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ベナー 聖子, 井下 太貴, 丁 雲潔, 掛山 正心, 遠山 千春
セッションID: P-14
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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神経内分泌ストレス応答系の発達障害は成熟後の精神疾患様症状に関わるとの見解が、昨今注目を浴びている。周産期における環境化学物質曝露は生体の発達環境に様々な毒性影響を及ぼすことがこれまでに明らかにされてきたが、神経内分泌ストレス反応系への影響評価は未だ十分ではない。我々は先行研究において、周産期における低用量2,3,7,8-Tetrachrolodibenzo-p-dioxin (TCDD) 曝露が不可逆的にマウスの高次脳機能や社会性へ影響をもたらすことを報告した。本研究では同条件曝露が生体のストレス応答系の発達に及ぼす影響を生化学的・分子生物学的手法を用いて検討することを目的とした。妊娠12.5日目のC57BL/6マウスにTCDDを0.6 μg/kg もしくは3.0 μg/kgの用量 (以下、TCDD 0.6, TCDD3.0と表記) で 単回経口投与し、雄産仔が成熟後にストレス負荷による血中コルチコステロン分泌反応を定量した。また、中枢ストレス応答制御領域におけるストレス応答関連遺伝子の発現を定量解析した。拘束ストレス負荷、ならびに薬理的視床下部・下垂体・副腎(HPA)軸活性に対するコルチコステロン分泌パターンの解析から、周産期にTCDD曝露を受けたマウスにおけるHPA 軸活性の亢進と中枢フィードバック制御異常が示唆された。毒性はTCDD 3.0群でより顕著に表出され、これを支持する結果として、TCDD3.0群の海馬においてCorticotropin releasing hormone受容体(CRHR-1)発現の低下がみとめられた。これらの現象はTCDDが体内に残留していない成熟後に確認されたため、周産期におけるTCDD曝露がストレス応答系の形成・発達に影響を及ぼした可能性が示唆された。そこで、新生仔期の海馬において同様の遺伝子発現解析を行ったところ、TCDD 3.0群でCRHR-1の他、ACTH受容体および糖質/鉱質コルチコイド受容体の発現比が低下していることが明らかとなった。以上より、発達期のTCDD 3.0群の海馬でCRH伝達、ACTH伝達、およびグルココルチコイド伝達に対する感受性が低下し、HPA軸中枢フィードバックに関わる発達に破綻がひきおこされた可能性が示唆された。
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駒田 致和, 浅井 泰子, 守井 見奈, 松木 美知枝, 河内 宏太, 池田 やよい, 長尾 哲二
セッションID: P-15
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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樹脂原料としても用いられているビスフェノールA(BPA)は、経口で曝露されることでヒトに対しても、エストロゲン様の内分泌撹乱作用やDNAのメチル化異常作用を引き起こすことが報告されており、近年では胎児期の低用量曝露による影響が懸念されている。本研究課題では、胎児期のBPA曝露が大脳皮質の発生において引き起こす神経発生毒性学的影響を評価するために、胎児期・新生児期の大脳皮質の神経新生、層構造の形成、神経ネットワークの構築、その器質的異常が引き起こす行動学的影響に着目して研究を行った。C57BL/6JおよびICR妊娠マウスに対して連続的にBPA:20、200µg/kg/dayの強制経口投与を行い、組織学的な解析を行った。その結果、発生期の大脳皮質において神経幹細胞の神経新生のタイミングが早くなると同時に細胞周期が短くなることで、皮質板が肥厚し神経幹細胞数が減少することが示された。この形態的異常は新生児期も継続しており、組織学的・行動学的解析を行ったところ大脳皮質の第6b層が低形成になり、そこを足場に大脳皮質に投射するTyrosine hydroxylase陽性のドーパミン作動性神経細胞が減少していることが示された。さらに我々が報告している電子天秤を用いた新生児行動テストを用いて解析したところ、生後3日における自発行動、振戦の亢進が観察された。新生児期において、身体・神経機能の発育のため、また周囲の視覚、聴覚、触覚情報を収集し、それに応答するために体動をする。これらの自発運動や振戦は、高次脳機能の発達・成熟においても重要であり、大脳皮質で調節されていると考えられる。以上のことから、低用量BPAの胎児期曝露は大脳皮質の神経新生に影響し、層構造の形成や神経細胞の投射に異常を引き起こすことが、新生児期の行動異常の一因となっている可能性が示された。
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阿部 一, 板橋 恵, 田中 猛, 村上 智亮, 齋藤 文代, 武吉 正博, 今田中 伸哉, 吉田 敏則, 渋谷 淳
セッションID: P-16
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【背景及び目的】クプリゾン(CPZ)は、齧歯類への混餌投与により脳のオリゴデンドロサイトを障害して脱髄を誘発することが知られている。本研究ではCPZのラットを用いた発達期暴露実験を行い、離乳時の海馬歯状回(DG)におけるニューロン新生への影響を検討した。【方法】各群8又は9匹の妊娠SDラットに妊娠6日目から出産後21日目の離乳時までCPZを0、0.1及び0.4%の濃度で混餌投与した。母動物及び雄性児動物について離乳時に解剖し、採取した脳を用いてクリューバーバレラ(KB)染色及びmyelin basic protein(MBP)による免疫染色を施し、CPZの脱髄誘発性を検討した。さらに児動物についてDGの顆粒細胞層下帯(SGZ)と顆粒細胞層におけるニューロン新生の各段階にある細胞数の変動及び歯状回門におけるGABA性介在ニューロンの分布を免疫組織化学的に検討した。【結果】投与期間中の母動物の体重、摂餌量及び摂水量は0.4%群で有意に低下した。児動物の体重は生後4日~21日まで0.4%群で有意に低下した。KB及びMBP染色では、0.4%群の母動物で脳梁の菲薄化及び小脳髄体の髄鞘膨化が認められた。一方、児動物ではいずれの部位でも明確な脱髄ないし髄鞘形成障害は見られなかった。児動物のSGZではTbr2陽性細胞及びPCNA陽性増殖細胞が0.4%群で有意に減少したが、Sox2及びdoublecortin陽性細胞は変動しなかった。また、歯状回門ではreelin陽性細胞が有意に増加したが、calbindin、calretinin及びNeuN陽性細胞は変動しなかった。【考察】CPZの妊娠期及び授乳期暴露による発達期ニューロン新生障害はSGZにおける分化中期の細胞(type-2前駆細胞)を標的としたニューロン新生抑制及び歯状回門における介在ニューロンのポピュレーション変動であることが示唆された。
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田中 猛, 板橋 恵, 阿部 一, Liyun Wang, 村上 智亮, 吉田 敏則, 渋谷 淳
セッションID: P-17
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【目的】T-2トキシンは主にFusarium属のかびが産生するマイコトキシンであり、動物に対して血液毒性、免疫毒性に加えて神経毒性を誘発することが知られている。本研究ではT-2トキシンの神経発生毒性の病理学的なリスク評価を目的として、マウスを用いた妊娠期・授乳期暴露実験を行い、離乳児での海馬歯状回におけるニューロン新生への影響を検討した。【方法】各群9~10匹の妊娠ICRマウスに、妊娠6日目からT-2トキシンを0、1、3、9 ppmの濃度で離乳時(分娩後21日目)まで混餌投与した。離乳時に児動物を解剖し、雄性児動物の海馬歯状回について顆粒細胞層とその下帯(subgranular zone: SGZ)におけるニューロン新生の各段階にある顆粒細胞系譜の細胞数の変動及び歯状回門でのGABA性介在ニューロンの分布を免疫組織化学的に検討した。【結果】母動物は9?ppmで分娩後7~21日にかけて体重低値を示し、分娩後21日目で摂餌量、摂水量の低値を示した。児動物は9 ppmで投与期間を通じて体重低値を示した。離乳時の病理学的検査において母動物では9?ppmで前胃粘膜上皮の過角化、肝細胞の肥大及び空胞変性がみられ、児動物では3?ppm以上で脳絶対重量の低値と9?ppmで肝臓、脾臓、胸腺の相対重量の低値がみられた。免疫組織化学的に児動物のSGZでは6?ppm以上でTbr2陽性細胞が減少した。Sox2、doublecortin陽性細胞数は変動しなかった。歯状回門では9?ppmでreelin陽性細胞が増加したが、parvalbumin及びNeuN陽性細胞は変動しなかった。【考察】T-2トキシンのマウスに対する妊娠期・授乳期暴露により、離乳時において海馬歯状回のニューロン新生障害が認められ、その標的はtype 2前駆細胞であり、前駆細胞の移動異常を反映した介在ニューロンからのreelin産生の増加が示唆された。
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板橋 恵, 王 リユン, 阿部 一, 田中 猛, 白木 彩子, 村上 智亮, 吉田 敏則, 渋谷 淳
セッションID: P-18
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【目的】殺菌剤や抗真菌剤として用いられていたヘキサクロロフェン(HCP)は、げっ歯類では中枢や末梢神経に脱髄を誘発することが知られている。本研究ではHCPのラットを用いた妊娠期・授乳期暴露実験を行い、離乳児での海馬歯状回(DG)におけるニューロン新生への影響を検討した。【方法】各群10~12匹の妊娠SDラットに、妊娠6日目からHCPを0、100、300 ppmの濃度で離乳時まで混餌投与し、雌子動物を生後21日目に解剖し、その脳を用いてDGの顆粒細胞層下帯(SGZ)と顆粒細胞層におけるニューロン新生の各段階にある細胞数の変動及び歯状回門でのGABA性介在ニューロンの分布を免疫組織化学的に検討した。SGZでは細胞増殖性とアポトーシスの変動も検討した。【結果】高用量群の母動物のみで、10匹中7匹に後趾麻痺が生じ、摂餌量は妊娠18日目から、飲水量は生後4日目から生後21日目まで低値を示し、体重は妊娠18日目から生後21日目まで低値を示し、リッターサイズも減少した。子動物では高用量群で生後20日から四趾麻痺が生じ、体重は出生日から生後21日目まで低値を示した。低用量群では神経症状は示さなかったが、生後14及び21日目で体重が低値を示した。病理組織学的に、母動物では中枢及び末梢神経において低用量でごく軽度~軽度、高用量群で中等度~重度の脱髄を認めた。子動物では高用量群のみで中枢及び末梢神経において軽度~中等度の脱髄を認めたが、脳重量は変動しなかった。免疫組織化学的に子動物のSGZでは高用量群でTbr2陽性細胞が減少し、アポトーシスが増加した。Sox2、doublecortin陽性細胞、PCNA陽性増殖細胞は変動しなかった。歯状回門ではparvalbumin、reelin、calbindin、calretinin、NeuN陽性細胞数は変動しなかった。【考察】HCPの妊娠期・授乳期暴露による離乳時での影響は歯状回門のGABA性介在ニューロンには認められず、その標的はSGZのtype2前駆細胞であることが示唆された。
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森下 裕貴, 吉岡 靖雄, 瀧村 優也, 野尻 奈央, 高雄 啓三, 田熊 一敞, 吾郷 由希夫, 角田 慎一, 松田 敏夫, 宮川 剛, ...
セッションID: P-19
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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胎児期や乳児期といった発達期の脳は、化学物質に対して感受性が高いことが知られており、妊娠期や授乳期の化学物質曝露が、こどもの神経系の発達に悪影響を与える可能性が指摘されている。本観点から我々は、100 nm以下の素材であるナノマテリアルに関して、こどものこころへの影響に着目したナノ安全科学研究を推進している。当研究室ではこれまでに、10 nmのナノ銀(nAg10)を母マウスが経口摂取すると、母乳を介して仔へ移行する可能性を見出している(本会の別演題にて発表)。従って、母乳を介してnAg10に曝露した乳幼仔への生体影響の精査が必要不可欠と考えられる。そこで本研究では、nAg10を経口摂取した母マウスに母乳育仔された乳幼仔の脳への影響に関して、行動毒性学的観点から評価した。母マウスに、出産日から21日間、nAg10、または、イオンのコントロールとして銀イオンを、現実に想定されるナノ銀の曝露量の100倍程度を最大用量として連日経口投与した。これら母マウスに、投与期間を通じて母乳育仔された雄仔について、経週的に体重を測定すると共に、11週齢から、オープンフィールドテスト、高架式十字迷路、ソーシャルインタラクションテスト、強制水泳テストにより、自発運動量、不安様行動、社会的行動、うつ様行動を評価した。その結果、対照群である水投与群と比較して、出生時から17週齢まで、nAg10投与群、銀イオン投与群の体重に有意な変化は認められなかった。また、いずれの行動テストにおいても、群間のスコアに有意な変化は認められなかった。従って、本実験での母体の曝露量において、nAg10や銀イオンの授乳期曝露は、仔の成長、自発運動量、不安様行動、社会的行動、うつ様行動には影響を与えない可能性が示された。現在、仔の認知機能にも着目し、nAg10の授乳期曝露が仔の脳へ与える影響について、より詳細に評価している。
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梅澤 雅和, 横田 理, 森家 望, 岩田 麻里, 押尾 茂, 武田 健
セッションID: P-20
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【背景・目的】ディーゼル排ガス(DE)はガス状成分及び微小粒子状成分(DE粒子:DEP)から成り、ヒトへの健康影響が疫学的に報告されているPM
2.5の中の人為起源の主要な割合を占める。本研究は、胎仔期DE曝露が出生仔の行動及び脳の各領域のモノアミン量に及ぼす影響を明らかにすることを目的として行った。
【方法】妊娠ICR系マウス(妊娠2~17日目)に対してDEを、曝露チャンバーを用いて全身吸入的に曝露(粒子状物質濃度:1.0 mg/m
3、明期に1日8時間)させた。雄性出生仔(5週齢)の自発運動量をOpen field試験により、運動協調性をRota rod試験により、衝動性をCliff avoidance試験により評価した。雄性出生仔(3及び6週齢)の脳を氷冷下で大脳皮質、線条体、側坐核、海馬、扁桃体、視床下部、小脳、脳幹に分画し、各試料中のドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン及びそれらの代謝物をHPLC法により定量分析した。定量値は、組織ホモジネート中タンパク質濃度で標準化した。
【結果】胎仔期DE曝露群において、Open field試験における移動量の低下ならびに大脳皮質ドーパミン量の減少が認められ、自発運動量の低下が示唆された。また、Rota rodからの落下時間の短縮ならびに小脳ノルアドレナリン代謝物(MHPG)量の減少が認められ、運動協調性の低下が示唆された。さらに、Cliff avoidance試験での落下時間の短縮が認められ、衝動性の亢進が示唆された。
【考察・結論】自発運動量の低下は、より低濃度のDE胎仔期曝露により出生仔に認められた影響(Suzuki T et al. P&FT 2010)と一致していた。一方で本研究では、DEの胎仔期曝露が出生仔の運動量だけでなく、種々の行動試験で評価できる行動パターンにも影響を及ぼすことを明らかにした。今後、排ガスの健康影響の小さいディーゼルエンジンの改良が進められていくことが期待されるが、本研究で示したエンドポイントを考慮した影響評価が、次世代の健康を守る上で重要であると考えられる(Yokota S et al. J Toxicol Sci 2012)。
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山岸 由和, 古川 賢, 小林 由幸, 池本 徳孝, 杉山 晶彦
セッションID: P-21
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【目的】カドミウム(Cd)を投与した妊娠ラットの胎盤中における分布について病理組織検査用のスライド標本にてLA-ICP-MSを用いて経時的に検索した。【材料及び方法】試験にはWistar Hannover妊娠ラット20匹を供試した。塩化カドミウムは生理食塩水に溶解し、0及び0.04mmol/kg(Cd投与群)の用量にて妊娠18日に皮下投与した。投与1、2、3、6及び24時間後に剖検し、胎盤及び胎児を摘出し、重量測定後、胎盤を常法に従いパラフィン包埋ブロックを作製し、HE染色を施し、組織病理学検査を実施した。無染色のスライド標本にてLA-ICP-MSを用いて胎盤内のカドミウムを分析した。【結果】試験期間を通して母動物の死亡は認められなかった。一方、胎児死亡はCd投与群において投与6時間後より認められた。組織病理学検査では、Cd投与群において投与2及び3時間後で迷路層の栄養膜細胞は膨化し、空胞変性を示した。これら細胞は主として合胞性栄養膜細胞であった。また、母体血液洞内の赤血球は減少していた。投与6時間後で迷路層においてうっ血及び出血し、栄養膜細胞は壊死、消失し、これにより栄養膜中隔は菲薄していた。投与24時間後には迷路層の正常構造は消失し血腫状を示した。基底層、脱落膜及び間膜腺では変化は認められなかった。LA-ICP-MS測定では、Cd投与群において投与1時間後より試験期間を通してカドミウムが検出され、その検出量は投与24時間後が最も多かった。カドミウムの胎盤における分布はいずれの時期においても、迷路層に局在し、その他の胎盤組織ではカドミウムはほとんど検出されなかった。【結論】カドミウム投与ラット胎盤についてのスライド標本にてLA-ICP-MSを用いてその分布を検索したところ、病変発現部位とカドミウムの分布が一致した。LA-ICP-MS はスライド標本にてカドミウムなどの重金属の分布を把握できる可能性があり、病変の要因解明や重金属の経路把握の研究において有益なツールであると考えられた。
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市村 亮平, 高橋 美和, 森川 朋美, Pramod DHAKAL, 井上 薫, 前田 潤, 吉田 緑, 渡辺 元
セッションID: P-22
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【背景】エストロゲン物質の臨界期曝露により、性成熟後に性周期異常としてその影響が顕在化する遅発影響は(高橋ら,2011)、生殖毒性試験で検出が不可能であり、その発現機序も明らかになっていない。本研究では、近年性周期の制御中枢として注目され始めた視床下部前腹側脳室周囲核(AVPV)のキスペプチンニューロンと遅発影響の関連性を明らかにするため、以下の実験を行った。【方法】生後0日齢の雌性Donryuラットを用い、対照群にはSesami Oilを、投与群にはEthynyl Estradiol(EE)を単回皮下投与した。EEは非遅発影響用量である0.02µg/kg、遅発影響用量である0.2および20µg/kgの計3用量を用いた。正常性周期を示す10週齢時に人工的にLHサージを誘発し、サージ誘発日の11:00-19:00の各タイムポイントでLH濃度を測定し、AVPVにおけるkiss1mRNA発現を解析した。また、加齢に伴う性周期異常と比較するため、20週齢のMiddle age群にも同様の処置をした。【結果】LHサージピークはいずれの群でも16:00-17:00に認められ、EE0.02µg/kg投与群を除く群でサージ面積の低下傾向が見られた。また16:00にはEE投与群で用量依存的にLH濃度が低下し、さらにEE20µg/kgおよびMiddle age群でその低下が顕著であった。対照群のkiss1mRNAはLHサージとほぼ同時刻に発現のピークが認められ、LH濃度の低下が顕著であったEE20µg/kg投与群およびMiddle age群では、14:00にkiss1mRNAの有意な発現低下が、16:00に低下傾向が見られた。【結論】遅発影響の特徴である性周期異常の顕在化に先駆けて、キスペプチンニューロンの異常等の視床下部性周期制御中枢の変化が生じている可能性が示唆された。
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鈴木 千春, 三井田 由紀子, 朝日 結実子, 高砂 浄, 松岡 俊樹, 下村 和裕, 土屋 由美
セッションID: P-23
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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【背景・目的】Embryonic Stem Cell Test(EST)は被験物質の生殖発生毒性を評価する目的で構築されたスクリーニング法であり、生殖発生毒性リスクの少ない化合物を選別するために活用されている。ESTでは、3T3細胞の増殖阻害実験、ES細胞の増殖阻害実験、及びES細胞の分化阻害実験の異なる3つの実験を実施(3実験法)し、各実験からIC
50-3T3、IC
50-ES、ID
50-ESを算出し、これら3つのパラメータを決められた計算式で解析することにより被験物質の生殖発生毒性を評価する。3実験法のESTでは、3実験それぞれの実施に10日間を要するうえ、試薬量や被験物質量も3実験分が必要になることから、今回ES細胞の増殖と分化に関する実験を単一の実験とし、3T3細胞増殖阻害実験との2実験(2実験法)で評価可能か否かを検討した。
【実験方法】被験物質としてECVAMのESTプロトコールに上記3つのパラメータの参考値が記載されている16化合物を用いた。3実験法と同様に3T3細胞の増殖阻害実験を行いIC
50-3T3を算出した。次いでES細胞の分化阻害実験によりID
50-ESを算出後、同じ96穴プレートを用いてWST assayを実施し、IC
50-ESを算出した。この2実験法で得られたIC
50-ESを、当施設及びECVAMが3実験法で算出したIC
50-ESと比較し、生殖発生毒性の判定に用いるパラメータとしての妥当性を検証した。
【結果・考察】使用した16化合物全てにおいて、2実験法で得られたIC
50-ESがECVAM及び当施設の3実験法によるIC
50-ESと近似した値となった。さらに、2実験法から得られたパラメータを用いて催奇形性を判定したところ、当施設で実施した3実験法による判定と同一であった。
以上の結果から、2実験法による発生毒性評価は3実験法によるものと同等と判断した。2実験法では、3実験法に比べコストパーフォーマンス及び実施期間が大きく改善されることから、生殖発生毒性の初期スクリーニング系としてより優れた試験系であると考えられた。
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大塚 佑基, 青木 明, 中西 剛, 永瀬 久光
セッションID: P-24
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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これまでに我々は、船底塗料等に用いられてきたトリブチルスズ(TBT)やトリフェニルスズ(TPT)が、核内受容体であるレチノイドX 受容体やペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γを介してヒト胎盤内分泌機能の修飾や巻貝類の雄化を引き起こすことを報告してきた。TBT、TPTのこれらの作用は、人を初めとする幅広い生物種の生殖機能等に対し影響を与える可能性を示唆している。既にTBTにおいては、妊娠動物への曝露により奇形胎仔の増加や仔動物の精子細胞数の減少等の生殖発生毒性を惹起することが報告されているが、TPTにおける報告はほとんどなく、さらに成熟期雌性動物の内分泌機能に焦点を置いた検討は皆無に等しい。そこで本研究では、TPTについてOECDテストガイドライン(TG)に準拠した毒性試験を行い、成熟期雌性マウスに対する影響について詳細な検討を加えた。
まずTG407に準拠し、ICR雌性マウスを用いてTPTに関する28日間反復経口投与毒性試験を行った。その結果、10 mg/kg TPT投与マウスにおいて、肝臓重量の増加と性周期の乱れが認められた。次に雌性内分泌機能への影響を検討する目的でTG440に準拠し、卵巣摘出術(OVX)または偽手術(Sham)した雌性マウスに7日間TPTを経口投与して、子宮肥大試験を行った。その結果、TPT投与はどちらのマウスの子宮重量にも影響を与えなかった。しかし10 mg/kg TPT投与は、Shamマウスにおいては先の結果を反映して肝臓重量を増加させる一方で、OVXマウスにおいては肝臓重量には影響を与えず、胸腺と脾臓重量を有意に減少させた。さらに両マウスにエストロゲンを補充して同様の検討を行っても、TPTによる臓器重量変化に影響は認められなかった。以上より、成熟期雌性マウスに対するTPTの毒性は、エストロゲン産生以外の卵巣機能よって修飾される可能性が示唆された。
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清水 佐紀, 水口 裕登, 奥村 貴裕, 國澤 直史, 徳留 健太郎, 落合 緑, 溝辺 雄輔, 田村 深雪, 大高 美幸, 近持 壽郎, ...
セッションID: P-25
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【目的】ニコチンは神経興奮毒性として振戦やけいれん等の運動障害を誘発する。しかし、ニコチンがどの脳内部位に、どのような様式で作用するか、詳細なメカニズムはいまだ不明である。本研究では、ニコチンの比較的低用量で発現する振戦に焦点をあて、その発現メカニズムを行動薬理学的および免疫組織化学的手法により解析した。
【方法】初めに、ddY系雄性マウスにニコチンを腹腔内投与し、誘発される運動興奮症状をスコア付けにより評価した。次に、振戦発現における脳内興奮部位を探索する目的で、脳内Fos蛋白発現を免疫組織染色によって解析した。さらに、振戦発現原因部位を特定する目的で、SD系雄性ラットを用いて、Fos発現解析により変化の認められた脳幹部・下オリーブ核を電気的に両側破壊し、振戦発現に対する影響を評価した。
【結果および考察】ニコチンの低用量(1-2 mg/kg)では挙尾や体幹の振るえが認められ、高用量ではけいれん発作が惹起された。このニコチン(1 mg/kg)による振戦発現は、非選択的nACh受容体拮抗薬のmecamylamineおよびα7 nACh受容体拮抗薬のmethyllycaconitineにより有意に抑制されたが、α4 nACh受容体拮抗薬のdihydro-β-erythroidineでは影響を受けなかった。一方、これら振戦を発現した動物では、内側手綱核、視床、視床下部、下オリーブ核、孤束核において部位特異的なFos発現の上昇が確認され、このFos発現上昇は、mecamylamineおよびmethyllycaconitineによって有意に抑制された。さらに、下オリーブ核を電気破壊した動物では、ニコチンによる振戦発現は有意に抑制された。以上の結果より、ニコチン誘発振戦の発現には、α7 nACh受容体を介する下オリーブ核の過剰興奮が関与していることが明らかとなった。
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伊藤 格, 藤村 高志, 鈴木 信介, 久保田 友成, 荒井 剛志, 小山内 康夫, 小沼 克安, 大川 恭平, 島戸 望, 樋口 勝洋, ...
セッションID: P-26
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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【背景】近年、医薬品あるいは医療機器開発における非臨床試験にミニブタの利用が増加している。特に経皮投与毒性試験においては、ミニブタが選択されることが多い。経皮投与毒性試験においての投与面積は、体表面積の10%とすることが一般的である。さらに、動物からヒトへの外挿において、投与量を体表面積で補正することが可能であるとされている。体表面積はMeeh(1879)の式:体表面積(cm
2)=k×体重(g)
2/3によって推定値として求められる。kは体格を反映する定数であり、動物種毎に様々な値が報告されている。豚ではSpector(1956)がk=9.0と報告している。しかしながら、豚とミニブタでは体格に相違があること、従来の体表面積測定法として皮剥ぎ法及び紙型法等が挙げられるが、いずれも正確性も再現性も低いことが指摘されている。
【目的】CT撮影装置を用いて撮影した連続断面画像の解析により、体表面積を正確に計測することが可能である。そこで、我々は昨年の本学術集会においてCT撮影装置を用いてミニブタ6例の体表面積を計測し、そこから得られたk値を発表した。今年は、ミニブタの例数をさらに増やして報告する。
【材料および方法】これまで21例のミニブタ(Göttingen及びNIBS)体重:7.9~41.5 kgを4列マルチスライスCT撮影装置(Alexion TSX-033A、東芝メディカルシステムズ株式会社)を用いて撮影した。得られた画像データを3D画像解析ソフト(高速三次元解析ソフトウェア:TRL-3D/VOL)を用いて、マーチングキューブス法に基づいて解析した。
【結果】体表面積は2906~8675 cm
2となり、k=7.24~8.69(平均:7.95)が得られた。このk値は、過去に報告された豚のk値とは異なっていた。今後、今回得られたk値をミニブタのk値として提唱する。
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小沼 盛司, 山浦 克典, 伴野 綾奈, 大石 信雄, 船越 彩花, 諏訪 映里子, 田中 里歩, 佐藤 史織, 佐藤 洋美, 上野 光一
セッションID: P-27
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【目的】ステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎をはじめとする慢性瘙痒性皮膚疾患の第一選択薬として頻用されるが、長期塗布に伴い適用部位に副作用として様々な毒性をもたらす。我々はこれまで、実験的慢性皮膚炎マウスに対しmediumクラスのステロイド剤であるデキサメタゾン (DEX) が、長期塗布により瘙痒症状を増悪させることを報告してきた。本検討では、DEX誘発瘙痒を軽減させる治療法を探索する一環として、近年痒み受容体として注目されているヒスタミンH
4受容体に着目し、マウスDEX長期塗布誘発瘙痒モデルに対するH
4受容体拮抗薬の有用性を検討した。
【方法】BALB/c系雌性マウスの両耳介に2,4,6-trinitro-1- chlorobenzene (TNCB) を週3回反復塗布し慢性皮膚炎を誘発した。TNCB塗布開始2週間後より7週間、DEXを両耳介へ連日塗布すると共に、H
4受容体拮抗薬 (JNJ28307474)あるいはH
1受容体拮抗薬 (Fexofenadine)を連日経口投与した。瘙痒は掻破回数を、皮膚炎症状は耳介腫脹を指標に評価した。また、耳介組織中の瘙痒および炎症関連因子mRNA発現量を測定した。
【結果及び考察】DEXは皮膚炎マウスの耳介腫脹を顕著に抑制したが、掻破回数の上昇は抑制せず、さらに増悪させた。JNJ28307474はDEXが誘発した掻破回数の増悪を軽減し、DEX による耳介腫脹抑制作用を更に亢進した。一方、Fexofenadineは掻破回数、耳介腫脹いずれにおいても明らかな作用を示さなかった。以上の結果より、H
4受容体拮抗薬は長期外用ステロイド療法に伴う皮膚毒性の一つである瘙痒症状の増悪に対する新たな治療薬となり得る可能性が示唆された。
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野中 美希, 森本 幸生, 早水 憲吾, 笹栗 俊之
セッションID: P-28
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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心筋トロポニンT欠失突然変異ΔK210は、心筋ミオフィラメントのCa感受性低下をもたらすことによって拡張型心筋症(DCM)を引き起こす。この突然変異を内在遺伝子に導入したBALB/c背景ノックインマウスは、大半が進行性の心不全により死亡する。本研究では、このDCMモデルマウスを用いて、代償期と代償破綻後の心不全に対するCa感受性増強薬ピモベンダンの治療効果を検討した。左室駆出率(EF)が35%以上の4週齢 DCMマウスを代償期心不全群(代償期群)、EFが 35%以下の6-9週齢 DCMマウスを末期心不全群(末期群)に分類し、10 mg/kg(低用量)または100 mg/kg(高用量)のピモベンダンを1日1回経口投与した。代償期群では、ピモベンダン投与により用量依存性に生命予後が改善された。一方末期群では、代償期群と同様に生命予後改善効果が認められたが、高用量ピモベンダン投与により、突然死が誘発され、その効果は著しく減少した。正常野生型マウスの単離心筋細胞にピモベンダン1, 3, 10 μMを添加した際の電気刺激によるサルコメア長短縮および細胞質内Caの一過性上昇(Caトランジェント)を測定した結果は、1 μMではどちらも変化は認められなかったが、3 μMではピモベンダンのCa増強作用による収縮機能の増加が観察された。10 μMではPDE阻害作用によるCaトランジェントの増強とそれに伴う収縮機能のさらなる増加が観察された。一方末期心不全群では10 μMピモベンダンにより誘発活動を伴う弛緩時細胞質Ca濃度の著しい増加が観察された。以上より、Ca感受性増強薬ピモベンダンは、心筋トロポニンTΔK210突然変異による遺伝性DCMに対して治療効果を示すが、代償期では高用量が適しているのに対し、代償破綻後では致死的不整脈の発生リスクが増えることから至適投与量は異なる可能性が考えられる。
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高須 伸二, 石井 雄二, 木島 綾希, 横尾 諭, 能美 健彦, 西川 秋佳, 小川 久美子, 梅村 隆志
セッションID: P-29
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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疫学的研究から、高脂肪摂取は発がんのリスクファクターであることが示唆されている。また、高脂肪摂取は齧歯類の肝臓に発がんプロモーション作用を有することが報告されているが、そのメカニズムの詳細は未だ不明な点が多く、さらに発がんイニシーション期における役割は明らかになっていない。本研究では、高脂肪食摂取が遺伝毒性発がん物質の引き起こす遺伝子突然変異にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的として、レポーター遺伝子導入動物である
gpt deltaラットにヘテロサイクリックアミンである2-amino-3-methylimidazo[4,5-f]quinolone (IQ)および2-amino-3,8- dimethylimadazo[4,5-f]quinoxaline (MeIQx)と高脂肪食の併用投与を行い、遺伝毒性肝発がん物質が引き起こす
in vivo変異原性に与える高脂肪食摂取の影響を検討した。6週齢の雄F344系
gpt deltaラットに、オリーブ油に懸濁させたIQを1.0 mg/kg体重、またはMeIQxを5.0 mg/kg体重の用量で28日間強制経口投与した。さらに、IQまたMeIQxの投与と並行して、それぞれのラットに基礎食(粗脂肪含量5.4%)または高脂肪食(粗脂肪含量32%)を自由摂取させた。投与終了後、肝臓の
gptおよびSpi
-遺伝子変異体頻度(MF)解析を行った。その結果、IQまたはMeIQx + 基礎食群のラット肝臓における
gpt MFおよびSpi
- MFは、基礎食単独群に比較して統計学的に有意に上昇した。IQあるいはMeIQx + 高脂肪食群における
gpt MFはIQあるいはMeIQx + 基礎食群に比較して有意な変化は認められなかったが、MeIQx + 高脂肪食群におけるSpi
- MFはMeIQx + 基礎食群に比較して統計学的に有意な低値となった。今後、レポーター遺伝子突然変異体のスペクトラム解析を実施して、ラット肝臓における遺伝毒性発がん物質の
in vivo変異原性に与える高脂肪食摂取の影響について考察する予定である。
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大沼 友和, 坂本 和也, 棚橋 瑠美, 横尾 仁美, 西山 貴仁, 小倉 健一郎, 平塚 明
セッションID: P-30
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【目的】転写因子nuclear factor E2-related-factor 2(Nrf2)は化学物質の解毒や酸化ストレスの抑制に関わる遺伝子の発現制御に関与する。通常、Nrf2はKelch-like ECH-associated protein 1(Keap1)依存性プロテアソーム系により分解され、発現レベルは低く保たれているが、一部のヒトがん組織では遺伝子変異のためNrf2が過剰発現している。正常細胞におけるNrf2はその活性を高めることで酸化ストレスを軽減し疾病の予防に繋がるとされ、一方、がん細胞におけるNrf2は対照的にその活性を低下させることで抗がん剤の治療効果を増強することが可能であると考えられている。そこで本研究では、Nrf2の活性化作用または阻害作用を有する化合物を探索するため、培養細胞を用いて様々な生薬エキスのスクリーニングを行った。
【方法】Nrf2活性化作用を調べるための細胞として正常ラット肝由来のClone 9細胞を用いた。Nrf2阻害作用を調べるための細胞としてヒト肺がん由来のNrf2過剰発現細胞であるA549細胞を用いた。
【結果・考察】Nrf2によって制御される異物代謝酵素としてNAD(P)H:quinone oxidoreductase 1(NQO1)を指標に各種生薬エキスで処理したClone 9細胞のNQO1活性を測定した結果、キョウカツ抽出物が最も高いNQO1活性上昇作用を示した。さらに、キョウカツ抽出物の処理により、Nrf2発現レベルの上昇ならびに酸化ストレス誘発剤による殺細胞作用の抑制がみられた。Keap1変異によりNrf2が過剰発現しているA549細胞に生薬エキスを処理した結果、ケイヒ抽出物はNQO1活性およびNrf2発現レベルを低下させた。また、ケイヒ抽出物を処理したA549細胞では抗がん剤の細胞毒性に対して感受性が増強した。
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本田 大士, 藤井 健吉, 笠松 俊夫, 西山 直宏
セッションID: P-31
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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リスク評価においては暴露量の把握が重要であるが、通常のアプローチでは、外部からの摂取量(経口・吸入・経皮)を暴露量として取り扱うため、吸収や代謝等のキネティクスの種間差が考慮されていない。もし生体内用量(in vivo Dose or AUC)を暴露量として把握できれば、より精緻なリスク評価が実施できると考えられる。
Margin of Exposure: MOEは毒性強度の基準であるPoint of Departure: POD (NOAEL, BMDL10)をヒト暴露量で除したものと定義され、特に遺伝毒性発がん性物質のリスク評価とリスク比較に活用されている。我々はさらに精緻化を進め、生体内用量に基づくinternal MOE (iMOE) を発がんリスク評価に活用することを提案したい。遺伝毒性発がん物質に対するiMOEは、BMDL10における生体内用量 (internal BMDL10: iBMDL10) をヒトの一日生体内暴露量 (internal Daily Exposure Level: iDEL) で除したものと定義できる。代謝により遺伝毒性発がん性物質が生じるケース(アクリルアミドからのグリシダミド生成、グリシドール脂肪酸エステルからのグリシドール生成など)においては、キネティクスの種間差を適切に補正できるiMOEがとりわけ有用であると考えられる。しかしながら、通常iDELは極めてわずかなレベルであるため、トキシコキネティクス試験等で用いられる血漿中の標的物質の直接測定により定量するのは容易ではない。そこで我々は、反応性化学物質の持続的な暴露の検出力に優れるヘモグロビンアダクトを測定することにより、iDELを推定した。本発表ではグリシドール脂肪酸エステル等を例に、iMOEのリスク評価における活用を示し、その実用性について報告する。
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堀 妃佐子, 田中 康浩, 藤居 亙, 北川 義徳
セッションID: P-32
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【目的】発がん標的臓器における遺伝毒性評価のために、多臓器で遺伝毒性を評価する手法が試みられており、小核試験も肝臓や消化管における評価系の検討が進められている。結腸小核試験は消化管を標的とした遺伝毒性試験系として期待され、これまでにラットにおいて結腸を標的臓器とした遺伝毒性発がん物質を単回~4日間投与し、結腸における小核誘発が認められている。一方、遺伝毒性試験においては使用動物数の削減を目的とした他試験との統合も重要な課題となっているが、反復投与毒性試験への組み込みを考慮したより長期の投与における評価データはまだ少ない。そこで我々は28日間反復投与における結腸小核試験の検討を行った。
【方法】F344系雄性ラットに既知のラット結腸発がん物質である2-Amino-1-methyl-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine hydrochloride(PhIP)を25, 50, 75 mg/kgまたは1,2-Dimethyl hydrazine(DMH) を2.5, 5, 10 mg/kgの用量で28日間反復経口投与し、最終投与翌日に採取した結腸上皮細胞における小核誘発率を求めた。いずれの被験物質についても溶媒対照として蒸留水を用い、同様の処置を行ない結腸小核試験を実施した。短期投与の結腸小核試験はPhIPを50, 100, 200 mg/kgの用量で4日間、DMHを90 mg/kgの用量で単回経口投与を行い、いずれも初回投与より4日後に採取した結腸上皮細胞について実施した。
【結果および考察】28日間反復投与のPhIP群およびDMH群のいずれも溶媒対照群と比較し小核誘発率の増加が認められたため、本試験条件下における結腸小核評価が可能であることが確認できた。ただし、短期投与における小核誘発率の方が顕著であり、結腸小核試験を行う際には短期投与で評価する方が適していることが示唆された。
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木村 真之, 阿部 一, 田中 猛, 板橋 恵, 白木 彩子, 寒川 祐見, 吉田 敏則, 渋谷 淳
セッションID: P-33
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【背景】我々は既に、ラットに対して28日間反復投与により発がん標的細胞に増殖活性の亢進を示す発がん物質は、標的臓器を問わず、G
2/M期を主とする細胞周期分子発現細胞とアポトーシスの増加を誘発することを見出した。更に、このような増殖活性亢進を示す発がん物質がM期進行に関わるUbiquitin D (Ubd) のG
2期からの異常発現を誘発することも見出した。
【目的】本研究では、肝部分切除(PH)後や非発がん性肝毒性物質ないし肝発がん物質投与の初期に生じる肝細胞増殖活性の変動に伴う細胞周期分子発現およびアポトーシスの経時的な変化を検討した。
【材料と方法】F344ラットを用いて、無処置群、肝発がん物質[thioacetramide (TAA)、methyleugenol (MEG)]群ないし非発がん肝毒性物質[acetaminophen (APAP)、α-naphthyl isothiocyanate (ANIT)、promethazine hydrochloride]群と、PH群を設定し、実験開始後3日、7日および28日目に肝臓を採取し、免疫組織化学的解析を行った。
【結果】実験開始後3日目で、PH群、TAA群、ANIT群で、細胞増殖活性およびG
2/M期分子の発現が増加し、TAA群ではアポトーシスも増加した。また二重染色による解析で、TAA群及びANIT群ではTopoIIα陽性細胞のうちUbdを発現する割合が増加したが、PH群では変動を認めなかった。7日目では、PH群、MEG群、TAA群、APAP群、ANIT群で細胞増殖活性及びG
2/M期分子の発現が変動しないか、もしくは低下した。また、MEG群、TAA群、APAP群、ANIT群ではG
1/S期チェックポイントのp21
Cip1の発現およびアポトーシスが増加した。
【考察】発がん性の有無に関わらず、化学物質投与開始後3日目では、細胞毒性を反映した細胞増殖にG
2期におけるM期進行に関わるUbdの異常発現が関与していることが示唆された。また、7日目ではG
1/Sチェックポイント機構の活性化による細胞周期停止やアポトーシスによって傷害を受けた細胞の除去が起こっていることが示唆された。
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戸邊 隆夫, 藤村 将大, 岡本 誉士典, 高田 達之, 小嶋 仲夫
セッションID: P-34
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【目的】がんは遺伝的にヘテロな不均一細胞集団であり,この中から薬物治療を生き残った細胞が増殖することで耐性化/悪性化していくことが問題となっている.したがって,分化によってがんに不均一性を与える「がん幹細胞」の発生機構を明らかにすることは,がんの予防あるいは治療を達成する上で重要である.われわれは,マウス胚性幹(mES)細胞に対してDNA損傷ストレスを惹起することにより細胞増殖抑制および‘脱’未分化が誘導されることを確認している.また,われわれは,この細胞応答にがん抑制因子であるp53が関与していることを示唆する結果を得ている.そこで本研究では,強力な発がん物質である7,12-ジメチルベンズ(
a)アントラセン(DMBA)処理がmES細胞のp53機能に及ぼす影響を解析した.【方法】mES細胞(D3細胞株)をDMBAで24あるいは48時間処理.未分化マーカー(
Sox2,
Oct4,
Nanog,
Dppa5)および
p53,
p21の発現をリアルタイムRT-PCR法により相対定量.mES細胞の未分化状態をアルカリホスファターゼ(ALP)活性から評価.DNA付加体については
32P-ポストラベリング法により定量.【結果および考察】mES細胞のDMBA処理によりコロニーサイズが顕著に低下した.この時,明らかな死細胞は確認されなかったことから,細胞増殖の抑制が考えられる.また,ALP陽性コロニーおよび未分化マーカー発現の減少が見られたことから,DMBA処理mES細胞では多分化能の低下が考えられる.以上の細胞応答は,Cyp1a1阻害剤存在下(DMBA-DNA付加体形成を抑制)では消失したことから,これはDNA損傷ストレスに対するmES細胞の防御応答であると考えられる.DMBA処理mES細胞について,
p53およびその標的
p21発現レベルはそれぞれ顕著(
p21は約15倍)に亢進した.一方,p53制御因子ATMの特異的阻害剤存在下では,ALP陽性コロニーの減少が抑制された.以上のことから,DNA付加体形成による細胞増殖抑制および脱未分化は,DNA損傷に対する幹細胞の防御応答であり,ATMを介してp53が異常幹細胞を排除する「幹細胞品質管理機構」の一つであると考えられる.
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八舟 宏典, 川合 正臣, 板橋 恵, 木村 真之, 中根 史行, 三森 国敏, 渋谷 淳
セッションID: P-35
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【目的】遺伝子配列の変化によらずにゲノムの修飾を誘発することで遺伝子発現を変動させるエピジェネティック制御系であるゲノムのメチル化は、発がんのプログレッション過程に関わることが知られている。本研究では、非遺伝毒性肝発がん物質であるPBOによる肝発がん機序へのゲノムのメチル化異常の関与について検討した。【方法】マウス肝二段階発がんモデルを用い、6週齢のICRマウスに2/3部分肝切除を行い、その24時間後に
N-diethylnitrosamine (20 mg/kg) を単回腹腔内投与し、1週間後から0.6% PBOの混餌投与を8週間ないし25週間行った。25週間発がん促進した肝臓のメタカーン固定パラフィン包埋切片を用いて、発がんの環境を与える非がん部において、発がん促進していない肝組織に比べてメチル化の亢進する遺伝子を組織部位特異的サンプリング法とCpGプロモーターマイクロアレイの網羅的解析を組み合わせて探索した。次いでメチル化の亢進した遺伝子に注目して、遺伝子産物の部位特異的real-time RT-PCRならびに免疫組織学的解析を行い、それらの分子の増殖性病変とその周囲における発現変動を検討した。【結果】網羅的な解析より、発がん促進した非がん部において
Ebp4.1及び
Wdr6の有意なメチル化の増加が、
Cmtm6の増加傾向が認められた。また、免疫組織学的解析より、Wdr6及びCmtm6は、PBOの発がん促進により誘発された増殖性病変(前がん病変と腫瘍性病変)で特異的に発現増加を示し、非がん部では発現減少した。【考察】PBOの発がん促進した非がん部において、エピジェネティックな制御による遺伝子発現変動が生じている可能性が示唆された。一方、Wdr6及びCmtm6の免疫組織学的な反応性より、増殖性病変はエピジェネティックな発現制御から逃れている可能性が推察された。以上、Wdr6及びCmtm6は増殖性病変特異的な発現を示したことから、肝発がんへの寄与に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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田邊 思帆里, 青柳 一彦, 横崎 宏, 佐々木 博己
セッションID: P-36
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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幹細胞を始めとする細胞の性質は遺伝子制御により変化することが知られている。本研究においては、幹細胞やがん細胞の性質変化の際に制御される遺伝子を同定するため、間葉系幹細胞と間葉系の性質を有するdiffuse型胃がん細胞において発現が変化する幹細胞関連遺伝子及び上皮間葉転換(Epithelial-mesenchymal transition)関連遺伝子等について検討することを目的とした。間葉系幹細胞と胃がん細胞の遺伝子発現についてマイクロアレイを用いて解析した。幹細胞、がん、EMTに関連する遺伝子をGene Ontology情報及び文献等の情報を用いて選択し、遺伝子パネルを作成して解析した。NCSSソフトウェアを用いてクラスター解析を実施したところ、50倍以上の発現変動の観察された遺伝子群にRGS1 (regulator of G-protein signaling 1)が含まれていた。RGS1はがんに関与することが報告されている分子であり、その遺伝子変異や発現変化ががん細胞の治療薬反応性に関与していることも示唆されている。本研究により、RGS1ががん細胞の性質を示す遺伝子である可能性が示された。RGS1のがん治療における役割については今後さらなる検討が望まれる。
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三木 篤子, 平嶋 昂, 小林 大礎, 小林 亮介, 原田 英樹, 大西 康之, 平塚 秀明
セッションID: P-37
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【緒言】腎障害を予測することは極めて重要であり,非侵襲的かつ経時的に得ることが可能な尿は有用性が高いが,サルの腎障害マーカーに関する報告は少ない.そこで我々は,腎毒性を誘発する薬剤をカニクイザルに投与して経時的に採尿し,尿中バイオマーカーの測定を試みた.加えて,尿及び血清中の従来の腎障害バイオマーカーや,病理組織変化との関連性について比較検討した.
【方法】カニクイザルに,シスプラチンまたはポリミキシンBを静脈内投与した.すなわち,シスプラチンは0.5,1.5及び5 mg/kgを単回投与し,ポリミキシンBは,2,5及び10 mg/kg/dayを2日間反復投与した(各用量N=1).投与開始日を第1日として,投与前,第3,5及び8日に新鮮尿及び血清を採取した.得られた尿を用いて,ヒト用腎障害マーカー測定キット(Kidney Injury Panel 3及び5,Meso Scale Discovery)を用いて電気化学発光法(ECL法)にて測定した.同時に,尿中クレアチニン(uCre),尿中アルブミン(uAlb),尿中N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAG),血清クレアチニン(sCre)及び尿素窒素(UN)を測定した.第8日に剖検し,腎臓を採取して組織学的検査を実施した.
【結果】シスプラチン投与動物では,5 mg/kgの用量でuCre,uAlb,NAGが第3日に一過性の高値を示し,sCre及びUNは第3日以降継続して高値を示した.1.5 mg/kgの用量では,uCre,uAlbが第3日に一過性の高値を示した.一方,ポリミキシンB投与動物では,10 mg/kgの用量で uCre,uAlb及びNAGが第3日に一過性の高値を示した.本学会では,ECL法による腎障害バイオマーカーの測定結果並びに病理組織学的検査との関連性について報告する.
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福井 元子, 松本 康浩, 荒木 誠一, 柴田 誠司, 福井 規雄, 礒部 充威, 長崎 修治, 久田 茂
セッションID: P-38
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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ラットへの低ヨード飼料(LID)の給餌によって尿中の電解質排泄に顕著な変動が認められたので報告する。【方法】8週齢の雌雄SDラットにLIDを3か月間給餌し、経日的に血漿中甲状腺ホルモン濃度、尿中及び血漿中のNa、Cl、K、無機リン(iP)、Ca及びヨード(I)濃度を測定した(但し、Iは尿中濃度のみ)。更に諸臓器の病理組織学的検査も実施した。【結果】LID群では、給餌1週目から尿中Iが低下し、尿中Clが上昇した。尿中iPは給餌初期に急激に低下し、その後漸増した。尿中Caは雄では給餌初期に急激に上昇し、その後は漸減したものの対照群に対しては常に有意に高値であり、雌では、給餌初期から漸増した。尿pHはLID群で低下傾向が認められた。尿量、飲水量、尿中Na及びKには変化は認められなかった。血漿中の電解質濃度はiPの変動を認めたのみであった。血漿中サイロキシン濃度は給餌4週目から低下し、トリヨードサイロニン濃度は給餌終了時のみ低下した。病理組織学的検査では、甲状腺ホルモン低下に起因した甲状腺及び下垂体の変化が認められたが、骨及び腎臓の変化は認められなかった。【追加実験】給餌1週目から尿中電解質が変動したことから、LID給餌3日間の影響について雄性ラットを用いて検討した。その結果、尿中I及びiPの低下、並びにCaの上昇が給餌2日目から認められ、Na及びKは給餌2日目から低下した。【結論】LIDのラットへの給餌により、I欠乏に対応した尿中へのI排泄の抑制が速やかに誘発され、同時に尿中へのCa排泄の亢進とiP排泄の抑制も発生した。骨の組織像や血中Caに変化が認められなかったことから、I欠乏によるCa排泄の亢進は、消化管でのCa吸収の亢進に起因する可能性が考えられた。現在、骨、腎臓及び消化管への影響について、免疫組織学的検討及びマイクロアレイ解析等を実施中である。
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鈴木 慶幸, 小松 弘幸, 門田 利人, 及川 剛, 田口 景子, 筑广 紗弥香, 菅谷 健, 齋藤 明美
セッションID: P-39
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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我々はこれまでに,虚血性及び薬剤性腎障害(Cisplatin単回投与,Gentamicin4回反復投与)において,尿中のL-type Fatty Acid Binding Protein(L-FABP)が腎障害バイオマーカー(BM)として有用であることを報告した(第39,40回日本毒性学会学術年会).L-FABPは腎微小循環障害を反映する虚血・酸化ストレスマーカーであり,本邦及び欧州にて体外診断薬として認可されている.Kim-1やNGALなどの近年報告されている新規腎障害BMで日欧両極において体外診断薬として認可されているBMは無く,L-FABPは非臨床と臨床を橋渡しする有用なBMであると考えられる.今回は,ラットGentamicin腎障害モデルを用いて,病理組織学的に明らかな腎障害を誘発させ,腎障害の進行と尿中L-FABP及び既知の腎障害バイオマーカーの変化を比較検討した.また,腎障害誘発後に14日間の休薬期間を設け,腎障害の回復度と尿中L-FABPの関連についても検討した.
雄性SDラットに,Gentamicinを200mg/kg/日で7日間反復皮下投与し,経時的に尿採取及び頚静脈より採血を行った.
本発表では,尿中L-FABP,尿中腎障害BM(総タンパク,Kim-1,N-アセチルグルコサミニダーゼ),血中腎障害BM(BUN,血清クレアチニン),病理組織学的検査を行い,腎障害の進展と尿中L-FABPと他の腎障害BMの変化を比較検討した結果を報告する.
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舘岡 孝, 桑田 和倫, 小林 雅典, 藤田 卓也, 井上 芳已, 本多 達也, 清水 俊敦, 田中 雅治, 西田 敦之
セッションID: P-40
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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CR-LPFは,長期飼育を伴うげっ歯類を用いた動物実験に適した飼料として開発された低タンパク質食であり,がん原性試験などで汎用されている各種毒性試験への適用が検討されている.
既報(Naeshiro et al.,1998)によれば,同飼料を用いてラットを長期飼育した結果,CR-LPFよりタンパク含量の多いCRF-1での飼育と比較して体重増加抑制のほかに目立った影響は認められていないことが観察されたほか,尿中総タンパク排泄量が低値だったことが報告されていることから,CR-LPFが生体内のタンパク質合成や尿中タンパク排泄に影響する可能性が考えられた.
また,尿中に排泄されるタンパク質のいくつかは,腎臓の機能を示す指標に成り得ることが報告されており,毒性試験に積極的に導入され始めている.
そこで,今回,我々は,CRF-1およびCR-LPFで飼育したラット尿中のタンパク質のうち,腎障害バイオマーカー(BM)として近年,注目されているKim-1,Clusterin,Cystatine C,β2マイクログロブリンおよびNGALを測定することで,CR-LPFの摂取がこれら各種腎障害バイオマーカー排泄に与える影響について確認した.
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張 霊逸, 宗 才, 鯉淵 典之, 市原 佐保子, 藤田 博美, 常 杰, 黄 晋彦, 内藤 久雄, 市原 学
セッションID: P-41
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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先行研究では1BP 暴露労働者で甲状腺刺激ホルモンが上昇し、ラット脳組織でのトランスサイレチン(TTR)発現が上昇していた。1BP曝露よるTTR発現への影響、血清・脳脊髄液中の甲状腺ホルモンレベルの変化を調べた。10週齢雄F344ラット48匹を6匹ずつの4群に分け、800、400、200ppmの1BPおよび新鮮空気に1日8時間、4週間、吸入曝露した。脈絡層、脳海馬、肝臓中TTRのmRNAレベルはリアルタイムPCRで調べた。脳脊髄液遊離T3、血清中の遊離T3、T4レベルはELISAで定量した。脈絡叢におけるTTRのmRNAレベルは脈絡叢では200、400ppm群で有意に上昇したが、海馬と肝臓中では変化が認められなかった。遊離T3レベルは400、800ppm群で脳脊髄液中有意に上昇したが、血清中では変化しなかった。血清中遊離T4がすべての曝露群で有意に減少した。1BP曝露による脳脊髄液中遊離T3と血清中遊離T3、T4の動きは一致しなかった。1BP暴露による甲状腺ホルモン動態への影響について、さらなる解析が必要である。
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松良 阿以子, 神谷 量子, 大石 千代, 香川 祐哉, 田中 郁壮, 松本 奈津希, 加藤 隆児, 井尻 好雄, 林 哲也
セッションID: P-42
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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【背景・目的】糖尿病、脂肪肝、動脈硬化、癌や慢性炎症など様々な疾患において低酸素環境が生じることが知られている。低酸素環境下では薬物代謝酵素であるCYPの発現量が変動することが報告されており、薬物体内動態に影響があると考えられる。しかし、第1相反応(代謝)に係わるCYPについての検討は行われているものの、第2相反応(抱合)に係わるグルクロン酸抱合酵素に関する検討はほとんどされていない。本研究では、ヒト肝がん細胞であるFLC-4細胞を用いて3次元培養下、低酸素負荷時のグルクロン酸抱合酵素mRNA発現量に関して検討を行った。
【方法】FLC-4細胞(5×10
5個)をEngelbreth-Holm-Swarm (EHS) マウス肉腫から抽出した可溶化性基底膜と混合し、24wellディッシュに播種し、37℃、5%CO
2条件下でインキュベーションを行った。その後、各wellに培地500μLを添加し培養を行った。コントロール群は37℃、5%CO
2条件下で培養を行った。一方、低酸素負荷群は37℃、5%CO
2、1%O
2条件下で培養を行った。培養7日目のFLC-4細胞からmRNAの抽出を行い、UGT1A1、1A6、1A9、2B7 mRNAの発現量をreal time RT-PCR法で測定を行った。
【結果・考察】コントロール群と比較してUGT1A1では45%、UGT1A6では42%、UGT1A9では33%のmRNA発現量の減少が認められた。以上の結果から、低酸素負荷によりグルクロン酸抱合酵素の各分子種が同じ挙動を示さないが、変動することが明らかとなった。PXRなどの核内受容体がグルクロン酸抱合酵素の遺伝子発現調節に関与しているとの報告もあることから、分子種ごとに核内受容体を含めた詳細な検討を行う必要があると考えられた。
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池田 絢香, 副島 早織, 横須賀 章人, 三巻 祥浩, 関本 征史, 根本 清光, 大泉 康, 出川 雅邦
セッションID: P-43
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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【目的】化学物質による毒性発現や様々な疾患の発症に、細胞ストレス応答のかく乱が関与していると考えられている。従って、そのかく乱機構の解明は、毒性発現や疾病発症の機序解明、また、それらの予防・治療法の開発に繋がるものと思われる。そこで、本研究では、神経変性疾患、メタボリックシンドロームやがんなどに対して改善効果が期待されている柑橘類果皮成分ノビレチンが、細胞(小胞体)ストレス応答に対してどのような効果を示すかを検討した。
【方法・結果】小胞体ストレス誘導剤ツニカマイシン1μg/mlをヒト神経芽細胞腫株SK-N-SH細胞に単独処理することにより誘発したアポトーシスや細胞ストレス増悪因子thioredoxin interacting protein(TXNIP)発現上昇は、ノビレチン100μMとの複合処理により有意に抑制されることを見いだした。また、このTXNIP発現抑制効果は、ノビレチンを処理したヒト肝がん細胞株HuH-7およびラット線維芽細胞3Y1細胞株でも共通して認められることが明らかとなった。最近、TXNIPの発現抑制に、多様な疾患の薬物治療の標的分子として注目されているAMP-activated protein kinase(AMPK)の活性化が重要であると報告されたため、ノビレチンのAMPK活性化(リン酸化)への効果をさらに検討した。その結果、ノビレチンはAMPK活性化を強力に惹起すること、また、AMPKリン酸化を触媒するliver kinase B1(LKB1)を活性化することを見いだした。
【考察】本研究により、ノビレチンは、LKB1-AMPKの活性化を介して、TXNIPの発現を低下させることで、小胞体ストレス応答のかく乱(結果として誘発されるアポトーシス)を抑制する可能性を見いだした。今後、これら知見を基に、化学物質による毒性発現や疾患発症に関わる細胞ストレス応答のかく乱機構やノビレチンによるそれら抑制機序を更に明確にしていきたいと考える。
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呉 文亭, 市原 学, 及川(多田) 佐枝子, 鈴木 悠加, 常 杰, 橋本 直純, 長谷川 好規, Corina GABAZZA, Est ...
セッションID: P-44
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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The present study investigated effects of exposure to ZnO nanoparticles on pulmonary fibrosis in a mouse model treated with bleomycin (BLM). Female C57BL/6Jcl mice were divided into BLM and non-BLM groups. In each group, three doses (10, 20, 30 µg/mouse) of ZnO nanoparticles with primary diameter of 20 nm were delivered into the lungs through pharyngeal aspiration. Bronchoalveolar lavage fluid (BALF) and the lungs were collected at 10 or 14 days after administration. Exposure to ZnO nanoparticles dose-dependently decreased the body weight and increased the lung weight.
At 10 days after administration, the counts of total cell, neutrophil and lymphocyte in BALF increased in both BLM and non-BLM groups. The levels of IL-1 beta and MCP-1 in BALF also increased in BLM groups, while no significant change was observed in non-BLM groups. Moreover, the levels of such inflammatory cytokines were much higher in BLM groups than those in non-BLM groups. With regard to pathological changes, in contrast to the recovered inflammatory infiltration in non-BLM groups, collagen deposition was observed in BLM groups exposed to 20 µg ZnO nanoparticles at 14 days post administration.
This study showed that exposure to ZnO nanoparticles induced pulmonary inflammation to a larger extent in the BLM-treated mice than the BLM-non-treated mice. The study suggests that BLM-treated mice give a sensitive model for investigation on the profibrotic effects of pulmonary exposure to engineered nanomaterials.
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大林 真幸, 久保田 聡, カワセ 彩, 神山 紀子, 小林 靖奈, 山元 俊憲
セッションID: P-45
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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【目的】リウマチ治療薬であるMethotrexate(MTX)は重症化すると致死的な肺線維化を生じるが、その発症機序は不明な点が多く、安全で有効な薬物治療を提供するには毒性学的側面からの解明が必要である。これまで我々はMTX誘発肺線維化モデルマウスを作成し、肺胞上皮細胞(MAEC)が肺線維芽細胞に比べて細胞障害を受けやすく、線維化発症の起点となる可能性を示してきた。一方、線維化の発症と進行には肺上皮細胞が上皮間葉転換(EMT)により筋線維芽細胞に分化することが重要であることが示唆されている。そこで本研究は、MTX誘発肺線維化発症機序の解明を目的として、肺胞上皮細胞のEMTに焦点を当て検討した。
【方法】MTX誘発肺線維化モデルマウスおよび初代マウス肺胞上皮細胞とヒト由来肺上皮細胞A549を用いた。EMTの評価は細胞形態変化、上皮細胞マーカー(E-cadherin)ならびに筋線維芽細胞マーカー(α-SMA)の発現変化、遊走能を指標とし、Western blot法および免疫組織化学染色法、Wound healing法を用いて検討した。
【結果・考察】MTX誘発肺線維化モデルマウスの肺線維化巣において、E-cadherin陽性細胞とα-SMA陽性細胞が共局在していたことから、MTX誘発肺線維化の過程にはEMTを介した筋線維芽細胞の存在が示された。また、線維化巣には筋線維芽細胞の顕著な集積が認められた。さらに、MTX 1 μM 72時間処置したA549細胞は、EMTの特徴である線維芽細胞様の形態変化およびE-cadherinの減少、α-SMAの顕著な増加、遊走能の有意な亢進が認められ、筋線維芽細胞に分化していることが示唆された。この現象はMAECでも同様であった。以上のことから、MTX誘発肺線維化の過程にEMTを介した肺胞上皮細胞の筋線維芽細胞への分化が重要であると示唆された。
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長谷川 也須子, 久保田 久代, 吉田 緑, 宮川 宗之
セッションID: P-46
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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【背景・目的】実験動物において、呼吸器毒性を検索する投与手法の一つとして気管内投与が利用されている。気管内投与で被験物質を懸濁するために使用する分散媒の種類や投与用量は報告により様々であり、分散媒による肺への影響について比較、検討した報告は少ない。我々は気管内投与で一般的に使用されている生理食塩水、被験物質の性状により生理食塩水が使用できない場合に用いられる蒸留水について、分散媒の種類および投与用量の肺に与える影響について検索した。【材料と方法】8週齢の雄性Crl:CD(SD)ラットに生理食塩水、蒸留水をそれぞれ0.5、1.0、2.0 ml/kg体重で気管内投与し、投与後1、3、8日に剖検を行った。各投与群について気管支肺胞洗浄液(BALF)を用いた生化学的検査および病理組織学的検査を実施した。【結果】蒸留水群の投与後1日でのみBALF中のアルカリフォスファターゼ(ALP)に用量依存性の上昇が観察された。また、生理食塩水群、蒸留水群の全ての投与用量において投与後1日で炎症細胞浸潤を主体とする肺病変が観察され、その肺病変は生理食塩水群の高用量、蒸留水群の全ての投与用量で投与後3日まで、蒸留水群の高用量では投与後8日まで持続した。【考察】本実験では、気管内投与に分散媒として使用される生理食塩水と蒸留水の肺への影響を検索した。その結果、肺への影響は両分散媒とも投与後1日で最も強く認められた。更に蒸留水群の高用量で、投与後8日まで肺病変が持続したことから、蒸留水は生理食塩水に比べ肺への影響が大きいと考えられた。従って、気管内投与の分散媒を選択する際には被験物質の性状とともに、その投与用量、観察期間に十分留意する必要があるものと考えられた。
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中村 仁幸, 堀 寛, 二木 力夫, 武田 健, 梅澤 雅和
セッションID: P-47
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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【背景・目的】疫学研究において、心血管障害及び呼吸器疾患を原因とする患者数と大気中の粒子状物質の濃度との間に正の相関があると報告されている。一方、必須脂肪酸の1つであり、抗炎症作用を有しているN-3系多価不飽和脂肪酸(N-3PUFAs)は、食の欧米化に伴い、摂取量が減少していると言われている。本研究では、脂質組成が偏った食事を摂取するマウスに対しては、ナノ粒子の経肺投与による影響がより顕著に表れるのではないかという仮説を立て、これを検証することを目的とした。大気中の超微小粒子のモデルとしてカーボンブラックナノ粒子(CB-NP)を用いた。
【方法】6週齢の雌性C57BL/6Jマウスを、通常食(CTR群)もしくはN-3PUFAs欠乏食(Def群)でそれぞれ4週間飼育した。CTR群に含まれる食事の脂質は大豆油20%、紅花油55%、ラード25%で調製し、Def群に含まれる食事の脂質は落花生油95%、ラード5%で調製した。CTR群、Def群のマウスをそれぞれVehicle群とカーボンブラックナノ粒子(CB-NP)曝露群に分け、経肺投与し、投与1日後と投与7日後にそれぞれの肺を採取した。CB-NPの投与液はPrintex90をミリQ水中に5 mg/mlで懸濁させ、30分間超音波処理を行った後、口径450 nmのフィルターに通すことにより、95 µg/mLに調製した。一方、Vehicle群はミリQを投与した。定量的RT-PCRを用いて、遺伝子発現量の解析を行った。各々の群間変動の有意性については、期間、食事、曝露の三要因による三元配置分散分析を行った。
【結果・考察】CB-NP曝露により肺でのIL-6、急性期炎症反応のマーカーであるOrm1,2やマクロファージに特異性のあるF4/80の発現量が有意に上昇した。これらのことからCB-NP曝露により肺での炎症反応への誘導が確認された。一方、N-3PUFAs欠乏食の影響によりOrm2やF4/80、自然免疫に関わるTlr4の発現量が有意に低下した。このことからN-3PUFAs欠乏により炎症への誘導が抑えられていると考えられる。
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小林 俊夫, 大嶋 浩, 坪倉 靖祐, 菊池 純一, 橋爪 直樹, 井上 義之, 中井 誠, 安心院 祥三, 古川 浩太郎, 今田中 伸哉
セッションID: P-48
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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ナノ材料は吸入経路でのばく露が懸念されるが、有害性評価のために吸入ばく露試験を実施するには、高度な技術と莫大な経費が必要である。そこでナノ材料有害性の簡易評価法として、気管内投与試験が広く実施されている。しかし気管内投与試験の標準的ガイドラインは整備されておらず、実施機関によって様々な投与条件が採用されており、投与条件の違いが結果に影響している可能性がある。本研究では気管内投与試験の標準化を目的として、投与器具及び投与液量の違いによる試験結果への影響を検討した。まず12週齢、雄のF344ラットを用いて、媒体の最大投与許容液量を検討した。2 mg/mLリン酸二ナトリウム水溶液(DSP)を、投与液量を変えて気管内投与し、投与3日後に解剖して気管支肺胞洗浄液(BALF)検査を実施した。投与には経口投与に使用される経口ゾンデ及び気管内投与専用の投与器具であるMicroSprayer®(スプレーゾンデ)の2種類を使用した。その結果、BALF検査結果に影響を与えず、動物に対して過度のストレスとならないDSPの最大投与許容液量は、経口ゾンデで3 mL/kgBW、スプレーゾンデで2 mL/kgBWであった。次に投与液量の影響を検討するため、DSPに分散したナノ二酸化チタンを複数の濃度で調製し、投与用量が全て3.0 mg/kgBWとなるように、経口ゾンデでは0.5~3 mL/kgBW、スプレーゾンデでは0.5~2 mL/kgBWの液量で気管内投与した。投与3日後のBALF検査結果を比較したところ、経口ゾンデの3 mL/kgBWの液量において炎症反応の減弱が示唆されたものの、0.5~2 mL/kgBWの範囲では投与器具及び投与液量の影響は認められなかった。したがってナノ二酸化チタンの気管内投与試験において、0.5~2 mL/kgBWの範囲では、投与器具及び投与液量の違いは試験結果に影響しないと考えられる。本研究は経済産業省からの委託研究「ナノ材料の安全・安心確保のための国際先導的安全性評価技術の開発」による成果である。
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篠原 直秀, 大嶋 浩, 小林 俊夫, 今田中 伸哉, 中井 誠, 一ノ瀬 尊之, 佐々木 毅, 川口 建二, 張 貴華, 福井 浩子, 栁 ...
セッションID: P-49
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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サイズ、形状、表面コートの異なる7種類の二酸化チタンナノ粒子(P25、MT-150AW、FTL-100、AMT-100、MP-100、TTO-S-3(水酸化アルミコート無)及びTTO-S-3(水酸化アルミコート有))をF344ラットに気管内投与し、肺からのクリアランスを解析した。投与量は、0.67、2.0及び6.0 mg/kg(P25のみ0.375、0.75、1.5、3.0及び6.0 mg/kg)とし、投与3日後、28日後及び91日後に解剖を行い、肺中保持量を分析した。3日後の肺中保持量は、投与量の60%~80%程度で材料間に大きな違いはなく、約30%が気管支繊毛運動により3日以内で排出されたと考えられる。投与91日後の肺中保持量は、TTO-S-3(コート有)以外では、最低用量群で投与量の9.0%~15%であったのに対し、最高用量群では投与量の21%~33%であり、クリアランスの遅延、いわゆるオーバーロードが認められた。TTO-S-3 (コート有)では、投与91日後でも、0.67、2.0及び6.0 mg/kgの投与群で投与量の29%、47%及び60%が肺に保持されていた。1-コンパートメントモデルを用いて、クリアランス速度定数
kを求めたところ、TTO-S-3(コート有)以外では、0.375~2.0 mg/kgの投与量で0.015~0.020 /dayであるのに対し、3.0~6.0 mg/kgの投与量では0.007~0.012 /dayであった。TTO-S-3(コート有)では、0.67、2.0及び6.0 mg/kgの投与量に対するクリアランス速度定数は、それぞれ0.011、0.0049及び0.00076 /dayであった。2.0 mg/kgを超える用量や水酸化アルミコートされた粒子で、クリアランスが大きく遅延することが確認された。本研究は経済産業省からの委託研究「ナノ材料の安全・安心確保のための国際先導的安全性評価技術の開発」による研究成果である。
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鈴木 源, 加藤 尚視, 青木 麻子, 世戸 孝樹, 尾上 誠良
セッションID: P-50
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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【目的】先に我々は経口肺線維症治療薬 pirfenidone (PFD) の粉末吸入製剤 (PFD-RP) を開発し,本剤形は肺局所投与による薬物の皮膚移行抑制により,PFD の高い薬剤性光線過敏症リスクを軽減した.臨床では本副作用のみならず,PFDによる食欲不振や胃不快感などの胃腸障害や肝機能障害が報告されている.これらの副作用もPFD の動態制御により軽減が可能であるという作業仮説に基づき,PFD-RP の有用性について,光線過敏症以外の副作用リスクの観点から評価した.
【方法】PFD を気道及び経口投与後,ラットに evans blue 溶液を経口投与し,色素移動速度から消化管の輸送能を測定した.ラットに PFD 投与後 (30–300 mg/kg),血中バイオマーカーを測定して肝機能への影響を評価し,さらに UPLC/ESI-MS により各臓器への PFD 分布を精査した.
【結果・考察】PFD (100 mg/kg) 経口投与群は有意な小腸輸送能の抑制を示したが,PFD-RP (0.3 mg/rat) 気道内投与群では同現象を認めなかった.PFD の服用により高頻度で報告される食欲不振や胃不快感は消化管輸送能の抑制に一因があると考えられ,新規製剤技術による発症リスクの低減を示唆した.肝機能評価のため血中バイオマーカーを測定したところ,PFD (300 mg/kg) 経口投与群は alanine aminotransferase 活性の上昇傾向を示したが,PFD-RP 投与群では低値にとどまった.薬効発現量 (0.3 mg/rat) の PFD-RP を気道内投与した際,肝臓及び胃・小腸における組織内 PFD 濃度は,PFD 経口投与群と比して極めて低値を示した.すなわち,肺局所への PFD 投与による各関連臓器の PFD 曝露量の低下が副作用リスクを低減する可能性を示唆した.以上の知見より,PFD-RP の適用が現行の PFD 経口投与による特発性肺線維症治療と比較し,副作用リスクが低く,より安全な治療法の開発に寄与することを期待する.
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桑山 隼, 廣森 洋平, 西川 淳一, 中西 剛, 永瀬 久光
セッションID: P-51
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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【目的】核内受容体(NR)であるPregnane X receptor(PXR)は、薬物や異物に応答してCYP3A4等の代謝酵素を誘導することから化学物質の毒性発現にも大いに関与すると考えられるが、PXRリガンドの特異性は生物種により大きく異なる。そのためPXRを介した化学物質の生体影響は動物実験の結果が必ずしもヒトに適応できるとは限らず各生物種に対するリガンド特異性を予め評価しておく必要がある。一方で酵母two-hybirid法を応用したNRのリガンドスクリーニング法は、NRの転写の初期反応である転写共役因子コアクチベーター(CoA)のリガンド依存的な結合の検出によりリガンド活性評価が可能で、スループット性が高い利点を有する。しかし、NRは本来複数のCoAと複合体を形成して働くが、本評価系に用いるCoAは1分子しか選択できず、評価系の信頼性は用いるCoAに大きく依存する。本研究では、酵母two-hybirid法を用いたヒトPXR(hPXR)およびマウスPXR(mPXR)アゴニスト活性評価系の構築を目的に、各々評価系に用いるCoAの選別を中心に検討を行った。【方法】酵母株(Y190株)に、hPXRまたはmPXRリガンド結合領域とGal4 DNA結合領域の融合タンパク、および各CoA受容体結合ドメインを含む部分配列とGal4活性化領域の融合タンパクを発現させた。各々の酵母についてhPXRリガンド(rifampicin, Rif)およびmPXRリガンド(pregnenolone 16α-carbonitrile,
PCN)に対する反応性をβ-ガラクトシダーゼ活性を指標に評価した。【結果・考察】hPXRに関してはPGC1αの部分配列を発現させた酵母がRifに対して最も良好な反応性が得られ、PCNに対しては反応性がみられなかった。またmPXRではTIF2の部分配列を発現させた酵母がPCNに対して最も良好な反応性が得られ、Rifに対しては反応性がみられなかった。以上よりhPXRはPGC1αの部分配列を、mPXRはTIF2の部分配列を用いることで酵母two-hybrid法によるリガンド活性評価系の構築が可能であることが示された。
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後藤 志麻, 出口 二郎, 野村 成章, 船橋 斉
セッションID: P-52
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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近年、薬剤性肝障害の原因として肝臓の非実質細胞群による自然免疫反応の寄与が指摘されており、炎症時に放出される各種サイトカイン等が薬剤性肝障害の発症に関与すると考えられている。自然免疫の誘導と薬剤性肝障害との関連については、LPS等の炎症惹起物質を用いた動物モデルは報告されているものの、in vitroで有用な評価系は未だ確立されていない。炎症惹起物質を用いたin vivoモデルにおいては、LPS等により誘導されるTNF-αが薬剤性肝障害増悪の重要な因子と考えられており、TNF-αが薬剤性肝障害に深く関与している可能性がある。そこで、本研究ではHepG2細胞を用いて、TNF-αを薬剤と併用した際の毒性発現について検証を行った。まず臨床で肝障害を誘発する薬剤として知られるトロバフロキサシンにTNF-αを併用したところ、TNF-αの併用の有無で毒性に差異は認められなかった。そこでNrf2等の酸化ストレス防御機構をヒストン脱アセチル化酵素が制御しているとの報告があるため、TNF-αとの併用群にヒストン脱アセチル化酵素阻害剤として知られるトリコスタチンAをさらに加えたところ、薬物単独群及びTNF-α併用群に比べて細胞毒性が著明に増強した。一方、TNF-α及びトリコスタチンAとの併用による細胞毒性の増強効果は、臨床的に肝障害誘発が知られていないレボフロキサシンでは認められなかった。またジクロフェナクにおいては、薬剤単独に比べてTNF-αのみの併用でも細胞毒性の増強が認められ、TNF-α併用群にトリコスタチンAを加えることでジクロフェナクの毒性はより一層強く現れた。以上の結果より、TNF-αは肝障害誘発薬剤による細胞毒性を増強すること、またトリコスタチンAを加えることでTNF-αによる細胞毒性効果をさらに顕在化することが可能となることが示された。従って、本評価系は自然免疫の誘導が関連する薬剤性肝障害の評価系として有用である可能性が示唆された。
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田中 康浩, 藤居 亙, 北川 義徳, 尾崎 清和
セッションID: P-53
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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【背景】クマリン(CM)は芳香族化合物で、シナモン等の香気成分として知られている。CMは、ラットに対して重篤な肝障害を誘発することが知られているが、機序については十分な検討が行われていない。そこで本研究では、ラットにおけるCM誘発性の急性および慢性肝障害の特徴について、ミトコンドリア(Mt)機能との関連性を中心に評価したので報告する。
【方法】SD雄性ラットにCMを単回、4および28日間強制経口投与した。投与終了後に肝臓を採取し、病理組織学的検査に加えて肝臓から単離したMtを用いて機能マーカーを測定した。また、単回および反復28日目に継時的に採血を行い、CMとその代謝物の血中濃度測定を行った。
【結果】CM単回投与4時間後では、小葉中心部に多数の好酸性顆粒を容れた肝細胞が確認され、Mt機能は低下していた。単回投与24時間後では、顕著な小葉中心性肝細胞壊死が認められ、Mt機能はさらに低下していた。一方、反復投与では、小葉中心性に肝細胞が肥大していた。肥大した肝細胞は、4日間の反復では、細胞内に多数の好酸性顆粒を容れており、28日間では顆粒に加えて微小空胞および好酸性の封入体が形成されていた。Mt機能の低下は、単回投与時と比較して軽微であった。免疫染色および電顕により、好酸性顆粒、微小空胞および封入体はそれぞれ大型化したMt、脂肪滴および拡張した粗面小胞体であることがわかった。血中のCMおよびその代謝物は、単回投与では、投与1時間後までに最高濃度に達した後、12時間後までにそのほとんどが消失した。一方、反復では単回と比較してC maxが低下し、血中からの消失の遅延が認められた。
【考察】ラットにおけるCM誘発性の急性肝細胞壊死にはMt機能異常が関与することがわかった。また、連続投与した場合、代謝あるいは細胞の感受性が変化することでCMに耐性を持つことが示唆された。
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黒岡 貴生, 武藤 信一, 小野里 知哉, 相馬 信司, 林 守道, 田村 啓
セッションID: P-54
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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目的:肝障害マーカーであるALTは,局在性より肝以外の障害を反映し,糖代謝関連酵素であることから糖代謝系の変化に伴い上昇する場合がある。的確に肝障害を反映する血中マーカーとして,肝特異的マイクロRNA(miR)が注目されており,特にmiR-122がALTに比して高感度かつ高特異性マーカーであることが肝毒性物質にて確認されている。しかし,糖代謝変化との関連性は検討されておらず,本研究ではデキサメタゾン(DEX)を投与したラットにおける糖代謝変化が肝特異的miRへ及ぼす影響を検討した。
方法:7週齢Wistarラットに,DEXの2及び10 mg/kgを4日間投与し,初回投与翌日(D1)及び最終投与翌日(D4)に血清及び肝臓を採取した。血清について,ALT及びGLDH活性並びにmiR-122及びmiR-192量を測定した。miRのノーマライズにはmiR-103又はcel-miR-39を用いた。肝臓について,ALT及びGLDH活性測定並びに病理組織検索を行った。
結果:10 mg/kg群では,D1及びD4で血中のmiR-122及びmiR-192が上昇し,D4で血中及び肝臓のALT及びGLDHが上昇した。肝臓ではグリコゲン蓄積像及び細胞障害像が同時に観察された。一方,2 mg/kg群では,D1での変化はなく,D4で血中及び肝臓のALT及びGLDHが上昇したが,血中のmiR-122及びmiR-192の変化はなかった。肝臓ではグリコゲン蓄積像が観察されたのみであった。
考察:血中の肝特異的miRは従来の肝障害マーカーと異なり,糖代謝変化の影響を受けにくかった。従来の肝障害マーカーに加えて肝特異的miRを測定することにより,より詳細な肝毒性評価,特に糖代謝に影響を与える化合物の評価に有用である可能性が示唆された。現在,食餌によるmiRへの影響についても評価中であり,合わせて報告する予定である。
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赤平 莉菜, 稲村 充
セッションID: P-55
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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医薬品候補化合物が製品になるまで、長期間の開発期間と多額の開発費が必要とされるが、多くは様々な理由で開発が中止される。その主な原因の一つが肝毒性である。近年、創薬過程のより初期の探索段階において、細胞機能性試験いわゆるCell-based assay により、簡便かつ迅速に毒性を評価することが、安全性やコスト削減の観点から重要視されてきた。肝毒性評価には主にヒト初代培養肝細胞が広く用いられているが、ロット間差、入手機会や安定的な供給に問題がある。さらに、同一ドナーからの肝細胞を用いて、長期的な試験を実施することは困難である。
ヒトiPS細胞は無限に増殖可能かつ肝細胞等へと分化可能な多能性幹細胞である。すなわち、同一の遺伝的背景を有する肝細胞を半永久的に生産することが可能である。さらに、ヒトiPS細胞は様々な人種・性差・遺伝子バックグランドを有する体細胞から樹立することが可能であり、多様なドナー由来の肝細胞を作製することも可能となる。
ヒトiPS細胞由来肝細胞ReproHepato
TMは2012年に世界で初めて製品化に成功し
凍結細胞として提供可能な機能性細胞である。ReproHepato
TMを利用することで、必要な時に必要な量のヒトiPS細胞由来肝細胞を準備できるようになった。ReproHeapto
TMを96 wellプレートに解凍播種し、既に肝毒性が報告されているアセトアミノフェンなどの種々の化合物を暴露した。その結果、ATP、LDH、そしてGSHを指標としたアッセイ系により、濃度依存的な毒性を検出することができた。さらに、従来の初代培養肝細胞を用いた試験よりもロット間差が小さいことが明らかとなった。
今後、様々なドナー由来のヒトiPS細胞由来肝細胞を用いた評価パネルを作成することにより、既存の評価系では困難であった毒性、例えば体質特異性の高い毒性評価等も予測することが期待できる。
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曽根 瑞季, 幸 克行, 池田 直弘, 西山 直宏
セッションID: P-56
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【背景・目的】脂肪肝は、ヒト臨床で報告されている主な肝毒性表現型の一つであり、脂肪肝炎から肝硬変、さらには肝ガンへと進行する可能性があるため、そのポテンシャルを正確に予測することは重要である。そこで我々は、ハード面(よりin vivoに近い機能を有する細胞の選択)と、ソフト面(毒性発現メカニズムに基づいたエンドポイントの設定)から脂肪肝ポテンシャルを予測する評価系の構築を試みたので報告する。
【方法】脂肪肝評価系に用いる最適な細胞を選択するため、ヒト肝がん由来細胞株であるHepG2とHepaRGを用いて、オレイン酸暴露時の脂肪酸代謝関連遺伝子の発現をreal-time PCR法により比較した。次に、ヒトで脂肪肝を誘発するアミオダロンを被験物質として、脂肪肝の毒性機序を反映するパラメータ(脂肪蓄積量、ミトコンドリア活性)について測定した。さらに2種の毒性パラメータに関し、アミオダロンの毒性発現機序に関与するGSH量測定、CYP3A4阻害試験、遺伝子発現解析の結果から、陽性判断基準の設定を行った。
【結果・考察】HepaRG細胞では、オレイン酸の濃度依存的に脂肪滴合成に関与する遺伝子(CIEDC)の発現上昇が確認されたが、HepG2細胞では同様の変化が見られなかった。このことからHepaRG細胞は、よりin vivoに近い脂肪酸代謝能を持つことが示唆された。次に、HepaRG細胞を用い、アミオダロンを用いた検討から、脂肪肝ポテンシャルは溶媒対照と比較して、脂肪蓄積量1.5倍以上かつミトコンドリア活性80%以下であるときを陽性と判断することが妥当であると考えられた。さらに、この判断基準を用いて医薬品および一般化学品を評価したところ、in vivoと高い相関が得られ、本評価系は脂肪肝ポテンシャルを予測する評価系として有用であると考えられた。
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薄田 健史, 関根 秀一, 野崎 麻友香, 松井 等, 長田 智治, 堀江 利治, 伊藤 晃成
セッションID: P-57
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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[目的]薬剤性肝障害(DILI)は医薬品開発中止や市場撤退に至る重大な有害事象である。胆汁うっ滞型DILIは、胆汁酸の肝細胞内からの排泄阻害に起因した肝毒性を生じることが知られている。胆汁うっ滞型DILIを引き起こす多くの薬物で肝細胞内への胆汁酸蓄積が実証されており、我々はこれまでにサンドイッチ培養肝細胞(SCH)を用いた胆汁酸の蓄積に伴う肝毒性評価法を確立した。しかし本評価系が臨床における胆汁うっ滞型DILI発症リスクを反映できているかは不明である。本研究においては、既存医薬品の臨床における胆汁うっ滞型DILI発症リスクを算出し、ラット・ヒトSCHにおける胆汁酸依存的肝毒性評価との相関性及び本評価系の有用性を検討した。
[方法]DILIが報告されている薬物のうち、胆汁うっ滞型DILI発症率を広く網羅する44化合物を被検薬物として選択した。これら薬物について臨床における胆汁うっ滞マーカーであるアルカリホスファターゼ(ALP)及びγグルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)の上昇頻度を各薬物のインタビューフォームより抽出し、胆汁うっ滞型DILI発症リスクとした。ラット・ヒトSCHに各被検薬物50 µM(エベロリムス, シクロスポリンは10 µM)とヒト血清中の150倍濃度となる胆汁酸を24時間曝露し、細胞から逸脱した乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性を基に細胞毒性を評価した。
[結果、考察]各薬物で抽出したALP及びγ-GTPの上昇頻度の中央値(0.22%,0.45%)を基準として、各薬物のラットSCHでの胆汁酸存在下における細胞毒性についてReceiver Operating Characteristic (ROC)解析を行ったところ、被検薬物の胆汁酸存在下における細胞毒性の閾値がそれぞれ12.2%(ALP),8.6%(γ-GTP)として設定された。またこの閾値におけるALPの検出感度は75%(9/12), 特異度78%(11/14)であり、γ-GTPでは感度92%(12/13),特異度 92%(11/12)であった。ヒトSCHにおいて検討した7被検薬物についてはラットSCHと毒性感受性に種差が見られなかったことから、SCHを用いた胆汁酸依存的肝毒性評価によって臨床でのALPやγ-GTP上昇を伴う胆汁うっ滞型DILI発症リスクの大小を判別可能となることが示された。
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橋本 充弘, 藤原 亮一, 竹中 沙耶, 伊藤 智夫
セッションID: P-58
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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[背景および目的]スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や尋常性乾癬などは薬剤誘導性の皮膚疾患である。イブプロフェン(IBP)やマレイン酸エナラプリル(MAEP)はSJSを惹起することが報告されているが、詳細な発症メカニズムは解明されていない。そこで、本研究では薬剤誘導性の皮膚疾患の発症メカニズムを明らかにするため、IBPの代謝物であるIBP-アシルグルクロニド(IBPG)やMAEPが細胞の増殖や遺伝子の発現量に及ぼす影響について検討した。[方法]IBPGで処置したヒト皮膚角化(HaCaT)細胞の細胞生存率をMTTアッセイ法で解析し、IBPGによる細胞毒性を評価した。薬物の暴露により皮膚細胞内で発現量が変化する遺伝子を探索するために、IBPGで処置したHaCaT細胞とIBPG未処置のHaCaT細胞のRNAをマイクロアレイ法で網羅的に解析した。MAEP処置時の細胞毒性についても、MTTアッセイ法で評価した。MAEPで処置した細胞内の遺伝子の発現量の変化を評価するために、MAEPで処置したHaCaT細胞内の特定の遺伝子の発現量をリアルタイムPCR法で解析した。[結果および考察]IBPGで処置したHaCaT細胞では、細胞生存率の減少が認められた。IBPGで処置したHaCaT細胞では、IBPG未処置の場合と比べて、S100A7aを含む343種類のRNAの増加が認められた。S100タンパク質ファミリーはカルシウム結合性タンパク質であり、細胞内におけるシグナル伝達だけでなく、細胞外に分泌され機能することも報告されている。更に、MAEPで処置したHaCaT細胞においても、細胞生存率の減少が認められた。細胞周期に関わる遺伝子についてリアルタイムPCR法を実施した結果、MAEPで処置したHaCaT細胞においてもS100A7aの増加が認められた。また、MAEPで処置したHaCaT細胞ではS100A7c(Psoriasin)の誘導も認められた。従って、薬剤誘導性皮膚疾患の発症には、S100タンパク質ファミリーの誘導が関与する可能性が考えられた。
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大竹 啓斗, 加藤 尚視, 尾上 誠良
セッションID: P-59
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【目的】経皮剤は皮膚に直接適用されるため薬剤性光線過敏症の発現リスクが高く,それゆえ,創薬初期での光毒性リスク回避が求められる.そのためには各種
in vitro 光毒性試験に加え,薬物の皮膚透過性・滞留性を評価する薬物動態学的評価が必要であるが,それには多くの時間と動物資源を要する.そこで,経皮的 cassette-dosing pharmacokinetic study と各種
in vitro 試験による統合的解析は,経皮適用化合物の高効率的光安全性評価系構築に有用であると作業仮説を立て,benzophenone 誘導体をモデル化合物とした検討を行った.
【方法】benzophenone (BZ), ketoprofen (KT), oxybenzone (OX), sulisobenzone (SB), dioxybenzone (DO), mexenone (MX) に UV/VIS 吸収測定, reactive oxygen species (ROS) assay, 3T3 neutral red uptake phototoxicity test (3T3 NRU-PT) を適用した.6 化合物を propylene glycol に溶解し,ラット腹部に経皮共投与 (各 0.1 mg/rat) 後の投与部位 (皮膚) における薬物濃度推移を調べた.加えて,ラット光毒性試験を実施した.
【結果・考察】全被験物質は高い UV 吸収特性を持ち,BZ, KT, OX, MX において露光時に強い ROS 産生を認めた.3T3 NRU-PT において,BZ, KT の PIF 値はそれぞれ 49.5, 68.9 と非常に高く,この 2 化合物のみが強い
in vitro 光毒性を示した.各化合物のラット経皮共投与後における
Cmax および
Tmax は各化合物間で大きな差があり,化合物毎に異なる経皮吸収性を認めた.KT, MX の皮膚中濃度は他の 4 化合物と比べて高く,KT は投与後 24 h においても皮膚中で高濃度に検出され,すなわち KT, MX の皮膚透過性の高さおよび KT の皮膚滞留性の高さを示唆した.以上から,光毒性リスクは BZ, KT, MX で高く,OX ではやや疑わしく,SB, DO では低いと予測した.これらの予測はラット光毒性試験の結果と比較的良好な対応を示した.今後,予測精度や適用範囲に関してより詳細な検討が必要であると考えるが,本評価系は経皮適用化合物に対する信頼性の高い光安全性評価系として発展が期待できる.
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米澤 豊, 大隅 友香, 世戸 孝樹, 中村 美智, 芦澤 紘子
セッションID: P-60
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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in vivo皮膚光毒性試験ではモルモットが汎用される。今回、我々は一般毒性試験で使用されるSD系ラットを用いた光毒性評価が可能か否かを検討した。
ラットでの光毒性評価の妥当性を確かめる為に、陽性化合物3種及び光毒性報告のある医薬品19種を用いて、Hartley系雌モルモットとSD系雄ラットで経皮投与による光毒性評価を実施し、モルモットとラットの結果の一致率を調べた。投与濃度は陽性化合物については文献値を採用し、医薬品については上限を10 w/v%とした。投与30分後、紫外線(UV-A及びB)を照射し、皮膚光毒性の有無を判定した。その結果、経皮投与で光毒性を示す化合物は、モルモットとラットともに10種であり、ラットを用いた評価はモルモットの評価と同程度の検出力を有することが明らかとなった。
次に、一般毒性試験におけるTK採血用のサテライト群を用いた光毒性試験を想定して、SD系ラットを単回投与群と反復投与及びTK採血群に分け、陽性化合物である8-Methoxypsoralenを経皮投与した。それぞれ最終投与終了後に紫外線(UV-A及びB)を照射し、皮膚光毒性の有無を判定した。その結果、単回投与群と反復投与及びTK採血群ともに光毒性陽性反応を示し、TK採血の実施は光毒性評価に影響を与えないことが確認された。
以上の検討から、ラットを用いた一般毒性試験におけるTK採血用のサテライト群での光毒性評価は可能であることが確かめられた。 一般毒性試験に光毒性評価を組込むことで動物数の削減が可能となり、動物実験の3Rに貢献すると考えられた。
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廣田 衞彦, 跡部 朋美, 足利 太可雄, 上月 裕一, 畑尾 正人, 相場 節也
セッションID: P-61
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
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【背景、目的】香粧品開発において、感作性の評価は非常に重要であり、主に動物を用いた試験(murine local lymph node assay (LLNA)など)で評価されている。しかし最近、複数の感作性試験代替法が開発され、いくつかの代替法におけるガイドライン化が検討されている。また、複数のin vitro試験やin silicoモデルの組み合わせによる感作性強度評価に関する検討も報告され、代替法による感作性の有無だけでなく強度評価に関する関心も高まっている。これまで我々は、日本化粧品工業連合会(粧工連)の共同研究の一環として、複数の感作性試験代替法による感作性強度予測モデルの構築について検討した。本報告では、当時の検討の改良版として、h-CLAT/SH test/ARE assayの組み合わせについて、予測モデルの再構築を検討した。
【方法】In vitro感作性試験として、THP-1細胞のCD86及びCD54発現を指標としたhuman Cell Line Activation Test (h-CLAT) や同じくTHP-1細胞の細胞表面-SH基変化を指標とした SH test、Antioxidant Response Element (ARE) 領域とルシフェラーゼ遺伝子が組み込まれたAREc32細胞を用いたARE assayを用いた。組み合わせについて、各試験法から得られる特性値をニューラルネットワーク解析(ANN解析)に供して、LLNAの閾値(EC3または、非感作性物質の試験最高濃度)を予測するモデルを作成した。
【結果、考察】被験物質数約112から作成したh-CLAT、SH test、ARE assayによるANNモデルの予測値はLLNA閾値と概ね良好な相関性(R=0.8)を示した。
以上の結果より、今回構築したモデルは感作性の強度評価に有効なことが示唆された。
【謝辞】本研究は、日本化粧品工業連合会 動物実験代替専門委員会 感作性代替法ワーキンググループ 2012年度共同研究の成果の一部を引用させていただいております。この場を借りて御礼申し上げます。
【参考文献】竹之内ら;日本動物実験代替法学会第25回大会, P1, 2012
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跡部 朋美, 廣田 衞彦, 足利 太可雄, 上月 裕一
セッションID: P-62
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【背景と目的】これまで化合物の安全性を予測するため、定量的構造活性相関を用いた多くの検討がなされてきた。しかし、化粧品素材の予測性の観点において、必ずしも満足できる結果は得られなかった。そこで、我々は構造情報を詳細に反映すると考えられる分子軌道から得られる記述子、および生体の複雑な機構を解明する手法として期待されるニューラルネットワークを用いて、化粧品素材のリスク評価を可能とするための
in silicoモデルの開発を試みた。また、
in silico評価と複数の
in vitro試験の組み合わせについても検討した。さらに、化合物の毒性発現機序を考慮した類似素材の安全性情報からread-across手法による予測も検討した。本報告では、皮膚感作性における評価に焦点を当てて報告する。
【方法】素材の三次元構造はChem3D Ultra Ver. 10.0を用いて構築し、分子軌道法から得られる記述子はMOPAC2002を用いて計算した。得られた記述子の中から予測に有効かつ独立な記述子を抽出し、Artificial neural networkを用いて解析した。また、化学構造のみならず、生物反応、毒性発現や経皮吸収性等の、毒性発現機構を基にした類似性の考え方の構築を行った。その考え方に基づいて得られた類似素材に関して、既存のデータベースを用いて安全性情報を収集し、皮膚感作性予測を行った。
【結果と考察】化合物206品で検討したモデルは概ね良好な予測性を示した(RMS error=0.64 、R=0.73)。また、類似素材の考え方を構築し、得られた類似素材の安全性情報から皮膚感作性予測を行った結果、ほぼ良好な予測結果が得られた。さらに
in vitro / in silicoモデルとread-across手法を組み合わせることで、より適切な感作性評価が可能になることが示唆された。
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世戸 孝樹, 加藤 尚視, 山田 静雄, 尾上 誠良
セッションID: P-63
発行日: 2014年
公開日: 2014/08/26
会議録・要旨集
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【目的】Reactive oxygen species (ROS) assay は擬似太陽光照射下で被験物質からの singlet oxygen (SO) 及び superoxide anion (SA) の産生を評価する光安全性評価ツールであるが,難溶性化合物への適用性が必ずしも高くない.そこで,本研究ではこの課題を解決するため,界面活性剤を用いて被験物質の溶解度を高めた新規評価系として micellar ROS (mROS) assay の開発を試みた.
【方法】ROS assay の反応混合液に0.5% (v/v) Tween 20 を加えた mROS assay について,光毒性化合物 methotrexate (MTX) 及び光毒性陰性化合物 erythromycin (ETM) を用いて評価系の再現性及び頑健性を検証した.83 種の化合物 (200 µM) を ROS assay 及び mROS assay を用いてそれぞれ評価し,予測精度及び適用性について比較・検証を行った.
【結果・考察】mROS assay の日内及び日間変動はどちらも ROS assay と同等であり,MTX 及び ETM の ROS data から求めたZ’-factor は SO で 0.58 及び SA で 0.95 であった.すなわち,mROS assay は良好な再現性及び頑健性を有することを示唆した.評価可能な化合物数はROS assay で 58 化合物 (69.9%) であったのに対し,mROS assay では81 化合物 (97.6%) であり,すなわち 0.5% (v/v) Tween 20 の添加により評価可能な化合物数を増加させることに成功した.一方,mROS assay でのみ 2 化合物を偽陰性と判定し,mROS assay の予測精度は ROS assay に劣ることが分かった.そこで,ROS assay 及び mROS assay の順に組み合わせて 83 化合物について評価を行ったところ,偽陰性を認めることなく 82化合物 (98.8%) を評価することが可能であった.
【結論】mROS assay は難溶性化合物の光安全性評価に適したツールであり,ROS assay との組み合わせにより,創薬初期段階での光安全性評価に大きく貢献するものと期待する.
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