日本健康医学会雑誌
Online ISSN : 2423-9828
Print ISSN : 1343-0025
25 巻, 1 号
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巻頭言
総説
  • 土肥 眞奈, 青木 律子, 佐々木 晶世, 服部 紀子, 叶谷 由佳
    2016 年 25 巻 1 号 p. 2-10
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2019/08/28
    ジャーナル フリー

    私たちは認知症周辺症状(以下BPSD)に対する非薬物療法の効果について文献検討を行った。2004年1月1日から2014年8月19日までの期間に発表された英語論文をPubMed, CINAHL Plus, Cochrane Libraryから,BPSDに対する非薬物療法の効果を検証した研究,BPSDをもつ個人への非薬物療法を含む介入内容について調査した論文を検索した。検索の結果57論文が検出され,設定した基準に沿って6論文を選定した。5つの論文が介入の効果を検証しており,1つの論文が病院の記録をさかのぼって調査していた。効果が検証された非薬物療法は多感覚環境介入,認知刺激療法,進化した介護者訓練,心理療法を取り入れたデイサービス,コラボレーティブケアの5つであり,多感覚環境介入を除いてすべての介入でBPSDに有意な改善がみられた。さらに,病院記録をさかのぼって調査した研究では,安全に焦点化したケア,入居者教育,行動に焦点化したケア,支持的もしくは快適なケアが薬物療法として特定された。結論として,BPSDに対する非薬物療法として11種類の介入が特定され,その内の4種類で有意な改善が認められた。

原著
  • 植村 珠枝
    2016 年 25 巻 1 号 p. 11-19
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2019/08/28
    ジャーナル フリー

    A聴覚特別支援学校の2012年度4月から3月までの保健室の来室記録を用いて,外傷発生の実態を明らかにすることを試みた。来室記録に記載され保健室での非観血処置事例を対象とし,外傷発生月,学年,男女,外傷部位,発生場所,発生に至った状況を質的データとして扱い,ノンパラメトリックの検定方法を行った。さらに外傷発生状況と各項目のクロス表を作成し,ロジステック回帰分析を行ったところ,学年(低学年>高学年)と,発生部位(下肢>上肢>頭頚)に有意差が見られた。特に転倒に関して,低学年児は高学年児に比べ,4.37倍の発生率であった。

    この外傷実態をふまえ,同校低学年在籍の重複聴障児2名に対し2013年6月から11月まで外傷予防のための個別指導を筆者と担任らで行った結果,予防指導前に比べ2名とも外傷発生が減少し,指導による効果の可能性が示唆された。

  • 田邉 綾子, 鶴田 来美
    2016 年 25 巻 1 号 p. 20-26
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2019/08/28
    ジャーナル フリー

    中小規模事業場に勤務する管理監督者のメンタルヘルス不調者対応に関連する業務を担うべき人材に対する認識を明らかにすることを目的として,中小規模事業場に勤務する管理監督者を対象に自己記入式質問紙調査を実施した。9事業場の管理監督者175名の回答を分析した結果,以下のことが明らかになった。

    メンタルヘルス不調者対応に関する業務「メンタルヘルス不調者の状況確認目的の面談」「相談利用方法の周知」「相談窓口」「医療職につなぐ」「管理監督者からの相談対応」「同僚からの相談対応」の6項目について,誰に担ってほしいかを尋ねたところ,中規模事業場の管理監督者は小規模事業場に比べて「医療職につなぐ」役割を管理監督者に担ってほしいと回答する人が多かった。事業場に対し希望するメンタルヘルス対策は,中規模事業場の管理監督者は小規模事業場に比べて「情報公開」「社外の専門職に相談する場の設置」が多かった。

    本研究において,特に中規模事業場の管理監督者は,二次予防対策として医療職につなぐ役割を担うことを望んでいることが明らかになった。その役割を遂行するために,社外の専門職に相談する場を設置することと,メンタルヘルスに関する情報を公開することを求めているものと推察する。メンタルヘルス不調者の対応を円滑に行うために,事業場外の産業保健専門職は,管理監督者からの事例対応に関する相談を受け,助言する役割があることが示唆された。

  • —ジンバブエ野球協会を事例に—
    江頭 満正
    2016 年 25 巻 1 号 p. 27-33
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2019/08/28
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,スポーツを通してHIV/AIDS教育の効果を,明らかにすることである。ジンバブエ共和国の野球協会は,全国の中学校・高校を巡回し野球指導とHIV/AIDS教育を実施している。受講した学校長は野球教室とHIV/AIDS教育を同時に行うことによる効果は高いと言っている。しかし,実証研究は行われていない。本研究ではジンバブエの中学生165人を2群に分け,実証実験を実施した。介入群はHIV/AIDS教育の前に野球教室を体験させ,対照群は通常授業の後に,HIV/AIDS教育に参加させた。その結果,介入群が対照群に比較して,より有効にHIV/AIDSの予防知識を認知していた。

  • 小澤 みずほ, 池田 清子
    2016 年 25 巻 1 号 p. 34-46
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2019/08/28
    ジャーナル フリー

    高血圧症や虚血性心疾患などの心不全のリスクを有する患者(心不全リスク患者)113名を対象に,学習ニーズと健康関連QOLの実態と関連性を明らかにするために調査を行った。心不全の薬物治療ステージ分類AおよびBの無症状の患者をリスク患者と定義した。また,学習ニーズとは,心不全リスク患者が,心不全を予防するために知っていること(知識)とこれから知りたいこと(知識ニーズ)の2種類とした。

    その結果,リスク患者の健康関連QOLは,国民標準値と比較し,身体機能,日常役割機能(身体),全体的健康感,社会生活機能,日常役割機能(精神)が有意に低く,心不全を発症していない状態でも低下していることが明らかとなった。また,リスク患者の健康関連QOLと関連がみられた学習ニーズ(知識)は,薬物療法と日常生活管理であった。この他,疾患を自己管理できていると感じていること(疾患のコントロール感)や心不全になる可能性も健康関連QOLに関連しており,学習ニーズや自分自身の疾患の受け止めが健康関連QOLに影響していることが考えられる結果であった。また,リスク患者の学習ニーズの実態として,心不全の知識を持つリスク患者ほどより心不全の知識を持ちたいと感じていた。心不全の知識がないために知りたいと感じていた具体的な学習内容は,心不全の予後や悪化時の対処方法であった。一方,リスク患者は,塩分制限の必要性や運動の効果,家庭血圧測定の必要性をより知りたいと感じていたことが明らかとなった。

短報
  • 中島 富有子, 倉成 由美, 石井 慎一郎, 應戸 麻美
    2016 年 25 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2019/08/28
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,精神科病院内で活躍するリーダーを外部講師によって育成する「精神科看護師のリーダー育成プログラム」の効果と課題を明らかにすることである。外部講師による30コマの講義・演習および課題レポートによって構成される育成プログラムを受講した精神科看護師6名のうち同意を全員から得られ,その6名を対象に半構造化面接を行い,面接内容を質的帰納的に分析した。その結果,面接内容は,4つのカテゴリ(《新鮮な学び》,《学習意欲の向上》,《新たな知識・技術習得による自信》,《自立して活動する不安》)によって構成されると判断した。前の3つはプログラムの効果を意味するものであり,精神科看護師は,外部講師による教育から《新鮮な学び》を感じて,《学習意欲の向上》が生じ,《新たな知識・技術習得による自信》が得られていると考えられた。4番目のカテゴリは,精神科看護師に《自立して活動する不安》があることを示しており,このことに対する支援がプログラムの今後の課題と判断した。

  • 森本 雪子, 土肥 眞奈, 青木 律子, 佐々木 晶世, 服部 紀子, 叶谷 由佳
    2016 年 25 巻 1 号 p. 52-57
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2019/08/28
    ジャーナル フリー

    本研究では高齢者虐待の要因である介護負担感を軽減するための支援について考察するため,在宅で高齢者を介護する家族のアサーティブネスと介護負担感の関連を明らかにすることを目的とした。A区並びにB区の訪問介護ステーション2箇所を利用し,在宅で60歳以上の高齢者を介護する家族26人を対象として質問紙調査を実施した。その結果,①介護者のアサーティブネスと介護負担感に有意な負の相関が認められ,②要介護者と親子関係にある介護者のアサーティブネスと介護負担感に有意な負の相関が認められ,③相談相手がいる介護者のアサーティブネスと介護負担感に有意な負の相関が認められた。以上の結果から介護者のアサーティブネスを高めるような支援の必要性が示唆された。

  • 高橋 直美, 叶谷 由佳
    2016 年 25 巻 1 号 p. 58-64
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2019/08/28
    ジャーナル フリー

    本研究は,A県内の介護老人福祉施設全85ヶ所,介護老人保健施設全41ヶ所における介護職による喀痰吸引と経管栄養(以下,喀痰吸引等)の実施状況を捉え,安全確実な実施に向けた介護職個々ならびに組織の課題を明確にすることを目的とした。

    その結果,(1)喀痰吸引等の中で多くの介護職が「実施している」のは「喀痰吸引・口腔内」「経管栄養・胃ろう」「喀痰吸引・鼻腔内」,「実施していない」のは「喀痰吸引・気管カニューレ内」「経管栄養・腸ろう」「経鼻経管栄養」であった。(2)介護職が医行為を行う上での個々の課題は,「介護職個々の知識・技術・経験・認識の差」「研修を受け経験を積む」「参加できる時間も体制もない」「アセスメント力の向上・判断力の育成・急変時の対応力」「医行為の危険認識と事故防止の実施」「多職種の中でも看護師との密な連携」の7カテゴリーが抽出された。(3)介護職が医行為を行う上での組織の課題は,「人員不足によるサービスへの影響」「医行為に伴う責任所在の不明確さ」「介護職のレベル統一に向けた組織的取り組み」「看護職・介護職の役割の明確化」「安全管理上の体制整備」「医師・看護師との連携体制の構築」「情報共有による質の向上」の7カテゴリーが抽出された。以上から,介護職が安全確実に喀痰吸引等を行えるためのリスクマネジメントの強化,繁雑な介護現場において実現可能かつ高い成果が得られる研修の在り方の検討,介護職と看護職の連携の具体化を図ることの必要性が示唆された。

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