日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
選択された号の論文の466件中351~400を表示しています
一般演題 ポスター
  • 高橋 宏明, 新田 直人, 笛田 由紀子, 渡辺 正人
    セッションID: P-149
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     急性毒性試験は神経行動毒性の評価に有益な情報を提供する試験であるが、近年は動物愛護の観点から供試動物の性や数に配慮されている。例えば、OECDガイドラインは「原則として雌を用いる。これは文献調査から感受性に殆ど性差がないものの、性差が認められる場合には雌の方が一般的にやや感受性が高いことが示されているためである。雄の感受性が高いと判断される場合には雄を用い、その妥当性を示す。」ことを求め、動物数の少ない試験法を提示している。この性差に関する記述はLipnick 等の論文(1995)に基づいており、必ずしも我国の現状を反映したものではない。今後は片性の試験が増え、性差に関する情報は減少すると予想される。このような状況を踏まえ、本調査では上市された農薬原体についてラット急性経口毒性の性差について調査し、メカニズムに関する公知情報を調査した。

     初めに、毒性情報が公開された農薬について調査した。233剤のうちの230剤について急性経口毒性試験が実施されていた。雌雄を用いた試験は188剤あり、限界値(>2000 mg/kg等)や雌雄合わせたLD50が記載された剤を除いた85剤に雌雄別のLD50が記載されていた。平均のLD50は雄で1885 mg/kg、雌で1811 mg/kgであり、雌雄で近似していた。雌雄のLD50に隔たりがある(LD50の95%信頼限界の重なりがない等の)剤に14剤あった。このうちの10剤は雌に、残りは雄に感受性が高かった(有意差無し)。次いで、性差に関わるメカニズムを調査したが、これらの剤について性差を調べた報告は見いだせなかった。化学構造類似体について論文調査を進めており、当日発表する予定である。

     以上の入手可能な情報の調査より、農薬の急性経口毒性の強さに性差はほとんど見られず、性差が見られる場合には雌に高感受性を示す剤が多い傾向がみられるものの、雄に高感受性を示す剤もあった。性差のメカニズムを調べた報告は見いだせなかった。

  • 宮崎 育子, 菊岡 亮, 磯岡 奈未, 中山 恵利香, 進 浩太郎, 山本 大地, Kyle E. QUIN, 船越 英丸, 禅正 和真, ...
    セッションID: P-150
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    エポキシ樹脂Bisphenol A diglycidyl ether(BADGE)は缶詰,飲料缶の内面コーティング剤として用いられているが,微量の食品中への移行ならびにエストロゲン活性が報告されている.今回,母体へのBADGE曝露による新生仔脳への影響の有無を明らかにするために,欧州食品安全機構が発がん性がなく安全としたBADGE一日許容摂取量(TDI 0.15 mg/kg/日)およびその10倍量を,マウスの妊娠全期から授乳期にわたり固形食餌に混ぜて投与し,新生仔マウス(1日齢)の大脳皮質層構造および神経分化への影響について検討した.妊娠・授乳期の母体へのTDIの10倍用量のBADGE曝露により,1日齢新生仔マウス脳の頭頂皮質において第2/3層の著明な細胞数低下がみられ,また,錐体細胞のマーカーであるCtip2陽性シグナルが対照群と比べより第5層に限局していた.さらに,ラット初代培養大脳皮質神経細胞へのBADGE(1-100 pM)の2日間曝露により,濃度依存的な神経突起の著明な伸長が認められた.以上の結果より,妊娠・授乳期における高濃度のBADGEへの曝露は,早期の神経分化をもたらす可能性が示唆された.

  • 白川 誉史, 鈴木 郁郎, 宮本 憲優, 近藤 卓也, 岡村 愛, 佐藤 薫, 森村 馨, 半戸 里江, 小島 敦子, 小田原 あおい
    セッションID: P-151
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアムの神経チームでは、ヒトiPS細胞由来神経細胞を用いた新たな安全性評価法の開発を目指しており、安全性評価のニーズが高い痙攣及びてんかんに着目し、微小電極アレイ(micro-electrode array: MEA)システムを用いて神経細胞の発火バーストに基づく評価手法の確立を試みている。昨年の本学会でヒトiPS細胞由来神経細胞(XCell Neurons、XCell Science社)を用いてMEAシステム(MED64システム、アルファメッドサイエンティフィック社)で痙攣誘発物質であるGabazine(GABA-A受容体遮断薬)、Picrotoxin(GABA-A受容体遮断薬)、および4-aminopyridine(K+チャネル阻害薬)の検討を多施設で行い、すべての化合物で同期バースト数の増加および同期バースト間隔の減少が認められ、これらのパラメータが痙攣リスクの評価パラメータとして有効であることを報告した。しかしながら他の痙攣誘発物質で実施した場合、すべての化合物で同期バースト数の増加および同期バースト間隔の減少が認められず、痙攣リスクの評価パラメータとして十分ではないことが判明した。これは、同期バーストを検出できていなかったり誤って認識していたりしたこと、および評価パラメータ数が不足していたことが原因と考え、より正確に同期バーストを検出する方法として同期バースト検出のアルゴリズム(4-step method)を開発した。また、同期バーストについては周期性にも着目した新しいパラメータセットを構築した。4-step methodにより同期バースト検出を行い、周期性も含めた10個の評価パラメータを用いた主成分解析を行い、薬物の痙攣誘発作用検出に有効なパラメータセットの同定を試みたので報告する。

  • 室田 尚哉, 飯野 雅彦, 藤原 淳, 佐々木 幹夫, 佐藤 伸一
    セッションID: P-152
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     条件づけ場所嗜好性(Conditioned Place Preference; CPP)試験は,中枢神経作用薬の精神依存性に関わる報酬効果を比較的簡便に評価できる試験であり,ラットを用いたCPP試験は数多く報告されている.しかし,マーモセットを用いたCPP試験の報告は少なく,精神依存性評価におけるマーモセットの検討は十分には行われていない.そこで,本研究はマーモセットのCPP試験の確立を目的とし,報酬効果が強いコカイン及びモルヒネを用いて検討した.

     実験にはマーモセット雄5匹を用いた.条件づけの為の環境刺激には,視覚・触覚が異なる2区画の実験箱を使用した.はじめに,両方の区画を15分間,自由に探索させるPreテストを行い,各区画の滞在時間を計測した.次に,Preテスト時に滞在時間が短かった方の区画(嫌環境)と薬物,もう一方の区画と媒体(生理食塩液)の条件づけを6日間連続で行った.薬物はコカイン5 mg/kg,モルヒネ2 mg/kg,そしてこれら薬物の統制条件として生理食塩液を使用した.条件づけは1日1回50分間とし,薬物と媒体を毎日交互に条件づけた.薬物と媒体の条件づけ順序は個体ごとにカウンターバランスをとった.6日間の条件づけ後に,両方の区画を15分間,自由に探索させるPostテストを行い,嫌環境の滞在時間を計測した.報酬効果の指標として,嫌環境におけるPostテスト時からPreテスト時の滞在時間を引いたCPPスコアを算出した.その結果,統制条件(生理食塩液)に比べ,コカイン及びモルヒネのCPPスコアは有意に高かった.この結果は今回の実験がマーモセットにおけるコカイン及びモルヒネの報酬効果を適切に捉えられたことを示しており,マーモセットを用いたCPP試験が確立された.

  • 藤原 淳, 飯野 雅彦, 下澤 美紀, 佐々木 幹夫, 佐藤 伸一
    セッションID: P-153
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    固定比率(FR)スケジュールの薬物自己投与試験では,薬物の精神依存に関わる強化効果を検索し,薬物自己投与法を用いた比率累進(PR)試験では,薬物の強化効果の強さを検索する.ラットの静脈内自己投与試験において,FR10スケジュールでは,ケタミンの強化効果は検出されたが,プロポフォールの強化効果は検出されなかった.一方,FR1スケジュールでは,プロポフォールの強化効果が検出された.これらのことから,FR値は強化効果の検出精度に影響し,それには強化効果の強さが関わることが示唆された.ケタミン及びプロポフォールのラットにおける自己投与の報告はあるが,強化効果の強さに関する報告はない.そこで,本研究では,PR試験で,コカイン,ケタミン及びプロポフォールの強化効果の強さを比較した.PR試験では,Richardsonら(1996)の方法に従い,自己投与1回に必要なレバー押し回数を1,2,4,6,9,12,15,20,25,32…と漸増し,最終注入時の比率を最終到達比率として,強化効果の強さの指標とした.また,最終自己投与から2時間経過後に実験を終了した.その結果,最終到達比率の平均は,コカイン0.3及び1 mg/kg/inf.ではそれぞれ30.3及び88.3(n=4),ケタミン1及び3 mg/kg/inf.ではそれぞれ20.5及び62.0(n=6),プロポフォール1及び3 mg/kg/inf.ではそれぞれ1.8及び4.7(n=5)であった.また,生理食塩液では3.0~4.5であった.したがって,強化効果の強さはコカイン>ケタミン>プロポフォールの順であり,プロポフォールの強化効果は弱いことが明らかとなった.以上のことから,強化効果を有するが,それが比較的弱い薬物に対しては,高いFR値の自己投与法では強化効果の検出精度を低下させる可能性が示唆された.

  • 曺 永晩, 赤木 純一, 水田 保子, 豊田 武士, 小川 久美子
    セッションID: P-154
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景・目的】小麦タンパク質加水分解物を含む洗顔石鹸による重篤な小麦アレルギーの発症事例が多数報告された。当所では即時型アレルギー誘発経皮感作性試験法を開発し、タンパク質加水分解物を含む様々な化学物質による経皮感作について、解析を進めている。しかし、経皮曝露モデルにおいて、アジュバント作用も検出可能なモデル系としてのバリデーションには、陽性対象物質との比較検討が必要だが、適切な陽性物質がないのが現状である。本研究では、コレラトキシン(CT)及びその無毒な成分であるコレラトキシンBサブユニット(CTB)の経皮曝露によるアジュバント作用を解析した。

    【材料と方法】実験1では、BALB/cマウス(8週齢雌)の背部を剃毛し、パッチテスターを用いて溶媒に2 µg オボアルブミン(OVA)及び0.1、1、10 µg CTを加えた懸濁液をマウス皮膚に貼付した(3日間連続貼付/週×4週)。その後血中のOVA特異的抗体価、OVA腹腔内投与によるアナフィラキシー反応惹起ならびに、皮膚、脾臓及びリンパ節の病理組織学的解析を行った。実験2では、OVA及び0.7 µg CTB(1 µg CTの成分濃度)の懸濁液を用いて実験1と同様の実験を行った。

    【結果】OVA + CT群及びOVA + CTB群では感作後のIgG1及びIgE抗体価上昇、OVAの腹腔内投与による惹起後の直腸温度低下、アナフィラキシー症状、血中ヒスタミン濃度上昇が溶媒対照群に比べ有意であった。OVA + CT群はOVA単独群に比べ、有意な抗体価の高値を示した。感作部位近傍のリンパ節において、Ki67陽性の濾胞の数が、溶媒対照群と比較して全OVA処置群で増加した。

    【結論】OVA + 被験物質の経皮曝露後、OVAを腹腔内投与する本モデルにおいて、CTは明らかなアジュバント活性が認められたが、同じ成分濃度のCTBでは明らかなアジュバント効果は認めなかった。CTは毒素であり、取り扱いが困難であることから、今後、CTBの皮膚毒性及び至適濃度に関する検討が必要と考えられた。

  • 倉田 昌明, 木藤 学志, 根本 真吾, 貞本 和代, 榊 秀之
    セッションID: P-155
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】点眼薬は経口薬等の全身投与薬に比べ、全身投与量が相対的に低く、催奇形性リスクは低いことが想像できる。しかし、点眼薬の催奇形性リスクについて、非臨床と臨床を含めた横断的な調査はない。今回、既存の情報を基に、点眼薬の催奇形性リスクを評価した。

    【方法】以下の3つの方法で評価した。1.既存の催奇形性TTC(Threshold of toxicological concern)と、点眼薬で想定されるヒト全身用量域の比較、2.催奇形性ポテンシャルのある薬物で、点眼薬として使用されている薬物の調査、3.典型的な催奇形性薬物の非臨床と臨床での催奇性発現域と、点眼薬で想定されるヒト全身用量域の比較。点眼薬濃度は0.01%から1%、点眼容量は0.04 mL/眼/回、点眼頻度は両眼に4回/日、ヒト体重は60 kgと仮定し、点眼薬のヒトで想定される全身用量は0.0005から0.05 mg/kg/日と算出した。代表的な催奇形性薬物の無作用量等の情報はCTDや文献等から収集した。

    【結果】1.点眼薬で想定されるヒトの全身用量域と、既存の催奇形性TTCは概ね一致していた。2.催奇形性ポテンシャルのある薬物を点眼薬として使用する場合の全身用量は、全身投与薬として使用する場合に比べ10から1000倍低く、点眼薬使用の場合は十分な安全マージンが得られた。3.典型的な催奇形性薬物の催奇形性発現閾値と、点眼薬で想定されるヒト全身用量域は重なっていたが、概ね0.01%濃度以下の点眼薬であれば、一部の性ホルモンを除いて10倍以上の安全マージンが得られていた。

    【結論】今回の調査から、点眼薬の催奇形性リスクは低いことが示唆された。特に0.01%濃度以下の点眼薬は、性ホルモン等を除いて催奇形性リスクが低いことが明らかとなった。この結果は、点眼薬開発時おける胚胎児発生毒性試験の要否を検討する価値を示している。

  • 井上 裕基, 兒玉 利尚, 梶田 晋平, 山本 雅克, 児玉 晃孝, 桝田 くみこ, 上田 誠, 野儀 裕之, 本山 径子, 峯島 浩, 松 ...
    セッションID: P-156
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     小児医薬品開発は、欧米で法規制による義務化及びICH国際標準化の整備や特許期間延長等のインセンティブが後押しすることで漸増しており、それに伴い適正かつ効率的な非臨床安全性評価が重要になっている。幼若動物を用いた安全性試験をデザインする際には、適応小児の年齢等の情報とヒト及び動物の標的組織・器官の発達段階を考慮し、適切な投与開始時期(日齢/週齢/年齢)と投与期間を設定する必要があるが、各組織・器官の発達段階を種間で比較する研究・文献は少ない。そこで、製薬協 基礎研究部会 小児用医薬品 非臨床安全性評価タスクフォースでは、2017年までの公表論文及び書籍を用いてマウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル、ミニブタ及びヒトの免疫系、骨格系、生殖器系、神経系、消化器系、心臓、腎臓及び肺における発達指標について調査研究を実施した。

     ラットでは神経系等、多くの組織・器官系についてヒトとの比較が可能であった。一方、ミニブタについては各組織・器官で公表情報が非常に少なく、その他の動物種では組織・器官によって、情報に過不足がありヒトとの比較が困難であった。代謝については、酵素活性・量あるいはmRNA量とエンドポイントが一定していない上、動物種により代謝に寄与する分子種が異なることで体系的な比較が困難であった。なお、ヒトで出生後に成熟するが、実験動物では胎児期に成熟する器官・組織は今回の調査では認められず、ヒトの生後発育に対する影響を評価する上で、幼若動物試験の重要性が改めて認識された。

     以上、幼若毒性試験での投与開始齢や投与期間を決定するための情報を網羅的に調査したことにより、適切な幼若動物毒性試験の実施が可能となった半面、不十分な情報を補足するための基礎研究の必要性が明らかとなった。今後もこのような調査を継続し、より情報を精緻化することで適切な幼若動物試験を実施し、より安全な小児医薬品開発に貢献してゆく予定である。

  • 磯部 雄司, エンジェル スコット
    セッションID: P-157
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    Benzonatate(TESSALON®)は末梢で作用する非麻薬性の経口鎮咳薬であり、局所麻酔薬のプロカインと構造的に類似したエステル型麻酔薬である(日本未承認)。Benzonatateは、局所麻酔作用により肺伸展受容器を介した咳反射を抑制すると考えられており、体内でエステラーゼにより主代謝物の4-ブチルアミノ安息香酸(BBA)に速やかに代謝される。今回、雌雄Crl:CD(SD)ラットを用いてBenzonatateの受胎能及び着床までの初期胚発生に対する影響を評価した。合計4群(25-28匹/性)を設定し、雄は交配前28日から交配期間中を通して交配終了まで、雌は交配開始前15日から妊娠7日まで1日1回強制経口投与した。投与用量は雄では0(溶媒対照)、100、200及び400mg/kg/日、雌では0、100、200及び400/300mg/kg/日(死亡例に伴い用量を変更)とし、投与容量は10mL/kgとした。雄は交配後に安楽殺した。雌は妊娠13日に安楽殺して帝王切開を行った。雌の高用量群で28匹中11匹に死亡が認められた。高用量群では、反応過敏(雌雄)、間代性痙攣、喘ぎ呼吸、自発運動の亢進、運動失調、呼吸困難及び自発運動の低下(雌)が認められた。体重、増体量、絶対及び相対摂餌量に有意な変化はなかった。いずれの用量でも発情周期、交配及び生殖能に影響はなく、投与に関連した剖検所見はみられなかった。精巣上体、精巣上体尾部、精巣、精嚢、前立腺の絶対及び相対重量は、全ての投与群で対照群と差はみられなかった。精子検査、雌性生殖指標、胚の生存に影響はみられなかった。雄及び雌ラット(母体)に対するNOAELはそれぞれ400及び200 mg/kg/日、雄及び雌ラットの生殖能に対するNOAELはそれぞれ400及び300 mg/kg/日であった。雄及び雌ラットにそれぞれ400及び300mg/kg/日までの用量で経口投与した結果、交配または受胎能に有意な影響は認められなかった。本研究は米国食品医薬品局(FDA)の要請により実施したものである。

  • 三浦 伸彦, 田中 廣輝, 北條 理恵子, 大谷 勝己, 吉岡 弘毅
    セッションID: P-158
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】シフトワークによる概日リズムの攪乱が様々な疾患(発がん、肥満、高血圧など)の発症リスクを増大させることが疫学的に報告され、シフトワークが及ぼす健康影響の解析は重要な課題となっている。我々はマウスの概日リズムを攪乱すると、シフト開始6週間後に精巣機能(精子数及び精子運動能)が有意に低下することを本学会で報告してきている。今回、その誘発機構について検討を加えたので報告する。

    【方法】雄性C57BL/6Jマウス(7週齢)を通常明暗条件(8:00-20:00照明)又はシフト明暗条件(2日毎に12時間明暗を逆転)で飼育後、1, 3, 6週間目に解剖し精巣を得て、精巣機能に関連する因子群の発現変動をRT-PCR法により調べた。精巣機能の測定には精子運動解析システム(CASA)を用いた。

    【結果及び考察】先行研究により、明暗シフト群(シフト群)の血漿中testosterone (T)値が通常明暗群(対照群)に比べて有意に低下することを明らかにしている。そこで、T合成に関わる因子群、即ちミトコンドリアへのコレステロール取込みに関与するStAR及びT合成の第一段階を担うP450sccのmRNA量を調べたところ、両遺伝子ともシフト開始1週間後に有意に減少しており、T合成抑制に寄与する可能性が示された。また精子形成や精子運動においてZnは重要であるが、シフトにより精巣中Zn濃度が低下していた。そこで精巣のZn輸送因子について調べたところ、ZIP14のmRNA量がシフト開始1週間後に上昇していたことから、ZIP14の高発現が亜鉛減少を引き起こし、精子形成効率が低下した可能性も考えられる。さらに、精子の分化に関与する幾つかの因子についてもシフト開始1週間後に発現上昇が観察された。マウスの精子サイクルは約35日間である。このことから、シフト1週間前後での明暗逆転の光刺激が精子形成に関わる因子群の発現量異常を誘発し、これがトリガーとなってシフト6週間後の精巣機能低下を引き起こした可能性が考えられる。

  • 熊本 隆之, 鈴木 愛美, 今井 元, 鈴木 礼子, 小川 哲郎, 熊谷 文明, 等々力 舞, 瀬沼 美華, 桑形 麻樹子
    セッションID: P-159
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】過剰肋骨はげっ歯類催奇形性試験において胎児に観察される形態学的変化であるが、自然発生性と薬物誘発性の識別は困難であり、リスク評価にその毒性学的意義の解明が求められている。これまでの研究において、我々はアルキル化剤で抗真菌剤であるフルシトシン(5-Flucytosine; 5-FC)の経口投与がSD系ラットで過剰肋骨を誘発させること、その感受性は胚の発生段階に依存し、妊娠9日の7時投与に顕著な臨界期を有することを見出している。本研究では、その機序解明を目的とし、関連性が高いと推察されるホメオボックス因子のHoxa9, Hoxa10の発現を無処置胚のwhole-mount in situ hybridization(WISH)で検討、さらに定量的RT-PCRで投与による発現変動を解析した。

    【方法】GD11.5、12.5、13.5のSD系ラット無処置胚について、WISHによりSox9およびHoxa9Hoxa10の発現部位を解析し、解析時期および切り出し部位を決定した。次に、SDラットの妊娠9日に75 mg/kgの5-FCを単回経口投与、定量的RT-PCR法によりHoxa9,Hoxa10遺伝子の発現変動を検討した。

    【結果および考察】Sox9発現より予定肋骨発現部位を定め、Hoxa9の18体節から後方、Hoxa10の25体節から後方の発現を各検討期より確認した。検討期を妊娠13.5日と定め、Controlおよび5-FC投与胎仔を帝王切開により摘出し、過剰肋骨発現部位前後の3 somite分をそれぞれ実体顕微鏡下で切り出し遺伝子発現変動を解析した。Hoxa9, Hoxa10とも腰椎部>胸椎部に発現、特にHoxa10で顕著に差があった。5-FC投与で全体に減少傾向があり、特にHoxa10が胸椎部、腰椎部とも減少していた。Hoxは前後軸統御を行う因子であり、Hoxa10は胸椎と腰椎の境目より前方に出現し、腰椎の胸椎化を抑制する因子である。本研究より、Hoxa10の十分な発現が後方化することで、過剰肋骨が形成されることが示唆された。

    本研究は、内閣府食品健康影響評価技術研究(No.1607)の支援を受け実施した。

  • 礒田 泰彰, 三輪 洋司, 遠藤 克己, 久保田 友成, 内藤 一嘉, 長瀬 孝彦
    セッションID: P-160
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景】近年、ミニブタを実験動物として使用できる環境が整い、我々は2013年の本学術集会において、NIBS系ミニブタを用いた胚・胎児発生毒性試験に関する基礎データを報告した。今回はゲッチンゲンミニブタを用いた基礎データを収集したので報告する。

    【方法】交尾した8~11ヵ月齢のゲッチンゲンミニブタ10頭を入手し、8頭について妊娠108~110日(初回交配日を妊娠0日と起算)に帝王切開し、妊娠黄体数、着床数、胚・胎児死亡数、生存胎児数、性比、胎児体重、外表、骨格(アリザリンレッドS染色)、内部器官を検査した。

    【結果】妊娠率は100%と良好であったが、妊娠102及び109日に各1頭に流産及び早産が認められた。その他の検査項目に特記するような異常は認められなかった。

    【まとめ】生殖発生毒性に関するミニブタのデータを蓄積し、使用動物の特性を理解することは催奇形性の評価に有用であると思われる。

  • 坂田 ひろみ, 内芝 舞実, 島田 ひろき, 塚田 剛史, 三谷 真弓, 有川 智博, 東海林 博樹, 八田 稔久
    セッションID: P-161
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     我々は、迅速かつ簡便な骨染色法の開発を行ってきた。今回は小型魚類やアフリカツメガエルのための迅速骨染色法の詳細な手順と、核や軟骨との多重染色、および深部観察への応用法を紹介する。

     メダカ、ゼブラフィッシュ、およびアフリカツメガエルを麻酔後、界面活性剤とKOHを含む透明化固定液に約16~72時間浸漬した。次にAlizarin red Sを含む染色液に15~60分浸漬した後、界面活性剤を含む洗浄液で余剰な染色を除去した。骨染色標本はグリセロールに浸漬し、実体顕微鏡で観察・画像取得を行った。また、Alizarin red Sの蛍光を発する性質を利用して、蛍光ズーム顕微鏡と共焦点レーザー顕微鏡によるZ-stack撮像を行い、取得画像を統合し骨の三次元像描出を試みた。さらに骨染色標本でHoechstによる蛍光核染色を行い、Alizarin red Sの蛍光との多重観察を行った。

     本法は透明化固定液に浸漬して標本をあらかじめ脱色・透明化することで、これまでよりも短時間で、手順が少なく、透明度が高いうえに標本の損傷がほとんどない骨格標本を作成することが可能となった。本法で作製した標本は、内臓、皮膚、筋肉を傷つけることなく処理されているので、鰭や筋内骨等も原位置で観察できた。また、軟部組織がほぼ完全に透明化しており、厚い軟部組織に覆われた骨(椎骨など)であっても高倍像を明瞭に描出することが可能であった。さらに、透明化された軟部組織であっても組織構築は保たれており、核との二重染色や組織学的解析への利用も可能であった。また、骨染色に先立ってAlcian blueによる軟骨染色を行うことで、骨と軟骨の二重染色も可能であった。 本法は鱗の除去以外は溶液の交換と温度管理のみの手順で行うことができるため、毒性試験等でスクリーニングとして多個体を解析する際に有用な骨染色の自動化の開発につながることが期待される。

  • 大谷 勝己, 小林 健一, ヴィージェ モーセン
    セッションID: P-162
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】コンピュータ画像解析法(CASA)は精子数および精子運動能の測定に威力を発揮してきた。筆者らはCASAを利用している間に(1)塗沫や染色の操作を必要とせず無傷の状態の精子の形態を観察できること、(2)画像を容易に保存できること、(3)暗視野の画像のために未成熟精子を肉眼で検出しやすい、などの有用性を見出した。 過去、毒性学会において、ハロゲン系プロパンを試験物質としてラット精子形態の変化を発表してきた。今回はジブロモクロロプロパン(DBCP)を試験物質として再評価したので報告する。

    【方法】DBCP (25,25,75,100 mg/kg)を溶媒オリーブオイルに溶解し12週齢F344雄性ラットに週2回4週間皮下投与した(全8回投与)。対照群には溶媒のみを投与した。1週間の休薬の後、ネンブタールで麻酔して解剖し、生殖臓器重量等を測定した。5%牛血清アルブミンを含むM199培地中で、精巣上体尾部に鋏をいれ、精子を培地中に浮遊させ、CASA(機種はハミルトン社製IVOS)による各種運動能パラメーターの測定等を行った。また、精巣上体尾部を均質化し染色後CASAにより精子数を求めた。さらに保存しておいたCASAにおける拡大画像を後日呼び出し、短尾精子、未成熟精子、無頭精子、無尾精子を計測し最終的に正常精子率を求めた。

    【結果】DBCPの75 および100 mg/kg投与群において有意な精子減少を確認した。運動能に関しても75 および100 mg/kg投与群において運動能の急激な低下を認めた。他方、正常精子率もまた75 および100 mg/kg投与群において減少を認めた。また、頭部・尾部離断精子が同様の群で顕著に多く認められた。

    【考察】DBCPの影響として精子数の低下、精子運動能の低下は従来から認められていたが、運動能低下の原因は頭部・尾部離断精子の増加によるものと思われる。また、精子尾部の形態解析には本法が有効と考えられる。

  • なし
    セッションID: P-163
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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  • 西村 泉, 土井 悠子, 今井 則夫, 河部 真弓, 米良 幸典, 三谷 高司
    セッションID: P-164
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    <背景>中間周波(300 Hz~10 MHz)磁界を利用した機器が普及しているが、WHO(2007)やSCENIHR(2015)の健康リスク評価書では、リスク評価に資する科学的知見の不足が指摘されている。当所は、ラットを用いたばく露試験により、誘導加熱装置などに用いられる20/60 kHzの磁界に、急性・亜慢性毒性と生殖発生毒性がないことを明らかにしたが、発がん性は未解明である。

    <目的>中間周波磁界の発がん性を評価する。

    <方法>雌雄各25匹の6週齢CByB6F1-Tg(HRAS)2Jicマウスに、20 kHz、0.20 mT(ICNIRPの一般公衆ばく露ガイドライン値の7.4倍)の正弦波、垂直磁界を1日22時間、26週間ばく露した。ばく露しない同数の雌雄マウスを対照群とした。また、雌雄各10匹に対し、MNU 75 mg/kgを腹腔内へ単回投与した(陽性対照群)。信頼性確保のため、病理組織学的検査を含む剖検以降の工程は盲検法で実施した。

    <結果>

    (1) 対照群と磁界ばく露群は、各群数例を除き正常に生育した。陽性対照群は一般状態が悪化し、多くの個体で胸腺や各部リンパ節の腫大、前胃の結節などが認められ、計画剖検時までに全例が死亡した。

    (2) 腫瘍性病変について、対照群と磁界ばく露群では、脾臓の血管肉腫や卵巣の血管腫などが散見されたが、群間で統計学的な有意差はなかった。陽性対照群では胃の扁平上皮乳頭腫が多発し、雌雄各8例が悪性リンパ腫を呈した。

    <まとめ>磁界ばく露群では、自然発生腫瘍の器官別発生頻度において、対照群と比較して統計学的に有意な増加はなく、自然発生ではない稀な腫瘍の発生もなかった。本実験条件下では、20 kHz磁界の発がん性を示す証拠は得られなかった。

  • 岡本 誉士典, 青木 明, 植田 康次, 神野 透人
    セッションID: P-165
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】われわれは,エストロゲン誘発性乳腺腫瘍の形成に関連するメタボローム変化として血清中リゾホスファチジルコリン(LPC)が有意に上昇することを明らかにしている.本研究では,LPCが乳腺組織に及ぼす影響を明らかにするために,LPCおよびその活性代謝物リゾホスファチジン酸(LPA)のヒト乳がんMDA-MB-231細胞に対する増殖促進作用について検討した.

    【方法】被験物質:LPC (18:1),LPA (18:1)およびラット血清(乳腺腫瘍を形成したラット由来).細胞増殖試験:MDA-MB-231に対して被験物質を2日間処理したのち,細胞数を測定.細胞数のカウントには,hoechst33342で核染色後,ハイコンテントイメージングシステムを使用.遺伝子発現解析:MDA-MB-231細胞におけるオートタキシン(ATX;LPCをLPAへ変換する酵素)およびLPA受容体(LPAR)のmRNA発現をRT-PCRにより確認.

    【結果および考察】ヒト乳がんMDA-MB-231細胞はATXおよびLPAR1LPAR2遺伝子を発現していることが,遺伝子発現解析の結果から明らかとなった.細胞増殖試験において,LPC (18:1)およびLPA (18:1),ラット血清は用量依存的に細胞数の増加を引き起こした.続いて,ATXおよびLPAR1/2の関与を検証するために,S32826(ATX阻害剤)およびKi16425(LPAR1/3阻害剤)のMDA-MB-231細胞増殖に対する抑制効果を評価した.その結果,Ki16425はLPC (18:1)およびLPA (18:1),ラット血清による細胞増殖促進作用をコントロールレベルまで抑制した.したがって,この細胞増殖はLPAR1による細胞内シグナルの活性化を介していることが示唆される.一方,S32826はLPC (18:1)およびラット血清による作用を抑制したが,LPA (18:1)処理に対しては何の影響も及ぼさなかった.以上の結果から,ラット血清中に含まれるLPCはATXによってLPAへと変換されたのち,LPAR1を介して細胞増殖を促進していることが示唆される.

  • 林 多恵, 石井 聡子, 美濃部 安史, 長谷川 隆一
    セッションID: P-166
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    化学物質の発がん性評価は、一般にげっ歯類を用いた発がん性試験結果をもとに行われる。しかし、ヒトの標的臓器がげっ歯類を用いた発がん性試験における標的臓器とどの程度共通性があるかについて総括的解析はほとんど行われていない。本研究では、げっ歯類を用いた発がん性試験における標的臓器のヒトへの予測性について解析することを目的とし、本邦における優先評価化学物質のうち詳細なリスク評価が進められている物質及び/又はIARC Group 1の物質の中から32物質について動物とヒトの発がん標的臓器を比較した。さらに、動物でのTD50を指標とした発がん性の強度及びばく露経路による標的臓器の違いにも注目した。その結果、標的臓器について一致が認められたものが12物質(37.5%)、動物とヒトで共通の標的臓器が少なくとも一つある物質が12物質(37.5%)、動物とヒトで標的臓器が異なるものが8物質(25%)であった。発がん標的臓器に一致が認められた物質の半数(12物質中6物質)は、ばく露経路の違いによらず第一ばく露部位における発がんであり、これは種差による代謝の違いの影響を受けにくい、あるいは組織障害性が強いことなどに起因すると考えられた。また、げっ歯類を用いた発がん性試験結果における標的臓器のヒトへの外挿性は発がん性の強度と比例する傾向がみられた。今回の解析における標的臓器として、肝臓が実験動物では16物質、ヒトでは4物質、リンパ系が実験動物とヒトに共通で4物質、ヒトだけで3物質、膀胱が実験動物とヒトに共通で4物質、ヒトだけで4物質と、ヒトと動物で標的臓器に異なる特徴がみられた。以上、本解析範囲内においてげっ歯類の発がん性試験での標的臓器がヒトと一致が認められたのは約40%であり、動物とヒトで共通の標的臓器が少なくとも一つある物質を含めると、標的臓器の予測性は全体の約75%と考えられた。

  • 樋口 仁美, 土井 悠子, 勝呂 繭子, 杉山 大揮, 河部 真弓, 米良 幸典
    セッションID: P-167
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】

     中期皮膚発がん性試験は投与局所(皮膚)における発がん性評価を目的とし、従来の長期がん原性試験と比べ、使用動物の削減(Reduction)、大幅な試験期間の短縮などのメリットがある。

     今回は2007~2017年に行った中期皮膚発がん試験のTPAを用いた陽性対照群について、腫瘤発生率、発生個数及び病理組織学的検査の結果をまとめ、年次推移の変化を検討した。また、ICR系マウスのIGS(International Genetic Standard)生産システムへの移行に伴い、非IGSマウスとIGSマウスの結果の比較を行った。

    【方法】

     7週齢の雌の非IGSマウス(Crlj:CD1(ICR);日本チャールス・リバー株式会社)(2007~2014年)又はIGSマウス(Crl:CD1(ICR);日本チャールス・リバー株式会社)(2015~2017年)を用い、全動物の背部被毛を約2×4 cmの広さで剪毛した後、イニシエーション処置として7,12-Dimethylbenz[α]anthracene(DMBA)を100 µg/100 µLの用量で単回経皮投与した。

     その1週後より、陽性対照物質である12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate (TPA)を4 µg/200 µLの用量で週2回、19週間経皮投与した(陽性対照群)。また、イニシエーション処置1週間後より各試験の媒体を19週間反復経皮投与した(陰性対照群)。

     投与期間中は発生した皮膚腫瘤を経時的にカウントし、各群における腫瘤発生率を算出した。また、投与部位(背部皮膚)の病理組織学的検査を行った。

    【結果・まとめ】

     いずれの試験も陽性対照群では、実験6~7週時より腫瘤の発生がみられ、投与終了時の発生率は100%であり、腫瘤の発生時期及び発生率に違いはみられなかった。投与終了時におけるマウス1匹当たりの平均腫瘤発生個数は、多少の変動はあるものの、大きな差はみられなかった。病理組織学的検査では主に扁平上皮乳頭腫がみられ、それらの発生率もほぼ同様の結果であった。陰性対照群では、1~2匹に腫瘤の発生がみられたのみであった。

     以上より、試験の実施時期及びIGSマウスか否かによって皮膚腫瘤の発生時期、発生率ならびに個数に大きな変動はなく、発生した腫瘍性病変も同種であったことから非常に安定した結果が得られる評価系であることが再確認された。

  • 豊田 武士, 松下 幸平, 森川 朋美, 山田 貴宣, 小川 久美子
    セッションID: P-168
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景と目的】芳香族アミンは染料・顔料の製造原料として汎用されるが、発がん性への懸念から各国で規制が進められており、適正なリスク管理に向けて毒性および発がん性のメカニズム解明が急務である。本研究では、発がん過程の最初期における影響を明らかにするため、膀胱に発がん性を示す2種の芳香族アミンをラットに短期間経口投与し、膀胱粘膜における遺伝子発現動態を解析した。

    【方法】6週齢の雄F344ラットに0.8% o-トルイジンまたは1.0% o-アニシジンを混餌投与し、投与1週または4週後に膀胱粘膜を採材した。遺伝毒性および非遺伝毒性膀胱発がん物質であるN-butyl-N-(4-hydroxybutyl)nitrosamine(BBN)・ウラシル投与群を、比較対照とした。PCRアレイ法を用いて、ヒトの大規模ゲノム解析で膀胱がんとの関連が指摘される5項目(細胞周期・DNA損傷・Hedgehog経路・クロマチン修飾/再構築因子)各84遺伝子について、RT-PCRによる発現解析を実施した。

    【結果と考察】o-アニシジン投与群における遺伝子発現動態は、検索した5項目のいずれもBBNと近い発現パターンを示した。また、o-トルイジン投与群における遺伝子発現変動は投与1週をピークとし、4週後には変動遺伝子数が減少するなど、各投与物質による膀胱の病理組織学的変化と一致する傾向が認められた。細胞周期・DNA損傷・Hedgehog経路関連遺伝子は各投与群において多数の発現変動がみられ、これらは膀胱発がん過程の初期に重要である可能性が示唆された。特に粘膜上皮の分化に関与するHedgehog経路関連遺伝子は、o-トルイジンおよびo-アニシジン投与群で発現上昇がみられる一方、ウラシル投与群では変化がない遺伝子が複数(Foxe1, Bmp5, Runx2)見出され、芳香族アミンによる膀胱発がん初期に重要な役割を果たす可能性が示唆された。一方、クロマチン修飾/再構築関連因子の発現変動は比較的少なく、これらは膀胱発がん過程の後期に関与するものと考えられた。

  • 久田 茂, 坪田 健次郎, 青木 豊彦, 池田 孝則, 村井 厚子, 米澤 豊, 長澤 達也, 神尾 恭平, 福田 良, 田中 雅治, 森脇 ...
    セッションID: P-169
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    現在、ラットがん原性試験を実施することなく医薬品のラット及びヒトにおける発がんリスクが評価可能となる条件を規定することを目指し、ICH S1Bがん原性試験ガイドライン改定の議論が進められている。ラットがん原性試験を実施しない場合でも、現行S1Bガイドラインに従ってマウスにおけるがん原性評価が求められることになるが、現在の改定案では、トランスジェニックマウス短期がん原性試験(以下、Tgマウス試験)の成績が証拠の重み付(WOE)に寄与する場合があるとされ、Tgマウス試験の重要性が変化する可能性がある。そこで、日本製薬工業協会医薬品評価委員会基礎研究部会では、過去10年間のTgマウス試験の実施状況及びTgマウス試験に対する今後の姿勢について把握するために、同部会参加企業を対象にアンケート調査を実施した(調査期間:2017年11月1日から12月4日)。47社(国内企業34社、外資系企業13社)から回答を頂き、2008年に実施した同様のTgマウス試験に関する調査結果と比較した。

    その結果、1)過去10年間で約半数の企業がTgマウス試験を実施していたが、国内企業は44%にとどまったこと(前回と同様)、2)ほとんどのTgマウス試験が2年間試験の代替として実施されたこと(前回調査時にはTgマウス試験の多くが2年間マウス試験の追加試験として実施された)、3)Tgマウス試験が実施された新規医薬品の申請数は特に国内企業で少なかったこと、4)Tgマウス試験を実施した比較的多くの企業がTgマウス試験をケース・バイ・ケースで実施していること、5)Tgマウス試験を実施した全社がrasH2マウスを使用し、1社がp53+/-マウスを適宜使用していること(前回はrasH2マウスとp53+/-マウスがほぼ同数)等が示された。また、マウスがん原性試験の第一選択肢及びS1Bガイドライン改定後の対応等に関して、Tgマウス試験実施企業と未実施の企業の間に明らかな相違が認められた。

  • 成瀬 美衣, 落合 雅子, 筆宝 義隆, 今井 俊夫
    セッションID: P-170
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     我々はこれまでに、正常上皮から幹細胞を含む種々の分化段階の細胞を長期的に培養可能にする三次元培養法を用い、in vitro で各種臓器を簡略モデル化したオルガノイドに対しin vitroで化学物質を暴露し、ヌードマウスへの皮下接種後の病理組織学的腫瘍性病変をエンドポイントとした発がん性試験代替法を開発してきた。この方法を用いることで、従来in vivoで化学物質の長期間投与により施行されてきた発がん性試験法の短期化や、化学発がんの作用メカニズムに関する洞察を簡便に得ることなどが可能になることが期待される。

     そこで、本試験法を用いて、化学発がん過程の初期変化検出を目的とし、対照、benzo[a]pyrene (B[a]P)、2-amino-1-methyl-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine(PhIP)について継代毎に3回短期処置を行ったオルガノイドに関してwhole exome sequencing による解析を行なった。その結果、化学物質別に、初期変化によると見られる変異を抽出することができ、オルガノイド系を用いて、化学発がんの初期メカニズムを知る足がかりを得られる可能性を見いだした。

  • 豊岡 達士, 祁 永剛, 柳場 由絵, 太田 久吉, 王 瑞生, 甲田 茂樹
    セッションID: P-171
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    福井県の化学工場で、芳香族アミン類の取扱い経験を有する複数の従業員に膀胱がんが発生したことが最近報告された。我々の研究所による現場調査等の結果、膀胱がんを発症した従業員らは、オルトトルイジン(OT)、パラトルイジン(PT)、2,4-ジメチルアニリン(DMA)、オルトアニシジン(ANS)、アニリン(ANL)、オルトクロロアニリン(OCA)の6種類の化学物質を主に取り扱っていたことが判明している。これら化学物質のうち、OTのみ過去の疫学調査により、ヒトへの発がん性が認められている。一方で、DNA損傷の生成は発がんにおける重要なファーストステップであるが、OTを含め、これら化学物質に対して過去に実施されてきた各種遺伝毒性試験の結果は必ずしも一致しておらず、化学物質間における遺伝毒性の強弱やDNA損傷誘導メカニズムについては不明な点が多い。本研究では、ヒト膀胱細胞株である1T1細胞において、これら6種類の芳香族アミンのDNA損傷性をリン酸化ヒストンH2AX (γ-H2AX)を指標に検討した。6種の化学物質全てで、γ-H2AX応答が観察され、その強弱は、DMAとOCAで非常に強く、次いで、OTが強かった。PTとANSはともに同程度のγ-H2AX応答を示し、ANLは本研究で検討した6種の中では最弱であった。また、強いγ-H2AX誘導が観察されたDMAについて、その誘導メカニズムを検討したところ、DMAは、主にCYP2E1によって代謝される際に生成する活性酸素種によって、γ-H2AX応答が誘導されることを明らかにした。現在、残りの化学物質についても、CYP2E1代謝と活性酸素種に着目し、γ-H2AX誘導メカニズムの検討を行っている。本研究は、現場で使用されていた6種類の芳香族アミンのDNA損傷性の強弱、およびDNA損傷メカニズムの一部を明らかにした初めての研究であり、今後、膀胱がんを発症した従業員らのばく露履歴等と本研究結果を有機的に結びつけ、化学物質のリスク評価に役立てていく予定である。

  • 小林 健一, 柳場 由絵, 須田 恵, 豊岡 達士, 王 瑞生, 甲田 茂樹
    セッションID: P-172
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    【背景・目的】国内の化学工場において膀胱がんの発症が多数報告された事例では、オルト-トルイジン(OT)をはじめとする芳香族アミン類が主に皮膚経路で吸収され、がんを誘発したと疑われている。OTは発がん性物質として分類されているが、その発がんメカニズムについては解明されていない。我々はこれまでに、OTの代謝物として既に報告されている種々の代謝物が、OT作用をしたヒト肝および膀胱上皮培養細胞においても、生成されることを確認している。また、それら代謝物のDNA損傷性を検討した結果、中でも、2-アミノ-m-クレゾール(2AMC)が特に強いDNA損傷性を有することを明らかにしている。そこで本研究では、ラットを用いて、OT作用後における2AMCの代謝生成・動態等について検討した。

    【方法】雄性F344ラット(8週齢)を用い、0、450 mg/kgの用量で単回皮下投与を行った。溶媒はコーン油とし、対照群には同等量のコーン油を投与した。投与16時間後に、血液、肝臓、膀胱を採材した。尿は採材時に膀胱から穿刺し採取した。血中、肝臓中、尿中のOTおよび2AMCはLC/MS/MSにより解析を行った。膀胱においてはγ-H2AXをDNA損傷マーカーとしてウェスタンブロッティングにより検出を行った。

    【結果・考察】血中、肝臓中、尿中のOTおよび2AMC濃度は、投与用量を反映し450mg/kg群では対照群に比べ高値であった。今回の採材時間においては、血中より尿中の濃度が著しく高く、皮下投与後OTの代謝が進み膀胱内に排泄されていることを示唆する。また、膀胱では450mg/kg群で、対照群と比較して有意に高いγ-H2AXが検出された。以上の結果は、ラットにおいてOT皮下投与後16時間時点で、強DNA損傷性代謝物である2AMCが膀胱内に高濃度で存在し、実際にその膀胱内でDNA損傷が誘発されていることを示した初めてのデータであり、OTの発がんメカニズム解明に大きく寄与するものであると考えられる。

  • 藤野 智史, 加藤 玲, 別府 匡貴, 村上 聡, 早川 磨紀男
    セッションID: P-173
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】我々は、胆汁酸をリガンドとする核内受容体 farnesoid x receptor (FXR) が腎癌細胞の細胞増殖を促進する一方で正常腎細胞株の増殖には影響を及ぼさないことを報告している(JTS, 2017)。またFXRは、分化を制御する転写因子 hepatocyte nuclear factor-4 alpha の発現を促進することを見出している(JB, 2012)。今回、FXR、および脂質代謝などでFXRと共役する liver x receptor (LXR) について、正常腎細胞と腎癌細胞における未分化マーカーOct3/4の発現に及ぼす影響を比較検討し、両核内受容体による細胞分化・増殖の制御と癌化との関連について検討した。

    【方法・結果】正常腎細胞株HK-2と腎癌細胞株ACHNにおいてFXRを活性化させたところ、いずれにおいてもOct3/4レベルは変動しなかった。一方、LXRのアゴニストGW3965でLXRを活性化したHK-2細胞ではOct3/4レベルが顕著に低下したのに対し、ACHN細胞ではLXRを活性化してもOct3/4レベルは変動しなかった。LXRアゴニストのOct3/4レベル変動作用を裏付ける目的でHK-2、ACHN細胞をLXR逆作動薬SR9243で処理したところ、予想に反してHK-2細胞のOct3/4はLXR逆作動薬によって増大せず、むしろ若干の低下がみられた。また、ACHN細胞のOct3/4はLXR逆作動薬によって顕著に減少した。

    【考察】FXRは正常腎細胞、腎癌細胞共に細胞分化には影響せず、腎癌細胞の増殖のみ促進すると考えられる。LXRは腎細胞の分化を制御すると考えられるが、そのメカニズムは癌化しているか否かで異なり、詳細についてはLXR alphaとLXR betaについて個々に検討する必要があると考えられる。

  • 大塚 悟史, 南齋 ひろ子, 伊藤 智彦, 阿部 訓也, 中尾 洋一, 曽根 秀子
    セッションID: P-174
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     実験動物を用いた化学物質の安全性・毒性評価の代替法として、培養細胞を用いた評価系の開発が進められている。特に、ESCやiPSCといった多能性幹細胞の、増殖・分化能など様々な表現型に対する影響を指標とした評価方法は、胎生期における細胞分化や組織発達に対する化学物質の影響をin vitroで評価できる方法として注目を浴びている。

     一方、化学物質による毒性のひとつとしてエピジェネティック毒性が近年注目されている。DNAメチル化やヒストンタンパク質のメチル化・アセチル化などの化学修飾などによって遺伝子発現のON/OFFを調節するエピジェネティックな遺伝子発現調節機構は、遺伝子発現プロファイルが大きく変わる胎生期において非常に重要な役割を担っている。この胎生期におけるエピジェネティクス異常の蓄積が、生殖発生毒性・発達毒性、ひいては様々な疾患の引き金となっている可能性が示唆されるようになり、エピジェネティックな変動を引き起こす物質の迅速検出法の開発が急務となっている。

     そこで我々は多能性幹細胞を用いたエピジェネティック毒性物質の迅速検出法の開発を目的に、マウスES細胞、ヒトiPS細胞にMBD-GFP、HP1-mCheryのコンストラクトを導入し、グローバルなエピジェネティック状態を可視化できるモデル細胞を樹立した。そして100種類以上の化学物質のエピジェネティック毒性について、核内に顆粒状に存在するMBD-GFP、HP1-mCheryの蛍光強度・面積・数を指標に定量的に評価した。スクリーニングの結果、顕著な活性が認められた化学物質に関して、次世代シーケンサーを用いて幹細胞制御に関与する遺伝子の網羅的遺伝子発現解析を行った。さらに、化学物質曝露によって発現量に変化が確認された遺伝子領域におけるエピジェネティック状態の変化を、DNAメチル化PCR、ChIP-seq等を用いて調べることで、本試験法の有効性について検証した。

  • 鈴木 武博, Khaled HOSSAIN, 姫野 誠一郎, 野原 恵子
    セッションID: P-175
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景・目的】バングラデシュをはじめ世界各国で、天然由来の無機ヒ素の慢性曝露により、様々な健康被害が報告されている。世界での主要な死亡原因である心疾患の重要なリスク要因に、高血圧症があげられるが、慢性ヒ素曝露と血圧上昇との関連も報告されている。我々は、ヒ素曝露と関連する疾患に関与するDNAメチル化変化部位の同定を目指しており、バングラデシュ住民の血液を用いてDNAメチル化解析を行なっている。これまで、グローバルなDNA低メチル化のマーカーであるレトロトランスポゾンLINE-1のメチル化が、ヒ素曝露と有意に関連することを見出している。LINE-1の低メチル化は様々な疾患と関連するため、本研究では、LINE-1とヒ素汚染地域の住民の血圧との関連を検討した。さらに、LINE-1以外のヒ素曝露による疾患に関する複数のDNAメチル化変化部位の探索を試みた。

    【実験】バングラデシュのヒ素汚染地域(175名)と非ヒ素汚染地域(61名)の住民血液からゲノムDNAを調製し、LINE-1メチル化率をパイロシークエンサーにより測定した。得られたメチル化率をヒ素汚染地域と非汚染地域で比較し、さらにヒ素曝露指標(髪、爪、飲料水のヒ素濃度)、住民の血圧との対応関係を調べた。また、ヒ素汚染地域と非汚染地域の男女数名分の血液ゲノムDNAをプールし、MethylationEPIC BeadChipによりゲノムワイドなCpGサイトのメチル化解析を行った。

    【結果・考察】多変量回帰分析により、LINE-1の低メチル化はヒ素曝露指標と血圧との相関に関与する可能性が示唆された。ゲノムワイドなメチル化解析により、男女ともにヒ素汚染地域でメチル化率が変化するCpG部位を複数見出した。今後、パイロシークエンサーによりバリデーションを行うとともに、サンプル数を増やし、これらCpG部位のメチル化率を測定する予定である。

  • 栗田 尚佳, 郷 すずな, 松本 夏南, 畑野 愛, 位田 雅俊, 保住 功
    セッションID: P-176
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景・目的】現在、生物濃縮によってMeHgが蓄積した魚介類の摂取による胎児における低濃度のMeHg曝露影響が懸念されている。胎児は発達段階であり、機能的に未成熟な部分が多い。そのため分化に伴う遺伝子制御系の構築がMeHgによって阻害され、その影響が長期的かつ不可逆的なものとなる可能性が高い。しかし、MeHgの胎児期曝露による影響に関する毒性メカニズムは不明である。一方で、発達期は遺伝子のエピジェネティクスが大きく書き換わる時期であり、神経発達期においてもエピゲノム修飾の攪乱が引き起こされる可能性がある。そこで、MeHgによる神経発達への影響の毒性メカニズムとしてエピジェネティクスに注目し、in vitro神経分化系を用いて解析を行った。

    【方法】ヒトの神経分化系として、ヒト大脳皮質由来不死化細胞 (ReNcell CX細胞)と、ヒト中脳由来不死化細胞 (LUHMES細胞) を用いた。ReNcell CX細胞についてMeHg 50 nMを神経分化開始時から14日間曝露した。LUHMES細胞についてMeHg 1 nM を神経分化2日目から8日間曝露した。神経分化後、神経突起伸長について、IN CELL ANALYZER 2000により網羅的に形態を評価した。また、代表的なエピゲノム修飾のヒストン修飾変化をウエスタンブロット法にて測定した。

    【結果および考察】ReNcell CX細胞とLUHMES細胞ともに、MeHgによる神経突起伸長の減少が認められ、ヒストン修飾のうち、転写促進修飾であるアセチル化ヒストンH3の低下と、転写抑制修飾であるヒストンH3リジン27のトリメチル化の増加が認められた。以上から、神経分化期においてはMeHg曝露がエピジェネティクスを変化させることが示唆された。今後は、神経突起伸長減少などの表現型と、エピゲノム変化との因果関係の解明、および表現型に関連する個々の遺伝子のエピジェネティクス解析を行う。

  • 石森 かな江, 喜多村 延政, 石川 晋吉, 高浪 雄一郎, 伊藤 重陽
    セッションID: P-177
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    近年、加熱によりエアロゾルを発生させる新しいたばこ製品が開発されている。従来のたばこ製品と異なり、これらの製品では燃焼に伴う化学物質の生成が抑制され得ると考えられている。Novel tobacco vapor product (NTV) は加熱式たばこの一種であり、カートリッジ内のリキッドを加熱して発生させたベイパーを、たばこ葉を含むカプセルを通過させることで、たばこ葉由来の成分を含むたばこベイパーを生じる。すなわち、NTVはたばこ葉の燃焼や直接的な加熱を伴わない間接加熱式たばこと位置付けられる。本研究では、試験用燃焼性たばこ3R4Fの主流煙ならびにNTVから発生するたばこベイパーの抽出液をヒト気道上皮細胞 (BEAS-2B) に曝露し、たばこ煙曝露に伴う初期的な応答として報告されている酸化ストレス応答ならびにDNA損傷についての影響を評価した。細胞生存率の測定と合わせて、酸化ストレス応答の評価としてROS assay, GSH/GSSG assay, ARE reporter gene assayを、DNA損傷の評価としてγ-H2AX assayを実施した。結果、試験用燃焼性たばこ3R4Fでは最大曝露濃度 (200 puffs/L) で約80%の細胞生存率の低下が見られた。また、全ての測定項目において濃度依存的かつ有意な変化が検出された。一方で、NTVは3R4Fと比較して80倍以上の高濃度 (16667 puffs/L) 曝露でも、約60%の細胞が生存していた。また、NTVはARE reporter gene assayに関してのみ濃度依存的な変化を示したが、有意な上昇に必要な曝露濃度は3R4Fと比較して500倍以上 (≥3200 puffs/L) であった。これらの結果は、たばこベイパーが持つ生物活性がたばこ煙とは大きく異なることを示唆しているものと考えられる。

  • 井田 智章, 守田 匡伸, 西村 明, 松永 哲郎, 居原 秀, 澤 智裕, 藤井 重元, 熊谷 嘉人, 本橋 ほづみ, 赤池 孝章
    セッションID: P-178
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】我々はシステインパースルフィド(CysSSH)などの活性イオウ分子種(reactive sulfur species, RSS)が生体内で多量に合成されることを見出した。RSSは高い求核性と還元性を有し、生体内で強力な抗酸化活性を発揮している。さらに、RSSはメチル水銀に代表される親電子化合物への曝露により誘発される環境ストレスを制御することが示された。しかしながら、その生成機構・動態と生理機能については未だ不明な点が多かった。そこで我々は、特異性、定量性を改良したRSS定量解析システムを構築し、生体内のRSS生成動態と新しいCysSSH合成酵素を同定した。

    【方法・結果・考察】親電子性プローブを探索し新たに得られたβ-(4-hydroxyphenyl)ethyl iodoacetamideにより各種RSSをラベル化(捕捉)、安定化し、そのアダクトを安定同位体希釈法とLC-MS/MSを用いてより特異的に検出することでRSS定量解析システムを構築した。さらに、本解析法を応用して、タンパク質ポリスルフィドの定量解析システムを確立し、生体内の多くのタンパク質が高度にポリスルフィド化していることを証明した。また、ポリスルフィド化タンパク質合成機構を解析するなかで、翻訳酵素の1つであるcysteinyl-tRNA synthetase(CARS)が、システインを基質にpyridoxal phosphate依存的にCysSSHを合成し、翻訳に共役してポリスルフィド化タンパク質を合成することを明らかにした。さらに、CRISPR/Cas9システムにより哺乳類細胞のミトコンドリアに局在するCARS2を欠損・変異したHEK293T細胞およびマウスを開発した。これらのCARS2欠損・変異モデルを解析した結果、細胞、個体レベルでCARS2が主要なCysSSH合成酵素であることを発見した。今後、CARS2欠損・変異モデル細胞およびマウスを用いることで、活性イオウ分子を介した環境化学物質の解毒代謝や環境ストレス応答の制御機構の全貌が解明されることが期待される。

  • 西村 明, 守田 匡伸, 南嶋 洋司, 井田 智章, 松永 哲郎, 藤井 重元, 本橋 ほづみ, 赤池 孝章
    セッションID: P-179
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    硫化水素は、生体内でsulfide-quinone oxidoreductase(SQR)によって解毒代謝されることが示唆されているが、その代謝メカニズムの詳細は不明である。一方、我々は最近、CARS2によって産生されるパースルフィドなどの活性イオウ代謝物が、ミトコンドリア電子伝達系の電子受容体として働くことで、新規エネルギー代謝であるイオウ呼吸を司ることを発見した(Nat. Commun., 2017)。本研究では、SQRゲノム編集マウスを作製し、SQRによる硫化水素の代謝機構の解明を試みた。ミトコンドリア局在タンパク質であるSQRのミトコンドリア移行シグナル配列を欠損させ、ミトコンドリア選択的SQR欠損(SQRΔN変異)マウスを作製した。このマウスから不死化線維芽細胞(SQRΔN変異MEF)を樹立し、SQRタンパク質の局在を解析したところ、SQRΔN変異体はミトコンドリアには局在せず細胞質のみに発現していた。さらに、細胞の硫化水素代謝活性はSQRΔN変異MEFと野生型MEFで有意な差は認められず、SQRΔN変異は硫化水素解毒機能を保持していることが判明した。次に、SQRΔN変異MEF のミトコンドリア膜電位を解析した結果、野生型MEFに比べて膜電位が顕著に減少していることを見出した。このことは、SQRがミトコンドリア内で硫化水素のプロトンを利用し、膜電位の形成・維持に関与していることを示唆している。また、SQRΔN変異マウスは生後3週間からエネルギー代謝不全により成長遅延を示し、生後2ヶ月以内に死亡した。以上より、 SQRは硫化水素の解毒代謝のみならず、硫化水素を利用して膜電位を形成・維持することでイオウ呼吸を行い、エネルギー代謝に関わることが明らかとなった。

  • 服部 夏実, 森中 遥香, 光本(貝崎) 明日香, 沼澤 聡
    セッションID: P-180
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】オランザピンに代表される多元受容体作用抗精神病薬(MARTA)は、神経学的な副作用が少ないことから、統合失調症の治療薬として広く使用されているが、体重増加や高血糖等の副作用を生じることが問題となっている。体重増加は、主に5-HT2CやH1受容体の遮断作用が食欲増進ペプチドであるグレリンの分泌を促すと説明されている。一方、最近、視床下部領域における酸化ストレスが、インスリンやレプチンの作用を減弱させ、肥満や糖尿病を引き起こすという説が提唱された。そこで本研究では、オランザピンが視床下部に酸化ストレスを引き起こすことにより体重増加や高血糖を招くという実験的仮説を立て、これを検証した。

    【方法】Balb/c雄性マウスにオランザピン(25 mg/kg, i.p.)を投与し、3, 6, 12, 16時間後に視床下部を採取した。また、オランザピン(5~50 mg/kg, i.p.)を投与し、3時間後に視床下部、海馬、皮質を採取した。酸化ストレスの指標として、Heme oxygenase-1 (HO-1)発現レベルをRT-PCR法で検討した。

    【結果・考察】オランザピン(25 mg/kg)投与3, 6時間後において、有意なHO-1発現レベルの上昇が認められた。このようなHO-1誘導は、高血糖・糖耐性を生じることが明らかになっている用量(10 mg/kg)でも認められた。同様の条件下、海馬および皮質のHO-1レベルは変化しなかった。このことから、オランザピンは視床下部特異的に酸化ストレスを生じることが示唆された。今後、オランザピンが酸化ストレスを生じるメカニズムについて検討を進める。

  • Abhiruj CHIANGSOM, Thaniya WUNNAKUP, Krongkaew KHAMSUPHAP, Nutcha SUTT ...
    セッションID: P-181
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    BACKGROUND

    Acetaminophen (APAP) is commonly used for treatment of pain and fever. In overdose the potential risk of a patient having significant liver injury is directly proportional to the amount of APAP ingested. Rice is widely consumed in many countries worldwide and rice bran is the pericarp of Oryza sativa, a good source of protein, fat, vitamin as well as antioxidants. It has been reported to exhibit various pharmacological effects, including anti-oxidant, anti-microbial, strong in vitro α-amylase, β-glucosidase, dipeptidyl peptidase-IV and ACE-inhibition activities. In this study, we evaluated the hepatoprotective effects and antioxidants activities of protein rice bran extract against acetaminophen (APAP)-induced liver damaged in vitro using HepG2 cells as a cell model.

    METHODS

    Protein rice bran extract was screened for reactive oxygen species (ROS) scavenging effect using the TBARS assay, thereafter hepatoprotective effects against APAP-induced HepG2 cell injury was performed. HepG2 cells were pre-treated with various concentrations of protein rice bran extract (0.00001-1 mg/mL) for 12 h prior to incubation with 20 mM of APAP for 24 h. Cell viability and ROS generation were assessed by MTT and DCFH-DA assays, respectively. Aspartate aminotransferase (AST) and alanine aminotransferase (ALT) in the culture medium were analyzed to determine the degree of liver injury. Oxidative defense mechanisms were investigated by measuring glutathione levels and activities of antioxidant enzymes.

    RESULTS AND DISCUSSION

    The results showed that APAP at concentration of 20 mM significantly decreased cell viability of HepG2 cells while increased ROS generation, enhancement in hepatic lipid peroxidation, leakage of AST and ALT and marked depletion in GSH level. Protein rice bran extract (0.0001-1 mg/mL), when administered prior to APAP, increased cell viability, prevented ROS generation and decreased leakage of liver enzymes and lipid peroxidation in a dose-dependent manner in HepG2 cells against APAP-induced hepatotoxicity. The extract increased the activities of antioxidant enzymes (CAT, GPx, GR and SOD), total GSH, GSH and the GSH/GSSG ratio, but decreased GSSG level. Thus, this study demonstrated that protein rice bran extract possessed hepatoprotective effect against APAP-induced liver injury in HepG2 cells. Attenuation of ROS production, modulation of GSH level and activation of antioxidant enzymes including CAT, GPx, GR and SOD could contribute to this effect.

  • 行 卓男, 安保 孝幸, 許 睿, 高橋 豊, 坂口 斉
    セッションID: P-182
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     Short Time Exposure(STE)法はin vitro眼刺激性試験法であり、TG491として経済協力開発機構(OECD)の毒性試験ガイドラインに収載されている。これまでに、STE法による原体の眼刺激性予測性が高いことを報告してきた。今回、希釈溶液の予測性について検討した。49種の希釈溶液をSTE法に供したところ、刺激性(Category 1、Category 2)、非刺激性(No Category)の予測において、一致率76.9%、感度100%、特異度57.1%であった。このことから、STE法は希釈溶液に対しても過小評価することなく高い眼刺激性予測性を有することが確認された。

     昨年、毒劇物判定基準の改定がなされ、劇物指定の除外において動物実験代替法の活用が可能となった。そこで、劇物に判定された物質の製剤配合濃度における劇物指定を除外するに当たり、STE法の有用性について検討した。眼粘膜に対する刺激性が強いため劇物に判定された6物質、ならびに、その希釈により劇物指定除外された製剤6物質をSTE法に供した。その結果、劇物6種は全て刺激性と判定された。劇物除外された希釈溶液は6品中3品で刺激性、3品で非刺激性と判定され、STE法のprediction modelにおいてCategory 1と分類されたものはなかった。

     すなわち、STE法は希釈溶液に対しても高い予測性能を有しており、希釈による劇物指定の除外においても有用であると考えられた。また、STE法で非刺激性と判定されることにより劇物除外が可能であると考えられた。

  • 安保 孝幸, 行 卓男, 許 睿, 荒木 大作, 高橋 豊, 坂口 斉, 板垣 宏
    セッションID: P-183
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     Short Time Exposure(STE)法はin vitro眼刺激性試験法であり、TG491として経済協力開発機構(OECD)の毒性試験ガイドラインに収載されている。STE法は、ウサギ角膜由来株化細胞(SIRC)を用い、被験物質5%、0.05%濃度の溶液を細胞へ直接5分間暴露した際の細胞生存率を指標としている。この暴露濃度により被験物質が未希釈で暴露された際の眼刺激性を予測可能である。一方、「化学品の分類および表示に関する世界調和システム (GHS)」のNo Category(NC)を区分する際に、STE法で定義する高揮発性物質(蒸気圧 >6kPa, 25℃)は適用限界である。高揮発性物質は調製や暴露の際に被験物質の揮発が示唆されている。偽陰性であった高揮発性物質の選択溶媒はいずれも生理食塩水であった。そして、これら物質は両親媒性物質である。そこで生理食塩水と比べてより被験物質の揮発を抑えると考えられるミネラルオイルに選択溶媒を変更し、眼刺激性を適正に評価可能か検討した。

     高揮発性物質について、GHS区分に対する予測性はTG491の方法を用いた際の一致率75.0%(15/20)、偽陰性率57.1%(4/7)に比べ、溶媒をミネラルオイルへ変更することで一致率は95.0%(19/20)に向上し、偽陰性率は0%(0/7)に低減した。さらに高揮発性物質を含めてSTE法のGHS NCを区分する予測性能を確認した結果、一致率86.6%(194/224)、偽陰性率3.8%(3/80)であった。以上より、高揮発性物質におけるSTE法の適用範囲を拡大可能な条件を見出し、GHS NCを区分する際にも予測性が高く、偽陰性率が低い有用な試験法であることが示された。

  • 相川 信夫
    セッションID: P-184
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     発生毒性(胚・胎児毒性、催奇形性)は、次世代(胚・胎児)発生に影響を及ぼす重大な毒性であり、生殖・発生毒性試験の中でも特に重視して評価されている。この試験は多数の動物を使用して長期間を要するため、簡易なin vitro試験―マウスES細胞を用いた試験(以下EST: embryonic stem cell test)、ラット初期胚を用いた全胚培養試験等―が開発されてきた。しかし、ヒトが高感受性、作用機序の種差等が原因で臨床の発生毒性を予見できないことがあった。ヒト細胞を用いることで臨床予見性が向上すると考え、ヒトiPS細胞を用いたin vitro試験法の開発を行った。本試験法は動物を用いずに細胞株を用いるESTを改変したが、ヒトiPS細胞はマウスES細胞と違い心筋細胞へ自発的に分化しなかった。そこでヒト生体物質(activin-A、BMP-4、wnt-3a、noggin)を用いて、簡便且つ高誘導率な心筋分化誘導法を独自に開発して試験に用いた。

     試験は、ヒトiPS細胞の心筋細胞への分化、ヒトiPS細胞増殖及びヒト線維芽細胞増殖に対する薬物の各50%阻害濃度をエンドポイントとして、EST改良予測モデルにより発生毒性の発生リスクを、クラス1(リスクなし)、クラス2(低リスク)及びクラス3(高リスク)に分類した。試験には、ヒト又は動物で発生毒性の報告のあるvalproate、thalidomide、aminopterin、all-trans retinoic acid、lithium等、又、報告のないascorbic acid、penicillin G、saccharin等を無作為に選んで用いた。その結果、ヒトが高感受性なthalidomide及び発生毒性の報告のある薬物は、いずれもクラス2又は3に分類され、報告のない薬物はクラス1に分類された。以上、臨床予見性の高いヒトiPS細胞を用いたin vitro試験法を開発できたと考えられた。本試験法は、薬物の発生毒性作用を予見する有用なツールのひとつに成り得ると考えられた。

  • 友塚 育美, 加藤 英里子, 松原 孝宜, 松本 博士, 池谷 裕二, 澤田 光平
    セッションID: P-185
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    ■背景及び目的:現在、化学物質の毒性評価は主に動物を用いた試験で行われているが、動物愛護等の観点からも代替法の開発が急務となっている。OECDでは、これまで皮膚感作性試験や眼刺激性試験等様々な試験が代替法として採用されているものの、気体状物質を対象としたものはない。そこで、我々は気体状物質の急性吸入毒性試験の代替法として、培養細胞を用いたin vitro試験法の開発を目指すこととした。本試験法ではヒトiPS細胞由来の培養細胞を用いるため、ラットを用いた従来の急性吸入毒性試験に比べて種間差が無くなり、より高い精度でヒトへの安全性を評価できることが期待される。今回は培養細胞への気体状物質の曝露方法と曝露後の毒性影響の検出方法について検討した。

    ■実験方法:ヒトiPS細胞由来心筋細胞iCell cardio2(Cellular Dynamics International, Inc.)を96 well halfプレート(Corning)で培養した。プレート内にガスを封入することで心筋細胞に気体状物質を曝露し、共焦点イメージングシステムCQ1(横河電機)を用いて、曝露後の心筋細胞の拍動変化や細胞機能の変化について観察した。本検討では気体状物質として、毒性が既知のガスを用いた。

    ■結果:動物実験において心拍数の減少及び心電図の変化が報告されているガスを本試験に供したところ、心筋細胞の拍動等に変化がみられた。また曝露時間を変化させたところ、拍動は時間に依存して変化した。これらの結果から、本手法を用いることで心筋細胞に対する気体状物質の毒性影響を検出できることが示された。 

    今後、毒性が既知の気体状物質数を用いた試験数を増やし、本手法が適応できる心毒性の範囲を明確にし、更に動物を用いた急性吸入毒性試験で設定される毒性指標(LC50)に相当する閾値の設定も検討する。

    詳細は当日ポスターにて報告する。

  • Noriko NAKAMURA, Daniel T SLOPER, Amy L INSELMAN
    セッションID: P-186
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    In vitro organ models are being developed as alternatives to animals for use in toxicity testing. However, development of in vitro models for spermatogenesis remains challenging. In 2011, Sato and colleagues described a testis organ culture system which produced sperm capable of fertilization. Here we evaluated this system as a possible alternative model for use in male reproductive toxicity testing. Testes from postnatal day 5 C57BL/6J mice were cut into four fragments following removal of the tunica albuginea. The testis fragments were placed onto a 1.5% agarose gel and cultured in α-MEM including 0.4% Albumax I. After 24 hours, three concentrations (10-11, 10-10 and 10-9 M) of ethinyl estradiol (EE2) and vehicle (negative control) were added to the cultures. After 20 days of continuous exposure, the testis fragments were collected for histology and qPCR analyses. We found that the percentage of dead cells within the seminiferous tubules increased with increasing concentrations of EE2, demonstrating dose responsiveness of the test system. The transcript levels of two genes evaluated, Cyp11a1 and Esr1, were also reduced in a dose dependent manner, producing similar responses as reported for in vivo exposures. These preliminary findings suggest that this testis organ model may be useful as a tool in predicting male reproductive toxicity. However, further testing with known testicular toxicants is needed to confirm the utility of the test system. Disclaimer: The views expressed are those of the authors and do not represent the views of the Food and Drug Administration.

  • 矢野 貴久, 坂本 裕哉, 稲垣 芙美佳, 松永 直哉, 小柳 悟, 大戸 茂弘
    セッションID: P-187
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】バンコマイシン(VCM)は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症治療のキードラッグであるが、腎障害が問題となるケースが少なくない。本研究では、VCMによる尿細管上皮細胞アポトーシスの分子機構を明らかにすると共に保護薬物に関する検討を行った。

    【方法】ブタ由来培養尿細管上皮細胞(LLC-PK1)にVCM(1-5 mM)を処置し、細胞死や活性酸素種(ROS)、ミトコンドリア膜電位をフローサイトメトリーにて評価した。タンパクの発現量はWestern blot法にて評価した。併用薬物はVCMの30~60分前に添加し実験終了まで継続処置した。

    【結果】VCMはLLC-PK1細胞に濃度および時間依存的な障害を惹起し、カスパーゼ-3/7依存性のアポトーシスが生じた。VCMによって細胞内のROSが上昇し、またMAPK(p38, JNK, ERK)のリン酸化体が増加した。脂溶性抗酸化薬ビタミンEやミトコンドリア標的抗酸化薬MitoTEMPOは、VCMによるアポトーシスやミトコンドリア機能障害を有意に抑制したが、水溶性抗酸化薬ビタミンCや、N-アセチルシステイン、グルタチオンは効果を示さなかった。JNK阻害薬SP600125は、VCMによるアポトーシスやミトコンドリア機能障害を有意に抑制した一方で、ROS産生には影響しなかった。細胞膜透過性cAMPアナログDBcAMPは、VCMによるJNK活性化やミトコンドリア脱分極、アポトーシスを有意に抑制したが、ROS産生には効果を示さなかった。

    【考察】VCMによる尿細管上皮細胞のアポトーシス発現には、ROSと共にJNKが関与するが、JNK活性化はROSに非依存的であることが考えられた。VCMによる尿細管上皮細胞アポトーシスには、ミトコンドリア標的抗酸化薬が有効であり、またcAMPアナログはJNK活性化を抑制して保護効果を示すことが示された。

  • 西村 和彦, 桐山 直毅, 中川 博史
    セッションID: P-188
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     土壌や地下水に存在する砒素による飲料水や農作物の汚染は世界各地で報告されており、深刻な社会問題となっている地域も存在する。環境中には5価のヒ素化合物が多く含まれる一方で、砒素中毒の解析は亜ヒ酸に代表される3価のヒ素化合物で進んでおり、5価のヒ素化合物の影響に関する報告は僅かである。さらに、毒性を発現しない低濃度の砒素が生体に対してどのような影響があるのかは解析が進んでいない。

     我々は5価のヒ素化合物であるヒ酸がHepG2細胞においてエリスロポエチン(EPO)産生を促進させることを報告した。しかし、促進メカニズムについては不明なままであった。砒素は細胞内で代謝される際に活性酸素種(ROS)産生をすることが明らかになっている。そこでヒ酸によるROS産生がEPO産生に及ぼす影響について解析した。細胞内ROS量は蛍光染色により測定した。mRNA発現量はリアルタイムRT-PCR法で、タンパク量はウエスタンブロッティングで評価した。HepG2細胞への100 µMヒ酸24時間処置において生存率は影響を受けず、毒性は発現していないと考えられる。しかし、100 µMヒ酸によってHepG2細胞の活性酸素種(ROS)産生は増加していた。100 µM ヒ酸処置によってEPO mRNA発現量は増加し、EPO mRNA発現の調節因子 hypoxia inducible facter(HIF)1αタンパク量も増加した。一方HIF1α阻害剤PX478はヒ酸によるEPO mRNA発現量増加を抑制した。また、HIF1α mRNA発現量はヒ酸添加によって変化しなかった。HIF1αタンパク量はROSによって増加することが報告されている。そこで、ヒ酸と同時にROSスカベンジャーのn-acetylcysteine (NAS) を添加するとヒ酸によるROS産生は抑制され、HIF1αタンパク量も増加せず、EPO mRNA発現も増加しなかった。

     これらの結果からヒ酸添加により産生されたROSが、HIF1αタンパク量を増加させ、EPO産生を増加させることが示唆された。

  • 清水 茂一, 小川 光英, 岩波 智徳, 小松 弘幸, 秋江 靖樹
    セッションID: P-189
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】マトリゲルはマウス肉腫から抽出された基底膜調製品であり、基質依存性細胞の接着や分化に有効であることから腫瘍細胞などの生着を助ける足場として広く利用されている。ヒトiPS細胞のような接着性細胞が増殖するためには足場となる接着基質が必要であり、接着基質のない環境下では細胞は増殖することはできず、アポトーシスを引き起こして死に至る。再生医療分野でのin vivo造腫瘍性評価においても、ヒトiPS細胞に由来する分化細胞に残存・混入する未分化なiPS細胞を検出するための細胞外基質としてマトリゲルが使用されている。本研究はマトリゲルによる細胞増殖への作用を検証する目的で実施した。

    【方法】6週齢の雌C57BLマウスを各群10匹で飼育し、B16F10メラノーマ細胞を1匹あたり2×104個+マトリゲル、2×104個、1×105個、5×105個の細胞数でそれぞれ背部皮下に移植した。経時的に腫瘍径を測定し、腫瘍体積を算出した。腫瘍体積が一定になるまで動物の飼育を継続し、生存日数を求めた。

    【結果】2×104個+マトリゲルを移植したマウスでは移植後早期から腫瘍は増殖し、腫瘍体積の個体差も少なく、マトリゲルにより細胞増殖を安定させる作用が確認された。2×104個の移植では腫瘍増殖に時間を要し、腫瘍体積の個体差も大きく、腫瘍細胞が生着しない個体も散見された。1×105個および5×105個の移植では、移植後から安定した腫瘍の増殖が認められ、特に5×105個の移植における腫瘍体積の推移および生存日数は、2×104個+マトリゲルの移植と同程度であった。

    【結論】以上の結果から、マトリゲルは少ない細胞濃度においても細胞の定着及び増殖を助け、移植された細胞の検出感度を高めることに有用であると考えられた。

  • 五十嵐 芳暢, 山縣 友紀, 中津 則之, 堀本 勝久, 福井 一彦, 植沢 芳広, 山田 弘
    セッションID: P-190
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    AMEDの創薬支援インフォマティクスシステム構築の一翼を担う肝毒性予測のためのインフォマティクスシステム構築に関する研究において、我々はそのシステム内に肝毒性マーカーパネルを構築している。このパネルは約10個の肝毒性予測モデルから構成され、化合物のもつ潜在的な肝毒性の有無を予測する。予測には化合物に暴露したヒト初代培養肝細胞の遺伝子発現プロファイルを用いる。肝毒性マーカーパネルに組み込まれた予測モデル群は、システムにアップロードされたマイクロアレイデータの遺伝子発現プロファイルから、あらかじめ決められたマーカー遺伝子の発現変動値を用いて、肝毒性の有無の予測値を返す。予測モデルには教師あり機械学習の一つであるサポートベクターマシン(SVM)を用いた。マイクロアレイにはAffymetrix®社のHuman Genome U133 Plus 2.0を用いた。マーカー遺伝子の元となる特徴遺伝子は、肝毒性タイプごとに学習セット化合物を選択し、それらの遺伝子発現プロファイルから統計学的仮説検定とランダムサンプリングの手法を応用して抽出した。次に学習セット化合物の遺伝子発現プロファイルと、特徴遺伝子中から選抜したマーカー遺伝子を用いてSVMに学習させる。このとき過学習を避けるため、また学習セット中の正例負例の数的不均衡によるバイアスを避けるため、均衡化した少数の学習セットによる弱学習器を多数作成し、それらの予測値の集計をとるアンサンブル学習アルゴリズムを採用した。学習性能は5分割交差検証によって測定する。測定結果はF1値やROCカーブ等で評価し、これを内部評価とした。最後に、学習セットに用いていない化合物群の遺伝子発現プロファイルを用いて外部検証を行う。本発表ではこれら予測モデル群を用いたヒトin vitro遺伝子発現プロファイルによる肝毒性予測可能性について報告する。

  • 長井 大地, 飯河 直子, 奥田 祐司, 市村 英資
    セッションID: P-191
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景・目的】顆粒球減少などを誘発する骨髄毒性は,殺細胞性抗がん剤に共通の副作用であり,多くの薬剤で用量制限因子となっている.開発化合物の選択並びに副作用対策の点から,ヒトにおける骨髄毒性評価は極めて重要である.非臨床段階におけるヒト顆粒球減少を評価する手法として,ヒト骨髄細胞を用いたin vitroにおけるColony Forming Unit-Granulocyte/Macrophage(CFU-GM)アッセイが利用される.殺細胞性抗がん剤は,その抗腫瘍作用の様式から濃度依存型と時間依存型に大別されるが,従来のCFU-GMアッセイは,濃度依存的な評価であり,時間依存性を考慮した評価に関する報告は少ない.今回,CFU-GMアッセイにおいて,殺細胞性抗がん剤の作用様式に応じた骨髄毒性を明らかにするため,時間依存性を考慮した評価方法について検討した.

    【方法】評価化合物には,濃度依存型としてシスプラチン及びオキサリプラチン,時間依存型としてパクリタキセル及びイリノテカンの活性本体SN-38を用いた.各化合物を前培養液中でヒト及びマウス骨髄細胞に曝露した後,経時的に骨髄細胞を回収し,メチルセルロース培地に播種することで時間依存性を評価した.

    【結果】コロニー形成阻害作用において,シスプラチン及びオキサリプラチンでは,曝露時間の違いによる影響は小さく,曝露濃度に依存した阻害作用を示した.一方,パクリタキセル及びSN-38では,短時間曝露で阻害作用は示さず,曝露時間が長くなるに従って顕著な阻害作用を示した.ヒトとマウスの反応性では,オキサリプラチンはマウス骨髄細胞で,SN-38はヒト骨髄細胞で強い阻害作用を示し,感受性に種差が見られたが,各化合物の曝露時間による阻害作用はヒトとマウスでほぼ同様であった.

    【結論】今回検討した評価方法は,骨髄毒性に対する殺細胞性抗がん剤の濃度依存性作用に加えて,時間依存性作用を評価するin vitro試験系として有用であると考えられた.

  • 石田 誠一, 堀内 新一郎, 金 秀良, 黒田 幸恵, 立野 知世, 諫田 泰成
    セッションID: P-192
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     医薬品候補化合物の安全性評価をするにあたり、ヒトにおける薬物の代謝や肝毒性の評価は重要である。現在、医薬品開発の初期段階におけるin vitroの薬物代謝/肝毒性試験には、主にヒト初代/凍結肝細胞が使用されている。しかし、ヒト肝細胞には、ドナー由来の差異や細胞の安定供給の問題点がある。本研究では、ヒト初代/凍結肝細胞の代替を目的として製造されたヒトiPS細胞由来肝細胞(hiPSC-hep)、不死化ヒト肝細胞、ヒト肝キメラマウス由来細胞における薬物代謝能について比較検討した。

     市販のhiPSC-hepを3種、初代ヒト肝細胞に増殖性を保持たせたヒト不死化肝細胞を2種、ヒト肝キメラマウス由来細胞を入手した。これらの細胞においてシトクロームP450(CYP)の酵素活性と遺伝子発現を同一条件下で測定し検討した。酵素活性については、LC-MS/MSによりCYP1A、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3Aによる代謝産物の生産量を測定した。遺伝子発現については、リアルタイムPCRによりCYP1A1、CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7 の発現を測定した。比較対照の細胞として、ヒト凍結肝細胞を用いた。現在までにhiPSC-hepにおけるCYPの酵素活性及び発現解析、ヒト肝キメラマウス由来細胞における発現解析が終了した。ヒト不死化細胞については現在解析中である。

     hiPSC-HEPでは、CYP2C19CYP3A4CYP3A5の発現、CYP1A、CYP2C19、CYP3Aの活性がヒト凍結肝細胞と同レベルであった。ヒト肝キメラマウス由来細胞では、CYP1A2以外のCYPの発現がヒト凍結肝細胞と同レベルであった。今後CYP以外の薬物代謝関連遺伝子についても検討する。

  • 近藤 卓也, 近本 順子, 岡 宏昭, 森田 文雄, 岡崎 真治
    セッションID: P-193
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    近年、ヒトiPS細胞から神経細胞の分化誘導が可能となり、医薬品開発においてもヒトiPS細胞由来神経細胞を利用した新規in vitro安全性評価系による外挿性の高い創薬スクリーニングあるいは副作用評価法確立への期待が高まっている。ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアム(CSAHi)の神経チームでもiPS細胞由来神経細胞を用いた新たな安全性評価法の開発を目指し、痙攣及びてんかんに着目し、微小電極アレイ(micro-electrode array: MEA)システムを用いて神経細胞の自発発火などを指標とした評価手法の確立を試みている。この度、我々は別の神経細胞種としてドパミン神経を材料としたMEA解析を試行した。ヒトiPS細胞由来ドパミン神経細胞(iCell DopaNeurons、Cellular Dynamics International社)をヒトiPS細胞由来アストロサイト(iCell Astrocytes、Cellular Dynamics International社)との共培養及び非共培養下で培養し、神経活動(自発発火及び同期バースト)への薬剤影響を確認した。PLO及びラミニンコートしたMEAプローブ(アルファメッドサイエンティフィック社)上にヒトiPS細胞由来神経細胞(iCell DopaNeurons)を播種し、数週間培養した後にMEAシステム(MED64システム、アルファメッドサイエンティフィック社)を用いて細胞外電位を記録した。処理薬剤にはドパミン受容体への作用を有するとされる薬剤(ハロペリドール、L-741,626、ブロモクリプチン等)と陰性対照薬剤などを用い、各薬剤を累積添加して各濃度について10分間暴露し、薬剤影響を評価した。この度はこれらの試行結果を紹介する。

  • 伊藤 浩太, 遠藤 ちひろ, 榊原 隆史, 河村 公太郎, 松浦 正男, 小島 肇
    セッションID: P-194
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景と目的】牛摘出角膜を用いた眼刺激性試験 (BCOP法) は,無刺激性物質 (GHS区分外) および腐食性・強刺激性物質(GHS区分1) の評価が可能な眼刺激性代替試験法ガイドライン (OECD TG437)である.BCOP法を毒物劇物の評価に用いる場合,本試験法によるGHS区分1の判定で生じる偽陰性を減らすことへの対応が重要である.このたび,角膜上皮の病理所見とBCOP法の評価規準であるIVIS (in vitro irritation score) についての85物質の成績より,腐食性・強刺激性物質の判定における病理組織学的検査の有用性を検討した.【方法】IVIS値は常法に従い被験物質暴露による角膜の混濁度とその透過性の変化に基づき算出した (GHS区分外:IVIS ≤ 3,GHS区分1:55 < IVIS).病理組織学的検査は,測定終了後の角膜を10%中性緩衝ホルマリン液で固定しHE染色を行い鏡検した.角膜上皮の病理所見は上皮の損傷程度に応じて0から3の4段階でスコア付した.このうちスコア0には損傷がなく,上皮細胞に損傷は認められるものの正常な基底細胞層が存在するスコア1と2では角膜上皮の回復性が期待される.【結果および考察】GHS区分1 の物質の内で55 < IVISは12/15であった.3/15物質はIVIS ≤ 55の偽陰性判定であったことから,IVISのみでは毒劇物の判定を誤る可能性が示唆された.これら物質の病理所見を調べたところ,全て角膜上皮の回復性が期待できないスコア3であり,病理評価を加えることで腐食性・強刺激性物質を確実に区分できると考えられた.以上のことから,BCOP試験に角膜上皮の病理組織学的検査における回復性の指標を加えることで,腐食性・強刺激性物質を確実に弱刺激性および無刺激性物質と区分できるものと考えられた.

  • 相澤 聖也, 渡辺 真一, 吉田 浩介
    セッションID: P-195
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景と目的】口腔衛生製品の安全性評価において、口腔粘膜刺激性は重要項目である。in vitro試験法としてヒト3次元培養口腔粘膜モデルを用いる方法1)が知られているが、in vivo試験での口腔粘膜刺激強度との相関性は未確認だった。一方我々は、ヒト3次元培養歯肉モデルを用い、細胞毒性とin vivo試験での口腔粘膜刺激強度との相関を検討して有用性を示してきた2)。ただし、歯肉モデルを用いる方法は口腔粘膜モデルに比べ評価に時間を要した。そこで本研究では、口腔衛生製品への配合成分について、口腔粘膜モデル及び歯肉モデルで刺激性を評価してin vivo試験との相関性を確認するとともに、所要時間も含めた有用性について検討した。

    【方法】in vitro試験には、ヒト3次元培養口腔粘膜モデル(MatTek社製)及びヒト3次元培養歯肉モデル(EPISKIN社製)を用いた。口腔衛生製品への配合成分の中から、in vivo試験3)で各々“強度の刺激”“中等度の刺激”“刺激なし”に分類される成分を検体として選定した。前培養した各モデルに検体を適用し、所定時間曝露後、検体をPBSで洗浄除去した。各処置時間の細胞生存率をMTTアッセイで算出し、生存率が半減するまでの所要時間ET50(Effective response Time to 50% of test organisms)を求めた。

    【結果】口腔衛生製品に配合される成分のin vitro試験結果の傾向は、口腔粘膜モデル、歯肉モデルとも、in vivo試験での口腔粘膜刺激強度から分類した結果と一致し、いずれも刺激性評価に有用であることが示唆された。成分ごとのET50値を比較すると、口腔粘膜モデルが歯肉モデルより顕著に短かった。口腔粘膜モデルの方が、口腔衛生製品への配合成分に対する刺激感受性が高いためと推察された。

    1) Klausner, M. et al., Toxicol. in Vitro. vol.21, 938-949 (2007).

    2) 山口ら, 第42回日本毒性学会学術年会, 金沢(2015), P-255

    3) Nakamura. et al., J. Jpn. Cosmet. Sci. Soc. vol.18, no.1, 1-5 (1994).

  • 額賀 巧, 川口 萌実, 関根 秀一, 廣田 衞彦, 竹村 晃典, 薄田 健史, 太枝 志帆, 宮川 朋彦, 児玉 篤史, 伊藤 晃成, 上 ...
    セッションID: P-196
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景・目的】動物実験を伴った化粧品の販売が2013年に欧州で禁止されて以降、化粧品原料の全身毒性を評価するための代替法開発が求められている。我々はこれまでにin silico手法や曝露量評価を用いてWeight of evidence (WoE)保証による全身毒性の保証体系を構築してきた。一方で、in vitroの知見は少なく、ヒト肝障害データが乏しい化粧品原料において代替法を用いた肝毒性予測は容易でない。医薬品は臨床情報が豊富であり、ミトコンドリア障害や胆汁鬱滞の発生機序に基づく試験の組み合わせが薬剤性肝障害(DILI)予測に有用であることが示されている (Hepatology 2015. 60: 2015-2022)。そこで本研究では、医薬品におけるDILI予測手法を最適化し、化粧品原料の肝毒性評価に応用することを目的とした。

    【実験方法】本検討では、55品目の医薬品(DILI classification: most concern 19品目、less concern 27品目及びno concern 9品目)を対象としてHepG2細胞又はサンドイッチ培養ヒト肝細胞を用いて、1)ミトコンドリア障害に起因する細胞毒性、2)脂肪酸蓄積、3)胆汁鬱滞、4)毛細胆管形成阻害の4つの肝毒性発生機序に基づくin vitro評価を実施した。次に、それらの結果に基づいてArtificial Neural Network (ANN)解析を行い、肝障害予測に最適なアルゴリズムを構築した。その後、構築した評価系とアルゴリズムを化粧品原料に適用し、それらの予測性について予備的に検討した。

    【結果・考察】4つのin vitro評価系を組み合わせることでmost concernに分類される医薬品を検出できることが示された。また、ANN解析によるアルゴリズム構築により、ヒト肝障害の予測性は向上した。さらに、医薬品で構築した評価系を化粧品原料の肝毒性予測に応用できることが期待された。以上のことから、in silico手法や曝露量評価にin vitro評価を加えたWoEによる評価が化粧品原料の全身毒性評価に有用であることが期待された。

  • 安達 蒼, 安田 純一, 中川 博史, 西村 和彦
    セッションID: P-197
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】癌細胞には抗癌剤へのストレス応答としてオートファジーによる防御作用がある事が知られており,癌治療効果の増強を目的に抗癌剤とオートファジー阻害剤の併用が研究されている.その中でオートファゴソームとリソソームの融合を阻害するchloroquineの臨床治験が進んでいるが,効果は様々である.PI3K阻害剤はオートファゴソーム形成に関与することでオートファジーを阻害し,加えて,PI3Kには細胞の増殖促進・抗アポトーシス作用があることからPI3K阻害剤の抗癌剤との併用にはアポトーシスを増加させる治療効果が期待される.また,PI3K阻害剤は癌細胞の生存に対して有利に働くエクソソームの分泌を直接阻害することが報告されている.そこでPI3K阻害剤であるwortmanninを用い,抗癌剤との併用がオートファジーとアポトーシス誘導へ及ぼす影響,さらに,エクソソーム分泌への作用に関して調べた.【方法】ヒト肝癌由来HepG2細胞を用いてwortmannin, cisplatinそれぞれ単独,またはwortmannin併用下で24時間培養後,Monodansylcadaverine染色でオートファジー誘導を,Hoechst33342染色でアポトーシス誘導を観察した.培養上清中のCD63タンパク量をウエスタンブロッティング法により測定しエクソソーム分泌量を評価した.【結果・考察】cisplatinとwortmanninの併用によりオートファジー誘導率はcisplatin単独と比べて低下し,アポトーシス誘導は増加していた.また,エクソソーム分泌量は増加していた.PI3K阻害がオートファジーを抑制することで細胞内ストレスが増加し,アポトーシスを誘導したと考えられた.一方,エクソソーム分泌増加は,実験に用いたwortmannin濃度がエクソソーム分泌を阻害する濃度に比べて高いことが関与していると考えられた.したがってwortmanninと抗癌剤との併用においては,PI3K阻害剤の用量とエクソソーム分泌促進との関係を明らかにすることが必要であると考えられる.

  • 根岸 隆之, 佐々木 翔斗, 大石 悠稀, 柴田 朋香, 髙木 梓弓, 石田 貴啓, 金 俊孝, 小岩 優美子, 住吉 信尚, 山田 怜奈, ...
    セッションID: P-198
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    ジフェニルアルシン酸(DPAA)に汚染された井戸水を生活用水として使用していた住民が小脳症状を主とする神経症状を発症するという中毒事故が発生した。我々はこれまでに、DPAAによる神経症状発症メカニズムの解明を目指し研究を行い、DPAAは小脳のアストロサイトにおいて、低濃度(10 µM)での細胞増殖と高濃度での細胞死、酸化ストレス応答因子の発現誘導(HO-1)、MAPキナーゼ(ERK1/2、p38MAPK、SAPK/JNK)の活性化(リン酸化)、転写因子の活性化を引き起こし、MCP-1やIL-6などの脳内サイトカインの分泌誘導、グルタチオンの異常放出を引き起こすことを明らかにしてきた。本研究ではこのDPAAによるアストロサイトの異常活性化のうち、細胞増殖とそれに続く細胞死を指標として、それを抑制し得る物質の探索を行った。抗酸化作用が期待される分子として、N-アセチルシステイン、メナジオン、レスベラトロール、スルフォラファン、Trolox、Tiron、クルクミン、およびα-リポ酸を選び、チオール基によるキレート効果を期待してジメルカプロール(BAL)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、2,3-ジメルカプトプロパン-1-スルホン酸塩(DMPS)、およびD-ペニシラミン(DPEN)を選択し評価した。DPAA(10 µM、96時間)による細胞増殖を特異的に抑制する物質はなかったが、高濃度DPAA(50 µM、96時間)による細胞死に対してはN-アセチルシステイン、DMSA、およびDPENが抑制効果を示した。本実験の結果は、DPAAによる細胞増殖亢進作用はDPAAによる酸化ストレスによるものではなく、DPAAをキレートするだけでは抑えられない表現型であること、一方DPAAによる細胞死は、酸化ストレスによるものではないが、チオール基を有する化合物で干渉できることを示す。

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