日本語教育
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179 巻
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寄稿論文
  • ―医療と「やさしい日本語」との出会い:研究会活動報告―
    武田 裕子
    2021 年 179 巻 p. 1-15
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2023/08/26
    ジャーナル フリー

     外国人診療において,「ことばの壁」は「こころの壁」となり健康格差の原因となっている。筆者らは,医療者にはほとんど知られていない「やさしい日本語」を紹介・普及する目的で,“医療×「やさしい日本語」研究会”を立ち上げ活動を続けている。本稿では,健康の社会的決定要因として「日本語」を捉え,外国人だけでなく聴こえや理解に困難を抱える方々の格差是正の試みとして,さまざまな領域の専門家と協力して行っている取り組みを報告する。

研究論文
  • ―《非-共同的共有知識》という観点から―
    金井 勇人
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 179 巻 p. 16-30
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2023/08/26
    ジャーナル フリー

     話し手が「あのレストラン,おいしかったね」と聞き手に言うとき,「レストラン」は両者の共同の経験・文脈において認知された対象である。こうした性質を持つ指示対象を《共同的共有知識》と呼ぶことにする。しかしア系の指示詞は,作文などの《共同的共有知識》が成立しない環境においても用いられる。その場合の《非-共同的共有知識》を指すア系は,学習者にとって習得が難しい。そこで本稿では日本語母語話者の日本語作文を例に,その文法的な性質について分析を行った。その結果,①真の共有知識を指す,②疑似的な共有知識を指す,③対象自体を推論させる,④対象の程度を推論させる,という4つのタイプがあることを見出した。これらは読み手との共感を喚起し,書き手の思い入れを顕示する。続いて上記の分析結果に基づいて,中韓母語話者の日本語作文を例に《非-共同的共有知識》を指すア系の誤用を分析し,日本語教育における扱いについて考察した。

  • ―日本でアカデミックキャリアを積む研究者のストーリー―
    近藤 行人, 西坂 祥平
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 179 巻 p. 31-46
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2023/08/26
    ジャーナル フリー

     本研究は、日本語使用を積極的には求められていないはずの理系の外国人研究者が日本語を伴う実践をどのように経験してきたのかを知ることを目的とする。そこで、本研究では欧州で生まれ育ち、英語による研究留学を果たし、現在日本で研究職を得て働くAさんの協力をえた。Aさんの経験を理解するため、日本語との関わりを中心とした経験を聞き取る非構造化インタビューを実施した。Aさんは参加義務のある諸々の業務や教育研究活動において、日本語力不足による困難があった経験を語った。Aさんは自身の能力を超えた日本語で進行する実践への参加での疎外感や、日本語を必要とする業務で必然的に生じる他者への援助要請への負担感を語った。Aさんの事例から、「研究は英語で」という言説は機能しておらず、日本における外国人研究者受け入れにおいて、共同体への十全な参加を個人の資質や努力を強いる形で実現させている構造が存在している可能性を指摘する。

  • ―反転授業クラスの会話分析から―
    手塚 まゆ子
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 179 巻 p. 47-61
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2023/08/26
    ジャーナル フリー

     本稿は,日本語文法科目のグループワーク(以下,GW)において,学習者は話し合いをどのように進め,タスク達成にたどり着いているのかを,彼らの発話とふるまいの分析から考察したものである。今回対象とした反転授業クラスでは,従来のクラスよりも学習者主体で発話の機会が増えることはすでに指摘されているが,教室活動がどう学習成果に影響するのか,その相互行為の過程は明らかにされていない。そこで,特にGW 開始後に焦点を当て,学習者が話し合いをどう展開していくのか,どのようなやり方で,彼ら自身が直面する相互行為上の問題を解決していくのかを,会話分析の手法により分析した。その結果,解答を考える,ワークシートに書き込むといった個人的活動から,話し合うという共同的活動へどう移行するかが,GW を円滑に進めていくのに必要な要素だということが窺えた。この知見は,円滑なGW の指導の方法を検討する上で示唆を与えるものである。

  • ―学校と教育の再構築へ向けて―
    南浦 涼介, 本間 祥子
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 179 巻 p. 62-76
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2023/08/26
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,過去40 年間の年少者日本語教育に関する研究論文を対象に研究課題の変遷を通史的に整理し,今後の展望を提起することである。また,どのような枠組みによって研究が展開されてきたのか,特に1990 年代以降の研究パラダイムの動態を意識しながら検討していくことで,今後の年少者日本語教育研究の課題と展望を示していく。そのために,6 誌の査読誌の中から,年少者日本語教育に関連する研究論文を抽出し,研究課題をカテゴリー化したうえで,それらが時代の中でどのように展開されてきたのかを分析した。結果,1980 年代以降の年少者日本語教育は,学会による状況の課題提起と事例研究による具体化,およびポストモダニズムの認識論的影響を受けて対象や視点が拡張しながら研究が積み重ねられてきたことが明らかになった。一方で,「学校」と「教育」を再構築していくという点は今後研究を進めていく際の重要な観点となることを指摘した。

  • ―中国人日本語学習者の使用状況から―
    石 立珣
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 179 巻 p. 77-92
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2023/08/26
    ジャーナル フリー

     「スル」を伴って動詞化する名詞は動名詞(VN)と呼ばれている。VN は連体修飾語になる際に,論理的には「VN ノ N」と「VN スル/シタ N」の二種の構造が取れるはずである。しかし,「後退{*の/する}経済」の例からも分かるように,常に二種の構造が取れるとは限らない。中国語は連体修飾の場合に名詞・動詞のどちらも,一括して“的”を用いるため,中国人学習者は「*後退の経済」のような誤用を生み出しやすい。本稿では,連体節構造の分類方法の一つを「VN ノ N」に適用し,「内の関係」(意味的な格関係が想定可能:*後退の経済)と「外の関係」(意味的な格関係が想定不可:離婚の話)に分類した。これにより,外の関係の「VN ノ N」は一般に成立可能であり,内の関係の「VN ノ N」は極めて特殊な場合を除き,成立不可であると判断でき,「VN ノ N」の成立可否において指針となる基準を得られた。

調査報告
  • 来嶋 洋美
    原稿種別: 調査報告
    2021 年 179 巻 p. 93-108
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2023/08/26
    ジャーナル フリー

     在住外国人の増加や外国人材の受入れ等に伴う学習者の多様化を背景に,外国語教育の国際基準であるCEFR が日本語教育にも導入されるようなった。これは日本語教育における大きな変化であるが,教師に求められる資質・能力や研修のあり方も見直す必要がある。そこで,教師の職能開発支援を目的として欧州で開発された5 件の継続的職能開発(CPD)の枠組みを調査した。CPD の枠組みは言語教師の資質・能力をカテゴリーと発達段階に沿って能力記述文で示している。その内容には,外国語学習の基礎理論,授業設計,学習評価など日本語教育においても一般的な項目がある一方で,言語アウェアネスと言語運用力,自律的学習,ICT の教育利用など注目したい項目も含まれている。教師がどんな資質・能力をどんな段階で持っているかを自己評価と内省を通して認識し職能開発を行っていく上で,CPD の枠組みは有効と思われる。

  • ―教学マネジメント上の位置づけと実践事例の検討から―
    松本 剛次
    原稿種別: 調査報告
    2021 年 179 巻 p. 109-123
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2023/08/26
    ジャーナル フリー

     本報告は,国内の大学における日本語教育の現状について,「学士力」との関係から検討したものである。大学数,大学進学者数が増加した現在,大学には,「質の保証」が強く求められている。そしてその際の一つの指針となっているのが「学士力」という考え方である。

     国内における大学での日本語教育も,当然その例外ではない。しかし日本語教育の場合,その主な対象が日本語を母語としない留学生であるため,大学での教学マネジメントの観点からは,日本語教育を通しての学士力の育成という側面が注目されることはあまりなかった。しかし,近年では,学士力の育成につながる日本語教育の実践報告も増えてきている。本報告ではそれらの新しい動きを整理した上で,長年,大学における教学マネジメントの外に置かれていた日本語教育だからこそ,学士力の育成に関与しながらも,学士力というもの自体を批判的に再検討することが可能であるということを論じる。

  • ―TEA によるコンフリクトと解決要因の可視化を通して―
    安部 陽子
    原稿種別: 調査報告
    2021 年 179 巻 p. 124-138
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2023/08/26
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,日本企業へ就職した中国人元留学生社員4 名が日本での就労で抱いたコンフリクトやその解決要因を時系列で示し,意識や行動の変容を明らかにすることで,就労継続に至った過程を可視化することである。本研究では複線径路等至性アプローチ(TEA)を用い,最終的に4 人の就労過程を統合したTEM 図を作成した。その結果,協力者たちは入社初期のコンフリクトを,入社前の知識や情報から得られた自らの覚悟に加え,周囲のサポートを得ることで乗り越えていた。その後の径路は企業側の姿勢や方針を要因として分岐を重ね,目に見える仕事の結果とそれに対する明確な評価,意見の採用や外国人社員としての役割を職場において認識した過程を辿っていた協力者は,最終的に明確な就労継続意志を示すに至っていた。一方で,仕事遂行上における継続的なコンフリクトが確認できた協力者からは,明確な就労継続意志が得られなかった。

  • ―発達過程で見られる非規範的な使用の要因―
    佐々木 藍子
    原稿種別: 調査報告
    2021 年 179 巻 p. 139-153
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2023/08/26
    ジャーナル フリー

     本稿は,JSL 環境における日本語学習者の原因・理由を表す接続助詞「から」の発達過程を縦断的発話コーパス「C-JAS」を用いて明らかにし,その発達過程で見られる非規範的な使用の要因を探るものである。分析の結果,「から」の発達過程では,まず「~から」のみを接続する使用に始まり,挿入すべき助動詞「だ」を脱落させる例も見られる。次に,助動詞「だ」を伴った「~だから」の使用が始まると,「だ」の脱落が減少する。その後は「~から」「~だから」の使用とともに,過剰に「だ」を付加する使用を経て,接続助詞「から」が習得されることが明らかとなった。この発達過程で見られた規範と非規範の自由変異については拡散モデル(Diffusion Model)を用いて説明した。さらに,非規範の「だ」の脱落はその時点では「から」しか接続できず産出されること,「だ」の付加はイ形容詞の普通体の問題,「から」に前節する文法項目の習得の広がりが影響していることを指摘した。

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