よく窒化加工に供されているAl系のSACM645とCr系のSCM440およびSKD61鋼を同一条件で窒化した窒化層の特性を比較検討した。得られた結果の要点を以下に列挙する。
1)これら鋼の窒化層は,873k-3.6ks程度再加熱しても,硬さおよび残留応力分布がほとんど変化しない。
2)再加熱温度が873Kを超えると,化合物層が変化し,化合物層中のγ'-Fe
4Nが多くなってくる.973Kになると,化合物層が無くなり,脱窒および窒素の内部への拡散が起こる。
3)これら鋼の窒化層の硬さは,X線による残留応力との相関は認めにくいが,α-Fe(211)回折ピークの半価幅と比較的よい相関がある。
4)「押し込まれたN原子」によって生じる格子歪は,いずれの鋼も,化合物層近くで最大となり,その値は0.2%程度である。また,この値を固溶窒素量に置き直すと,0.2mass%となり,異常な過飽和状態にある。
5)Cr系のSCM440およびSKD61鋼は,窒化層の硬さと格子歪との間によい相関が認められるが,Al系のSACM645鋼は,相関が認めにくい。
6)窒化層(化合物層を除く)の固溶あるいはそれに近い状態にあるNに起因する格子歪の様子および再加熱による格子歪の挙動が,Cr系のSKD61鋼とAl系のSACM645鋼とで異なる。
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