日本語教育
Online ISSN : 2424-2039
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176 巻
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寄稿論文
  • ―持続可能な地域づくりの観点から―
    仙田 武司, 小菅 扶温
    原稿種別: 寄稿論文
    2020 年176 巻 p. 1-15
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー

     人口減少が進む地域社会においては,持続可能な地域づくりとその担い手の確保が大きな課題となっている。課題解決への取組として,経済活動の担い手としての外国人材の受入れは,既にかなり広がってきているが,これからは社会活動の担い手としても外国人材の活躍が期待されている。本稿では,外国人材が単なる労働力にとどまらず,持続可能な地域づくりの担い手として活躍できるようにすることを目指した事例として,共同執筆者の一人である小菅の取組を取り上げた。そこから,外国人材が地域から望まれる形で受け入れられるようにするには,「外国人材に対する地域社会からの信頼の醸成」,「外国人材のキャリア形成支援」,「外国人材と地域社会とのつながりの形成」という三つの課題を達成することが重要であるとの示唆が得られた。これを踏まえて地域日本語教室を改めて捉え直すと,これら三つの課題の達成につながる五つの機能を地域日本語教室は潜在的に有しており,持続可能な地域づくりおける重要な役割を果たすことができると考えられる。

一般論文
研究論文
  • ―支援者と多文化背景家庭の意識に着目して―
    窪津 宏美
    原稿種別: 研究論文
    2020 年176 巻 p. 16-32
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー

     公立学校においても多文化背景で育つ子どもが在籍し,日本語指導の必要な児童生徒は増加傾向にある。日本の政策や経済状況により共生が広がる今,誰もが安心して教育を受けることができるための支援はどうあるべきかを問い直し,取組実践を再評価することが求められる。エンパワーメント理論を用い,小学校就学時に多文化背景家庭を支援する取組を調査した結果,学校と地域支援団体が協働してマッチした支援を提供し家庭を勇気づけていた。1年の継続観察による具体事例を分析し,家庭の意識化により子どもが本来の力を取り戻す場を得たこと,学校教員が自己効力感をもったことが確認され,「協働的社会」の実現へ向けた取組の道筋が考察された。支援者と被支援者の意識に着目して就学初期支援に組み込まれるエンパワーメントの様相を明らかにし,公的な支援構築に向け支援の継続モデルを提案した。

調査報告
  • 三枝 令子, 丸山 岳彦, 松下 達彦, 品川 なぎさ, 稲田 朋晃, 山元 一晃, 石川 和信, 小林 元, 遠藤 織枝, 庵 功雄
    原稿種別: 調査報告
    2020 年176 巻 p. 33-47
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー

     執筆者らは,日本で医学教育を受け,最終的に日本の医師国家試験合格を目指す外国人学習者に効果的な支援を行うことを目的として,医学用語の調査研究並びに教材作成を進めている。一口に医学用語といっても,その範囲は多岐にわたるため,医学用語の効率的な学習を目指すならば,まず医学用語の網羅的な収集と体系的な分類が必要になる。そこで本研究では,医学用語の体系的な語彙リストを作成する準備段階として,医学書のテキストから医学書コーパスを構築し,27種類の診療分野に分けて,そこに含まれる語を収集・分類した。その上で,高頻度の助詞,接辞,動詞や,領域特徴度の高い名詞について,医学テキスト固有の特徴という観点から分析を行った。その結果,接辞や動詞において医学分野特有の語がみられた。また,名詞に関しては診療分野ごとに頻出語が異なることから,診療分野別に語彙リストを構築することが重要であることがわかった。

  • ―日本語学校の常勤及び非常勤集団へのインタビュー調査の質的分析―
    野瀬 由季子, 大山 牧子, 大谷 晋也
    原稿種別: 調査報告
    2020 年176 巻 p. 48-63
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー

     内省を通して実践を創造していく自己研修型教師としての日本語教師の養成・研修は喫緊の課題であり,その一手法として授業観察が存在する (岡崎・岡崎 1997)。授業観察の支援環境の構築を目指して,本研究では,国内の日本語学校で教師研修として実施される授業観察を対象に,観察者と授業者の授業観察への目的意識を明らかにする。日本語学校の常勤3名 (観察者) と非常勤3名 (授業者) に半構造化インタビュー調査を実施し,逐語録に対してSCAT (大谷 2019) による質的分析をおこない,授業観察に対する目的意識を,筆者らが作成した【評価志向型】【実践公開志向型】【内省共有志向型】の枠組みで考察した。その結果,各観察者/授業者は基本的に特定の志向型を軸に授業観察を捉えながらも,同時に別の志向型の要素を持ち合わせていたり,軸とする志向性を徐々に変容させたりしていくことが明らかになった。このことから日本語学校での役割や教師間の関係性を考慮した活動デザインの重要性が示唆された。

  • ―就労現場における共有知識・情報・期待を前提に―
    小川 美香
    原稿種別: 調査報告
    2020 年176 巻 p. 64-78
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー

     近年外国人材の介護現場への参入が著しく進む中,言語学的な分析や教育実践,それらの成果から開発された教材は充実してきたが,彼らのコミュニケーション力については就労現場の文脈を切り取らない議論の成果が待たれる。それゆえ筆者は,介護現場におけるフィールドワークを通して外国人介護人材が専門職として,第二言語である日本語を使用しながら求められる「コミュニケーション力」について介護現場を担う人々の視点から探ろうと試みた。

     本稿では研究の結果明らかになった,「現場の多様性を共有する力」,「チームの一員として目的意識を持つ力」,「ホスピタリティ等の精神力と非言語コミュニケーション力」に関してデータに基づいて具体的に述べる。その上で介護の専門性と第二言語コミュニケーションの視点から考察を加え,介護福祉士の先にあるキャリアをも見据えた日本語教育の役割について論じた。

実践報告
  • ―ディスカッションと協同作業の認識に対する効果―
    東寺 祐亮
    原稿種別: 実践報告
    2020 年176 巻 p. 79-94
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー

     「LTD話し合い学習法 (Learning Through Discussion)」は読解の予習と小グループでのミーティングで構成された学習法である。これまで,日本語母語話者を中心に実施されているが,日本語学習者を対象にした場合の影響は明らかでない。そこで,本研究は,日本語学習者を対象にLTDを実施した場合,ディスカッション・スキルや協同作業認識にどのような影響を与えるかを調査した。その結果,ディスカッション・スキルについては,「場の進行と対処」,「積極的関与と自己主張」,「雰囲気作り」に肯定的な影響を与えることが明らかになった。また,協同作業認識については,「個人志向」,「互恵懸念」に肯定的な影響を与えることが明らかになった。一方,本実践では,日本語学習者を対象にLTDを実施する際の課題も見られた。本実践で生じた課題をもとに,LTDの手順,ディスカッションの使用言語,課題文選定に分けて整理する。

  • ―なにを読むかは自分で決める―
    淺津 嘉之
    原稿種別: 実践報告
    2020 年176 巻 p. 95-109
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー

     目的は,日本語読解授業を対象に,なにを読むかは学習者が決め,教師は読みの過程を支援するという授業デザインのもと,そこでの学びを示し,読解授業での教師役割を再考することである。研究課題は (1) どのような学びが起こるのか (2) その学びにはなにが影響しているのかである。実践では学びを対話による意味の再構成であると捉え,3つの対話を促す活動を組み込んだ。学習者の記述分析の結果,学びの過程と結果に概念が浮かび上がり,本授業での学びの特徴を示した。次に,これら概念は対話を通して生まれたこと,中には自分で本を選んだからこそ生まれたものがあること,学びにはシート類での問いかけと他者との対話が影響していたことを考察し,他者との対話が授業に否定的な学習者を惹きつけて学びにつなげたと考えた。主張は,読み物の決定権を持つことで学習者が本と向き合い自己変革をする可能性と,本を読む過程での教師からの問いかけの重要性である。

研究ノート
  • ―未習か既習かによる理解への影響に着目して―
    陳 夢夏
    原稿種別: 研究ノート
    2020 年176 巻 p. 110-117
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,中国語話者の読解活動における二字漢字語の理解にあたり,「漢字語のタイプ」と「ストラテジーの使用」の影響を総合的に検討した。口頭訳テストとフォローアップインタビューを用いて未習・既習別に調査した結果,以下のことが明らかとなった。(1) 未習の正答率は「SJO>OJO>NJO」であり,既習の正答率は「SJO>OJO≒NJO」である。(2) ストラテジーの内容は「語彙」「文脈」「統合」があり,ストラテジーの機能は「確認」「検証」「推測」がある。(3) 未習の場合のストラテジーの使用状況は漢字語のタイプと関係ないが,既習のほうは漢字語のタイプによって異なる。(4) 未習の場合の成否にも,既習の場合の成否にも,「SJO類,OJO類,NJO類」の影響が見られ,既習の場合はストラテジーの機能の影響も見られた。

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