能の側面から活動意欲の低下など心理的な側面からも影響を及ぼしている可能性がある。ロジスティック回帰分析の結果で口腔機能低下の中でも特に咀嚼機能の低下を防ぐことで閉じこもりを予防できる可能性があることが示されたと考えられる。

    結論:地域在住高齢者において,咀嚼機能と外出頻度の低下の関連は深かった。口腔機能の低下は閉じこもりの直接的な関連要因の一つとして考慮する必要性があると考えられる。

  • —思春期ピアカウンセリング講座実施時の調査から—
    田邉 綾子, 鶴田 来美
    2018 年 26 巻 4 号 p. 241-247
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    中学生の友人関係構築に関する認識を明らかにすることを目的として,A県の思春期ピアカウンセリング講座(以下,講座)を受講した中学生を対象に自己記入式質問紙調査を実施した。3校の生徒210名の回答を分析した結果,以下のことが明らかとなった。

    友人関係構築に関する認識について,中学生の9割以上が,友達を大切にしようと思い,世の中には多様な価値観をもった人がいると思っていた。また,性別でみると,女子の方が男子より,自分らしく生きて良いと思い,友達の考えも自分の考えも大切にしようと思っていた人が多かった。友人関係における失敗体験や成功体験の有無と友人関係構築に関する認識との関連をみると,喧嘩の経験や自ら仲直りをした経験があり,相談者がいる人の方が,それらの経験がどれか1つしかない人と比べて,世の中にはいろいろな考えを持った人がいると思い,自分らしく生きて良いと思うと同時に,友達の考えも大切にしようと思っていた。

    中学生は,友人関係で悩みやトラブルが増加する時期である。自己をみつめ他者を受容するとともに,多様な価値観を持つ友達と協力・協働できる能力を育むための教育プログラムの必要性が示唆された。

資料
  • 徳重 あつ子
    2018 年 26 巻 4 号 p. 248-256
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    寝たきりの高齢者や認知症のある高齢者においては,食事摂取時に大脳の覚醒状態が十分でないと窒息の可能性がある。そこで,本研究では食前の手指の清潔ケアが生体を活性化させるかどうか,また熱布と温湯を用いたケアの違いによって大脳の活性化に及ぼす影響が異なるかどうかについての基礎的な検証を行った。

    その結果,高齢者の手洗い援助を行う際には,大脳活性の観点から熱布使用よりも温湯使用の方が望ましいことが示唆された。

  • ~地域ケア個別会議に提出された困難事例から~
    原田 小夜, 清水 めぐみ
    2018 年 26 巻 4 号 p. 257-264
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

    本研究目的は,地域ケア会議で検討された高齢精神障害者の事例について,介護職員が対応に困った事象の検討結果から,高齢精神障害者の地域ケアにおける課題を明らかにすることである。4保険者の地域ケア会議に提出された処遇困難事例の内,精神疾患を有する10事例を診断名別に分類し,地域包括支援センター(以下,地域包括)及び居宅介護支援事業所介護支援専門員(以下,居宅CM)が事例の概要として対応に困った事象,検討結果を整理し,地域包括ケアにおける課題を検討した。性別は,男性6人,女性4人,介護度は,要支援Iが4人,要支援IIが1人,要介護Iが2人,要介護IIが1人,要介護IIIが1人,未申請が1人であった。統合失調症1人,抑うつ傾向1人・不安神経障害2人,アルコール依存症4人,知的障害2人であった。統合失調症の事例では,家族がサービスを拒否しており,抑うつ傾向の事例では,居宅CMが勧める通所サービスを拒否していた事例であった。不安神経障害の事例は,身内や知り合いを頼って転居してきた独居の高齢者で,居宅CMに頻回に不安を訴える事例であった。アルコール依存症の事例では,居宅CMが本人に断酒させようと説得,家族の協力を求め断られた事例であった。知的障害の事例では,障害福祉の支援者との連携が難しい事例であった。高齢期精神障害者の支援拒否の背景には,本人のこだわりや拒否理由があり,サービスの受容性に関するアセスメントを行う必要がある。生活の様々な場面で起こった対応困難な事象を検討することが介護職員の高齢者の精神疾患の症状や障害の特性の学習になる。また,地域包括は地域の自助グループに関する情報集約と居宅CMへの情報提供を行う必要がある。高齢精神障害者の地域包括ケアを推進するためには,障害福祉の支援者と介護保険支援者間でお互いの立場を理解した上で情報の共有を図る必要性と行政機関の庁内連携,協働が不可欠であり,個々の事例の問題ではなく,地域課題として取り上げ,地域で解決していくしくみづくりが重要であることが示唆された。

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