日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
選択された号の論文の493件中101~150を表示しています
シンポジウム 18 膵炎・膵臓がんの非臨床及び臨床評価
  • 伊藤 鉄英, 中村 太一, 五十嵐 久人, 高柳 涼一
    セッションID: S18-5
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    2型糖尿病患者に対するGLP-1受容体作動薬、DPPIV阻害薬の使用は急速に増加しており、長期投与の患者が増えている。これらのインクレチン関連薬は低血糖のリスクも少なく、また体重増加抑制作用もあり、比較的安全な薬剤と考えられている。一方、急性膵炎や膵癌の発症が危惧されるような報告もあり、インクレチン関連薬とこれらの疾患との関係に医療者の注目が集まっている。インクレチン関連薬による膵炎、膵癌発症との関連性は現時点では低いことが明らかになりつつあるが、現状では長期投与に関するデータは不明である。膵疾患に伴う糖尿病(膵性糖尿病)では、膵外分泌酵素薬の補充ならびにインクレチン関連薬の使用は、低血糖の予防、血糖コントロールの改善において重要である。しかし、今後も急性膵炎の発症、慢性膵炎の増悪、膵癌、甲状腺癌の発症などに留意しながら使用することが必要である。ただし、インクレチン関連薬には他の糖尿病薬に比べ低血糖のリスクが少ないという利点もあることから、やみくもに使用を制限することは患者にとって不利益となる。膵性糖尿病に対しては、症例の選択に注意を払いながら治療を行っていくべきである。
  • 清水 京子
    セッションID: S18-6
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    急性膵炎は膵腺房細胞内のトリプシノーゲンが異所性に活性化して細胞壊死を起こし、炎症細胞浸潤と炎症性サイトカイン産生が惹起されることで発症する。急性膵炎は可逆性であるが、飲酒などの原因が排除されないと、次第に膵腺房細胞の脱落と線維化がおこり、慢性膵炎に移行することもある。主症状は上腹部痛、背部痛、嘔気などで、急性膵炎に特異的なものではない。血液マーカーとして、アミラーゼ、リパーゼ、トリプシン、エラスターゼ1、ホスフォリパーゼA2などの膵酵素や、炎症マーカーの白血球やCRPが上昇する。アミラーゼには膵型と唾液腺型のアイソザイムあり、高アミラーゼ血症であっても膵由来とは限らないので、膵疾患に特異的な膵型アミラーゼかリパーゼを測定する必要がある。急性膵炎の画像診断は造影CTを施行し、膵壊死の程度や炎症の範囲を調べる。急性膵炎は重症度により生命予後が異なり、重症では死亡率が高いので、重症であれば高次医療機関での必要となる。重症膵炎を予測するための主要なバイオマーカーは、多臓器不全、ショック、DICなどを示す血液マーカーである。血中膵酵素値は急性膵炎の診断マーカーではあるが重症度の予測には有用ではない。慢性膵炎の初期は、急性膵炎と同様な腹痛を繰り返すが、超音波検査やCTなどの画像検査では異常を示さないことが多く診断が難しい。慢性膵炎が進行すると、膵内外分泌機能が低下して糖尿病や消化吸収不良の病態が中心となる。慢性膵炎による糖尿病は膵性糖尿病と呼ばれ、インスリンのみならずグルカゴンの産生も低下するため、血糖調節が困難な糖尿病になる。外分泌機能不全では低栄養、脂肪便などの消化吸収障害が出現する。臨床的に使用可能な外分泌機能評価のマーカーはあるが、軽度の外分泌機能低下を判定できる鋭敏なものはない。本講演では急性膵炎、慢性膵炎の診断の現状と将来的展望について述べる。
  • 福井 英夫
    セッションID: S18-7
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     FDA及びEMAは2型糖尿病患者及び肥満患者におけるDPP-4阻害薬及びGLP-1受容体作動薬の膵炎及び膵がんに関するリスク評価を2013年3月から開始した。非臨床試験では、DPP-4阻害薬sitagliptin及びalogliptin、GLP-1受容体作動薬exenatide及びliraglutideのラット及びマウスを用いた2年間がん原性試験が実施されている。臨床用量での血中濃度と比較して、10~400倍の高い血中濃度が確保できる用量をラットあるいはマウスに2年間投与しても、いずれの上記化合物でも膵炎及び膵がんは認められなかった。また、イヌあるいはサルを用いた慢性毒性試験でも、臨床暴露量に対して5~500倍高い血中濃度を維持した状態で上記薬物を39~52週間投与しても、膵炎及び膵がんはみられなかった。FDAは上記化合物を含むインクレチン関連薬のGLP毒性試験のうち50試験を再解析した結果、ヒトへのリスクを示唆する明らかな膵毒性及び膵がんは認められなかったと2013年6月に報告した。臨床試験では、liragutideを投与した10,000例以上を精査したところ、急性膵炎及び膵がんの頻度増加は認められなかった。また、sitagliptinを12週間から2年間投与した患者(n=7726)とcomparator (n=6885)とを比較した結果、膵炎及び膵がんの発現頻度は同等であった。
     以上の結果から、現時点で非臨床・臨床試験のいずれにおいても、膵炎及び膵がんとインクレチン関連薬との関係を示す明確な証拠はない。現在、FDAはDPP-4阻害薬及びGLP-1受容体作動薬のCV outcome試験(最長投薬期間4年、症例数30,000人以上)をモニターしている。膵炎及び膵がんとインクレチン関連薬との因果関係については、2014年12月までにFDAから結論が出される予定である。
シンポジウム 19 次世代が切り拓く革新的免疫毒性研究
  • 西村 泰光, 李 順姫, 武井 直子, 松﨑 秀紀, 大槻 剛巳
    セッションID: S19-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    鉱物粉塵の吸入曝露はいずれも肺の慢性炎症に続く線維化、塵肺を引き起こす。しかし、繊維状珪酸化合物である石綿は悪性中皮腫などの腫瘍疾患を引き起こし、他方で遊離珪酸(シリカ)曝露は全身性強皮症(SSc)や慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患を希に引き起こす事が知られ、鉱物粉塵曝露の生体影響は一様ではないと考えられる。我々は、これまでに細胞株や一次細胞培養および患者試料を用いた研究により、石綿曝露や悪性中皮腫に関わる免疫機能低下、およびシリカ曝露が免疫機能活性化に関わることを明らかにしてきた。そこで、患者末梢血を血漿および免疫担当細胞に分離しサイトカインや免疫関連分子の血中濃度・細胞表面発現量・mRNAレベルについて解析し、石綿・シリカ曝露関連疾患の免疫動態解析を試みた。ここでは、先行する珪肺(SIL)・SScの解析結果について主に紹介する。SILとSSc共にCD4+ T細胞(Th)上のCXCR3,CTLA-4, IL-1R1の増加およびCD8+ T細胞(CTL)上のCD25, CXCR3, FasL, HLA-DRの増加が見られ、PMA, ionomycinで刺激したときCTL中granzyme B, FasL, IFN-γ mRNA量の増加が見られた。また、血漿中サイトカイン濃度を調べたところ、SILとSSc共に、IP-10, TNF-α, MCP-1, IL-1α濃度が高かった。以上のことから、珪肺症患者と全身性強皮症患者では共に、Treg・Th1・Th17関連表面分子発現量の増加、CTL機能の亢進、炎症性サイトカイン/ケモカイン血中濃度の増加が見られ、多くの点で共通した免疫動態を示すことが分かった。その一方、SILとSScでは刺激後のTh機能に違いが見られ、前者ではTNF-αが後者ではIL-17 mRNA量が高く、両疾患ではTh機能に差違が有ることが分かった。珪肺患者の免疫機能は活性化した状態にあり自己免疫疾患の素因となっている可能性が示唆される。
  • 黒田 悦史
    セッションID: S19-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     アレルギー性疾患の増加は社会問題の一つとなっており、その原因の解明と効果的な治療法の開発が急務とされている。アレルギー性疾患の増加の要因としては、アレルゲンの増加、感染症の減少(衛生仮説)、食生活の変化、生活環境における化学物質の増加などが考えられている。化学物質の増加に関しては,産業の発達とともに産出されてきた様々な微小粒子状物質のアレルギー性疾患への関与が示唆されており、さらに最近では微小粒子状物質の一つであるParticulate Matter 2.5(PM2.5)が健康被害を引き起こすとしてその影響が懸念されている。粒子状物質はアレルゲンとは異なり、それ自身は抗原とはならない。しかしながら粒子状物質を抗原とともに感作することで、その抗原に対する免疫応答を増強させるアジュバント効果を有することが知られている。興味深いことに、粒子状物質の多くがアレルギー反応の原因となるTh2型免疫反応を誘導することが報告されており、粒子状物質によるTh2アジュバント効果と近年のアレルギー性疾患の増加との関連が示唆されている。しかしながら、粒子状物質がどのような機構で免疫反応を活性化し、Th2型免疫反応を誘導するかについては明らかにされていない。
     我々は、粒子状物質をマウスの肺に注入することで誘発される免疫反応について解析を行っており、粒子状物質によってダメージを受けた細胞から遊離される内因性アジュバント、すなわちダメージ関連分子パターン(DAMPs)が抗原特異的なIgEの誘導に重要であることを見いだした。本シンポジウムでは、DAMPsに焦点をあて、粒子状物質によって活性化されるTh2型免疫応答のメカニズムについて紹介したい。
  • 小池 英子, 柳澤 利枝, 高野 裕久
    セッションID: S19-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     生活環境中には、大気汚染物質や、建材・日用品等に由来する室内汚染物質、食品添加物、農薬など、実に様々な化学物質が存在している。これらの環境化学物質は、近年のアレルギー疾患増加との関連性が懸念されることから、その影響と作用機序を明らかにする必要がある。我々はこれまでに、様々な環境化学物質を対象とした実験を行い、ある種の環境化学物質が、Th2応答の亢進を介してアレルギー性喘息やアトピー性皮膚炎の病態や炎症反応を悪化させること、その機序として、炎症局所やリンパ組織における抗原提示細胞の活性化の重要性を指摘してきた。
     例えば、プラスチックの可塑剤として汎用されているフタル酸エステルや、大気汚染物質として知られるベンゾ[a]ピレンの曝露は、アトピー性皮膚炎を悪化させるが、そのマウスの所属リンパ節において、樹状細胞を始めとする抗原提示細胞とT細胞の増加および活性化を認めた。また、in vitroにおいて、マウスの脾細胞からT細胞と抗原提示細胞(B細胞、樹状細胞、マクロファージ)を分離し、各細胞種に対する環境化学物質の影響を解析した結果、T細胞に対する直接的な影響は低いが、抗原提示細胞からの刺激が存在する場合には、IL-2産生を増加させ、T細胞の活性化を促進することを見出した。さらに、骨髄由来樹状細胞を用いた検討では、これらの環境化学物質が、樹状細胞サブセットに影響を及ぼす可能性を見出した。
     環境化学物質の標的細胞は物質により異なる可能性があるが、総じて、免疫・アレルギー反応の増悪には、抗原提示細胞によるT細胞への抗原提示の経路に対する修飾が重要な役割を果たしていると考えらえる。本講演では、このような環境化学物質による免疫担当細胞の機能修飾について紹介する。
  • 中村 亮介
    セッションID: S19-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    即時型(I型)アレルギー反応は、IgEを介するマスト細胞の活性化を引き金とする有害な免疫反応であり、学校給食での誤食事故やいわゆる「茶のしずく石鹸」の問題など、しばしば社会問題となることがある。IgEはマスト細胞が発現する高親和性IgE受容体(FcεRI)に結合してこれを感作し、さらに多価のエピトープを持つ特異抗原が複数のIgEを架橋することにより細胞を活性化し、脱顆粒やサイトカイン産生などを誘導する。In vitroのアレルギー試験法は、固相化した抗原とIgEとの結合性を二次抗体を用いて定量する免疫化学的手法が一般的である。しかし、この場合はIgEの架橋を必ずしも反映できていることにはならず、アレルゲン性を過剰に見積もってしまう危険性をはらんでいた。
    我々は最近、ラット培養マスト細胞株にヒトのFcεRI遺伝子とNF-AT依存的にルシフェラーゼを発現するレポーター遺伝子とを安定的に組み込んだ細胞株(RS-ATL8細胞)を作製した。この細胞は、内在性のラットFcεRIも発現しているため、ヒト・ラット・マウス等のIgEにより感作することができ、特異抗原の添加によるIgEの架橋を介した細胞の活性化をルシフェラーゼアッセイによって簡便かつ高感度に検出することができる。我々はこの手法を、IgE Crosslinking-induced Luciferase Expression(EXiLE)法と名づけた。
    卵白アレルギー患者血清を用いてEXiLE法と従来の脱顆粒測定法とを比較したところ、後者はバックグラウンドが問題となり、抗体価の低い患者血清の測定が困難であった。また、マウス抗オボアルブミン(OVA)IgE抗体を用いてELISA法との比較を行なうと、固相化したOVAと液相中のOVAには明瞭な応答性の違いが認められた。さらに、茶のしずく石鹸に感作された患者血清を用いた解析では、経口摂取した小麦グルテンの代謝過程を追った抗原性の変化について解析することに成功した。当日は、EXiLE法のさらなる応用についても考えてみたい。
  • 山浦 克典
    セッションID: S19-5
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎をはじめとする慢性掻痒性皮膚疾患の治療において、第一選択薬として広く使用されている。我々はこれまで、慢性掻痒性皮膚炎マウスに対する長期ステロイド外用療法が、掻痒の増悪を誘発する事を報告してきた。ステロイド外用薬は相対的効力により5段階に分類され、患者の重症度に応じた効力のステロイドを選択する為、患者により適用されるステロイドのクラスは異なる。我々は、BALB/c系マウス耳介に2,4,6-trinitro-1-chlorobenzene (TNCB)を5週間反復塗布することで慢性掻痒性皮膚炎モデルを作成した。デキサメタゾン (DEX: mediumクラス)、プレドニゾロン (PSL: weakクラス)および吉草酸ベタメタゾン (BMV: strongクラス)は、いずれも長期塗布により本モデルの掻痒反応を同程度に増悪さたことから、本現象はステロイドの効力クラスに依存しないことを明らかにした。我々は、本掻痒増悪機序解明の一環として、マスト細胞由来の内因性掻痒抑制因子であるPGD2の生合成酵素であるH-PGDSについて耳介組織中のmRNA発現量を検討した。その結果、H-PGDS mRNA発現は皮膚炎マウスで顕著に亢進しているものの、いずれのステロイドも効力クラスに関らず同程度に抑制することを明らかにした。このことから、長期ステロイド外用療法が誘発する掻痒亢進は、H-PGDS抑制によるPGD2産生低下に伴い抑制性の掻痒調節能が低下し、その結果掻痒反応が亢進している可能性が示唆された。さらに我々は、長期ステロイド外用療法に伴う掻痒症状増悪を特徴とする皮膚毒性を、ヒスタミンH4受容体拮抗薬が軽減し得ることを見出した。ステロイド外用による掻痒誘発機序の詳細を解明する事で、より安全な長期ステロイド外用治療の確立が期待される。
  • Mitchell D. COHEN
    セッションID: S19-6
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    The Immunotoxicology Specialty Section of the Society of Toxicology (SOT) celebrated its 50th Anniversary in 2011. At the time the IMTOX SS - as well as the field of Immunotoxicology - was established by its pioneers Drs. Jack Dean, Al Munson, Mike Luster, and Jeff Vos, research focused primarily on gaining an understanding of which occupational/envi- ronmental agents might impact on the immune system and establishing guidelines (i.e., the Tier I/II system) to standardize analyses of these effects. Soon thereafter, with growing numbers of investigators entering the field, the focus of much immunotoxicology research shifted to defining mechanisms of toxicity for these agents. With time and increasing innovations in technology, research into induced alterations of immune cell-cell interactions and changes in immune cell signaling pathways/molecular integrity moved to the forefront. As with many strong research fields, immunotoxicology became a tree with many roots reaching into other areas of scientific study. In part, this was because changes in immune function/components impact on many other organ systems/bio-processes apart from altering host immunocompetence. Novel studies being performed by up-and-coming immunotoxicologists around the world now cross into areas including Developmental, Neurologic, Reproductive, Ocular, and Cardiovascular Toxicology. Indeed, immunotoxicology is also an important aspect of research in the novel fields of Nanotoxicology, Stem Cell Biology, Drug Discovery, and Biotech- nology. Following up on the previous presentations in this forum, this talk will introduce JSOT attendees to some of the investigations being performed by the next generation of Immunotoxicology researchers in the US/Europe.
シンポジウム 20 医薬品開発におけるNon-CYP 薬物代謝酵素の理解と実践
  • 横井 毅
    セッションID: S20-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     医薬品開発においてヒトPKを予測するために必要な要素は代謝クリアランスの予測である。約80%の医薬品の代謝にチトクロームP450(CYP)が関与しているために、ヒトCYPが関与する代謝クリアランスの予測は、近年経験則やin vivoin vitroのモデルに基づき、予測性が向上したために、CYPによる代謝が問題となる事例が著しく減少してきた。近年、CYPによる代謝を受け難く、代謝的に安定な候補化合物が選ばれる傾向になって来た。しかし、予期せぬnon-CYP代謝酵素による代謝を受けることによって、高クリアランスや低バイオアベイラビリティを示す事例が報告されるようになって来た。Non-CYP代謝を検討する場合には、関与する酵素の同定から始める必要がある。さらに、同定した酵素が、CYPと同様な代謝安定性試験が適用できないことや、種差の程度や薬物相互作用の情報が極めて少ない場合も有る。さらに、ヒトにおける遺伝子多型の種類とその活性への影響も気になる点であり、ヒトクリアランス予測の精度がどの程度であるかなど不明な点が多い。講演では、本シンポジウムの企画の背景として、様々な第I相および第II相のnon-CYP代謝酵素を紹介し、現状を概説する。
  • 藤原 亮一
    セッションID: S20-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     薬物は多くの場合、肝臓に発現する薬物代謝酵素によって代謝されるが、代謝反応により強い毒性を有する反応性代謝物が生じる場合もある。薬物のカルボン酸基がグルクロン酸抱合を受けて生成するアシルグルクロニドは特に不安定な反応性代謝物であることから、UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)が触媒するグルクロン酸抱合反応は薬物誘導性の毒性発現に深く関与している。ヒトにおいて認められる薬物誘導性肝障害の多くはアシルグルクロニドをはじめとする反応性代謝物によるものであると考えられており、その毒性発現を回避するため、ヒトにおける薬物のグルクロン酸抱合の正確な予測や毒性発現メカニズムの解明が急務となっている。UGTは腸や腎臓、肺など様々な肝外組織にも多く発現していることから、肝以外の薬物誘導性障害に関与することが考えられる。
     皮膚は紫外線や細菌・ウイルスなど様々な外部からの刺激や感染源から生体を守る生体防御システムの最前線に位置する組織である。皮膚は体重の約8%を占め、肝臓に次いで2番目に多い全血液の1/3が循環している組織である。一方、皮膚はスティーブンスジョンソン症候群や乾癬をはじめとする、様々な薬物由来の副作用発現部位でもあり、皮膚にUGTなどの薬物代謝酵素が発現する場合は、それらは皮膚細胞内における薬物や反応性代謝物の濃度に影響を及ぼし、薬物誘導性皮膚疾患の発症に関係している可能性が考えられる。しかし皮膚におけるUGTの発現や機能は現在までに明らかにされていない。
     本シンポジウムでは、アシルグルクロニドによる肝毒性発現メカニズムに関する現在までの研究状況について概説した後、ヒト化UGT1(Human UGT1+/Mouse Ugt1-/-)マウスを用いたヒトにおける薬物のアシルグルクロン酸抱合反応や毒性発現の予測、また皮膚におけるUGTの発現と薬物誘導性皮膚疾患への関与について紹介する。
  • 石塚 智子, 藤森 いづみ, 吉ヶ江 泰志, 久保田 一石, Veronika ROZEHNAL, 村山 宣之, 泉 高司
    セッションID: S20-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    活性を有する親化合物の化学修飾によりADME特性の改善や毒性の軽減を可能とするプロドラッグ化では、活性体を生成する代謝活性化酵素の理解がプロドラッグの薬効や安全な臨床使用に重要な意味を持つ。代謝活性化酵素の個体差や薬物間相互作用による活性低下は薬効の減弱あるいは欠落を招き、さらにはプロドラッグ体の曝露上昇による予期せぬ毒性発現を引き起こす可能性がある。
    演者らは、プロドラッグタイプのアンジオテンシン受容体拮抗薬であるオルメサルタンメドキソミル(OM)の代謝活性化酵素として、当時機能未知であったヒト加水分解酵素カルボキシメチレンブテノリダーゼ(CMBL)を同定した(Ishizuka et al., J Biol Chem 285:11892-11902, 2010)。哺乳類細胞に発現させたヒトCMBLは、代表的な加水分解酵素であるカルボキシルエステラーゼやコリンエステラーゼと異なる基質特異性や阻害剤感受性を示した。本発表では、CMBLのヒト肝臓および小腸中の個体差や非臨床試験動物の選択に重要な種差など、基礎的な酵素特性を併せて紹介する(Ishizuka et al., Drug Metab Dispos 41:1156-1162, 2013; 41:1888-1895, 2013)。ヒト小腸サイトソルのin vitro代謝クリアランスから、経口投与されたOMは吸収過程でそのほとんどが小腸CMBLにより活性体に変換されると考えられる。小腸で代謝活性化を受けるプロドラッグには、代謝活性化の副産物であるプロドラッグフラグメント(OMではジアセチル及びその代謝物が生成する)の循環血中での不要な曝露を避けられるという利点がある。加えて、ヒト血漿中の酵素パラオキソナーゼ1も非常に高いOM加水分解活性を有しており、このプロドラッグの完全な代謝活性化に寄与している。複数の酵素の関与により、いずれかの酵素に活性変動があったとしてもOMの代謝活性化は大きく影響を受けないものと考えられた。
  • 深見 達基
    セッションID: S20-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    臨床で使用されている薬の約10%は加水分解されることで毒性を発揮する場合もある。このように加水分解反応は薬物動態のみならず毒性学においても重要であるにも関わらず、その反応を担う酵素の研究はシトクロムP450やグルクロン酸転移酵素に比べ遅れている。最も研究がなされている酵素はカルボキシルエステラーゼ(CES)であり、多くの薬の加水分解に関与するためプロドラッグの標的酵素として利用される。加水分解を受けて毒性が引き起こされることが示唆されている薬の中にはCESにより加水分解されないものが多く存在する。フルタミドとケトコナゾールは肝障害を稀に引き起こし、フェナセチンはメトヘモグロビン血症や腎障害を理由に市場から撤退しているが、これらの薬の加水分解にはアリルアセタミドデアセチラーゼ(AADAC)が関与することを明らかにしてきた。AADACはCESと比較してエステル結合およびアミド結合のアシル基側の嵩が小さい化合物を基質とする傾向が認められたため、医薬品開発時にAADACの基質となるかどうか予測することが化学構造より可能である。カルボン酸を有する薬は生体内でアシルグルクロニドに代謝されるが、アシルグルクロニドは反応性が高いことからアナフィラキシーや肝障害等の毒性を引き起こすことが示唆されている。アシルグルクロニドはエステル結合を有するため加水分解を受けて親薬物へ戻ることが知られている。ミコフェノール酸アシルグルクロニドを加水分解する酵素としてα/βヒドロラーゼドメインコンテイニング10 (ABHD10)をヒト肝臓より同定し、アシルグルクロニドの毒性に対して抑制的に働く可能性を示した。ABHD10は毒性が副作用として知られているプロベネシドやトルメチンのアシルグルクロニドも加水分解した。以上のように、様々な加水分解酵素が薬の毒性に関与することを明らかにしてきた。
  • 佐能 正剛, 田山 剛崇, 杉原 数美, 北村 繁幸, Mineko TERAO, Enrico GARATTINI, 太田 茂
    セッションID: S20-5
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    アルデヒドオキシダーゼ(AO)は、Fe-Sクラスターを含むドメイン、FAD結合ドメインおよび基質結合サイトとモリブデンコファクターを持つドメインからなる約150kDaのサブユニットのホモ2量体で構成される。これは、レチナールアルデヒドやN-ニコチンアミドを基質にすることが知られているが、生理学的機構についてまだ不明な点も多い。
    AOは、アルデヒドを有する化合物のみならず含窒素ヘテロ芳香環を有する化合物も基質とするため、薬物代謝酵素として大きく寄与することが明らかとなっている。さらには、AO活性を阻害する医薬品も報告される。AOには、AOX1、AOX3、AOX3L1およびAOX4の4つの分子種が同定されており、その発現プロファイルに種差がある。近年、AO代謝が寄与する複数の医薬品候補化合物が薬物動態や毒性の観点から臨床開発の段階で中止となっている。このため、動物とヒトにおけるAO代謝の種差を克服したAO代謝を予測できる評価系が求められている。
    我々は、活性種差の要因を明確にするため、ヒトやマウスの肝臓に発現するAOX1やAOX3に対する医薬品の基質特異性を精査している。さらには、マウスの肝臓がヒトの肝細胞に置換されたヒト肝細胞移植キメラマウスがその予測アプローチの1つとしての有用性を見出してきた。ヒト肝細胞移植キメラマウスの肝臓は、ヒト型のAOX1が発現しており、AOで代謝される医薬品のヒト肝細胞移植キメラマウスにおける代謝プロファイルはヒトと類似していた。また、薬物動態パラメータの予測も可能であることが示唆された。
    AOの代謝物による毒性や化学物質も代謝にもAOが寄与する報告もあり、毒性発現との関連性も考慮する必要がある。AOの代謝活性には種差のみならず個体差があることも分かっていることから、ヒトにおけるAOの薬物代謝の寄与を考慮する重要性はさらに高まってきている。
  • 藤田 和浩, 大橋 塁, 細木 淳, 前田 宏, 田代 智, 布施 英一, 桒原 隆
    セッションID: S20-6
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    弊社における低分子化合物開発において、CYPによる代謝が原因となる低バイオアベイラビリティーや薬物間相互作用を起こすような化合物を過去に経験したことから、スクリーニング段階でヒト肝ミクロソームを用いたCYP代謝安定性を中心に評価してきた。Fms-like Tyrosine kinase 3(FLT3)阻害薬のランダムスクリーニングにおいて見出されたリード化合物の代謝安定性を評価したとき、マウス肝ミクロソームにおける代謝固有クリアランスが大きく、マウスでは低曝露であった。マウスを用いて薬効評価化合物を絞込む必要があったことから、マウスとヒト肝ミクロソームを用いて代謝安定性評価を行い、リード化合物より代謝的に安定な化合物の取得を目指した。両ミクロソームにおいて代謝的に安定な化合物はマウスやラットで良好なBAを示し、そのうちin vivoで強薬理活性を示す化合物が開発候補として選択された。高次評価として肝細胞を用いて肝クリアランス予測を行ったところ、ラットでは肝細胞からの予測値がin vivo実測値を反映していたものの、サルでは実測値が予測値と大きく乖離し、実測値は肝血流量を超えていた。更にヒト肝細胞による肝クリアランス予測値から、ヒトでも高クリアランスとなることが懸念された。詳細に検討したところ、サルとヒトの主代謝経路はマウスやラットとは異なり、主にMonoamine oxidase B(MAO-B)及びAldehyde oxidase(AOX)により代謝されることが見出された。さらにこれら代謝酵素による代謝中間体は反応性代謝物である可能性が示唆され、代謝中間体が血漿蛋白に結合することやAOXを不可逆的に阻害することが確認された。このように、肝MsによるCYPの代謝安定性を指標に化合物を選択する場合、Non-CYP代謝を見落とすことがあり、薬物動態や安全性上の問題につながる可能性がある。本発表ではこの化合物において見出された問題やその回避方法について共有したい。
シンポジウム 21 リプロダクティブヘルスからみた遅発影響 -生殖発生毒性試験から捉えられない指標-
  • 吉田 緑
    セッションID: S21-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     高度な情報ネットワークを発育分化に必要とする生体では、生理活性物質が臨界期と呼ばれる成育の適切な時期に限定して作用し正常発達が遂げられる。臨界期は外因性の化学物質に対しても高い感受性を有し不可逆的障害をもたらす。さらに重大な懸念は、条件によりこの不可逆的障害が、成熟後の繁殖機能低下や発がん感受性増加など遅発型影響として、リプロダクティブヘルスまで影響を及ぼす点である。実験的にも再現されたDES daughterの不幸な事例は、障害発現時期と臨界期の乖離、即ち遅発型影響を示している(Newbold et al.1982)。我々はエストロゲン物質の臨界期曝露により遅発影響が用量依存性に発現し、低用量では現行の生殖発生毒性試験の観察期間では検出できないことを報告した(Shirota et al., 2012; Takahashi et al., 2013)。近年発見された視床下部のキスペプチンニューロンは、エストロゲン受容体を有し且つGnRHニューロンの上位に存在し、前方でサージ制御、後方でパルス制御と部位特異的な作用を示すことから、雌の生殖機能の核として最も注目されている。遅発影響の発現機序にも、視床下部におけるキスペプチンニューロンの部位特異性が大きく関与している可能性が大きい。本シンポジウムでは、キスペプチンニューロン研究では世界の先端を担っている名古屋大学の束村先生により、リプロダクティブヘルスにおけるキスペプチンの重要性について基本解説を頂き、続いて遅発影響研究を精力的に続けている2名の研究者より、遅発影響の機序がどこまで解明されたのか最近の知見の発表をお願いする。また本シンポジウムの最後に、本研究を化学物質による遅発影響の検出にどのように生かすことが出来るのか提案をしたいと考えている。
  • 束村 博子
    セッションID: S21-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     キスペプチンは、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)放出を直接刺激し、性成熟や成熟個体における生殖機能維持に中心的な役割をもつことから、生殖科学分野で大きな注目を集めている。ほ乳類の脳のデフォルトは雌型であり、げっ歯類の場合、新生児期のアンドロジェンが脳内でエストロジェンへと芳香化されて作用し、性行動やGnRH/黄体形成ホルモン(LH)サージ中枢が脱雌性化する。
     ラットの脳において、キスペプチンニューロン細胞体の分布には雌雄差がある。雌ラットでは、前腹側室周囲核(AVPV)および視床下部室傍核(ARC)にキスペプチンニューロンの細胞体が存在する。雌ラットのAVPVにおけるキスペプチン発現はエストロジェンによって著しく増加するが、雄ではキスペプチン発現が殆ど認められない。発達期の雌ラットへのステロイド感作により、AVPVのキスペプチン発現が消失する。一方で、新生児期に精巣除去された雄ラットでは、成熟後に高濃度のエストロジェンを投与すると、AVPVのキスペプチン発現増加やLHサージが認められることことから、AVPVのキスペプチンニューロンはGnRH/LHサージの制御を通じて排卵を制御する中枢であると考えられ、発達期の性ステロイド環境の違いがAVPVキスペプチンニューロンの雌雄差をもたらし、その後の排卵中枢の性分化を支配すると考えられる。一方、ARCのキスペプチンニューロンには雌雄差が認められず、GnRH/LHの基底分泌、すなわちGnRH/LHパルスを第一義的に支配しており、ステロイドによるネガティブフィードバックのターゲットであると考えられる。本講演では、キスペプチンの生理作用とそのエピジェネティックな制御機構も含めて議論する。本研究は農水省「家畜ゲノムプロ」の一部として実施した。
  • 高橋 美和
    セッションID: S21-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     脳の性分化の臨界期は、ラットの場合出生前後5日頃といわれており、この時期に高用量のエストロゲンに曝露されると、即時型影響として発達期から雄化現象が認められる。一方、比較的低用量のエストロゲンに曝露された場合、その影響がすぐ現れず、性成熟以降に持続発情(排卵停止)や子宮発がんリスクの増加などの作用が遅発性影響として発現する。我々は現在、遅発性影響の発現機序や早期指標の確立を目指して研究を行っており、これまでに得られている結果について紹介する。
     持続発情は無処置動物においても加齢に伴い自然に増加するが、新生児期にエストロゲン曝露を受けた動物では、その発生が用量依存性に早期化するのが特徴である。エストロゲン受容体(ER)βアゴニストでは排卵停止の早期化が認められないことから、ERαの関与が示唆され、閾値の存在も確認されている。性周期は経時的変化および用量依存性を明確に示す有用な指標であり、排卵停止の早期化は新生児期エストロゲン曝露で生じる様々な影響のうち最も重要な変化である。
     卵巣の発育や形態、下垂体ホルモンに大きな異常が認められないことから、排卵停止の早期化を起こす主な原因は排卵を制御する視床下部にあると推測された。そこで、視床下部において様々な生殖機能制御に関わるキスぺプチンと遅発性影響との関連について検討を行っている。キスペプチンニューロンは前腹側周囲核(AVPV)および弓状核 (ARC)に局在し、AVPVはLHサージの誘発を介して排卵を制御する。新生児期にエストロゲン曝露を受けた雌ラットでは、正常に性周期が回帰している個体でもAVPVにおけるKiss1 mRNAの発現低下やLHサージの減弱などが認められ、排卵誘起機能が低下している可能性が見出された。したがって、新生児期のエストロゲン曝露により視床下部の神経内分泌機構が変化し、その機能異常が性成熟後に顕在化することが遅発性影響の発現機序であると考えられた。
  • 代田 眞理子, 川嶋 潤, 森 雅史, 立河 紗紀, 菅田 恵理世
    セッションID: S21-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    性ステロイドは、性腺機能の変動を視床下部/下垂体へと伝達する情報担体として、また、性腺刺激ホルモン(GTH)分泌パターンの性的二型性を決定するkey moleculeとして、生殖寿命の全期間を通してリプロダクティブヘルスに影響を及ぼしている。げっ歯類では、脳内で生成されるエストロゲンが性的二型性成立のkey moleculeと考えられ、この時期の雌に薬理学的用量のエストロゲンを投与すると、雄型に分化してGTHサージを欠き、性成熟期に至っても排卵が認められない。生理的レベルのエストラジオールと同等以下の血中濃度になる用量のエチニルエストラジオール(EE)を新生雌ラットに投与すると、性周期回帰停止、卵巣での嚢胞状卵胞形成、ならびに乳腺の過形成などの遅発影響が認められる。EEの用量が低いと、遅発影響の出現がさらに遅れることなどから、生殖発生毒性試験だけで遅発影響を評価するのは容易ではないため、実践的な検出方法が求められる。そこでまず、EEの用量と負あるいは正の反応関係が認められている性周期回帰停止までの期間あるいは嚢胞状卵胞の形成率を指標に、遅発影響の感受期および投与方法による影響の差異を検討した。その結果、遅発影響の感受期は少なくとも生後7日まで続くが若齢ほど感受性が高いこと、ならびに生後1日の単回投与と比べて生後1日から5日間の反復投与は初回排卵にも影響を及ぼすことが明らかになった。さらに低用量のEEを反復経口投与すると、子宮肥大試験で影響が認められない用量では性周期に明瞭な影響を及ぼさないものの、嚢胞状卵胞形成率を増加させることが明らかになった。嚢胞状卵胞形成のメカニズム解明は今後の課題であるが、投与後の血中EE濃度測定から、わずかなエストロゲン作用が遅発影響を惹起しリプロダクティブヘルスに影響を及ぼすことが示唆された。
ミニシンポジウム 1 次世代が切り開く胎生期,発達期毒性研究
  • 武田 知起, 藤井 美彩紀, 山田 英之
    セッションID: MS1-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     環境中には多くの内分泌撹乱物質が混在しており、ヒトを含めた生態系に対する悪影響が危惧されている。特に、妊娠・授乳期曝露による出生児の発達毒性は、発現に要する用量が少なく世代を越えて影響が及ぶため、障害の実態把握ならびに発生機構の解明は喫緊の課題である。胎児/発達期は、ホルモンをはじめとする様々な生理活性物質群の刺激によって組織の分化や発達が起こる。従って、内分泌撹乱物質はこれらのホルモン作用を発達期に撹乱することで分化・発達を破綻させ、障害をインプリントする危険性が推定される。我々はこれを検証するため、内分泌撹乱物質の一種であるダイオキシンの妊娠期曝露が発達児の内分泌に及ぼす影響に注目し、ラットを用いた研究を展開してきた。種々の検討の結果、ダイオキシンが周産期特異的に児の脳下垂体ゴナドトロピン合成を障害し、これを起点として生殖腺のステロイド合成を抑制することを突き止めた。さらに、ダイオキシン曝露胎児にゴナドトロピンを補給することによって、成長後の交尾行動障害がほぼ正常水準にまで改善する事実から、出生前後のゴナドトロピン低下を端緒として成長後の性未成熟が固着されることが実証された。また最近に行った DNA マイクロアレイ等による詳細な解析の結果、発達過程における視床下部のゴナドトロピン放出ホルモンの合成/分泌失調の定着が、胎児期のゴナドトロピン合成障害を介する性未成熟インプリンティングの機構の一端を担うことも見出された。
     本講演では、上記のダイオキシン妊娠期曝露による出生児の性未成熟がインプリントされる機構に関する我々のこれまでの知見を紹介し、発達期毒性研究の重要性、課題および展望等について議論を深めたい。
  • 林 由美, 伊藤 由起, 那須 民江
    セッションID: MS1-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     近年、胎生期環境が成長後の健康に影響を与えるという考え方が広まり、妊娠期の化学物質曝露を評価することが重要な課題となっている。我々は妊娠期プラスチック可塑剤であるフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)曝露による次世代影響について研究を行ってきた。妊娠期DEHP曝露は、胎仔・新生仔マウスの生存数を減少させ、母親の血漿中トリグリセライドや脂肪酸を減少させた。また、核内受容体であるペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体(PPAR)αノックアウトマウスではこれらの影響が見られておらず、PPARαを介して胎仔・新生仔へ影響を与えたと推察された。
     一方、母親の低栄養と次世代の疾病との関連についても注目を集めている。これまでに疫学調査や動物実験が行われているが、その多くが飢餓や摂食調節による食事由来の低栄養である。妊娠期DEHP曝露は母親の脂質濃度低下という低栄養状態を引き起こすことから、この胎生期低栄養環境が成長後に与える影響について検討した。妊娠期DEHP曝露は離乳期から成熟期にかけて摂餌量を増加させた。また、摂食調節に関わるレプチン濃度が血漿中で減少しており、これが摂餌量増加に関与していることが示唆された。PPARαノックアウトマウスは摂餌量、レプチンともに変化が見られず、DEHP曝露による胎生期低栄養にはPPARαが重要な役割を担っていると考えられた。
     以上の結果から、妊娠期DEHP曝露は母親の低栄養を引き起こし、胎仔・新生仔の生存数を減少させ、また成長後の摂食行動を亢進させた。この状態が続くと肥満をはじめとする様々な疾患へと進展する可能性がある。すなわち、化学物質曝露による胎生期低栄養は成長後の疾病リスクを高める可能性が示唆された。現在、日本において子どもの健康や成長に関わる環境要因について明らかにするための大規模な疫学調査が始まっており、この疫学調査と動物実験が今後のヒトの健康へとつながっていくかもしれない。
  • 辻 真弓, 川本 俊弘, Fumio MATSUMURA
    セッションID: MS1-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】乳幼児のアレルギー疾患の罹患者数の増加には環境中の有害物に対する小児の脆弱性が大きく関与していると考えられている。しかしながらアレルギー発症・増悪に関与する遺伝因子や環境因子、詳細な発症機序については未だ不明な点が多く、新性児・乳幼児を含む小児を対象とした研究が国内外で求められている。よって我々は小児のアレルギー性疾患に関与する因子の関係を明らかにし、関連するバイオマーカーを探索する目的で分子疫学的研究を開始した。
    【方法】2009年~2010年に乳幼児203名をリクルートし、質問票調査(既往歴、喫煙歴、住所等)並びに血液を採取した。血液を用いて食物・吸入抗原特異的IgE抗体値、炎症性サイトカインのmRNA発現量の測定を行った。さらに203名中、喘息児15名、健常児15名の計30名(平均月齢 22.7ヶ月)を抽出し、PCB異性体濃度を測定した。
    【結果1】喘息児においてのみIL-8 mRNA発現量と一部のPCB異性体 (#163+164、#170、#177、#178、#180+193) 濃度との間に濃度依存的な関係が有意に認められた。
    【結果2】幹線道路から50m以上離れた場所に住んでいる児と50m以内に住む児を比較した場合、50m以内に住む児のIL-22 mRNA発現量は有意に高い値を示し、特にこの傾向は食物抗原特異的IgE抗体陽性群において強く認められた。また高PCB濃度群において、食物抗原、特に牛乳特異的IgE抗体陽性者の方がIL-22 mRNA発現量が有意に高く認められた。
    【結論】乳幼児と環境因子曝露を推測するバイオマーカーとしてIL-8, 22が有効で、特にアレルギー児において両者はよりsensitiveなバイオマーカーとなりうる可能性を示唆した。
     現在これらの研究結果を確認し、メカニズムを明らかにするためのin vitro、in vivo実験を国内外の研究者と共同で行っている。
  • 伊藤 直樹
    セッションID: MS1-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     「妊婦・授乳婦の健康問題は、確証のない理論や時代錯誤の認識で、軽視されるべきではない」。妊娠と薬情報センターは、こうした理念を持つトロント小児病院臨床薬理・中毒学教室におけるマザーリスクプログラムと提携し、2005年から厚生労働省安全対策課の事業として開始された。疫学研究報告をもとにエビデンスに基づく妊婦・授乳婦への情報提供を行うだけでなく、国内におけるデータベース構築や、将来的な日本から世界への情報発信を主な業務としている。専属の医師および薬剤師が実務にあたるとともに、全国24の拠点病院とも情報を共有しながら、毎月200件前後の問い合わせに対して電話や対面での情報提供を行っている。
     開設以来、実際の相談役剤の43%を精神科系薬物が占め、エチゾラム、パロキセチン、アルプラゾラム、フルボキサミンなど、問合わせの多い上記10薬物のうち7つが精神科系薬物である。精神疾患合併妊婦・授乳婦においては、たとえば未治療の妊娠うつ病と産褥うつ病との関連性、さらには出産後の育児困難や乳児殺害事例など、こどもの健康は母親の健康状態に大きく依存する。当日は、ここ数年で話題となっている妊娠中のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)と先天性心疾患や新生児遷延性肺高血圧症、さらには自閉症との関連性など、臨床における現時点での考え方などを示す。さらに授乳中の精神疾患と服薬に関して、自験例をもとに紹介したい。
     サリドマイドの悲劇から半世紀経過した近年、標的蛋白が同定され、ようやくその発症機序が明らかになりはじめた。妊娠と薬情報センターとしても、世界中の奇形情報サービス(TIS: Teratology Information Services)と情報交換をしながら、数々の事例に関して正しいシグナルなのかノイズなのかを正しく見極め、未来への機序の解明に期待していきたい。
  • 根岸 隆之
    セッションID: MS1-5
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     近年、環境を汚染する化学物質がこどもの脳や行動の発達に与える影響に関心が集まっている。脳は胎生期・新生仔期にその器質的発達の大半を完了するため、化学物質曝露による影響は単に曝露時だけでなくその後に学習記憶障害や行動異常といった非可逆的な脳機能異常として現れる可能性が危惧されるからである。これまでにマウス・ラットを用いた発達神経毒性研究からビスフェノールA(BPA)等いくつかの化学物質についてその発達期、特に胎生期曝露が脳の器質的発達および生後の脳機能に影響を与え得ることが報告されている。ここではカニクイザルを用いた化学物質の発達神経毒性評価を2例紹介したい。一つ目として胎生期BPA曝露が生後の行動発達に与える影響を評価した。妊娠カニクイザルに皮下ポンプによりBPA(10 µg/kg/day)を曝露し、その仔ザルについて新生仔期には飼育ケージ内での母子行動を観察し、生後1歳および2歳時に2個体を一つのケージに入れることによって生じる社会的行動の観察(出合わせ試験)を行いBPA曝露の影響を評価した。母子行動および出合わせ試験においてBPA曝露オス仔ザルが見せる行動パターンは対照群のオス仔ザルのそれと有意に異なっており、対照群メス仔ザルのそれと似ていた。また対照群仔ザルでみられる行動パターンの性差がBPA曝露群仔ザルでは消失した。この結果は胎生期BPA曝露によるオスカニクイザルの行動学的脱雄性化を示唆している。次に脳発達に重要な役割を果たす甲状腺ホルモンの新生仔期における欠乏がカニクイザル脳発達に与える影響を分子生物学的および組織学的に評価した。メチマゾール誘発甲状腺ホルモン欠乏カニクイザルにおいて抑制性神経伝達システム発達の異常が確認された。カニクイザルは化学物質の発達神経毒性評価に利用し得る動物であり、ヒトにおけるリスク評価に有用な存在であると考えられる。
  • 梅澤 雅和, 菅又 昌雄, 武田 健
    セッションID: MS1-6
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     大気中の微小粒子PM2.5(粒子径2.5 µm以下の浮遊粒子状物質)は、現在においても有害な健康影響を及ぼす環境中高リスク物質の一つである。PM2.5の生殖発生毒性については、米国環境保護庁(EPA)が疫学研究レビュー(2009年)において “Suggestive”(可能性が示唆されるが因果関係は不明)と評価している。一方で2000年以降の研究報告により、PM2.5のうちでも特に微小な超微小粒子(UFPs: ultrafine particle、ナノ粒子)のハザードとして生殖発生毒性が指摘されている。ナノ粒子は主に粒子径0.01~0.1 µm以下の粒子を指すが、比表面積や比活性が大きく小さな質量で影響を及ぼすことや、超微小であるために独特の体内動態を示すことが知られている。しかし、現時点でナノ粒子の健康影響について疫学データは十分でなく、今後の研究の進展が待たれるところである。
     現在、ナノ粒子について次世代影響も含め、ヒト健康影響を予測できる実験評価系の構築が求められている。この評価系には、被検物質について未知の毒性も含めて短期間で理解できることが求められるであろう。ここで、被検物質の大量投与による急性的な反応を捉えるだけでは、短期間での影響評価はできても現実でのヒト健康影響を捉えられないのは言うまでもない。また、一般的な病理や血液生化学データだけでは、現実の曝露を反映した投与量による影響の短期間での評価ができないことも少なくない。そこで演者らは、遺伝子発現などの網羅的(オミクス)データから読み取れる機能的変化や、電子顕微鏡を用いて得られる超微細病理のデータから、種々の前病変からナノ粒子の次世代影響を予測することを目指してきた。
     本演題ではその研究成果を述べつつ、「発生毒性研究をどのようにヒト健康影響評価に結び付けるか」についての議論を促して本シンポジウムの総括をする。
ミニシンポジウム 2 新たな地球環境の汚染とリスクアセスメント
  • Alistair B. A. BOXALL
    セッションID: MS2-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    Pharmaceuticals play an important role in the maintenance of the health of humans and animals. Following use, human pharmaceuticals are excreted into the sewage system and can then pass through sewage treatment plants into surface waters. Veterinary pharmaceuticals can released into soils during the application of animal manures to land as a fertilizer. As pharmaceuticals are biologically active molecules, in recent years there has been increasing interest from scientists and the general public over the potential impacts of pharmaceuticals on aquatic organisms and on humans that consume drinking water containing pharmaceuticals. In this talk, I will use a range of case studies to illustrate: how pharmaceuticals move from humans and animals to surface waters, drinking water supplies and agricultural soils; the fate of these substances in soils, waters and sediments; and will discuss the implications of presence of pharmaceuticals in the environment ecological and human health. Major gaps in our current knowledge will be highlighted and solutions to minimise the impacts of pharmaceuticals on the environment will also be presented.
  • John P. GIESY
    セッションID: MS2-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    Hydroxylated polybrominated diphenyl ethers (OH-PBDEs), which have been detected in wildlife and humans, are of concern due to their greater toxicities relative to synthetic PBDEs. There is evidence suggesting that OH-PBDE’s are products of PBDE metabolism. However, laboratory exposure studies during which test animals were administered synthetic PBDEs (ug/g body weight) revealed formation of only trace amounts of OH-PBDEs (<0.01-1 % of PBDEs). We have demonstrated that Methoxylated PBDEs (MeO-PBDEs), which have been shown to be of natural origin, and not synthetic PBDE’s, appear to be the primary metabolic precursors of OH-PBDE’s. A LC-MS/MS method was developed to simultaneously quantify MeO-BDE and OH-PBDEs as well as potentially affected hormones (estrogens). The mechanism(s) of OH-PBDE formation was determined in hepatic microsomes. Phase I enzymes, notably CYP1A1 and CYP1A2, are at least partially responsible for conversion of MeO-PBDE’s to OH-PBDEs. To further elucidate this mechanism of action, pregnane-X-receptor (PXR) and aryl-hydrocarbon receptor (AhR) knock-down cell lines were developed to investigate the role of biotransformation enzymes under the control of each receptor. Because OH-PBDEs have been reported to affect concentrations of steroid and thyroid hormones, associations between concentrations of OH-PBDEs and the hormones E2, T3 and T4 in blood of Korean women as well as their foetuses were examined. Indeed. most of the OH-PBDEs measured in blood of Korean women was of natural origin. The naturally occurring 6-OH-BDE-47 was the only hydroxylated BDE detected. In addition, 6-OH-PBDE-47 was found to cross the placental barrier with concentrations being significantly greater in cord serum. The transport protein, transthyretin (TTR), may be responsible for the observed accumulation of OH-PBDEs in the developing foetus. There were no significant associations between concentrations of OH-PBDEs and hormone concentrations. Based on the results of controlled laboratory studies with animals, current concentrations of OH-PBDE-47 in blood of Korean women is approximately 4-fold less than the threshold for effects.
ミニシンポジウム 3 耐性の新たなメカニズム:農薬から抗がん剤、抗ウイルス薬まで
  • 冨田 隆史
    セッションID: MS3-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     殺虫剤抵抗性機構は,作用点の殺虫剤に対する感受性低下と解毒代謝の亢進に大別される。前者は,点突然変異などによる作用点の構造変化により生じることが多い。作用点をコードする遺伝子は,種を越えてもオーソロガスな関係が保たれている場合が多いため,たとえその配列が未知な種においても,相同性を利用した配列決定と変異の解析が容易に行える。ナトリウムチャネルとアセチルコリンエステラーゼの感受性低下変異のジェノタイピングは,主要媒介蚊種やイエバエなどの衛生害虫の薬剤抵抗性発達の監視に利用されている。一方,解毒代謝の亢進は,代謝酵素遺伝子の過剰転写またはDNA増幅による量的な変異によりもたらされることが多い。しかし,解毒代謝の亢進に係る分子と変異の特定は現在でも容易ではない。代謝抵抗性に係る分子は,シトクロムP450,グルタチオン転移酵素,エステラーゼ,ABCトランスポーターなど,多重遺伝子族の一員であることが多い。これらの遺伝子族では,分子進化速度が早く,重複・欠失が頻繁に生じることから,昆虫の種や属を超えると遺伝子間でオーソロガスな対応関係を見出すのが困難な場合が多い。過剰転写の遺伝的要因は,シス作用性変異のみにとどまらず,トランス作用性変異(転写調節タンパク質の発現に係る変異)の場合もある。ゲノムプロジェクトの成果が利用できる害虫種では,マイクロアレイ解析に基づき抵抗性系統で過剰発現性を示す候補遺伝子を挙げ,次いで抵抗性への遺伝的連関性と殺虫剤基質の代謝能を調べるという手順により,代謝抵抗性に係わる分子が特定されることが多かった。現在,次世代シークエンサーを用いる解析や人工ヌクレアーゼによる特異的ゲノム改変技術が普及しつつあることから,今後は,従来型ゲノムプロジェクトの選にもれていた害虫種でも,殺虫剤抵抗性に係る分子とその発現上の変異を解明する研究が進展するものと見込まれる。
  • 佐藤 彰彦
    セッションID: MS3-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     1988年に塩野義製薬 医科学研究所が発足し,抗ウイルス薬研究を開始した.抗HIV薬研究の中で,我々が見出し,臨床試験入りした化合物として,NNRTI(非核酸系逆転写酵素阻害剤)のS-1153(Capravirine)をはじめとして,多くのINI(インテグレース阻害剤)を見出した.
     抗HIV薬では,薬剤を長期に投与することから,薬剤耐性ウイルスの出現を克服することが最重要課題であり,耐性の出現メカニズムを詳細に研究し,その基礎研究を基にした創薬をすることが必要である.S-1153(Capravirine)の研究・開発時から,既存の抗HIV薬の耐性プロファイリングから,耐性ウイルスの克服を目標にした研究を続けてきた.我々は,安定して耐性ウイルスを分離する方法を見出し,このin vitroでの培養手法を用いることで,臨床試験と同じ耐性ウイルスが分離できることがわかった.
     この手法を用いて,薬剤耐性ウイルスの出現機構を考察したところ,耐性ウイルスの出現時期,頻度,変異部位は,ウイルスの変異率,変異ウイルスの増殖性,薬剤の抗ウイルス効果(選択性)に依存しており,薬剤濃度を高く維持できれば,耐性ウイルスの出現を抑えることができることを理論的に証明し,ウイルスの耐性出現をコントロールできるノウハウを習得した.この理論から,既存の耐性変異に対して活性が低下しない化合物を目標にして,多数の骨格をデザインし,長期培養しても高度耐性ウイルスが分離できない優れた特徴を持つ化合物群を見出した.
     我々は,抗インフルエンザウイルス薬の研究も進めてきており,インフルエンザウイルスのin vitro試験での耐性ウイルス出現過程は,HIVと同じ傾向であるが,急性感染症であるインフルエンザ感染の場合は,耐性ウイルスに対するin vitroとin vivo効果は,HIVとは異なり,必ずしも一致しないことがわかってきている.各ウイルスの耐性出現理論について紹介したい.
  • 樋田 京子
    セッションID: MS3-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     血管新生阻害療法は全てのがんに共通する血管新生を標的としているため, 多くの癌腫で抗癌剤との併用で治療効果が認められている. 長年,血管内皮細胞を標的とする血管新生阻害療法には薬剤抵抗性が生じないと信じられてきたが, 最近, これらに対しても薬剤抵抗性が生じることが報告されている.
    そのメカニズムとしては近年まで「腫瘍細胞による形質変化」が機序として考えられていた.
     これまでわれわれは腫瘍血管内皮細胞(Tumor endothelial cell: TEC)がgrowth factorや薬剤への感受性や遺伝子発現,増殖能,遊走能などが正常血管内皮(Normal endothelial cell: NEC)とは異なることを報告してきた. さらに,染色体異常が認められたことから,TECが遺伝子不安定性をもつ可能性が示唆された.最近,われわれはTECがNECに比較してMultidrug resistance gene-1 (MDR1) / p-glycoprotein (p-gp)の発現が高く,抗がん剤 paclitaxelに対して抵抗性があることを見出した.さらに,がん細胞由来VEGFによって,NECにおいてもp-gpの発現を伴う薬剤抵抗性が引き起こされることもわかった (Akiyama et a., Am J Pathol 2012) . in vivo 腫瘍モデルにおけるパクリタキセルによる治療実験の際にp-gpの阻害剤ベラパミルを併用するとパクリタキセルの治療効果が増強した.以上の結果より,TECの特性に着目することにより既存の薬剤を新しいがんの治療法に応用できることが示唆された.
     一方,われわれは転移能が異なる腫瘍由来の血管内皮細胞間においてTECの薬剤感受性も異なること,腫瘍の悪性度の違いによって, TECには多様な性質があることを見出している(Ohga et al., Am J Pathol 2012). このようなTECの多様性の理解が血管新生阻害療法の個別化治療への応用には重要と思われる.
ミニシンポジウム 4 次世代研究者セミナー -分子毒性学的アプローチと安全性評価-
  • 藤代 瞳, 姫野 誠一郎
    セッションID: MS4-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    腎臓、特に近位尿細管は医薬品や環境汚染物質の標的となるが、尿細管の部位(S1, S2, S3)によって物質の蓄積性や感受性が異なる。例えばシスプラチンは近位尿細管のS3領域を、カドミウム(Cd)はS1領域を障害するという報告があるが詳細は明らかになっていない。一方、私たちは、亜鉛輸送体のZIP8およびZIP14、2価鉄輸送体のDMT1等の金属輸送系がCdの細胞取り込みに関与していることを明らかにしてきた。Cdはメタロチオネイン(MT)との複合体として腎臓の糸球体で濾過された後、尿細管上皮細胞の管腔側膜を通ってエンドサイトーシスにより再吸収されると考えられている。そこで、私たちは実際の近位尿細管と似た環境を作るカップ培養系を用い、マウス腎臓近位尿細管不死化細胞の管腔側でのCd輸送を検討した。その結果、尿細管では、Cd-MTのエンドサイトーシスのみならず、ZIP8あるいはZIP14を介したCdイオンの取り込み系が存在すること、および、これら金属輸送体の発現がS1~S3で異なっていることを見出した。そこで、マウスの近位尿細管のS1, S2, S3それぞれの領域由来の細胞を入手し、性状解析を行った。まずこれらの細胞がtrans-wellでタイトジャンクションを形成し、カップ培養可能であることを確認した。この系で、S1, S2細胞に取り込まれたCdが管腔側に排泄されることを明らかにした。また、S3細胞がS1, S2細胞に比べてCdおよびMnに対して高感受性を示した。シスプラチンについてもS3細胞が高感受性を示した。今後、様々な腎毒性バイオマーカーの発現と管腔側への排泄を各部位ごとに細胞レベルで検討することにより、尿細管部位特異的毒性影響を評価することが期待できるのではないかと考えている。
  • 廣森 洋平, 中西 剛, 永瀬 久光
    セッションID: MS4-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     トリブチルスズ(TBT)、トリフェニルスズ(TPT)をはじめとする有機スズ化合物は、汚損付着生物の船底や漁網への固着を抑制する作用を有することから、船底塗料や漁網防汚剤をとして用いられてきた。しかし一部の腹足類の雌に対して雄性生殖器を発生させる内分泌撹乱作用(インポセックス)を示すことが知られており、脊椎動物に対しても様々な毒性を示すことが報告されている。しかしながら、詳細な作用メカニズムについては不明な点が多く残されている。
     近年になってTBT、TPTが核内受容体アゴニストとして作用することが明らかとなるとともに、peroxisome proliferator-activated receptor (PPAR) γとretinoid X receptor (RXR)という異なった2つの受容体に対してnMレベルの濃度でアゴニストとして機能する、既知のPPARγリガンドおよびRXRリガンドとは大きく異なる分子構造を持つ、という特異な性状を持つことが明らかとなった。
     本講演の前半では、有機スズ化合物が核内受容体アゴニストとしてどのような特徴を持つの明らかにする目的で、X線結晶構造解析およびレポーターアッセイにより有機スズ化合物とPPARγおよびRXRαとの結合様式の解明を行った内容について概説する。後半は、PPARγの慢性的な活性化が、胸腺を脂肪化・萎縮し加齢化を促進することが報告された事に着目し、TPTが胸腺の脂肪化・萎縮および免疫系に及ぼす影響について検討を行った内容を概説する。我々は、TPTがPPARγを介して胸腺の脂肪化・萎縮が促進することで、末梢においてリンパ球ポピュレーションを変化させ、免疫機能の加齢化を促進する可能性を見い出した。
     以上の事から、有機スズ化合物は核内受容体アゴニストとして機能することで、毒性を発現していることが明らかとなった。したがって、核内受容体に着目した検討を行うことで、有機スズ化合物の毒性発現メカニズムの一端を解明できるのではないかと考えられる。
  • 孫谷 弘明
    セッションID: MS4-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    2007年にヒトiPS細胞樹立が発表されて以降様々な大学・研究機関で活発な研究が行われ,再生医療の分野では昨年,理化学研究所が滲出型加齢黄斑変性に対する自家iPS細胞由来網膜色素上皮シート移植の臨床研究が開始されたことが記憶に新しい.iPS細胞は自己複製能により大量培養を可能とし,多能性分化能により多種多様な体細胞に分化することができるため,様々な疾患に対する臨床応用への研究が進められている一方,未分化のiPS細胞が移植細胞群内に残存もしくは混入することにより移植適用部位で造腫瘍や異所性組織形成が懸念される.造腫瘍性とは移植された細胞集団が増殖することにより悪性もしくは良性の腫瘍を形成する能力をいい,増殖した細胞集団による周辺組織への影響や細胞集団自身の異所性に分化のリスクが飛躍的に上昇する.従ってiPS細胞を用いた細胞治療において移植細胞中の未分化iPS細胞の評価及び管理は非常に重要である.株式会社新日本科学は京都大学iPS細胞研究所高橋淳研究室との共同研究により,iPS細胞由来ドーパミン神経細胞を用いたパーキンソン病の細胞移植治療の臨床研究のための非臨床試験として,現在造腫瘍性試験を実施している.本発表ではiPS細胞の臨床応用に向けて最重要課題である造腫瘍性の評価を中心にその概要及び進捗を報告する.
  • 殿村 優, 加藤 祐樹, 花房 弘之, 森川 裕二, 松山 恵吾, 上原 健城, 上野 元伸, 鳥井 幹則
    セッションID: MS4-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    薬物誘発性肝障害は,医薬品開発における深刻な懸念事項の一つであり,ALTやAST等の古典的な肝障害マーカーは,臨床試験だけでなく,前臨床での毒性試験においても汎用されている.Hy's lawはヒトでの肝障害マーカーのカットオフ値であり,肝障害発現の判断基準として重症化を避けるために用いられている.一方,実験動物における公知のカットオフ値は報告がない.本研究では,毒性試験で汎用されるイヌ及びラットについて,統計学的手法に基づくカットオフ値の設定を試みた.in-house試験から抽出した516例の雌雄無処置ビーグルイヌ (3系統) を用い,6種の肝障害/機能マーカーを解析した.施設間で同一カットオフ値を使用できるように,マーカー測定値を各月齢の平均値に対するRatioに変換し,Mahalanobis distance (MD) における99%信頼区間をカットオフ値として次の結果を得た:AST, 150%; ALT, 194%; TBIL, 200%; ALP, 188%; TC, 147%; ALB, 86% (いずれも平均値比).また,既知肝毒性物質を投与した8例のin-houseイヌデータでは,複数のマーカーで肝臓の病理変化を伴った変動が認められ,カットオフ値の有用性が示唆された.ラットについては,Open TG-GATEsから抽出した5253例の雄Sprague-Dawleyラットを用い,10種のマーカーを解析した.マーカー測定値は対照群平均値に対するRatioに変換し,解析にはマーカーの性能評価で汎用されるReceiver operating characteristic (ROC) 曲線を用いた.その結果,AST及びALTが良好な精度を示し (最大0.91),最適カットオフ値は対照群平均値比で約120%であった.次に,93例のin-houseラットデータに本カットオフ値を適応したところ,大規模データと同等の性能を示し,妥当性が確認された.一方,ラットにおいてMDとROCのカットオフ値に乖離が認められ,手法間で肝障害の評価結果が異なることが示唆され,MDによるイヌのカットオフ値の妥当性は今後精査が必要と考えられた.以上より,標本数や解析手法に限界はあるものの,本研究で得たカットオフ値は,前臨床における肝障害評価において,施設間で統一された目安として有用と考えられる.
ワークショップ 1 ヒトiPS 由来分化細胞を用いた安全性評価への期待
  • 高砂 浄
    セッションID: W1-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     1997年に欧州医薬品評価委員会から非循環器用薬物による催不整脈リスクを回避すべく全ての医薬品について薬物誘発性心電図QT間隔延長に関する非臨床試験の実施を求める指針が公表されて以来、QTリスク評価はリード最適化研究の主要項目となり期待以上の効果を発揮してきた。しかし、一方でhERG チャネル阻害-QT延長-不整脈発現の間に相関のないケースの存在が指摘され始め、その解決策としてhERG チャネル直接的阻害以外の薬理作用[他のイオンチャネル電流(Nav1.5、Cav1.2、IKs及びIK1など)あるいは細胞膜へのチャネルのtrafficking阻害作用]の評価、種差及び個体差を払拭しうる評価系の構築が検討されている。さらに、イオンチャネル以外に心機能維持に重要な役割を担う細胞内イオン汲み出し機構、収縮機構あるいは心筋代謝機構への影響といったより広範囲な視点からの心毒性評価、あるいは上述した薬物群の種々の作用に過剰に反応する潜在的心機能リスクを有するヒトでの心毒性評価予測など、従来以上に包括的な心毒性評価の必要性が一層高まっている。
     この状況を打開しうる新たな研究プラットホームとして最も期待されているのが、「ヒト幹細胞由来心筋細胞を用いた心毒性評価システム」の開発であり、既に疾患iPS由来心筋細胞の活用も含め世界的レベルで本システムの構築・検証研究が進められている。現在我々は、製薬協主催「ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアム」を母体として、ヒト幹細胞由来心筋細胞を用い1)QT延長/催不整脈 2)収縮機能障害、及び3)心筋細胞毒性といった3つの観点から種々の心毒性リスクを包括的に評価しうる新たな評価系を探索し、各種試験系の応用性や既存評価系に対する優位性を実験的に比較検証する活動を推進している。今回、本活動の起点となった背景、最終目標及びこれまでに得られた結果について報告する。
  • 井上 智彰, 岩崎 紀彦
    セッションID: W1-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    従来から,ヒト初代培養肝細胞は,医薬品開発過程でのin vitroでの薬物代謝・毒性評価に使用されているが,ドナーによる肝機能の差や同じロットの細胞に限りのあることなどから,データのばらつきの原因でもあった。最近,ヒトiPS細胞から分化誘導した肝細胞が市販されるようになり,一定の肝機能を持った細胞が継続して供給され,再現性のあるデータを取得できることが期待されている。本ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアム 肝臓チームでは,肝毒性,薬物代謝の評価系に使用する細胞として,ヒトiPS細胞由来肝細胞をヒト初代培養肝細胞と比較し,有用性及び問題点を提示することを目的に,ReproCELLおよびCellectisから市販されているヒトiPS細胞由来肝細胞について評価した。
    毒性評価では,比較対照細胞としてヒト初代培養肝細胞に加え,肝機能が低いとされているHepG2細胞も用い,ヒトiPS細胞由来肝細胞にCYP阻害剤を加えた系の評価も行なった。既知の肝毒性を示す5化合物について,48時間曝露後のATPおよびLDHを測定し,IC50値や毒性の程度を比較した。
    代謝評価では,CYP代謝とCYP誘導についてヒト初代培養肝細胞と比較した。CYP代謝活性は,CYP1A1/2,CYP2C9,CYP2C19,CYP2D6,CYP3A4/5について代謝物をLC-MS/MSにて測定した。CYP誘導については,CYP1A2,CYP2B6,CYP3A4について,当該CYPのmRNA発現の測定を行なった。
    本講演では,医薬品の肝毒性,薬物代謝評価におけるヒトiPS細胞由来肝細胞の現時点での有用性,問題点について提示し,今後のヒトiPS細胞由来肝細胞の有効利用,分化誘導法の改良に関する情報を提供する。
  • 板野 泰弘
    セッションID: W1-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     医薬品による副作用の中で中枢神経系(CNS)副作用は重篤性が高く、かつ非臨床試験からその発現を予測することが困難である副作用の一つとして知られている(J. Toxicol. Sci. 2013)。したがって、臨床でのCNS副作用を的確に予測できる非臨床評価法の確立は、製薬企業にとって極めて重要な課題である。現在、一般的に用いられているCNS副作用の非臨床評価法は、in vivo試験としては主に安全性薬理試験(ICH S7A)ガイドライン記載のFOB法やIrwin法であり、in vitro試験としては初代培養神経細胞等の動物由来標本を用いた評価が中心となっている。しかし、いずれも種差の課題がありヒトでのCNS副作用の予測性は高くない。
     このような状況下、近年、ヒト iPS細胞から神経細胞の分化誘導が可能となり、ヒト神経細胞を用いた安全性評価系にCNS副作用評価ツールとしての期待が高まっている。
     そこで我々製薬協「ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアム」神経チームは、ヒトiPS細胞由来神経細胞(ヒトiPSC由来神経細胞)の安全性評価における有用性又は可能性を示すことを目的に活動を開始した。
     初年度の目標として市販ヒトiPSC由来神経細胞が成熟神経細胞としての特性を有しているか検証するために、神経細胞特異的細胞死の1つであるグルタミン酸受容体を介した興奮毒性に着目した検討を行った。具体的には、iCell Neuron(CDI:ヒトiPSC由来神経細胞)、ラット初代培養大脳皮質神経細胞及びマウス3T3細胞をグルタミン酸等の既知神経細胞毒性物質で処理した後、細胞内ATP活性(細胞生存)及びLDH漏出量(細胞死)を定量化した上で、各物質の IC50を算出し細胞間で比較することにより、iCell Neuronの神経細胞特性について検討した。
     また、上記重篤副作用疾患別対応マニュアルに記載されているCNS副作用について調査を行い、ヒトiPSC由来神経細胞の安全性評価としての応用が期待されるCNS副作用として痙攣・てんかんに着目し、iCell Neuronを用いた電気生理学的検討にも着手した。
     本発表では、製薬協「ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアム」神経チームの初年度の活動成果を報告する。
  • 篠澤 忠紘
    セッションID: W1-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     非臨床試験段階において、これまで、ヒトにおける副作用を予測するツールの一つとして、ヒト初代細胞を用いた評価法が利用されてきた。しかしながら、入手できる初代細胞の種類が限定的であることや、その性質がヒトの生体における一部の機能しか反映していないことから、ヒトへの外挿性を評価する上でさらなる向上が望まれていた。ヒトiPS細胞は、自己増殖能及び多分化能を持つことから、これまで入手が困難であった細胞種について大量に利用できる可能性があり、また、新たな評価系を構築するための有用なツールとして期待されている。現在、iPS細胞に由来する複数の細胞種は国内外の業者から既に販売されており、特に、試験の信頼性の担保が重要である毒性試験おいて本細胞を利用することは、各施設に均一な細胞が提供される点から今後有用となることが予想される。一方、複数の企業から販売されている分化細胞は、成熟性や純度などの点で異なる特徴を有し、各評価系に最も適した特性を持つ細胞を選択する必要がある。また、一般的に分化細胞は培養期間や培養環境により、大きく性質が変化することから、試験に利用する時点での細胞の性状の理解もまた重要であると考えられる。さらに、試験データを保証するために、利用する細胞の性状をチェックできるマーカーの探索も今後重要となることが予想される。今回、細胞性状解析チームでは、本コンソーシアムで利用されるiPS細胞由来心筋細胞、肝細胞及び神経細胞について性状を解析することにより、各々の細胞を用いた評価系の妥当性、有用性について調べることを目的としている。評価系に用いる細胞サンプルについて、まず初めにアジレント社のマイクロアレイを用いて遺伝子網羅的解析行い、また、イルミナ社のメチル化アレイを用いることによりDNAのメチル化を調べる計画である。今回の発表では、細胞性状解析チームのアクティビティーについて説明する。
  • 水口 裕之
    セッションID: W1-5
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     ヒトiPS細胞由来分化誘導肝細胞の毒性評価や薬物動態評価系への応用が期待されている。本目的を達成するためには、高機能な分化誘導肝細胞を作製することが最重要である。しかしながら、ヒト肝細胞と同程度の機能(薬物代謝能など)を有した分化誘導肝細胞を作製することは困難であったため、我々は肝細胞への分化誘導技術の改良を試みてきた。FOXA2、HNF1α等の肝細胞分化に重要な役割を果たす転写因子を、ヒトiPS細胞から肝細胞への分化途中の細胞に、独自開発した改良型アデノウイルスベクターを用いて遺伝子導入することによって、肝細胞への分化効率を高めることに成功した。また、三次元スフェロイド培養や、細胞シート技術と共培養技術を併用した三次元共培養法を用いることによって、分化誘導肝細胞の成熟化を促進できることを報告した。さらに、大量の肝細胞を安定的に供給する技術として、分化誘導肝細胞の前駆細胞である肝幹前駆細胞をラミニン111上で培養することで、肝幹前駆細胞としての機能を維持したまま増幅が可能な技術開発に成功した。ラミニン111上で肝幹前駆細胞を培養することで、肝細胞への分化能もさらに向上することも見いだした。本講演では、創薬応用を目指した分化誘導肝細胞の作製技術の現状を紹介するとともに、今後の課題・可能性についても議論したい。
ワークショップ 2 医薬品の副作用低減化におけるイメージングによる病態解析の実例と可能性
  • Ilonka GUENTHER, Willy GSELL, Elaine MANIGBAS, Raymond SERRANO, Zhimin ...
    セッションID: W2-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    Over the last decade in vivo imaging modalities and tools have become more sophisticated increasing in sensitivity, specificity and resolution. At the same time pharmaceutical companies have made translational imaging an integral part of the drug development process. Initially imaging was mainly used for CNS drug development due to the inaccessibility of the target. Applications were proof of concept (POC), target engagement (TE), time on target, efficacy and dose selection. Lately imaging applications are being added in the field of safety because in vivo imaging can often detect drug induced changes in tissue long before they can be detected in peripheral compartments like blood or urine. Amongst the different imaging modalities positron emission tomography (PET), magnet resonance (MR) and computer tomography (CT) are being utilized. PET imaging helps minimizing adverse events by prescreening drug candidates, aiding in dose selection and screening for off-target activity. MRI allows for the acquisition of high resolution anatomical images as well as measuring functional processes. We recently conducted MRI studies showing the sensitivity of MRI to depict early changes of brain vasculature (e.g. model of induced vasculitis) as well as its importance as prescreening tool prior to occlusion of the middle cerebral artery as a model of stroke. Quantitative CT has been applied to measure drug effects on bone mineral density while CT perfusion studies measure changes in functionality of selected organs. The important task is to apply the best imaging modality to a given problem.
  • 阿部 浩司
    セッションID: W2-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    近年,臨床におけるPET(ポジトロン断層法),SPECT(単一光子放射断層法),MRI(核磁気共鳴画像法), X線CTなどのイメージング技術の進歩に加え,画像処理,検出器などの技術の飛躍的な向上により,ヒトのみならず小動物での生体の形態や機能を直接画像として捉え,定量的に解析することが可能になってきた。生体内で起こる様々な生命現象を分子レベルで可視化できる分子イメージング研究は生命活動の解明,病態の原因解明,疾患診断,個別化医療や創薬などへの応用が期待されている。特に,医薬品業界では新薬開発の成功確率を上げる革新技術としてその応用に注目が集まっている。その中で,特に注目を集めているのがPET,SPECT,MRIを用いた研究である。PET,SPECTは放射性同位体で標識した化合物と生体分子との相互作用を非侵襲的に高感度かつ高精度で,定量的に画像評価できる技術である。分子の挙動を生きた状態で調べることが可能なPET/SPECTは,製薬企業が有する化合物を直接標識することで,ヒトや動物での化合物の組織分布等の薬物動態解析に応用できるだけでなく,生体機能変化を検出しうるイメージングバイオマーカーとして,新薬開発,疾患診断に応用できる。一方,MRIは生体の形態情報を非侵襲的かつ100ミクロン前後の高い空間分解能で検出できるだけでなく,様々な機能画像法が開発され,病態診断に応用されている。創薬において,病態や疾患特異的分子の画像による薬効評価化や安全性評価は非常に有用であり,そのためのイメージングバイオマーカー研究は動物からヒトへの一貫した橋渡し研究を可能にするため,前臨床試験から臨床試験での薬効・安全性への予測や検証研究が可能になり,臨床試験の成功率向上につながると考えられる。本講演では製薬企業の視点でPET,SPECT,MRIによる病態イメージングから薬効・安全性評価への展開を考えたい。
  • 上総 勝之, 関 二郎
    セッションID: W2-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    イメージング技術は現在医療現場において様々な用途で幅広く用いられている。また,近年の技術の発展により,イメージングを用いて患者から非常に多くの形態的、機能的、さらに分子レベルでの定性・定量的情報を非侵襲的に収集することが可能となってきた。今後もイメージング技術は臨床におけるバイオマーカーとして重要な役割を担っていくと考えられるが,臨床において活用分野が広がる一方で,これらを非臨床段階での動物を用いた薬剤副作用評価や環境ハザード同定に適用していくための検討はまだ十分なされていない。The Health and Environmental Sciences Institute (HESI)の “Committee on the Use of Imaging for Translational Safety Assessment” では,化学物質の毒性評価戦略へのイメージング技術の組み入れを検討事項としている。特に,モデル動物における臓器の機能・形態変化に対する各種イメージング機器(magnetic resonance imaging,computed tomography,echography)による検出感度・特異性や,バイオマーカーとしてのヒトへの外挿性の検証について焦点を当て,鋭意活動を行っている。その一環として,当CommitteeのサブチームであるCV imaging groupではEchographyを用いた多施設試験を実施し,データの再現性,ばらつきについて検証し,今後改善すべき課題等について検討を進めている。今回のworkshopでは,当Committeeの活動概要及び上記の多施設試験の中間データを紹介する。
  • 船木 真理
    セッションID: W2-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     化合物などによる刺激を受けた細胞の応答の解析に当たり、解析対象となる分子が細胞にどれほど存在しているかを評価するのみならず、このような分子がどこに存在するかにつき、その細胞内局在の時間的・空間的変化まで含めて検討を要することが多い。例えば脂肪細胞はインスリンで急性の刺激を受けると糖取り込みを増加させるが、これは脂肪細胞に発現している糖輸送担体GLUT4の量が増えるためではなく、刺激前に細胞内に局在していたGLUT4がインスリン刺激によって細胞膜に移行して糖取り込を開始するためである。このような細胞内局在の解析に、蛍光物質などを利用したイメージング、とりわけ本来の細胞機能を保ったまま観察するライブセルイメージングは強力なツールである。対象となる分子の時間的・空間的局在の制御を高精度で観察する際、光学顕微鏡の使用による空間解像度の限界が課題となっている。その克服向け、様々な技術が開発されてきた。光学顕微鏡を通して得られる画像には、顕微鏡の光学的特性により、焦点以外の部位にもシグナルを必ず認める。例えば空間解像度よりもサイズの小さい点光源を光学顕微鏡で観察した場合、理想的な環境では像も点であるが、現実には点光源の場所を中心にした三次元的な広がりを持つ物体として観察される。デコンボリューション顕微鏡では、数学演算によって焦点以外の部位に見られるシグナルを焦点に復元することができる。そのため光学顕微鏡の空間解像度による限界を超える高解像度の画像を得ることができる。また焦点以外の部分に観察されるシグナルを焦点に復元することにより、シグナルの定量においてもその精度が大幅に向上する。デコンボリューション顕微鏡の原理を簡単に紹介しながらその効果を提示する。
     蛍光顕微鏡を用いたライブセルイメージングでは新規蛍光物質の開発が昨今著しい。最近の進歩について紹介するとともに、注意点についても触れたい。
  • Lutz MUELLER, David KALLEND, Eric NIESOR
    セッションID: W2-5
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    Dalcetrapib, a modulator of the cholesteryl ester transfer protein has been studied clinically for cardiovascular risk reduction associated with an increase in HDL-cholesterol. In non-clinical studies in vitro, macrophages have been shown to take up lipids in the presence of dalcetrapib by a specific scavenger receptor, termed MARCO (Perez et al., 2010). This receptor shows extensive species and tissue distribution differences in its expression and therefore, differences in uptake between tissues and species have been recorded in vitro and in vivo. In vivo, mesenteric lymph node enlargement based due to lipid uptake by macrophages has been observed in mice and rats in a cumulative way. In monkeys, this lymph node enlargement has been less pronounced. However, the effect was of slow reversibility consistent with the life span of the macrophages. In order to assist assessment of the clinical relevance of these findings, magnetic resonance imaging of lymph nodes in the GI tract was done in an extended Phase II study with a duration of at least six months. This novel imaging approach supported the pre-clinical assessment of low relevance of the animal findings for the human situation.

    References: Perez et al. (2010) MARCO, a macrophage scavenger receptor highly expressed in rodents, mediates the dalcetrapib-induced uptake of lipids by rat and mouse macrophages. Toxicology In Vitro 24, 745-750.
    Stein et al. (2010) Safety and tolerability of dalcetrapib (RO4607381/JTT-705): Results from a 48-week trial. Eur Heart J, Feb;31(4):480-8
ワークショップ 3 安全性評価を支える薬物動態試験のあり方
  • 山崎 浩史
    セッションID: W3-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     この約10年間医薬品の安全性に関して、医薬品代謝物の重要性が産官学で議論されてきた。薬剤性肝障害を回避するため、放射性標識医薬品と生体タンパク質との共有結合量の閾値が提唱されている。米国では成人肝障害の約半数は薬物性であるとする調査が2008年に報告された。同年US FDAは医薬品代謝物の安全性試験に関する産業界向けのガイダンスを最終化した。実験動物では安全な医薬候補品が、ヒトで予想し難い毒性を発揮した事例を研究し、ヒトで生成される特異的代謝物や、ヒト血漿中代謝物で定常状態の曝露が毒性試験で確保されていない不均衡性代謝物を評価することが推奨されている。本ガイダンス発出から5年経過し、代謝物安全性試験で本当に必要な要件についての議論も展開されはじめる中、US NIHは、薬剤性肝障害に関する無料テキストベースwebsiteであるLiverTox データベースを2013年に発表した。
     ヒト型代謝物を評価するため、組換えヒト450、ヒト肝あるいはHepaRG細胞、さらにヒト肝移植キメラマウスなど、ヒト型代謝物の生成と評価のためのヒト酵素源および付加体の分離分析や低レベル放射能測定法の整備されてきた。そこで本発表では、動物とヒトとに種差の認められるP450 酸化反応の差異からヒトに特有な医薬品活性代謝物が生成し、多様なヒト肝タンパクと共有結合する可能性を示す事例を取り上げる。ヒト特異的代謝物の例示は難しいが、日本人特有の P450 2D6 の遺伝的多型に伴い、代謝物の種類に個人差が認められる場合があった。サリドマイドの芳香環水酸化に伴い、還元型グルタチオンと結合しうるヒト型反応性代謝物生成研究から、P450 3A4/5による肝代謝型クリアランス、酵素誘導や酵素活性促進を含めた薬物相互作用の評価を述べる。以上、ヒト特異的薬物性肝障害の研究に寄与しうるヒトP450機能解析事例を紹介する。
  • 皆川 俊哉, 金岡 恵理, 新開 健二, 八木 成明, 山村 賢三, 倉橋 良一, 三浦 慎一, 中村 和市
    セッションID: W3-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    非臨床薬物動態試験ガイドライン(1)には,体内動態に関するデータはトキシコキネティクスのデータと併せて評価することにより被験物質の動物における毒性の解釈に役立ち,組織分布試験は被験物質の各種臓器および組織への分布,経時的変化ならびに必要に応じて蓄積性を明確にするために行うと記されている。一方,特に海外において,放射性標識体を用いた組織分布試験は,主にヒトマスバランス試験に向けた組織被曝線量推定のための試験と考える傾向が強い(2)が,被験物質または代謝物の特定組織への蓄積性等を検出するために役立つとする意見もある(3)。先に製薬協 医薬品評価委員会 基礎研究部会は,添付文書,審査資料等の公開資料を基に現在販売されている142薬剤について臨床副作用と非臨床毒性の相関性を調査し,ヒトの副作用を予測するための非臨床試験の重要性とその限界について報告した(4)。この調査対象のうち相関性が良好であった薬剤について,我々は,動物における単回投与および反復投与時の組織分布試験データの調査を行い,標的組織への移行性とその組織における毒性発現の相関性を解析した。また,薬物動態課題対応チーム(31社)を対象に組織分布試験に関する調査を実施し,試験の位置付け,薬効・毒性試験との関係,関連規制および規制当局への対応等の現状を確認した。本報告では,薬剤の組織移行性と毒性発現の相関解析の結果を基にヒトへのトランスレーションの可能性と限界を考えると共に,医薬品開発における組織分布試験のfit-for-purposeなあり方,関連規制に照らした組織分布データの捉え方等について,要望を含めた提言を行いたい。
    (1) 医薬審第496号,1998年.
    (2) Obach, R. S. et al., Xenobiotica, 42(1): 46-56, 2012.
    (3) White, R. E. et al., Xenobiotica, 43(2): 219-225, 2013.
    (4) Takami, C., et al., J. Toxicol Sci, 38(4): 581-598, 2013.
  • 大橋 徳子, 塩谷 正治
    セッションID: W3-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    バイオマーカーの検索-ラベルフリーでセルフリーから臨床まで
     医薬品の創薬研究から臨床開発・承認・さらには市販後調査に至るまでの過程には非常に多くの時間とコストを要する.非臨床で見出された医薬品候補は種々の要因でドロップアウトする場合があり,成功確率は極めて低い.最大の要因の一つには,ヒトへ外挿できる適切な動物モデルや解析技術が非常に少なく,非臨床で選抜した化合物で,ヒトにおける安全性,有効性が得られない,いわゆる, Proof of conceptが確認できないことが挙げられる.そのため,成功確率を向上させるための取り組みとして,トランスレーショナルリサーチ(TR)がある.TRは創薬研究で選ばれた化合物を医薬品に仕上げるための橋渡しとなる研究であり,非臨床で見つけたバイオマーカーをエンドポイントに設定し臨床試験を行う,あるいは臨床で見られた現象を非臨床で検証し,開発品の価値を向上させることである.

    安定同位体を用いたフラックス解析
     代謝フラックス研究は,プローブとして放射性標識体や安定同位体などを用いて,細胞内,組織内あるいは血中のターゲット分子の増減や代謝回転を把握するものであり,その分子機能や薬理作用の解析のために非常に有用な手法の一つである.特に13C-,や15N- などの各種安定同位体と質量分析を活用したフラックス解析により,ターゲット分子の増減に直接関係する酵素などの状態を把握するだけでなく,その代謝経路上の産物を含めた各分子の相互作用・調節が,それぞれどのような状態にあるのか,細胞内ネットワーク全体として捉えることができる.
     本ワークショップでは,非臨床における活用事例について,紹介する.
  • 香取 典子
    セッションID: W3-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    薬物動態(PK)試験、トキシコキネティクス(TK)試験および生物学的同等性(BE)試験の際には、血漿や組織中の薬物濃度を求めるため、LC/MS/MSや免疫学的測定法が用いられるが、生体由来成分が測定に影響を与えるため、分析結果が大きな変動を示す.生体試料中の薬物定量分析は、医薬品開発において安全性有効性を判定する上で重要であり、高い信頼性が要求されるため、分析法バリデーション(Bioanalytical Method Validation 、BMV)が重要となる。BMVについて、米国FDAでは2001年に、欧州EMAでは2011年にガイダンス/ガイドラインが出されるなか、日本においてもBMVガイドライン策定に関して早急な取り組みが必要と言う認識が広まり、2011年にまずバイオアナリシスフォーラム(JBF)が結成され、続いてガイドライン策定を目的として厚生労働科学研究班が立ち上げられた。昨年7月にはついに日本版BMVガイドライン「医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションに関するガイドラン」およびQ&Aが正式に発出された。本ガイドラインは、主に低分子医薬品、LC(GC)/MSを対象とし、GLP試験であるTK試験や臨床試験における薬物又はその代謝物の生体試料中薬物濃度の定量試験のバリデーションおよび実分析に適用されるものである。さらに、本年1月には、単独のガイドラインとしては世界初となる、リガンド結合法(Ligand Binding Assay, LBA)を対象としたBMVガイドライン案のパブリックコメントが開始された。これまで出されたガイドラインについては英訳版も公表され、集まったコメントは国内のみならず海外からも多数寄せられた。このことは規制バイオアナリシスに関して、これらのガイドラインが日本国内のみならずグローバルな影響力をも持つことを示している。本講演ではガイドラインの紹介に加えて、規制バイオアナリシスの国際的な議論について述べたいと考える。
ワークショップ 4 医薬品のがん原性評価に対する新たなアプローチ
  • 青木 豊彦
    セッションID: W4-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    2012年4月にICH S1(医薬品のがん原性試験に関するガイドライン)変更に向けた活動が正式なトピックとして採択され,専門家作業部会(EWG)による具体的な活動が開始されたことを受け,2012年7月の第39回本学会学術年会において,「慢性毒性試験結果からの発がん性予測」としてシンポジウムが開催された。その後,新たながん原性評価法に関する取り組みとして,証拠の重み付け(WOE)に基づいたヒト及びラットにおける発がんリスクの予測に基づき、その根拠が十分であればラットがん原性試験の実施免除が可能であるとの仮説が提唱された。本仮説の検証のために,2013年8月に発出された規制通知文書(RND)に基づいて前向き調査期間(PEP)が開始され,これまでに複数の開発医薬品についてのCADが規制当局に提出されている。
    本WSでは,RNDで規定したWOEの中でもICH S1ガイドライン変更の要因となったNEG CARC Rat基準の要素である病理評価,遺伝毒性,ホルモン作用について,それぞれの専門家の立場からがん原性評価における留意点を解説いただく。さらには,医薬品の薬理作用に起因するげっ歯類特異的な腫瘍発生とヒトへの外挿,リスク評価について最近の事例を取り上げて紹介いただくと共に,医薬品の発がん評価代替法として受け入れられている遺伝子改変マウスモデルについて,主に米国での実施状況及び今後の展望ついても解説いただく。
    本企画が,医薬品の新たながん原性評価法を検証する前向き調査に対する今後の取り組みの必要性に対して,多くの日本製薬企業の理解と協力を頂く一助となることを期待する。

    EWG: Expert Working Group, WOE: Weight of Evidence, PEP: Prospective Evaluation Period, RND: Regulatory Notice Document, CAD: Carcinogenicity Assessment Document, NEG CARC Rat: negative for endocrine, genotoxicity, and chronic study-associated histopathologic risk factors for carcinogenicity in the rat.
  • 小川 久美子
    セッションID: W4-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    現在 ICH S1 において、医薬品のがん原性評価方法の見直しを視野に、薬理学的機序、遺伝毒性試験および6ヶ月慢性毒性試験等までの成績の重みづけにより、2年間のラットがん原性試験結果が予測可能か否かについて、プロスペクティブな検討が実施されている。慢性毒性試験で認められた病理組織変化が発がん性に関連するか否かの評価は、がん原性予測においてより重要な意味を持つことになると考えられる。本ワークショップでは、そうした観点にから、前がん病変にはどのようなものがあるのか、どのような課題があるかについて改めて考えてみたい。
    前がん病変とは、1)多段階発がん過程の中でがんになりうる前段階の病変、および、2)発がん過程において同時におこりやすい変化や発がん母地となりうる状態が含まれる。ヒトの場合、前者は、Vogelstein のヒト家族性大腸発がんモデルで示される腺腫のような良性腫瘍や子宮頚部の高度異形成などがあげられ、後者はC 型肝炎や肝硬変およびピロリ菌感染による慢性胃炎・萎縮性胃炎が明らかな例と言える。
    一方、毒性試験においては、化学発がんモデルを用いた経時的観察の積み重ねにより、様々な前がん病変が提唱されてきた。大腸では aberrant crypt fociが腫瘍発生に先行して観察される事が多いが、通常の aberrant crypt foci の発生数と腫瘍発生の強度は必ずしも一致しないとの観察を経て、dysplastic foci や β–カテニンの蓄積を伴うcrypt がより特異性の高い前がん病変と考えられている。肝臓では、腺腫や変異細胞巣が、前がん病変として評価される。一般に、増殖能の亢進は腫瘍発生につながる変化と考えられるため、過形成や継続する炎症などの増殖刺激が示唆される場合は前がん病変・前がん状態として扱われるべきと考えるが、今後、偽陽性・偽陰性は最小限にしつつ、短期間投与でも前がん病変が検出可能となるような、病理診断基準の標準化がますます重要となると考えられる。
feedback
Top