日本語教育
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172 巻
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【特集】日本語教師養成・研修の新しい役割と可能性―多様な教育現場,学習者に対応する教師―
寄稿論文
  • 御舘 久里恵
    原稿種別: 寄稿論文
    2019 年172 巻 p. 3-17
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,地域日本語教育のあり方と,そこに関わる人材に必要とされる資質・能力,及びそれら人材の育成内容と方法について検討した。地域日本語教育は社会参加のための言語保障と地域社会の変革を目指して実施される相互学習とを包含したシステムとして位置づけられ,そのシステムを機能させるための専門職を配置し体制を整備することが不可欠である。地域日本語教育に関わる人材は専門職としてのシステム・コーディネーター,地域日本語コーディネーター,地域日本語教育専門家の3者と,日本語ボランティアとに分けられ,それぞれの役割に応じて求められる資質・能力と育成内容は異なるが,育成方法としては現場主義,振り返り,共有と協働,継続性といった点が共通して重視される。また,地域日本語教育において指摘される参加者間の非対称性の問題を人材育成の観点から打開する視点として,外国人等人材の育成と,実践の振り返りの徹底が挙げられる。

  • ――介護の日本語Can-doステートメントを中心に――
    西郡 仁朗
    原稿種別: 寄稿論文
    2019 年172 巻 p. 18-32
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     高齢化社会が進む日本において,介護福祉分野の人材が不足していると言われて久しい。このため日本政府は様々な形態で介護福祉の分野への外国人の受け入れを進めている。しかし,これは日本だけの問題ではなく,アジア各国での社会経済・医療福祉の発達,人口動態の変化などにより,国際的な問題となりつつあり,日本が人材の受け入れを進める際にも国際的な施策や配慮が必要である。また,介護福祉の分野は,介護する側と利用者との日本語でのコミュニケーションが非常に重要である。

     本稿ではここ十年,著者を含む日本語教育者が学会・研究会活動や公学連携活動などを通じて取り組んできた外国人介護福祉士受け入れの改善に関わる運動や,介護福祉分野で必要な日本語能力の分析,特に「介護のCan-doステートメント」などについて概説する。また,2019年4月から開始される「特定技能」制度での介護の日本語教育の問題についても触れる。

  • ――学び合う教師集団とネットワーキング――
    嶋田 和子
    原稿種別: 寄稿論文
    2019 年172 巻 p. 33-47
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     日本語学校における教師研修は,かつては各学校任せとなっており,横のつながりは薄いものであった。しかし,学校および教師自身の意識改革などにより,日本語教師の質の向上への関心の高まり,日本語学校間のネットワーキング構築等が進み,教師研修の在り方・実態も大きく変わってきた。とはいえ,ここ数年学習者数の急増などにより,日本語学校における教師研修の在り方にも問題が生じている。

     そこで,本稿では日本語学校の持つ特殊性を述べ,教師教育という観点からこれまでの流れを概観し,さらに,現在の課題を明確にする。その上で,文化庁が2018年3月に出した「日本語教育人材の養成・研修の在り方について」をもとに,日本語学校における教師研修について考察する。また,教師研修をより効果的に行うには,対話による実践の共有,他機関・他領域等との連携・協働のシステム作りが求められるが,本稿では連携を軸に4つの提言を記す。

  • ――オーストラリアの現場から――
    トムソン木下 千尋, 福井 なぎさ
    原稿種別: 寄稿論文
    2019 年172 巻 p. 48-61
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     本稿は,オーストラリアでの日本語教員養成と教育実習を一大学の事例から検討するものである。背景にある課題として、初等・中等教育の学習者が多いオーストラリアでは初等・中等教育の教師の養成が重要であることが挙げられる。また,大学における日本語教育担当者の育成はシステマティックには行われていないのが現状である。さらに,オーストラリアで短期滞在し教育実習をする日本の大学の学生も多い。ここでは,該当大学の教育実践を実践コミュニティ,越境的学習という二つの論点から紹介し,これらの教員養成課題に日本語教育関係者が貢献できるのは,日本語教育実践をしっかり行うことだとする。自らが持つ日本語教育の理念,該当大学の場合は,日本語教育を通じて「つながる力」をつけることを実践し,それを体験してもらうことが将来の日本語教員の育成につながると考える。

  • ――公的認証 (アクレディテーション) をめぐって――
    西原 鈴子
    原稿種別: 寄稿論文
    2019 年172 巻 p. 62-72
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     日本国内外の日本語学習・教育は,様々な要因を反映しつつ多様な展開を見せている。その流れは,日本語教育人材の在り方についての課題とそれに対応する取り組みに直結している。文化庁審議会国語分科会が2018年に刊行した報告書「日本語教育人材の養成・研修の在り方について」は,日本語教育人材の養成・研修について,課題を整理したうえで,各段階の教育内容のモデルカリキュラムを提示している。

     本稿では,それらの指針に基づいて養成される人材の職業的成長を段階別に認証する方法について検討する。結論として,教育人材の認証に関わる組織・機構の設立が必要であること,日本語教師の職業的成長を評価する公的認証のためには,教育内容に関する知識・技能・態度のみならず,実践現場を取り巻く環境への対応,社会的責任のあり方など,複眼的要因による総合的評価基準の策定が必要であることを提案する。

調査報告
  • ――縦断的インタビュー調査の結果から――
    久保田 美子
    原稿種別: 調査報告
    2019 年172 巻 p. 73-87
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     本研究は,非母語話者日本語教師1名 (教師A) を対象に,5年10か月の間に5回行ったインタビュー調査の結果をもとに,そのビリーフの変化と教師としての成長過程について分析・考察するものである。教師Aの発話プロトコルをグラウンデッド・セオリー・アプローチに修正を加えた分析法により分析した結果,教師Aは,日本での教師研修や会議出席,および母国における母語話者日本語教師,同国の非母語話者日本語教師との共同作業,新たな教育概念や教科書の導入,学習者から教育者へ,教育者から教師養成担当者への役割の変化等を通して,そのビリーフを変容させていることがわかった。特に,教師の役割や教育目標に関するビリーフの変容は明確であり,さらに実践面だけでなく,思考や人間関係に関わる面にも意識が向くようになったことがわかる。1名の教師のビリーフの変化の過程ではあるが,非母語話者教師の成長過程の一部分をも示しているものと考える。

  • ――群馬県伊勢崎市の教員研修を事例として――
    小池 亜子, 古川 敦子
    原稿種別: 調査報告
    2019 年172 巻 p. 88-101
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     学校教員の現職研修では教員の主体的な計画による研修の推進が求められている。日本語指導に関する教員研修については,学習項目の提示や教育実践を基盤とする研修方法の提言があるが,事例研究は少ない。本研究では,教員の自主的・主体的研修活動である「自主研究班活動」と市教育委員会主催の「市教委研修」とを関連づけて研修を行っている群馬県伊勢崎市の約5年間の取り組みを対象として,市教委研修の内容や方法の変化とその要因を考察した。その結果,自主研究班活動に参加した教員が指導主事とともに市教委研修を企画し運営することにより,地域の教育課題や教員自身の実践上の課題に基づくワークショップを中心とした課題解決型の研修へと変化する道筋が示された。自らの実践に即して教員自身が研修の内容を企画し運営する「ボトムアップ型」の研修の促進要因として,活動を推進する教員の思考と管理職からの助言が影響を与えていることが示唆された。

一般論文
研究論文
  • ――ドイツの補習校に通う独日国際児の事例から――
    ビアルケ (當山) 千咲, 柴山 真琴, 高橋 登, 池上 摩希子
    原稿種別: 研究論文
    2019 年172 巻 p. 102-117
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     本研究は,ドイツの補習校に通い,ドイツ語を優勢言語,日本語を継承語とする独日国際児の事例において,二つの異なるジャンルの二言語の作文力が,小4から中3まででどのように形成されるのかを分析した。対象児は,日本居住の日本語母語児に比べ産出量や語彙,構文の多様性等の伸びが遅れながらも,談話レベルでは母語児に近い評価の作文を書いていた。その背景を二言語作文の縦断的分析により探ったところ,優勢なドイツ語に牽引されるように日本語も伸び,まず接続表現や構文の複雑化によって論理的つながりが改善され,次に全体構成や内容の高度化が生じることがわかった。またドイツ語作文のレベルに近い日本語作文を,限られた日本語の表現手段を工夫して書いているが,複雑な内容の説明における文法的誤用や漢字熟語の不足等に表現上の困難が見られた。以上の発達過程の特徴から,補習校での指導への示唆を抽出した。

  • 本田 ゆかり
    原稿種別: 研究論文
    2019 年172 巻 p. 118-133
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     本研究は,コーパスと統計による客観性を重視した方法で語彙リスト (以下,「読解基本語彙1万語」) を作成することを目的とする。コーパスから語彙の頻度や分布を集計する場合,結果にはコーパスの特徴がそのまま表れる。そのため本研究では,まず,利用するコーパスが日本語教育のための読解基本語彙リスト作成に適したものかを検証し,コーパスを再構成した。そこから語彙を頻度集計し,複数の統計指標によって重要度を定量化し,語彙をランキングした。最後に,日本語教育の観点からランクの再配列と限定的な調整を行った。

     このようにして作成した語彙リストを評価するため,テキストカバー率調査を行った。また,「読解基本語彙1万語」と『日本語能力試験出題基準』 (国際交流基金・日本国際教育支援協会編1994,2002年改訂,以下,「出題基準」) とのカバー率比較も行った。その結果,「読解基本語彙1万語」は「出題基準」に比べて高いカバー率を示した。

調査報告
  • ――言語社会化の観点から――
    奥西 麻衣子
    原稿種別: 調査報告
    2019 年172 巻 p. 134-148
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,留学生と同級生の日本語母語話者との雑談を二回にわたって観察し,留学生のスタイル使用および普通体の運用がどのように変化していくのかを,言語社会化 (Schieffelin & Ochs, 1986) の観点から分析し,考察した。結果,来日直後の留学生の発話にはスタイルの混用が散見されたが,2か月後はほぼ一貫して普通体を用いるようになっていた。普通体の使用傾向においては,普通体の様々な対話機能を用いて会話を行う様子が観察された。このことから,目標言語コミュニティの熟達者 (同級生の日本語母語話者) との日常的な相互行為実践が学習者のバリエーション習得に影響を与えていることが示唆された。

実践報告
  • ――多様性がもたらす異文化理解――
    早野 香代
    原稿種別: 実践報告
    2019 年172 巻 p. 149-162
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     現代の多様な社会を生き抜くために,大学における「コミュニケーション力」の養成は重要視されてきている。中でも,大学の留学生や日本人学生からは,敬語の学習のニーズが非常に高い。本稿では,敬語が使われるコミュニケーションを「敬語コミュニケーション」とし,その内容による学生主体のジグソー学習法の実践を報告する。ジグソー学習法は,近年,学習の深化や責任感による意欲向上などの効果が報告されているが,本実践では,人間関係や場を重視した「敬語コミュニケーション」を時代による変化と地域・言語によるバリエーションから学び合うことで,コミュニケーション力を駆使する姿や言語間の比較による異文化の発見や理解の深まりが,受講者によるコメントから多数観察された。これらの結果から,出身・言語による違いを生かしたジグソー学習法は,知識の構成のみならず,異文化理解にも役立つことが示され,扱う内容に関連した学習効果が得られた。

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