日本語教育
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178 巻
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【特集】日本語教育学の輪郭を描く
寄稿論文
  • ―「外延と内包」図式に仮託して―
    砂川 裕一
    原稿種別: 寄稿論文
    2021 年 178 巻 p. 4-20
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

     本稿においては,日本語教育の輪郭を再構築するために,「外延と内包」図式に仮託して従来の視野を拡張することを試みる。まず「日本語教育の輪郭」について既存の外延的表象を拡充しつつ「再構築」のための手掛かりを求めたいと思う(第2章)。次いで,「日本語教育」の「内包的規定性」の一端を構成すると想定される「言語習得」の内的動態についても多少解析的な視軸を導入して既存の表象を再措定することを試みる(第3章)。その論脈の途次において,「日本語教育学」の輪郭についても,また本特集ワーキンググループから求められている学会の理念や将来像についても,従来とは多少異なった示唆が得られればと考える。

  • ―その変遷と展望―
    佐々木 倫子
    原稿種別: 寄稿論文
    2021 年 178 巻 p. 21-35
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

     本稿は国内の学生・一般成人に対する日本語教育の実践とその研究を採りあげる。はじめに本稿の対象を明確化し,第2章では国内の日本語教育の現状と課題を探るため,ある初級授業例を採りあげる。そして,教師の専門性,組織・機関と目を広げ,現状から(1)データに基づいた,担当教師による自己評価・実践研究,(2)第三者による授業評価,(3)教師の専門性の確立,(4)組織・機関の自己評価能力という4つの課題を挙げる。第3章では,1960 年代から2020 年までの実践と研究の変遷を追う。社会の変化に連動する教育実践と同時期の研究の変遷を踏まえた上で,第4章では今後の教育実践と研究を考える。評価システムが機能する教育実践,ICT を織り込んだ教育実践,ICT を活用した教育研究,が今後の展開として考えられる。

  • ―とよた日本語学習支援システムの事例―
    衣川 隆生
    原稿種別: 寄稿論文
    2021 年 178 巻 p. 36-50
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

     本報告では「日本語教育の推進に関する法律」の公布,施行に先行する形で地域日本語教育の体制づくりに取り組んできた豊田市の事例を紹介する。豊田市は最低限の日本語能力を習得するための日本語教育の機会を提供することと,わが国に関する基礎的知識を身につけるための導入教育を行うことが地方公共団体の責務であるという方針を定め,その方針に基づいて豊田市国際化推進計画を策定し,その計画に沿って「とよた日本語学習支援システム」の構築,運営,「導入教育」の仕組みづくりに取り組んできた。報告の最後では,地域日本語教育の構築,運営に際しては,地域の状況を把握するための調査及び理念を具体化するための持続的な対話が重要であることを提言する。

  • ―CEFR の受容と浸透から―
    櫻井 直子
    原稿種別: 寄稿論文
    2021 年 178 巻 p. 51-65
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

     ヨーロッパでは,各国がその国の言語教育政策に沿って日本語教育を実践している。したがって,ヨーロッパにおいて日本語教育がこれまでに構築してきたことを整理するには,ヨーロッパ各国をつなぐ横軸となる視点が必要である。そこで本稿では,2001 年にヨーロッパ評議会が公開したCommon European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment(以降,CEFR)を横軸に据える。まず,横軸となるCEFRの理念と言語教育観を概括する。次に,ヨーロッパにおける日本語教育ではどのようにCEFR が受容され,日本語教育の実践に参照されることで浸透していったのかを,公的機関の動向と日本語教師の実践からまとめる。最後に,CEFR の浸透が日本語教育にもたらした意義と,今後の日本語教育へ示唆する点を2020 年に出版されたCEFR 補遺版も絡め考察する。

  • 曹 大峰
    原稿種別: 寄稿論文
    2021 年 178 巻 p. 66-78
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

     2000 年以降,中国(大陸)の日本語教育は,世界の流れと中国の社会経済の発展を背景に,教育規模,教育理念と実践,教育目標と評価基準,教育研究と教師研修などの面で大きな変容があった。当面の課題には,規模調整と格差縮小,環境整備と目標転換,理念更新と実践連結,新スタンダードの効果的適用,教育研究と教師研修の継続的発展などあるが,今後の再構築の行方として,各教育段階(初等・中等・大学専攻・大学非専攻・大学院)間の多角的連携と均衡的発展が望まれている。そのためには,引き続き国際間特に中日両国間の交流と協働が不可欠であろう。

研究論文
  • ―日本語教育研究コミュニティの輪郭描写―
    田中 祐輔, 川端 祐一郎
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 178 巻 p. 79-93
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

     日本語教育研究史についてはこれまでに複数の重要なサーベイが存在しているが,多くは研究領域の分類や取り組みの方向性に関する考察を行ったもので,定量的知見は不足している。また,研究間や研究者間での相互関係や互いの影響については明らかにされていることが極めて少ない。本研究では,日本語教育学及びその研究コミュニティの輪郭を把握するための試みの一つとして,日本語教育学会の機関誌『日本語教育』第1 ~ 175 号(1962~2020 年)の掲載論文1,803 点と,これらの論文中で引用された文献16,205 点及びそれらの著者を対象として,引用参照関係の時系列変化やネットワーク構造の分析を行った。その結果,研究コミュニティ内における共通の知的基盤の形成,研究動向の変化,グローバルな言語・教育研究との関連等について,いくつか重要な事実が明らかになった。また,その背景や示唆について,先行研究の知見も踏まえながら考察を行った。

一般論文
研究論文
  • ―自己ペース読文実験を用いた文処理過程から―
    市江 愛
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 178 巻 p. 94-108
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

     日本語の条件文は従属節末に接続形式が置かれるため,従属節末になって初めて条件文だと分かる。一方で,モシという語句は条件文の成立に関係がなく,あってもなくてもよいが,必ず従属節末の接続形式に先行して置かれ,仮定的な条件文であることを明示する。そのモシの性質に着目し,本研究では日本語の仮説条件文の文処理過程において,モシの有無と位置が影響を与えるのか明らかにすべく,日本語話者と,四つの異なる言語をL1にもつ日本語学習者を対象に,自己ペース読文実験を行った。その結果,日本語話者にはモシの有無と位置で差はないが,日本語学習者はそのL1 に関係なく,モシがあることで文処理が促進され,読み時間を短くし正答率を高くすることが明らかとなった。この結果は,第二言語習得研究における理解過程の解明に貢献するだけでなく,やさしい日本語への応用も考えられ,多文化共生が進む日本社会への有用な知見となり得るだろう。

  • 渡辺 誠治
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 178 巻 p. 109-123
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

     日本語には,ヒトやモノの存在を表す動詞として「アル/イル」がある。しかし,「V テイル」を用いてヒトやモノの存在を表す場合も多く見られる。両者の間には使い分けが見られるケースがあるが,使い分けの実態とその規則性にはまだ明確でない点が残されている。

     本稿では有情物の存在を表す種々の「V テイル」を俯瞰したうえで,存在動詞「イル」との使い分けが特に問題となる,移動を表す動詞の「V テイル」について考察する。本稿では,用例の分析を通して,存在主体の意図が有情物の存在を表す「V テイル」と「イル」との使い分けに関与していることを明らかにする。同時に,この意図をはじめとする複数の要因が相互に作用しあって有情物の存在を表す「V テイル」と「イル」の間の選択がなされていることを示す。

  • 御舘 久里恵
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 178 巻 p. 124-138
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,初級日本語学習者の教室におけるプライベートスピーチを分析した。プライベートスピーチの機能は,代理応答,目標言語の操作,思考の媒介,選択的注意,モニタリング,コメント,言葉遊びの7 つに分類されたが,機能を特定できないものもあった。出現率が高くなる教室活動の特徴として,言語的難易度が高い,読み書きが必要である,全ての学習者に理解と産出が要求される,教室内が静かすぎないという点が挙げられる。学習者によって,プライベートスピーチをほとんど発しない者,プライベートスピーチで仮説検証や分析を行う者,メタ認知と心理的負担の軽減にプライベートスピーチを使用する者,楽しむために使用する者といった異なりが見られ,プライベートスピーチによって各自のニーズに合わせた学習空間を作り出している様子が明らかになった。また,プライベートスピーチの現れ方と使用言語から,社会的発話との連続性も明らかになった。

  • ―第一言語と学習期間の影響―
    松下 達彦, 佐藤 尚子, 笹尾 洋介, 田島 ますみ, 橋本 美香
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 178 巻 p. 139-153
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

     本研究では「漢字変換テスト」(KCT)を開発し,「日本語を読むための語彙サイズテスト」(VSTRJ-50K)(田島ほか,2015;佐藤ほか,2017)と合わせて日本語L2学生を対象に実施した。日本国内の3大学における日本語L2学生では,中国語L1学生の推定理解語彙量が平均3万語以上なのに対し,非漢字圏出身学生は2万語に満たなかった。二つのテストの相関は高かったが,ラッシュ分析でVSTRJ-50Kの一次元性が低かったためL1グループ別にDIF分析したところ,各グループ内ではモデルへの適合度が増し,L1によって難度の異なる語が多く存在した。特に語種による違いは顕著であった。1語・1漢字あたりの平均学習時間を検証したところ,初級から中上級にかけて短くなっていき,上級から超上級にかけて再び長くなることが明らかになった。L1/L2の語彙力・漢字力を包括的に見たカリキュラム開発が必要である。

  • 櫻井 直子, 奥村 三菜子
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 178 巻 p. 154-169
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

     Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment Companion Volume with New Descriptors(CEFR-CV)が2018年に欧州評議会から公開された。そこでは,仲介の概念が2001年のCEFRより幅広い観点から示され,取り上げる活動範囲の拡大と,それに沿った新たなグリッドの加筆が行われている。本稿では,まず,CEFR-CVの「仲介(mediation)」に関する先行研究から,仲介が受容・産出・相互行為を結びつけ学習と社会の橋渡しをする活動であることを確認し,次に,CEFR-CVの「仲介」の例示的能力記述文の形態素解析を行いA1~C2の仲介者像を描き出した。最後に,CEFR-CVが示す「仲介」が,日本語教育の実践において,学習段階に応じたアフォーダンスの創出,および,協働的な活動の促進に貢献するものであることを示した。

調査報告
  • ―オンライン学術文献データベースを用いて―
    雍 婧
    原稿種別: 調査報告
    2021 年 178 巻 p. 170-184
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

     本稿は,ノンネイティブ日本語教師(以下,NNT)認知研究の動向を分析し,今後のNNT認知研究の方向性を考察したものである。本調査では,オンライン学術文献データベースによる検索で抽出された1991年から2020年までの81本の研究論文を対象とし,年代別・地域別・研究課題の3つの観点から分析した。分析の結果,NNTを対象とする教師認知研究の論文は,社会の多様化が進み,教師の自己研修や成長に注目が集まったことを背景に,2010年代に急増していることが確認された。また,2010年までは東アジアを対象とした論文が多いが,2011年に入ると東南アジアに注目した研究が急増している。さらに,計量テキスト分析で研究課題が確認され,日本語教育学研究の関心領域の多様化及び,多文化共生社会におけるNNTの葛藤への関心により,NNT認知の変容プロセスへの注目度が高まっていることが明らかになった。

  • ―インドネシア語を母語とする日本語学習者との比較を通して―
    孟 盈
    原稿種別: 調査報告
    2021 年 178 巻 p. 185-199
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

     日中漢字類似性が中国語を母語とする日本語学習者(以下,CLJ)の単漢字和語動詞の習得に与える影響を明らかにするため,単漢字和語動詞を「同義同形類」,「同義異形類」に分類し,CLJとインドネシア語を母語とする日本語学習者(以下,ILJ)に対して,産出テストと理解テストを行った。その結果,「同義同形類」では,日中漢字類似性がCLJの産出と理解の双方に正の転移をもたらし,書字的類似性だけで習得が促進されることが明らかとなった。「同義異形類」の理解テストでは,書字的類似性による表記親近性効果が生じ,CLJはILJより理解度が高い傾向であった。一方,産出テストでは,同意味を表す日本語には中国語と書字的類似性がないため,CLJとILJに差はなかった。このことから,CLJは「同義異形類」について意識的な学習を行う必要があることが示唆された。

実践報告
  • 米本 和弘
    原稿種別: 実践報告
    2021 年 178 巻 p. 200-214
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,東京の大学の大学院留学生対象初級日本語コースで行った,「自助力」向上を目指した防災学習活動を通して,留学生がどのような経験をし,何を得たのか,実践の記録,および留学生と実践者の振り返りをもとに報告する。具体的には,従来の防災学習における課題を乗り越えるために提示されたGLIモデル(光原,2018)を応用し,1)東日本大震災のドキュメンタリー映画視聴,2)日本の自然災害についての読解活動,3)防災館における体験学習,4)学内でのフィールドワーク,5)学外でのフィールドワーク,6)防災に関する情報の発信,という流れで実践を行った。本活動の効果として,1)自然災害の基本的かつ実用的な情報をリアルに伝えることができたこと,2)自然災害に関する日本語を効果的に学習する場を提供できたこと,3)自然災害を自分ごとと捉え,自分の身を守る必要性に対する意識に働きかけることができたことが挙げられる。

  • ―初中級レベルの多国籍日本語教師を対象とした段階的アプローチの試み―
    池田 香菜子, 長坂 水晶
    原稿種別: 実践報告
    2021 年 178 巻 p. 215-229
    発行日: 2021/04/25
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,非母語話者日本語教師を対象にした訪日研修における異文化理解能力育成を目指したプロジェクトワークの実践を報告する。まず,深層文化と異文化理解能力,及び教師の役割に言及した上で,プロジェクトワークに関するこれまでの実践報告を概観する。対象者の言語レベルや先行実践で得られた課題を踏まえ,①協働活動の生まれやすい環境づくり,②文化の観察眼を養う議論の場,③言語的な手当ての3点に重点を置いた段階的アプローチのもと,本実践におけるプロジェクトワークの手順と経過を報告する。アンケート,異文化理解能力に関する自己評価,発表成果物の分析結果から,研修参加者は,授業及びそれに伴う自己の変化を高く評価していることがわかり,発表からは,異文化理解に対する気づきが多く観察された。以上のことから,本実践における段階的アプローチによる活動デザインが有効に機能していたことが示された。

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