ストレートタイプの多層カーボンナノチューブ(MWCNT)はその形状や機械的強度をもつ特徴からアスベストと同様に肺線維症、肺がん、中皮腫、胸膜肥厚等を引き起こす可能性が危惧されている。人はMWCNTを取り扱う様々な状況で経気道的に曝露する可能性がある。我々は、実際の人の曝露経路を考慮してMWCNTの全身吸入曝露装置を開発し、ラットの吸入毒性試験を行った。さらに、MWCNTの新しい定量法を開発し、吸入毒性試験から得られた肺のMWCNT量も測定した。
被験物質はストレートタイプのMWCNT(保土谷化学工業社製のMWNT-7)を使用した。曝露は、当センターで開発したサイクロン・シーブによる乾式法で行った。試験はF344/DuCrlCrljラットの雄に5mg/m
3の濃度で1日6時間の単回曝露と、雌雄とも0、0.2、1及び5mg/m
3の濃度で、1日6時間、週5日間、2週間または13週間曝露した連続曝露で行った。全動物を剖検し、病理組織学的及び気管支肺胞洗浄液(BALF)検査を行った。また、肺内のMWCNTはマーカー(Benzo[
ghi]perylene)を用いた定量法により測定した。チャンバー内のMWCNTは、単回、2週間及び13週間試験とも良く分散した状態が確認され、チャンバー内濃度は各濃度群とも設定濃度で安定しており、変動も少なかった。単回及び2週間試験の結果、病理組織学的検査により肺に肉芽腫性変化がみられ、BALF検査では弱い炎症性変化を示した。13週間試験では肺に肉芽腫性変化と肺胞壁の限局性線維化を認め、BALF検査では炎症性反応を主体とした変化を示した。これらの変化は何れも曝露濃度に対応して増加した。また、肺内のMWCNT量は単回、2週間及び13週間試験とも、曝露濃度、曝露回数に対応した値を示した。
以上、全身曝露による吸入毒性試験の結果、曝露濃度に対応した毒性データと肺内MWCNT量が得られ、これらはMWCNTの安全性評価に有用な結果と考えられた。現在我々はストレートタイプのMWCNTの長期吸入曝露による発がん性試験を実施中である。
なお、これらの結果に加え、MWCNTの遺伝毒性についても報告する。
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