日本語教育
Online ISSN : 2424-2039
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170 巻
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寄稿論文
  • ―外国人散在地域・新潟の事例より―
    佐々木 香織
    原稿種別: 寄稿論文
    2018 年 170 巻 p. 1-16
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/08/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,外国人散在地域である新潟県において外国につながる子どもの学習支援がどのような状況であるかを記述した。自治体が支援を行ってはいるが,外国につながる子どもが抱える問題は深刻で,十分とは言い難い。外国につながる子どもは,日本語の問題があるだけではなく,学校や家庭に居場所がないことがある。文化の違いから学校生活への適応が難しく,家庭でも教育に関する認識の違いから親と衝突することも多い。「りてらこや新潟」は,そのような子どもたちを支援するため,日本語指導に加え,教科補習を行う勉強会や入試対策の個人指導を行っている。勉強会は,子どもたち同士の交流の場ともなり,子どもたちの学習面だけではなく精神面を支える場ともなっている。しかし,外国人散在地域であるという点からも,新潟ではボランティアによる地域日本語教室だけでは担いきれない課題が山積している。行政からの支援等,さまざまなサポートが必要である。

一般論文
研究論文
  • 劉 蓉蓉
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 170 巻 p. 17-31
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/08/26
    ジャーナル フリー

     本研究は,中国の日本語補習授業校に通う日本人児童 (以下: 中国在住日本人児童) を対象に,彼らの日本語会話力をOral Proficiency Assessment for Bilingual Children (OBCテスト) を用いて調査したものである。それに加え,中国在住日本人児童と日本語モノリンガル児童の日本語会話力との比較を行った。また,中国在住日本人児童の家庭内のリテラシー活動,家庭内の言語使用を含む家庭言語環境について保護者へのアンケート調査を行い,これらを踏まえ,中国在住日本人児童の家庭言語環境と日本語会話力との関係を検証した。その結果,中国在住日本人児童の日本語会話力は日本語モノリンガル児童と比べて個人差が大きく,日本語の発音,語彙,文法,文の生成といった基礎言語面において,モノリンガル児童との差異が見られた。また,継承日本語の維持のために,家庭内のリテラシー活動はその環境づくりになり,日常会話の中で継承語で話しかけ継承語を使わせることはその有効な手段だと考えられる。

  • ―日本語発音オンライン講座の分析を通して―
    戸田 貴子, 大久保 雅子, 千 仙永, 趙 氷清
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 170 巻 p. 32-46
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/08/26
    ジャーナル フリー

     本研究では,大規模公開オンライン講座 (MOOCs) における発音の相互評価について分析する。本講座は,世界中の日本語教育関係者に向けて無料配信されており,170の国や地域から登録した受講者は35,000名を超えている (2018年5月17日現在)。本研究は,受講者が相互評価に継続的に参加できたのか,コメントにはどのような特徴があったのかを明らかにすることを目的とする。

     分析の結果,以下のことが明らかになった。

    1) 受講者の相互評価への継続参加率は高かった。

    2) 相互評価に継続参加した受講者は,具体性の高いコメント (問題点,修正方法の指摘) を継続して書く傾向がみられた。また,最初は具体性の高いコメントができなかった受講者も,継続参加することによって具体的な指摘ができるようになっていった。

     以上の結果から,オンライン上でも発音学習の継続が可能であり,相互評価が受講者の学びを促すことが示された。

  • ―助詞選択と述語選択に関する誤用を中心に―
    CHAUHAN Anubhuti
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 170 巻 p. 47-61
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/08/26
    ジャーナル フリー

     本研究では,ヒンディー語を母語とする日本語学習者に見られる対のある自動詞・他動詞 (以下,自他動詞) の誤用傾向・使用実態を学習期間別,自動詞・他動詞別に調査した。その結果,下位群では,述語選択の誤用が最も多く,中位群では,格助詞選択の誤用が比較的多かった。そして,上位群ではヴォイスに関する誤用が占める割合と述語・格助詞の選択に関わる誤用の割合にはあまり差が見られなくなった。つまり,先行研究で指摘されている通り,自他動詞の習得段階が「語彙を選択する→格助詞を選択する→文法的で意味が通じる文を作れる」のように展開していくことが窺えた。しかし,自動詞・他動詞別に考察すると,自動詞では,3群ともに述語選択の誤用が最も多く,他動詞の習得段階と異なり,語彙習得が助詞習得に必ずしも先立つわけではないことが示唆された。対のある自動詞の過剰使用による誤用の原因として,ヒンディー語が自動詞表現を好む言語であることが考えられた。

  • ―複線径路・等至性モデリング分析から見る留学生4名の変容過程から―
    柴田 あづさ
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 170 巻 p. 62-77
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/08/26
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,関西地区の大学に在学する外国人日本語学習者4名が,日本人と関西弁による演劇作品を制作し上演する活動を通して,日本語学習上の問題をいかに克服し学習を進め伸びていったか,その過程と変化の要因を認識することである。インタビューで得た語りを複線径路・等至性モデリングで分析した結果,4名が,時期や具体的な状況は多少異なるものの共通性のある過程を辿り,いくつかの重要な行動をとることで日本語発話や演劇活動に対する不安を克服し,新たな自己を確立してくことがわかった。それは,1) 怖さや不安を感じる中で劇をすることを「決断した」こと,2) 「恥ずかしがっている方がおかしい」と「認識を変えた」こと,3) 震えや発汗などの症状を感じる中で「舞台に上がった」ことであった。さらに,スポットライトが緊張を和らげ,観客の笑いや拍手による反応によって「客を笑わせる」という学習者自身が立てておいた行動目標の達成を実感したことも変化を促したと考えられた。

調査報告
  • 田中 祐輔, 川端 祐一郎
    原稿種別: 調査報告
    2018 年 170 巻 p. 78-91
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/08/26
    ジャーナル フリー

     日本語教科書作成の際に語彙がどのように選択されているかについて,明らかになっていることは少ない。教科書掲載語は,想定する学習者のレベルや,現実の日本語使用場面における実用性を考慮して,また既存の教科書を参考にするなどして総合的に選定されているものと考えられるが,実際にどのような選択傾向が存在しているのかについての,横断的かつ定量的な研究は行われていないのが現状である。本研究では,日本語教科書における語彙選択の傾向を把握するための基礎的分析として,戦後に発行された初級総合教科書のうち各年代を代表する教科書の掲載語を集計し,時代ごとの変化や教科書間の類似・相異度などについて定量的な評価を行う。また,そこで明らかになった語彙選択の傾向がもたらされた要因についても,データベースなどとの照合を通じて考察を加える。

  • ――学会誌『日本語教育』に見る変遷と動向――
    朴 在恩
    原稿種別: 調査報告
    2018 年 170 巻 p. 92-106
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/08/26
    ジャーナル フリー

     本稿は,日本語教育学研究における調査方法論としてのインタビューに焦点を当て,日本語教育学研究におけるインタビュー研究の変遷と動向を調査し,日本語教育学研究におけるインタビュー研究の今後の方向性を考察する。本調査は,学会誌『日本語教育』創刊号から168号までの掲載論文を対象とし,インタビュー研究を精査,分類したデータベースを構築し,分析したものである。分析の結果,インタビュー研究が初めて掲載されたのは45号 (1981) であった。1980年代から2000年代までインタビュー研究の掲載率が着実に増加しているが,2010 年代に入って急増していることが確認された。また,2000 年代までは実験などを質的に補足する役割をするフォローアップインタビューが主流であったが,2010年代に入ってインタビューを分析データの中心とした研究が増加していることが明らかになった。

  • ―語学アシスタント経験の有無が日本語教師の意識に及ぼす影響についての検討―
    古別府 ひづる
    原稿種別: 調査報告
    2018 年 170 巻 p. 107-121
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/08/26
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,英語圏中等教育機関の日本語教師が求める日本語アシスタント (以下,JA) の資質を明らかにすることである。質問紙調査より日本語教師212名の回答が得られた。データを因子分析にかけた結果,「教師の専門性と英語力と規律」「日本語教授者の基本的態度」「明るい人間性」「勤勉さと役割認識」の4因子が抽出された。うち,JAに強く求められる因子とそうでない因子,教師と共通の因子,JAに特徴的な因子が挙げられた。次に,4因子と教師の語学アシスタント (以下,LA) 経験有無とJA受入希望有無との関係を探るためノンパラメトリック検定を行った。結果,「教師の専門性と英語力と規律」の因子に有意差があり,LA経験有無とJA受入希望有無は,JAと教師の区別の認識に重要な要因であることがわかった。また,JA受入希望者が多い一方,JAと教師の区別が明確でない者も多いことが指摘できた。本結果は,海外JA活用の基礎的な指標を示したと考える。

研究ノート
  • ―「標準的なカリキュラム案」の批判的な考察―
    深江 新太郎
    原稿種別: 研究ノート
    2018 年 170 巻 p. 122-129
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/08/26
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は「生活者としての外国人」を対象にした日本語教育の目的を再提案することである。方法は教室活動の目的を実践者自身が問い直す実践研究の立場から,「生活者としての外国人」事業における筆者自身の実践を基に「標準的なカリキュラム案」の目的を批判的に考察することを採用した。結果として,「標準的なカリキュラム案」の目的である日本語で意思疎通を図り生活ができるようになることには日常生活における自己実現という視座が欠けていることが分かった。考察では「生活者としての外国人」に対する日本語教育の目的に関し,生涯における自己実現について指摘した先行研究に対し,日々の日常生活における自己実現という視座があることを論じた。まとめにおいて,生涯における自己実現と日常生活における自己実現を組み込んだ「生活者としての外国人」に対する日本語教育の目的の再提案を行い,今後の課題を明示した。

  • 田中 奈緒美
    原稿種別: 研究ノート
    2018 年 170 巻 p. 130-137
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/08/26
    ジャーナル フリー

     本稿は,日本語会話において,話題転換時の新規話題導入発話の冒頭で用いられる「話題開始のための談話標識」を,聞き手の談話理解の手がかりとして分類することを目的とし,「BTSJによる日本語話し言葉コーパス」に収録された日本語母語話者による初対面雑談会話 (47会話,計13時間40分) で観察された当該表現について,聞き手が汲み取る情報の種類により分類した。その結果,観察された表現は,「①談話間の連接関係に対する話し手の認識」,「②談話内容に対する話し手の態度」,「③話し手の心的操作」の大きく3つに,さらに①と②は,「① a前後の談話の論理関係」「① b後続発話の導入理由」,及び「② a先行発話内容に対する態度」「② b後続発話内容に対する態度」のそれぞれ2つに分類することができた。

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