日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
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ワークショップ 4 医薬品のがん原性評価に対する新たなアプローチ
  • 戸塚 ゆ加里, 中釜 斉
    セッションID: W4-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    がんの発生には環境因子が大きく係っていることが良く知られている。環境中の変異原・がん原物質が生体内に取り込まれ、細胞内に侵入し、核内のDNAに結合する。これらを総称してDNA付加体と呼び、これらDNA付加体がゲノムに変異を誘発する基であると考えられている。最近では、次世代シークエンサーを用いた全ゲノム解析により、様々ながんで特徴的な変異パターンが存在することも明らかになりつつある。従って、がん化に直結するようなDNA付加体の解明が個人レベルの有効なリスク評価に繋がると考えられる。これまでのDNA付加体解析は、化学構造が同定されている付加体が中心であった。しかし、実際には、構造が同定されていない付加体が生体内に多数存在し、これらがヒト発がんに関与する可能性も十分に考えられる。我々はLC-TOF-MSによる総イオン分析を基にして、ヌクレオシドに特徴的な-116.047 Daの開裂損失を起こす化合物を網羅的に検出する方法を確立した(DNAアダクトーム法)。この手法を用い、マグネタイトナノ粒子を気管内投与したマウス肺の解析を行なった。マグネタイトナノ粒子はマウス肺にG:C->A:T及びG:C->T:A変異を顕著に誘発したが、付加体の網羅解析の結果、これら遺伝子変異の基となる付加体を含む複数の付加体を観察することが出来た。また、このマウス肺に観察された付加体の多くは炎症由来のDNA付加体であったことから、マグネタイトナノ粒子は炎症を介して変異を誘発することが示唆された。現在、同手法を用い、中国で多発する食道がんの要因解明を試みている。本手法により、個々人のDNA修飾の全容を質的及び量的に解明できれば、発がんの要因解明やリスク評価等への応用が可能になるものと期待される。
  • 笹野 公伸
    セッションID: W4-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    ホルモン、特にステロイドホルモンは種々の標的組織における細胞増殖他に密接に関与している事から、腫瘍/癌化に大きく関与する。 中でもエストロゲン、アンドロゲンを中心とした性ステロイドは男性では前立腺癌、女性では子宮内膜癌、卵巣癌そして乳癌の発生に密接に関与する事はよく知られている。 こられのいわば古典的な性ステロイド依存性腫瘍に加えて最近では肺癌、大腸癌、胸腺腫等の一部でもこれら性ステロイドホルモンが癌化他に深く関与している事が示されてきている。 この性ステロイドが関与する発癌機構で動物実験と異なる事として、腫瘍組織局所での性ステロイド代謝による影響があげられる。 すなわち性ステロイド作用は通常血中のホルモン濃度と標的細胞における受容体の有無で規範される事が原則であるが、例えばヒトの場合エストロゲン依存性乳癌が発症してくるのはむしろ血中のエストロゲン濃度が極めて低下する閉経期以降が多い。この現象は受容体が発現している標的組織中で、閉経前後でその血中濃度があまり変わらない副腎皮質網状層由来の生物学的活性の低い男性ホルモンがアロマターゼ他の酵素によりエストロゲンに転換され作用する事に起因している。 このように血中のホルモン濃度に関係なく標的組織でホルモンを代謝/産生して作用する機序は従来の“Endocrinology”に比べて“Intracrinology”とも呼ばれ、多くの性ステロイド依存性腫瘍の発生/進展に際し大きな役割を果たしている事が明らかにされてきている。 このIntraccine機構はサイトカイン、成長因子等種々の要素による局所でホルモンを活性化、あるいは非活性化する酵素群の発現動態が影響され、これらのホルモン依存性は発癌機構も単に血中のホルモン濃度と標的細胞の受容体の発現量だけで規範されない。このようにホルモン、特に性ステロイドが関与するヒト発癌/腫瘍発生機構は非常に複雑であり、全身/組織/細胞レベルの総合的な解析が欠かせない。
  • 福田 良
    セッションID: W4-5
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    医薬品のげっ歯類を用いた長期がん原性試験でみられる腫瘍の中には、その発生機序がげっ歯類に特異的でヒトへの外挿性が乏しいと考えられているものもある(例:PPARα作動薬による肝臓腫瘍、D2阻害薬による乳腺腫瘍、酸分泌抑制薬による胃カルチノイド腫瘍)。現在、医薬品のがん原性試験ガイドライン(ICH S1)の変更に向け、がん原性試験の結果及びヒトにおける発がんリスク評価を予測する「前向き調査」が日米欧の3極で進行中であるが、がん原性評価の証拠の重み付け(WOE)として、病理変化(過形成、肥大性変化等)、遺伝毒性の有無及びホルモン作用のNEG CARC Rat基準[1]に基づくがん原性陰性の予測に加え、薬理作用と腫瘍発生の関連性がWOEの一つとして重要視され、がん原性評価文書(CAD[2])の作成時には十分に留意することが求められている。日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 基礎研究部会のがん原性評価タスクフォースチームでは遺伝毒性を示さない医薬品のげっ歯類における発がん性に関する情報を収集し、げっ歯類特異的と考えられている約15種類の腫瘍について、誘発化合物の薬理及び毒性の公知情報と腫瘍の発生機序(MOA)に関した広範な文献検討を行っている。開発医薬品の薬理作用あるいは毒性学的変化に既知のMOAとの関連性がみられる場合は、ラットがん原性試験結果をより精度高く予測することが出来、さらに、そのMOAがげっ歯類特異的であるかの考察と、ヒトでの発がんリスクを的確に評価しうる科学的妥当性を示すことで、ラットがん原性試験の実施免除を求めるカテゴリー3aに分類することが可能であると考えられる。
    本発表では、調査情報を基に、薬理作用からの発がん予測との観点から、げっ歯類特異的と考えられる腫瘍及びその機序、ヒトにおける発がんリスクに関して最新の事例を含めて概説したい。
    [1]:Negative for endocrine, genotoxicity, and chronic study-associated histopathologic risk factors for carcinogenicity in the rat)、[2]:Carcinogenicity assessment document
  • Nancy BOWER
    セッションID: W4-6
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    As changes to carcinogenicity assessment of pharmaceuticals are being considered through ICH S1 modification, the weight-of-evidence approach being proposed opens up much broader opportunity for alternative short term mouse models to play a more expansive role in the future of pharmaceutical carcinogenicity testing. Recent experience with alternative transgenic mouse models in pharmaceutical development will be summarized, and the heightened value of using these animals from a scientific and business perspective will be described. The focus will be on the p53+/- and rasH2 mouse models, with which the pharmaceutical industry has the greatest experience and which have the highest level of acceptance by Regulatory Authorities. The p53+/- mouse model may be the preferred model for compounds with direct or equivocal evidence of genotoxicity, while the rasH2 mouse model developed by the Central Institute for Experimental Animals in Japan, is the only model acceptable for compounds with positive, equivocal or negative genotoxicity findings. The rasH2 model is becoming the choice of pharmaceutical companies that have adopted an alternative mouse model into their carcinogenicity risk assessment paradigm. The proposed modification of the ICH S1 guideline addresses the elimination or replacement of a 2-year rat study based on a weight-of-evidence argument to improve human risk assessment while reducing, refining, and replacing animal testing. In case-by-case situations, the alternative mouse models have the potential to contribute to this weight-of-evidence, and may be the only carcinogenicity study needed to adequately assess carcinogenic risk.
ワークショップ 5 食品関連化学物質のリスク評価上の問題点と今後の対応
  • 佐藤 洋
    セッションID: W5-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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     リスク評価に用いられるデータセットは様々で、一定のフォーマットのデータセットが諮問に添えられることもある。環境汚染物質では疫学調査の論文があることが多く、食品安全委員会でこれまで行ったメチル水銀・カドミウム・鉛等の重金属環境汚染物質の食品健康影響評価等では、ヒトのデータが用いられた。動物実験からの外挿の必要性がない点ではメリットがあるが、もう一方ではヒトのデータであるが故に、各種の交絡因子が存在したり、一般化にあたって限界がある場合もある。メチル水銀のリスク評価においては、出生コホート研究の結果から胎児をハイリスクグループとして妊婦において1週間当たり2.0μg/kg体重(Hgとして)を耐容摂取量とした。充分に考慮されなかったこととして、1) 栄養素も含めた食品中の他の成分との交絡作用、2) ばく露指標とした毛髪水銀濃度のパーマネント施術による低下、3) 成人におけるメチル水銀ばく露が冠動脈疾患等のリスクファクターであるとの研究結果等がある。その後研究が行われているが、評価を覆すような結果は得られていない。鉛の一次報告(2013年3月)では、小児の血中鉛濃度と知能指数(IQ)等への影響との関連を調べた最近の研究に基づき、血中鉛濃度が4μg/dL以下であれば、有害影響は認められないと結論づけられた。一般成人については、職域での疫学研究のデータを基に、ベンチマークドース(BMD)法を用いて、神経系への影響のBMDLを算出し、血中鉛濃度10μg/dL以下であれば有害影響は認められないと結論づけられた。しかしながら、多くのモデルが提唱されているものの、それらを適用して血中鉛濃度から耐容摂取量を設定することが困難で、血中鉛濃度から摂取量に変換に関してあらたな知見が蓄積された場合に耐容摂取量を検討することにされた。本講演ではこれらの経験やそこから得られる考察を述べたい。
  • 山添 康
    セッションID: W5-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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     化学物質を投与した後、毒性が種を越えて共通に認められる時もあるが、むしろ実験動物種間で違いを観察することが多い。現在、毒性の種差は作用機序と体内動態の両面の違いに由来することがわかっているが、このような種差は一定せず、毒作用のタイプや物質群によっての出現の様態が異なる。このため毒作用のヒトへの外挿が問題となる。
     核内受容体については、代謝酵素の誘導機序の研究から肝における核内受容体の解析がスタートし、肝臓における核内受容体の多様性と機能の違いが分子レベルで明らかにされ、現在細胞機能との連関が盛んに解析されている。これらの背景には、肝で高発現しているPPARa, LXRa, PXRおよびCARのシグナル伝達を活性化する化学物質、例えばフェノバルビタールやクロフィブラートはげっ歯類に長期間投与すると造腫瘍性を示すこと、またこれら核内受容体の欠損マウスが非感受性であることがある。
    またPXRやCARのリガンド結合部位の配列にはげっ歯類とヒトで違いがあるためこれら受容体を活性化する物質の作用には種差が認められている。この違いは甲状腺機能異常について知られているように、代謝酵素・トランスポーターの誘導を介した種選択的な体内動態異常を誘発し、結果的に臓器毒性発現の種差を生じる可能性がある。
     げっ歯類と異なり、フェノバルビタールやクロフィブラートはヒトでの使用経験からヒトへの発癌性はないとされている。核内受容体のどのような機能の種差がフェノバルビタールやクロフィブラート等の発癌性の違いを生じるのかについて、ヒト型受容体発現マウス等を用いて解析が進められている。
    ここでは安全性評価における核内受容体機能の種差の取り扱いについて議論したい。
  • 納屋 聖人
    セッションID: W5-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    本ワークショップの趣旨である「食品関連化学物質のリスク評価上の問題点と今後の対応」に沿って、食品安全委員会農薬専門調査会で評価した化合物のうち、トリアゾール化合物の生殖発生毒性について事例を紹介する。
    農薬を評価するにあたって必要とされる毒性試験としては、急性毒性(経口、経皮、吸入)、皮膚刺激性、眼刺激性、皮膚感作性、急性神経毒性、急性遅発性神経毒性、反復毒性(90日間経口、21日間経皮、90日間吸入)、反復経口神経毒性、反復経口遅発性神経毒性、1年間反復経口毒性、発がん性、繁殖毒性、催奇形性、変異原性試験などがある。これらの毒性試験成績を評価し、種差や個体差を配慮してヒトに対する健康影響評価を行っている。各種毒性試験から得られた無毒性量(NOAEL)のうち最も低い無毒性量を用いて安全係数で除した値を一日摂取許容量(ADI)と設定する。その際に安全係数として通常は100を用いる。その根拠として、ヒトと実験動物の感受性のちがい(種差)を配慮した10倍、またヒトの個体差を配慮した10倍を設定する。種差あるいは個体差において更なる配慮が必要な場合には追加の係数が加わる。農薬専門調査会ではこれまでに多くの農薬を評価している。そのなかで、トリアゾール化合物において認められた生殖発生毒性の事例を紹介する。
    トリアゾール系農薬の共通代謝物である1,2,4-トリアゾール、トリアゾールアラニン、およびトリアゾール酢酸について検討したところ、1,2,4-トリアゾールでは精巣に対する影響や、胎児に口蓋裂・骨格変異の発生増加が認められた。トリアゾールアラニン、トリアゾール酢酸では生殖発生毒性は認められなかった。
  • 西川 秋佳
    セッションID: W5-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    一般に発がんには多段階の過程があるとされ、最初に遺伝子にキズがつき、キズが修復されないと細胞が変異し、がん細胞の芽になる。その芽の多くはアポトーシスや免疫によって排除されるが、不死化して自律性増殖能を獲得すると腫瘍として増殖し続けることになる。このように、発がんに至る過程には様々な防御機構が存在するが、それを悉くかいくぐった細胞ががん細胞になると考えられる。発がんの初期段階に位置する遺伝子のキズとその修復に関するエビデンスを解析するのが遺伝毒性試験であり、発がん性全般を予測することには当然無理がある。事実、遺伝毒性試験とげっ歯類における発がん性試験との成績を比較した検討では、相当の食い違いが見られている。しかし、現行の発がん性に関するリスク評価では、閾値の有無が遺伝毒性の結果によって決められており、それによって評価の方法が変わってくることから、遺伝毒性試験の持つ意義は依然として極めて大きいといえる。遺伝毒性に関連するOECD試験法ガイドラインは最近見直され、現在16の試験法が存続している。では一体、遺伝毒性とは何を意味するのであろうか。広くは、DNA付加体形成から形質転換までを含む。一方、リスク評価の場でしばしばお目にかかるのが、Ames試験、染色体異常試験およびマウス小核試験である。メカニズム的には、遺伝毒性を直接的DNA反応と染色体異常に大きく分けることができるが、後者においては閾値を設定できるとする考え方が一般的になりつつある。さらに、直接的DNA反応物質であっても遺伝毒性に閾値が存在する可能性が指摘されている。ここで重要なのは、遺伝毒性に閾値が存在するかということと発がん性に閾値が存在するかは分けて考えることであろう。発がん性が生体において多段階の過程を経て発生することを考慮すると、直接的DNA反応物質ですら生物学的な閾値を有する可能性は高いと言えそうである。
ワークショップ 6 複合型毒性試験の実施に関する現場でのQ&A
  • 濱田 修一
    セッションID: W6-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    ICHの遺伝毒性ガイドライン[S2(R1)]には遺伝毒性に関するエンドポイントの一般毒性試験への組込みに関する記述がなされ,組込み試験が推奨されているが,その普及は進んでいない.その第1の原因は遺伝毒性エンドポイント組込みによる一般毒性試験への影響である.この影響には手技的なものと試験結果へ影響を及ぼすものとがある.一般毒性試験結果に影響を及ぼす要因としては採血,投与回数,最終投与から剖検までの時間等があげられ,組込み試験導入の大きな妨げとなっている.第2の原因は組込みによる遺伝毒性試験感度の低下である.従来の遺伝毒性試験の多くは短期型の試験であり,その感度はCmaxに依存するため,反復投与一般毒性試験に組込むことで最高用量低下に伴う遺伝毒性物質検出感度低下をもたらした.しかしながら,精度の高いリスク評価を行うために,一般毒性だけでなく遺伝毒性や安全性薬理など多くのエンドポイントを同一動物で同時に評価できるメリットは計り知れない.現在開発中の反復投与肝臓小核試験法は一般毒性試験の手技にも試験結果にも全く影響を与えず,低用量反復投与でも高感度に遺伝毒性物質を検出できる優れた試験系であり,昨年末に開催された遺伝毒性に関する国際ワークショップ(IWGT)においても高い評価を得た.この反復投与肝臓小核試験法に関する共同研究の最新の成果およびIWGTでの議論を紹介する.また,現在の組込み試験の問題点を見直し,どのようにすれば一般毒性試験に簡易に組込めて精度の高い遺伝毒性評価,安全性リスク評価ができるか報告する予定である.
  • 出口 芳樹
    セッションID: W6-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    医薬品開発における非臨床安全性試験のうち安全性薬理試験(SP)は一般的にはSPガイドラインに基づき実施されているが,「医薬品の臨床試験および製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」の2010年改正によって一般毒性試験にSPのエンドポイントが組み込まれつつある。心血管系のSPには主に大動物を用いてテレメトリー送信器を体内に埋め込み,無麻酔・非拘束条件下にて血圧,心拍数および心電図を評価するテレメトリー(TM)法がある。TM法は外科的処置,TM測定用の専用ケージおよび受信機を備えた実験室が必要であることから,心血管系評価を一般毒性試験に組み込む場合には別の方法を考えなければいけない。その方法として動物を拘束して血圧を測定する非観血式血圧測定法があるが,この方法はTM法と同程度に血圧への影響を検出できるが,経時的測定が困難である。心電図測定には無麻酔・非拘束条件下で測定可能なホルター心電図が有用で,外科的処置が不要な体外ジャケット式TMシステムは前述のTM法と同等の精度で心電図への影響を評価することができるが,実験室への実験者の入室だけで心拍数が増加するので,TK採血日は避けるべきである。呼吸系のSPは大動物では呼吸数およびヘモグロビン酸素飽和度などを指標に評価されるが,呼吸数は目視での評価となる。中枢神経系のSPは小動物と大動物の双方で評価できるが,大動物では初回投与日にTK測定用に採血することが多く,その影響が現れる。このように一般毒性試験へのSPの組み込みにはデメリットもあるが,反復投与による影響も評価することができ,また,病理組織学的変化やTK結果とSPの結果を関連付けることができる。したがって,SPを組み込んだ複合型毒性試験の実施の是非を当該開発品の既存の非臨床データを評価してケース・バイ・ケースで慎重に判断する必要がある。
  • 韓 秀哲
    セッションID: W6-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    近年、動物倫理についての認識が広がり、3R (Reduction、Replacement、Refinement) に基づき、実験動物の使用、動物実験の実施が厳しく制限されるようになっている。特に欧州では、化粧品開発および承認申請で動物実験を禁止しており、実験動物としてイヌやサルのような人間の伴侶動物や人間と似て知的能力が高い動物の使用ができなくなった。このような背景を受け、動物実験に変わる代替毒性法 (replacement) の開発は急速に進んでいるものの、毒性試験すべてに対する代替法は確立されていない。また、医薬品などの承認申請において、安全性を評価する上で動物実験結果が必要であり、最低限の動物数を使用 (reduction) して苦痛を軽減すること (refinement) などの対応が重要となっている。
    そこで、動物数の最低限の使用および苦痛を軽減する方法として、霊長類におけるイメージ装置の活用について紹介する。霊長類は、人間と遺伝的に最も類似した種で、毒性試験に適しているが絶滅危機動物に資源の確保や飼育などが難しく、価格も高価であり、毒性試験の遂行には様々な困難がある。イメージ装置を利用した毒性試験や薬効試験は、毒性や病態の進行の様子を動物の犠牲なしに確認でき、試験の持続的な進行や完了などの時期を適切に判断できるものと期待されるとともに、動物福祉にも叶う動物実験のモデルになる。さらに、動物を犠牲にすることなく標的臓器 (target organ) を確認できる長所があり、不要な動物の犠牲と使用を防ぐ重要な方法となる。最近、我々はコンピュータ断層撮影 (Computed tomography、CT) の使用により、霊長類での定量的評価を行う標準型モデルを構築する研究を実施しており、これにより肺疾患の重症度の評価と肺機能検査 (pulmonary function test) の客観的な診断に活用できることを期待している。また、老人性疾患や成人病などに関する研究を向けて、長期間のプロジェクトを計画しており、こうしたCT研究結果は、磁気共鳴画像法 (Magnetic resonance imaging、 MRI) との組み合わせにより、身体のすべての臓器はもちろん、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳卒中、脳梗塞などのような脳疾患モデルの製作などにも良い研究のツールになる可能性があるものと期待している。
  • 南谷 賢一郎
    セッションID: W6-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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     医薬候補品の非臨床安全試試験においては、通常、正常動物を用いて安全性の評価が行われている。Olsonらの研究(Reg Tox Pharm, 32, 56-67, 2000)では、ヒトの臨床試験で認められた副作用の71%は正常動物を用いた一般毒性試験において検出可能であることが示され、正常動物を用いた毒性試験は有用と解釈されている。しかし、逆に言えば、29%の副作用は正常動物では検出不能と考えることもでき、また、臓器別に分類してみると予測性の低い臓器が存在することも事実である。このような背景の下、臨床での副作用の予測性向上を目的として様々な取り組みが行われており、病態モデル動物を用いた安全性評価もアイデアの一つとして挙げられる。正常動物で認められたある種の毒性が、病態モデル動物において顕在化するか、逆に消失(減弱)するかを検証することは、ヒトでの副作用のリスク評価に重要と考えられる。また、正常動物で認められた毒性の機序解明にも病態モデル動物は有用であろう。しかしながら、承認申請資料を調べる限り、病態モデル動物を用いて医薬候補品の安全性を評価している事例は非常に少なく、実施例の多くは臨床で認められた副作用の機序解明を目的としているのが実情である。前臨床段階において病態モデル動物を用いて患者さんの副作用リスクを評価しているケースは非常に限定的と考えられる。
     本発表では医薬候補品の安全性評価における病態モデル動物の使用の現状、使用する際の課題を概説し、今後の取り組みについて議論したい。さらに、薬物性肝障害に焦点を当て、肝障害の検出力を高めた病態モデル動物に関する論文等の知見を紹介し、それらの使用法についても議論したい。
  • 米澤 豊, 宮内 慎, 竹藤 順子, 宮田 英典, 西山 義広
    セッションID: W6-5
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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     近年、動物愛護の観点から使用動物の3Rs(削減、代替、改善)の精神に則った動物試験の実施が求められている。これを受けて製薬業界においても、毒性試験を実施する際に、一つの試験からできるだけ多くの安全性、毒性情報を得るため、遺伝毒性評価または安全性薬理評価を毒性試験に組み込む複合型毒性試験の基盤研究が進められている。
     複合型毒性試験の実施については、試験数及び使用動物数の削減等のメリットがあるものの、追加評価系が反復投与毒性試験結果に及ぼす影響の有無、反復投与における動物への毒性が追加評価系に及ぼす影響の有無、単独及び複合型試験間における条件設定の差異、従来の試験法との結果の一致率等、考慮しなければいけない事項も多い。
     本セッションでは、複合型毒性試験を実際に実施されている諸先生方に一般毒性試験への遺伝毒性、安全性薬理評価の組込み、病態動物を用いた毒性評価、サル反復投与毒性試験へのイメージング技術の導入等についてご講演いただいた内容をもとに、複合型毒性試験の現場レベルでのQ&Aや複合型毒性試験特有のメリット・デメリット及び今後の展望について総合討論を行い、複合型毒性試験の特徴を理解するとともに、今後の試験法検討の一助となるよう議論を進めていきたい。
ワークショップ 7 医薬品の生殖発生毒性評価のためのパラダイムシフト
  • 三分一所 厚司
    セッションID: W7-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    ICH 生殖発生毒性試験ガイドラインS5(R2)は、1993年の原文作成以降改正が加えられてきたものの、その内容は殆ど変わっていない。 ただし、以後作成されたICH M3(R2)、S9、S6(R1)ガイドラインの中で生殖発生毒性試験に関する記載は比較的開発後期以降の実施になったこと、1種の動物種で明らかな生殖発生毒性が認められた場合には他の種の試験は省略が可能であること、霊長類を用いた新たな試験法の記載等、生殖発生毒性試験の実施方法が変化してきている。 この様な情況の中、ICHS5(R2)ガイドラインの内容を検討し直す必要が生じてきている。 ICH大阪会議(2013年11月)では、Safety Brainstorming Session が開催され、次期ICHのsafety領域のトピックスが検討された結果、3極から生殖発生試験ガイドラインICHS5(R2)の改訂が強く望まれたのも当然のことである。 また近年、非臨床試験において動物福祉の観点から3R’sが強く求められており、可能な限り試験数、動物数の削減が検討することが必要である。ICHタリン会議(2010年5月)以降、胚胎児発生毒性における非げっ歯類としてのウサギ試験の必要性について議論が継続されてきており、ESTやゼブラフィッシュを用いた代替試験法の活用とその実用化が検討されてきている。 製薬協 医薬品評価委員会 基礎研究部会においては、ICHS5(R2)の改訂を見据え、胚胎児発生毒性試験におけるラットとウサギの2種の動物種を使う必要性を検証するために、過去に実施したアンケート調査のデータベースの再解析に着手している。 この解析はラットおよびウサギの胚胎児発生毒性試験の試験結果を比較検討し、ラットあるいはウサギのみで観察される特有の生殖毒性の有無を検証することにより、1種の動物種で生殖発生毒性を評価することが可能か否かの判断の一助となると考えられる。これらは、ICHS5(R2)の改訂作業の際の根拠資料として役立つことが期待されるものである。
  • Jan-Willem VAN DER LAAN, Peter T. THEUNISSEN, Aldert H. PIERSMA, Jane ...
    セッションID: W7-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    The impact of testing in a second species for embryofetal developmental toxicity was discussed during a 2010 ICH Workshop in Tallinn, Estonia. It was proposed to review the frequency with which the results from studies in the rat versus rabbit have driven the lowest observed adverse effects level (LOAEL) and exposure margins in risk assessment for pharmaceuticals. The goal of this retrospective analysis is to better understand the implications of either postponing the testing in one of the two required species or waiving the need for one of the two embryofetal toxicity testing in specific circumstances. The ILSI Health and Environmental Sciences Institute’s Developmental and Reproductive Toxicology Technical Committee (HESI-DART) organized a cross-industry data survey in which anonymized embryofetal development and toxicokinetic study data from marketed and unmarketed drugs were submitted for analysis.
    Additionally, compounds for which rat and rabbit data were derived from the files of the Medicines Evaluation Board. The two sources have accumulated data from more than 800 studies spanning more than 400 compounds which have been entered in US EPA’s ToxRefDB database. Fetal and maternal effect levels are being determined to address species sensitivity based on dose and internal exposure. In addition, the nature and severity of embryofetal findings in the rat and rabbit is being reviewed to establish which differences of embryofetal effects between species are driving risk assessment. Results will be discussed in the presentation. This comprehensive data survey will support integrated testing strategy for developmental toxicity testing of pharmaceuticals.
  • Gerhard F. WEINBAUER
    セッションID: W7-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    Nonhuman primate (NHP) models play an important role in the development and safety assessment of (bio)pharmaceuticals depending on the particular properties of the drug candidate. In many instances, the experimental use of NHPs is subject to special regulations and animal welfare considerations among which the 3R principles are of pivotal importance. Since NHP models will unlikely be replaced by alternatives in the near future, 3R efforts should focus on reduction and refinement. For reduction, some guideline changes related to biologics –ICH M3(R2) and ICH S6(R1) – can provide an option for using lesser NHPs. ICH S6(R1) makes specific recommendations on how many live infants are required per group for a NHP pre- and postnatal development study. This recommendation in conjunction with the use of reference data and normogram data can be used to reduce the number of NHPs needed for developmental toxicity testing. Also, under certain circumstances, the conduct of dedicated reproductive toxicity evaluation as per ICH S5(R2) can be incorporated in chronic toxicity studies thus further lowering the demand for NHPs. Importantly, refinement should be a key focus of any 3R efforts in order to optimize the use of NHP models. Recent work has provided statistical power estimates for some fertility parameters relative to group size that will aid developing appropriate study designs. Also, the potential of combining pre- and postnatal testing with juvenile toxicity testing has been raised. In summary, various options are available to optimize NHP DART testing in the spirit of 3R.
  • 田中 利男, 西村 有平, 島田 康人, 梅本 紀子
    セッションID: W7-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    国際的な臨床第二相における危機的状況の原因が薬効と毒性にあることに対して、米国NIHは2011年10月に、全世界にインパクトを与えた創薬戦略としての定量的システムズ薬理学(Quantitative and Systems Pharmacology)白書を報告しました。一方、ゼブラフィッシュのゲノムはヒトと約80%の相同性があり、遺伝子操作やゲノム編集が容易で、臓器形成が著しく早く多産であり、動物愛顧との調和性が高いことから、欧米では早くから活用されています。さらに、96穴プレートで、1mg以下の各化合物によりin vivoにおける薬効と毒性の大規模スクリーニングが可能な新しいヒト疾患モデル動物であり、欧米では広く活用され、今後我が国でもガイドラインに採用される予定です。さらに我々は、定量的ライブイメージングを実現するために、数多くの色素欠損ラインや細胞特異的蛍光蛋白トランスジェニックゼブラフィッシュの交配を繰り返し、各ヒト疾患モデルのライブin vivoイメージング用ゼブラフィッシュ(MieKomachiシリーズ)を創成しております。一方トランスジェニックゼブラフィッシュでカバーできない生体内細胞ライブin vivoイメージング用プローブ(ZMシリーズ)を多数創製し、各毒性イメージングに活用しています。これらの基盤技術をさらに強化して、オミックスデータに対応できるフェノームデータベースを構築するため、ライブin vivoイメージングをコアに可視化、自動化、高速化、定量化、高度化、高密度化等の実現を目指しています。このようなゼブラフィッシュによるシステムズ薬理学(Zebrafish-based Quantitative and Systems Pharmacology;ZQSP)の生殖発生毒性学への応用によるパラダイムシフトについてご報告いたします。
  • 鈴木 紀之, 永堀 博久, 斎藤 幸一
    セッションID: W7-5
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    我々はES細胞から心筋への分化過程において、発生毒性物質との関連が示唆される複数のマーカー遺伝子を同定した(Suzuki et al., J.Toxicol.Sci.,2011)。また、マーカー遺伝子の中から心臓分化に重要な遺伝子であるHand1遺伝子に着目し、その発現量をルシフェラーゼ活性で簡便にモニター可能なマウス組換えES細胞株(Hand1-ES細胞)を用いたレポータージーンアッセイによる新規発生毒性予測試験法(Hand1- EST法)を報告した(Suzuki et al., Toxicol. Sci.,2011)。Hand1-ESTは複数の化合物の評価結果から、既存のESTと同等以上の予測性があり、短期間で多数の被験物質を評価可能なスクリーニングに適した方法である。一方、Hand1-ESTを含めた従来のESTは、代謝や胎盤移行性の影響を考慮できない等の点から、発生毒性の動物実験代替法としてのテストガイドライン化には改良の必要性が指摘されていた。そこで、我々はテストガイドライン化を視野に入れた精度向上を目的にHand1-EST法に改良を加え、新たな予測試験法であるHand1-Luc ESTを開発中である。本発表では、医薬品や化学品等を含む複数の物質で検証結果とともに、OECDテストガイドライン化を目的とした国際バリデーション試験の現状についても報告したい。
ワークショップ 8 医薬品の催不整脈作用のトランスレーショナルリサーチ
  • 板野 泰弘
    セッションID: W8-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     ヒト用医薬品の心室再分極遅延(QT間隔延長)の潜在的可能性を非臨床及び臨床で評価するためのICH(日米EU医薬品規制調和国際会議)ガイドラインとして、S7B(ヒト用医薬品の心室再分極遅延(QT間隔延長)の潜在的可能性に関する非臨床的評価について)及びE14(非抗不整脈薬におけるQT/QTc間隔の延長と催不整脈作用の潜在的可能性に関する臨床的評価)が2005年に制定された以降、各製薬企業は両ガイドラインを踏まえた医薬品開発を進めている。このような状況下で、2013年7月にFDAが①2015年にThrough QT(臨床におけるQT/QTc評価)試験を止める(E14廃止)、②2016年にS7Bを改訂する、という目標を突然発表した。また同時に、CiPA (Comprehensive In vitro Proarrhythmia Assay) と名付けられた心臓安全性評価に関するNew Paradigmを提唱した。この発表は大きな反響を呼び、これを契機に両ガイドラインの廃止・改訂を視野に入れた議論や今後目指すべき心臓安全性評価に関する議論が活発化する様相を呈している。
     この状況に関連するICHの動きとして、ICH-E14 IWG (Implementation Working Group)はE14ガイドラインのQ&A作成という活動を昨年で終え、今年から “Discussion Group”と名称を変えて、催不整脈評価に向けた新たな方法論構築等の検討・議論を開始する。具体的な検討・議論のポイントとして、1)IQ-CSRC QT working groupによるProspective Clinical Phase I StudyによるThrough QT試験結果の予測性の評価、2)In vitroデータからTQT試験結果を予測するMulti Ion Channel (MICE)アプローチに関する情報、3)その他、将来的に明らかにされる事項等が挙げられている。この検討・議論の先には、E14/S7Bの改訂の門戸を開くこと、あるいはS7Bガイドラインの補遺的なQ&Aを作成することが成果として期待されている。
     本発表では、S7B及びE14両ガイドラインの最近の動向を交えながら、ICHで議論されていることを報告する。
  • 古谷 和春
    セッションID: W8-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    非抗不整脈薬によって心電図のQT間隔が延長し、時として torsades de pointes(TdP)のような致死的心室不整脈を誘発しうる。薬物性QT延長症候群と呼ばれる、ヒトの生命に関わるこの重大な副作用の発現は倫理的に臨床試験で評価することは出来ない。そのため医薬品開発における大きな問題となっている。医薬品による致死的不整脈発生の潜在的可能性の試験法に関しては、安全性薬理試験ガイドラインが日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)において制定されている。これに従い、ヒト心筋細胞活動電位の再分極に重要な役割を果す遅延性整流性カリウム電流の早い成分(IKr電流)、もしくはその電流を担うカリウムチャネル(hERGチャネル)に対する候補化合物の阻害作用が新薬探索の初期段階に検査されている(hERG試験)。hERG/IKr電流阻害作用陽性と判断されたため、安全性の面から開発中止になった医薬品候補物質が数多く存在する。このような背景のもと、本講演では、小分子化合物によるhERGチャネル機能制御のメカニズムと、その制御が薬物治療効果や副作用にどのように関わってくるかについて我々の最近の研究成果を紹介する。それにより医薬品がhERGチャネルを阻害するからといって必ずしも催不整脈リスクが高いとは言えない原因を説明する。さらに、非臨床のhERG試験から臨床QT延長リスクを評価する現状と課題を説明する。そして医薬品の安全性薬理試験において、hERGチャネルやその他のイオンチャネル・トランスポーターに対する作用に関するデータのヒト催不整脈性評価への橋渡しをどのように行えばよいかに関して現在の議論を整理する。
  • 朝倉 圭一
    セッションID: W8-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発過程において薬剤誘発性の致死性不整脈(TdP: Torsade de Pointes)は、心室細動や心突然死を引き起こす重大な副作用であり、非臨床試験における催不整脈作用の予測は大きな課題となっている。現在、非臨床における予測法として、ICH S7Bガイドラインに基づくQT間隔延長のエンドポイントとして、hERGチャネル阻害試験、心電図(QT間隔延長)試験が行われている。しかしながら、QT間隔延長が必ずしも催不整脈作用の指標とはならないことから、催不整脈作用を的確に予測しうるより総合的な評価方法が望まれている。また、2013年7月にはFDAよりICH S7Bの改訂に関する提案が発表され、評価のエンドポイントをQT間隔延長作用から催不整脈作用に変更するとともに、新たなリスク評価法の1つとしてIn silico評価が提案されている。
    数理心筋細胞モデルを用いたIn silico評価は、細胞、組織、臓器レベルでの様々な研究が行われており、近年、創薬研究においてもその重要性が認識されつつある。本発表では、創薬におけるIn silico活用の現状と期待について紹介する。特に創薬早期におけるHTS(ハイスループットスクリーニング)データを用いたIn silico評価について述べるとともに、数理心筋細胞モデルを用いた数学的解析の有用性について紹介し、In silicoによる催不整脈作用予測の現状と今後について議論したい。In silico評価はIn vitro実験やIn vivo実験から得られたデータの統合的な理解を深めるだけでなく、不整脈メカニズムの解明や臨床効果の予測にも有用なツールである。さらに、コンピューターシミュレーションの特性を生かした数学的解析法を用いた新たな評価ツールとしての可能性について、我々の研究成果を交えつつ報告する。
  • 田保 充康, 小松 竜一
    セッションID: W8-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    昨年7月のCSRC-HESI-FDA会議においてS7Bの改訂に関する提案が発表され,評価のエンドポイントをQT延長作用から催不整脈作用に変更するとともに,新たなリスク評価法として,ヒトiPS/ES細胞由来心筋細胞を用いたin vitro評価と,複数のヒトイオンチャネルへの反応性から不整脈リスクを予測するin silico評価が提案され,実験動物を用いたin vivo評価については必ずしも推奨されなかった。Torsades de Points発生のベースとなるQT延長作用は,生体レベルでの様々な要因(自律神経系,電解質異常,性差,徐脈など)の影響を受ける。現状のin vitroin silicoではその危険因子の影響を正確に模倣し,未知薬剤の生体レベルでの反応を正確に評価する段階には至っていないと考えられ,現在の科学レベルではin vivoによるリスク評価も重要と考えられる。
    in vivo評価のトランスレーショナル研究の現状として,QT延長作用についてはprobabilistic解析法を用いた評価が注目されており,非臨床でQT延長評価に使用される多くの実験動物やヒトにおいて高精度なQT延長評価が示され,非臨床からヒトまでの一貫した評価が可能である。また,催不整脈作用に関しては,完全房室ブロック動物を用いて実際の不整脈発生をエンドポイントとした研究が行われ,臨床結果との高い相関性が示されている。催不整脈の指標としては,再分極過程の空間的ばらつきと時間的ばらつきが有用と考えられており,特に心筋再分極時間の一拍毎の変動指標であるshort term variabilityの有用性が報告されてきている。
    本発表では,QT延長作用の検出も含め,催不整脈リスク評価の臨床へのトランスレーションの観点から現状の到達時点について紹介し,今後のin vivoアプローチの課題と目標について議論したい。
  • 杉山 篤, 中村 裕二, 曹 新, 小原 浩, 岸江 拓也, 中瀬古(泉) 寛子, 安東 賢太郎
    セッションID: W8-5
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)は、2005年5月に薬物性QT延長症候群の発生を回避するためのガイドライン(S7BおよびE14)をステップ4として調印し、非臨床試験・臨床試験の内容・役割を明確に規定した。国内では2009年10月に厚生労働省医薬食品局からより強制力を有するステップ5として通知された。QT/QTc評価試験は臨床開発の早期に実施する臨床薬理試験で、健康な非高齢の男性または女性の志願者を対象とし、QT/QTc延長に関する用量-反応関係や薬物濃度-反応関係を検討する。試験の計画には認容性、薬物動態などのヒトの基礎的データが必要になるので、第I相試験直後から第III相試験中のどこかで実施する。実施時期は非臨床試験や第I相試験でQT延長の懸念がなければ治療用量がほぼ決定するまで待つことも可能であるが、類薬とのリスク/ベネフィットに関する比較の情報が開発継続に影響するのであれば早めに実施すべきである。S7BおよびE14発効後、TdP誘発リスクを有する新規化合物数は激減したが、本当は催不整脈作用がないにも関わらず、S7BまたはE14ではリスク陽性と判定され開発中止になった薬物が少なからず存在する。2014年7月に開催されたワークショップでは、米国食品医薬品局(FDA)が心臓安全性に関する現行ガイドライン(E14)の廃止と新しい評価方法(exposure-response analysis)の導入を提案した。QT延長作用はあっても不整脈を起こさない化合物が存在するという課題を解決するのがFDAの意向である。しかし回避すべき催不整脈リスクは他にも多く存在する。例えば、イオンチャネルの阻害や活性化で発生する不整脈(Brugada症候群、心房細動、QT短縮症候群)、2次的なCa2+ overload に起因する心室頻拍(カテコラミン、ジギタリス、PDE3阻害薬)および完全房室ブロック(Ca拮抗薬、S1P受容体修飾薬)が知られている。これら不整脈の個々の発生リスクを臨床試験で予測することはきわめて困難である。正確に評価するためには効果的な非臨床での予測システム開発および活用が必須である。
ワークショップ 9 臨床第Ⅰ相試験を担保する安全域の考え方
  • 高崎 渉
    セッションID: W9-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     医薬品の研究開発において安全域をどう考えるかは、毒性の質やヒトへの外挿性も含め多面的な要素がある。対象とする疾患により患者のBenefit/Riskバランスも多様であり、例えば、がん領域においては他疾患に比べ安全域が狭いことは一般的に許容される。新規作用メカニズムあるいは未知ターゲットに挑戦するFirst-in-class化合物の開発においては、より慎重な考え方が必要となる場合もある。また、研究開発ステージが進捗することにより非臨床安全性データの位置付けも変わり、蓄積する臨床データに基づく動物からヒトへの外挿性の検証も可能となり、より確度の高い安全域に関する議論が成立するようになる。こうした多様性が、安全域の考え方を普遍的、一般的なものにすることを困難にしている。
     こうした多様性を考慮し、患者の満足するBenefit/Riskバランスを実現するため、種々の考慮点がある。毒性の質としては、ターゲット臓器や発現する毒性の重篤度・回復性に着目する必要があり、また、毒性がオンターゲットであるか否かも考慮される。臨床試験での患者のリスク軽減のためのSafety Biomarkerが存在し、安全性のMonitorabilityが担保されているか否かも重要である。さらに、Translatabilityをどう考察するかは、非臨床薬理試験結果のヒトへの外挿性の確からしさが問われ、Model & Simulationによる臨床での曝露や薬効予測と連動する必要がある。
     本ワークショップでは、安全域に関する多様性をBenefit/Riskバランスの観点から考察し、臨床第I相試験を担保する安全域の考え方を取り上げ、考慮すべき点を掘り下げる。
  • 鈴木 睦, 佐々木 正治, 服部 慎一, 森山 賢二, 戸和 秀一, 下元 貴澄, 小崎 司, 友廣 雅之, 韓 大健, 田口 和彦, 本山 ...
    セッションID: W9-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発で非臨床試験成績からヒト初回投与に至るには、科学的根拠に基づく的確な評価、予測、判断が必要で、まさにレギュラトリーサイエンスと言える。科学的根拠となる知見を得ることは、開発企業の非臨床部門に求められる重要な責務で、ヒトの安全性を十分に確保し開発を効率的に進めることにつながる。規制当局にとっても、このような科学的知見は、初回治験届の際の所謂30日調査やIND/CTAでの評価には必要不可欠であり、臨床試験における有害事象防止するために重要な判断根拠となる。
    ヒト初回投与に関する安全域の考え方は、投与量ベースの無毒性量と推定薬効量比較の時代から、TKの普及、開発候補品の多様化を反映し複雑となっている。そこで、最新情報に基づいて考え方を整理し、議論することは安全かつ効率よく臨床試験を実施する上で有意義と考え、日本製薬工業協会医薬品評価委員会基礎研究部会加盟の60社を対象にアンケート調査を2013年11~12月に実施した。回答率は68.4%であった。調査内容は、①安全域を考える要因②治療領域③毒性所見④非臨床試験からの薬効量/曝露量の活用⑤ヒトPK予測・臨床薬理の現状と今後⑥臨床安全性リスク軽減である。その結果、安全域を考える上で血漿中薬物濃度が重要視されていることからTK測定は定着したものの、蛋白質結合体と非結合体とのどちらを考慮するかは意見が分かれた。ヒト由来材料を用いた成績やPK/PDシミュレーションデータは、開発段階で取得されるが、信頼性や外挿性の観点から十分な活用に至っていない実状が伺えた。毒性所見毎の安全域は概ね30~100倍が多数であったが、薬剤の薬理作用に基づく、あるいは安全性バイオマーカーを設定する場合では3~10倍と安全域を狭くする考えもあった。一方、標的毒性が薬理作用に基づくかや安全性バイオマーカーは安全域設定に影響しないとする回答も約60%を占めた。
  • 山崎 秀樹, 福井 英夫
    セッションID: W9-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    抗がん剤を除く開発化合物をヒトに初めて投与する場合、健常被験者の安全を確保することが重要である。非臨床毒性試験において「十分な」安全域(safety margin)が確保できないことを理由に、開発化合物が第Ⅰ相試験に進むことなく開発中止となることがある。第Ⅰ相試験に進むためには、非臨床毒性試験で認められた毒性所見が、臨床試験における投与量を制限する毒性(dose-limiting toxicity)になるかどうかを見極め、安全域を勘案して、開発を進めるか否かを判断することが一般的である。しかしながら、第Ⅰ相試験に進むために必要な安全域は、開発化合物の薬効及び適応疾患、毒性標的器官、毒性所見の性質(薬理作用起因、過度の薬理作用あるいは化合物特有の変化)、重篤度及び回復性、ヒトへの外挿性及びモニター可能性等の要因を考慮する必要がある。そのため、許容される安全域に対する考え方に、必ずしも統一された基準はないと推察される。
    先に製薬協基礎研究部会から製薬各社に対して、計136の所見に対する臨床試験に進むために必要な安全域の考え方について、アンケートが実施された。その結果、多くの所見について、安全域10倍が確保されれば条件付で開発を進めるとの回答が得られた。しかしながら、眼、心臓、脳・神経系の所見については、10倍の安全域が確保された場合でも20%以上の企業が開発中止を判断し、このうち一部の所見では、30倍あるいは100倍の安全域が確保されても20%以上の企業が開発を断念するとの回答であった。
    本発表では、アンケート結果を参考に、標的器官あるいは毒性所見の違いによる安全域設定に対する考え方と傾向、並びに、許容される安全域が変動する条件について報告する。
  • 朝倉 省二
    セッションID: W9-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    安全な臨床導入のためには,標的となる治療領域ならびに化合物の毒性プロフィールを十分考慮した上で安全域を設定することが極めて重要である。一般に通常の医薬品開発における臨床導入時には,できるだけ広い安全域が好ましく,開発のストラテジーによっては,臨床における長期投与も考慮して臨床開始用量として30~100倍の安全域を設定する場合もある。一方,抗がん剤など生命を脅かす重篤な疾病を対象とする医薬品においては,臨床第I相から患者への投与が行われるため薬効が優先され,通常行われるような無毒性量(NOAEL)から計算される安全域は必ずしも要求されない。また,希少疾患や各種遺伝病などのUnmet medical needsの高い難治性疾患などにおいても,通常の医薬品開発と異なる安全域の考え方が想定されるだろう。さらに,化合物において認められた毒性が薬効の延長上(On-target)の毒性かどうか,モニタリングできるかどうか,臨床で認められた場合の重篤度なども考慮した上で,安全域ならびに臨床開始用量を変えるケースも想定される。これらは患者ならびにボランティアの安全を第一に考える一方で,Unmet medical needsをできるだけ早く充足する為にケースバイケースで戦略的に考えられるものであり,医薬品開発におけるノウハウの一つとも考えられよう。
    本発表では,先に行われた製薬各社を対象とするアンケートの結果を踏まえて,治療領域,毒性プロフィールを考慮した安全域の設定について,様々な考え方や傾向を分析した結果を紹介する。また,通常の医薬品(中枢薬など)と抗がん剤などの重篤な疾病を対象とする医薬品について,実際に設定した安全域とその設定根拠等について,当局に提出した資料に基づいて具体的な例をいくつか紹介する。
  • 野村 俊治
    セッションID: W9-5
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     近年、バイオマーカーが医薬品開発で重要な役割を果たすことは広く認識されており、これまで国際的な大規模産官学共同プロジェクトのみならず、多種多様なレベルにおいて既知のバイオマーカーの有用性や、新たなバイオマーカーとしての可能性などが盛んに研究されてきている。バイオマーカーが特定されていることにより、探索段階からより有効性が高く安全性が許容範囲である候補化合物の選択が可能となり、臨床開発に移行した後に開発が中止される可能性を回避することができる。また、バイオマーカーにより、的確なデザインで臨床試験を実施することが可能となるため、開発全体の効率化につながると考えられている。実際、特に臨床第Ⅰ相及び第II相でバイオマーカーを利用する試験が増えてきているとの報告がある。各種バイオマーカーの中で安全性バイオマーカーは、安全性研究に携わっている我々にとって、非臨床毒性プロファイルを説明するためのものである。それと同時に、前臨床開発段階からヒトへの外挿性を考慮しつつ検討する必要があり、そのバイオマーカーにより臨床試験における安全性のモニターが可能となるか否かが、被験者のリスクを軽減するという観点で非常に重要である。昨年、日本製薬工業協会により実施されたアンケートでは、臨床第I相試験を開始する時点で安全性バイオマーカーをどのように利用するかという点で、企業により考え方に違いがあることが明らかとなった。
     本発表では、上記アンケート結果も踏まえ、臨床第Ⅰ相試験における用量の妥当性を担保するための安全性バイオマーカーについて、いくつかの事例を紹介する。特に、安全性バイオマーカーの有無と臨床用量の上限設定について事例に基づき議論したい。
  • 小笠原 明人
    セッションID: W9-6
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     近年,創薬研究における開発候補化合物のヒト動態特性の予測は,効率的な医薬品開発に欠くことのできないタスクの一つと考えられている.創薬初期におけるヒト動態予測は,リード化合物の創製,開発候補化合物の選出に有用な情報であり,さらに,前臨床から臨床に移行する局面では,第Ⅰ相試験における開始投与量の妥当性および上限用量の見積りに有用な情報を与える.また,薬効発現および毒性発現における動物種差を考慮する必要はあるものの,開発候補化合物のヒト動態予測と実験動物におけるPK-PDまたはTK-TD解析を統合することにより,前臨床段階で臨床有効用量の見積り,ヒトでの安全域の考察に利用することも可能であると考えられる.一方,前臨床段階でのヒト動態特性の予測は,これまで主流であった実験動物データを用いた方法(アニマルスケールアップ/アロメトリックスケーリング)から臓器・組織を血流で繋ぎ,各部位における薬物濃度変化を数学的に表現する生理学的薬物速度論モデル(PBPKモデル)を用いた方法に移行しつつある.また,PBPKモデルによる動態予測は,生理学的パラメータ(臓器重量,血流量など),化合物の物性情報(分子量,LogPなど)およびin vitro試験結果(代謝安定性,血漿タンパク結合率など)を用いて実施するため,その用途は健常人における体内動態の予測に加え,生理学的パラメータ,薬物代謝能などが著しく変動する病態時(肝機能低下,腎機能低下)および多剤併用時(薬物相互作用の予測)の動態予測まで広がる.
     本発表では,PBPKモデルを用いたヒト体内動態予測の特徴およびその予測精度に関して報告する.また,ヒト体内動態予測の安全性担保を含めた種々局面での使用例を紹介する.
ワークショップ 10 眼科異常を共有するトランスレーショナル手法
  • 溝田 淳
    セッションID: W10-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトにおいては外部からの情報を得る器官である感覚器のなかで、視覚はその83%をしめるというデータがあり、非常に重要でかつ鋭敏な器官である。視覚を扱う眼科関係の検査に関しては、機能や形態など様々な検査があり、今回は実際に眼科の臨床で用いられている検査を紹介するとともに、眼科的な障害が生ずるとされている薬剤でその毒性の評価のためにどのような検査が行われているかに関してお話しする。
    機能検査としては、自覚的検査や他覚的検査などがあるが、もっとも有名な検査は視力検査や視野検査であり、非常に感度の高い検査ではあるが、あくまでも協力を得られる方において初めて検査が可能となるような自覚的検査である。幼児などのように協力の得られないような場合は、何らかの他覚的検査を用いて測定する。代表的なものは、網膜疾患を疑う場合は網膜電図、視神経疾患を疑う場合は視覚誘発電位などの検査により、視力や視野などに関してはある程度の推測が可能である。もっと簡単な方法としては視運動性眼振(Optokinetic nystagmus)などもある。いずれにしても自覚的検査のほうが感度は高いものと思われる。
    形態検査としては、代表的なものは細隙灯検査や眼底検査である。これらの検査に関しては、ある程度の協力は必要にはなるが、幼児などでもとりあえずは可能な検査である。これ以外にも蛍光色素を静注しての眼底の検査もあり網膜血管の透過性などの評価を行う。また近年光干渉断層計(OCT)の進歩が著しく、微細な網膜の変化を検出できるだけでなく、量的な評価に関しても可能となった。
    また眼科的に障害が出るとされているいくつかの薬剤に関して、評価に必要な検査を紹介する。
  • 大塚 博比古
    セッションID: W10-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品あるいは化学物質による眼毒性はQOLを著しく低下させる可能性があり、その開発において眼毒性を正しく評価することは極めて重要である。非臨床安全性試験における眼科学的検査は、被験物質の視覚器に対する安全性を評価するための重要な検査であるにも関わらず、医薬品非臨床試験ガイドラインにはあまり詳しく記されていない。欧米では専門教育を受けて認定された専門家によって眼科学的検査が実施あるいはreviewが行われることが多く、国内でも専門家制度ができその考え方が広まりつつある状況である。
    安全性試験における一般的な眼科学的検査では、角膜、水晶体あるいは眼底などの形態を光顕的に検査するが、それに加えて対光反射や網膜電図検査などの機能検査も行うことがある。近年、国内でもこれらの手法が安全性試験に取り入れられ検査技術レベルが向上しているが、一般検査機器については大きく変化しておらず、安全性評価として標準的に行っている手法そのものは変わっていない。安全性試験で使用する動物ではヒトに比べ自然発生性の所見が多く、動物種によって形態学的特徴あるいは系統差があり、加齢による変化も異なる。眼科学的検査を適切に行いヒトへの外挿性を評価するためには、これらの種差や特徴をよく理解しておく必要がある。眼科学的検査の特徴として眼球内の広範囲を評価できることがある。病理組織学的検査が最終判断とされる場合が多いが、眼科学的検査によって病変部位を特定し、その情報を供与することによって病理組織学的検査の精度を向上させることができる場合もある。また、機能的な異常や固定後の臓器では検出が難しい透明性の高い組織の光学的異常などの検出感度は眼科学的検査に頼るところが大きい。
    本セッションでは、現在一般的に行われている眼科学的検査法及びいくつかの動物種で得られた所見及び検査データを紹介する。
  • 廣田 里香
    セッションID: W10-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    眼毒性リスクは、薬理学的作用から明らかに眼が標的器官となる場合を除いて、多くはげっ歯類あるいは非げっ歯類を用いた反復投与毒性試験における眼科学的検査や病理組織学的検査によって検出されるが、臨床試験で初めて眼毒性が明らかになるケースも皆無ではない。網膜は視覚情報処理のために重要な役割を果たしているが、その再生能力は極めて限定的である。従って、その毒性リスクを組織イメージング等の新しい診断技術を用いて非臨床試験でより精密に評価することは、臨床試験における網膜毒性リスクを回避する上で極めて重要である。
    光干渉断層計(Optical Coherence Tomography:OCT)は、光の干渉原理を用いて非侵襲的に生体において組織断層像を得る。異なる深さからの反射光を一度に処理できるフーリエ方式のSD-OCTが開発されたことにより処理速度と解像度(縦方向約5 µm, 横方向約11 µm)が格段に向上し、医学領域では網膜の精密な形態学的診断法の一つとして急速に普及している。最近では、医薬品の臨床試験においても、網膜毒性リスクを詳細に評価するためOCTによるモニタリングが組み入れられることもある。
    弊社では、translational scienceの観点から、非臨床毒性試験に用いられるラット、ウサギ、イヌ、カニクイザルについて網膜や脈絡膜を対象とする後眼部OCTの適用可否を検討するとともに、正常動物あるいは自然発生性所見の網膜断層像の描出を試みた。また、網膜に病理組織学的変化を惹起することが知られている薬剤を用い、網膜各層の形態学的変化を検出可能か否か検討して良好な結果を得た。これらの経験を紹介するとともに、非臨床毒性試験にOCT検査を組み入れる際の留意点等について報告する。
  • 伊藤 典彦
    セッションID: W10-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     網膜電図検査は網膜の機能異常を電気生理学的に検出する。解剖学的には異常がないように見える網膜の機能異常を検出することができる。現在、網膜への様々な刺激方法が選択できる。従来からある全視野刺激に加えて網膜局所を刺激する装置も登場した。網膜局所への刺激方法も多局所を連続して刺激する方法に加えて眼底を観察し狙った場所を刺激することもできるようになった。これらの装置の登場で局所的な網膜の機能異常を検出することが可能となった。また、多局所を刺激する検査としては緑内障の病態解明や治療薬開発のために局所的な網膜神経節細胞の異常を検出できる多局所視覚誘発電位検査も開発されている。
     多局所や局所を刺激する検査が従来の全視野を刺激する検査に代わる検査であるという誤解がある。多局所を刺激する検査のほとんどは錐体機能の検査である。多局所を刺激する検査では相反する命題にも直面する。測定中の固視が大切であるが固視を維持するための麻酔ではその深度が測定値に影響を及ぼす。
     実験動物種間の解剖学的な相違、機能的な相違が毒性検出の障害になる場合もある。眼毒性試験に用いられる実験動物の多くが人と異なる視覚器を有する。3色型色覚ではない、杆体が優位、そして黄斑を持たない、等である。緑内障治療薬の第一選択薬となっているプロスタグランジン関連薬では人にはみられない強い縮瞳が犬や猫には見られる。強い縮瞳は検査の障害となり網膜の機能異常を検出することはできない。
     局所の網膜電図検査に加えて従来からある全視野刺激の検査まで広げそれぞれの方法を紹介する。各検査法の実験動物を対象とした眼毒性試験の利点と欠点、限界を挙げる。さらに毒性試験に用いられる各種実験動物の網膜の解剖学的、機能的な相違にも触れたい。見る機能への毒性の本質を捉えるために方法と動物の選択は議論されなくてはならない。その議論のための題材を提供する。
就職活動支援プログラム 安全性研究紹介
  • 藤田 卓也
    セッションID: JH-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発における非臨床安全性研究は,新規医薬品候補化合物の毒性学的な側面を明らかにすることで,有効性のみならず,安全性が高く,安心して服用頂ける医薬品を患者様にお届けるするために必要不可欠なものであり,医薬品候補化合物選択のための探索毒性研究と医薬品の製造承認申請に必要となる開発毒性研究に大別することができる.
    探索毒性研究では動物を用いたin vivo評価に加え,化合物の毒性データベースを活用したin silico評価,細胞を用いた高速スクリーニングシステム,オミックス解析などの技術を活用することで効率的に研究を推進している.また,近年では組織マイクロアレイ法や最先端のiPS細胞を用いた技術を駆使し,安全性の高い医薬品候補化合物の創製を目指している.
    開発毒性研究では医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施基準(Good Laboratory Practice, GLP)に準拠した実施が求められる.実施する試験項目は医薬品毒性試験法ガイドラインに定められており,一般毒性試験(急性および反復毒性試験),遺伝毒性試験,がん原性試験,生殖発生毒性試験,光毒性試験,安全性薬理試験など多岐にわたる.さらに,これらの試験に加え,毒性メカニズム解析や毒性バイオマーカー発掘などを通じて臨床試験におけるヒトでの安全性を担保している.
    発表では,将来,製薬企業において医薬品の安全性研究に従事することを志す若手研究者を対象として,非臨床安全性研究の目的,意義及び業務内容について概説する.
  • 孫谷 弘明
    セッションID: JH-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発における非臨床安全性試験は、新規医薬品候補化合物が体内に及ぼす影響についてその標的臓器や用量依存性、暴露との関係及び回復性など、その化合物が持つあらゆる毒性学的特徴を動物を用いて明らかにすることを目的としている。非臨床安全性試験には一般毒性試験、生殖発生毒性試験、安全性薬理試験、遺伝性毒性試験、光毒性試験など様々な試験があり、さらにこれらの試験では国際的な基準であるICHガイドラインに従い、医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施基準(Good Laboratory Practice、GLP)を遵守することにより、得られたデータの信頼性を担保することが求められている。非臨床CROは、非臨床安全性試験に特化して実施できる機関であり、主に製薬企業や大学・研究機関等から試験を受託し、実施する。多くの製薬企業の安全性研究部門は、複数の候補化合物の開発プロジェクトが同時に進んでいることが少なく無く、例えば安全性試験の幾つかを自社と平行して非臨床CROにアウトソースすることで研究開発期間を短縮することができる。また、GLPに準拠した安全性試験を実施するにはGLPに準拠した施設での実施が必須であるが、そのような施設を有していない大学・研究機関も、臨床試験(治験)の実施のための非臨床安全性試験のデータを得ることができる。最近では医薬品開発における様々なニーズに対応するため、非臨床CRO各社で新規毒性試験法のバリデーションや新規毒性マーカーの測定法開発などが活発に行われており、医薬品開発における非臨床CROの役割は年々大きくなってきている。本発表では、一般毒性試験を中心とした非臨床安全性試験の概略及び医薬品開発における非臨床CROの役割について詳しく紹介する。
  • 木原 勇人
    セッションID: JH-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     総合分析・評価会社の特徴は、多彩な専門家、高い技能を持った技術者からなる技術集団であること、顧客製品のライフサイクルの全てのステージにおいて、開発支援の分析評価、コンサルテーションを提供していること、最新鋭装置を装備し、世界最先端技術を導入し、技術開発を活発に行っていることが挙げられる。また、高い技術力、品質に加え、秘密厳守をベースにした高い信用、信頼関係によって強いブランド力を持っていることも特徴の一つとなっている。その総合分析・評価会社の国内トップクラスの当社を例に総合分析・評価会社について紹介する。
     事業領域は広範囲にわたっており、顧客分野に合わせて環境分野、電子分野、工業支援分野、化学品安全分野、医薬分野をカバーし、さらには業際領域である医療機器や機能食品などのヘルスケア分野における研究開発、製造支援へも展開している。ラボ機能も国内拠点はもちろん、アジアを中心に海外拠点も構えていることが特徴である。さらに、新技術開発を担う技術開発センター構え、日々顧客への新たな課題の解決手段の開発に取り組んでいる。
     たとえば医薬分野においては、従来から利用されている医薬品の臨床、非臨床評価や品質、物化性評価や安全性評価だけでなく、近年、製薬企業の創薬初期評価支援やバイオ医薬品、バイオマーカーに関する分析やレギュラトリーサイエンス(登録薬事申請業務支援)、製造メーカが遵守すべきGLP(Good Laboratory Practice)をはじめ様々な試験実施基準によるデータの質を担保が求められ、総合分析・評価会社にはワンストップサービスによる支援を期待されている。
     このように総合分析・評価会社では、あらゆる産業分野における分析及び関連ニーズに対応すべく日々拡大・変化し、高い分析技術を基盤にお客様の迅速な事業発展と社会発展に寄与している。
  • 直田 みさき
    セッションID: JH-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、医薬品や医療機器などの品質、有効性および安全性について申請資料を基に評価等を行う審査業務、市販後における安全性情報の収集、分析等を行う安全対策業務、医薬品の副作用や生物由来製品を介した感染等による健康被害に対して救済給付を行う健康被害救済業務を通じて、国民保健の向上に貢献することを目的として設立された法人である。本発表では、PMDAにおける毒性領域担当者の役割を中心に紹介する。
     PMDAの毒性領域担当者は、上記の業務の中で主に審査業務に携わっている。審査は、医学、薬学、毒性学、生物統計学、工学等の専門領域の担当者から構成される審査チームで行われる。毒性領域の担当者は、開発段階の医薬品・医療機器の非臨床(毒性)試験計画、得られた毒性試験成績の解釈、臨床試験でのモニタリング等について開発者に「助言」を行う。また、承認申請を目的として実施される臨床試験(治験)に参加する被験者の安全性確保の観点から、治験計画の妥当性についての「調査」を実施している。さらに、開発品目が承認申請された際には、最新の科学技術水準に基づいて、その品目の毒性学的プロファイルを評価し、申請品目の承認の可否について「審査」を行う。具体的には、医薬品・医療機器の治験や臨床使用でのリスクを最小化することを目的に、その安全性について、主に動物を用いた試験成績(短期や長期投与による毒性、遺伝毒性、がん原性、生殖発生毒性、免疫毒性や刺激性等)を様々な観点から総合的に評価している。また、各種毒性試験の標準的な方法を定めた指針(ガイダンス)の作成や、新薬承認審査の基準を国際的に統一することを目的に開催される日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)に参加し、非臨床試験の実施方法やルール等について各地域の規制当局や産業界代表と共に議論し、より効率的な医薬品開発の体制作りに努めている。
  • 松本 寛子
    セッションID: JH-5
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     農薬は「体に悪い」「発がん作用があるのでは?」というイメージで捉えられることがあるが、総合的な評価により安全性が担保された化合物のみが新たな農薬として世の中へ送り出されている。この総合的な評価とは、消費者に対する安全性の確保だけではなく、農薬散布時から対象外の作物や環境中(土壌、大気、河川等)への拡散・移行、最終的に代謝・分解されるまでに関わる生物、環境を含む生態系の安全を確保するものである。
     ヒトの安全性に関する評価試験は、農薬の製造者・使用者に対するものと農作物の消費者に対するものとに大別される。前者においては、短期間に高濃度の農薬に暴露される可能性を考慮した急性毒性試験や眼や皮膚に対する刺激性、繰り返し使用を想定した亜急性毒性等である。後者においては、農作物中に残留する微量の農薬を長期にわたって摂取する可能性を想定した慢性/発がん毒性等の試験が挙げられる。その他にも、DNAへの傷害性を評価する遺伝毒性試験、妊婦や次世代に対する影響を評価する生殖発生毒性試験、免疫系や神経系に対する毒性試験等があり、必須とされている試験だけでも30程度にのぼる。これらの成績に基づき、短期間に高濃度の農薬へ暴露された場合でも健康に悪影響を示さない量や農作物に残留した農薬を一生涯摂取し続けたとしても本人および次世代へ影響しない1日摂取許容量など安全性を保証するための基準が農薬毎に設定される。
    近年、農薬に対する社会的な要請が高まり、新たな農薬には低毒性、低残留性、低環境負荷などが求められている。そのために我々はより良い新剤開発に貢献するべく、組織・細胞レベルにおける毒性学的な作用機序、環境中での化合物の分解要因解明等、様々にアプローチしている。本演題では農薬の安全性研究の内容を紹介し、就職活動支援プログラムの一環としたい。
  • 本山 径子
    セッションID: JH-6
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     製薬企業の使命は有効な医薬品を一日も早く必要としている患者様に届けることであり、そのミッションは内資系企業と外資系企業とも同じである。しかし、そのミッションを世界各国で遂行するに際し、医薬品承認申請手続きに必要な資料が国内と海外で違いがあり、海外で行った非臨床試験の要件は必ずしも国内の申請要件に従った試験内容と同じとは限らなかった。その違いについての説明や、加えて追加試験の再実施など、多くの時間とコストが費やされ、また動物愛護の観点からも問題視されていた。医薬品開発の国際標準化に伴って、各地域における申請内容と手順を共通化する目的でICH(International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use)が組織され、現在まで多くのガイドラインが発出された。その結果、以前の地域差による要求事項の違いや、非臨床試験の重複は解消され、内資系企業でも外資系企業でも各地域で提出する資料は共通となった。近年、開発効率化や合理化を求め、組織改組による研究所の統廃合が盛んに行われるようになり、その結果、安全性試験を含む開発段階での多くの非臨床試験は海外の研究所で実施される傾向が強くなった。
     このような背景から、多くの外資系製薬企業の国内前臨床担当者は、海外研究所で計画あるいは実施している非臨床試験について早期より情報を入手し関与することが必要となった。国内での臨床試験開始時あるいは承認申請時などの各段階において科学的根拠に基づき資料を作成し、関係当局に提出し、医療機関や関係部署からの問い合わせに対応する。非臨床試験のデータを解析することにより、被験者様、患者様の安全性について適切に評価し、説明することが求められる。本発表では、外資系製薬企業の国内前臨床担当者の業務に関して、内資系企業との違いと共通点、必要とされるスキル等を含めて概説し、外資系製薬企業における安全性評価について紹介する。
  • 齊藤 祥子
    セッションID: JH-7
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発支援会社は、医薬品を中心に、開発から申請までを総合的にサポートする専門家集団です。
    経験豊富な各専門スタッフが在籍し、主に製薬企業の新薬研究開発、申請を様々な面からサポートしています。具体的な業務として、申請資料作成業務、翻訳業務、資料の整合性確認(QC)業務、薬事サービス、開発支援サービス、海外ラボの試験受託サービスを行っております。開発から申請までの段階別に分けると、基礎研究では、CMC、知財関係、各種技術に関するサポートを提供しています。次の段階である候補物質の有効性・安全性をみる非臨床試験では、試験計画書や報告書のレビュー、病理組織学的所見の再評価、データチェック、報告書の翻訳等の業務を受託します。その後、ヒトの有効性・安全性をみる臨床試験に移ると、治験相談や治験薬概要書の作成、翻訳、整合性確認、治験データの解析・評価等の業務をサポートいたします。このような過程を経て製造販売承認申請の段階になると、申請時に必要な申請資料の作成、翻訳、整合性確認、その他申請に関するコンサルテーションを受託、そして製造販売の承認を得た後は、データマネジメントや統計解析をサポートいたします。これらの業務は製薬企業だけでなく、医療機器・化学品・農薬・化粧品等の開発支援、人材が不足しがちなベンチャー企業の開発支援も行います。さらに、非臨床試験を行う海外CROの日本代理店となり、海外(アメリカ、オランダ、フランス)で行う様々な試験を日本国内から受託し、試験終了までサポートしています。
    新薬の研究・開発には多くの人材・多額の投資・非常に長い期間が必要となります。
    医薬品開発支援会社は、開発・申請の流れの中で先に述べた業務を請け負う外部機関として、開発企業で問題となる人材不足を解消し、開発から申請までの期間の短縮に貢献しています。
  • 高須 伸二
    セッションID: JH-8
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品をはじめ食品添加物や残留農薬、動物用医薬品などヒトが曝露される可能性のある化学物質について、その安全性を科学的に評価することは大変重要である。化学物質の安全性評価はさまざまな毒性試験を行うことにより、化学物質がどのような有害事象(毒性)を引き起こすかを明らかにすることに重点が置かれている。一方、当研究所における安全性研究は化学物質が引き起こす毒性がどのような機序で引き起こされ、その毒性変化がどのような生物学的意義を持つかを明らかにすることに重点を置き、その研究成果を安全性研究にフィードバックすることで安全性をより正確に科学的に評価できるようにする、いわゆるレギュラトリーサイエンスの推進を目的としている。当所病理部では、化学物質を投与した際に見られる毒性について病理形態学的な解析を中心に研究を進めている。病理形態学的な解析は、化学物質の投与により発生した変化を臓器、組織および細胞レベルで精査することで毒性標的や作用を評価できることが特徴であり、動物個体において認められる毒性を正確に捉えるうえで大変有用である。さらに我々は、免疫組織化学的解析やマイクロアレイ、質量分析などによる解析、あるいは遺伝子改変動物を用いた解析を行うことで毒性病変の発生機序や生物学的意義を追及している。このような研究成果は実験動物を用いて得られた安全性研究の知見をヒトに外挿する際に大変意義があると考える。また、習慣的に使用されているがその安全性が十分に検討されていない食品添加物(既存添加物)や食品加工中に生成される非意図的副生成物、微生物由来の自然毒など安全性研究の必要性が高い化学物質についても研究しており、これら研究を通じてヒトの健康と生活環境を維持・向上させることを目指している。本演題では、いくつかの研究結果を例示しながら、当研究部で行われている研究について紹介したい。
特別賞・学会賞・奨励賞
特別賞
  • 遠藤 守信
    セッションID: SP
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     21世紀は、“エネルギー、資源、環境、ICTそして医療・バイオ”が社会の基盤技術であり、そこでのイノベーションは地球規模の持続可能性に必須である。そしていずれも、材料がイノベーション創出のカギである。21世紀の材料イノベーションはまず材料のリスクが管理された上でベネフィットが活かされ、社会受容を得て人類貢献を果たさなければならない。その意味で、材料の毒性研究の重要性は言を俟たない。
     21世紀材料革新の一つがナノテクノロジーで、それを先導しているのがナノマテリアルそしてカーボンナノチューブである。ナノマテリアルの定義は、『少なくても材料の一次元が100nm以下の人工的に目的を持って生成される物質』と定義され、典型例が直径1nmのサッカーボール型分子のフラーレンや、カーボンナノチューブ(CNT)である。特にCNTは、ナノテク革新を先導している素材の一つである。ナノテクに先鞭をつけた走査トンネル顕微鏡でノーベル物理学賞を受賞したH.Rohrer先生は、『ナノテクは単なる微小化ではなく化学、物理、生物学が融合する従来技術とは非連続で異次元の技術』と説明している。ベネフィットとしては魅力的な革新的機能発現があるが、一方、当然のことながら生体影響や毒性は未知であり、当初から毒性や安全性が危惧された側面があった。特にCNTは外観がアスベストと似ており、ベネフィットを活かす上で毒性・安全性評価が応用展開上も必須の要件と認識された。
     かかる背景のもと、ナノテクを先導する素材としてCNTの安全性研究が広く国研等において展開され、またNEDO中西プロジェクト等の公的プロジェクトや大学・企業共同研究などとしても推進された。TakagiらやPolandらはじめ多くの優れた論文、報告書が発表され、広範な知見が集積された1~4)。CNTの腹腔投与と中皮腫発生1,2)、吸入暴露、発がん性評価 5)そして複合材における劣化に伴う飛散挙動、CNT複合樹脂粉末の吸入毒性等、広範に毒性解析が進められた。最近、多層CNTについて米国NIOSHによる最新情報広報CIB65が公表された 6)。今後、CNTの生体内移動、ROSのsingle tubeレベルでの解明、超長期吸入暴露など毒性研究の推進が更に必要である。同時に、CNT等の安全なナノ構造設計法の開発も重要である。
     『Safety for Success』が材料開発の出発点であり、そこでは材料工学と毒性・安全性領域の両分野の密接な連携研究が特に重要である。その上で、ナノ物質の利点を公共の利益に反映するために、『責任ある製造と応用の遵守』が基本である。CNTやナノ材料の毒性研究と応用開発のバランスある推進が今後の素材開発のモデルとなっていこう。毒性研究分野からの更なるご支援、ご協力を得て、ナノ材料やCNTが安全なナノテク・イノベーション(Safe Nanotech Innovation)を実現することを望んでいる。
     終わりにご指導賜った国立医薬品食品衛生研究所菅野純先生.中央労働災害防止協会日本バイオアッセイ研究センター福島 昭治先生、信州大学医学部 斎藤直人先生、Rochester 大学G .Oberdorster 先生, NIOSH, V. Catranova 先生、 安全性研究共同研究者の信州大学鶴岡秀志博士の各位に厚く御礼申し上げる次第である。

     参考文献;??1) Takagi A, Hirose A, Nishimura T, Fukumori N, Ogata A, Ohashi N, Kitajima S, Kanno J. J. Toxicol. Sci. 33, 105 (2008). 2) Craig A Poland, Rodger Duffin, Ian Kinloch, Andrew Maynard, William AH Wallace, Anthony Seaton, Vicki Stone, Simon Brown, William MacNee, Ken Donaldson, Nature Nanotechnology 3, 423 (2008). 3) NIOSH, “Progress Toward Safe Nanotechnology in The Work Places”, 2007. 4) EPA, “Nanotechnology White Paper”, February 2007 . 5) Linda M Sargent, Dale W Porter, Lauren M Staska, Ann F Hubbs, David T Lowry, Lori Battelli, Katelyn J Siegrist, Michael L Kashon, Robert R Mercer, Alison K Bauer, Bean T Chen, Jeffrey L Salisbury, David Frazer, Walter McKinney, Michael Andrew, Shuji Tsuruoka, Morinobu Endo, Kara L Fluharty, Vince Castranova, Steven H Reynolds , Particle and Fibre Toxicology 2014, 11:3 (9 January 2014). 6) Current Intelligence Bulletin 65: Occupational Exposure to Carbon Nanotubes and Nanofibers、NIOSH Publications and Products(http://www.cdc.gov/niosh/pubs/).
学会賞
  • 菅野 純
    セッションID: GA
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     広義の医学には、ご存じのとおり、二つの面がある。不幸にして発病してしまった患者の救済のための「個別治療」と、健康なヒトの集団からの発病数・発病率を上げない、あるいは下げるための「集団治療」である。後者を「集団治療」と呼ぶのは一般的でも論理的でもないが、疫学+公衆衛生学+労働衛生学+予防医学+...の複合分野の総体を表す言葉が他には俄かに思いつかなかったので、お許しいただきたい。
     毒性学はこれら「個別」と「集団」の治療の全てに深くかかわる複合領域であることは確かであり、近年の分子生物学の進歩がin vivoに於けるGenomics研究を飛躍的に促進したことにより、益々、毒性学の関与が深化してきたと実感される。
     演者は、発がんプロモーション作用(今で言うエピジェネティク作用)を興味の主対象に皮膚メラノサイトや甲状腺の発がん実験を手掛け、そこから内分泌かく乱化学物質問題に関わり、受容体原生毒性(シグナル毒性)、Percellome トキシコゲノミクスProjectによる網羅的遺伝子発現ネットワーク解析による毒性予測へと対象を広げてきた。その過程で、特に内分泌かく乱化学物質問題の際に、物議をかもしたのが「生物学的蓋然性(biological plausibility)」の概念である。生命科学一般には馴染むこの概念は、規制決定に関わる毒性評価システムにはそうではなかった様である。現在OECDなどで取り上げられているAOP(Adverse Outcome Pathway)は内分泌かく乱化学物質問題のアプローチを手本に、それを一般化しようという試みと理解できよう。蓋然性は、不安や危惧に根ざした当てずっぽうではなく、科学的知見からの演繹に基づく明白な妥当性があることを指す。これを毒性学的に裏返せば、毒性試験が正しく行われたことを判断出来てデータが読めることのみならず、使用した試験プロトコールの限界が把握できること、に該当すると思われる。ナノマテリアル毒性研究は、既存の異物・粉体毒性の限界に対処するための実施可能な工夫を模索する過程であり、蓋然性の延長に位置するものとこじつけることが出来よう。
     「個別」と「集団」の現場の所見から、分子生物学とシステムバイオロジーの助けを借り、モデル系の解析などを通して、毒性学的生体反応を分析し、蓋然性を尊重しつつGenomicsから再びPhenomicsを導出することで、毒性評価の更なる最適化とリスク評価の精度の向上が達成されると考える。これらが、患者のみならず健康なすべての人々(消費者、労働者、製造者を含む)の安全安心と健全な活動の維持に貢献する要因を含んでいれば幸甚である。
奨励賞
  • 岡本 誉士典
    セッションID: SA1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    われわれの生活環境中に存在する様々な化学物質には,環境中あるいは生体内で構造変化を受けて遺伝毒性を獲得するものがある.これまでにわれわれは,化学物質が示す遺伝毒性と化学構造との関連性について明らかとしてきた.また,それらの毒性発現に重要な構造部分を化学的に不活化し,より安全性の高い新規化合物の創出にも成功している.本発表では,1)代表的化学発がん物質であるジメチルベンズ(a)アントラセン(DMBA)および2)乳がん治療薬として使用されているタモキシフェン(TAM)による発がん機構とそれらに対する防御戦略について述べる.

    1)がん組織は多様な細胞集団であり,この多様性を支える背景には「がん幹細胞」の存在が考えられる.このがん幹細胞の形成には「幹細胞のがん化」が指摘されており,がん幹細胞形成機構の解明はがんの予防あるいは治療を発展させるうえで重要である.本研究では,幹細胞が発がん性化学物質に曝された時の防御応答について解析した.DMBAはマウス胚性幹細胞(mESCs)に対して用量依存的にDNA付加体形成を誘発し,同時にコロニーの形成不良(細胞増殖不良)を引き起こした.一方,DMBAと同じ母核を持つ3-メチルコラントレン(3-MC)ではDNA付加体は検出されず,細胞増殖にもほとんど影響を及ぼさなかった.したがって,DMBAによる細胞増殖不良はDNA付加体形成に起因するものと考えられる.この時,多能性マーカー発現はDMBA処理により減少し,p53-p21経路は活性化していた.以上のことから,mESCsはDNA損傷に応答してp53依存的に細胞増殖を停止し,その結果,多能性を喪失していると考えられる.今後,がん幹細胞を含めた幹細胞の恒常性維持機構を明らかとすることにより,がんの予防あるいは治療へと展開したい.

    2)乳がん患者に対する長期TAM投与は子宮内膜癌などの深刻な副作用を引き起こす場合がある.これにはTAMによるDNA損傷およびエストロゲン様作用に起因している.そこで,TAMによるDNA付加体形成に重要な構造部分を化学修飾し,安全性の高い新規乳がん治療薬候補化合物を合成した.これらの化合物はTAMとは異なり,ラットに対する遺伝毒性およびエストロゲン様作用を示さなかった.また候補化合物は,各種乳がんモデル動物に対してTAMおよび乳がん予防薬ラロキシフェン(RAL)よりも高い抗腫瘍活性を示した.これらの結果から,本化合物は安全性の高い乳がん治療・予防薬の候補であると考えられる.また,本研究は化学構造を最適化することによって医薬品による発がんリスクを低減できることを示している.

    以上のように,幹細胞の発がん応答という生物学的アプローチと発がん物質の構造修飾という化学的アプローチを統合することにより,化学発がんに対する新たな防御戦略の提案が可能になると考えられる.
  • 吉岡 亘
    セッションID: SA2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
     ダイオキシン類は、難分解性有機化学物質(POPs)の一種であり、塩素置換の位置と数の違いにより区別される塩素化芳香族炭化水素化合物群である。ダイオキシン毒性として、ヒトでの曝露事故においては、塩素座瘡などの皮膚症状、視力低下、しびれなどの神経症状、出生性比の偏り等が、実験動物においては、消耗性症候群と称される急激な体重減少、肝障害、胸腺萎縮、発がんプロモーション作用、奇形が報告されている。こうした幅広い毒性現象を引き起こすことがダイオキシン毒性の特徴であり、さらに、毒性現象の生じる時期が発生・発達時期に関して特異的であることも特徴である。これらの特徴の背後に存在する分子基盤は不明であった。
     水腎症は、腎盂・腎杯の拡張と腎実質の菲薄化を特徴としてヒトで自然発症する疾患であり、また、胎仔期および生後数日までのダイオキシン曝露によって齧歯類で生じる発達時期特異的毒性現象でもある。水腎症は多くの場合に尿管閉塞が原因とされており、ダイオキシン曝露による水腎症についても尿管閉塞が原因とされていた。ダイオキシンとして2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD)を用いたマウス新生仔への経母乳曝露実験によって、私を含む研究グループは、TCDD曝露がマウス新生仔に引き起こす水腎症には尿管閉塞を伴わないことを明らかにした。この発見に基づいて、TCDDが何らかの腎機能を撹乱することで水腎症が発症するものと想定し、発症を仲介する遺伝子の探索研究を実施した。その結果、cytosolic phospholipase A2?α (cPLA2?α)、cyclooxygenase-2 (COX-2)、microsomal prostaglandin E synthase-1 (mPGES-1)が原因遺伝子であることを見出した。cPLA2?αとmPGES-1については遺伝子欠損マウスを用いた実験によって、COX-2については阻害剤投与実験によって、TCDD曝露による授乳期水腎症発症の原因となることを証明した。これらの遺伝子がコードするタンパク質は、リン脂質から生理活性物質であるprostaglandin E2? (PGE2?)合成系の主要な酵素であり、TCDD曝露は実際にマウス新生仔腎においてPGE2?合成量を顕著に増加させることが分かった。これらの研究成果を総合することで、TCDD曝露によるリン脂質→アラキドン酸→PGE2?という生理活性物質産生経路の異常な亢進がダイオキシン曝露による授乳期水腎症の原因であり、PGE2?産生の増加はcPLA2?α, COX-2, mPGES-1の発現上昇が原因であることが判明した。
     PGE2?合成の亢進と水腎症の関係をさらに明らかにするために、PGE2?合成の律速酵素であるCOX-2誘導を引き起こす別の化学物質であるリチウムに着目し、リチウム曝露によってもマウス新生仔に水腎症が生じることを私は発見した。ダイオキシン曝露とリチウム曝露の結果を一般化すると、PGE2?合成を亢進させる化学物質は周産期の哺乳類に水腎症を発症させる危険性がある可能性がある。さらに、化学物質曝露のみならず自然発症する水腎症についてもPGE2?合成の亢進が1つの機序である可能性がある。実際に、Bartter 症候群とTCDD曝露による授乳期水腎症は病態の類似性があり、PGE2?の下流で尿濃縮阻害を介して水腎症に至ることやその原因の特定を進めており、今後研究をさらに発展させたいと考えている。
一般演題 口演
  • 本橋 昌也, 佐藤 毅美, 白井 勝, 武藤 朋子, 池上 雅博, 猪股 智夫, 浅利 昌男, 和久井 信
    セッションID: O-1
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    Previously we described that prenatal rat exposure to di(n-butyl) phthalate (DBP) induced Leydig cells (LC) hyperplasia after 9-week-old, while the number of LC was similar to that of vehicle group until 7- week-old. Nuclear pleomorphism of hyperplastic LCs is ordinary, and is considered as continuous progressive degeneration. Then the computer-assisted image cell nuclear analysis of LCs was performed for 5- and 7- week-old SD (srl) rats whose dams had been administered DBP (i.g.) at 100 mg/kg/day or vehicle (corn oil) from days 12 to 21 post-conception. The analysis results of 5- week-old DBP group were similar to those of vehicle group. While, compared to vehicle group, LCs nuclei of 7- week-old DBP group showed normal ploidy and similar amount of DNA; but the size, elongation, and peripheral chromatin aggregation parameters were significantly higher; and the chromatin reticular distribution and the isolated chromatin aggregation parameters were significantly lower. The present study quantitatively demonstrated that rats LCs nuclear morphological alteration by the prenatal DBP exposure revealed at 7- week-old puberty when apparent LCs hyperplasia was not developed.
  • 熊本 隆之, 高山 寛幸, 永田 慎児, 押尾 茂
    セッションID: O-2
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    【目的】プロスタグランジン(PG)は、発生期において雄性生殖機能の発達や内分泌系に作用することが報告されており、妊娠期の解熱鎮痛薬の服用が胎児の男性生殖機能発達に影響を及ぼすことが懸念される。本研究では胎仔期マウスにアセトアミノフェン(AC)またはイブプロフェン(IB)を投与し、その雄性生殖機能への影響を検討した。【方法】ICR系マウスの妊娠9-15日に一日おきにACを60, 150 mg/kg/d、IBを12, 30 mg/kg/dをコーンオイルに懸濁させ胃内強制経口投与した。投与量は成人常用薬物量とその2.5倍量として設定した。雄性出生仔を8週齢時に解剖、心採血により血清を得た後、精巣および精巣上体、生殖腺を摘出し重量を測定した。精巣は一部をDSP(一日精子産生量)解析、残りをリアルタイムPCRによるmRNA発現解析(検討遺伝子:AR, ERα, ERβ, StAR, 17β-HSD, 3β-HSD, P450c17, P450scc, Cox-2)、精巣上体は尾部から精子浮遊液を作製、位相差顕微鏡下で精子の質(運動率、正常形態率等)の測定とAN/PIおよびJC-1蛍光染色によるフローサイトメトリー解析、血清はELISA法よりテストステロン(T)およびPGE2濃度の測定を行った。また、成長の各段階で体重およびAGD(肛門生殖器間距離)を測定した。【結果・考察】AC投与は常用量投与で発達初期段階(4、7日齢)での体重減少、過量投与で成長段階(15、22日齢)での体重増加とAGD伸長、精子ネクローシス増加、DSP減少、ERα発現減少をそれぞれ認めた。IB投与は常用量投与で精巣および生殖腺重量減少、精子ネクローシス増加、奇形精子増加、過量投与でAGD伸長(15日齢)、DSP、正常運動率、過直進運動率、正常形態率減少、奇形精子増加、ERα発現減少をそれぞれ認めた。体重およびAGDの変化は3週齢まで認められた。TおよびPGE2濃度、Cox-2発現変動に有意な差はなかった。以上より、AC、IBとも過量投与で精子の質に影響すること、さらに、IBはヒト常用量においても精子の質や精巣重量に影響することが認められた。
  • 大谷 勝己, 山崎 蒼, Mohsen VIGEH
    セッションID: O-3
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    【目的】2-ブロモプロパン(2BP)はかつて半導体の洗浄などに使われてきたが、電子部品工場の労働者に無精子症、月経停止等の生殖障害を引き起こすことが報告された。筆者らはコンピューターを用いた精子運動能自動解析法(CASA)を利用している間に(1)塗沫や染色の操作を必要とせず無傷の状態の精子の形態を観察できる、(2)画像を容易に保存できる、(3)暗視野の画像のために未成熟精子を肉眼で検出しやすい、等の有用性を見出した。第38回学術大会(旧トキシコロジー学会)においてはジブロモクロロプロパンを被験物質とした有用性を検討し発表したが、今回は2BPを試験物質としてもこの有用性を確認したので報告する。
    【方法】12週齢F344雄性ラットに溶媒とともに2BP (25 -100 mg/kg)を週2回4週間皮下投与した(全8回)。最終投与1週間後、麻酔して解剖し、生殖臓器重量等を測定し、精巣上体尾部の精子数および運動能をCASA(機種:HTM-IVOS)で測定した。またCASAにおける拡大画像から、首折精子、短形精子、未成熟精子、無頭精子、無尾精子を目視計測した。
    【結果】精巣重量は全ての群で減少していた。また、最高濃度の2000 mg/kg投与群において有意な精子減少を確認した。さらに、短形精子、首折精子、無頭精子、無尾精子は最高濃度の2000 mg/kg投与群においてのみ有意に増加していた。未成熟精子はすべての投与群において有意に増加した。また、これらの刑態変化を積算して求めた正常精子率は全ての群で有意に低下していた。他方、運動能に変化は認められなかった。
    【考察】精子数や運動能の低下が顕著でない状況でも、2BPによる精子の形態変化が検出可能であることが示された。特に未成熟精子を解析することは、形態変化を鋭敏に検出できることも示された。さらに塗沫標本ではアーチファクトとされがちな離断精子や首折精子を定量的に観察できたことも本法の有利な点といえる。
  • 古川 賢, 林 清吾, 阿部 正義, 萩尾 宗一郎, 入江 浩大, 黒田 雄介, 小川 いづみ, 山岸 由和, 杉山 晶彦
    セッションID: O-4
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    【目的】クロルプロマジンのラット胎盤発生に対する影響を経時的に検索した。【材料及び方法】試験にはWistar Hannover妊娠ラット56匹を供試した。クロルプロマジンは生理食塩水に溶解・希釈し、0、50及び100 mg/kgの用量にて妊娠14日に腹腔内投与した。妊娠14.5、15、17及び21日に剖検し、胎盤及び胚子/胎児を摘出し、重量測定後、胎盤の組織病理学検査を実施した。【結果】母動物は両投与群で自発運動減、低体温、尿失禁など一般状態は不良で、体重減少が認められた。全胚/胎児が吸収されていた母動物の発現率は、妊娠21日において50mg/kg群で20%、100mg/kg群で44.4%であった。胎児死亡率(上記全吸収胚母動物を除く)は100mg/kg投与群で31.4%であった。胎児重量は両投与群で妊娠15及び17日において低下した。胎盤重量は50mg/kg群で妊娠17日、100mg/kg群で試験期間を通して低下した。組織病理学的には、迷路層ではアポトーシスの増加が両投与群で妊娠14.5及び15日で認められ、その程度は用量相関性を示した。これにより、その厚さは50mg/kg群で妊娠15及び17日、100mg/kg群で試験期間を通して菲薄化した。さらに、代償性と考えられる細胞増殖活性亢進が、50mg/kg群で妊娠15日、100mg/kg群で妊娠15及び17日において認められた。基底層ではグリコーゲン細胞のアポトーシスが、100mg/kg群で妊娠14.5及び15日において増加した。これにより、その厚さは妊娠15日において菲薄化し、妊娠21日においてグリコーゲン細胞の嚢胞変性による肥厚が認められた。間膜腺では100mg/kg群で基底層からのグリコーゲン細胞の浸潤が抑制され、これにより、その厚さは妊娠15及び17日において菲薄化した。【結論】クロルプロマジンのラットにおける妊娠14日単回投与よって、迷路層では栄養膜細胞のアポトーシスによる迷路層の低形成、基底層ではグリコーゲン細胞のアポトーシスによるグリコーゲン細胞島の形成遅延、さらにそれに起因したグリコーゲン細胞の嚢胞変性が誘発されるものと推察した。間膜腺ではグリコーゲン細胞の一過性の減少によるグリコーゲン細胞の間膜腺への浸潤が抑制され、間膜腺の低形成が誘発されるものと推察した。
  • 藤谷 知子, 安藤 弘, 久保 喜一, 猪又 明子, 小縣 昭夫, 中江 大, 広瀬 明彦, 西村 哲治
    セッションID: O-5
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
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    <背景と目的>繊維状外来異物である多層カーボンナノチューブが催奇形性を有することから、胎盤通過や胎仔(児)への移行が確認されているアスベストについても、催奇形性の有無の確認が必要と考えられた。<実験>クロシドライト、クリソタイルあるいはアモサイトを2%CMCNa/PBSに懸濁し、妊娠9日のCD-1マウスに4あるいは40mg/kg体重を腹腔内投与し、妊娠18日に母体の白血球検査と妊娠に関する指標および胎仔を検査した。<結果>3種のアスベストの4mg/kg体重の投与では、調べた指標に何ら有意な変化は見られなかった。しかし、40mg/kg体重の投与では、クロシドライト投与群で着床数中の生存胎仔%の有意な低下が、クリソタイルおよびアモサイト投与群で早期死胚を有する母体の頻度の有意な上昇が見られ、アモサイト投与群で四肢減形成を主とする外表奇形の有意な発現が、また、クロシドライトおよびクリソタイル投与群で脊椎の癒合を主とする骨格奇形の有意な発現が見られた。母体では、クロシドライトおよびアモサイト投与群で、総白血球数の有意な上昇、特に好中球数の有意な増加と、脾臓重量の有意な増加が見られた。<考察>3種のアスベストの40mg/kg体重の腹腔内投与が、マウスにおいて催奇形性を有することが明らかとなった。アスベスト投与によって発現した奇形の種類および母体の白血球数や脾臓重量の増加は、多層カーボンナノチューブで見られたと同様の変化であり、両者の奇形発現の作用機序が似通っている可能性が示唆された。アスベストで奇形発現の見られた投与量は、多層カーボンナノチューブで奇形発現の見られた投与量の10倍であったが、ラットにおける中皮腫発現についても、多層カーボンナノチューブの投与量とアスベストの投与量に同様の乖離が見られ、これらの差異は生体に悪影響を及ぼす長さの繊維をどれだけ含んでいるかが関与していると考えられている。
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