日本健康医学会雑誌
Online ISSN : 2423-9828
Print ISSN : 1343-0025
29 巻, 4 号
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巻頭言
原著
  • 川崎 朋子, 吉永 砂織, 蒲原 真澄, 鶴田 来美
    2021 年 29 巻 4 号 p. 373-380
    発行日: 2021/01/28
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    本研究は,特定機能病院の退院支援において,病棟看護師はどのような看護実践を行っているのか明らかにすることを目的とした。

    九州内の一特定機能病院に勤務する病棟看護師6名を対象に半構成的面接を実施し,退院支援における看護実践について質的内容分析を行った。

    特定機能病院の病棟看護師が行う退院支援は,6つのカテゴリーに集約された。急性増悪で入院し,緊急・重篤な状態にある患者に対し,まずは医師主導の治療を積極的に補助し,不安定な状況にある患者の【回復の兆しの見極め】を行っていた。回復が見込める状況を確認できると【生活者としての回復の見極め】,【生活者としての環境の調整】,【医療者間の患者認識の調整】,【患者・家族の対処能力の見極め】を通して退院支援に努め,患者・家族へ繰り返し関わりながら,退院に向けた問題点を整理し【包括的マネジメントによる患者・家族の意思決定支援】を行っていた。

    特定機能病院は,在院日数の短縮により退院支援の関わりも短期間で展開しているため,患者・家族を知るための時間的な限界がある。それゆえ,病棟看護師には多職種を繋げるマネジメント力が重要と考えられた。病棟看護師は,医療全体を俯瞰しながら退院支援の課題解決に向け,多職種の専門性を理解し医療倫理を共有し合い医療チームを形成していった。そして,多職種連携を進めて行くうえでリーダーシップを発揮しながら,患者・家族の包括的理解や医療者間の患者認識の調整に努めていた。

    この病棟看護師のリーダーシップの発揮や包括的なマネジメントは,病棟看護師が持ち合わせる看護観や看護倫理観に基づく信念により,それが原動力になることで実践されたと考える。

  • 水口 誠子, 吾妻 知美
    2021 年 29 巻 4 号 p. 381-388
    発行日: 2021/01/28
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,看護職のワーク・ライフ・バランス(WLB)を推進する役割を担う看護師長における自身のWLBに対する認識の特徴を明らかにすること,および,その特徴から看護職のWLB推進の示唆を得ることである。データを収集するために,主要情報提供者であるWLBを推進している病棟看護師長7名,および一般情報提供者12名を対象に参与観察および半構造化インタビューを行った。分析はレイニンガーの民族看護学データ分析ガイドの段階に沿って実施した。その結果,看護師長のWLBに対する認識の特徴として【看護師長には,管理者役割があり,看護師長自身のWLBとスタッフのWLBは同じではないという認識がある】,【看護師長には,スタッフのWLB実現のために,ロールモデルとしていきいきとしている自分を見せる必要があるという認識がある】,【看護師長には,自身のWLB以前にすべてのスタッフが平等にWLBを実現できる職場づくりが重要であるという認識がある】,【看護師長は,WLB推進と自身のWLBについての限界とジレンマを認識している】という4つのテーマを抽出した。これらの結果から,看護職のWLB推進に向けて,スタッフ看護師のWLBだけでなく看護師長のWLB推進についても考慮されること,看護師長は,WLB推進のための職場づくりとして,子育て支援に偏ることなくすべてのスタッフに目を向け平等なWLB実現をめざしていくこと,そして,看護師長のストレス対策のためのセルフケアと相談システムなどの組織内でのシステム構築の必要性があることが示唆された。

  • 細見 亮太, 中澤 知奈美, 萩原 希, 福永 健治, 吉田 宗弘
    2021 年 29 巻 4 号 p. 389-400
    発行日: 2021/01/28
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    これまでにわれわれはラットに高リン(P)餌料(P濃度1.5wt%)を給餌した場合,正リン酸塩をP源とする餌料に比べ,トリポリリン酸ナトリウム(Na)をP源とする餌料は,腎臓石灰化に及ぼす影響が重度であることを報告している。トリポリリン酸Na以外にも重合度の異なるリン酸塩が食品添加物として用いられている。しかし,重合度の異なるリン酸塩をラットに給餌し,腎石灰化およびミネラル出納に及ぼす影響を検討した報告はない。そこで本研究では,重合度の異なるリン酸塩として,リン酸水素二Na(重合度1),ピロリン酸Na(重合度2),トリポリリン酸Na(重合度3)およびテトラポリリン酸Na(重合度4)を用いて調製した高P餌料をラットに給餌し,腎臓石灰化,Pおよびカルシウム(Ca)出納,腎臓PおよびCa吸収トランスポーター遺伝子発現量に及ぼす影響を検討した。動物実験1では,被験動物として4週齢Wistar系雄ラットを5群に分け,正常P餌料(P濃度0.3wt%)および重合度の異なるリン酸塩を用いて調製した高P餌料(P濃度1.2wt%)を給餌した。また動物実験2では,ラットを2群に分け,リン酸水素二Naおよびピロリン酸Naを用いて調製した高P餌料(Na含量は等量)を給餌した。飼育開始18日目から3日間,代謝ケージを用いて,糞と尿を分離採取し,これらのPおよびCa濃度を測定した。飼育開始21日目に常法により採血し,腎臓を採取した。動物実験1の結果,重合リン酸塩餌料給餌群において,重合度2のピロリン酸Naを給餌した群でトリポリリン酸Naおよびテトラポリリン酸Na給餌群と比較して腎臓石灰化度合いがそれぞれ有意な増加および増加傾向(p=0.09)が見られた。また動物実験2でも動物実験1と同様に,ピロリン酸Naを給餌した群で,リン酸水素二Na給餌群よりも腎臓石灰化度合いの高い傾向が見られた(p=0.06)。一方,ピロリン酸Na給餌群は,動物実験1および2ともにラットの終体重の低下が見られた。そのため,ピロリン酸Naの過剰給餌による腎臓石灰化は,ラットの成長および餌料摂取量の低下による影響を受けている可能性がある。このことから,餌料を自由摂取とした条件の場合,本研究で使用した正リン酸塩および重合リン酸塩の中で,ピロリン酸Naの給餌がラットの腎臓石灰化に及ぼす影響がより重度であることが示唆された。

  • 森山 志保, 畑中 あかね, 加藤 憲司, 池田 清子
    2021 年 29 巻 4 号 p. 401-408
    発行日: 2021/01/28
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,安定冠動脈疾患で待機的に冠動脈インターベンション術(Percutaneous Coronary Intervention ; 以下PCIとする)を受けた患者(以下,待機的PCI術後患者とする)のセルフケア能力と,それに関連する要因を明らかにすることである.

    方法:A県内の4施設に通院する待機的PCI術後患者を対象に,質問紙調査を実施した.調査項目は,オレムのセルフケア理論をもとに設定した.このうち,セルフケア能力は,慢性病者のセルフケア能力を測定するために開発された質問紙(Self-Care Agency Questionnaire ; 以下SCAQとする)を用いた.分析は,SCAQの合計得点を従属変数,単変量解析で有意差を認めた変数を独立変数として,stepwise法で重回帰分析を行った.

    結果:725名に配布し,432名から回答があった(回収率59.6%).有効回答数は400名であった(有効解答率92.6%).単変量解析で有意差を認めた13変数を独立変数,SCAQの合計得点を従属変数として重回帰分析を行った結果,「生きがい意識(Ikigai-9)」,「年齢」,「支えてくれる人の存在(情緒的支援者)がいない」,「無職者」の4つがSCAQの合計得点に関連する有意な要因として選択された.(調整済みR2=0.265,p<0.05).

    考察:待機的PCI術後患者のセルフケア能力には,心理的要因が大きく影響してることが示唆された.したがって,待機的PCI術後患者のセルフケア能力を高めるためには,患者の心情に配慮しながら,PCI術後も生きがいを持って暮らしていけるよう,個別性のある継続的な支援が必要であると考える.

  • —製造業に従事する労働者への調査から—
    田邉 綾子, 塩満 智子, 内海 沙織, 蒲原 真澄, 吉永 砂織, 鶴田 来美
    2021 年 29 巻 4 号 p. 409-416
    発行日: 2021/01/28
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,労働者のロコモティブシンドローム(以下,ロコモとする)と健康に関する自覚との関連を明らかにすることである。

    対象者は,A県に所在する製造業の従業員174名であり,ロコモ度テストと質問紙調査を実施した。ロコモ度テストとして,立ち上がりテスト,2ステップテスト,ロコモ25を実施した。質問紙調査の内容は,対象者の基本的特性,健康に関する自覚で構成した。調査時期は2018年9月であった。ロコモ度テストの結果,ロコモ度1および2に該当した人をロコモ該当者とし,ロコモ該当者と非該当者の2群に分けて分析した。ロコモと健康に関する自覚との関連をみるため,χ 2検定もしくはFisherの直接確率法を用いて分析した。

    労働者のロコモの実態について,対象者の25.3%がロコモに該当していた。健康に関する自覚については,40歳未満の若年者は体力に不安のある人の割合が高く,膝痛は40歳以上の中高年者で多かった。また,ロコモと健康に関する自覚との関連を見た結果,ロコモ該当者は,自身の健康状態を健康でないと認識し,膝や腰,股関節,肩に痛みを有していた。

    労働者に対して運動器を含めた健康支援策を講じるには,本人の自覚を大切にし,軽度の身体的不調を見逃さず,早期予防のために運動指導や生活指導といった保健指導を実施する必要性が示唆された。

  • —保護者の性別による違いから—
    丸山 佳代, 永嶺 仁美, 森田 久美子
    2021 年 29 巻 4 号 p. 417-424
    発行日: 2021/01/28
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,小学生の保護者の食行動に関連する要因を理解し,保護者を対象とした健康的な生活習慣を支援するプログラムの示唆を得ることである.小学生378名の父親と母親を対象に食行動尺度(EBS),生活習慣,健康意識,主観的健康感,一般向けヘルスリテラシー尺度(CCHL)の項目からなる質問紙調査を実施し,278家庭を分析対象とした.

    保護者の健康意識,父親のヘルスリテラシー,母親の適切な体重を維持する習慣と主観的健康感が食行動に関連する要因として抽出された.保護者の健康意識や父親のヘルスリテラシーの高さ,母親の適切な体重を維持する習慣や主観的健康感の高さは,良好な食行動の関連要因となることが示唆された.これらの結果は,同様の環境で生活を共にする子どもの食行動へも影響することが考えられる.

    子どもの生活習慣は保護者の影響を受けやすいことから,子どもの健康的な生活習慣を確立するためには,子どもだけでなく保護者に対する教育が必要である.保護者の健康を意識するきっかけを作り,父親ではヘルスリテラシーの向上,母親では適切な体重の維持や主観的健康感の改善に焦点を当てた教育を実施することは,保護者の食行動をより良い方向に導く可能性がある.

  • 峰村 貴央, 松森 慎悟, 阿久澤 さゆり
    2021 年 29 巻 4 号 p. 425-433
    発行日: 2021/01/28
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,日本晴れを親にした3種の澱粉合成酵素を働かないようにした変異体米(SSI,SSIIIa,PUL)の炊飯米と米デンプンの特性を比較し,機能性食材としての検討をすることである.炊飯米の形状は,日本晴れ,SSI,PULは丸いジャポニカ種に似た形状で,その破断特性は,はっきりとした破断点を示さない脆性破断であった.一方,SSIIIaは,インディカ種のように長い形状であり,明確な破断点を示す炊飯米で,異なる特性であることが示された.SSIIIaのデンプン糊液は,水のように粘弾性の極めて低い糊液で,まったく異なる性状であった.この特性は,低粘度の機能性米として,粥や低粘度の流動食として利用できると考えられた.

  • 金田 明子, 叶谷 由佳
    2021 年 29 巻 4 号 p. 434-443
    発行日: 2021/01/28
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    目的:在宅要介護高齢者のエンド・オブ・ライフ期におけるケアマネジメントの構成概念を明らかにし,在宅要介護高齢者のエンド・オブ・ライフ期におけるケアマネジメント遂行の定義について検討することである。

    方法:Rogersの概念分析の手法を用いた。Pub Med, 医中誌Web版を用いて文献を検索し,海外8,国内20の計28文献を対象とした。文献から先行要件・属性・帰結に該当する内容を抽出し質的帰納的に分析した。

    結果:先行要件2カテゴリ,属性6カテゴリ,帰結2カテゴリが抽出された。

    結論:在宅要介護高齢者のエンド・オブ・ライフ期におけるケアマネジメント遂行は「エンド・オブ・ライフ期を支える環境を整え,対象者の望む暮らしと望む最期を明確化するための意思決定支援を行い,対象者の望みの実現に向けてケアチームが協働し,必要な時にタイミングを逃さず身体面・精神面・スピリチュアル面のケアを提供できるようにするための活動」と考える。

  • 松崎 広志, 盛 喜久江, 勝間田 真一
    2021 年 29 巻 4 号 p. 444-449
    発行日: 2021/01/28
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    高リン食投与による腎の石灰化発症のメカニズムについて明らかにするために,高リン食投与時のラット腎臓の骨代謝関連タンパク質である骨形成タンパク質2とオステオポンチンに注目した。そこで,本実験では骨形成タンパク質2(Bmp2)とオステオポンチン(Spp1)のmRNA発現量に及ぼす高リン食投与の影響について検討した。ウィスターラットを2群に分け,飼料中リン濃度を0.3%(正常食)または1.5%(高リン食)に調整した飼料を投与した。腎臓中カルシウムとリン濃度は正常食群に比し高リン食群で有意に高値を示した。また,Bmp2Spp1のmRNA発現量も正常食群に比し高リン食群で有意に高値を示した。これらの結果から,高リン食は腎臓のBmp2Spp1のmRNA発現量を増加させることが示された。

  • —グループインタビューを用いて—
    中澤 沙織, 鈴木 英子, 川村 晴美, 田辺 幸子
    2021 年 29 巻 4 号 p. 450-456
    発行日: 2021/01/28
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    目的:新卒看護師をサポートするための教育プログラムを構築することを意図し,新卒看護師が効果的と認識する実地指導者からのサポートを明らかにする。

    方法:A県内の大学病院2施設のいずれかに勤務し,研究協力に同意が得られた新卒看護師7名を対象にグループインタビューを実施した。得られたデータは質的帰納的に分析した。

    結果:対象の属性は男性2名,女性5名であった。分析の結果,新卒看護師が効果的と認識する実地指導者からのサポートは,«看護技術を習得するためのサポート»,«看護実践を遂行するためのサポート»,«実践した看護の意味づけをするサポート»の中カテゴリーからなる【業務的サポート】と,«承認に関するサポート»,«受容に関するサポート»の中カテゴリーからなる【情緒的サポート】の2大カテゴリーが抽出された。

    結論:本研究の結果を基に,実地指導者が新卒看護師をサポートできるような職場環境の調整や具体的な教育プログラムを作成していくことが必要である。

資料
  • —訪問看護ステーション利用者とその家族の聞き取り調査より—
    日比野 直子
    2021 年 29 巻 4 号 p. 457-461
    発行日: 2021/01/28
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    本研究目的は,看護小規模多機能型居宅介護(看多機)のサービス運用に挑戦する訪問看護ステーションが,在宅療養者とその家族に対し,看多機についての認識を問う聞き取り調査を行い,サービスの運用開始について課題抽出することである。聞き取り調査の対象は,愛知県内に既存する医療機関を併設しない1事業者である訪問看護ステーションの訪問看護サービス利用者とその家族6組である。主な聞き取り項目は,「訪問看護サービス利用についての思いと希望」,「デイサービスやショートステイ等の通いと泊りに対する希望」などであり,聞き取った内容は事例ごとに表に整理した。調査回答から,訪問看護サービスについては肯定的に受け止めていたことが分かった。看多機のサービスが開始されれば利用してみたいという回答はあったが,療養者のうち2人は,利用したくないと回答した。療養者から看多機の利用について否定的な回答があったことから,疾患の悪化や療養環境の変化等で,現在の訪問看護サービス利用だけでは立ち行かなくなる可能性があることをイメージできないことなどが影響していると考えられた。

  • 土肥 眞奈, 叶谷 由佳, 榎倉 朋美, 柏﨑 郁子
    2021 年 29 巻 4 号 p. 462-468
    発行日: 2021/01/28
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    認知症の行動・心理症状を緩和する技法を教育する目的で開発された「高齢者の視点を重視した認知症患者への対応」教育プログラムを導入した急性期病院看護師を対象にプログラムの実践状況を調査した。首都圏の急性期病院の一般病棟に勤務する看護師200名にプログラムを収録したDVDを配布し,配布13日後に質問紙により実施状況を調査した。回答を寄せた25名中で研究参加に同意した10名は全員がDVDを視聴し,プログラムに示された看護を実践していた。回答数は少ないが,業務多忙など実施に負の影響を及ぼしうる状況下であってもプログラムに示された看護を全員が実施していたことから,このプログラムを臨床場面に導入する意義は高いと考える。

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