日本トキシコロジー学会学術年会
第36回日本トキシコロジー学会学術年会
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年会長招待講演
特別講演
  • Curtis D. Klaassen
    セッションID: SL-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
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    There is considerable variation in the responses to drugs and other xenobiotics.
    One reason for this variation is that concomitant exposure to drugs and other chemicals can alter the metabolism of chemicals by inducing the cytochrome P-450 enzymes (Cyps) in livers. It has been determined that xenobiotic activation of one of three transcription factors (AhR, CAR, and PXR) is responsible for the induction of Cyps. In addition to Cyps, there are other phase-I drug metabolizing enzymes, as well as phase-II conjugating enzymes that are important in the metabolism of xenobiotics. Transporters are important in the movement of chemicals into and out of cells and thus also affect the disposition of xenobiotics. This lecture will demonstrate that many of these enzymes and transporters can be induced by chemical activation of the three transcription factors noted above, as well as PPARa and Nrf2. The availability of mice engineered to lack each of these transcription factors has helped tremendously to understand the mechanisms of how xenobiotics increase the expression of uptake transporters, cytochrome P-450s, glucuronosyltransferases, glutathione transferases, efflux transporters, etc. This lecture will summarize the state-of-the-art knowledge of how activation of various transcription factors alter the pharmacokinetics of xenobiotics by modifying phase I, phase II, and transporters in liver and intestine.
  • Michael P. Holsapple
    セッションID: SL-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
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    It is estimated that up to 12 million Americans have food allergies, which occur when the immune system mistakenly responds to a food protein believing it to be harmful. Not all proteins are allergens, and the properties that make some `novel proteins' allergenic are not completely understood. There is currently no single endpoint that can predict the allergenic potential of a protein, and a weight of evidence approach is utilized. This presentation will review the current state-of-the-science of this approach by focusing on the safety assessment of genetically modified crops which includes the evaluation for protein allergenicity. Specifically, this approach, as defined by the Codex Alimentarius commission, evaluates: whether the gene source is allergenic; sequence similarity to known allergens; and protein resistance to pepsin in vitro. If concerns are identified, serological studies may be necessary to determine if a protein has IgE binding similar to known allergens. Since there was a lack of standardized/validated methods to conduct the allergenicity assessment, a multi-sector, multi-national committee was assembled in 2000 under ILSI HESI to address this issue. Over the last eight+ years, the Protein Allergenicity Technical Committee (PATC) has convened workshops and symposia with allergy experts and government authorities to refine methods that underpin the assessment for potential protein allergenicity. This presentation will highlight this ongoing effort, summarizing workshops and formal meetings, referencing publications and describing outreach activities. The purpose is to outline the `state-of-the-science' in predicting protein allergenicity in the context of current international recommendations for novel protein safety assessment, and to identify approaches that can be improved and future research needs.
教育講演
  • 桑原 正貴
    セッションID: EL-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
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    ミニブタは解剖学的・生理学的特性が他の動物種と比較してヒトと多くの類似点を有していると考えられてきたことから,医学・生物学を中心とした研究分野で有用な実験動物として注目を集めてきた。とりわけ,心血管系や皮膚研究領域における医薬品開発や安全性試験の場においては,現在,既に多くのミニブタが利用されている。さらに,このところブタやミニブタが再び注目を浴びるようになった背景として,動物愛護の観点から問題の少ないことに加え,遺伝子改変やヒト並みの疾患モデルとしての開発がブタで可能になってきたことが挙げられると思われる。
    世界的にはこれまでに約20系統以上のミニブタが開発されているが,世界で最も使用されているミニブタはゲッチンゲン系とユカタン系ミニブタである。本邦では,クラウン系とNIBS系ミニブタの生産および使用頭数が増加しているものと推察される。系統によって特性に多少の差異も認められるが,トキシコロジー分野での使用に際して必要となる様々な要件は満たしている。ミニブタは広い範囲の薬剤や化学物質に感受性を有することが明らかになってきているし,その投与経路に関しても一般的に使用される全ての経路が利用可能である。そして,薬物の代謝・動態に関してもヒトとの高い類似性も認められている。
    われわれの研究室では,医薬品開発において現在避けては通れない,薬物誘発性QT延長症候群に関しても研究を進めてきている。その中でミニブタを使用した電気生理学的および分子生物学的検討も実施している。これらの研究から得られた最近の成果も報告できればと考えている。
    医薬品開発における非臨床試験に関するOECDのガイドライン409にもミニブタは非げっ歯類動物の1つとして認められており,今後,薬物作用機序や毒性発現機序を解明する上で益々有用な実験動物としての価値が高まると考えられる。しかしながら,成体のミニブタの体重は未だに20~30 kgあることから,これまでの遺伝育種学的な方法に加えて遺伝子操作を利用したミニブタの更なる小型化も重要な課題であろう。
シンポジウム
シンポジウム1
市販前から市販後までに一貫した安全性評価/ファーマコビジランスによる臨床でのリスク最小化へのチャレンジ 非臨床/トキシコロジストは,安全性医師と連携して副作用データをどう読むか
  • 佐藤 淳子
    セッションID: S1-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
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    現在、ICH-E2Fとして、Development Safety Update Report(DSUR)が検討されている。DSURは開発段階における安全性のsummary reportであり、一言で言うならばPSURの開発段階版と言える。現在、ICH-EWGにおいて議論が進められており、本年6月の会合でStep4として確定することが予定されている。
    DSURの大きな目的としては、開発中の医薬品について収集された安全性情報をまとめ、評価することを通して、その後の医薬品開発をより安全に進めることにある。これまでも、安全性情報については、規制当局や治験実施医療機関に個別症例報告という形で報告されてきた。規制当局においては、各々が独自に集積評価を行ったりしているが、治験実施医療機関においては、これらの個別症例報告は有効活用されていないとの話も耳にする。DSURは、規制当局に提出されることを第一の目的としているが、治験実施医療機関等への提供も視野に入れられており、医療機関における治験薬安全性情報の全体的な把握を通して、より安全な治験の実施にも寄与できるのではないかと考えられる。
    また、開発の早い段階から、治験薬の安全性情報を取り纏めることにより、開発途中において示唆されたリスクについてより充実したデータを申請までの間に収集することも可能になるであろうし、それらを通して、リスク軽減策や回避策なども検討出来るようになることを期待している。
    今回は、現在検討されているDSURについて概説するとともに、DSURへの期待についても紹介したい。
  • 築館 一男, ギリー エドワード ステュワート
    セッションID: S1-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
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    Dosing and safety monitoring for phase I clinical trials is planned with careful attention to the findings during animal toxicity studies but drug development compounds are still frequently dropped in early phase development for unanticipated safety issues. This presentation aims to illustrate both the limits of applying preclinical safety findings to clinical development and the different approaches taken to evaluating data taken by preclinical and clinical scientists. Several examples of compounds dropped for safety reasons during early phase I clinical development are examined for preclinical correlates of the clinical safety findings which eventually led to discontinuation of development. The examples are presented jointly and discussed by a preclinical toxicologist and a physician. Examples are given of compounds where the adverse reaction which led to discontinuation of development was observed in animal studies but occurred at much lower exposure levels in man than was predicted by animal data and of compounds that were discontinued for reactions in man that were not at all evident during preclinical testing. In each case the findings are examined with attention to the preclinical and clinical pharmacokinetic findings and putative mechanisms of action of the adverse reaction observed.
  • 菅井 象一郎, 岩井 久和
    セッションID: S1-3a
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
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    特異体質性臓器障害をはじめとする医薬品の市販後の副作用は、その予測が従来のスタンダードな毒性試験では困難なことが多い。このような状況においてヒトの副作用研究における非臨床からのアプローチとして、動物の病態モデルや培養細胞を用いたin vitro実験系の積極的利用が今後更に求められると考える。一方、これらの実験系では、その背景値や得られた結果のヒトへの外挿性は必ずしも十分なものとは言えない。特に培養細胞をヒトの副作用研究に用いる場合は、細胞種の選択について十分検討することと同時に、細胞の培養条件・方法についても最適化を図る必要があると考える。また、薬物に対するヒトと動物の細胞の反応の違いも考慮すべきであり、培養細胞を用いたin vitro実験系の結果をin vivo更にはヒトに外挿する場合は、その限界を十分把握することが求められる。以上のような背景を踏まえ、この講演では、初めに医薬品の特異体質性臓器障害の想定メカニズムの一つであるミトコンドリア毒性の評価におけるin vitro実験系の可能性を述べる。また、スフェロイド細胞の様な今後有用と考えられる実験系を検証したい。さらに、特異体質性臓器障害を予測する上で、特にヒトと動物の細胞の違いについて検証したい。特異体質性臓器障害のリスクファクターとしては、患者さんの遺伝的要因、体質、生活習慣、既往症、年齢、性差などが挙げられるが、これらの要因を個々に解析する上で培養細胞を用いる実験系で将来どのようなことが期待されるか、また、細胞を実験に供する上でその提供ルートを如何に確保するかという点についても討議したい。セーフティーサイエンスにおいてヒトの細胞を有効利用できれば副作用メカニズム解明やリスク低減に向けて有用な情報が得られる可能性がある。
  • 松本 一彦
    セッションID: S1-3b
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
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    2000年3月、糖尿病の新しい治療薬として販売されていたノスカール(トログリタゾン:TOR)が劇症肝炎起因物質ということで市場から撤退した。同年2月、高尿酸血症治療薬ユリノーム(ベンズブロマロン;BNZ)も同じ劇症肝炎で緊急安全情報を出すことになった。年間35万人が使用し、20年以上販売されてきて累積8例の劇症肝炎死亡例が出たということがその理由であった。BNZは本当に劇症肝炎起因物質なのだろうか?その原因追及にとり組んだ歩みを報告する。実験1:BNZの薬効の一つにPPARアゴニスト作用があることから、Reporter gene assayによるsub typeを検討。TORはPPARγ、BNZはPPARαであった。実験2:ラットとヒトの初代培養肝細胞によるアポトーシス試験でTORは両種とも陽性、BNZはヒト細胞では陰性であった。実験3:BNZはBrを有しており、それが外れて劇症肝炎起炎物質Benzaroneに代謝されると言われていた。しかしBrは外れず6位の水酸化体に代謝されることをin vitro, in vivo試験で証明した。実験4:健康人を用いた臨床試験でBNZ原体は尿中には出現せず、代りに6-OH体が発現した。血中濃度も急峻に消失する原体とは異なり6-OH体は緩徐に減衰した。実験5:ヒトの薬物代謝酵素試験でBNZはCYP2C9のみの単酵素代謝を受けることが判明。そこで、5人のBNZ肝障害患者でDNAチップによるPoor metabolizerを探索したが、いずれもWild Typeであった。実験6:2002年遠藤らは、尿細管上皮細胞に尿酸トランスポータ(URAT1)があることを発見。その阻害剤としてBNZは他物質と較べダントツの活性を持ち、さらに6-OH体も強力な阻害剤であった。6-OH体は活性代謝物でありBNZはプロドラッグであることが発売から20年以上経た今日に明らかとなった。しかしBNZが劇症肝炎起炎物質であるという証拠は未だに見つかっていない。今後は特異体質患者を見つける努力をしていく必要があろう。
シンポジウム2
日本薬理学会合同シンポジウム ES細胞およびiPS細胞を利用した薬理学,トキシコロジー研究とその将来
  • 大野 泰雄
    セッションID: S2-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
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    日本薬理学会と日本トキシコロジー学会との合同シンポジウムの開催趣旨について紹介する。
  • 多田 高
    セッションID: S2-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    成人の体からの細胞が培養シャーレの中で万能細胞(多能性幹細胞)に直接生まれ変わるリプログラミングマジックは、多くの研究者に驚きを、患者は新たな治療法到来の現実性を感じる事となった。この人工多能性幹細胞(iPSC)と呼ばれる万能細胞は、胚性幹細胞(ESC)と非常によく似た特性を持つ。しかし本来多能性のある胚細胞から樹立されたESCと多能性を失った体細胞をリプログラミングして樹立されたiPSCが全く同じ性質を持つか注意深く検討する必要がある。iPSCの標準はESCであり両研究のバランスよい発展が医学・薬学への貢献に重要である。京都大学の山中研究室から2006年にマウスの2007年にヒトiPSCの樹立が報告されてから、その樹立方法の改良により遺伝子導入を伴わないiPSC樹立が可能になり、現在は遺伝子操作によらない化学物質によるiPSC樹立に向け研究が進んでいる。しかし、技術開発が進むにつれ樹立効率の低さと体細胞の入手方法が臨床応用の際の課題としてあげられている。これまでの基礎研究で用いられてきた胎児繊維芽細胞(入手困難)と同様の頻度でiPSCが樹立可能なプライマリー組織細胞(容易に入手可能)の同定が必要である。一方、2008年には、ラットESCの培養条件が確立されESCとiPSCを扱うことが可能となった。ラットはマウスよりも薬理・トキコロジーでは汎用されている哺乳類であり、今後疾患モデルラットの作製と応用が急激に広がる可能性がある。この様に、iPSCの出現は理学・医学のみならず、薬学・工学を含む様々な分野への貢献に向け世界規模での展開を見せている。同時に、早い研究展開について行けない行政制度や倫理の障害が危惧されている。
  • 大石 一彦
    セッションID: S2-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell; iPS cell)は、体細胞に数種類の遺伝子を導入することで誘導され、胚性幹細胞(embryonic stem cell: ES cell)と同様な性質を持ち、さまざまな臓器や組織の細胞に分化できる多能性幹細胞である。このiPS細胞は、患者自身の細胞から作製でき、分化多能性を維持したまま、無制限に増殖可能であるため、再生医療に応用可能なES細胞に代わる細胞資源として期待されている。 一方で、このiPS細胞は、細胞移植を前提とした臨床応用以外に、疾患発症の原因解明や創薬などの薬理学的研究への応用も期待されている。cell-basedの創薬スクリーニングは、従来ヒト初代培養細胞や細胞株が用いられていたが、ヒトiPS細胞から分化した体細胞を利用すれば、よりヒトの組織を反映した品質の安定したcell-based assayが可能となる。また、疾患特異的iPS細胞を患者自身の細胞から作製し、正常iPS細胞と比較解析することにより、これまでは困難であった難治性疾患の原因解明が可能となり、新たな創薬ターゲットの発見につながる。さらに、iPS細胞から誘導した体性幹細胞・前駆細胞を利用して、患者自身の体性幹細胞をターゲットとした再生薬の開発も期待できる。iPS細胞の樹立により、細胞の初期化や分化制御の分子機構が詳細に解明されつつあり、低分子化合物を用いた制御も可能となってきている。細胞移植に頼らない低分子化合物による同所性再生にも可能性が出てきた。 我々は、体性幹細胞・前駆細胞やiPS細胞を用いて、本来の組織の機能を反映した、また、機能評価に応用可能な再生組織の構築に取り組んでいる。本シンポジウムでは、この機能再構築系を中心とした我々の基礎的研究を紹介し、薬理学的研究への応用へ向けた展望と課題について述べてみたい。
  • 篠澤 忠紘
    セッションID: S2-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトへの外挿性の向上を目指すため、ヒト初代細胞を用いた種々の試験系の利用が試みられているが、細胞ロット間のばらつきや入手困難な細胞種があるため、試験系の発展が制限されている。また、hERG試験など1種類の分子を導入したリコンビナント細胞を用いた試験系も活用されているが、より正確な評価を行うためには機能に関与する複数の分子を保持する細胞が必要となることもあり、ヒトにおける副作用を効果的に予測するには多くの課題がある。胚性幹細胞(ES細胞)は、分化誘導により安定的に均一な各種の分化細胞を生産でき、また、分化細胞はリコンビナント細胞に比べ、より生理的な機能を保持することから、効率的で精度の高い副作用予測を行える可能性を持つ。 今回、我々はマウスES細胞から分化誘導により得られた心筋マーカー陽性分化細胞を用いて網羅的遺伝子発現解析を行い、安全性研究に利用できる可能性のある機能を探索した。Ingenuity Pathways Analysisを用いて、分化誘導により発現変動した遺伝子群を解析したところ、分化細胞は心筋関連のネットワークを保持していることがわかった。また、イオンチャネル関連遺伝子について、成体心室筋との比較解析を行ったところ、カルシウム及びカリウムチャネル遺伝子群において、成体心室筋の遺伝子発現に類似する遺伝子が多く含まれることがわかった。実際に、分化細胞は自律拍動能を保持し、イオンチャネルブロッカーにより拍動機能は影響をうけることが確認された。また、troponinやactinなど構造的に拍動機能に関係する遺伝子発現の多くも、成体心室筋のそれと類似しており、透過型電子顕微鏡観察の結果、分化誘導後の培養日数の経過に伴い形態的に成熟していることが示唆された。以上の結果を含め、本シンポジウムでは、ES細胞さらにiPS細胞の安全性研究における新たな可能性について考察したい。
  • 斎藤 幸一
    セッションID: S2-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品、農薬、一般化学品等の有用な化学物質の開発において、その安全性評価は、多くの場合、実験動物を用いた毒性試験が必要である。実験動物を用いた動物試験は、近年、動物福祉の観点から、Replacement(代替)、Reduction(削減)、Refinement(改善)の3Rの理念が浸透し、動物実験代替法の開発が積極的に進められている。また、発がん性、生殖・発生毒性、免疫毒性等の試験は、試験期間、費用といった側面からも、簡便かつ精度の高い代替法試験の開発が切望されている。発がん性においては、Ames試験に代表される各種変異原性試験の開発が進んでいるが、発生毒性分野では有効な試験が非常に少ないのが現状である。このような状況下、最も注目されている発生毒性分野の試験として、欧州で開発されたEST(Embryonic Stem Cell Test)がある。ESTは、マウスES細胞の心筋分化過程における化学物質が及ぼす影響を指標の一つとして、発生への影響を評価する試験である。ESTの利点は、正常な培養細胞であるES細胞を用いて実験動物を使用しない点、そして、ES細胞特有の様々な組織に分化するという性質(多能性)を利用して、発生過程を模倣している試験である点等があげられる。一方、評価方法の問題や試験実施に習熟した技術が必要な点等の課題も指摘されている。そこで、本演題では発生毒性分野の代替法試験としてのESTの現状と課題を中心に、我々がNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援で行っている新しい取り組み、そして、ES細胞の毒性分野での将来の可能性をiPS細胞の利用も含めて紹介したい。
  • 山田 弘
    セッションID: S2-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
     独立行政法人医薬基盤研究所(以下「基盤研」)と全国の関係研究機関と連携した研究課題(「ヒトiPS細胞を用いた新規in vitro 毒性評価系の構築」)は、内閣府、文部科学省、厚生労働省、経済産業省が平成20年度に公募を行った「スーパー特区(先端医療開発特区)」に、採択された。本特区複合体は、研究代表者(水口裕之)が所属する基盤研を中心に、国立医薬品食品衛生研究所、国立成育医療センター、国立がんセンター、熊本大学発生医学研究センター、独立行政法人国立病院機構大阪医療センターといった全国の研究機関・医療機関より構成されており、それぞれの強みを基に役割を分担し、これまでの研究成果を生かしながら研究を推進している。  基盤研においては、iPS細胞研究を全所あげて促進するため、所内横断的組織である「iPS・幹細胞創薬基盤プロジェクト」を平成20年7月29日付けで発足し、今回特区に参加する研究者もすべて同プロジェクトに併任している。研究としては、1)性別、年齢、病態、人種等種々のバリエーションを有したヒトiPS細胞コレクションの作製、2)再現性のある安定したヒトiPS細胞培養系の確立のための品質管理・品質評価法の開発、3)遺伝子導入技術の応用による目的細胞への高効率分化誘導技術の開発と分化誘導細胞コレクションの構築、4)トキシコゲノミクス解析を応用した新規 in vitro 医薬品毒性評価システムの開発に関連した研究を行っている。  本研究により構築されるヒトiPS細胞を用いた新規in vitro毒性評価系は、これまで毒性試験において課題とされてきた種差の壁の克服あるいはヒトにおける特異体質性副作用発現の予測等を可能とする新手法になるものと期待しており、引いては医薬品の安全性向上、医薬品開発の効率化に貢献できるものと考えている。本講演では、本スーパー特区事業計画の概要について紹介する。
シンポジウム3
子供の毒性学
  • 菅野 純
    セッションID: S3-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
     毒性の重要な観点に時間経過、即座に症状が現れる「急性毒性」、繰り返し暴露されると徐々に症状が現れる「慢性毒性」、そして、暴露された時点では殆ど無症状だが時間が経つと症状が現れる「遅発性毒性」がある。子ども(胎児、新生児を含む)にとっては、急性毒性もさることながら、遅発性毒性が重要である。日本の様な先進国家では、急性毒性症状が現れる事態は事件・事故以外には殆どない。しかし、現在、我々の研究は、今までの毒性学では検出が難しいと思われる遅発性毒性を引き起こす可能性を示唆している。その際の標的のひとつが脳である。生き物の脳はコンピュータに喩えると、電源ONの状態で組み上がると見る事が出来る。組み上げの調整や配線の完成にシグナルが利用されている様である。その段階で外界からシグナルを乱すと、脳の微細構築に影響が出ることが想定される。この場合のかく乱は、脳内の各種受容体に外来性物質が結合することで十分であると考えられ、神経細胞を直接殺す強力な神経毒や、高濃度暴露の必要がない。
     この様な状況は、脳以外の臓器にも少なくとも部分的に当てはまる事が考えられ、それ故に、暴露直後には症候が見られない場合でも、成長後に遅発性毒性として顕在化することを考慮した子どもの毒性学の構築が急がれる。
     小児医療現場には、医薬品のオフラベル使用、抗がん剤に代表される二次的影響(後遺症、或いは初発悪性腫瘍が完治した際の第二の腫瘍の発生の問題等)、注意欠如多動性障害などの小児精神疾患の増加の問題等、毒性学と直結する問題が多い。催奇形性の分野では、サルを用いた試験の結果の方がラットやウサギを用いた際の結果よりもヒトへの外挿性が高い様に直感されるが、その様な比較研究はここ数十年間進捗が無く、最新の分子毒性学を駆使した検討は試みられていない。この様に子どもの毒性学には多様な問題が山積している点を強調したい。
  • 関根 孝司
    セッションID: S3-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    胎児期~小児期は、「発生、発達」という特性を有するため、化学物質や環 境異物の影響は成人とは全く異なる。昨年の本学会で、母体がレニンーアン ギオテンシン系阻害薬(ACEI/ARB)を服薬した場合に胎児が重篤な腎障害を 呈するACEI/ARB fetopathyについて論じた。高血圧治療薬として確固たる地 位を築いているACEI/ARBが胎児で予測外の事象を発生する例である。 ACEI/ARB fetopathyはげっ歯類での実験でその発症が予測されており、動物 を用いた毒性学研究が極めて有益な一つの典型例として挙げられる。一方 で、妊娠高血圧に用いることのできる降圧剤は3~4種類に限られ、Ca拮抗薬の 動物への催奇形性のデータからCa拮抗薬は禁忌とされている。果たしてこの 研究結果のヒトへの応用が妥当かという意見がある。発生毒性の研究の臨床 応用に際しては「種差」を考慮し、毒性学研究で得られた結果を、「最も妥 当にヒトに応用すること」が今後の課題と考える。 器官形成異常のように「目に見える毒性」は了解しやすいが、本シンポジウ ムで2人のシンポジストの先生にお話いただく「行動、発達に対しての影響」 は毒性学の応用が難しい領域である。ADHDや発達障害に代表される問題は、 現在の小児医療において最も注目されている領域である。こうした発達障害 は遺伝的に規定されている面も多いと推測されるが、環境因子の潜在的な影 響の可能性も十分に予測され、小児科医が毒性学の基礎研究に最も期待する 領域である。また、小児ガン治療の進展で、多くの小児ガンの治癒が可能と なった現在、「抗ガン薬の晩期障害」も課題となっている。 小児医療の急速な進展に伴い、小児~思春期の医療で問題となる病態も大き く変貌している。私の講演の中では、小児科医が毒性学の専門家に期待する 課題についてまとめてみたい。
  • 種村 健太郎, 松上 稔子, 五十嵐 勝秀, 相崎 健一, 北嶋 聡, 菅野 純
    セッションID: S3-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
     胎生期~幼若期は脳の発生期~発達期に相当し、遺伝子情報に基づく基本構造の形成と共に、神経伝達物質とその受容体を介した神経シグナルによって神経ネットワークが構築される時期である。従って、この時期の化学物質暴露による神経シグナルかく乱は、脳の神経ネットワークの形成異常を誘発し、成熟期の異常行動として顕在化する脳の高次機能障害を惹起しうる。従来の成熟動物を主対象とした神経毒性試験では、この様式の異常を検出し難いため、我々は(1)暴露及び解析を行うタイミング、(2)情動-認知行動解析、及び(3)神経科学的物証の収集、の最適化による遅発性中枢神経毒性の検出と、そのメカニズムの解明を進めている。今回、GABA受容体シグナルをかく乱するモデル化学物質として、睡眠導入剤の一つ、トリアゾラムの結果を報告する。  胎生14.5日齢(胎生期)、生後2週齢(幼若期)、及び生後11週齢(成熟期)のマウスに対して、トリアゾラム(1mg/kg)を単回強制経口投与(胎生期は妊娠マウスへの投与による経胎盤暴露)した。いずれの投与群においても、群飼い(4匹/ケージ)飼育環境下での相互関係、及びハンドリング時の反応に異常を認めなかったが、生後12-13週に実施した情動-認知行動解析バッテリー試験のうち、条件付け学習記憶試験において、幼若期投与群に短期記憶形成能と場所-連想記憶能の低下が認められた。更にPercellome法による網羅的遺伝子発現解析から、同群の海馬でグルタミン酸受容体遺伝子の発現抑制が示された。これは学習記憶障害を裏付ける神経科学的物証であり、後シナプス機能低下が推察された。  本結果は、幼若期のトリアゾラム暴露が遅発性中枢毒性を誘発する事を示唆するものである。国内では「小児への安全性は確立されていない」と注意喚起はされているものの、小児睡眠障害の治療薬についてのより慎重な対応が必要であると考えられる。
  • 池田 和隆, 高松 幸雄, 曽良 一郎
    セッションID: S3-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
     依存性物質には、覚せい剤、オピオイド、カナビノイド(大麻)などの違法薬物の他、アルコールとニコチン(タバコ)のように未成年者の摂取のみが禁じられている物質や、カフェインなど法的制限がない物質も含まれる。近年、依存性薬物の摂取は若年齢化しており、深刻な社会問題となっている。依存性物質は発達期の脳に対して大きな影響を与えるが、そのメカニズムの多くは未だに解明されていない。
     メチルフェニデート(MPH)は、覚せい剤と類似の構造であり、中枢神経刺激作用を持つ。MPHは、ドパミントランスポーター(DAT)とノルエピネフリントランスポーターの機能を阻害することで、ドパミンとノルエピネフリンの神経伝達を亢進させ、覚醒・興奮作用を発揮する。しかし、小学生の3-7%が罹患する最も頻度の高い小児精神疾患の一つである注意欠如多動性障害(AD/HD: attention deficit/hyperactivity disorder)の患者では、その約70%において、MPHは治療効果を発揮して逆に多動と不注意を改善させる。また、AD/HD患者は薬物依存になるリスクが高いが、小児期にMPHなどによって適切な治療を行うことでリスクが低減する。
     興味深いことに、MPHの作用点であるDATを持たないマウスは、AD/HDの典型的なモデル動物である。野生型マウスではMPHによって多動が引き起こされるのに対して、DAT欠損マウスはMPH非投与下で顕著な多動を示し、この多動はMPHによって逆に劇的に抑制される。また、DAT欠損マウスは注意欠如様の行動を示すが、この行動もMPHによって改善する。DAT欠損マウスを用いた幼若期におけるMPHの作用機序の解明は、発達期における中枢神経刺激薬の依存性の解明やAD/HDの病態メカニズムの解明に繋がると期待できる。
シンポジウム4
毒性オミクス
  • 菅野 純, 相﨑 健一
    セッションID: S4-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
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     毒性学の近代化への現実的対応として、毒性学的トランスクリプトーム研究、即ちトキシコゲノミクス研究を開始した。これは、ブラックボックスの中身を遺伝子発現カスケードの面から解明する事により生体反応メカニズムに基づいた分子毒性学を構築する事を目的とする。その際、毒性を見落とさない「網羅性」を確保する必要性から、全遺伝子のトランスクリプトーム情報の中から生物学的に有意と判断される反応カスケードを抽出するアプローチを取る事とした。これは丁度、電子顕微鏡が世に現れた時の状況に準えることが出来る。光学顕微鏡では見えない「もの」が見えるようになるわけであるが、それが何であるかは、光学顕微鏡像を参照しても簡単には分からない。目指すトキシコゲノミクスと従来の毒性学は電子顕微鏡と光学顕微鏡の関係にあり、実用化に向けての教科書作成に当たる基礎研究が必要である。その為には複数の実験から得られる大量のデータを蓄積し横断的な解析を加えることが必須である事から、マイクロアレイデータの標準化と互換性確保の為に細胞1個当たりのmRNAコピー数を得るPercellome法を開発した。
     現在までに、約100種類の化学物質によるマウス肝の初期応答Percellomeデータに、反復投与、発生毒性、吸入毒性、多臓器連関性データを加え、延べ3.5億遺伝子情報からなるPercellomeデータベースを得た。Percellomeデータは、基本的に時間、暴露用量、遺伝子発現量の3軸からなる3次元表示データにより構成される。解析にはこの3次元波動面の特徴抽出という独創的な方法を採り、解析ソフトウエア群は全てオリジナル(一部は特許を取得)であり、高精細且つ高再現性を実現している。最終的に「どのネットワークがどの毒性と直結するか」という動的な因果関係を導き出すインフォマティクスを構築する事で毒性予測精度の格段の向上を目指すものである。
  • 藤原 道夫
    セッションID: S4-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
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    発生毒性ゲノミクス研究には発生生物学の研究成果を前提にしたメカニズムベースのアプローチが多い。これは,すでに多くの器官において形態形成過程でキーとなる遺伝子あるいは遺伝子カスケードが明らかになっている背景があるからであり,通常,ターゲットとする器官の形態形成が行なわれる時期および部位において特異的に変動する遺伝子を網羅的に解析するアプローチがとられる。我々もバルプロ酸とその誘導体を用いてマウス胚の神経管閉鎖異常に関して時期および部位特異的に変動する遺伝子を見い出し,神経管形成メカニズムと神経管閉鎖異常関連遺伝子との関連性を明らかにしようとしている。さらにEPAのNCCT (National Center for Computational Toxicology) を中心として欧米で進められているv-Embryoプロジェクト (The Virtual Embryo Project) は既知の形態形成遺伝子制御をベースに発生毒性をin silicoで解析しようと試みている。一方,発生毒性の代替法としてマウスES細胞の心筋分化系が欧州ECVAMの共同研究によって検証されてからすでに久しい。この研究成果は,発生毒性のリスク検出には発生の時期および部位特異性を考慮する必要性について疑問を投げかけているように感じる。つまり,ES細胞に限らず,初期胚あるいは多分化能をもつ細胞系を用いて変動遺伝子を解析することによって化合物の催奇形性をスクリーニングできる可能性を示唆している。発生毒性リスク評価を単純な試験系と質の高いインフォマティクスによって達成することが今後の挑戦課題ではないだろうか。これらの現状から医薬品開発におけるスクリーニング段階と開発段階での発生毒性ゲノミクスのインプットについての展望を述べてみたい。
  • 清澤 直樹, 安藤 洋介, 矢本 敬, 真鍋 淳
    セッションID: S4-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
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    オミクス(-omics)技術は生体のmRNA、タンパク質あるいは低分子代謝物の網羅的プロファイリングを可能とする技術であり、製薬企業においては医薬品開発の各段階で積極的に活用されている。特に毒性学研究を対象とした網羅的遺伝子発現解析(トキシコゲノミクス)は、医薬品開発初期段階での毒性スクリーニングとランクオーダー評価や毒性機作解明に広く用いられている。膨大な数の分子挙動を観察可能なオミクス手法は、旧来の手法に比較して特異的かつ高感度の新規毒性評価バイオマーカーを選抜することを可能とし、安全な医薬品の開発に貢献できるものと期待されている。本講演では、マイクロアレイを用いたトキシコゲノミクス解析、2次元電気泳動を用いたトキシコプロテオミクス解析、LC-MSを用いたトキシコメタボノミクス解析の活用例を紹介する。特にトキシコゲノミクス研究に関しては、近年蓄積が進む新規毒性評価バイオマーカーとその活用例の紹介を通して毒性オミクス技術の医薬品候補化合物の前臨床安全性評価への有用性を示し、今後の毒性オミクス研究の展望を考察する。
  • 中津 則之, 山田 弘
    セッションID: S4-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
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     医薬品開発における安全性評価の効率化に資することを目的とし、トキシコゲノミクスプロジェクト(TGP1)は医薬品中心の150化合物についてラット肝・腎、ラット一次培養肝細胞、ヒト凍結肝細胞の遺伝子発現および古典的毒性データを取得し、データベースを構築した。トキシコゲノミクス・インフォマティクスプロジェクト(TGP2)の目的は(1)医薬品の安全性予測に資する安全性バイオマーカーの開発、(2)種差の壁を越えるヒトの副作用予測性の向上、(3)医薬品審査での安全性評価におけるゲノミクスデータの応用である。
     安全性バイオマーカーの開発においては、参加企業の必要性に応じた目的を設定し適切な解析手法を適用することにより進めている。また、必要に応じて機序既知化合物、検証用化合物等の遺伝子発現データの追加取得を進めている。
     ヒトの副作用予測性の向上においては、TGP1でのヒト凍結肝細胞と、ラット一次培養肝細胞を用いたブリッジングを進めるとともに、臨床で採取可能なサンプルにおける遺伝子発現データを用いたブリッジングに挑戦している。実際には末梢血が唯一の利用可能なものであり、ラットの末梢血の遺伝子発現パターンから臓器毒性が診断・予測できれば、臨床への応用が期待できる。
     医薬品審査での安全性評価におけるゲノミクスデータの応用においては、少なくとも参加企業内ではデータの互換性・再現性が担保されていなければならず、将来的にレギュラトリーサイエンスに応用することを考えた場合、異なる施設、プラットホーム、プロトコールなどのデータへの影響を検討することは必須である。TGP2ではまず施設間バリデーションを行い、参加企業において取得したデータを比較したところ、非常に良好な互換性が得られた。
     本シンポジウムでは、これらの目的へのTGP2のアプローチについてデータとともに概説する。
シンポジウム5
In Silico手法による化学物質の有害性評価の試み
  • 前川 昭彦
    セッションID: S5-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
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    経済協力開発機構(OECD)の高生産量化学物質(HPVC)プログラムや、欧州の新化学品規制(REACH)への対応等、市場に流通する多種の化学物質についての有害性情報の収集、評価は世界的な課題となっている。こうした情勢の中、多額の費用と時間を要する動物試験のみでは評価できる化学物質に限界があることから、構造活性相関やカテゴリーアプローチなどin silico手法による評価の効果的な活用が求められている。我が国においても、関係省庁のイニシアチブの下、種々の有害性試験を対象としたin silico手法の研究開発が進められており、また、最近の化学物質審査規制法見直しの議論においても、構造活性相関やカテゴリーアプローチの活用方法が議題の一つとして取り上げられている。本シンポジウムでは、化学物質の有害性評価に携わる各分野の関係者が集い、in silico手法開発の状況を把握すると共に、それらの実用化へ向けた課題について議論することを目的とした。まず、分解・蓄積性、生態影響、ヒト健康影響のin silico手法に関する研究開発者が、それぞれの手法について講演する。そして、化学物質の届出及び審査業務に携わる産学官の関係者により、in silico評価の今後の化学物質管理への活用についてパネルディスカッションを行う。
  • 米澤 義堯
    セッションID: S5-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
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    環境を経由した化学物質による有害影響の管理では、化学物質のもつ有害性と同時に、その、環境動態の評価が不可欠である。化学物質の生分解性と蓄積性はこの環境動態評価のための重要な因子であり、化学物質審査規制法においても、化学物質の管理のための初期スクリーニング情報として活用されてきた。化学物質審査規制法の既存化学物質安全性点検事業では、これまでに1000物質以上の既存化学物質の分解性試験データ及び蓄積性試験データが取得されており、これら試験データを活用して、構造活性相関による分解性・蓄積性の予測システムの開発が行われ(H12~H18、NEDO「既存化学物質安全性点検事業の加速化プロジェクト」)、現在、未試験既存化学物質の中から優先的に試験すべき物質の選定に利用されている。 しかし、構造活性相関は、一般に反応機構を共通とする物質群内での化学構造とその反応性の関係の記述に力を発揮するものであるが、化審法で評価対象とすべき化学物質の幅は大変に広いこと、また、分解性や蓄積性のメカニズムが大変に複雑であることから、適用に限界のあることも事実である。このため、適用すべき物質をグループ化し、それぞれについてより適用性の高い相関を求めることが必要となる。 このグループ化においては、多様な観点からの判断材料を明示することにより、設定した適用グループを定義しながら評価結果を導き出す、カテゴリーアプローチが有効であると考えられる。現在、OECDをはじめ国際的にもカテゴリーアプローチは盛んに検討されているが、現状ではまだ概念的であり、本格的に実用化するためには、より多くのケース・スタディーが必要となる。本講演では,分解性と蓄積性について、未試験物質に対する類縁物質の選定方法、信頼性の高い試験データの見分け方、構造上の特徴や代謝情報等の判断材料を推定にどのように活用するか等について検討結果を報告する。
  • 白石 寛明
    セッションID: S5-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」の改正により、同法に基づく届出に、魚類急性毒性試験における半数致死濃度(LC50)、ミジンコ遊泳阻害試験における半数影響濃度(EC50)及び藻類成長阻害試験における成長速度の半数影響濃度(ErC50)が必要とされている。(独)国立環境研究所環境リスク研究センターにおいては、化学物質管理に携わる関係者に広く利用していただくことを目的に、生態毒性QSARモデルを作成し、生態毒性予測システム「KATE」: Kashinho Tool for Ecotoxicity)として2008年1月より試用版をWeb公開している。このQSARモデルは、環境省が実施した生態毒性試験結果(魚類急性毒性試験、ミジンコ遊泳阻害試験、藻類成長阻害試験)及び米国環境保護庁(US EPA)のファットヘッドミノー・データベースの魚類急性毒性試験結果を参照データとして用い、化学物質の部分構造の組み合わせによって、クラス分類をおこない、クラスごとに水-オクタノール分配係数(logP)を記述子とした線形回帰により作成されたQSAR式により予測を行うもので、魚類急性毒性とミジンコ遊泳阻害のQSARモデルを公開している。「KATE」におけるクラス分類は、部分構造の定義、および、クラス分類に必要な部分構造の種類や数、クラスの順位などによりなされるエキスパートシステムであり、参照物質に存在する部分構造の有無と参照物質のlogPの範囲で適応範囲を定義している。現在、SMILESによる化学構造式の入力から、部分構造の存在の解析を行う独自のプログラムを作成し、これを用いたPC版の開発やこれまで利用してきたSMARTS(daylight社)による構造検索から新プログラムへのWeb版の移植を進めている。また、新たな生態毒性の試験結果を追加し、クラス分類やQSAR式の見直し実施中である。本発表ではこれらの開発状況やバリデーション結果について報告する。
  • 林 真
    セッションID: S5-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    化学物質審査規制法における新規化学物質の審査では、ヒト健康影響評価に関するスクリーニング目的の試験として、エームス試験、染色体異常試験及び28日間反復投与毒性試験が行われている。エームス試験と染色体異常試験については、化学構造からその活性を予測ためのソフトウェアがいくつか市販されている。国立医薬品食品衛生研究所は、厚生労働省のプロジェクトにおいて、これらのソフトウェアの外部バリデーションを実施し、予測の観点が異なる複数のソフトウェアの予測結果を組み合わせることにより、単独で用いる場合と比較し予測精度が向上することを明らかにした。一方、毒性発現の全身症状を評価する反復投与毒性試験は、in vitro試験と比較し毒性発現のメカニズムが極めて多彩で複雑である。従って、化学構造と毒性とを直接的に関連付けることは容易でなく、反復投与毒性を対象とした実用的なin silico評価手法は今のところ開発されていない。化学構造をベースに試験が行われていない化学物質の反復投与毒性を推定するためには、体内分布、代謝産物、毒性作用機序など、毒性の内容やその強度を支配する種々の要因をケーズバイケースで考慮したエキスパートジャッジが必要になる。このようなエキスパートジャッジを支援するためNEDO『構造活性相関手法による有害性評価手法開発』プロジェクトでは、反復投与毒性試験報告書の詳細、毒性作用機序や代謝情報等を統合的に集積した知識情報データベースや、知識情報データベースの情報を用いて化学構造から反復投与毒性を推定することを支援するシステムの開発を行っている。本発表ではプロジェクトのこれまでの主要な研究成果について報告する。
  • 櫻谷 祐企
    セッションID: S5-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    近年、有害性試験のデータギャップ補完の手法として、カテゴリーアプローチが国際的に注目されている。遺伝毒性や生態毒性などの試験項目ではカテゴリー化の検討は盛んに行われており、いくつかのケース・スタディが示されている。しかしながら、反復投与毒性のカテゴリー化の具体的な方法論については現状において確立されていない。反復投与毒性のカテゴリー化するためには、類似の毒性を示す物質群を見出し、その毒性の強さが化学構造上の特徴や物理化学定数とどのような関係を示すか解析を行う必要がある。そして、その関係が毒性のメカニズムの観点から説明できるものがカテゴリーとして成立する。反復投与毒性試験では、一般症状、尿検査、血液学的検査値、血液生化学検査値、臓器重量、剖検、病理組織学検査などの多種の検査値や所見をもとに毒性学の専門家が総合判断することにより被験物質の毒性が評価されている。すなわち、カテゴリー化を行うためには、各種検査値の変動や病理所見の内容を物質間で比較検討しつつ、類似の毒性を示す物質群を見出し、それらの毒性の強度を比較することが必要となる。詳細なデータを備えた反復投与毒性の試験報告書が、いくつかの機関から公開されているが、それらは毒性の内容や強さを物質間で比較するためには必ずしも適した形式とはなっていない。NEDO「構造活性相関手法による有害性評価手法開発」プロジェクトで開発している「有害性評価支援システム統合プラットフォーム」では、反復投与毒性のカテゴリー化を支援するため、反復投与毒性で得られる各検査値や病理所見を横並びで比較検討するための機能を備えている。本発表では、「有害性評価支援システム統合プラットフォーム」(試作版)の機能を紹介しつつ、これを利用した反復投与毒性のカテゴリー化の実例を示す。
  • 林 真
    セッションID: S5-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    現在in silico評価は、化学物質審査規制法下における既存化学物質の試験の優先順位付けや、新規化学物質の審査時の参考資料として主に活用されている。本パネルディスカッションでは、前までの発表においてなされたin silico手法開発の現状を踏まえ、化学物質の届出及び審査業務に携わる産学官の関係者をパネリストとして招き、in silico評価の化学物質管理への活用の際に必要となる課題について議論する。まず、今後の我が国における化学物質管理において、in silico評価をどのように活用することが期待されているのかについて明確化する。そして、期待される活用方法でのin silico評価の実用化へ向けて、今後、特に必要となる検討課題や技術開発について議論する。特に、信頼性確保のための基本的な考え方など、各有害性試験項目の間で整合性を取ることが必要となる課題について重点的に議論する。
    パネリスト:
    経済産業省製造産業局化学物質管理課 化学物質安全室長 森田 弘一
    環境省環境保健部 化学物質審査室長 戸田 英作
    厚生労働省医薬食品局審査管理課化学物質安全対策室 衛生専門官 田中 大平
    兵庫医療大学薬学部医療薬学科 教授 西原 力
    SCAS Europe S.A./N.V. 取締役兼シニアマネージャー 樋口 敏浩
シンポジウム6
母体・胎盤毒性:実験的アプローチ
  • 黒岩 有一
    セッションID: S6-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトのリスク評価に重要な位置を占める毒性試験には、成獣が用いられることが多い。近年、小児適応医薬品の毒性評価のために幼若動物が用いられるようになり、成獣とは異なる反応性を示す知見が集積されつつある。一方、妊娠母体に対する毒性評価については、生殖発生毒性試験の中で行われるものの、本試験の主目的は催奇形性を含む胚・胎児毒性の評価にあるため、母体毒性に関する知見は極めて少ないのが現状である。しかし、妊娠母体では妊娠の成立や胎児の器官形成・発育に伴い内部環境が劇的に変化することから、化学物質の曝露に対して非妊娠動物とは異なった反応を示すことが容易に想像できる。実際、妊娠ラットでは肝臓の薬物代謝酵素系に著しい変化がみられることが知られており、また、ヒトではTリンパ球のTh1/Th2バランスが変化すること、妊娠末期には血液凝固の亢進に伴い血栓症のリスクが増加することなどが知られている。さらに、化学物質の胎児毒性を正確に評価するには、母体毒性を介した胎児への間接的影響も無視することはできない。
    本シンポジウムでは、妊娠の経過に伴う薬物代謝酵系、血液凝固系および免疫系の変化について、ラットでの基礎的データを中心に紹介する。また、これらの系を介して毒性を示す化学物質に対する妊娠母体の反応性の変化について、いくつか実例を挙げて紹介したい。
  • 三井田 宏明, 則武 結美子, 松岡 俊樹, 高崎 渉, 真鍋 淳, 上野 光一
    セッションID: S6-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    妊娠期間中は代謝酵素の活性の変動や糸球体ろ過速度の上昇などの生理的変化を生ずることが知られており、非妊娠時とは異なる薬物動態や毒性を示す可能性がある。しかしながら妊娠動物を用いる生殖発生毒性試験において、妊娠が母動物の薬物動態や毒性に及ぼす影響は十分に研究されておらず、非妊娠動物を用いた一般毒性試験で得られたデータと異なる場合においても科学的な解釈がなされていない。そこでタンパク結合率の変動に焦点をあてて検討を行った。その結果、妊娠後期である妊娠20日目のSDラットの血清タンパク質濃度は非妊娠ラットに比べ低く、アルブミンへの薬物の結合を阻害する遊離脂肪酸(NEFA)の血清濃度は高かった。次にアルブミン高親和性であるジクロフェナク、およびα1-酸性糖タンパク高親和性であるプロプラノロールをそれぞれ単回静脈内投与および経口投与し、血漿中総薬物濃度と遊離型薬物濃度を測定した。ジクロフェナクについては消化管の病理組織学的検査も行い、TK/TDを比較検討した。その結果、妊娠ラットにおいて、ジクロフェナクの遊離型濃度のC0が2.4倍、Cmax、AUCがともに約4倍増加した。一方、総濃度のC0、Cmaxはともに約1/2に減少し、AUCは2倍未満の増加であった。病理検査の結果、静脈内投与、経口投与ともに妊娠ラットで消化管障害の程度が強かった。以上のことから、血清タンパク質の濃度低下とNEFAの濃度増加によりジクロフェナクのタンパク結合率が低下し、遊離型濃度が増加したため毒性が増強されたと考えられた。一方プロプラノロールでは、妊娠ラットと非妊娠ラットの間に顕著な曝露差は認められなかったが、Scatchard plotによる結合動態の解析の結果、低濃度域で妊娠ラットの遊離型濃度が高くなる傾向が確認された。以上、妊娠ラットにおいて、遊離型薬物濃度の増加に伴い、毒作用が増強する可能性が示唆された。
  • 古川 賢
    セッションID: S6-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    哺乳動物の発生において母体と胎児は独立して存在するのではなく、胎盤を介して母体-胎盤-胎児を一つとしたユニットを形成している。よって、トキシカントによる胎盤の機能低下及び傷害は胎児の発生・発育に重篤な影響を及ぼし、胚子吸収や先天異常を誘発することから、胎盤は胎児毒性を評価する上で重要な組織である。胎盤は妊娠の進行とともに急速に増殖・発達し、血流量が豊富であるため、トキシカントの曝露を受けやすい。さらに、その機能は胎盤関門、栄養輸送、薬物代謝及び内分泌など多彩であることから、胎盤に対して毒性作用を有する物質は多数報告されている。生殖・発生毒性試験において胎盤への毒性影響は一般的に胎盤重量によって評価されている。しかし、病理学的には胎盤重量低下は小胎盤として認められ、組織学的には主として栄養膜細胞のアポトーシス/壊死による迷路層の菲薄化が観察される。実験的には母動物の一般状態悪化による非特異的変化及び各種抗がん剤、グルココルチコイド、カドミウムなどによる胎盤への直接傷害によって誘発される。胎盤重量増加は胎盤肥大として認められ、組織学的には栄養膜細胞の増殖による迷路層肥厚及びグリコーゲン細胞や海綿状栄養膜細胞の退縮抑制による基底層肥厚が観察される。実験的には母体の貧血や低酸素状態に対する代償性変化、胚子減少に起因した二次的変化及び栄養膜細胞傷害やホルモンバランス異常に対する反応性変化によって誘発される。このように胎盤病変及びその原因は多様であり、胎盤の機能低下及び傷害に起因した胎児毒性の機序解明には、胎盤病変の発現感受期と発現部位を同定し、経時的な形態学的変化について検索することが重要である。本シンポジウムではラット胎盤の正常構造、胎盤の毒性学的特徴、実験的に誘発したケトコナゾールによる胎盤肥大、抗がん剤による小胎盤などの形態学的変化及び小胎盤の胎児発育抑制への影響について述べる。
  • 山内 啓史
    セッションID: S6-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
     胎盤の組織や細胞の異常は胎盤の正常な機能を障害し、胎児発育に重大な支障をきたす。特に、胎盤におけるアポトーシス増加は種々の妊娠障害・胎児発育異常と密接に関連していることが示唆されている。したがって、発生毒性の機序を解明する上で、毒性因子による胎盤への作用についても十分に検討がなされる必要がある。DNA傷害は、発生毒性因子として重要なもののひとつであり、活発に細胞が増殖している胎盤組織はDNA傷害に対して感受性が高いことが予想される。そこで、胎児発育異常を引き起こすことが知られているDNA傷害性化学物質etoposideを妊娠マウスに投与する実験系を中心に、DNA傷害が胎盤に対して引き起こすアポトーシスと細胞増殖障害について調べ、さらにこれらの現象の機序としてガン抑制遺伝子p53の関与について検討を行った。
     本実験では、妊娠12日目のマウスにetoposideを単回腹腔内投与し、3、8及び24時間後に胎盤を採材した。その結果、etoposide投与後に胎盤迷路部栄養膜細胞においてアポトーシス細胞数の増加が認められた。また、p53タンパク質の発現上昇がみられた。一方、etoposide投与3及び8時間後に細胞分裂像数の減少が認められた。細胞周期の分裂期開始を制御するCDC2Aが不活性化されていたことから、細胞周期が分裂期開始前に停止されていることが示唆された。さらに、p53欠損マウスの胎盤では、etoposide投与によるアポトーシス誘導が消失していたが、分裂像数の減少は野生型マウスと同様に認められた。以上の結果から、DNA傷害が胎盤にアポトーシスと細胞周期停止を誘導することが明らかになり、また、p53はアポトーシス誘導を介して胎盤の病態発生に関与する重要な因子である事が示唆された。
  • 塩田 邦郎
    セッションID: S6-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
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    胎児環境には様々な人工化合物が存在することが明らかになってきた。今後の課題は、これらの化合物が胎児の発育や子供の将来に悪影響を与えないか否かを調べることである。“変異原性”を調べる方法はすでに確立されており、農薬を含め市販品はすでに検査済である。変異原化合物は「ゲノム・レベルに作用し、DNA塩基配列に変異・欠失・組み換えを起こす化合物」である。一方、“エピ変異原化合物”は、DNA塩基配列には影響を与えないが、エピジェネティクス・レベルで作用して、遺伝子を不活性化す化合物をさす。私たちの身体は、形や機能が様々な数百種類の細胞から構成されている。これら細胞は1個の受精卵に由来し、一部の例外はあるが、同一の遺伝子情報を保有している。発生過程では、特定の遺伝子の不活性化がおこり、細胞に特異的な遺伝子発現セットが決定される。エピジェネティクス制御の中心は、DNAメチル化とヒストン修飾によるクロマチン構造変化である。最近の研究で、(1)ゲノム中に膨大な数の組織特異的メチル化領域が存在すること、(2)細胞の種類に特異的なDNAメチル化・非メチル化状況のモザイク模様(DNAプロフィール)が明らかになっている。DNAメチル化は細胞分裂後も継承され得ること、ヒストン修飾とクロマチン構造の変化を伴い遺伝子をサイレントにすることから、遺伝子発現の記憶機構ともなっている。エピジェネティクスの破綻は、異常な細胞を生み出すことになり、最終的にはガンや慢性疾患の原因となっていると懸念される。エピジェネティクス評価は、環境汚染物質の子供の健康への影響を評価する上で、重要な手段となる。最近、胎児環境で検出された濃度の環境汚染物質がエピジェネティクス系に作用していることを示す証拠が蓄積してきている。エピ変異原化合物の検出系の確立が必要である。
シンポジウム7
有機フッ素化合物の汚染状況と毒性
  • Andrew B. Lindstrom, Mark J. Strynar, Shoji F. Nakayama, Amy D. Delins ...
    セッションID: S7-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    Worldwide attention has recently been focused on a group of persistent organic pollutants known as the perfluorinated compounds (PFCs). This class of compounds includes perfluorooctane sulfonate (PFOS) and perfluorooctanoic acid (PFOA) and a large number of other structurally related compounds that have been used in a wide range of industrial and consumer applications for the past 5 decades. Concern about these compounds has increased due to a growing number of studies which indicate that some of these compounds are toxic, bioaccumulative, and persistent in the environment. Moreover, the mean half-lives of PFOS and PFOA in humans have been estimated to be 5 and 4 years, respectively. Recent advances in analytical chemistry have made it possible to measure these compounds in environmental and biological matrices, but the sources of human exposure remain poorly described. This presentation will review some of the latest studies conducted by the USEPA and others to describe our current understanding of how humans are exposed to these compounds. A review of the most recent studies of potential human health effects will also be included.
    Disclaimer: Although this work was reviewed by EPA and approved for publication, it may not necessarily reflect official Agency policy.
  • 齋藤 憲光, 佐々木 和明, 八重樫 香, 原田 浩二, 小泉 昭夫
    セッションID: S7-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    有機フッ素系化合物は約 4000 種類が市販され、その中で約50種が研究対象として測定されてきた。その中でも環境中から高濃度で検出され、ヒトや生物への蓄積性が高いという理由から、ペルフルオロオクタンスルフォネート(PFOS)とペルフルオロオクタノエート(PFOA) の2つの化合物が重要視されている。1999年、有機フッ素化合物製造の従業員から、PFOSが最高値の12.8μg/mL(ppm)で検出し、続けて世界中の野生生物(哺乳類、鳥類、魚類)の血液から、数~数千ng/mL(ppb)で検出することが報告された。しかし、環境試料を測定する分析方法がなく、発生源や汚染経路の解明が緊急の課題であった。2001-2004年に、環境試料を対象としたPFOS・PFOAの分析法開発を行なった。LC/MS/MS分析装置で測定する場合、濃縮と精製が必要である。そこでコンセントレーターに固相カートリッジをセットし、環境水を約1000倍に濃縮する方法を開発した(環境省の公定法)。 全国79ヶ所の河川水を調査した結果、すべての河川水からPFOS・PFOAが検出し、わが国の河川水がすでに汚染を受けてしまったことが明らかになった。河川水や大気の濃度には地域差があり、汚染状況は特に近畿地方が高いという結果であった。約200名の血清を測定したところ、すべての日本人から0.2 ppb 以上の濃度でPFOS・PFOAが検出された。一般的な日本人の平均値(±標準偏差)は、PFOSが男性12.1(±1.4)ppb・女性8.2(±2.2)ppb であり、PFOA では男性3.5(±1.6)ppb・女性2.8(±1.8)ppbであった。近畿住民は、PFOSが男性24.1(±1.4)ppb・女性15.6(±1.6)ppb であり、PFOAは男性11.2(±1.4)ppb・女性8.4(±1.5)ppbと高値であった。
  • 金 一和, 劉 薇
    セッションID: S7-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    Perfluorooctane sulfonate(PFOS)とPerfluorooctanoic acid(PFOA)は数多くの有機フッ素化合物の中で、最も体表的な化合物であり、人間が合成してから、優れた耐熱性、化学安定性、撥水撥油の共有性質により産業界と日常生活用品など幅広い分野で長年使われてきた。これまでの研究により、PFOSとPFOAの難分解性、遠距離輸送、生物濃縮、多臓器毒性と発育毒性が明らかになり、地球規模で広がった新型難分解性有機汚染物として国際関連機構と研究者たちの注目を浴びている。 環境汚染物に関する健康リスクアセスメントの一環として、PFOSとPFOAによる人間の暴露状況と毒性情報は欠かせないものでありながら、未だに不明なところは多い。本講演では当研究室で行なわれたPFOSとPFOAに関する中国国内環境調査、人間の暴露現状及び経年変化、胎児移行性を環境疫学の立場から言及する他、動物実験によって生殖毒性、甲状腺毒性と胎児毒性の新たな知見を紹介することにする。 
  • Christopher Lau
    セッションID: S7-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    The perfluoroalkyl acids (PFAAs) are a family of organic chemicals consisting of a perfluorinated carbon backbone (4-12 in length) and an acidic functional moiety (carboxylate or sulfonate). These compounds have excellent surface-tension reducing properties and have numerous industrial and consumer applications. However, they are chemically stable, persistent in the environment, ubiquitously distributed, and present in humans and wildlife. The rates of PFAA elimination and their body burden accumulation appear to be dependent on carbon-chain length, functional moieties, and animal species. Recent laboratory studies have indicated a host of adverse health effects associated with exposure to PFAAs; these include carcinogenicity, hepatotoxicity, developmental toxicity, immunotoxicity, neurotoxicity and endocrine disruption. The modes of PFAA actions are not well understood, but are thought to involve in part, activation of nuclear receptor molecular signals. In general, extent of the PFAA toxicity corresponds to chain lengths of the chemical, which likely reflects the pharmacokinetic properties of these fluorochemicals as well as their potency of actions. This abstract does not necessarily reflect US EPA policy.
シンポジウム8
ナノマテリアルの毒性学
  • 広瀬 明彦, 高木 篤也, 西村 哲治, 菅野 純
    セッションID: S8-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    産業用ナノマテリアルはナノテクノロジーの中心的な新規物質として、近年急速にその種類や生産量が増加しつつあるが、産業用途として期待されている物理化学特性は、同一化学組成を持つ大きな構造体とは異なる生理活性やヒト健康影響に対する懸念をもたらす可能性を含んでいる。このような懸念に対して、ナノマテリアルの特性を考慮した有害性評価手法の開発と評価の実施が急務となっている。我々は、本問題に対処するための体内動態モニタリング法、in vitro及びin vivoの評価法開発の為の基礎的研究を進めてきたところである。その過程で、繊維状粒子吸入による慢性影響として懸念される中皮腫形成について、アスベスト同様の大きさと形の繊維を含むカーボンナノチューブが腹腔内投与試験よりそのポテンシャルを持つことを明らかにしてきた。加えて、この研究は短い繊維状のナノチューブやフラーレンが、細胞による貪食作用等を介して体内に再分布する可能性を示唆した。そこで、フラーレン腹腔内投与影響を詳細に解析した結果、体重増加抑制、腎の巣状萎縮、組織学的に尿細管上皮の空胞変性(PAS染色陰性、脂肪染色陰性)~尿細管の萎縮と円柱形成によるネフロン萎縮(thyroidization様)ないし脱落が誘発されていることが示された。細胞質内の空胞形成は、膵ラ氏島や肝細胞などの他の臓器でも観察され、腹腔のフラーレン凝集体が貪食細胞等により細粒化され、全身に再分布して影響を引き起こした可能性が示唆された。 以上より、ナノマテリアルの長期体内残留とそれに対する生体反応の様式が、慢性影響に大きく影響することが示唆された。表面活性の高いナノマテリアルと体内成分(細胞を含む)との基礎的な相互作用、体内残留様式、及び慢性有害性影響の同定は、ナノマテリアルの健康影響評価研究の中で最も重要な検討対象であると考えられる。
  • 堤 康央
    セッションID: S8-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    我が国のナノテクノロジー研究は、開発・実用化の点で世界をリードしており、ナノシリカや酸化チタン、フラーレンなどが食品や香粧品、医薬品の必須素材として上市されている。一方で、ナノマテリアルの物性(サイズ、形状など)に起因した革新的機能が逆に、二面性を呈してしまい、予期せぬ毒性(NanoTox)を発現してしまうことが世界的に懸念され始めている。そのため、経済協力開発機構(OECD)と連携しつつ、欧米各国などはナノマテリアルの開発やその利用を規制しようとする動きを加速化している。そのため、知財・技術立国を目指す我が国としては、ナノマテリアルの開発・実用化を闇雲に規制するのではなく、ナノテクノロジーの恩恵を社会が最大限に享受でき、かつナノ産業の育成や発展のスピードを鈍らせることなく、一方で責任ある先進国としてナノマテリアルの安全性を高度に保障し、ヒト健康環境を確保していかねばならない。本観点から我々は、種々のナノマテリアルの物理化学的性状(物性:粒子径・形状・表面電荷など)と細胞内・体内動態、安全性との三者連関を明らかとすることを通じて、安全性予測・評価基盤の開発と安全性情報の集積・発信、および安全なナノマテリアルの開発支援を推進しようとしている。本発表では、一例として、医薬品・香粧品や食品添加物に利用されているナノシリカの、物性-細胞内・体内動態-安全性(慢性毒性など)の連関評価情報を紹介させて頂き、各方面からの御指導を賜りたい。
  • 武田 健, 菅又 昌雄
    セッションID: S8-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    ナノマテリアルの次世代健康影響―妊娠期曝露が子に及ぼす影響 武田 健 (東京理科大学薬学部、ナノ粒子健康科学研究センター) 菅又昌雄 (栃木臨床病理研究所) ナノマテリアルの次世代健康影響について紹介したい。 1.ディーゼル排ガス妊娠期曝露の脳神経系への影響: 排ガス中のナノ粒子は、母から胎仔に移り、未発達の脳血液関門を通過して脳内に移行することが示唆された。産仔脳にび慢性の多発性微小梗塞と判定される所見が認められた (Sugamata et al JHS,2006)。排ガス微粒子投与でも同様な所見が認められた。 2.酸化チタンナノ粒子の影響: 酸化チタンを妊娠マウス皮下に投与すると、粒子が産仔の脳に移行すること、脳末梢血管周囲に異常を引き起こすこと、脳の特定の部位にカスパーゼ3陽性細胞が認められることなどが明らかになった(Takeda et al JHS, 2009)。さらに神経伝達物質のモノアミン系の代謝異常も認められた。また、網羅的遺伝子発現解析並びに選択的遺伝子発現解析の結果からも様々な異常が明らかになった。 3.結論: 上記の結果及びその後の研究結果から以下のことが示唆される。ナノマテリアルは吸入、気管内、点鼻、皮下など投与法に関わらずナノマテリアルが妊娠した母マウスの血流にのれば、仔に影響を及ぼす。生まれてから成長する過程で様々な症状として現れ、それらは時として、重大な疾患の発症、増悪化に繋がる。 我々の研究と国内外で蓄積されつつある研究報告から、ナノ粒子はバクテリア、ウイルス、プリオンに続いて第4の病原体(正確には病原物質)と表現したくなるほど様々な病態を引き起こす。ナノ粒子は特に血管及び血管周囲に大きな影響を及ぼしている。 (本研究は井原智美栃木臨床病理研究所部長、押尾茂奥羽大学教授、二瓶好正東京理科大学教授をはじめ多くの研究者の指導や協力のもとに行われてきた。院生・学生を含むすべての共同研究者に深謝申し上げます)
  • 津田 洋幸, 徐 結苟, 二口 充, 飯郷 正明, 深町 勝巳, Alexander B. David, 内野 正, 西村 哲治, 徳永 裕 ...
    セッションID: S8-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ナノ粒子には吸入曝露の可能性があるため、肺がん等のリスク評価が重要である。無コーティングルチル型粒径20nm二酸化チタニウム(TiO2)の肺発がんプロモーション作用およびその機序を追究した。 【方法と結果】乳腺発がん高感受性雌ヒトプロト型c-Ha-ras遺伝子トランスジェニックラット(Tg)に0.2% DHPNを2週間飲水投与して発がんイニシエーション処置をした。TiO2は1回あたり生食中250ppmまたは500ppm濃度で、第4週から第16週まで2週間に1回0.5mlづつ計7回気管内噴霧して17週で終了した。TiO2凝集塊は肺胞マクロファージに貪食されていたが肺胞壁組織にはなかった。脳、頚部リンパ節、乳腺、肝には検出された(ICP/MS)。対照群では肺胞過形成(個数/ラット)は5.9、肺腺腫は0であったが、TiO2 500ppm群では肺胞過形成は11.1、肺腺腫は0.46であり、乳腺がんは対照群3.0に対して500ppm群で6.6であり、いずれも有意なプロモーション作用を示した。その作用機序解析の目的で、野生型雌SDラットにTiO2を8日間に5回気管内噴霧する実験を行った。SOD活性および8-OHdGレベルの有意な増加がみられた。サイトカインアレイ解析では、TiO2群でMIPαが有意に増加した。Thioglycolate刺激によって肺より採取した肺胞マクロファージの培養液にTiO2を加えたところ、培養上清にはMIPαが含まれ、ヒト肺がん細胞を増殖させた。またMIPαはTiO2投与ラットの血清に含まれ、Tgの乳がん細胞に対して増殖を惹起させた。 【まとめ】ナノサイズTiO2を投与すると肺と乳腺発がん促進作用がみられ、その機序には、酸化ストレスに加えてTiO2を貪食したマクロファージが産生するMIPαが関与することが示された。
ワークショップ
ワークショップ1
毒性試験・評価の質の向上にかかわる教育:Seeds and Needs of Toxicologists for Pharmaceuticals
  • 門田 利人, 上野 光一
    セッションID: W1-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    本ワークショップの趣旨:本学術年会のテーマは「トキシコロジストの社会貢献と教育」である。これまで毒性研究者の教育の問題に関しては、毎年のようにワークショップが組まれ、様々な試みや提言がなされてきた。このことは、教育の問題が容易には解決できない様々な要素を含む重い命題であることを示すとともに、解決が容易ではないことも明示している。今回もワークショップを引き続き取り上げることで、複雑にもつれた解決の糸口を一つでも見つけることができれば、オーガナイズの責任を果たせたものと思いたい。 医薬品の開発現場において、安全性(毒性)を評価する業務は合成や薬効を探究する業務と比較して、必ずしも日の当たる業務とはいえない。しかしながら、社内での存在意義ではなく、国民、とりわけ患者さんの付託を得て業務遂行しているという社会的責任を意識している企業内毒性研究者も少なくないと思われる。 毒性研究者のあるべき姿、資質とは何か。国民から何を期待されているのか。その信託に答えるために、大学や社会で何を学び、何を教育されるべきなのか。現実と理想に大きな隔たりがあるなら、何が障害となっているのか。 また、医薬品の毒性研究者、特にin vivo毒性研究者は製薬企業内では養成が困難な状況にあるという。企業内育成ができない場合どのような弊害が生じるか。その解決策は何かなど様々な視点から考えてみたい。
  • 大原 悟務
    セッションID: W1-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    日本製薬工業協会タスクフォースの調査によると,毒性研究者の教育に満足していない理由として「総合的安全性評価が可能な担当者の育成方法を見出せていない」ことをあげている企業が多い(谷口他『医薬品研究』38巻7号)。この種の評価は治験薬概要書やCTDの作成で求められるものである。治験薬概要書などの作成に必要な情報を取りまとめ,評価することにおいて,熟達を促進させることは教育の重要課題といえよう。しかしながら,熟達にいたる過程では教育よりも実践的な経験が重要な役割を果しているとの意見もある。そこで,本発表では熟達につながる実践的な経験に着目したい。実践的な経験は日々重ねられるものであるものの,それら1つ1つは能力向上に対して同様の効果をもっていない。その中には能力を飛躍的に向上させる経験があり,「一皮むけた経験」と区分されている(金井・古野『一橋ビジネスレビュー』49巻1号)。本発表ではまず,熟達した毒性研究者へのインタビューをもとに,この分野における一皮むけた経験にどのようなものがあるのかを伝えたい。ただし,一皮むけた経験は必ずしも普遍性があるとはいえない。同じ経験であっても,飛躍のきっかけにする人もいれば,そうしない人もいる。それはなぜだろうか。当人の職務に対する信念の違いが経験の活かし方の違いにつながっているとの指摘もある(松尾『経験からの学習』同文舘出版)。そこで,本発表では熟達した毒性研究者が職務において何が重要であると考えているかについても論じたいと考えている。
  • 杉本 哲朗
    セッションID: W1-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    トキシコロジーは、化学物質、環境汚染物質、食品・水・土壌に含まれる物質などによる有害作用を研究する分野であり、主にヒトへの安全な曝露レベルを予測する科学的な論理構築が求められる。トキシコロジーに関わる毒性研究者の“目指す姿”は、自身の研究の場によって様々であろう。たとえば、医薬品企業に属する産の研究者であっても、創薬早期では不確実性が小さくなるようにアッセイ系の研究に注力するし、開発段階が進んでいくと情報・データの積み上げの過程で毒性を見極めていく総合的な評価が必要とされたり、動物種差のための試験企画やメカニズム研究をしたり、といったように毒性研究者の姿は違ってくる。学会では、医薬品や農薬、食品添加物、環境汚染物質等の安全性試験の実施やその結果の評価に関わる、レベルの高いトキシコロジストの育成は重要な課題と捉えている。毒性学について幅広い知識を有するとともに、特定の分野における研究経験と深い知識を有し、その知識を常にup to dateしているトキシコロジストを育成・確保するため、学会教育委員会では、基礎教育講習会、生涯教育講習会、トキシコロジスト認定試験の3つの小委員会を設け活動している。また、学会機関紙やHPには、各種の教育機会を案内している。総合的安全性評価者育成を目的とした「応用トキシコロジーリカレント講座」が千葉大学により2007年から開始されている。IUTOXによって開催される「Risk Assessment Summer School」は、異なるバックグランドの各参加者が化合物や農薬についてリスクアセスメントレポートを持ち寄って議論する企画があり、“気づき”を持てるグローバルな研修機会となっている。学会が毒性研究者養成のプラットフォームとして、教育の場の設定(教材の有効活用を含む)及び自己研鑽する機会となる情報の提供についてさらに充実するよう検討していく。
  • 穴井 俊二
    セッションID: W1-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    非臨床受託機関では、医薬品等について多くの安全性試験を行っている。試験に従事する者は、試験の内容を理解し、信頼性の高い試験結果を得るために、試験に係る多くの知識と技術を習得しなければならない。 各受託機関では、多種多様な試験を受託し、実施してきた長年の経験からそれぞれ工夫を凝らした独自の教育プログラムを準備し、試験従事者のレベルアップに努めてきた。しかし、試験従事者としては、学会発表以外に第三者から正当に評価してもらう機会がなく、試験従事者の研究意欲の低下が各受託機関の抱える悩みでもあった。このような意見を受け、安研協としては、試験従事者としての基本的知識の養成および資質の向上を目指した資格認定制度の設立に着手し、1997年に「教育・研修テキスト」の第1版を刊行した。1999年に資格認定制度を立上げ、同年に同テキストに基づいた「第1回 安研協認定技術者認定試験」を実施した。 近年、安研協の資格認定制度は、一定水準以上の専門知識・技術を持つ安全性試験実務担当者(実務経験1年以上)の認定制度として国内外から認知され、多くの試験従事者が受験するようになり、2008年までに資格認定試験は9回実施され、資格認定者数も1,200名以上となった。 今後、安研協としては、試験従事者を束ねる試験責任者の育成を視野に入れた教育体制の確立に力を注ぎ、試験従事者の意識の向上、更には安全性試験の質の向上に向け、努力していく予定である。
  • 菊田 貞雄
    セッションID: W1-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    Abstract: 治験モニター(CRA:Clinical Research Associate)は、治験が薬事法(GCP)や治験実施計画書に則って正しく実施されるように推進・指導する役割を担っている。そのため、治験が適正に行われ、新薬候補の効果と安全性が正当に評価されるためには、モニターの存在が不可欠である。  CRAが実際に行う業務としては、大きく分けて、治験手続き関連業務と症例モニタリング業務になる。具体的な治験手続きとしては、医療機関・治験責任医師の選定・契約、治験審査員会(IRB)用資料作成、治験責任医師・スタッフに対する治験説明、治験終了時の諸手続きである。また、症例モニタリング業務としては、症例のエントリー、進捗確認、症例報告書の回収・点検、治験薬の搬入・回収がある。  以上の業務を遂行するためにCRAに対して求められるスキルとしては、基礎的な医学知識や薬学の知識、治験薬に関する特有の領域の疾患・薬剤の理解、治験実施計画書の内容の理解、GCP等の規制の理解ならびに医師や他の医療従事者と接する機会が多いため、コミュニケーション能力などが挙げられる。  今回、GCP施行前後で求められているCRAの役割の変化、現状のCRAに対する導入研修カリキュラムの実際と課題を示すとともに、今後のCRA教育の目指すところについて、トキシコロジー分野の視点(臨床の場での安全性の評価等)から育成とレベル向上について話題提供したい。
  • 鈴木 睦
    セッションID: W1-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    「たった一度の、いのちと歩く。」2008年にM&Aによって誕生した製薬メーカーのキャッチコピーである。このように色々な形で製薬メーカーは患者、株主に対して約束を発信している。その中において企業としての責任の一つは、業績を上げることであり、そのためにはコストを削減し、成果を最大化することが求められる。新薬開発の難度が増し、開発費用が膨張している現状では、固定費を変動費化し、資源はよりピンポイントに投じられている。製薬メーカーにとって、コスト削減の標的は維持管理費が大きく、アウトソースしやすい申請のためのGLP試験であろう。また、資源集中のポイントはパイプラインの拡充である。  現在、メーカーの毒性研究者の中心的な現場での仕事は、「効率よく開発候補品を絞り込み」、「最小限の試験パッケージでファースト・イン・マンの達成やプルーフ・オブ・コンセプトの取得が可能かを考え」、「最終申請パッケージをどのようにまとめるか」という戦略を練ることである。従来のように「自分たちがGLP/SOPを作り、試験を実施し、申請に挑む」と言う実験中心の業務形態から、GLPと言う単語や動物実験そのものが消えかかっている現場に身を置いているのが現状ではないだろうか。これらの環境変化が導くフォーシーズ・アット・ワークは「製薬メーカーのビジネスモデルにGLPや動物実験を中心とした毒性研究者は必要ない」ということにならないだろうか。このフォーシーズ・アット・ワークが後戻りしない確かなものであるならば、その現場に居る私たちに求められる像も大きく変わり、私たちが求める情報も変化しているはずである。 このような状況下、製薬メーカーの現場にいる毒性研究者はどのような役割を担い、安全性評価担当者として何が求められ、そのためには何を研鑽し続け、業界団体、CRO、学会とどのような関係を構築していくか、などを本ワークショップで議論できればよいと考えている。
ワークショップ2
毒性質問箱2009 第一部 トキシコロジストの研鑽
  • 赤堀 文昭
    セッションID: W2-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    日本の学位(博士)取得制度は、大学院博士課程で学位を取得する場合(課程博士)と課程学生ではないが(社会人研究者など)、博士課程修了者と同等以上の学力があると確認され、博士論文の審査に合格した者に学位を授与(論文博士)する二つの方法がある。このうち論文博士制度については、文部科学省中央教育審議会が将来的には廃止すべきではないかと答申している。 学位論文作成に当たっては、論文課題とした研究の「目的」を明確にすることが重要である。そして、その目的を達成するためには段階的に研究を進め(学術雑誌への2編から3編の発表業績がこれにあたる)、体系的・論理的な実証に基づいて結論が導き出されたものでなければならない。また、学位(博士)を申請する論文はその申請する研究分野において「どのような新規性(研究結果としての)」があり、その分野の研究発展に「どのような大きな貢献」をし、さらには、研究成果はその研究分野に限らず、例えば医療領域や社会に対し、「どのような貢献ができるものであるかを」強調する論文であってほしい。多くの場合、学位申請論文は論文を提出する前に学術雑誌に発表した論文をまとめることになるが、発表した一つ一つの研究論文は優れた素晴らしい論文として公表されているものの、前述のような形で、体系的に学位論文としてまとめることが社会人研究者にはどうも難しいようである。その理由の一つとして、それらの論文は最初から学位論文にまとめようとして構成されたものではないことがあげられる。学位を申請する論文にはサイエンスとしての新規性があり、また、論文の結論が学位を申請する分野・領域に、さらには、社会に対し如何に貢献するものであるかも強調されていなければならない。学位論文の作成は研究者にとって、生涯教育の一里塚であり、生涯自ら学ぶことの楽しさとありがたさを、後になって噛みしめることのできる貴重な機会でもある。
  • デーリー ステファン
    セッションID: W2-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    演者は、タケダ、タナベ、アストラゼネカ、サンテン、日本ベーリンガーインゲルハイムといった大手製薬企業において、長年に渡り専門職に就かれる方々のトレーニングを行ってきた経験から、このプレゼンテーションでは、研究員の方々をはじめ製薬業界で働くたくさんの方々が、海外の相手と英語でコミュニケーションをとる際に直面するであろう、あらゆる課題について取り上げます。特に製薬業界に着目して、言語及び文化の違いを比較し、現在の日本で一般的に行われている英語指導/英語学習に対する誤った考えについてお話します。そして最後に、英語でのコミュニケーション能力を向上させるためのスキルや戦略についての考察をお話します。これまで製薬業界に的を絞ったトレーニングビジネスの構築に力を注いできた経験から、このプレゼンテーションにご参加頂いた皆さんには、日本人と英語を母国語とする人たちが持つコミュニケーションの問題点について、また、これからのコミュニケーションをよりスムーズにするためのアイディアについて、深く理解していただくことができると思っております。
  • 下村 和裕
    セッションID: W2-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/17
    会議録・要旨集 フリー
    トキシコロジストとしての教育は会社における教育プログラム、安全性試験が行われる現場でのOJT、各種の認定制度ならびに学会や研究会への参加を通して行なわれている。 一般的に研究者はいくつかの学会に所属し、年に1回行なわれる学術年会に参加する。また、参加自由のセミナー等に参加して外部の情報や最新の情報を入手する。しかし、これらはほとんど発表者からの一方向の情報伝達であり、実際に自分が必要とする具体的な情報が得られるとは限らない。自ら文献や成書を探しても、毒性の評価にかかわることやテクニック的なノウハウなどは印刷物の中から見つけ出すことが難しいものもある。経験者からのアドバイスが欲しくても、社内には経験者がいないこともある。 学会ほど大きな組織ではなく、比較的限られた分野の研究者が集めって構成されるものとして研究会や勉強会がある。100人を超えるメンバーを抱える大きな研究会もあるが、一般的には数十人程度で運営されていることが多い。継続して参加することによって、メンバー間でお互いに顔と名前が一致し、その人のバックグラウンドもわかってくるようになる。著明な先生に研究会に参加していただけば、直接、話を聞くこともできる。小さい集まりであるが故にこのような人脈形成が可能となる。また、小さい研究会では比較的若い研究者が会で取り上げるトピックスとして、自分の知りたいことを提案して、セッションを企画することにより、情報の発信側となることもできる。「Give and take」とよく言われるが、自ら調べて研究会でgiveすることが、自然にtake につながって行く場合も多い。人脈形成とは情報のネットワークの構築であり、これを活用することは自らのレベルアップに大きく貢献すると思われる。この発表では、学会ではなく研究会だからこそ可能なトキシコロジスト研鑽について紹介したい。
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