日本健康医学会雑誌
Online ISSN : 2423-9828
Print ISSN : 1343-0025
27 巻, 4 号
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巻頭言
原著
  • 井奈波 良一
    2019 年 27 巻 4 号 p. 294-302
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    女性看護師の主観的幸福度に関連する職業性ストレスを明らかにすることを目的に,A総合病院の経験年数1年以上の女性看護師318名(年齢35.6±11.3歳)の自記式アンケート調査結果について分析した。職業性ストレスの把握には,新職業性ストレス簡易調査票の短縮版を使用した。対象者を主観的幸福度が「高い」,「中庸」,「低い」の3群に分け,多重ロジスティック回帰分析を行った。その結果,主観的幸福度が「高い」は,職業性ストレス要因の指標である「仕事の資源」の中の「仕事の適性」(オッズ比1.83),「同僚からのサポート」(オッズ比1.24),「家族や友人からのサポート」(オッズ比1.30)および「キャリア形成」(オッズ比2.54)の各得点が高いことに有意に関連していた(p<0.01またはp<0.05)。また,主観的幸福度が「高い」は,アウトカムでは,「活気」(オッズ比1.24),「家庭満足度」(オッズ比3.03)および「ワーク・エンゲイジメント尺度」(オッズ比1.05)の各得点が高いことに有意に関連し(p<0.01),「抑うつ感」(オッズ比0.87)得点が低いことに有意に関連していた(p<0.01)。以上のことから,経験年数1年以上の女性看護師の主観的幸福度が「高い」ことは,仕事の資源に有意に関連していることがわかった。

  • 鈴木 英子, 髙山 裕子, 國井 亨奈, 川村 晴美, 塩見 直子, 中澤 沙織, 田辺 幸子
    2019 年 27 巻 4 号 p. 303-310
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    目的:新卒看護師のアサーティブネスとバーンアウトとの関連を明らかにした。

    方法:17の病院の看護部長より協力が得られた新卒看護師を対象に2015年9月から11月まで自記式質問紙調査を実施した。新卒看護師のアサーティブネス(NNAS)尺度及び日本版バーンアウト(J-MBI)尺度を使用した。

    結果:MBI及びNNASの平均に性別及び職種に差が認められ,女性の新卒看護師645人を解析の対象とした。対象の平均年齢,NNAS及びMBIの平均はそれぞれ22.60±3.07,67.4±10.1,11.3±2.2であった。

    本研究の自由度調整済み決定係数は0.46であった。重回帰分析の結果,アサーティブネスは下位尺度すべてが有意にバーンアウトに関連しており,他者からの不当評価を甘受する率直でない受け身的自己表現の者(甘受:β=0.10,p<0.01),他者への配慮優先の率直でない非主張的自己表現の者(非主張:β=0.13,p<0.01),自己権利優先の適切でない拒否的もしくは攻撃的自己表現の者(拒否攻撃:β=-0.11,p<0.01),のβが0.1を超えていた。その他のβが0.1を超えていた変数は,職場満足,転職意向,仕事量であった。

    考察:アサーティブでないとバーンアウトする可能性が明らかになった。すなわち新卒看護師では,甘受,非主張,拒否攻撃的な自己表現の者はバーンアウトしやすいことが明らかになった。

  • 長尾 匡子
    2019 年 27 巻 4 号 p. 311-318
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    一般急性期病院に就職して6ヶ月が過ぎた新人看護師5名が,患者の看取り体験から生じた負の感情を,どのような支援を受けて乗り越え,学び,成長につなげていったのかを質的に明らかにするため,インタビューを行った。インタビューの内容をコード化し,集約した結果,【知識不足は怖いことだと実感する】,【看取り体験は看護師として成長するための貴重なプロセスであると意味づける】,【丁寧に患者・家族に関わることの重要性を理解し,実践していく】,【先輩看護師の的確な評価と指導で成長していける】,【自分のできることを実践する】,【先輩看護師を目標とする】,【病棟の雰囲気から安心感と肯定感がもてる】という7つのカテゴリを得た。

    看取り体験を新人看護師の学びや成長につなげるためには,病棟看護チーム内で新人看護師の居場所を保証することが必要不可欠である。居場所の保証は,一人で何もできない自分がチームに居ても良いという安心感と,困った時には先輩看護師が助けてくれるという安心感を得ることができる。また,先輩看護師の指導・教育を納得して的確に受け止めることができる。そして,先輩看護師が示す看護実践や,看取りは自己の看護を振り返る貴重なものとする姿勢から,先輩看護師を目標とし,同時に自身も看取り体験は成長するための貴重なものと意味づけることができる。そして,知識獲得に向けての努力と,今できる看護実践を繰り返し実施,強化するなど,一人で実践できることを増やそうとする新人看護師は,病棟看護チーム内での自己の位置づけを肯定的にとらえることができるのである。

  • 藤野 裕子, 樋口 裕也, 藤本 裕二, 立石 憲彦
    2019 年 27 巻 4 号 p. 319-327
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    精神科看護師のリカバリー志向性の特徴と関連要因を明らかにすることを目的として,2つの精神科病院に勤務する看護師455名を対象に自記式質問紙調査を実施した。調査項目は,1)基本的属性,2)リカバリー志向性(日本語版7項目版Recovery Attitudes Questionnaire:RAQ-7),3)リカバリー知識(日本語版Recovery Knowledge Inventory:RKI),4)リカバリーの認識,5)リカバリーへの関心,6)研修姿勢,7)リカバリー研修経験,8)リカバリープロセスにある精神障害者を知っている人数,9)リカバリー概念に基づいた支援経験の有無,10)楽観性(前向きさ・気楽さの2因子で構成される楽観性尺度を使用)である。調査対象者中,有効な回答を寄せた315名(有効回答率69.2%)の回答を分析した。分析対象者は,女性が55.8%,男性が44.2%であり,年齢(平均値±標準偏差)は40.4±9.8歳,看護師経験年数は16.9±10.0年,精神科経験年数は13.1±9.1年であった。RAQ-7合計点は27.2±2.7点,項目点ごとに集計した場合は「精神の病気からのリカバリーのしかたは,人によって異なる」が4.3±0.6点で最も高く,「重い精神の病気をもつ人は誰でも,リカバリーするために励むことができる」が3.3±0.9点で最も低かった。リカバリーの認識を有していたのは198名であり,この中でリカバリー概念に基づいた支援経験者は12名(分析対象者の3.8%,認識のある者の6.1%)に過ぎなかったが,精神科専門職全般を対象とした先行研究よりもRAQ-7得点が高かったことから,患者の社会復帰を傍で支える看護師の姿勢が,リカバリー志向性の高さに繋がっていると考えられた。RAQ-7は,リカバリー支援経験者,研修に積極的な人,リカバリーに関心がある人,リカバリーに関して知らなかった人よりよく知っていた人において高かった。RAQ-7は,RKIとは関連がなく,前向きな楽観性とは弱い正の相関(r=0.194)がみられた。以上より,看護師は,回復において個別性を重視しながらも悲観的に捉えやすいため,リカバリーに関する教育が必要であると考えた。また,看護師のリカバリー志向性を高めるには,意欲的に学習に取り組む姿勢の育成,リカバリー概念の理解の推進,前向きな楽観性の考慮や実践的なプログラムを取り入れた教育が重要だと考えた。

  • 松下 年子
    2019 年 27 巻 4 号 p. 328-338
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    関東圏の一大学において,社会人大学生を対象としたアディクションゼミを継続的に開催した。アディクションゼミの意義や有用性を検討するために,継続参加した学生を対象にアディクションゼミを通じて学んだこと,経験したことについてフォーカスグループインタビューを行った。質的帰納的に分析した結果,【誰にも起こりうる身近な問題としてのアディクション】【アディクションの本質を知る】【見えなかったことが見えてくる】【改めて感じるアディクションの脅威】【回復の可能性を知る】【アディクションゼミのメリットと課題】の6コアカテゴリと,それらに付随した16カテゴリに集約された。対象学生は,アディクション問題やそれを抱えた人々への関心や危惧からゼミにつながったが,アディクションの学習や事例検討を進める中,アディクションが他人事でもなければ,本人だけの問題でもないという認識を得,アディクションのきっかけやパターン,アディクションが病気であることを学んでいた。事例検討を通じて自分自身の問題の気づきや,事象の捉え方の変化も含めて,見えなかったことが見えてくるという経験を経て,改めてアディクションに対する脅威を感じていた。しかし病気だからこそ回復可能であるという期待と方法論を掌握し,アディクションゼミのメリットとゼミへの展望,課題を述べていた。アディクションゼミの学びを啓発等の社会的関心に連動させていたことから,社会人大学生を対象としたアディクションゼミの有用性が示唆された。

短報
  • 西出 りつ子, 河田 志帆, 水谷 真由美, 西井 崇之, 畑下 博世
    2019 年 27 巻 4 号 p. 339-346
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    目的:地域包括ケアに関わる専門職や行政職と地域住民における連携を推進させる要素を明らかにする。

    方法:「『地域包括ケアシステム』事例集成」の11事例の記述から,連携推進に関する内容と判断できる事象をフレーズとして取り出し,質的帰納的に分析した。

    結果:報告書の記述から179のフレーズを抽出し,これらを38のコード,10のサブカテゴリー,4つのカテゴリー(以下,【 】)に集約した。カテゴリーは,2つのサブカテゴリーをそれぞれもつ【地域連携に必要となる多様な基盤の存在】と【地域における好機をとらえた意図的な働きかけ】,4つのサブカテゴリーをもつ【質の高い包括ケア実践のための活動展開】,2つのサブカテゴリーをもつ【同じ目的に向かうための積極的な関係づくり】であった。

    結論:地域包括ケアに関わる人々の連携には,推進させる4つの要素の存在が明らかとなった。連携は自治体職員が行う【地域における好機をとらえた意図的な働きかけ】をきっかけに引き起こされ,【地域連携に必要となる多様な基盤の存在】により動き出しており,これら二つが地域の連携を引き起こして動かしていく要素である。連携関係者が【質の高い包括ケア実践のための活動展開】として地域包括ケアの明確な基本理念と姿勢をもち,現状に合わせた地域住民への支援を【同じ目的に向かうための積極的な関係づくり】により行なっており,これら二つが地域連携を活性化させる要素である。

  • 丸山 幸恵, 柏木 聖代, 叶谷 由佳
    2019 年 27 巻 4 号 p. 347-353
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,1自治体に所在する訪問看護ステーションにおける新卒看護師の採用や採用意向の実態,およびその関連要因を明らかにすることを目的とした。

    横浜市内の全ての訪問看護ステーション248ヶ所の管理者を対象とし平成28年3月に郵送法による無記名自記式質問紙調査を行った。

    66施設から回答が得られた。新卒看護師を「積極的に採用したい」「条件が整えば採用したい」と回答した訪問看護ステーションが37.9%であった。実際に新卒看護師を採用したことがある訪問看護ステーションは3施設であった。新卒看護師の採用意向に関連する要因について検討したが,調査した全ての訪問看護ステーションの特性において,採用意向の有無と統計的に有意な関連は見られなかった。なお,「訪問看護ステーションで病院の看護職員の研修を受け入れる意思がある(p=0.094)」は,新卒採用意向の有無に対して関連する傾向がみられた。そのため,どのような条件を整えると新卒看護師を採用できるのかさらに検討していく必要がある。

資料
  • 伊藤 順子, 高田 美子, 小石 真子
    2019 年 27 巻 4 号 p. 354-358
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    地方都市の高齢者におけるロコモティブシンドローム(運動器症候群:ロコモ)に関する知識や予防行動の実態を明らかにする目的で,鳥取県倉吉市内の公民館活動(体操を行ったり,料理を行ったりする)に通っている高齢者45名を対象にして,質問紙調査を行った。ロコモという用語を知っている人の割合は65.9%であり全国平均(44.4%)よりも高かった。また,ロコモの意味を知っている群と,知っていない群との間では,運動習慣に差が見られる傾向があった。ロコモに関する実践教育を行ったところ,ロコモの意味を理解している人の割合は高まり,ほとんどの対象者が自宅で運動をするように考えた。ロコモの実践教育は,ロコモ予防につながる運動習慣の確立に有効である。

  • 國井 享奈, 小檜山 敦子, 鈴木 英子
    2019 年 27 巻 4 号 p. 359-372
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    目的:看護師の患者に対する陰性感情に関連した研究の動向と対策を文献検討により明らかにする。

    方法:医学中央雑誌(1985年から2017年7月)を用いて,「陰性感情」,「否定的感情」,「介護老人保健施設」の用語に「看護師」を掛け合わせ,文献数を検索した。看護師の患者に対する「陰性感情」に関連する40件の文献を分析した。看護師の患者に対する陰性感情に関する文献を著者・研究目的・研究対象・研究方法・研究結果ごとに内容を整理した。40件の文献内容から陰性感情の概念を定義する文献と看護師の患者に対する陰性感情を測定尺度に関する文献を確認した。また,陰性感情を抱きやすい状況・陰性感情を生じる先行要件・文献から見られた陰性感情・陰性感情を生じた場面・陰性感情が生じたときの対処方法を分類した。

    結果・考察:看護師の患者に対する陰性感情に関する研究は1995年に始まり,徐々に増加していた。対象は精神科看護師が65%を占めており,精神科以外の看護師が35%であった。病院以外に勤務する看護師は見当たらなかった。質的研究における看護師の陰性感情については,陰性感情を生じる先行要件,陰性感情の種類及び内容,陰性感情を生じる場面,陰性感情が生じたときの対処方法に分類した。看護師の陰性感情尺度は,松浦ら11)の「患者に対する陰性感情経験頻度測定尺度の開発」1件しかなかった。今後先行文献を参考に多くの看護領域の特徴なども踏まえ,さらなる陰性感情の尺度開発が望まれる。また,量的研究における文献数が少なく実証研究をするまで至っていなかったことが伺われ,今後看護師の陰性感情に関する関連要因,影響要因を明らかにする実証研究が必要である。さらに,看護師は患者に対する陰性感情を生じる先行要件に対峙し,自らの陰性感情を自覚し,問題解決に望むことに加え,自らのストレスコーピングを試みることが望ましい。

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