大気汚染学会誌
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22 巻, 4 号
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  • 脇阪 一郎, 柳橋 次雄, 泊 惇, 安藤 哲夫
    1987 年 22 巻 4 号 p. 251-259
    発行日: 1987/08/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    1年間 (昭和59年4月-60年3月) の国民健康保険の受療記録を用いて, 桜島町と大浦町の二町の間で, 特定の呼吸器系疾患と結膜炎および皮膚炎の疾病像を比較した。桜島町は桜島火山の北西山麓の多量降灰地域に位置し, 他方, 大浦町は火山から約50km南西に位置しており, 非降灰の対照地域として選んだ。結果は以下の如くである。
    1) 気管支炎, 喘息様疾患および肺炎については, 年齢補正を行った罹病, 有病率は桜島町の方が大浦町に比べて有意に高いが, 感冒では桜島町の方が大浦町より有意に低く, また, 肺気腫の場合には両町で有意差がなかった。
    2) 桜島町においては, 喘息様患者の月別受療数とSO2濃度 (1時間値の月平均あるいは1日平均の月最高) との間に有意の相関があり, 浮遊塵濃度とは相関はなかった。一方, 桜島町と大浦町の間には, 喘息様患者の月別受診件数について有意相関はなかった。これらの所見は, 桜島町における喘息様疾患による受療数の月変動の少なくとも一部は季節的なものではなくて環境SO2濃度の上昇を反映したものであることを示唆する。
    3) しかしながら, 桜島町における他の呼吸器系疾患 (気管支炎, 肺炎, 肺気腫および感冒) については, これらの疾患の月別受療数とSO2あるいは浮遊塵濃度との間に有意の相関はなかった。一方, 桜島町と大浦町の間には, これらの呼吸器系疾患の月別受療件数に関して有意の正相関がみられた。このことは, これら呼吸器系疾患の受療数の月変動は火山性大気汚染の影響というよりも主に季節的なものであることを示唆する。
    4) 結膜炎では, 火山灰粒子に関係があると考えられる初診者の受診数は桜島町の方が大浦町より有意に多かったのに対して, 再診者数は大浦町の方が桜島町より有意に多かった。一方, 皮膚炎の年齢補正罹病・有病率には両町の間で有意差はなかった。
  • 岩本 真二, 宇都宮 彬, 下原 孝章, 武藤 博昭, 加来 秀典
    1987 年 22 巻 4 号 p. 260-268
    発行日: 1987/08/20
    公開日: 2011/12/15
    ジャーナル フリー
    浮遊粒子状物質の解析にあたって, Chemical Mass Balance (CMB法) で算出したデータを拡散計算へ組み入れる手法について北九州地域のデータを基に検討を加えた。
    CMB法によるの発生源推定はハイボリュームエアサンプラーで採取した粉じんの成分分析結果から算出した。
    更に, SPMの拡散計算結果を炭素系成分排出発生源, 土壌成分発生源といったグループ毎に分類しそれらをCMB法で算出した結果と比較した。また, 拡散計算に組み入れにくい海塩粒子や二次生成粒子の発生源についてはCMB法算出濃度や実測値を計算値に上乗せした。
    こういう方法により, 計算値は実測値の73%推定でき, 寄与濃度毎に計算値と実測値との整合性を検討することができた。炭素系成分についての両老の比較では, 比較的良い整合性が得られたが, 土壌成分については炭素系成分よりバラツキが大きかった。また, これらを合計したSPM全体での実測値と計算値の整合性は良好な結果であった。
    更に, 現状の予測シミュレーションを行うために, CMB法算出のデータについては, ブロック毎の推定濃度を出し拡散計算の値に加えた。このようにして, 北九州地域のSPM濃度等濃度線図を作成した。
  • 下原 孝章, 宇都宮 彬, 岩本 眞二, 今 武純, 武藤 博昭
    1987 年 22 巻 4 号 p. 269-277
    発行日: 1987/08/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    3月 (積雪時期) および10月の2回, スパイクタイヤを装着した自動車の走行が多い道路近傍で大気浮遊粉じんを採取し, 走査-分析型電子顕微鏡を用い, スパイクタイヤ装着時期に特徴的な粒子を観察した。
    スパイクタイヤ装着時期の粉じん中にはイオウ, ハロゲン等の元素あるいは鉱物質とは結合していない, 炭酸カルシウム状の特徴的な粒子が観察された。このような炭酸カルシウム状粒子はアスファルト舗装材内部に存在し, 道路表面の白色ペイントの主成分であるCa-Si-Ti等が混合した粒子とは明らかに区別できる。また, このような炭酸カルシウム状粉じんは, 一般の土壌, 石炭燃焼粒子, 重質油燃焼粒子等には認められない。
    以上のようにカルシウムは組成的には季節による変化がそれほど認められないが, 化合物の形態では大きな差異が認められた。スパイクタイヤはアスファルト舗装材の内部まで削るため, アスファルト粉じんとして炭酸カルシウムのような粉じんが発生するのであろう。
  • 杉前 昭好
    1987 年 22 巻 4 号 p. 278-285
    発行日: 1987/08/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    土壌にセレンを亜セレン酸ナトリウムとして添加し, グルコースの共存下で培養した結果, 添加したセレンの0.26~7.296が揮散することが判明した。しかし, セレンは風乾状態の土壌, 滅菌処理をした土壌から揮散しないことから, セレンの揮散には土壌微生物が関与しているものと考えられ, 微生物の生育に影響を及ぼす因子である温度, pH, 水分, 光線, 培養雰囲気ガス, 栄養塩や抗生物質の添加とセレンの揮散量との関係について検討した。
    揮散量は温度の上昇につれて増加するが, 55℃ 以上の高温になると大部分の微生物の死滅のため急減する。栄養塩の添加によって, 揮散量は増加するが, グルコース, グルタミン酸の添加による増加率は特に大きく, 無添加の場合に比べて, それぞれ44.3, 88.7倍の揮散量の増加が認められた。
    微生物はセレンの揮散に関与しているだけでなく, 亜セレン酸イオンの金属セレンへの還元反応を促進するようであり, 嫌気性下で培養すると, 赤色の金属セレンが生成する。窒素通気下ではセレンの揮散がほとんど認められず, その一因は生成した不溶性金属セレンが微生物によって摂取されないため, その代謝物としての揮散性セレン化合物の揮散も減少したものと考察した。
  • 相木 玲子
    1987 年 22 巻 4 号 p. 286-295
    発行日: 1987/08/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    大気汚染・喫煙などの環境汚染は, 生体影響, 特に呼吸器病変を起こすことは, 疫学的, 生理学的研究により確立しているが, 動物実験による研究は少ない。従来, Osteolathyrismを起こすβ-aminopropionitrile (BAPN) の投与が, 肺胞壁の破壊を起こすことに注目し, 数種の動物に投与を行い, まず, 肺気腫高感度受性動物を選定し, この動物を使用し, NO2, 喫煙, ディーゼルェンジン排気ガスの3種の5~9週間の吸入暴露による影響を形態学的に検討した。その結果, ディーゼルエンジン排気ガス, 喫煙, NO2の順に肺気腫発生を助長し, 弱いその作用を適確に検出することに成功した。また, NO2暴露の作用が弱いことから, ガス成分よりも粒子の存在が, 肺気腫発生に強く作用している可能性も示唆した。
  • 栗田 恵子, 青木 一幸
    1987 年 22 巻 4 号 p. 296-300
    発行日: 1987/08/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    市販の化学発光窒素酸化物計に接続してNO2を濃縮捕集し, 測定するための前置濃縮器を開発した。NO2はNO2-として捕集され, 還元されてNOとして測定される。硝酸, 硝酸イソアミル, ニトロメタン, O3, NOの妨害は認められなかった。PANの妨害は3%, 亜硝酸エチルの妨害は1%であった。NO2の最低検出限界は20pptであった。
  • 田中 茂, 佐藤 宗一, 野上 祐作, 興嶺 清志, 松本 和子, 合志 陽一, 橋本 芳一
    1987 年 22 巻 4 号 p. 301-309
    発行日: 1987/08/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    蛍光X線分析により, 大気粉塵中の金属元素 (Mn, Fe, Ni, Cu, Zn, Pb) を測定するための標準的な方法について検討を行った。
    大気粉塵の捕集には, ローボリウムサンプラーの場合はメンブランフィルター (ミリポアAAおよびRA) を用い, ハイボリウムサンプラーの場合には石英繊維フィルター (パルフレックス2500QAST) を使用した。これらのフィルターはブランク値が低く, 1日の試料採取でも充分に大気粉塵中の微量金属を蛍光X線法で測定することが可能であった。Mn, Znのような微量金属を測定するにはバックグラウンドの補正を考慮する必要があった。
    蛍光X線分析の標準試料として, DDTC (ジメチルジチオカルバメート) および水酸化鉄による2種類の共沈殿標準試料を調製した。また, 市販の金属蒸着標準試料 (MICROMATTER社製) も同様に使用した。これら3種類の標準試料の間で, 各元素の蛍光X線強度の相違は認められなかった。しかしながら, 金属蒸着標準試料は耐久性の点で優れ, 1年間における各元素の蛍光X線強度の変動は1%程度であった。
    川崎市で採取した同一の大気粉塵を本論文で記述された標準的な方法にしたがって, 5つの機関で蛍光X線により測定を行い, 本法について評価を行った。5機関の分析結果は, ほとんど一致し, また誘導プラズマ発光法と蛍光X線法とによる分析値の間にもよく一致した結果が認められた。したがって, 蛍光X線法を用いた本法は, 大気粉塵中の金属元素の標準的な測定法として有用であることがわかった。
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