日本語教育
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141 巻
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
一般論文
研究論文
  • 増田 恭子
    原稿種別: 研究論文
    2009 年 141 巻 p. 3-13
    発行日: 2009年
    公開日: 2017/04/05
    ジャーナル フリー

     本研究は母語の音韻構造が日本語モーラ(特に促音)の習得に与える影響を考察する。被験者は初級後半と中級の2つのレベルの英語母語話者(EL)24名,韓国語母語話者(KL)24名,日本語母語話者12(JS)名で,単語学習のタスクで産出された閉鎖音の非促音と促音,非閉鎖音の非促音と促音のC1V1C2V2のC2の閉鎖持続時間(CD)とV1の割合を比較した。また,V1の長音化によるエラーも調べた。結果はJSに比べ,ESは閉鎖促音のCDのV1に対する割合が小さく,逆に,KLはJSに比べ閉鎖促音のCDのV1に対する割合が大きかった。また,ESにはV1の長音化によるエラーが確認されたが、KLには確認されなかった。更に,KLは閉鎖促音のV1の長さのコントロールという点でもJSとの違いが見られた。以上,学習者の語彙習得には母語の音韻構造が密接に関わっていることが判明した。

  • ――公文書と戦争体験記に基づいて――
    中村 重穂
    原稿種別: 研究論文
    2009 年 141 巻 p. 25-35
    発行日: 2009年
    公開日: 2017/04/05
    ジャーナル フリー

     小論は,日中戦争期華北占領地に於ける日本軍兵士による日本語教育の実態を,ミクロストリアを方法論として公文書と戦争体験記から再構成し,その性格を検討したものである。5種14冊の史料から再構成した授業と原史料から窺える兵士の日本語教育の特徴は,理論的根拠,技術,言語(教育)観,体系性を持たず,丸暗記主義を軸として,対訳に依存しつつ個々の内容の徹底した模倣・記憶・練習を重ねることによって,これらの手続き/形式の集積として成立させた教室活動と総括することができる。そして,このような兵士の日本語教育は,自分を日本人=日本語を完璧に操れる能力を持つ存在としてカテゴリー化することにより日本語能力による差異化・差別化=「権力関係」を外国人との間に構築する点で,質的には現代の日本語ボランティアのあり方と共通する面を有し,その意味で現代の日本語教育に再検討を促すものとして読まれるべきであることを述べた。

  • 宮田 公治
    原稿種別: 研究論文
    2009 年 141 巻 p. 36-45
    発行日: 2009年
    公開日: 2017/04/05
    ジャーナル フリー

     本稿は「にとって」の用法について,教室での説明に供することを念頭に置き,簡明な記述を目指したものである。「Xにとって,AはB」は,「経験者がXである場合を適用範囲として,「AはB」という判断を行う(=“少なくともXの場合は,「AはB」と言える”)」という意味の表現である。B(述語)の位置を占めるのは名詞・形容詞を基本とするが,不自然な例になりやすいのは形容詞である。なかでも「反対だ」「嫌いだ」など,常に特定のXのもとに下される個別的判断を表す述語は「にとって」と結びつきにくい。これらは“X(経験者)を必須成分とし,「XはA{が/に}B」という文型をとる”という構文上の共通点を持つ。ただし,「にとって」は構文関係を明示するという機能も有しており,その機能を優先して,これらの述語にあえて「にとって」を共起させることもある。

  • ――韓国語母語の学習者の場合――
    黒崎 亜美, 松下 達彦
    原稿種別: 研究論文
    2009 年 141 巻 p. 46-56
    発行日: 2009年
    公開日: 2017/04/05
    ジャーナル フリー

     会話や作文の語の産出には,意味理解のほか文脈や連語等の知識が必要な上,既知語彙の検索の過程を経ねばならず,理解と異なる能力が必要である。そこで,中上級の韓国語母語の日本語学習者を対象に語彙の自由想起の実験を行ない,以下の諸点を示した。①中上級の韓国語母語の日本語学習者は日本語母語話者に比べ高頻度のプロトタイプ的な語を使用し,低頻度語彙の産出が少ない。②中上級の韓国語母語の日本語学習者は,第一言語(韓国語)の語彙の自由産出において,第二言語(日本語)より低頻度の語彙を産出し,日本語母語話者の第一言語(日本語)と語彙頻度レベルに差はない。③中上級の韓国語母語の日本語学習者の自由想起の語彙産出は文法テストや制限付き産出確認テストの結果と相関はなく,語彙の自由産出の発達は制限付き産出の発達に比例しない。④制限付き産出ができた語を自由想起できない場合,その語と語義の一部が重なる語を,自由想起することがある。以上の結果から,自由発表語彙を増やすには,語彙を検索・使用する機会を多くすることが必要だと考える。

  • 井上 次夫
    原稿種別: 研究論文
    2009 年 141 巻 p. 57-67
    発行日: 2009年
    公開日: 2017/04/05
    ジャーナル フリー

     本稿では,論説文に用いられる語の適切性について語の文体の観点から考察した。語の文体の分類は連続的・相対的なものであるが,これまで3分類と5分類が行われている。しかし,本稿では教育上・実用上の視点から文体の2分類を提案し,多くの語例を示した。また,宮島(1977)の5分類を以下のように位置づけた。記号「<」は書きことばらしさの強弱,「≪」は論説文に用いる語としての適否の境界を表す。

     俗語<くだけた日常語≪無色透明な日常語<あらたまった日常語<文章語

     しかし,「日常語」の中には「けれども」「いろいろな」のように話しことばの色合いが強く,論説文における語の文体としての適切性の判断が難しい語が存在し,その見極めが重要なことを指摘した。また,個々の語の文体表示を図るためにはシソーラス,コーパスのデータが有益であるため,その活用法の一端を示した。

実践報告
  • ――海外の日本語教育における課題解決の視点から――
    横山 紀子, 福永 由佳, 森 篤嗣, 王 瑞, ショリナ ダリヤグル
    原稿種別: 実践報告
    2009 年 141 巻 p. 79-89
    発行日: 2009年
    公開日: 2017/06/21
    ジャーナル フリー

     海外の日本語教育では,聴解技能が弱点であるばかりでなく,聴解技能開発の必要性やその方法論に対する認識が一般に低いことが指摘される。このような海外の日本語教育における課題を解決に導く事例として,カザフスタンおよび中国で非母語話者日本語教師が実践したピア・リスニングの試みを紹介した。ピア・リスニングとは聴解の過程をピア(学習仲間)で共有し,協力しながら理解を構築していく教室活動である。ピアの話し合いを文字化した資料および学習者からの意見聴取をデータとして,実践の成果を分析した。ピア活動では,言語知識の共有および欠落した理解を補う方策の共有が行われていた。また,ピア学習に合わせ,カザフスタンでは聴解を仮説検証的に進めていくためのタスク中国では学習者のモニターを促進するために「質問」を作るタスクを導入したが,これらのタスクとピア活動が相乗的な効果を上げたことを考察した。

  • 島田 めぐみ, 野口 裕之, 谷部 弘子, 斎藤 純男
    原稿種別: 実践報告
    2009 年 141 巻 p. 90-100
    発行日: 2009年
    公開日: 2017/04/05
    ジャーナル フリー

     本研究では,自己評価であるCan-do statements(Cds)を利用して,日本のT大学と海外協定校の日本語科目の対応関係を明らかにした。具体的には,T大学と,協定校5校の日本語学習者を対象に調査を実施し,各授業科目受講生のCds平均得点を用いて,T大学各レベルの授業科目と各協定校各学年の対応表を作成した。対応関係が明らかになったことにより,協定校においてより適切に単位互換を行うこと,来日前に留学生の配置クラスを予測することが可能となった。さらに,T大学と協定校における各項目の回答結果を比較することにより,技能の習熟度における相違点を検討した。今回使用した項目には,海外においては遭遇する可能性がない言語行動もあり,そのような項目は,おおむね自己評価が低くなることも明らかになった。

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