1年間 (昭和59年4月-60年3月) の国民健康保険の受療記録を用いて, 桜島町と大浦町の二町の間で, 特定の呼吸器系疾患と結膜炎および皮膚炎の疾病像を比較した。桜島町は桜島火山の北西山麓の多量降灰地域に位置し, 他方, 大浦町は火山から約50km南西に位置しており, 非降灰の対照地域として選んだ。結果は以下の如くである。
1) 気管支炎, 喘息様疾患および肺炎については, 年齢補正を行った罹病, 有病率は桜島町の方が大浦町に比べて有意に高いが, 感冒では桜島町の方が大浦町より有意に低く, また, 肺気腫の場合には両町で有意差がなかった。
2) 桜島町においては, 喘息様患者の月別受療数とSO
2濃度 (1時間値の月平均あるいは1日平均の月最高) との間に有意の相関があり, 浮遊塵濃度とは相関はなかった。一方, 桜島町と大浦町の間には, 喘息様患者の月別受診件数について有意相関はなかった。これらの所見は, 桜島町における喘息様疾患による受療数の月変動の少なくとも一部は季節的なものではなくて環境SO2濃度の上昇を反映したものであることを示唆する。
3) しかしながら, 桜島町における他の呼吸器系疾患 (気管支炎, 肺炎, 肺気腫および感冒) については, これらの疾患の月別受療数とSO
2あるいは浮遊塵濃度との間に有意の相関はなかった。一方, 桜島町と大浦町の間には, これらの呼吸器系疾患の月別受療件数に関して有意の正相関がみられた。このことは, これら呼吸器系疾患の受療数の月変動は火山性大気汚染の影響というよりも主に季節的なものであることを示唆する。
4) 結膜炎では, 火山灰粒子に関係があると考えられる初診者の受診数は桜島町の方が大浦町より有意に多かったのに対して, 再診者数は大浦町の方が桜島町より有意に多かった。一方, 皮膚炎の年齢補正罹病・有病率には両町の間で有意差はなかった。
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