日本健康医学会雑誌
Online ISSN : 2423-9828
Print ISSN : 1343-0025
32 巻, 2 号
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原著(実験研究)
  • ─妊婦体験ジャケット装着による腰椎前弯と骨盤前傾の変化─
    坂本 親宣
    2023 年 32 巻 2 号 p. 134-139
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/10/10
    ジャーナル フリー

    妊娠に伴う体重増加と子宮の増大による腹部の前方突出で椎間関節へのストレスが大きくなり,facet painが生じている可能性が推察される。そこで今回,模擬的に妊婦の状況を作り,腰椎・骨盤アライメントについての検討を健常女性37名(平均年齢21.8±7.0歳,平均身長159.0±4.6 cm, 平均体重55.2±9.3㎏)を対象として行った。腰椎前弯は左肩峰と左大転子を結んだ直線,および左外果2 cm前方と左大転子を結んだ直線の交わった角度で,骨盤前傾は左上前腸骨棘と左上後腸骨棘を結ぶ線分と,左上前腸骨棘と水平面を結ぶ線分とのなす角度で評価した。腰椎前弯角度の平均値は,妊婦体験ジャケット非装着で5.7±3.5°,妊婦体験ジャケット装着で10.7±5.0° であり,妊婦体験ジャケット装着が妊婦体験ジャケット非装着に比べ腰椎前弯角度の平均値が有意に大きかった(p<0.0001)。骨盤前傾角度の平均値は,妊婦体験ジャケット非装着で11.8±3.0°,妊婦体験ジャケットで24.2±5.0° であり,妊婦体験ジャケット装着が妊婦体験ジャケット非装着に比べ,骨盤前傾角度の平均値が有意に大きかった(p<0.0001)。腰椎前弯増強,骨盤前傾増大の状態が持続すると,椎間関節の重なりが強くなるために椎間関節の炎症が発生し,椎間関節性腰痛症を発症する可能性があることが示唆された。

原著(量的調査研究)
  • 蔭谷 陽子, 岩永 誠
    2023 年 32 巻 2 号 p. 140-148
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/10/10
    ジャーナル フリー

    看護師は,患者の気持ちに強く共感することで共感疲労を引き起こす可能性がある。看護師が共感疲労に陥ることで,看護師自身が心理的な問題を抱えるだけでなく,看護の質の低下を招く可能性がある。本研究は,看護師の職業的アイデンティティ,共感性,患者への過度な関与が看護師の共感疲労に及ぼす影響過程を検討する。調査対象者は100床以上の病院に勤務する看護師308名(男性15名,女性293名,平均年齢36.7±10.71歳)である。分析の結果,職業的アイデンティティは,共感疲労の下位因子である個人的苦痛を抑制し,共感的苦痛を促進するという直接効果を示した。その一方で,職業的アイデンティティは,患者との感情共有を媒介して個人的苦痛と共感的苦痛を促進することがわかった。また,患者との感情共有は患者への過度な気がかりを媒介して個人的苦痛と共感的苦痛を引き起こすことが示された。

  • 美濃口 真由美, 鈴木 英子, 三浦 教子, 横山 ひろみ, 北島 裕子
    2023 年 32 巻 2 号 p. 149-156
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/10/10
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,産後1ヵ月の初産婦の育児困難感尺度(1M-FMCD)を開発することであった。尺度原案は,概念分析と質的研究および先行研究に基づき作成した。産後1ヵ月の初産婦317名を対象に質問紙調査を実施し,信頼性と妥当性を検証した。有効回答317名(76.8%)を分析対象とした。最尤法,プロマックス回転による探索的因子分析により,3因子20項目が抽出された(Cronbach’s α=0.94)。再テスト法の級内相関係数は0.786,基準関連妥当性は0.797であり,信頼性と妥当性は良好であった。また,確証的因子分析の適合度はGFI=0.880,AGFI=0.849,RMSEA=0.064で概ね良好であった。尺度の信頼性・妥当性は概ね検証された。

  • 吉岡 詠美
    2023 年 32 巻 2 号 p. 157-164
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/10/10
    ジャーナル フリー

    本研究は,感染症流行下において,学生のストレス対処行動を強化するための教育的支援を検討するために,学生の実習ストレス要因とストレス対処との関連性を明らかする。A大学の看護学生80名を対象に質問紙調査を行った。感染症下における学生の実習ストレスに関して因子分析により【オンラインでの実習】,【感染症対応】,【看護の知識・技術】,【教員との関係】,【指導者との関係】という5因子を抽出した。5因子のうち,【オンラインでの実習】,【感染症対応】は感染症下の実習状況を反映したストレスであり,【看護の知識・技術】,【教員との関係】,【指導者との関係】は,感染症下の実習状況が影響を与えるが,平時における実習でも感じているストレスであった。【感染症対応】は,ストレス対処能力の下位概念である「処理可能感」と「有意味感」,ストレス対処行動の下位概念である「気分転換」と負の関連を示した。教育的支援として,教員は学生が感染に関して過度な不安を感じないように,実習前に臨床に即した感染予防の知識と行動を教授すること,学生の感染症対策を医療者の視点で学生と共にリフレクションすること,学生が感染症下でも可能な気分転換ができるよう環境を調整する必要がある。

  • 古田 柚奈, 小川 夏佳, 結城 美智子
    2023 年 32 巻 2 号 p. 165-173
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/10/10
    ジャーナル フリー

    オーラルフレイルとは口腔機能の衰えのことである。口腔機能低下の予防としてオーラルフレイルの概念が提唱され,口腔領域における高齢期の健康増進として注目されている。本研究は,地域在住高齢者におけるオーラルフレイルの有症率を把握し,オーラルフレイルに関連する要因を明らかにすることを目的とした。北海道A市内の老人福祉センターを利用している地域在住高齢者93名を対象に,自記式質問紙調査(オーラルフレイル,栄養,フレイル)と身体測定(BMI,握力,椅子立ち上がりテスト)を行った。オーラルフレイルは公益財団法人日本歯科医師会によるセルフチェック表により評価した。オーラルフレイルの有症率は66.7%であり,残存歯数,主観的な歩行速度の低下がオーラルフレイルに独立して有意な関連を示した。これらの要因はオーラルフレイルのアセスメントと今後の予防対策に重要な因子であると考えられ,高齢者自身が口腔健康への意識をより高く持ち,早期に対処していく必要性が示唆された。

  • 奥田 眞紀子, 新田 紀枝, 早川 りか, 森下 和恵, 久山 かおる
    2023 年 32 巻 2 号 p. 174-182
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/10/10
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,看護課題およびその関連要因を訪問看護計画書に明記することの有用性を検討することである。その取組みを実施している1訪問看護ステーションにおいて,明記前後の訪問看護計画書の内容を調べ,内容の変化のプロセスを分析した。明記することにより,個々の訪問看護師が看護課題の原因や理由を明確に認識することができ,看護課題の根拠をチームで共有できるようになった。また,明記することで,関連要因の解決,軽減維持,リスク回避を目指した看護計画を立案し,個別性のある効果的な看護実践につなげることができていた。また,訪問看護事業所が実施した利用者満足度調査においては,明記後に「説明内容や手順の統一」に関する項目の満足度が有意に上昇していた。以上のことは,看護課題およびその関連要因を訪問看護計画書に明記することが有用であることを示唆している。

原著(質的研究)
  • 高橋 恵理菜, 野呂 千鶴子
    2023 年 32 巻 2 号 p. 183-192
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/10/10
    ジャーナル フリー

    産業保健師が,コロナ禍のために在宅勤務に移行した労働者を支援対応するプロセスを明らかにする目的で,テレワーク導入企業に勤める産業保健師10名に対して「自分自身が保健師として困ったこと」等について半構造化インタビューを行った。インタビューから得られた逐語録を修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)によって分析して26の概念を生成し,これを「労働形態の激変による衝撃」,「新たな支援方法の構築」,「健康課題に合わせた支援」,「産業保健師としてのあり方の確立」という4つのカテゴリーに集約した。産業保健師が在宅勤務へ移行した労働者への支援対応は,突然に在宅勤務へ移行した労働者の「労働形態の激変による衝撃」から始まり,保健師は「新たな支援方法の構築」をしながら支援にあたり,労働形態の変化によって生じた「健康課題に合わせた支援」が必要であると気付き,最後に「産業保健師としてのあり方の確立」が求められるというプロセスを経ることが明らかになった。在宅勤務へ移行した労働者の支援に対応していくプロセスが明らかとなり,労働者の変化し得る働き方に対応していく必要性とそのスキル獲得に関する産業保健師のあり方について,示唆を得ることができた。また,これらの過程は心的外傷後成長を経験していると考えられた。

短報
  • 南﨑 眞綾, 佐々木 晶世, 叶谷 由佳
    2023 年 32 巻 2 号 p. 193-199
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/10/10
    ジャーナル フリー

    本研究は,認知症一人称体験教育が,看護学生のエイジズムと高齢者イメージに与える影響について検討することを目的とした。看護学科3年生102名を対象として,2020年9月~2021年1月の老年看護学実習前,老年看護学実習後(認知症一人称体験前),認知症一人称体験後にWebアンケート調査を実施した。エイジズム(日本語版Fraboniエイジズム尺度短縮版:FSA),高齢者のイメージ,属性を調査した。研究参加に同意した48名のうち,有効回答のあった30名が分析対象となった。FSA得点は,老年看護学実習前が27.1±5.9点,老年看護学実習後(認知症一人称体験前)が26.8±5.6点,認知症一人称体験後が25.6±5.2点で有意差はなかった。高齢者のイメージは,「尊敬できる」,「経験が多い」というイメージへ有意に変わった。認知症一人称体験教育は,看護学生の高齢者イメージが好転する機会となることが推察された。

症例・事例報告
  • ─新型コロナウィルス感染症流行下における自宅でも可能な急性期看護演習の工夫─
    西村 美帆, 上坂 真弓
    2023 年 32 巻 2 号 p. 200-205
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/10/10
    ジャーナル フリー

    新型コロナウィルス感染症拡大に伴い,看護学教育の現場では様々な演習をオンラインで実施しなければならず,本学の成人看護学:急性期領域の演習もオンラインで実施せざるを得なかった。シミュレータを用いた経験学習が困難であるなど,制限された条件のもとで実施したオンライン演習の取り組みについて報告する。演習内容は「術前呼吸訓練(深呼吸,排痰方法)と呼吸音聴取」,「深部静脈血栓症の予防の看護」,「手術当日の手術室入室までの声かけ」,「疼痛スケールを用いた評価と看護ケア」,「心電図モニターの装着」,「気管挿管」,「手術前看護のイメージ化」,「BLS技術の習得」の8課題である。以上のオンライン演習は,臨床の看護実践場面を設定し,学生が看護師役・患者役を担い実施したこと,デブリーフィングの時間を設けたこと,本演習の事前課題により得た知識(興味対象関連の知識)と演習中課題の完成および事後課題への取り組み(特殊的好奇心)により,演習内容が定着し実習での活用が可能であったことで,シミュレーション教育とほぼ同様の効果が得られ,臨地実習で活用できたと考える。

資料
  • 星 美鈴, 杉本 健太郎, 佐々木 晶世, 叶谷 由佳
    2023 年 32 巻 2 号 p. 206-211
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/10/10
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,サービス付き高齢者向け住宅(以下,サ高住)で勤務している介護職が連携する看護職に期待する役割について明らかにすることである。サ高住で勤務する3名を対象として,インタビュー調査を実施した。その結果,サ高住と連携する看護職には,【医療処置と身体管理】,【介護職にできることや医療的知識に関する情報提供】,【看取り期における利用者の医療的サポートと具体的指示】,【最期の兆候や死後の特徴についての情報提供】,【介護職と相談し合える関係】,【利用者への対応について施設職員との円滑な共有・確認】,【看護職に関わって欲しいという利用者ニーズへの対応】,【利用者の健康面の日々の相談相手】,【24時間対応での施設利用者への訪問】,【急変時の最初の連絡先】,【医師との繋ぎ役】が役割として期待されることが明らかとなった。以上の結果から,サ高住と連携する看護職には医療的なサポートや情報提供,高齢者の健康相談,急変時の対応や看取りのサポートといった役割が期待されており,高齢者の生活を支える関係職種として相談し合えるような関係づくりをしていくことが必要であると示唆された。

  • 小島 汐莉, 小川 夏佳, 蘇 雅, 結城 美智子
    2023 年 32 巻 2 号 p. 212-219
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/10/10
    ジャーナル フリー

    低栄養の高齢者は,筋肉量・骨量の減少によって転倒・骨折を起こし,後に要介護状態となることが懸念されている。またCOVID-19の感染拡大による生活の変化は,栄養状態にも影響を及ぼしている可能性がある。本研究の目的は,COVID-19流行下における地域在住高齢者の低栄養とその関連要因を検討することである。北海道札幌市内の老人福祉センターを利用する65歳以上の高齢者を対象に,自記式質問紙調査と身体測定を実施した。198名を分析対象とした結果,低栄養リスクの有症率は26.3%であった。世帯構成,COVID-19流行による他者との交流や外出の減少,ストレスや不安を感じている,足腰が弱ってきたことが低栄養リスクと有意な関連がみられた。以上の結果から,COVID-19流行下では自覚のないうちに高齢者は低栄養リスクがあること,また特に身体の衰えを感じた際には自身の栄養状態にも注意し対処する必要があることが明らかになった。

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